真・恋姫無双〜妄想してみた・改〜第二十九話
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「御機嫌よう、孫権……。この世界で会うのは始めてかしら?」

 

極めて不遜に、そして威圧感たっぷりに華琳が口火を切った。

賊侵入の報を受け、普段ならイの一番に駆けつけるであろう思春よりも早く孫権の元へ馳せ参じていたのは亞莎。

万が一の事態を想定し、主を避難させるため道を急いでいた彼女だが、唐突に湧いて出た予想外の遭遇に思わず足を止めてしまった。

 

「あ、あなたは……!」

 

(なぜここに? 何の目的で?)

 

動揺のあまり、うまく思考が纏まらない。

目の前に現れたのは間違いなく、雪蓮様の命を奪う一因となった曹孟徳その人。

 

(今度は蓮華様を直接亡き者にしようと殴り込んで来たのかもしれない!)

 

平時ならばそんな一段飛ばしの思考には至らないはずの亞莎だったが、今の彼女は気負いの程がとてつもなく大きく圧し掛かっていた。

 

(蓮華様は私がお守りしないと!)

 

過剰なまでの責任感。

それは一刀の一件でショックを受けて以来、覇気を失ってしまった蓮華と自分を重ねながらも、それでも主を守ろうという決意から来るものだった。

当然、干吉よりもたらされた魏軍への介入の報を亞莎は信じていない。

 

(一刀様には必ず相応のワケがあるはず。あの方は誰かを悲しませるような真似は絶対にしない人物なのです)

 

裏切りの報を受けても、自分をしっかりと支えてくれるこの思いを何度も蓮華には伝えていたが、うまく汲み取ってもらえず、歯噛みする日々を送っていた。

 

「曹孟徳っ! 何の目的かは知りませんが、それ以上近づけば敵と見なします!」

 

だからこそ前回の記憶を取り戻し、蓮華の本当の心情を知っている自分が奮い立たねばならない。

 

(一刀様と蓮華様はただ、偶然が重なり、思いがすれ違っているだけなのですから……)

 

守るように一歩前へと歩み出て、いつでも暗器を使えるよう両腕を突き出した格好の亞莎は、真っ直ぐに華琳を見据える。

 

「なぜこの平原の地にいるのか、答えてくださいっ!」

 

当然の疑問。

だが、返事は返ってこない。

 

「配下の者に守られて、それでよく孫呉の王などと呼ばれていたものね」

 

彼女の興味は孫権にしか向けられていなかった。

 

「……っ」

「だんまり? はぁ……つくづく煮え切らない態度の人間が多いわね。少しでも気負いして出てきた自分が恥ずかしくなるじゃないの」

 

こめかみを指で押さえつけ、顔をしかめながら言い放つ。

 

「まぁいいわ。話し合いは一刀と合流してからにしましょう。さっさとこっちに来なさい、孫権」

「……っ!?」

「一刀様!? ……なぜ貴女がそれを!」

「どうせ一刀と同じように、自分の気持ちに整理が着けられなくて悩んでるのでしょう? だったらさっさと本人に会って確認なさいな」

「ほん……ごう……が、帰ってきている、の?」

「……帰る、という表現が正しいかどうかは一先ず置いておくけど、そうよ。北郷一刀は今この城まで来ているわ」

「あ……」

 

無意識に孫権が抱き締めていた刀に力を込める。

過剰な装飾を施されているその武器は以前、一刀が修理に出していた一振りだ。

 

銀を基調にした鞘本体、それに沿うように走る荘厳な金細工と各部に埋め込まれた緑、赤、紫、三色の輝石が目を奪う。

修理を請け負った小蓮の意向により、姿こそ変わり果てていたが機能はそのままに、まるで宝剣のような威厳を醸し出すに至った一品。

 

新たに“恋姫無双”という銘を与えられていた。

 

入れ違いで一刀に渡ることのなかったそれは彼の忘れ形見ともいえ、それを抱える孫権は間違い無く彼に未練を持っていると考えていいのだろう。

明らかな動揺を見せていた。

 

 

 

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「し……しかし……あの男……は……」

「百聞は一見に如かず。会って話しなさい。一刀がなぜ何も言わず出て行ったのか。私の口から詳細を聞いたとしても今の貴方では到底信じる事が出来ないでしょう?」

 

誘い出すかのように腕を突き出し、手招きで呼び寄せる。

孫権が俯き、考え始めると鮮やかなピンク色のロングヘアーがその表情を覆い隠し、傍らに控える亞莎にさえ反応が窺い知れなくなった。

 

「……蓮華様」

 

華琳にとって一刀と孫権の関係改善はこの先、大陸を巻き込むであろう戦いに欠かせない要素の一つだが、自ら進んでお膳立てしようとは思っていなかった。

むしろその手前、相互不干渉程度の誓約が一番効率が良い。

二人の対話で話がこじれようとも、最悪、不干渉の関係さえ取り付ければ、袁招軍に身を置いている左慈の捜索と拿捕には問題にならないからだ。

 

