でぺ・たね ―デペイズマン・シード番外Aー
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「なんだか意外だったな」

「なにがですか?」

 

私服でも結局黒づくめの少年が、感慨深く呟くのが意外だった。

隣を歩いていた少年が、言葉のままに首を傾ぐ。

 

「いや、この国の首都というのは混んでいるというイメージしかなかったものだから」

 

あぁ。この国どころか、世界の違う人であるクロノとしては当然と、聴いた側、光子郎は納得に大きくうなづいた。

 

「場所によりけりですよ。正月休みというのも一つの原因ですし、このルートは裏道ですから」

「あぁ正月といえば、テレビで見た。下りはすごい渋滞だったな」

 

全く非効率だと、個人の能力に頼りまくるという非効率の究極みたいな魔法を日常に使う組織の人が何かいっていますけど。

 

「そんなわけでほとんどがこの時期は東京から脱出するんです。

まぁ一部は混んでいるといえば混んでるし、僕らのすむお台場に関しては年末3日なんか間違っても電車で出かけようとする人はいないでしょうけど」

「なにかイベントでもあるのか?」

「えぇ。まあいろいろ」

 

深くつっこんじゃいけない系です。

ちなみに似たようなことは夏にも起こりますが、説明する気はありません。

それを全く別のものと理解したのか、クロノは少し顎を引いて考える仕草をする。

 

「正月、というのもあまり僕らの世界ではよくわからないものだからな。

あのなのはが休暇申請しているというのも不思議だったんだが」

「あぁワーカーホリックとは聞いていますが、さすがに正月くらいは家でのんびり、が日本人の性根ですから。

とはいえ基本的に正月くらい休んで珍しいという意味合いで引き合いに出されるせいで小学生の性格じゃないですね、相変わらず」

「あれ?面識があるのかい」

 

意外そうなのは当然だろうが、光子郎にしてみれば自主的に結んだ縁ではない。しかも実際には直接の面識はないわけだし。

 

「間接的に。少々やっかいごとに巻き込まれまして」

 

・・・・・・・・穏やかな笑顔が絶望に変わるのは、簡単なことだった。

 

「なにやりやがったあのお姫様は」

「すべてはなべてこともなし。完結していることです。心配する必要はありませんよ、クロノさん」

「そうならいいんだ。うん。

それより今僕たちはどこに向かっているんだ?」

 

素直に受け取るあたりが心に余裕のない証明そのものだが仕方がない。

変えられた話題を素直に受け取る。

 

「裏道を通っているので基本的に人通りはないのですが、目的地はそれなりに人がいますよ。お参りですから」

「僕に信仰はないぞ?」

 

まさかその誘いとは思っていなかった。

目を丸くし、申し訳なさそうというよりも意外そうにそう告げるクロノに、光子郎は調子を崩さず。

 

「日本人の信仰を甘く見てはいけませんよ?自分たちがたのしければ派生なんてあんまり関係ないって考えが大多数ですから。なにもない11月にだって酒を飲む民族です。そういえばミッドチルダってあるんですか?宗教」

「一応な。分類的には英霊信仰って奴になるのかな。大昔の王様と、その血筋に対するものが結構大きい割合を占めているよ」

「こちらのアーサー王みたいなものでしょうか。

その方の誕生日を祝う名目でパーティをしたり、解釈の違いに対立したり?」

 

純粋な好奇心には申し訳なかったが、深くつっこまれてもよくわからないのが現状だった。

 

「さぁ。そこでけっこうな役職に着いている友人もいるが、あまりそういうつっこんだことは聞いたことがないな。存外規律の厳しい印象も強いし」

「興味がなければそんなものですね。その興味だけで上辺だけでも受け入れるのが日本です。

元々神仏に対する考え自体、万事万物すべからく宿っているもの、という根本にある原始宗教があってこそのリベラルさなんでしょうが」

「今向かっているところも、別段信仰とは関係ないと?」

「平たくいえば気分の問題ですね」

 

お正月だから、と端から聴けば全く理屈に合わないだろう道理。それが行動の原動力となるのだから不思議なものだが。

 

「なにをまつっているんだ?」

「厄除け大師さまです」

 

さらり。独特の言い回しではあるが、意味は理解できた。してしまった。

あ、ちょっと視界がゆがみそう。心の汗で。

 

「・・・・・・それは僕に対する同情心から派生した選択なんだろうか」

「同情?まさか。純粋な、老婆心とおせっかいですよ」

 

よけい悪いです、それ。

 

 

