真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第三章・第一幕
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 一刀たちの下に、伊籍が仕官していた丁度その頃。

 

 ?のある冀州からはるか西の地、”旧都”洛陽からは、函谷関を挟んだ地にある、前漢の都にして後漢の新都となった古の都。

 

 その名は、長安―――。

 

 漢の高祖たる劉邦が、楚の項羽を下した後、皇帝となって都と定めた前漢の帝都。その後、後漢の代になって、都が洛陽へと遷るまで、この世の栄華を極めたこの地であるが、現在はすっかり没落し、ただの地方都市に成り下がっていた。

 

 しかし、今回の遷都によって、再び脚光を浴びることとなったこの都は、現在再開発の真っ最中である。……だが。

 

 

 「じゃから言うておる!優先すべきは街の整備!民の暮らしがよくなれば、自然と税も増え、城を整える余裕も生まれると!」

 

 思わず大声を上げ、王允に自身の方針を強く訴える、漢・十三代皇帝、劉弁。それに対し、司徒の王允はというと、

 

 「それは違いますぞ、陛下。王城が立派であればこそ、民もそれをうらやみ、自らを奮い立たせるもの。上に立つ者が目標を示してやってこそ、下の者も道筋を見つけることができるのです」

 

 劉弁とはまったく正反対の論を展開し、一歩も譲る気配を見せていなかった。両者の思考の根底にある、その違い。それは一重に、皇帝と民の関係が、どういう形であるかという、その一転に尽きた。

 

 劉弁が、民を基本に物事を考え、政の骨子を考えているのに対し、王允の方は、まず漢室ありき、そして、その威光をあまねく天下に示すことこそ、民に幸福をあたえられる、と。

 

 完全に、正反対の思想なのである。

 

 二人の話は常に平行線をたどり、中々結論が出ることなく、かれこれ半日ほど、激しく議論を続けていた。

 

 「……良い。ならば、今日の所はここまでとしよう。じゃが司徒よ、これだけは言うておくぞ。……民をないがしろにし続ければ、いつか手痛い”しっぺ返し”を食らうこととなろう。朕もそなたも、共にそろってな。……以上じゃ、下がれ」

 

 「……御意」

 

 渋々と、ふてくされた顔のまま、王允は部屋から退出していく。

 

 「……まったく、あの頑固頭めが。先の乱の根底にあったものを、まったく理解できておらんな」

 

 いすの背もたれにその背を預け、大きく嘆息する。そこに、

 

 「失礼します。陛下、お茶をお持ちしました」

 

 

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 「月か。……ふむ、とりあえず、茶でも飲んで落ち着くとするかの」

 

 茶器一式を持ち、劉弁の部屋を訪れたその少女―――劉弁専属の侍女であり、その相談相手でもある、月こと元・相国、董仲頴―――から、茶の入った器を受け取り、それをすする。

 

 「……ふう〜。やはり、月の入れた茶が一番口に合うの。……にしても司徒め、あそこまで頭の中身が古いとは思わなんだわ」

 

 「ですが、司徒さまも司徒さまなりに、漢に対する忠義心からでた、そのお考えだと思いますが」

 

 「それは解かっておるがの。……じゃが、朝廷ありきな考えが強すぎる。官も皇帝も、民あってこそ、生きていくことができるのだということが、あれには理解できておらん」

 

 そう。

 

 民という”土台”がまずあってこそ、朝廷という”家”が、そこに立っていることができるのである。土台をないがしろにすれば、いずれ家は倒壊してしまうのが”オチ”である。

 

 王允を初め、現在朝廷に仕えているものの大半は、そこの所を考え違いしているのだと、劉弁はそう顔をしかめてつぶやいた。

 

 「朝廷も、そして皇帝も、所詮は民の”小間使い”よ。天下の主は皇帝ではない。数多いる民こそが、真の主なのだ」

 

 「……はい」

 

 劉弁の言葉に、月も同調して静かにうなずく。

 

 「……ところで、話は変わるがの。どうじゃ、その”めいど服”は?中々に似合っておるぞ」

 

 と、いつぞやかの一刀デザインのメイド服に身を包んだ月を、ニヤニヤとしながらみる。

 

 「へぅ〜。……その、はい。とても可愛くて、大変気に入ってます。意匠を考えたのは、北郷さんだそうですが?」

 

 「うむ。あやつは本当に多才よな。政や武だけでなく、このような才まで持ち合わせておる。……うらやましいことこの上ないの」

 