それは単なる孫権に対する嫉妬や妬みの類から来る個人的な心情による判断ではなく、その奥に控えたもっとも重要な懸念事項。

一刀が話した過去の呉に対して華琳……否、魏軍が行った雪蓮暗殺の件は恐らく、千の言葉を重ねようと互いの溝は埋まる事がないだろうという確信がある。

かつては良好な関係で大戦を終えた魏の記憶と、理由は不明だけれど魏軍を滅ぼすまで戦ったという呉の過去は双方事実として覆せない。

たとえ華琳がどんな謝罪や侘びを述べようと、その事実が前提としてある以上、陳腐な言葉遊びとしてしか取られないだろう。

 

(話が拗れて問題になる懸念がある以上、結果を得る最短の選択肢として本格的な和解は後回しにしてもらいましょう)

 

一刀に全てを救えと言った自分が選択しようとしている先送りの回答に我ながら苦笑する。

 

(北斗を望むような果てない理想は、この私でさえも躊躇するのね。……とはいえ、無理に関係を良くしようとしても墓穴を掘っては意味がない……)

 

一刀と呉の話し合いが万全で済めば、それこそ最良だがこれくらいの保険はかけて当然だろう。

そんな心の陰りを隠すように存外な言い回しを放ち、わざと一刀との対話を急いた華琳だが、その真意は目の前の彼女に届くはずもなかった。

 

「……さっきから自分勝手な物言いばかり。貴女に蓮華様のなにが解るというのですっ!」

「あら」

「非道な行いで他者を蹴落とし、天下を我が物とせんとした悪鬼曹操! あなたの思惑がどうあれ、これ以上この御方を悩ませるような真似はさせません!!」

 

言うや否や、亞莎の長過ぎる袖から生えるように突き出す武器の数々。

長剣、手槍、棍棒、片手斧といったあらゆる剣種、鈍器の類が顔を出した。

 

「覚悟してください!」

「……それは良いのだけれど」

 

ここで始めて華琳が亞莎の存在を捉えて口を開く。

 

「あなた、名前は?」

「っ!!」

 

華琳は別段侮蔑の意味を込めたわけではなかったが、怨敵として華琳を強く意識している亞莎にとってその言葉は禁句だった。

弾かれたように亞莎は袖を振り回す。

袖口から射出される刀剣鈍器のつるべ打ち。

直剣が壁に突き刺さり、棍棒が床を叩きつけ亀裂が入る。

だが、飛来するのは剣や鈍器だけではなかった、切っ先が尖る鎖の束が合間を縫って上下左右に打ち出され固定されていく。

それ自体は速度も狙いも甘いため、何ら脅威でもなかったが、次第に次から次へと降り注ぐ武器が鎖に絡まり、鬱陶しいこと極まりない。

 

見る見るうちに通路が無骨な鉄の輝きに埋め尽くされる。

これだけの武器を貯蔵出来る術を持ちながら、なんと拙い投擲技術か。

呉軍はこの程度の力量で護衛を務めるのか。

決定打はおろか掠りもしない攻撃の数々に華淋の苛立ちが募っていった。

ふと相手の表情を隙間見ると、なぜか彼女は焦った様子も無く、鋭くこちらを睨んだままだ。

 

 

 

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……。

 

微細な違和感。

幾戦の修羅場を駆け抜けた自分の勘が警鐘を鳴らしている。

草葉に隠れた罠を察知したこのような空気の変化。

この、あまりに粗野な攻撃は本当に相手の力量不足によるものだろうか? もしや別の目的を実行するための布石なのではないか?

聡明ゆえの疑問が脳裏を掠め、若干の気の緩みから華琳の動きがほんの少しだけたじろいだ。

 

「! ――そこっ!」

 

その一瞬を逃さず、亞莎がここぞとばかりに今まで以上の速度で直剣を頭部目掛けて投擲した。

 

「―――フン」

 

だが、それを首を捻るだけの最低限度の動きで回避する華琳。

元の位置に首を戻そうとしたところで、突如、眼前に迫る殺気に体が勝手に反応した。

 

「はぁぁあああ!!」

「!!」

 

繰り出されたのは鋭利な刃物の射出でも、叩き伏せるような重量級の塊を投擲したわけでもない。

 

「ちっ!」

 

それは一瞬で肉薄してきた亞莎の手刀突き。

たたらを踏んで距離を取った華琳の頬に、掠めた疾風のうねりがうっすらと切り傷を残していた。

 

(よくもこの私に傷を負わせたわね……)

 

顔を傷つけられた事による憤りと、壁際に移動したせいで密接に感じ取れた背中に刃を察知したところで、ようやく彼女の狙いに思い当たった。

 

「……こちらが本命。得意の戦闘を生かす為というわけね」

 

亞莎は答えず、徒手空拳の構えを取った。

よくよく見渡してみれば、壁や床の至る所に武器が鎖に絡まり、突き刺さる光景はまるで四方を囲まれた地獄の針山を思わせる。

あの中に身が沈めばただでは済まない。あのむやみやたらな投擲はこの為の布石と考えていいだろう。

 

(激昂していたと思えば……よくやるじゃない)

 

華琳の予想は正しく、この行動範囲を狭めた上での近接戦闘は亞莎が得意の体術を少しでも生かすために考え付いた苦肉の策だった。

 

(自分が傷付く可能性は勿論ある。けどこれなら多少間合いを読み間違いても、拳は届くはずっ!)

