『結晶の船・クリスターナ』〈前編〉
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『結晶の船・クリスターナ』 作者:氷中冴樹

   結晶の船・クリスターナ〈前編〉

 

 

    クリスとキアラ

 

 あたしを、起こしたのはいつのものようにキアラだった。

 彼女は、優しく歌うような声であたしの目を覚まさせる。

「おはよう、クリスターナ」

「おはよう、キム。でも、前から言っているでしょう、あたしのことはクリスって呼んでって……」

 いつもと同じあたしの答えに、キムことキアラは、これもまたいつもと同じように、困ったような表情を浮かべる。

「クリスターナ、いつも言っているでしょう?」

「キムはあたしに、テレパスで話をしている。あたしが言うように、あたしの名前を親し気に省略して呼んでいると、もしかして無意識の内に他の時でも、その親し気に省略した名前を使ってしまうかも知れない。それが、困るんでしょう?」

「そうよ。あなたの声は、私以外の誰にも聞こえないから、あなたが私のことをキムと呼んでも、何の問題もないけど……」

 不便なものだ。毎度のことながら、あたしは小さくため息を吐いた。

 精神感応会話と呼ばれるテレパスは、自分の考えを直接個人や、不特定多数の人に伝えることができる。でもそれは、音声を使った普通の会話に比べて、余りにもストレートに思っていることを伝えてしまう。

 キムほど自分の考えを整理して、用心深く相手に伝える術を学んだテレパシストでも、何かの拍子に親し気な言葉を使ってしまうことはある。なまじ、正確に相手に伝わるテレパスだけに、知られたくない言葉を日頃から使うことは、なるべくしない方がいい。

 もちろん、そんなことはわかっている。わかっていても、あたしはキムに自分のことはクリスと呼んで欲しい。

 それは、自分のことを理解してくれる、唯一の人間に対する、あたしの最大の親しみの表現なのだ。だからあたしは、わかっていながら、毎回のようにキムを困らせるところから、二人の会話を始める。

「それで、今日は何の用なの?」

 毎回のように繰り返される、不毛な会話を早々に切り上げるために、あたしは話題を変えた。これは、目覚めたあたしの機嫌がいい証拠だった。

 それを感じて、キムの表情が少し柔らかくなった。彼女を困らせることは、決してあたしの本意ではない。でも、どうしても困らせてしまう結果になるのは、言わばあたしの性癖みたいなものだ。

 それに付き合わされる彼女にとっては、実に面倒なことだとは思うし、反省もしている。けど、こればかりはどうにもならない。

「感じない?」

 キムには珍しく、説明を省く口調であたしに尋ね返した。

 あたしは、改めて自分の体内の動きに耳を済ませた。

「どこかへ出かけるつもりね、動力が入っているわ」

 あたしの答えに、いささか呆れたような口調でキムは言った。

「自分のことなのに、そんなに感じないものなの?」

「感じようと思わなければ、どうでもいいことよ。だって、あたしの体はあたしの自由にはならない。動かすのは、あなた方ですもの」

 あたしの言葉は、少なからずキムを傷付けたようだ。

 彼女の沈黙が、あたしには辛かった。比較的気分の良かったあたしは、今回は素直に謝った。

「ごめんなさい、そういうつもりじゃ……」

「わかっているわ。私の方こそ、言葉が足りなかった……」

 優しい。この、キアラ・デニスという女性は、本当に人を思いやる、優しい心根の人だ。こういう人が、自分を扱う人達に混じっていてくれるということは、本当にうれしいことだった。

 あたしは、再び話題を変えることにした。

「張り切っているわね、ブラット艦長。どう、今回の休みの間に何か進展があった?」

 この問いは、たちまちキムの感情に反応した。

「意地悪ね、私の気持ちを知っているクセに!」

「それを言うなら、艦長の気持ちを知っていながら、あなたはどうなの?」

 あたし、つまり結晶装甲艦クリスターナを操るラット・ブラット艦長が、艦隊司令の副官を勤めるキムことキアラ・デニスに惚の字のことは、恐らく艦隊で知らない者はいないはずだ。

 そして、彼が言わば連戦連敗。このキムにフラれ続けていることも、まさに公然の秘密となっていた。

 艦長は、海賊艦隊の頭領もしていた荒くれ男で、その厳つい顔と大柄な体格は、彼の性格が外見を裏切らないことを証明していた。でも、こと女性問題になると、彼の見てくれは、完全に見かけ倒しになるようだった。

 どうやら今回の休みの間も、彼はキムをデートに誘うことには、成功しなかったようだ。もちろん、あたしはキムが彼の誘いに応じない理由を知っていた。知っていて、あえてその意地悪な質問をしてみたのだ。

「いい人よ、彼は。でも私は……」

「若き総司令官、アマド・カルキがいいって言うのね」

 表情は変えないまま、心の中を赤く染めるこのテレパシストを見ながら、あたしはため息を吐いた。

 彼女の直接の上司、アマドはあたしにとっても特別の存在だった。

 もともと、彼らグラン・フォースと名乗る連中を倒すために、あたしは特別に建造されたはずだった。ところが、先手を取ったのはゲリラ集団のグラン・フォースだった。彼らは、あたしを建造した銀河連邦軍の軍事要塞を破壊するために、あろうことかそこで建造されたばかりのあたしを、乗っ取ってしまったのだ。

