真・恋姫無双〜妄想してみた・改〜第二十三話 |
「……」
「……」
緊迫の雰囲気のなか、俺と左慈、互いの距離は無言のまま縮まっていく。
趙雲さんは空気を読んだのか、張飛ちゃんと動けない様子の春蘭を体ごとを引いて少し下がった位置で見守っている。
俺は腰に下げた剣を抜き放ち、いつでも戦えるよう右手に握り締めているが、それに対し左慈はこちらを見据えるだけ。あれほどの出血はすでに止っており不気味さだけが増した表情で佇む。
「久しぶりだな、左慈。こっちで会うのは初めてになるな」
「……」
無言。返事は返らず更に距離は詰まり続けていき、三メートルほどの距離で俺は停止した。
「会わない間随分と好き勝手やってくれたな……そんなに俺が苦しむのを見たいのか?」
疑問はまたも黙殺されたまま。ゆっくりと構えを取り戦闘態勢を整えていく。
「華琳……いや、曹操は俺の仲間の手引きで逃げ果せているはずだ。もう彼女には手を出させないぞ」
構えは正眼。正面に切っ先を突き立て準備万端と対時したところで、ようやく左慈が口を開いた。
「……なぜここにいる。貴様は呉に身を置いていたはず。なぜこの人形どもを助けようなどと思い立った」
すでに華琳への興味は失せたと言わんばかりの素っ気無い態度。
こいつ何が目的なんだ?
「なぜと言われてもな……親切とは言い難い、記憶を取り戻させてくれた知り合いがいてね。そのおかげでここに足が向いたんだよ」
きっとあの晩の件は無ければ、俺は思春の願いを無視出来ず曹操達を見捨てていたかもしれない。その点に関しては干吉には感謝しないといけないだろう。
「……記憶だと……? もしや貂蝉……か? いや、奴は俺の影響で再構成にまだ時間がかかるはず……。干渉しようにも身動きは取れまい。だとするなら……道中で擦れ違いかけた卑弥呼? そ
ちらのほうがまだ可能性は高いな……ッチ、忌々しい」
なにやら一人で納得している左慈は歪んだように顔を顰めるが、一瞬で無表情に戻りまるで俺への興味を無くしたように無警戒に足元に落ちた右腕を拾う。
「貴様の命、預けて置いてやる」
「……なに?」
どういう意味だ? 油断を誘うでもなく言い捨てられる。
こいつの目的は俺を殺す事のはず。いくら状況が悪いからってこんなにも簡単に引き下がるなんてまだ何か隠しているんじゃ……?
怪しむこちらの意思とは無関係に左慈は表情を変えないまま、右腕を手に歩み去ろうとする。
「くっ……こっちの用は終わってないんだ!!」
この女の思惑がどうあれ、ここで俺が倒してしまえば全てうまくいくはずだ。躊躇なんてしていられない!
「はあああぁぁっ!」
踏み込み、上段からの面を放つ。
刀と違い両刃の剣は峰打ちなんて芸当はできない。だから俺は左慈を殺すつもりで振り被った。自分で自分の責任を取る為に。
だが、そんな決心など知ったことかと言わんばかりに俺の剣閃より遥かに速く牙のように鋭い一撃が剣を打ち付ける。
「ぐっ!! ……っ……!?」
襲ってきた衝撃の正体はノーモーションからの上段蹴り。それはいとも簡単に剣をへし折り、すぐさま俺の首元まで戻ってくる。
構えた剣の切っ先は半分に折れ飛び、手に残るったは無残に残る刀身と柄のみ。
獣の蹴りは今まで出会ったどんな武人のそれより速く、軌道の読めない攻撃だった。
「粋がるなよ? 貴様は相応しい舞台まで生かしておくと決めているんだ。わざわざ死にくるような真似はやめておけ」
「……くっ」
「それともなにか? 正史のようにこの長坂橋で活躍して張飛代わりの名声でも得たいか? 最近は正義の味方なんて道化が随分似合うようになったらしいからな」
「……あれは必要に駆られての事だ。俺個人の人気取りが目的じゃない」
左慈は俺の仮面に目を合わせ、嘲笑う。
「そうか、俺はてっきり肩書きの無くなった貴様が新しい偶像崇拝の象徴をアピールしているものと思っていたぞ」
ようやく嘲笑いとはいえ感情の篭った表情で左慈は蔑んできた。
「だとするなら貴様がここへ来たのも納得できるんだがな。この場所で仁王立ちでもすれば、きっと人形どもからもてはやされて歴史に残る大活躍間違い無しだ」
話を打ち切ろうとしていた先程とは打って変わって、裂けたように口が歪んでいく。
――長坂橋の仁王立ち。
確かに三国志で有名な武将、燕人張飛の活躍を語る上で欠かせない出来事の一つだ。