 

眼鏡を掛けたとしても彼女の場合はモノクル。視界が狭窄になるのは否めない。

心は熱くとも、頭は冷たく冷静に。長い袖から姿を現した手甲“人解”が本領発揮とばかりに苛烈な牙を向く。

 

正拳、脚刀、前蹴り、肘打ち。

 

狭い通路を更に狭めたその場所で突き系中心の打撃が速射砲のように穿たれる。

 

「ふふっ……意外に頑張るのね、あなた」

 

肉薄する弾幕のような体術の嵐に晒されながらも、華琳はそっと笑みを零して全てを避けてみせた。

 

「だけれど」

 

唐突に、“とん”っと激しく揺れ動く亞莎の肩に何の問題も無かったかのように、優しく手が置かれた。

 

「―えっ?」

「相手の実力も測れぬ、若輩者が楯突くべきではないわねっ」

「なぁっ!?」

 

その撫でるような手つきとは裏腹に発頸の要領で拳底を放ち、肩を打ち抜く。

たまらず床へと叩き落された亞莎が、簡単に組み伏せられたことによるショックで放心しているところに華琳が冷徹な目をもって見下ろす。

 

「この私の肌を傷つけた罪、償ってもらわないと……ね?」

 

壁に突き刺さったままの長剣を抜き取り、刃を首筋の直上に番えようと握り手に力を込めたところで、今度は先の投擲と比べ物にならないほどの速度を持った銀光が差し迫ってきた。

 

―キンッ

 

甲高い金属音を鳴らして刃と刃が交錯する。

それを弾くでもなく、そのまま受け止めた体勢で華琳の瞳に再び笑みが浮かび上がった。

 

「……お目覚めかしら? 孫権。まだ寝惚けているのなら、もう少しキツめの眠気覚ましを用意してあげましょうか?」

「随分と乱暴な親切だな。……どんな思惑でここまで来たのかは知らんが、これ以上私の大切な仲間を傷つけるというのなら容赦せん」

 

亞莎に命の危険が迫った事で、なんとか自分を奮い立たせた孫権の表情にはさっきまでの揺れ動く少女の面影はなりを潜め、眉間に皺を寄せている。

 

「勝手に逆上したのはそっちの部下でしょう。まぁ、貴方がまともに会話出来るようになったのなら多少の代価は仕方ないと考えるべきかしら」

「私との会話が目的でここまで来たというのか? 国を失い、敗残の徒を辿っている貴様が一体何用だ」

 

揺れる胸中をごまかすためか、咄嗟に携えた刀は僅かに震えようとも口調だけははっきりとしておく。

侮蔑の意が篭ったその言葉を、華琳は見透かしたようにしれっと聞き流す。

 

 

 

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「簡単な話よ。呉に北郷一刀への不干渉の誓約を立てて貰いたいの。あれの管理は今後魏が引き受けるから」

「!? いきなり何を言い出すのだ貴様は!」

「……順を追って話しましょう。まずは……そうね。北郷一刀という存在の説明から始めましょうか」

 

 

 

紡がれる言葉は荒唐無稽。

複数の過去のもとにこの世界が創造されているという事実が華琳の口から告げられた。

世界の発露がたった一人の復讐のためだという事を。

北郷一刀がその発端となっている事を。

そして、全てを救うべく行動を開始するこれからの指標を……。

 

一言一句を誤魔化さずに語られるそれは孫権にとって寝耳に水な内容ばかり。

奮い立ったばかりの彼女が困惑していく中で、トドメとばかりに言い放たれた言葉は更に身を苛む。

 

「……説明はここまでよ、孫権。すぐに理解せよとは言わないけれど、これだけは忠告しておくわ。……一刀との関係。

一時の行動で不信がるような間柄であったのならば、即刻身を引きなさい。たとえ遺恨が片付けられようと、

あれと共に道を歩むには信頼だけの関係では不十分よ」

 

突き放したかのような物言いは奇しくも孫権の心中に潜み続けていた迷いと直結していた。

 

「お前に……なにが……」

 

底知れぬ怒りが彼女に湧き上がってくる。

 

――この女は何も分かってはいない。

 

なぜ私がこんなにも苦しんでいるのか、なぜいままであの男と正面から向き合えなかったのかを!

 

「勝手な口を利くなよ曹操! お前に……“記憶”とやらが戻っているお前にそれを言われたくないっ!!」

「くっ!」

 

振り上げ、叩きつけられた“恋姫無双”。

突然の凶行に辛うじて対処できた華琳だが、怒りに震える孫権の表情を見て、ハッとなった。

 

「まさか、あなた……」

 

微かに潤む瞳は激情から来るものだけではない。

嗚咽のように発せられる剥き出しの感情に、傍に伏せていた亞莎すらがたじろいでしまった。

 

「口を開けばみな過去の記憶や北郷への思いが足りないだのと……! 勝手に私の心を決め付けないで!」

「れ、蓮華様……」

「いい加減にしてよ……! なぜ、あの男への思いを過去から来るものだけで判断するのよ!! そんなの……卑怯だわ……」

「……」

「私は……」

 

責任感の強さから語られなかった思いが堰を切ったように溢れ出す。

それはどこにでもいる少女のような純粋さを持って。

 

「私は、過去とかそんな曖昧なものに関係なく、ただ純粋に北郷を……! 好きに……なりたいだけなのに……」

 