 最後は少し自嘲気味に、そんな風につぶやく劉弁。

 

 「陛下……」

 

 「……その才に加え、民に対するその想いの強さ。自己に対する責任、あらゆることに対するその覚悟。……どれをとっても、朕より勝っておる。真に”天”と呼ぶべきは、あやつのほうかも知れんの」

 

 茶器の中の茶に写った、自身の顔をじっと見つめる。そして、ぐっ、と。その茶を一気に飲み干す。

 

 「……じゃが、朕とてこのまま負けておるつもりは毛頭無い。あやつに少しでも近づけるよう、そして、真に民のための為政者となれるよう、これからも精進していくつもりじゃ。……月よ、朕をこれからも、そばで支え続けてくれ。頼む」

 

 「……はい、陛下」

 

 一刀を、自分よりも優れた人物と認め、その上で、その高みを目指すと誓う劉弁。月もまた、そんな彼女を支えて行こうと、改めて誓う。……まあ、相手が本当は、自分と同性だということには、いまだ気づいてはいないが。

 

 しかし、その時その部屋の外で、そっと聞き耳を立てていた人物は、それを是とはしなかった。

 

 「…………おのれ」

 

 そっとその場を離れ、思わず一言漏らす。そして、そのままゆっくりと、闇に包まれた廊下の奥へと歩き出す。

 

 

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 そして、その日の深夜。

 

 長安城内のとある一室に、三人の男が集まっていた。

 

 「……陛下が、真にそのようなことを申されたのですか」

 

 「そうじゃ。……皇帝は、民の小間使いだと。大陸の真の主は、民草どもだとな」

 

 「何たる情けないこと!かように弱気な皇帝など、古今に類がございませぬぞ!」

 

 三人のうちの一人、白髪の老人――王允から発せられた劉弁の言葉に、激しく憤慨するその大柄な男―――名は、張温、という。

 

 禁軍将軍の一人であり、漢室に対する忠誠心に篤く、漢のためならばなんでもしてきた男。―――表沙汰には決してできない、裏の仕事にいたるまで。

 

 「そのうえ、じゃ。天の御遣いなどという、あの不遜な者を、自らの手本にするなどというておる。……もはや、許せるものではない」

 

 忌々しげ、いや、もはや憎悪と言っていい感情を、その瞳の奥に宿らせ、王允はそう吐き捨てた。……すでにその言葉から、敬語というものが消えた、その口調で。

 

 「では司徒さま。此度も、”先の帝”のように」

 

 「……いや。それは出来ぬ。先帝のように、病に”なってもらう”のは時間がかかりすぎる。一刻も早く、次の、”真の”帝に立ってもらわねば、漢の威光はますます堕ちていくのみ」

 

 「であれば、やはり、私めが直接……」

 

 「そうじゃ。……じゃがその前に、董承」

 

 「は」

 

 部屋の中にいたもう一人の人物―――張温と同じく、禁軍将軍の一人である董承へと、その視線を転じる王允。

 

 「おぬしの権限を持って、旧・董軍の諸将を、しばし都から引き離しておけ。彼奴らはあの愚帝の子飼のようなものだ。都に居られては、厄介なことこの上ない」

 

 「御意」

 

 劉弁を愚帝と呼び、董承にそう指示を出す。

 

 禁軍の中でも、元・董卓軍の将兵たちは、長安へと入って以降、皇帝である劉弁の直卒ともいえる部隊となっていた。そのため、その彼女たちがいては、”事”を為すのに邪魔だと、王允は考えたのである。

 

 だが、結局その目論見が、成功することはなかった。

 

 半年間、張遼と華雄、そして呂布の三人が、都を離れての賊討伐を行っていたのだが、その間に事を為すことは出来なかったのである。

 

 皮肉にも、王允の、彼の姪である王?の手により、”それ”はことごとく阻止された。しかも、”その事”を劉弁から言外に臭わされ、王允はその後、政に対して、一切口を出せなくなってしまった。

 

 そんな状況を苦々しく思いながら、再開発が進む街と、活気にあふれた人々を眺めつつ、王允は歯噛みをしていた。

 

 「……このままで済ませてなるものか。……漢の栄光はこのわしの、この王允の手でのみ、真に取り戻せるのだ……。あのような愚帝などではなく、このわしの……」

 

 それは、執念か。それとも……。

 