逃げる劉備軍の殿を務めた彼(彼女?)が大軍を誇る曹操軍を相手取り、百にも満たない手勢で一歩も引く事無く橋を死守した有名なエピソードは誰もが知るところだろう。
逃げる役、追う者こそ俺の記憶と違うけど舞台は図ったようにここを選んだ。
貂蝉の奴も言っていたけど、その原因として“事象の収束”とやらが働いているんだろう。以前の定軍山の時もそうだった。
あの時は時期こそ違ったが、結果として俺が介入しなければ秋蘭の命が危い事態になっていたんだ。
外史ってやつは正史の出来事に影響されて結果と場所が違おうとも事件そのものは引き起こすらしい。
今回の件は左慈自身の事も含め、かなり引っかかるところはあるが基本は同じなんだろう。
ともあれ俺はあくまで華琳を救出に来ただけだ。それを利用して歴史に名を残そうなんて気はまったくない。
まして今更、天の身遣いなんて肩書きに頼って事を成そうとも思わない。
こいつも自分で言っておきながら戯言だと分かっているのだろう、片足を上げた不安定な姿勢で声を押し込めたような低い笑いを堪えている。
完全に舐められている。そんな態度に俺は首元の脅威も忘れ、反論の言葉を返す。
「名声だけ求めて此処に来るほど俺は酔狂じゃないぜ? さっきも言った通り華琳の救出以外は頭になかったさ。第一に歴史なんて後から遅れて来た人間の批評だ。それを“今”生きてる俺が気にするなんてバカげてるじゃないか」
「―――!?」
俺が話し終えた瞬間、横目越しなぜか身を震わした趙雲さんが映り、真っ直ぐこちらを見極めるような視線を向けてくるのに気付いた。
なんだろう? その瞳にさっきまでとは種類の違う真剣さを感じてしまう。特におかしな発言はして覚えはないんだけど、何か気に障ったんだろうか。
「まあそう言うだろうな。元よりこの世界に先は無い……。真相を知っている貴様がわざわざ歴史に名を残そうとは思わんだろう。全ては泡沫。虚偽の世界。なにもかもが決められたレールを走る予定調和の連続ループだからな」
先の蹴りとは真逆の緩慢な速度で足を納める左慈。
姿勢こそ戻ったが表情だけが更に歪み、徐々に顔を顰めて怒りを露にする。
これこそが本来の感情だといわんばかりに。
「だが今回はそれを利用する。以前の外史では無理に介入しようとして貴様を屠り損ねたが、代わりに外史という世界そのものが俺のような観測者の介入を拒むという事がわかった! ならばどうするか? 簡単だ! 世界が俺の邪魔をするというのなら世界そのものを創造し、制御すればいい!!」
噴き出す執念は臨界を超え、堰を切ったかのように溢れ出していく。
「その為に俺は耐え忍び、長い時間想念を蓄えていたのだ。貴様への復讐を胸に秘め、くだらぬ外史が発生していくのを見ながらな!」
声は大きく辺り一面に響き渡るがあまりに荒唐無稽な発言に誰もが理解できない。だけど俺は一人、向けられた言葉とそこに込められた感情を受け止める。
「だから簡単には殺さん! あれだけの代価を払い、今ここで殺すのはあまりに面白くない! それでは積もり積もったこの怨嗟、晴らす事などできないだろうっ! 外史の象徴である貴様は苦しみ抜いて死ぬべきなのだ!!」
激情に駆られた恨みは狂乱の域にまで達している。……さっきまでの無表情は必死に俺への感情を押えてたってことか。にしても“対価”とはなんのことなんだろうか。
「斬殺、刺殺、絞殺、轢殺、圧殺、焼殺、惨殺、抹殺、屠殺、全殺、完殺、どれでも選べ。どれかを選べ。全ての絶望を味わってから俺自らが介錯してやろう」
「……お前は」
―その姿に。
―あまりに深すぎる怨念に身を委ねた左慈の姿に俺は……。
なぜか――。
悲しいと、そう思わずにはいられなかった――。
「―――左慈さんっ!!」
場の空気を突然切り裂いたのは人垣の方から聞こえる金切り声。
驚いてそちらに顔を向けると兵士の壁が何時の間にか左右に広がり、奥からやたら金ぴかな鎧を着た女性、その後ろに配下であろう二人がこちらに向かって走ってくる。
「な、なんという事ですの!?」
左慈に駆け寄った人物 確か袁紹が顔を真っ青にして千切れた腕を心配して、あたふたしている。
そりゃあ知った人間の腕が無かったら誰でも驚くよな。……今更だけどこいつなんで大丈夫なんだ?