氾濫する思いはこの場にいた二人にも影響を及ぼす。

……強すぎる思いゆえの悩み。

その激流に思い知らされた華琳はそっと、剣を下ろした。

 

 

 

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氣弾は確かに干吉の胴体を捉え、その威力を発揮したはずだった。

 

「……そんな馬鹿な」

「ククッ、そのように驚かなくともよろしいですよ。これは紛れもない現実の光景。

ありのままを受け入れれば何のことはありません」

「そんなわけがあるかっ! この妖め!」

 

騒がしい城内とは裏腹に緊迫した空気を醸し出す屋根の上。

高所ゆえの強風に晒されながらも凪の叱責は大きくはっきりと響き渡る。

見上げる視線のその先にふわりふわりと中空を漂う干吉が冷笑を浮かべ、仰々しく振舞う。

 

「これは心外。ある程度は自重したつもりですが、お嬢さんにこの姿は気に頂けていないようですね」

 

そう言って手の平にある“自分の足首”をくるくる回して弄び、もう片方の腕が頭部まで寄って来て顎に手を当てる余裕の動作をしながらも、

胴体と残る足首は警戒するように凪と卑弥呼の周りを旋回している。

 

「ワシとて願い下げじゃ。“頭部”、“胴体”、“両手”、“両足”。六分割で氣弾を回避するなど、誰だって気色悪いに決まっておろう」

「そうですか? 臓物を撒き散らさない分、それほどスプラッタな印象は与えていないと思ったのですが……。

些か価値観の違いがあるようですね。次からは考慮に入れておきましょう」

 

一人納得した様子の干吉は頭部だけを動かして、凪に向かい合う。

 

「随分と頑張りましたね、楽進殿。私がこの術を駆使しなければならないほど追い詰められるとは。正直想定外でした」

「貴様に褒められても嬉しいとは微塵も感じないな。無駄口を叩く暇があるならさっさと掛かって来い!」

 

戦闘開始からすでに半刻が流れ、終始余裕に満ちた表情の干吉に対し、凪の顔には言動とは裏腹に疲労が色濃くあらわれている。

 

(さっきからこちらの攻撃がまるで当たらなくなっている。……残った体力からすればこれ以上の長期戦闘はまずいな)

 

気取られぬようそっと息を吐き、呼吸を整える。

 

「やれやれ……息巻くのは良いが、もう少しワシを頼ってもバチは当たるまい。一旦下がって休んではどうだ?」

「駄目です。卑弥呼殿の都合もあるのでしょうが、ここは自分に任せてください」

「おぬしもなかなかの頑固者じゃのう」

「フフッ……」

 

一刀が魏の記憶を取り戻したあの晩から“この女は敵だ”という直感を感じていた凪は、その憤りから苛烈な攻撃で干吉を追い詰めていたがクリーンヒットといえるものはいまだ一撃も無く、激しい動きから徐々に体力を奪われている。それでも凪は渾身の力を振り絞って両足に活を入れ、干吉を睨みつけた。

 

「なかなか良い面構えになってきましたね。そういった激情に身を任せて、ひたすら突き進む姿は愚かしくもあり、

どこか愛しい……非常に私好みで好感が持てます。ふふっ、そろそろ頃合でしょう。あなた方に敬意を評し、貴重な情報をお教えしましょう」

「なんじゃと?」

「卑弥呼。あなたの本当の探し物は“アレ”の力が封じられているであろう“玉璽”ですね?」

「! なぜそれを!?」

「大体の予想はつきますよ。この一連の外史創造、破壊のファクターは本来“北郷一刀”と“アレ”でしか触媒に成りえません。『新生』、『破壊』のいずれにしてもアレは必須ですから。ですが安置されたはずの場所にそれはなく……いや、正確には台座しかありませんでした。ならば左慈によって他の何かに移し変えられ、左慈にとって都合の良い終端で使用できるようどこかに隠されたと考えるべきでしょう」

「貴様……良く口が回ると思えば、やはり……」

 

合点がいったとばかりに卑弥呼が言葉を漏らす。

 

「えぇ、ご察しの通り。左慈と私は無関係です。こちらの目的の邪魔にならない程度であれば多少の情報は提供致しますよ。彼女はこの私がこの外史にいる事すら知らないはずですから」

「なんともまぁ、腰巾着のように引っ付いておったのが嘘のような振る舞いじゃの……何を考えておる?」

「色々と、ね。とりあえず今のところは敵ではないとだけ言っておきましょう。それより先の答えを伝えておきます」

 

誤魔化すように干吉が言葉を重ねると卑弥呼もこれ以上の言及は無駄だと悟ったのか口を噤んだ。

 

(――長坂橋の一件と今回の騒動。確かに翻弄されてはいるがやはり違和感が拭えんな)

 

左慈の思惑を妨害しこちらの手助けになるような行動は本来、外史の破壊を根幹とする役目を持つこやつの存在意義と大きくかけ離れておる。

それを無視し、魏の記憶まで取り戻させたのは何の為じゃ?

