【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人(5)
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【ニワサキ3】

 

 

「紳士! 大丈夫か!

 今、俺が助け…」

 

朝食であるトーストをくわえながら、庭先に飛び出る白雪。

 

庭先の光景を見て、白雪の思考がフリーズする。

 

なぜか庭先で布団をしいて寝ている風乃。

 

そして、風乃の横に立っている南国紳士。

 

「…なんか起きたのか?」

 

白雪は気を取り戻し、南国紳士にたずねる。

 

「私は、起きていますが、風乃様は寝ています」

 

ずれた回答を返す紳士。

 

「紳士…ちょっと目ぇ覚ましてあげようか?」

 

白雪は、拳をポキポキと鳴らした。

 

 

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【ニワサキ4】

 

 

庭先で羽毛布団をかぶって寝ている風乃。

いつまでも寝ていると、高校に遅刻してしまう。

 

「風乃、起きなさい!」

 

母親がわが子を起こす勢いで、

羽毛布団をがばっとはぎとった。

 

「あらあらまあまあ!?」

 

白雪は思わず叫んでしまった。

風乃の脚が、すべてさらけ出されていた。

付け根からつま先まで。

 

誰が、風乃にこんなことを。

白雪は、疑惑たっぷりの視線を紳士に向ける。

 

「おい、紳士! これはどういうことだ!」

 

「風乃様が、

 自分が人間であることを証明するために

 おみ足を見せてくれたのです。

 私は、何もしていません」

 

「なるほど、そういうことか。

 ははは、疑ってすまんかった」

 

「納得早いですね、白雪様…」

 

 

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【忘れ物を探そう】

 

 

「ごめんなさい、紳士さん。

 わたし、寝ぼけてて、いろいろ変なことを

 してたみたいで…」

 

正常な姿に戻った風乃。

意識を取り戻し、紳士に謝っていた。

 

反省しているのか、眉がへの字にまがり、

顔は下を向いている。

怒られてしょげている、犬のような表情だ。

 

「気になさらないでください。

 庭に羽毛布団で寝ることなど、

 誰にでもあることです」

 

「誰にでもあるわけないだろ!

 もぐもぐ!」

 

トーストを食べながらツッコミを入れる白雪。

 

「トースト食べながら突っ込まないでください。

 行儀悪いですよ、白雪様」

 

「お前が突っ込ませてんだろうが!」

 

「あと、トーストに突っ込むのは

 バターだけにしておいてください」

 

「それはマーガリン派やジャム派に失礼ではないか!?」

 

白雪の鋭い指摘。

 

「そういえば、私、

 風乃様の家に何かしに来てたような…

 なんでしたっけ?」

 

白雪の鋭い指摘が、紳士の上空を通過していったかのように、

紳士は何事もなく話題を切り替えた。

 

「忘れ物をしてたのよ、紳士さん」

 

「忘れ物…」

 

「紳士さん、騒がせたお詫びに、

 わたしも忘れ物を一緒に探すよ。

 まだ見つけてないんだよね?」

 

風乃が名乗り出る。

 

「そういえば、忘れ物をしてましたね…

 すっかり忘れてましたよ」

 

「忘れ物を忘れるなよ…

 紳士、お前けっこう抜けてるのな」

 

白雪は紳士のぼんやりっぷりに、あきれ果てた。

 

「抜けてるとは失礼な。

 私はよく抜いているほうですよ」

 

 

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【忘れ物を探そう2】

 

 

「雑草でも抜いてるの?

 仕事熱心だね、紳士さん」

 

「違います。

 白髪をよく抜いてるんですよ。

 最近少し増えてきて…」

 

紳士は苦笑しながら言った。

 

「いいから早く忘れ物を探して

 帰って休め」

 

白雪は疲れきった顔をしていた。

 

「白雪様も、長い白髪がはえてます」

 

紳士は、白雪の長い白髪を見つけた。

 

「か、髪は白いほうが雪女ぽくって

 よいではないか…はは」

 

内心ショックを受けながらも、強がって笑顔をつくる白雪。

 

「白雪、あまりストレスためちゃダメだよ〜

 白髪増えるよ!」

 

風乃は、ひまわりのような笑顔でそう言った。

白雪の中で、何かが切れる音がした。

 

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【忘れ物を探そう3】

 

 

「なんでわたし殴られるの…」

 

風乃は頭のたんこぶをさわる。

怒った白雪が、風乃の頭を殴ったのだった。

 

「自分の胸に聞いてみろ!」

 

「胸がないから聞けないよ」

 

風乃は、自分の平たい部分に手をふれた。

何も聞こえないらしい。

 

「胸がないなら、

 お腹に聞けばよいのですよ、風乃様」

 

「ほうほう」

 

紳士の提案にうなずいた風乃は、お腹に手をあてた。

 

お腹が、ぐぅ、と鳴る。

 

「わかった!

 わたしは今、お腹がすいている!」

 

「さようでございますか」

 

「あー、なんか俺、熱でそう…」

 

白雪はおでこに手をあてた。

 

 

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【いい加減に忘れ物を探そう!】

 

 

「おい、さっさと忘れ物を探そうぜ!」

 

白雪は、しびれを切らし、声を荒げる。

風乃と紳士に忘れ物を探すよう促す。

 

「おかしいですね。

 ここらへんに忘れたはずなのですが…」

 

紳士は風乃宅の廊下を見回す。

 

よほど小さい忘れ物なのか、廊下の隅から隅まで

紳士は探し回る。

 

「おいおい、まだ見つからんのか?」

 

「探してるのですが、全然。

 犬さえいれば、嗅覚を使って、

 忘れ物を見つけられるのかも

 しれませんが」

 

紳士は困り顔だ。

 

「おじいちゃん、いる?」

 

風乃は、おじいちゃんを呼ぶ。

 

困り果てた紳士を見て、先祖の力を借りて、

どうにか忘れ物を見つけ出そうと思っていた。

 

「なんじゃい、風乃や」

 

おじいちゃん(故人)は、2階の階段から降りてきた。

なぜ2階の階段から降りてきたのか、誰も突っ込む者は

いなかった。

 

「忘れ物を探しているんだけど、

 先祖の力でどうになかならないかな?」

 

「ふーむ…

 忘れ物探しがうまい先祖ねぇ」

 

「先祖に犬とかいないの?」

 

「いるわけないだろ」

 

白雪は、枯れた声で突っ込んだ。

 

 

 

 

次回に続く!

説明
【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

早朝、南国紳士が「忘れ物を取りにきた」と風乃の家を訪れた。
風乃は、紳士が白雪を捕まえにきたと勘違いし、勝負を挑み、広い庭へ出る。
庭で風乃が大声をあげてしまったせいか、隣の家から羽毛布団(50万円)がふっとんできて、風乃に覆いかぶさるのだった。
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南の島の雪女 沖縄 雪女 妖怪 コメディ 

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