「こんな事になるなら無理を言っても貴女に着いて行くべきでしたわ! わたくしの浅慮を許してくださいまし」
「ちょっと、姫……ぜえ、ぜえ…一人で先走りすぎ……って、うおっ!? なんで頭下げてんすか!?」
「麗羽さま! あの、他の兵士の前でそういう姿はちょっと……って、きゃあぁぁ! こっこの人左腕で右腕掴んでるよ文ちゃん!」
「おいおい斗詩、それは別に普通……って、ぎゃあああぁぁぁぁ! 本当の意味で持ってるゥゥゥ!?」
……場が一気に騒がしくなったな。
「喧しいですわよ、顔良さん、文醜さん! そんなお下品な態度はどうでもいいですからさっさと冀州に帰還する準備を致しなさい!!」
「ちょっ、ここまで来てもう戻るんすか!? 目的の曹操まだ見つけてないってのに!」
「そうですよー。左慈さんが私兵を率いて先行しすぎるから今の状況もよくわかってないんです。何で両軍がこんなに入り組んで……しかもそこにいるの、夏侯惇将軍じゃ……」
当初の目的を果たそうと顔良が袁紹に説得をもちかける。
だが錯乱したかのように取り乱す彼女はあまり聞く耳をもっていないようだ。しきりに左慈の容態を心配している。
「あーもー。コイツが絡むとすぐ姫の調子が狂っちまうんだよなー。ほんと勘弁してほしいぜ……ん?」
よくある事なのだろうか文醜が諦めたように視線を漂わせ、ふと目の動きが止まった。
「ヒヒン?」
「……なぁ、斗詩。すみっこにやたら大きい馬とやたら小さい曹操が見えるんだけど、あたいの見間違いかな?」
目をごしごしと擦って、再度確認するがそこには追い求めていた曹操がいるようにしか見えない。
「もう文ちゃんってばそんな都合の良い話があるわけ……ほんとだああぁぁぁぁ!?」」
彼女達は叫ぶのが仕事なんだろうか。
「麗羽さま! すぐそこにあいつが……って、あぁもう! 聞いてねえよ! こうなったらあたいらだけでやーってやるぜ!!」
気合を入れる文醜。
「しまった! そういや囲まれたまんまじゃないか!」
「うわっ、こっちにはおかしな仮面被った変態までいやがる! どうなってんだ!」
君らが来るまではシリアスだったんだけどね。
「……興が削がれたな」
なぜか袁紹に揺さぶらせたままの左慈がポツリと呟く。
「どの道、幾らかの抵抗をしたところで次善策はまだまだある。焦って機そのものを失わないようにしなくてはな。……この場は貴様の勝ちだ。もう曹操軍の連中に手は出さん」
「……お前の言葉だけで信じられるかよ」
「フンッ……タネの割れた仕掛けを再度使おうとは思わんさ。あの人形へも、この女もな……さっさと行け、俺の気が変わらんうちに」
「あっ、ちょっとお待ちになってくださいまし! 左慈さん!」
ぶっきらぼうに視線を外し、駄々っ子のように引っ付いた袁紹をそのままに林の方へ歩き出す。
「ん?」
その振り向き際、掴まれたせいなのか左慈の服がはだけて地肌が見える。世辞にも豊かとはいえない胸元でなぜか煌く光。それがなぜか気になった。
「ようやく見つけたぞ、このやろう!! よくもたんぽぽを傷ものにしやがったな!!」
一瞬の思考の直後、一際大きい声とともに馬に乗った馬超がこちら目指して突っ込んできた。
しかも過剰な勘違いをして。
腰まで届く長いポニーテールは、速度に見合ったように激しく上下し、彼女の鬼気迫る表情に拍車をかけている。
「潮時だな……」
後続の兵士達もこちら向かって次々と雪崩れ込んでいるし、ここが引き際だろう。
「よし……トロンベよ、今こそ駆け抜ける時!」
「ぶるるるるっ!」