参道脇、すぐ「入り口」のあたりまで着くとさすがに人があふれていた。

とはいえ一応形だけとはいえお参りし、流れに沿っていくと、自治会なのかあったかい格好をしたおっちゃんがなにやら紙コップとみかんをよこしてくる。

一瞬ためらったクロノだったが、そういうもんなんですと光子郎はふつうに受け取り礼を言う。

それに習ってから自分の手に取った紙コップの中を覗くと、なんとも奇妙な香りと色彩な代物が満ちていた。っていうか熱い。

 

「これは?」

「甘酒です。日本独特の酒を作る際の絞り粕を甘く煮炊きしたもの、もちろんアルコールは飛んでますから問題ありません。そうですね、お米のジュースです。あったまりますよ」

 

カスと聴いていい印象はないのだが、この国(地区)の主食から作ったとなればそれなりに珍重されているのだろうとクロノは自分に結論づける。

早速口を付けた一口目の感想は、ある意味でその名を現したもの。

 

「甘い」

「甘酒ですから」

「確かに」

 

正論だ。こういうところのはとろみが押さえられ、その分砂糖がこれでもかと入っている。

当然のコメントともいえたが、初めての味はなるほど腹を内側から暖める。

 

「どこかで休みますか?」

「いや。それほどつかれたわけじゃないよ。

驚いたけどね。みんなあんな風に真剣に祈ってたようだったのに、特にあのダイシさまとやらを熱心に信仰しているわけじゃないのか」

 

確かに人混みというのはほとんど経験がない。

ほとんど我が家と化している、だが同時に不夜城そのものといえるアースラでは食事時間もズレてくるので、食堂が人でごった返すということもない。

人混みも、それを当たり前とする周囲も、そういう意味では彼にはとても新鮮だった。事前に受けた説明も伴って。

 

「そうですよ。都合で手を合わせる相手を変えることもままあります。試験に受かりたかったら天神さま、芸能に秀でたかったら弁財天さま。夫婦円満なら、恋愛成就なら、病気になったら。逆に縁切り寺なんていうのもありますけど。これは悪縁を絶ち、未来に向かうといった意味ですが」

「まさになんでもありだな。あと悪いが光子郎、最後の事例は忘れさせてくれ。すがりたくなる機会がありそうで怖い」

 

思わず、休日モードが本音をこぼさせる。

この場合、誰や何に対する誘惑かとかを聞くのは無粋だろう。光子郎も素直にうなづく。

 

「えぇ、了解しました。まぁ人を感動させる曲をつくる、芸術作品をつくる、という生身の人すら神と呼ぶ位ですからね」

「その内魔神信仰とかがミッドチルダに生まれるフラグか?それ」

 

さっきの言葉の失態も伴ってか、いささか光子郎の発言は疑心暗鬼になりすぎになっていた。

 

「現れたる人にして神、ですか。さぁそんな予見は僕にはできません。いかんせん、情報を重んじる側なので、これまでにそういうものがあれば、派生するんじゃないですか?」

「さっきはなした宗教の最高位置にいるのが聖王といわれているからな。そういう意味では逆に立つなら魔王か。ぴったりすぎてまたちょっと視界がゆがみそうだよ」

「自己嫌悪に関してはフォローできませんよ。普段からそう呼んでいらっしゃるのでは?」

「内輪なら問題ないだろう?あだなのレベルだ。

だがそれが一般化したときの威力に僕はおびえる」

「案外、民衆なんてのは柔軟なものですよ。

だからクーデターもあっさり受け入れてくれますって」

 

話がいきなり変な方向に転がった。

え?と思う間もない。

 

「そこに話が持っていかれるとは思わなかったな」

「そうですか?」

「君がそこまで管理局を毛嫌いするのはどうしてなんだ?そりゃ僕も好きとはいいがたい組織だが」

「所属している側としてはその発言は問題だと思いますけど。

そうですねぇ。管理局のシステム自体に文句はない、っていうのはわかりますよね?」

「でなければクーデターとはいわないだろうな」

 

実際その実力もあるはずだ。

つぶすと、いってもいい。クロノの手など借りる必要もないだろう。

 

「えぇ。管理世界という、いわば同盟国でのなれ合いにもちろん文句はありません。

この世界だって世界を管理する組織がないわけではありません。もっとも、某ジャイアン国が偉そうにのさばって一円も運営費を払わないくせいトップとしてのうのうとふんぞり返り、時々暇つぶしのように戦争をけしかけてる世界平和のために作られたはずの国際組織なんていうものもありますが」

「それ、ダメじゃないのか?」

 

悪意ある説明なだけです。

それをみとめていいものやら。

 

「それでも、今のこの世界の歴史の上での事実です」

「    」

 

しかたがないとはいわないが、そういう課程があったということだ。

 