 最新鋭の、それも特別仕立ての船を乗っ取られた上、その試運転で、最前線の軍事基地を壊滅させられた連邦軍の面子は大いに潰れてしまった。この時に、あたしの乗っ取りと要塞の破壊を指揮したのが、若き連邦地理学院の学士員、アマドだった。

 そして、彼がその計画に必要だと指名したのが、このキアラだった。

 キアラは、他のテレパシストと同じく、鉱脈の奥深くで危険な採掘の仕事をさせれていた。他人の心を読むこともできるテレパシストは、ここタスクでも不当な扱いを受けていた。もっとも、その扱いも、他の連邦星域に比べれば、はるかにマシだったけど。

「やめときなさい、あの男はダメよ!」

 あたしは一方的に決め付けた。

 それに対して、キアラは心を閉ざして答えた。

「いいわ、この話はここまでにしましょう。それで、今度は何をするの?」

 出航準備までの短い時間で、あたしはゲリラ艦隊総司令の副官から、今回の出航の理由を知ることができた。

 船自身であるあたしは、もちろん船内に入力された情報から、どこに行くのかとか、どれだけの人や物が積み込まれたかを知ることはできる。でも、それが、結局なんのために、どうやって行なわれるのか、あたしを操る人、最終的にはすべてを計画した人の考えを知らなくては、理解することはできなかった。

 しょせん、あたしは人の意のままに動く船に過ぎない。例えや比喩ではなくて、ここにこうしてあたしの心があることを知っているのは、いま目の前にいる、キアラ・デニスだけだと思う。

 あたし自身、彼女を知るまでは自分に心があるなんて、思いもしなかったし、まさか人と話ができるなんて考えもしなかった。なぜ、あたしだけにそんなことができるのか?他の船にはできないないのか?今のところ、あたしにはわからない。

 ただ、あたしが特別だということ。変位相クリスタルという、特別な結晶体で装甲が作られていることが原因じゃないかとは、自分でも思っている。

 変位相クリスタルの原石というのは、銀河全体を見渡しても、産出量が極めて少ない、珍しい鉱石なんだそうだ。しかも、その加工技術がめちゃくちゃ特殊なために、船一隻分の装甲に使うためには少なくとも数十年という年月が必要らしい。

 その鉱石自身に、どうやらあたしの心のかけらのようなものが、宿っていたみたい。それらを、精製し加工して規則正しく並べて張り合わせた時に、たぶん偶然にあたしという意識が生まれたんだと思う。

 そのせいだろうけど、あたしに石だったという自覚はない。初めて意識を持った時から、あたしはクリスターナという船だった。だからあたしは、自分のことを船だとしか思っていない。

 でも、あたしにはほとんど、自分自身である船を動かすことはできない。駆動のための動力系や、操縦のための回路。それらを操作して、あたしの体を動かすのは、人間だけに可能なことだった。

 生まれた時から、あたしは自分では動くこともできない、一人ぼっちだった。いや、一人ぼっちのはずだった。そして、誰にも自分がいることを知られることなく、いつかはどういう形にしろ、スクラップとして砕かれてしまうはずだった。

 それが、話のできる人間。テレパシストのキムと出会った時から、少し変わった。少なくとも、あたしは別の誰かにここにいることを知ってもらえたのだ。それだけでも、大変なことだった。

 

 

    シルビアーナ

 

 ところが、今回キムから聞いた話は、それだけでは終わらないかも知れないことを、あたしに予感させた。

「あたしに、姉妹ができた!?」

「ということなのよ。連邦軍は、あなたと同じ変位クリスタル装甲の、高速戦艦を完成させたらしいの」

「でもそれは……」

 あたしは、不覚にもキムの言葉に狼狽えていた。

 自分に兄弟か姉妹、少なくとも同じ仲間がいる。これは、驚きだった。

「そう、変位相クリスタルは産出量が少ない上に、加工技術を持つ者がこれまた極めて少ない。その数少ない職人は、アマド司令があなたを奪った時に、ついでに救出して、二度と連邦に協力しないことを約束して、故郷に帰ったわ」

 そうなのだ、あたしの元である変位相クリスタルを加工する職人は、こぞってこの貴重な鉱物を軍事利用することに反対して、むりやり作業させた連邦と軍のやり方に反発していたのだ。そんなことで、あたしが反連邦のグラン・フォースに奪われると、ついでに連邦軍からも連れ去ってもらって、二度と変位相クリスタルを軍事利用しないことを条件に、解放してもらったのだ。

 彼らは誇り高い職人で、仮に権力で脅迫したとしても、そう簡単に協力するはずがなかった。しかも、絶対的な数の不足と、原料の不足はいかな銀河連邦をもってしても、補いようがないはずだった。