 暗い意志をその瞳の奥に宿し、王允は静かに、街を見続けた。

 

 

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 それから半年後。

 

 反董卓連合の戦いから、およそ一年が過ぎた、とある春の日のこと。相も変わらず政務にいそしむ一刀たちの下に、その報せが、突然に、もたらされた。

 

 「……どういうことだよ、これ……」

 

 その手に持った書簡に目を通したまま、一刀は呆然と立ち尽くしていた。

 

 「……どうしたんですか?一刀さん。都から、いったい何を」

 

 その一刀の傍に、徐庶が近づいて問いかける。と、一刀はその書簡を、無言のまま彼女に手渡した。

 

 「……何よ、これ。こんな、こんなの出鱈目に決まってますよ!だって、だって」

 

 その顔を真っ青にし、珍しく狼狽する徐庶。

 

 「カズ、輝里、一体なにがあったっちゅうねん?!」

 

 「長安で、一体何が起きたと?」

 

 「……ロクなことでは、無いでしょうね」

 

 姜維と徐晃が二人に問いかけ、伊籍は二人の様子からそう推測する。そして、黙っていた一刀が、ゆっくりと、その口を開いた。

 

 「…………白亜、が」

 

 『え?』

 

 「……白亜が、王?さんに、”殺された”……って」

 

 『?!』

 

 

 ”後漢・十三代皇帝、劉弁陛下。側近の、王彦雲の手により、殺害さる。また、禁軍将軍・華雄、および賈文和がそれに共謀。共に、都を脱走した”

 

 

 以上が、その書簡の内容である。

 

 徐庶の手からいつの間にか落ち、自身の足元に来たそれを、司馬懿が拾い上げて目を通す。

 

 「……信憑性の低い、流言飛語、ですね、これは。「瑠里……?」……まさか、信じてないですよね?」

 

 「信じるわけ無いだろ?!こんな……!!あ、ごめん、大声をあげて」

 

 司馬懿の冷静なその問いかけに、一刀は思わず声を荒げる。が、すぐに自分の失態に気づき、彼女にわびた。

 

 「別に構いません。……けど」

 

 「けど?」

 

 「……また、一嵐、来そうですね……」

 

 

 司馬懿のその予感は、それから一月後に、見事に的中した。

 

 

 事の真偽を確かめるために放った、草からの報告を待つ一刀たちの下に、朝廷から、”それ”が届けられた。

 

 ”十四代”皇帝、”劉協”の勅書。

 

 それにより、一刀たちは”ある”決断を、迫られる事となるのである。

 

 

                                  〜続く〜

 

 

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 瑠「第一幕、お届けしました」

 

 輝「・・・瑠里ちゃん、簡潔すぎ」

 

 瑠「長い台詞で言っても、内容は変わりませんから」

 

 由「そらそーかもしらんけど。もちっと情緒っちゅうもんをやね」

 

 瑠「・・・情緒、ですか。・・・よくわかんないです」

 

 

 輝「それはともかく、父さんは?」

 

 由「前回分の反響が相当ショックやったみたいでな。向こうでぶつぶつゆーてるで」

 

 ・・・う〜。・・・あれがこうで・・・だから・・・性格は・・・いや、でも・・・。

 

 輝「・・・そっとしておきましょうか」

 

 瑠「ですね。じゃ、今回のお話」

 

 

 輝「思想の違いって難しいですね」

 

 由「せやね。どっちも一応、世の中の安定を願っては、いるんやけど」

 

 瑠「民ありき、か。朝廷ありき、か。・・・ま、普通なら、考えるまでも無いんですが」

 

 輝「思い込みの激しい人って、厄介ですよね」

 

 由「で、それがとうとう暴走したってことやな」

 

 瑠「どうなったんでしょうね、皆さん」

 

 輝「そこらへんは次回のお楽しみにって事で」

 

 由「そーそ。ほな、次回予告と参りますか」

 

 

 瑠「突如、都で起きた政変。白亜さんたちは、一体どうなったのか?」

 

 輝「そして、その都で新たに帝位に就いた、劉協さまからの勅書とは?」

 

 由「うちらの運命は、この先果たして?」

 

 瑠「次回、真説・恋姫演義 北朝伝」

 

 輝「第三章・第二幕にて、お会いいたしましょう」

 

 由「コメント等、いつもどおりに頼むな?誹謗中傷はかんべんやで?」

 

 瑠「それではみなさま」

 

 

 輝・瑠・由『再見〜!!』

 