「僕は進化という言葉に、少々敏感なのかもしれません。それは自身がしなければならないという自負とともに」

「外部要因はゆがみの原因になると?」

「いい刺激ならいいんですよ。でも、今の管理局でそれを望むのは酷かと思ってしまう。それだけです。僕たちは、この世界は決してなにもできない赤ん坊ではない。

進んだ管理世界というところからみれば子どもかもしれないけれど、子どもには子どものプライドと・・・」

 

「進化の可能性がある?」

 

つなげた言葉は、単なる楽観ともいえる、いわば希望や期待といったたぐいにも聞こえるが。

彼は大きくうなづいてすら見せる。

 

「そういうことです。そして僕は好奇心、知識で生きてるような人間です。探求心をじゃまされることは僕自身の進化の弊害になる。とうてい許せるものじゃない」

「おもいきり自己中心的な意見だな」

「えぇ。怒りなんて基本そういうものでしょう。わがままなんですよ」

 

自分を否定しないというのは、怖いことだ。

 

「僕がトップにいけば、それが改善されるって?」

「期待したいだけです。よき隣人と把握していてくれればそれでいい。ダメなら、安心してください。僕が責任を持ってつぶしますから」

「そうか」

 

穏やかな友人の言葉は、一度くらいやってみてもいいかなと思わせる魔力を秘めているようだった。

もちろん気のせいだろうと思うために、気付けのように甘いあまい、ほんのり茶色がかった白いジュースを口に付ける。

どうでもいい感想が、漏れた。

 

「さめると、甘さが強くなるな」

「まぁ、甘酒ですからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに。100%の果汁で作られたものが「ジュース」ですので、甘酒は間違ってない、はず。

砂糖はいってるやーん、とか聞く耳持たない。

それにしてもなんというか、どういう話だったのやら。

いや、単純にクロノを厄除けさんにつれていきたかっただけです。

本人自分でも驚くほど真剣に手を併せてればいいよ!

とりあえず次の番外編はヴォルケンズを。

頼むから華を、せめて乳担当を(待て

話としては一応光子郎のドのすぎた管理局毛嫌い事情を。

それにしてもクロノの1に対して3くらい喋ってるね、この黒子郎さん。

説明
なんだか小説のHOT枠にデペ2つとかほんとなんかありがとうございますというかすいませんというか。
番外@の方は間違いなくスパロボ話題のせいだと思う。と、毎回本編に関係ない気味の戯言ばっかで申し訳ない。
さて。実のところ最たる友情をはぐくんでいるのはクロノと光子郎という設定。主に縁の下の力持ち担当的な意味で。
番外編がクロノ一辺倒になってきていやこれダメだろとか心から思っているんだかいないんだか、日常を書くのに都合のいいのが執務官てどーなんだ。
でもいろいろな意味で黒すけにはもっとふつうの男の子な日常を経験させてやりたいと思ってはいるんだ。差し出がましいんですがね。
というわけで若い男子の普通の話。多分、普通。
色々捏造臭がしますがスルーの方向で。
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コメント
ライビッシュさま>戦場を舞う戦乙女。まぁ空=戦場という管理局が問題なのかもしれないですが。多分管理局というバックがあるので、地下どころか大々的に信者募りますよ。8割の局員が入信していると思われ(えぇええ(ほうとう。)
よーぜふさま>うん、暗黒子郎進化してます。対極な親子、いや聖王がもう魔王に染まっているという説もあryうーん、クーデター声高いなぁ(笑(ほうとう。)
韻さま>大元があの連中ですからね。タダですら「上から押さえる」思考なんで、発展とか進化とかはある意味対極だと考えてます。だからってゆとりはどーよと思いますが。うん、起きる要素しかない謎ww(ほうとう。)
縁切り寺に魔王ですか〜 あのお方は、戦場にいてこそカリスマを放つ厄介な人です。更に厄介な事に、戦場を愛し戦場に愛される人でもあります。(本人は空を愛しているだけ、とかいいそうですが。)STS後ぐらいになったら某ドラマタやみたいに地下でこっそり魔王教会の荒人神としてあがめられててもおかしくはないかな〜(ライビッシュ)
進化?やっぱり暗子(ry そして魔王と聖王が親子な信仰・・・うん、世界が終わりますw てかやっぱ管理局とか・・・やっちゃぇ☆w(よーぜふ)
進化かー、管理局の管理はどっちかと言えば劣化か退化させてるような・・・。というか黒子郎的に言うと進化を奪う行為なんですもんねぇ。 アレ?ほんとにウーデターを期待しちゃうぞ?(韻)
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デジモン なのは クロスオーバー クロノ 光子郎 初詣 

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