「それが、どうして?」

「どうやら、人工の変位相クリスタルを開発したみたいね」

「人工の?」

 あたしの気持ちは、複雑だった。

 自分の仲間が生まれたことは、素直に嬉しい。でもそれが、人工のものとなると、果して手放しで喜んでいいものかどうか……。

「ともかく連邦軍は、あなたを上回る規模と性能を、高らかに宣伝しているわ」

 あたしの胸に当然の、嫌な予感が芽生えた。

 それがわかっているのか、キムの表情も冴えなかった。

「そう、目的はあなた、つまりクリスターナの撃破よ」

 あたしは、何も答えられなかった。

 せっかく、この世で初めての仲間が生まれたと思ったら、それは自分を破壊することが目的とは。つくづく、ツイてない人生だ。

「それで、その物騒な兄弟だか姉妹だかの名前は?」

「銀色の貴婦人、シルビアーナよ」

 こうして、あたしは彼女の名前を知った。知ったからどうなるのか、自分でもまったくわからなかったけど。

 慌ただしい出航準備が終わって、あたしはタスクの星域を後にした。

 この辺で、あたしを使うグラン・フォースとタスク高原と呼ばれる星域、それに銀河連邦の関係を整理した方がいいのかも知れない。

 タスク高原というのは、辺境銀河星域で特殊な鉱石が採れることで知られる、いくつもの小さな恒星と惑星が入り交じった星域の総称。銀河中央部から見ると、真ん中が盛り上がった台形のように見えるので、高原なんて言葉が付いたみたい。

 どうやら、大昔に二つ以上の恒星系が何万年もかけて、衝突して行った成れの果てらしい。その時の衝撃と特殊な融合が、この場所の惑星や衛星に、銀河でも珍しい鉱石をたくさん作り出すことになったみたい。

 とにかく、いくつもあるここの太陽は小さすぎて、自分の力では惑星を公転させることもできない。そんな小さな太陽達は、寄り添うようにいくつかが集まると、お互いの力を使って不規則な回転を繰り返しながら、輝いている。

 その不規則な太陽達の回転に振り回されて、惑星と衛星は、これもまたてんでバラバラの軌道を描いて動き回っていた。それが、狭い場所にひしめいている。ここで生活する者でも、自分の居場所に迷うことは当り前、うっかりすると遭難すら珍しいことじゃない。

 こんなことだから、つい最近まで正確な地図すらないような状態だった。

 それでも、ここが銀河連邦の直轄星域になっているのは、さっきも言ったみたいに、ここで採れる貴重な鉱物資源のせいだった。その中には、極めて少ない変位相クリスタルも含まれていた。だから、あたしもここで作られたのね。

 銀河連邦は、長い間ここの資源を独占していたみたい。だけど、こんな場所だから、まともな人間が生活するのは、容易なことじゃなかった。

 あまりに開発する人手が足りないので、連邦は最初ここを流刑地にして、犯罪者達に開発をやらせていたくらいだった。でも、ここの希少鉱物は、うまく発見すれば莫大な財産を生み出したのね。

 一攫千金を夢みて、あるいは、銀河文明の社会からこぼれ落ちて、色々な理由で様々な人達が銀河中から集まって来た。そして、長い長い時間をかけて、街を作り社会を作り上げて行った。

 途中まで、銀河連邦は彼らの街作りを積極的に支援した。鉱物資源の開発には、ある程度整った組織がどうしても必要だったから。

 でも、それが国と呼べる単位まで成長することは許さなかった。この星域の収入は、銀河連邦の貴重な財源だったから。別の組織が、それを支配することは許せなかったのね。

 最初は穏やかに、連邦に自治を認めてもらおうとした人々に対して、連邦は武力弾圧という形で応えた。完全に、この場所を連邦だけの鉱物採集地にしておきたいというのが、その理由だったみたい。

 長い時間をかけて、もちろん考えられないような犠牲も払って、この場所に根付いた人達にとって、それは連邦の手酷い裏切りにしか見えなかったのだと思う。

 自治を求める人々は、グラン・フォースという武装組織を作り、銀河連邦の武力に対抗した。もちろん、正面からの戦いでは勝負にならなかったけど、この場所が大軍で制圧することが不可能な環境だということが、グラン・フォースには有利に働いたのね。

 皮肉なことに、争っていながらも、連邦はここでしか採れない希少鉱物がどうしても必要だった。グラン・フォースも、ここでの生活を維持するためには、連邦に資源を買ってもらう必要があった。

 もちろん、闇ルートで莫大な利益を上げることは可能だったけど、連邦もバカじゃないから、それはこの星系の外で厳しく取り締まったわ。その封鎖網を撃ち破って闇取り引き、つまり密輸をする連中が即ち海賊と呼ばれる人達だった。

 そして、これも当然なんだけど、この海賊達はグラン・フォースにとって、もっとも貴重な戦力だった。あたしのことを可愛娘チャンと呼ぶ、この船の艦長もそんな海賊の頭領の一人だった。

 そんなこんなで、タスク高原は奇妙な膠着状態に入ってしまった。表面上は自治と独立を巡って、連邦と抗争しているはずなんだけど、実際には連邦と取り引きしている関係で、大規模な武力衝突は発生しない。

 もちろん、連邦も過激な人ばかりじゃないから、この間になんとかこの星域の安定を計ろうと、色々と活動もしていた。それが、連邦側の必要以上の武力介入を抑えてもいたらしい。