こちらの呼び声に反応して控えていたトロンベ(旧セキト)がいまだ気絶したままの袁術を乗せて走ってくる。
「それと、ごめんよ」
「にゃっ?」
「ぬっ!? この動き……トキ!」
病んでさえいなければ……いやいやそんな死の灰を浴びた記憶は無いから。
話に付いてこれなかった二人のスキを突き、思春を参考した動きで気配を絶って春蘭を掠め取る。
疲労懇狽なのかどこかケガでもしたのか浅く息を吐きながらこちらに目だけを寄越してきた どうやら本能的に状況を察して身を委ねてくれるようだ。
そのまま間を抜けた。本家と比べれば未熟も良いところだろうが、この動きは何度も見てきたんだ、コツぐらいわかる。それに相手の機微を読み取るのは得意なんだ。状況次第なら天下の武将相手でもなんとかしてみせるさ!
「おい何する気だ!この変態野郎、そいつはあたいらの獲物だぞ!」
こちらに気をやっていた文醜だけが素早く対応し、抜け出そうとした俺の進路を阻もうとするが俺が回避するまでもなくそれは阻まれてしまう。
「あいや待たれい。先程からこの御方を変態、変態と連呼されているが、まさかこの美々しい仮面を原因に考えておるつもりではあるまいな」
「そこ以外に突っ込むとこないだろ! なんでお前そんなに真剣なんだよ!?」
予想外の物言いに勢いを失う文醜を尻目に、もうすぐまで迫ったトロンベに手を伸ばす。
「ぐっ!」
急加速に耐え切れず掴んだ腕が悲鳴を上げるが、我慢して春蘭を引っ張り上げ、背中の方へ座らせる。
「「「「待てぇ!」」」」
四方からの制止を聞き流し、全方位囲まれたこの場を脱出するためにある一点を目指す。
「うにゃー! 止まるのだ、タイツ着込んでそうな兄ちゃん!」
だから何でそっちを思い浮かべるの!? パピヨンな人じゃないって言ってるでしょ、錬金できないから!
「はらわたをぶち撒けろー!!この野郎ー!」
心の突っ込みが繋がった!?
なぜか誤解しまくっているヴァルキリー馬超は叫びながらまだこちらに向かってきた。だが。
「ここまでは追って来れないだろっ! 春蘭、聞こえてたらしっかりと背中を掴んでくれよ!!」
唯一、人の防壁が薄い箇所を目指してジャンプ。
そこは袁紹軍ひしめく北でもなければ馬超の部隊が詰め寄せる南でもない。ある一点へ覚悟を決め、ダイブする。
「「「「「なっ!?」」」」」
その場にいる全員の度肝が抜かれた。
男が向かったのは西。
しかも 橋のかかってない崖に向かって飛び降りたのだ。
その姿は一瞬で掻き消え、張飛達の位置からは確認できなくなったが対岸にいる黄忠側の人間には良く見ている。
あまりにも非常識な光景の連続。
落下していくものばかりと思われた身投げは馬が器用に崖の出っ張りを足場にする事で、見事駆け下りているのだ。
谷間風に吹かれ、舞う十文字の羽織がきらきらと光を反射し、落下する。
これこそが、風の指定した脱出方法。
それは一刀が泗水関で見せた『逆落とし』を再現するという危険極まりない作戦だった。
橋のかけられた本当の崖である長坂はかなりの高度がある。
減速してでも落下位置が調整しなければ下で突き出す岩にぶつかってしまう。
これが始めてだったら俺はすでに気絶している。
功か幸いか、以前の経験のおかげで意識を飛ばす事もなくしっかりと手綱を握り締めれた。
恐怖二乗増しのスプラッシュマウンテンはどんどん下へ向かって降下していく。
「ぶはっっ!!」
爆発のような水飛沫とともになんとか川に着水。なんとか無事のようだ……。
「うう……急に気持ち悪く……」