どうにも左慈と我らを含め、こやつの掌で躍らせられている気がしてならない。

早めに真意を聞き出さねば、何時か全員が飲み込まれてしまうやもしれんな……。

 

 

 

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卑弥呼が悩む様子を気にするでもなく、干吉はたんたんと言葉を発する。

 

「呉に“玉璽”はありませんでした。左慈に持ち去られたと推測したのですが、写し身の情報によるとどうやら未だに洛陽に潜んでいそうですね」

「それは真か?」

「すぐバレる嘘は言いませんよ。疑うなら時間は掛かるでしょうがご自身の目で確認してください。そこまでは面倒を見切れませんよ」

「……“玉璽”以外に力を移し込んでいるやもしれぬぞ? もしくは他のものに取られぬよう自分自身を贄に……」

「まさか! いくらら我々でも“アレ”の力は持て余します。それはありえません。……まぁ、可能性としては神性の低い祭器の類に複数分けているかもしれませんね。候補として呉の『南海覇王』、蜀の『靖王伝家』などの宝剣、もしくは何処に紛れたかも分からぬ『太平要術の書』……。いずれにせよ、三国志や演義に名を残す著名な代物でしょう」

「ぬう……」

 

こちらもこちらで解決せねばならぬ問題じゃの。

 

「それから、楽進殿。北郷殿へ伝言をお願い出来ますか?」

「なに?」

 

凪にしてみれば意味不明なやり取りが交わされる中、突如として話を振られた凪が一瞬身を硬くする。

 

「“私が呉に蒔いた種子は近いうちに目の前へと現れるでしょう。それは貴方と縁を持ちながらも、世界の意思によって淘汰された存在。それを芽吹く前に刈り取るのか、毒花と知りながら愛でるのかは貴方の判断次第。この私からのささやかなプレゼントをどうかお受け取りください”と、ね」

「……あやふやな物言いをせずにはっきりと答えろ!」

「それでは面白くないでしょう? 多少の娯楽はあって然るべきです」

「くっ」

「まぁ、楽進殿にとっては面白くない事態になるでしょうね。差異はあれど、色恋沙汰が多くなるとだけ言っておきましょう。彼にとっては本懐かも知れませんが」

 

ふらふらと空中を浮かびながら、ほくそ笑む干吉の仕草に凪が思わず反発した。

 

「人を思慕する感情を人外の貴様に理解できるはずがないのに、知ったような口を利くなっ!」

「……」

「そんなに人の心を手玉にとって何がおもしろいというのだ! わたしはお前のような者は絶対に許さない!」

「…………ふむ」

「!! いかんっ!」

 

戦闘の意思を見せていなかった干吉の瞳に暗い炎が灯った。

突如、二人を囲んでいた部位の内、右腕が発光しながら凪に向かって一直線に飛来する。

弾丸めいたそれは恐るべきスピードを伴なっている。

 

「なっ!?」

 

突然の殺意にたじろぎ、反応が遅れる凪。

 

(さっきまでこちらの話を聞き流していたやつがなぜ急に攻手に!?)

 

ここぞとばかりに光を唸らせながら迫る右腕は更に加速し、指を開いて顔面を狙いを定めた。

 

(やられるっ!?)

 

咄嗟に腕を交差させ、防御の体勢を取るがこの間合いでは直撃は免れない。

覚悟を決めて踏ん張ろうとした凪のすぐ横から、掛け声とともに卑弥呼が突撃してくる。

 

「させんぞ干吉!  しゃぁぁぁく熱っ! 日 輪 掌 !!」

 

間一髪、卑弥呼の援護が間に合い、炎を纏った右掌が輝く腕を掴み取って空中で激しく鎬を削る。

明かりのない屋外で、その衝突はまるで花火のように明るく辺りを照らし出す。

バチバチと火花が飛び散り、極光を挟み込みながら卑弥呼が頭上の頭部に向かって文句を飛ばした。

 

「どういうつもりじゃ! 貴様の用は済んだのでは無いのか!!」

「……そのつもりだったのですが……失敬。如何せん、感情が先走ってしまったようです」

 

言葉と表情は一致せず、干吉の表情は暗く濁ったままだ。

 

「まぁ、これからしばらくは顔を合わせる事も無いでしょうから我慢しておきますか」

「干吉……?」

 

凪を見下ろし、独り言のように呟いた。

 

「“消”」

 

干吉が一言唱えると、分散していた彼の体がゆっくりと闇に溶け込むように消え、卑弥呼とかち合った右腕の発光も収まっていく。

 

「お、おい待て! まだ聞きたい事がっ!」

 

――後はご自由にお考えください。この私は敵ではありませんが味方でも無いのですから――

 

次第に朧になっていく干吉を呆然と送る凪と卑弥呼。

取り残された二人は更に増えた謎に思いを馳せる。

 

恐らく全ての裏で手薬煉(てぐすね)を引いているのは干吉で間違いない。

左慈すら手玉にとって奴が何を成そうというのかは分からないが、こちらにとって厄介事が増えるのは確実、警戒が必要だろう。

 

絡み合った謎にことさら頭を悩まされるが、為すべき事は二つに絞られる。

外史創造に必要なファクターの捜索。

そして元凶である左慈の討伐。

このどちら一つでも欠ければ、一刀が願う全ての救済には届かない。

 

 

いまだ騒動冷めやらぬ城内を尻目に、干吉という名の黒幕が一旦舞台を降りていった。

 

 

 

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闇夜に目が慣れなければ見えない程の視界の悪さで、二つの剣閃が交錯している。

一つは赤い軌跡を描きながら正面の相手を狙う、赤色の歪刀“鈴音”