 当然、そういう人達には、裏からグラン・フォースの援助や、働きかけがあるのも事実だった。グラン・フォースでも、武力による連邦からの完全独立ではなく、緩やかな自治権の確立を目指そうという人達も大勢いた。奇妙な膠着状態は、その人達に工作や運動の時間を与える結果になったのね。

 ところが、この安定が一気に崩れる事態が起こった。

 連邦の過激なグループと、連邦軍の一部が協力して、とんでもない船を建造することに成功したの。それがあたし、クリスターナだった。

 あらゆる光線やエネルギー波を透過屈折させて、外へと弾き出してしまう変位相結晶板で全身を覆うという発想は、独創的だったけど、不可能なはずだった。理由は、さっきも言ったみたいに、この原料となる結晶石が、致命的に少なかったから。

 この計画の推進者達は、驚異的な行動力で、連邦首脳と軍部を説得したのね。とうとう、これまで連邦が集めた、ほとんどすべての結晶石を利用する許可を手に入れてしまった。

 それが成功したのは、今後、このタスク高原から産出する結晶石を、すべて連邦のものにするという、甘いささやきだったみたい。確かに、あたしという船が完成してグラン・フォースが壊滅すれば、それも夢じゃなかったと思う。

 軍部には、敵のあらゆる攻撃を跳ね返し、高速で移動攻撃が可能な船を手に入れるという、悪魔的な誘惑があったみたい。軍隊というものの性質上、この誘惑に勝つのは難しかったでしょうね。

 あたしの全身を覆う、半透明の薄緑に輝く結晶板は、単に攻撃を跳ね返すだけでなく、独特の結晶振動で次元駆動力を発生させる。だからあたしには、他の船のように次元駆動力の発振口という、お尻の穴ような無粋なものは付いてない。

 自分で言うのもなんだけど、クリスタル・グリーンに輝くあたしが暗黒の宇宙空間に浮かぶ姿は、なかなかのものだと思う。

 しかも、あたしは瞬間的に、あらゆる方向へ駆動力を切り替えることができた。ほとんどの船の最高出力は、次元跳躍航法を別にすれば、限りなく光速に近づくことで競っている。でも、それはあくまでも前進加速に関してだけで、方向転換のためには、どうしても減速しなくてはならない。

 あたしは、ほぼ最高出力・光速の九十九・九九七パーセントで、あらゆる方向への転身ができる。こんな船は、この銀河系であたし以外には有り得ない。

 つまり、あたしは敵のあらゆる攻撃を避けて、敵の中枢部へ接近し、攻撃することができるという、まさに夢のような船なのね。

 これはまさしく、対グラン・フォース用の最終兵器となるはずだった。ゲリラ的な戦闘集団を相手にするためには、その中心となる部分を片っ端から破壊することが、地道でも、最も効果的な作戦のはずだもの。

 ただ問題だったのは、この船、つまりあたしを建造するための特殊な原料と、その原料を加工する特殊技術者が存在する場所。何しろ、どちらもタスク高原からは切り離せない。このことに、計画の推進者の一部が、不安を口にしなかった訳じゃなかったみたい。

 どう考えても、自分の家の庭先で、自分を攻撃する最強の兵器を作られているのに、指を喰わえて見ているとは思えないもの。実に、もっともな不安だったと思う。

 タスク高原の入口に、連邦が海賊退治と武力弾圧の拠点として築き上げた、小惑星を改造した大きな要塞基地があったわ。彼らは、結局それを利用することにしたのね。

 そこに原料と技術者達を集めると、艦隊まで持ち出して、厳重な警備を敷くことにしたの。ややこしいタスク高原の内部ならともかく、広い宇宙空間なら、武力に優る連邦軍がグラン・フォースに負けるはずはないと、考えたのね。それは、当然のことでしょう。

 でも結局、連邦軍はあたしを奪われた上に、要塞基地まで破壊されてしまった。失敗の原因は、色々あったのだと思う。

 ただ、少なくともあたしが素直にグラン・フォース、と言うよりアマド率いるブラット艦長達に乗っ取られたのは、連邦軍の技術職人に対する態度があったことは確かね。

 どうも、あたしを作ることを計画した連邦の軍人達は、辺境銀河の住人を人間だとを思っていなかったみたい。だから、その集め方も力づくで徴用した挙げ句、ロクに休みも自由も与えずに、ひたすら完成を急がせるというものだった。

 技術職人として、異常にプライドの高い人達だったから、あたしの作成には手を抜かなかったわ。でも、その過程で無意識の内に、連邦に対する不平不満や、恨み言を口にしていた。

 特殊な配列で並べられるに従って、あたしの意識は覚醒を始めた。覚醒の合間に、あたしの意識に吹き込まれ続けたのは、そんな連邦に対する恨み節の繰り返しだった。あたしは、連邦に対する恨み辛みを、子守歌替わりに成長した赤ん坊だった。

 まったくのところ、完成に近付くに連れて、完全な意識を持ち始めたあたしから見ても、連邦兵士達の技術職人達への態度は酷いものだった。生まれた時には、あたしは連邦嫌いになっていた。