「……気絶しててよかったな」
間違っても水を飲ませないように胸の高さまで袁術を担いで、反応の鈍い春蘭にしっかり俺の腰を掴んでもらう。
「もう少し頑張れよ! すぐに華琳に会わせてやるから」
回された手を掴み返して、安心させるよう言葉をかける。
水流は激しく思ったより体力の消耗が激しいが、一番つらいのはセキトだ。本当、この子には感謝してもしきれない。
そんな思いを胸に北郷一刀こと百式華蝶仮面はどんぶらこ、どんぶらこと川を下っていった。
「あの台詞、言動……まさか……?」
「どうしたのだ星?」
「……いや、何でもござらんよ」
「?」
「それよりも鈴々よ、ちとお願いがあるのだが」
「なんなのだ?星からお願いなんて珍しいのだ」
「紫苑殿をこちら側へ連れて来てくれぬか? 私には少々他用ができてしまってな。彼女ならうまくこの場を納めてくれるだろう」
「呼ぶだけなら簡単だけど、用って一体なんなのだー?」
「話すと長い。とりあえずお願いできるか?」
「むむぅー。まぁいいか! 鈴々ちょっと行って来るのだ」
了承するや否や、土煙を巻き起こしながら疾走していく姿は馬にも劣らないようなスピードだ。
その隙に趙雲もまたこの場を後にする。
彼女の視界の隅、そこにはそれぞれの事情で同じ方向を目指す顔見知り達がすでに小さくなっていく。
「どうやら正解のようだな」
手ごろな馬を拝借し駆け出す趙雲は一人確信した。
余談だが今回の一件は瞬く間に広く噂されるようになった。
単騎で居並ぶ四万の兵を相手取り、見事に夏侯惇将軍、牽いては魏そのものを救った“快男子”の活躍。
それは後にこう語られる。
長坂橋の大立ち回り、と。
期せず左慈の言うとおり事象の収束は起こったのだ。
「おぉ!!! ほんまきおったであいつら!! 思わず川に洗濯しに行くとこやったわ」
「おおー! あの人すごいですねー霞さん! 洗濯の意味はわかりませんが」
「隊長!! 私は山に芝刈りにいくところでした!」
打ち合わせ通り、下流で待ち構えていた凪達の前に赤い馬が流れてきた。
周りには合流した魏軍がまさかとばかりに騒ぎ立てる。
「……本当に帰ってくるとは驚愕を通り越して呆れる事ぐらいしかできないわね……。秋蘭、あの赤い馬以外に人間は確認できる?」
傍に控えていた青髪の彼女は指示通り上流に向けて目を細める。
「どうやら生き延びたのは彼らだけのようですね。北郷と袁術、……姉者も無事のようです」
実際にはあの男に寄り掛かり、ぐったりしていているが命に別状は無いだろう。
「ふふー、やっぱり風の言うとおりでしたねー。わーい勝ったー」
「こら風! 曹操様に失礼でしょ!」
「……ちっ、そのまま死ねば良かったのに」
少し開けた川原で華琳、風、稟、桂花、少し離れて秋春が控え、川岸では凪と霞、それに季衣が兵に指示を飛ばしてなにかを準備させている。
皆が奇跡の生還を喜び、嬉々として作業を進めていく。
「風、といったわね。なかなかやるじゃない。皆を代表して礼を述べましょう」
「いえいえー、お褒めに預かりきょー悦至極です。でも風は指示を出しただけなので本来褒められるべきはお兄さんなのですが」
「あら? 人材は使ってこそ意味があるのよ。その性能を把握した効率の良いやり方でね。貴女なかなか見所があるし……。そうね、あんなブ男は放って置いて私の元へ来ないかしら?」
(“前回”も、そして“今回”も私の覇道に立ちふさがった男。気に入らないわ、本当に)
「……」
「?」
「……ぐう」
「起きなさい!」
―すぱんっ!