繰り返される斬撃はさながら赤い投網のように四方八方から襲い掛かる。

一度絡め取られれば、なすすべもなく押し寄せる刃の波に晒されてしまうだろう。

 

だがその相手……北郷一刀は、刀の銀光を閃めかせながらこの予断無き連撃を悉く掻い潜り、受け流していた。

多少の被弾こそあれど、それは掠り傷程度のもの。

斬り合ってからわずかしか時間が流れていないとはいえ、いまだ一太刀の致命傷も受けていない見事な立ち回りに切り結ぶ思春の脳裏が驚きに満たされる。

 

(……強くなっていると認めざるを得んな……)

 

以前、模擬戦闘をした時よりも確かに勝る手応えを感じる。

剣速、裾力こそあまり変わってはいないものの、自分の剣が奴まで届かないのは理合の変化だろうか。

見たことの無い、剣を突き立てるような特異な構えは異質でありながらも理に適い、そこから繰り出される迎撃の正確さが群を抜いて高まっていた。

何合も打ち合いを演じ、やっと思春が口を開く。

 

「……大人しく制裁を受けるつもりもないか、北郷一刀」

「……」

「蓮華様を……呉を裏切り、憎っくき魏軍に組みした長坂橋の大立ち回り……。その紛れもない事実をどう贖う」

 

干吉によってもたらされた裏切りの報はあまりに突飛で当初は誰も信じようとはしなかったが、間諜、細作から度重なる事件の報告がなされると紛れもない現実のものとして呉軍に伝染していった。

 

「答えろっ! 北郷!!」

「……思春」

 

その声はあまりにもはっきりと私の耳に入ってきた。

 

「俺は曹操を助けた事に後悔はしていない。あの時の行動は正しい判断だと思っている」

「!! ―――北郷ぉぉ!!!」

 

瞬間的な怒り、駆け引きも何も無い力任せの横薙ぎを叩きつける。

 

「っ!」

「言うに事欠いて正しい判断だと!? 貴様は雪蓮様がなぜ志半ばで倒れたのか、それを忘れたか! あの女は真っ向から戦おうともせず、卑劣にも暗殺を企てた奴だぞ! 助けるなど言語道断、そんな義理がどこにある!」

 

いなせないと判断したのか、北郷は正面から私の一撃を受け止めて見せた。

互いの武器がギリギリと音を立てて拮抗する。

 

「ふざけるな! 彼女を良く知りもしないくせに好き勝手言うのはやめろ!! ……俺には、彼女達を助ける理由があるんだっ!!!」

 

十字に合わさった剣越しに、北郷の鋭い瞳がはっきりと私を捉えた。

 

「――俺には呉の記憶だけじゃなく、魏軍の一員として大陸制覇を成し遂げた記憶も持っている」

「……なんだと?」

 

(いきなり何を言い出すのだ、この男は)

 

「それだけじゃない。俺のなかには蜀に所属し、呉のみんなと力を合わせて魏と天下を争った過去も含め、全部で三つの結末の異なる記憶を持っている」

「……世迷言を……。それで己の所業を誤魔化すつもりか!」

「そうじゃない。もう俺は答えを先送りにしたり、迷って誰かを傷つけないと誓ったんだ。だから、君に本当の事を打ち明けてきちんと向かい合いたい」

 

その瞳には以前のような揺らぎやどこか思いつめたような色は浮かんではいない。一本の芯が通ったような実直な思いが伝わってくる。

意を決するように大きく息を吐いた。

 

「思春。……今ここにいる世界は俺が居た天、“正史”から派生した、“外史”と呼ばれる世界なんだ。厳密には違うけど、ここでは何度も天下を競い合って魏と呉、そして蜀が戦い合っている。けどその結末は一つだけじゃない。さっきも言ったように、雪蓮と周瑜が命を散らし大陸を制した過去もあれば、天下三分を為す過去や、力を合わせ五胡を打ち払った過去もあった」

 

これは妄言なのか―――それは三国志と呼ばれる外史の理

 

「だから過去の記憶を持っているのは呉だけじゃない。魏も蜀もそれぞれが主役となった過去を引き継いでこの外史で活動していたんだ。そしてこの異常現象は決して偶然じゃない。一人の女が故意にそうなるよう仕向けて世界を創っていた。……北郷一刀を殺すためだけの舞台として」

 

これは虚偽の言い回しなのか―――それは演者であれば誰もが知りえないはずの真実

 

「名は左慈。今は袁紹軍の将として偽装しているけど、本来のあいつは観測者や剪定者なんて呼ばれるいわば神仙の類の存在だ。そいつを止めないと世界は役目を失い、跡形も無く崩壊してしまう。俺は、それを止めるために戦わなくちゃいけない」

 

これは………―――それは北郷一刀だけが成しえる使命であり、彼が掲げる途方も無い理想

 

「この決心が着くまでに時間が掛かってしまったけど、出来る事ならやり直させてほしい。……思春。あの時、模擬戦で君に打ち明けた悩みの答えだ」

「……言ってみろ」

「俺の成すべきこととは全てを思いを受け止め、全てを救う事。たとえそれが子供が夢見る虚空の物語であったとしても、俺は求めるのを辞めない、どんな困難であろうと諦めたりはしない……。そして―」

 