 ムリもないと思う、だって技術職の人達はみんな、あたしの生みの親みたいなものなんだから。

 だから、技術職人の手引で、まんまとあたしに乗り込むことに成功したアマド達を、あたしはむしろ歓迎したわ。しかも、それはより以上の喜びを、あたしにもたらしてくれた。

 作戦を指揮したアマドの副官、キアラという娘と、あたしはテレパスで話をすることができた。生涯一人ぼっちを覚悟していたあたしにとって、これは驚き以上の喜びだったわ。

 

 

    アマド・カルキ

 

 そうそう、このアマドという若い、本来は銀河連邦に属する地理学院の学士員が、なんで連邦に対立するゲリラ部隊の指揮官になったのか?あたしも不思議だったけど、そこにはあまりにバカバカしい、笑い話みたいな理由があったのね。

 もっとも、そんなことでもなければ彼みたいな人間が、いくらゲリラの艦隊とはいえ、指揮官になれるはずもないとは思うけど……。キムから聞いた話と、あたしの記録装置の中の話をまとめると、それはこういうことみたい。

 アマド・カルキは、連邦の地理学院からこのタスク高原の地図を作るために派遣されたのね。確かに、この星域にはロクな星図はおろか、惑星表面の地図すらそろっていない有様だったから、それはとても有益なことだった。

 政治的には中立な立場を取る地理学院の申し出を、グラン・フォースも、正確な地図が自分達にも必要だということで受け入れたわ。でも、そこで派遣されて来た、このアマドという青年には、相当問題があったみたい。

 というのも、こんな武力紛争地帯の地図を作ろうなんて物好きは、あんまりいるものじゃない。こんな未開の惑星を隈なく探査して、地図を作ろうっていうのは、それだけで命知らずの冒険に等しいことだもの。それを、アマド・カルキは一人で志願して認められたのね。

 どうやら、彼には地理学院には居たたまれない理由があったみたい。まァ、それがどういうことなのか、あたしにはわからなかったけど、この船に乗り込んでからの言動を見ていれば、ムリもないと思える。

 不健康そうに生白く痩せているクセに、人を見下したような態度で、説明抜きの結論だけを口にする。その外見と対象的な話し方が、まるで聞いている方をバカにしているとしか思えないの。

 と言うより、どうやら本気で、彼はほとんどの人間を自分よりもバカだと、思っているみたい。

「そうじゃないのよ、あの方は自分の考えを口にして説明するの苦手なだけなの!人と会話するということに、慣れてらっしゃらないだけなのよ……」

 そう言ってキムは弁護するけど、あたしにはとてもそれでだけとは信じられない。

 だいたい、人間同士が会話するっていうのは、最低限のコミニュケーションなんだから、それが苦手だってことは、本人に欠点があるってことじゃない?あたしがそう言ったら、キムは怒ってしばらく口を聞いてくれなかった。

 まァ、キムが彼をどう思っているかは置いておいて、この口の悪い不健康そうな青年がゲリラに加わった理由というのが、なかなか笑える。

 キムとアマドが知り合ったのは、連邦軍の海賊狩りが原因で発生した、鉱山の落盤事故だったわ。キムのテレパス能力と、アマドの地理学者としての知識で、二人は何とか脱出することに成功したのね。

 ところが二人が地表に出てみると、周りは完全に連邦軍が包囲していて、鉱山に逃げ込んだ海賊達は絶対絶命の状態になっていた。

 何度か、この海賊達に煮え湯を飲まされた連邦軍は、グラン・フォースとの暗黙の了解を無視して、鉱山ごと攻撃したわ。鉱山を攻撃するということは、そこで働く一般人を巻き込むということだから、これにはゲリラに無関係な人達も怒ったのよね。当然だと思うけど……。

 海賊達は降伏する覚悟を、決めたらしいわ。なんと言っても、鉱山で働く人達は彼らの同胞な訳だし、この人達を巻添えにはできなかったのね。

 ところが連邦軍は、というよりこの時の艦隊指揮官は、そうとう過激な人物で、この機会に自分達の力を見せ付けようと思ったみたい。海賊の降伏信号を無視して、ゲリラが潜んでいるという理由で、鉱山の一斉攻撃を命じたの。

 この時、どういう訳か、アマドだけはこの無謀な攻撃を予測していたのね。彼は海賊の頭領に申し出て、相手が攻撃する直前におとりの海賊船、鉱山の連絡船に簡単な偽装をしたものだけど、それを発進させたの。

 てっきり、我慢できなくなった海賊が逃げ出したと思った連邦の艦隊は、それに集中攻撃をかけたわ。その隙を利用して、アマドは鉱山の一般人も一緒に海賊船で脱出した。

 当然、だまされたと知った連邦の指揮官は怒り狂って、海賊船に矛先を向けた。ところが、この時に鉱山の爆発性の鉱脈に仕掛けられた爆薬が爆発したの。もちろん、鉱山で働く人達が、アマドの指揮に従ってやったことだったわ。

 連邦軍の艦隊は、地表の爆発に巻き込まれて、散々な目に遭った。しかも、かろうじて混乱を何とか抜け出した彼らの目の前には、海賊艦隊が待ち構えてていた。自分達の仲間も一緒に、鉱山まで破壊しようとした連邦軍に、彼らは怒りしか感じていなかった。