 

 

説明
三章・一幕です。

場面は長安がメインとなります。

新都に入った白亜に、王允との確執が生まれます。

そして、事態は急転直下。

・・・それではどうぞ。
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コメント
西湘カモメさま、さて、一刀の決断は果たして?そして白亜は?次回を待て!・・・なんてねww(狭乃 狼)
サイトさま、おちつきましょwまだまだ機は熟してませんよ?くす。(狭乃 狼)
ロンロンさま、そういうことですわね。さて、これからどうなるのやら。(狭乃 狼)
hokuhinさま、勅書の内容、多分見たらあきれると思います。次回で載せますので、おまちくださいな。(狭乃 狼)
mokiti1976−2010さま、気づかないからこそ、末期状態に入っていくんですよ。 地獄は・・・さて?くすくすw(狭乃 狼)
吹風さま、性質は確かに悪いですな。・・・裏で何したのかは知りませんがw(狭乃 狼)
etyudoさま、さて、他勢力との連携はあるのか?それはまだ秘密ww(狭乃 狼)
よーぜふさま、憎まれっ子世にはばかるといいますし、しぶといとは思いますけどねーw。(狭乃 狼)
poyyさま、うん、沸きますね。さて、どうしてくれましょうねw(狭乃 狼)
こるど犬さま、頭に大をつけてくださいw(狭乃 狼)
M.N.fさま、さあ、それはどうでしょうかね?(狭乃 狼)
何と言う最悪な展開?一刀の決断はやはり王允達害虫を排除することだよな。白亜は生きてますよね?(西湘カモメ)
皆のもの!武器を持て!これより三下どもを排除に向かう出陣だ!!!!(サイト)
華雄と詠が脱走。 白亜を何とか連れ出したが、屑共に先手を打たれたか……。白亜が死んで劉協が皇帝になったと伝えられた以上、白亜が生きていようといまいと関係ないと…。(龍々)
王允達のような考えがはびこるような王朝はすでに末期状態にあることは歴史が証明しているだろうに・・・そういうことをやっている当人共は気付かぬようで。さあ一刀よ!王允達に地獄を見せてやれ!!(mokiti1976-2010)
宦官処理とか、普通に邪魔だっただけなのか…人数人排除するために戦乱起こすとか最悪すぎる。強制的に外を巻き込む分宦官や何進より性質悪いなぁ。(吹風)
とうとう白亜が排除されましたか・・・勅書の内容も気になるし、次回も楽しみにしてます。(hokuhin)
まだまだ洛陽編が続きそうですね。魏呉蜀との連携があることを期待しています。(etyudo)
うん、うぜぇ。 皆殺しぢゃぁあああああああ!!(ぇ(よーぜふ)
ヤバいぐらいに悪三人組に殺意が…。(poyy)
またまた、波乱の幕開けかっ!(次回予告風)(運営の犬)
一刀陣営が逆賊にされたかな?>勅書(M.N.F.)
東方武神さま、どんな貴人も、元を辿れば只の人なわけで。・・・ほんと、嘆かわしいですね。(狭乃 狼)
namenekoさま、唖然、ですか?それとも驚愕、かな?その反応はw (狭乃 狼)
村主さま、帝政、というか、絶対君主制の体制だと、必ずといっていいほど、勘違いする連中が出るんですよね。 で、<の向きは逆ですね。>こっちじゃないと、諸侯や民が上ですよw あと、救いようはないです。はい^^。(狭乃 狼)
紫電さま、次回は脱出した面々の様子から、入っていくことになります。もう少々、おまちくださいませw(狭乃 狼)
いつの時代も民がその始まりだということにお偉いさん方は気づかない。嘆かわしいことですね。(東方武神)
なんということだ(VVV計画の被験者)
悪巧みトリオ(王允・董承・張温)達は選民思想だったという所ですかねw 皇帝=側近(自分ら)<<<その他諸侯<(<が10個程)民草・・・なレベルでw 考えは違えど国を想っていると思いきや・・・3p目、先帝にそんな事してたのかおまいらw 救いよう無いですな(村主7)
kabutoさま、王允に飾られた協ちゃんの運命やいかに?そして白亜は・・・?!こうご期待、です!ww(狭乃 狼)
白亜ああああ!!!?まさか協が王允に飾られるなんて・・・。続きが気になって仕方がありません。(kabuto)
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恋姫 北朝伝 一刀 劉弁 王允 

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