「おおう?」
小気味良い突っ込みが稟から浴びせられ、どこかしこに飛んでいった意識を取り戻す。
「おはよう。それで貴女の返事を聞かせて貰いたいのだけど?」
斬新なリアクションを気にも留めずに華琳は返答を促すが、当の本人は横にいる稟に意見を求めた。
「どうですか稟ちゃん? 一応このお誘いは我々が求めていたものですが、ここぞとばかりに仕官してみますか?」
「私は……いえ、それよりも風。あなたの意見を聞かせてください。……返事は何となく分かりますが、私はそれに従おうと思います」
「おや、もうデレたのですか? ツンデレはツン七割、デレ三割の黄金率らしいのですが」
「そういうのじゃない! た、ただ私は……」
ちらりと遠慮がちに華琳を覗き見るだけで稟の顔は沸騰したかのように赤色に染まり。
「ぷふぅーーーーーーーーーー!」
真っ赤な大輪の花を咲かせた
「ちょっと何なのこの子! また血を噴き出したわよ! 明らかに致死量超えてるでしょ!」
突然の惨劇に桂花が叫び、蝉が鳴きそうになったが風は慣れた様子で稟を介抱し始めた。
「はーい稟ちゃん。とんとんしましょーねー、なんか一気に悪化してしまいましたね。……原因の一つはこれですかー。そろそろ新しい対処方法を探さないといけませんねー」
「うぅ……なざけない……」
湯水の如く溢れる血溜まりの中で落ち込む稟は落ち込みながらも風に返事をするよう促す。
「そですね。曹操さん、残念ですが風たちはお兄さんについて行きたい思っています」
「さっきの口振りから予想すると、以前は私の元に来るつもりだったのではなくて?」
「まあそれも運命、巡り合わせが悪かったという事で。先にあの人と出会ってしまったものですから」
ぺこりと器用に彫像を落とさないよう頭を下げると華琳は呆れたように溜息をついた。
川岸では流れてきた北郷をセキトごと引き上げる為、多数の兵士が川の両側に控え急ごしらえの網で捕縛しようとしている。
「ま、いいわ」
彼らを迎えるようと足を進める彼女は断られたのも関わらず、どこか嬉しそうに頬を少しだけ緩ませた。
(……ともあれ、春蘭を救ってくれてありがとう。悔しいけれど、もう一度だけ負けてあげるわ……一刀)
恐らくは面と向かってはしないであろう感謝の言葉を心の中で述べる華琳だった。
そんな光景を眺める二人の男。
一人は画体が良く人も良さそうな青年。もうひとりは画体の良すぎて逆に気持ち悪い変態で、並び立ったまま会話を交わしている。
「あの男が貂蝉の言伝にあった北郷一刀か?」
「ふむ……万人受けしそうな顔に若々しくも張りのある肌と肉体、受けも攻めも両立できそうなあの気配は間違いなく貂蝉好み。あやつで合っているだろうな」
判断基準はいささか不穏だが同意する変態。
「どうやらケガをした人間もいるようだ。本人もふらふらだし、ここは医者としても見逃せないな」
「おお、さすがはダーリン! その無償の愛を是非にもワシへ!」
「ん? 別に卑弥呼は健康だろ。特に治療の必要は無いと思うんだが……」
「相変わらず鈍感な奴じゃなダーリン! だがそこがいい! 実に良いわ!!」
「?? 取り合えず先に行くぞ。患者が俺を待っている!」
ダッと駆け出す華佗に続いて卑弥呼もまたそれに倣う。
川では助けられた一刀が安堵の為かその場に倒れ伏せ、辺りにいる女性が騒ぎ出している。
どうやら出番は早いようだ。
新たな出会いがまた一つ。彼の元へ集まっていく。
説明 | ||
第二十三話をお送りします。 ―左慈との対面― 開幕 |
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PONさん>そうですね〜。うーん、でも左慈の場合、逆恨みも若干……?含まれてきているような気もします。 早々にケリをつけておけばいいものの、というのは同感ですな!(よしお) なんというか…左慈の狂気もわからなくはないんだよね。何度も何度も似たような連中が出てきて似たような筋書きの演劇見せ続けられて…そりゃ嫌になるわ。でもセリフが後半から具体的な殺し方じゃなくて概念的になってるぞwあとそんな風に余裕見せてるからお前は二流なんだよw有無を言わさず殺してれば良かったものをw(PON) 320iさん>強化されますからね!精神もw(よしお) よーぜふさん>わたしもいやですねw(よしお) なんかもうメタというか世界から修正かかりそうというか・・・なにはともあれ、そんな判断基準はイヤだw(よーぜふ) |
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