 この時の海賊の頭領が、今のあたしの艦長、ラット・ブラットだったの。彼は、この時以来、アマドの頭脳には全幅の信頼を置くようになったわ。他の欠陥は、承知の上でだけど……。

 結果的に、連邦軍はこのタスク高原で武力衝突が始まって以来、最大の損害を被ってしまったのね。この不名誉な記録に、連邦軍は自分達の仲間の無謀は棚に上げて、ただただ激怒していたみたい。そして、自分達をこんな目に遭わせたのが、戦闘には素人の地図作りの学士員だとわかると、そのその怒りは頂点に達したようね。

 連邦軍は裁判抜きで、アマドを連邦の第一級犯罪者として、指名手配してしまった。これで、彼が連邦の地理学院に戻る道は完全に閉ざされてしまったのね。

 帰る場所を無くしたアマドは、仕方なくグラン・フォースに加わったみたい。その時に、彼の能力を認めて、いきなり艦隊指揮権を与えたのは、評議会議長のフェルナンておじさんだった。

 今のグラン・フォースは、ドルコイって人が総帥をやっているんだけど、この人、強硬に完全独立を主張して過激で独裁的なもんで、あんまり評判は良くないみたい。その総帥に対して、フェルナンっておじさんは、もう少し穏やかに、連邦に自分達の意見を認めさせようと考えているらしいの。

 でも、総帥の独裁制を執るグラン・フォースでは、このおじさんがいくらまともな意見を言っても、なかなか受け入れてもらえない。グラン・フォースとタスク高原の将来に、本気で不安を感じていたこの評議会議長は、自分の発言力を高める手段を考えていたんでしょうね。

 そこに、地図を作るためにやって来て、帰るところを無くしたアマドって学士員が現われた。彼の作戦と指揮の能力に目を付けたおじさんは、ドルコイ総帥の反対を押し切って、この青年に艦隊指揮の権限を与えてみたの。評議会の議長には、それくらいの力はあったのね。

 もちろん、頭に来たのは、自分の意見を無視された総帥。彼は、その頃大問題になっていた大要塞と、自分達を攻撃する最終兵器、つまりあたしの問題の解決を議長とアマドに命じたの。

 戦力的には、どう考えても無謀だったみたい。でも、アマドは引き受けた。というか、引き受けるしかなかったのね。フェルナンのおじさんも、援助は惜しまなかったみたい。

 おじさんは、ゲリラに知り合いのいないアマドに、海賊ブラットとその一味を部下として与えたわ。地図作りの学士員の頭脳に惚れ込んだ、ブラットとその仲間くらいしか、彼の言うことを聞く人はいなかったでしょうね。

 そして、何よりもあたしにとって決定的だったのは、アマドの希望で鉱山で働いていたキアラを副官とすることを認めたことだわ。人の心が読めると言われて、辺境の人々にも避けられているテレパシストが、ゲリラとはいえ軍の指揮中枢に入るなんて、異例中の異例だったみたい。

 こうして、自分の部隊を持ったアマドは、事前に計画を練った上で、厳重に守られた要塞を外から攻撃することは簡単に諦めてしまった。その代わり、内側から、それも完成したばかりのあたしを使って破壊するという、とんでもない作戦を考え出したの。

 確かに、これなら潜入するだけで、武器を持ち込む必要ないわ。だって武器はあたし自身を使えばいいんだもの。潜入しても、怪しまれる確率はうんと低くなる。

 さらに、一度にたくさん潜入しないで、少しづつ仲間を送り込んで、嫌々作業させられている技術職人達と連絡を取らせたの。

 こうして、頃合を見計らって、ある要塞の休日。試運転だけを残してあたしが完成したこともあって、兵士達も油断してたのね。彼らは堂々と、作業員のフリをしてあたしに乗り込んで来たの。

 あたしも、最初は驚いたわ。だって、見ず知らずの連中が、いきなりあたしを動かしたんだもの。でも、大きな体で厳つい顔のブラットが、優しくあたしに語りかけると、そう悪い気はしなくなった。

「可愛娘チャン、あんたにこの場所と、この連中はふさわしくない……」

 あたし自身ずっとそう思っていたから、ここから逃げ出せるなら、それに越したことはなかった。

 しかも、アマドはあたしの生みの親達、つまり技術職人をすべて乗せてくれたの。これも、最初からの計画だったみたい。

 彼は準備ができると、慌てる造船ドックの中の連邦軍を尻目に、悠々とあたしを発進させた。試運転だけを控えていたあたしの性能を、あたしを作らせた人達は、自分達自身で思い知らされることになったわ。

 ところで、あたしを乗っ取ったこのアマドという青年。キアラが好意というよりは、崇拝している生白い学士員を、あたしは今でも好きになれない。弱々しいクセに気取っているし、人をバカにしたような態度は目に余るもの。

 でも、あたしの建造に携わったすべての技術職人を助け出して、しかも、今後変位相クリスタルの軍事利用には協力しないという約束だけで、解放してくれたことには感謝している。

 グラン・フォースの総帥、ドルコイって人は、同じことがまた起こるかも知れないと言って、技術職人を収監するように命じたの。でも、アマドはそれにトボケて見せた。

「グラン・フォースは、タスク高原の自由と自治を目指す組織でしょう?それが、どうして同胞を監禁する必要があるんですか。心配しなくても、今後何十年かは、同じ船は作れませんよ」