触れ合うのは剣か心か、あまりにも非常識な物言いに、私は真剣に聞き入っていた。

 

「まだ俺に挽回の機会があるのなら、孫権とやり直させてほしい。零れ落ちてしまった思いがあるのなら、俺はそれを掬い取って先に進むから」

 

 

 

-8ページ-

 

 

 

「……」

 

何時の間にか合わさっていたはずの剣同士から不快な金属音が消え、辺りには遠くで聞こえる足音や掛け声だけが妙に響いていた。

あまりに予想外過ぎる北郷の弁明は、正直私の理解を大きく超えた妄想にしか聞こえない。

確かに前回の記憶などという不可思議な現象は身を持って体験している。だが、何度も大戦が繰り返されているいうのが気に入らない。

別の勢力で他の女と宜しくしていたというのが気に喰わない。

 

理解ではなく、理性が納得を遠ざけた。

 

「…………大した狂言だ。こんな状況でもなければ、演劇家でも始めるのを薦めたくなるな」

「……思春」

 

わざと小馬鹿にした態度を取って出方を見る。

少しでも矛盾点があれば、即座に問いただし、真実を見極めてみせよう。

 

「随分と壮大かつ、練り込まれた話だが些か疑問点が残るぞ。……なぜ左慈は貴様だけを付け狙う。なぜそやつは記憶を我らに残した」

 

なにより疑問点はそこに尽きるだろう。

世界を巻き込むほどの怨念をなぜこいつが受ける事になったのか。この話の前提条件となるきっかけはどのようにして生まれたのか、一番重要な問いだ。

北郷は一言一言選ぶように言葉を重ねた。

 

「左慈が俺を恨む理由、それはこの外史の象徴が俺だからだ。あいつは破壊を司る剪定者、決められた役目をこなすのが嫌になって何かをするつもりだったらしい。……だけど元の、天の世界で俺と一悶着あったせいで結局は外史が誕生してしまった。それがどうしようもなく憎いらしい」

「らしい?」

「……思い出せていないんだ。味方側の観測者によればいずれは戻るらしいけど、俺には複数の記憶が混在している。そのせいか記憶に霞が掛かっていまいち詳細が分からない。はっきりしているのは魏にいた記憶ぐらいだ」

 

(……よりにもよってそちらとはな……)

 

ぎりっ、と歯をかみしめる。

そうでもせねば目の前の男を今すぐにでも押し倒してしまうだろう。

 

「思春?」

「……ふんっ。胡散臭いが次だ。そいつはなぜ記憶など戻す? どんな得が発生するというのだ」

「……本人に聞かなくちゃ分からないけど、恐らく記憶を残したのは、それで仲違いを起こそうとしたんじゃないか? 実際、魏の話を聞いて思春は俺の正気を疑うくらい拒絶していただろう。左慈はその魏に対する恨みを利用して潰し合いをさせるつもりだったと思う。今は問題が解決したから心配ないけど」

「ふっ、あの曹操が命を救われたからといって、そういつまでも恩を覚えているとは思えんな。以前も奴は雪蓮様の一件があってもこちらを攻めてきただろうが」

「それはそうだけど……今は大丈夫さ。もし手違いで何かあってもすぐに俺が責任を持って押さえるから」

「………………………………すぐ、だと?」

「あぁ、魏の連中は真桜や沙和を除いてほぼ全員連れてきてるからな。もし春蘭なんかが暴れても恋や星もいるし、大事になる前に止めて見せるよ」

 

今、さらりととんでもない事を抜かさなかったか?

 

「……一つ確認したい」

「なに?」

「曹操がここに来ている……いや、それと同様に趙雲や呂布がいるとは冗談にしても随分とお粗末ではないか?」

「えっ? 別にそんなわけじゃ―――」

 

心底意外な、みたいな表情を浮かべて眉を顰めている。

 

「一気に信憑性が薄れたな」

「そんな!?」

「とはいえ、一度裏切った貴様を信頼しようとは最初から思っていないから関係は無かったな。余計な質問だった」

「……どうすれば信じてもらえるんだ」

「……」

 

突き放した答えを聞いても北郷の目は死んでいない。

道を塞がれ、こちらの出方を待つのみの段階にあっても、揺るがぬ信念が確かにそこにあった。

 

(何かあったのは確実だな……)

 

平原を発つ前とは比べ物にならないほどの精悍さは一昼一夕で身に突くものではない。

この眼、最後に見たのは前回の―――

 

「……思春?」

 

……………。

 

………………………私までが先延ばしにしては元も子もないな。

 

 

 

-9ページ-

 

 

 

「………………構えろ、北郷」

 

さっきまでの攻防が嘘のように、静かに剣を離して距離を取る。

 

「貴様の事情と信念……。それを信じさせたくばこの私に打ち込んで来るがいい。一太刀浴びせれば貴様の勝ちだ。蓮華様へのお目通りを許そう。しかし失敗すれば、“死”、あるのみ。……どうだ? 受ける覚悟が貴様にあるか」

「もう一つ条件を加えてくれるなら、喜んで受けるよ」

「はっ! 命乞いか? やはり貴様は―」

「君に認めてほしい。……俺達は二人揃って、彼女の側にいるべきだろう。でなきゃ彼女が悲しむ。そこだけはきちんと覚えているから」

「構えろ」

 

『鈴音』を体の後ろまで回し最大の一撃を加えるべく、腰を大きく落とし、体を捻りこむ。

 

(武人として我が前に立つというのなら、見事私を越えてみよ!)