 彼の言葉に、総帥は頭から湯気を立てそうなほど怒ったけど、どうすることもできなかったわ。

 アマドの言っていることは正しいし、技術職人達は解放された後だったから、どうしようもなかったのね。オマケに、その人達からこの快挙を聞いたタスクの人々は、口々にグラン・フォースの偉業を称えてくれたわ。

 これがきっかけで、アマドはグラン・フォースの、艦隊司令官に任命されてしまったって訳。

「ゲリラ艦隊の司令官?なんで、こんなことになったんだ!?」

 あたしのブリッジで、一人で頭をひねる生白い地理学院の学士員の隣りで、彼の副官に改めて正式に任命されたキアラは、澄まして立っていた。でもあたしは、彼女がおかしくて笑いそうになるのを、必死でこらえていることを知っていたわ。

 

 

    新たなる作戦

 

 その若い司令官が今回もまた、あたしに乗り込んで来た。

「まったく、連邦も暇だね。こんな、くだらない作戦のために、わざわざ手間と暇と金をかけて、変な船を作るんだから。ご苦労様だ」

 彼があたしのブリッジに入って、初めて口にしたのはそんな嫌味な言葉だった。

「クリスターナの姉妹艦をぶつけて来るのが、そんなにくだらない作戦ですか?」

 この若くて、人に対する口の効き方を知らない青年の言葉を受けとめて、柔らかく翻訳するのがキアラ副官の役目の一つになっていった。

 もし彼女以外の誰かが、こいつと真面目に話したら、たちまちケンカになること請け合いね。なにしろ、グラン・フォースの艦隊乗組員は、ほとんどが荒くれの海賊上がりばかりだもの。まじめに、地図作りの学士員の長い説明なんか、聞いてられる訳なんかないじゃない。

 それを、キムが丁寧な受け答えで、分かりやすく説明し直してくれる。彼女無しでは、この青年は一日として艦隊指揮なんか、やっていられないはずだわ。

「いいかい。この船の結晶外板は純正だ。純正の結晶外板は、数十年経たなければ手に入らない。ということは、今度の船の外板は紛い物だ」

「確かに、人工外板だと情報が入っています」

 キアラは当然、言われなくてもアマドの考えを知ることができる。それをあえて口に出して確認しているのは、周りにいる艦長を始めとする乗組員に聞かせるためだった。

「ということは、この結晶構造の完全な解明がなされていない以上、それはエネルギー波の透過屈折反射効果が、本物以上には期待できないということですか?」

 青年司令官の頭脳には、全幅の信頼を置いている艦長も、その言葉を理解することはそうとう難しいみたい。今回も、厳つい顔に不安な表情を覗かせて尋ねた。

 艦長の態度は腰の低いものだったけど、若い司令官の顔には、露骨に軽蔑の色が浮かんでいたわ。

「何でも、新しく開発されたエネルギー反射物質を、結晶の下に敷いているそうです。それが、半透明の結晶を通して銀白色に輝いて見えることから、銀の貴婦人、シルビアーナと……」

 司令官の不快な感情を知って、キアラは彼の興味を別の方へと誘導した。

 その効果は、すぐに現われた。彼女の言葉に、生白い青年は鼻で笑った。彼の軽蔑が、連邦軍の方へと向きを変えたのだ。

「銀の貴婦人?はんッ!それこそが、付け焼き刃の証拠じゃないか。本物と同じ効果が得られないから、別のもので補充する。あいつらは、自分で作っておきながら、この船の本質をまるで理解していないんだ」

「この船の本質?絶対防御と、高速移動ですか?」

 体格だけでも、自分の三倍はあるだろう艦長を横目で見て、満足気にアマドは頷いてた。

 さっきの軽蔑の色は、もうどこかに消えていた。彼のこの態度や感情の変化の大きさも、嫌われる理由だとあたしは思う。

「そう。対ゲリラ戦のような特殊な用途を除けば、この船は一隻ではほとんど無力だ。でも、艦隊指揮艦として最高なんだ」

 キアラ以外の、ブリッジの乗組員達は顔を見合わせた。

 彼らは、絶対防御と高速機動性を誇るあたしが、ほとんど無力だなんて思っていなかったみたい。

 あたしとしても、不満だったわ。さすがに若い司令官も説明の必要を感じたのか、先を続けた。

「考えてみろ、艦隊を指揮する船は、別に攻撃力に優れている必要はないだろう。要は、敵の攻撃を避けて、味方の艦隊をまとめるために縦横無尽に動けること、それが最大の必要条件だ」

 確かに、一理あるわね。あたしは思った。

 でも、他の乗組員達にとって、これはそうとう意外な意見みたいだっみたい。彼らにとって、指揮官船、即ち艦隊旗艦とは、最も強力で巨大な戦艦というイメージがあったのかな。