 

「分かった」

 

北郷は一言告げて鞘に剣を収め、またも見たことの無い構えを取った。

同じように上半身を絞り込む体勢、違うのは足回りと構えた武器、納刀したままで静止している。

 

(……本当に、しばらく会わぬうちに変わったな。北郷)

 

奴から放たれる、剣気は徐々に大きくなっていく。

 

「呉軍が将の一人、甘興覇……参る」

 

猛禽の四足獣のように身を屈め、前傾姿勢を取る。

 

「――――摩利支曳娑婆訶…… 天清浄…… 地清浄…… 人清浄――――六根清浄」

 

以前聞いた精神集中の祝詞を口ずさみ、柄を握り直す北郷。

 

「タイ捨流、北郷一刀。……迎え撃つ」

 

僅かに鯉口から顔を出す刃が建物から漏れ出す光に反射してキラリと光る。

覇気を伴った返事に微塵の躊躇は感じられない。依然、騒ぎの音は聞こえども二人のいる渡り廊下だけは静寂に支配されている。

 

(さあ、北郷! 余計な言葉はもはや不要! 妄言の数々を一撃をもって私に信用させてみろ!)

 

機を狙い、更に体を沈めていく。

僅かに頬を撫でる夜風を感じながら時間がゆっくりと流れ、やがてどちらとも無く双方の体が動いた。

 

全身のばねを活用し、振り上げられる剣と神速を持って鞘走る刀。

交錯するは赤い閃光と銀の流星。

 

「っ!!」

 

その声は誰のものか。

 

答えは一瞬の合間を挟み、夜闇の狭間に如実な結果を映し出す……。

 

 

 

<つづく>

-10ページ-

 

 

 

一刀から、魏呉蜀の三つの記憶を持っていると聞いた思春。

聞かずにはいられないことがあった。

 

「して北郷……関係を持った女は何人だ」

 

数人までは許そう。なんなら十人以上でも許してやってもいい。

だが制裁は受けてもらうが……な。

 

 

一刀は苦笑しながら答えた。

 

 

 

「五十ニ人」

「殺す」

 

―ビュンッ

 

「まままま、待て待て! 話せば分かる!!」

「分かるかこの浮気者! わ、私に子を宿しておきながらその所業……その腐った性根叩き斬ってやる!!」

 

―ビュンッ

 

思春の本気の一振りが一刀の前髪を数本切っていった。

はらりと自分の目の前を流れていく前髪数本を見て、背中に冷たいものが流れる。

 

 

「い、今首狙ってたよね!? 避けてなかったら髪じゃなくて首が飛んでたよねっ!?」

「黙れ浮気者。蓮華様という御方がありながらもあちらこちらに胤を蒔く貴様はもはや万死に値する」

 

 

一刀の首筋に鈴音を添え、あとは刃をひくだけ―――

のところで一刀が思春のことを熱い目で見ていることに気づく。

 

「? なんだ」

「いや……子を為したのは呉の娘たちだけだよ?」

「なっ!!」

 

思春は驚いた。この種馬がまさか呉でしか胤を残していなかったとは。

いぜん刃をあてたまま、一刀に問う。

 

「……呉で一番好きな者は誰だ」

「思春――って痛い痛い!! 切れてる切れてる!!」

 

恥ずかしさのあまりつい力んでしまった。

 

「ふ、ふんっ。浮気のことはこれに免じて許してやらんでもない。―――ただし」

 

尻もちついている一刀と目線を合わせ、言った。

 

 

 

 

 

 

「この世で我が子と逢わせるんだ。いいな?」

 

真っ赤になりながらも子作りをせがむ思春、凄く可愛いと思った北郷一刀1○歳の春。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※このお話は本編と関係ありません※

 

 

 

説明
第二十九話をお送りします。

―曹操と孫権、ご対面―

開幕
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コメント
namenekoさん>す……鋭い! いやいや!それはどうかな!(;´д`)(よしお)
南海覇王と清王伝家が出てきたってことは一刀の新しい刀の恋姫無双に”アレ”があるのか?(VVV計画の被験者)
無双さん>悶えて頂けて嬉しいです!(よしお)
最後で悶えましたww カワエェ・・・///(無双)
ヒトヤ犬さん>わたしだったら覚えられないですね(キリッ(よしお)
2828さん>ないんです(´;ω;`)ごめんよー(よしお)
よーぜふさん>すんません……でも思春さん可愛いのは同意です!(よしお)
FALANDIAさん>ターンエーですかな!?(よしお)
320iさん>純粋な愛ですね。美しいものです……。(よしお)
そんな長い伝言覚えれるか!干吉はバラバラの実を食ってたのか(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
ちょw最後w関係ないのか?!wwww(2828)
えー・・・関係あってほしかった・・・あまりにもししゅんさんかぁいいからw (よーぜふ)
一刀の謳い文句、アリスマチックで見た事ありやすぜ! しかし、女体化しているから声は違うんだろうけど…、五体分割はどうしても『我が世の春がキター(゜∀゜)ー!!』がフラッシュバックしてしまう…www(FALANDIA)
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