「でも、シルビアーナも絶対防御を誇っています」

 ブリッジ全体の雰囲気を察して、キアラはあえて司令官に逆らうように言った。

 アマドはムッとした顔で彼女を見たけど、仕方がないという表情で口を開いた。

「かも知れない。だが、この船の装甲を破ることを目的としている以上、強力な火力を搭載していることは間違いない」

「クリスタルの透過率を無効にする、特殊な装置と、この船の三倍以上の火力を有しているとのことです」

 たった今、司令官に反論めいたことを口にしたキアラは、実に正確に彼の言葉を裏付けてみせた。彼の予想が事実であることを証明するのも、彼女の重要な仕事になっていたみたい。

 その返事に、アマドは当然のように頷いて、ブリッジを見回した。

「そんな装置や火力に、結晶装甲が使えると思うか?」

 この瞬間、ようやくブリッジの半分の人間が、アマドの考えを理解した。

 艦長は、それが彼のクセである、低い口笛を吹いた。あんまり、品のいい音色でないので、あたしは嫌いなんだけど……。

「攻撃する時には、防御が手薄になるか!」

「でも、それは、この船も同じです」

「だから、この船の武装は必要最小限でしかないんだ。小さくて、出力も小さい。絶対防御と、高速機動性を誇っているんだ、攻撃するなら、接近して一撃離脱。これ以上効果的な攻撃があるか?逆に言えば、この船の武装は、そこを狙われても被害が少なくなるための配慮なのさ。どうやら、そのシルビアーナとやらを設計したのは、この船とは違う人物か、グループなんだろうな」

 頷くようにキムが応えた。

「この船の設計主任は、商船の設計部門へ回されたとのことです」

「左遷か、バカなことを。船が奪われたのは、設計者のミスじゃないだろうに」

 そう言うと、生白い青年司令官はプイと横を向いた。

 その横顔を、深い同情の視線でキアラが見つめている。この若い男は、自分のために見ず知らずの他人が傷付くことに、どうやら必要以上の嫌悪を感じているらしい。そのことに、彼女は痛ましさを感じると同時に、尊敬の思いも抱くみたいだった。

 あたしに言わせれば、図々しくも連邦にケンカを売っている立場にいるのに、ずいぶん軟弱なんだと思う。でも、キムにとっては違うみたい。まったく、世話の焼ける娘よね。

 それにしても、よくもまァ、これだけ詳しい連邦の内部事情が知れるもんだわ。たぶん、これはフェルナン評議会議長あたりが集めて来たものでしょうけど、あのおじさん、見かけによらず結構やるみたい。少なくとも、そうとう太いパイプを連邦の中枢に持っていることは、間違いないわね。

 

〈中編に続く〉

 

 

 

 

 

 

説明
  「結晶の船・クリスターナ」粗筋

 彼女の名前は、クリスターナ。
 全身を、薄緑色の半透明な結晶板に覆われた、美しい船だった。
 彼女を覆う結晶板は、特殊な性質を持つ、変位相クリスタルと呼ばれていた。
 その結晶石は、単に美しいだけではなかった。あらゆるエネルギー波を、透過屈折させると、外へと弾き出すことができた。もちろん、装甲としても充分な強度を誇っていた。
 さらに、彼女の動力はその結晶石を通じて、推進力を放出していた。つまり彼女は、あらゆる方向へ、速度を維持したまま方向を変えることすら可能だったのだ。
 敵からの攻撃をほとんど受けずに、自由に高速で接近し、攻撃することが可能な夢の戦艦。それが彼女、結晶の船クリスターナを作った人間達の目的だった。
 原料となる結晶原石が少ないため、同じ規模の船は数十年に一度しか造ることができない。彼女は、あらゆる意味で貴重な船だったのだ。
 ところが、どういうものか彼女には心があった。偶然のイタズラなのか、変位相クリスタルの知られていない特性なのか、その配列から、彼女は自分の意識を形成していた。
 しかし、目覚めたクリスターナは孤独だった。なぜなら、自分以外に自分と同じ意識を持つ船は、この世に存在しないのだ。
 自分の存在は誰一人知られることなく終わるのだと、船の意識はその存在を自分が確かめた時から、諦めていた。それは、悲しい自覚だった。
 意外なことに意識が確立して間もなく、彼女は自分の存在を知る人間に出会った。それは、これも半ば偶然、彼女に乗り込むことになった精神感応会話、即ちテレパスの能力を持つ娘キアラだった。
 キアラの登場で、クリスターナは孤独から解放された。そして、キアラとその仲間達との戦いに、彼女も協力するようになっていた。
 ある日、いつものように眠っていた自分を目覚めさせたキアラから、クリスターナは驚くべきことを聞かされる。
 なんと、自分の姉妹が作られたと言うのだ。しかも、その姉妹の目的は自分の撃破。
 白銀の貴婦人・シルビアーナと名付けられたその船は、人工の変位相クリスタルに覆われていた。さらに、その船はあらゆる能力が、クリスターナを上回るのだと言う。
 生まれて始めて、彼女は自分に話しかける船の声を聞いた。やはり、彼女もまた心を持つ船だったのか?
 テレパスの娘以外、誰も知らないところで始まる、船同士の会話。話しのできる自分達が、なぜ戦うのか?
 戦闘のさなか、クリスターナを襲った疑問は、容易に解決できるものではなかった。
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SF 宇宙 戦艦 戦闘 クリスターナ 結晶 

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