司馬淡々(司馬懿伝)
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「はい〜歯を磨くから、あ〜ん〜して〜、いーちゃん」

「ん〜」

 

 

い〜ちゃんは口をひらく。

 

 

「そうそう、そのまま、そのまま」

 

 

そういいながら、俺は、いーちゃんの歯を磨く。

前歯は当然として、汚れが残りがちな奥歯もしっかりと・・。

 

 

「かじゅ〜と〜まじゃ?」

「ごめん、もうちょっと我慢してね、いーちゃん」

 

「ん〜」

 

 

そう声を鳴らして、いーちゃんは返答する。

 

 

「よ〜し、磨くのは終わったよ。じゃあ〜次は水を口に含んで〜ぐちゅぐちゅ〜した後、この桶にだしてね」

「ぐじゅぐじゅ?」

 

「あ〜、ごめん、分らない表現だったね。えーと、ゆすぐって事だよ」

「ん〜」

 

 

いーちゃんは口をゆすいだ後、桶に水を吐き出す。

 

 

「はい、よくできたね」

「ん〜」

 

 

ちょっと、誇らしげにいーちゃんが頷く。

 

 

「じゃあ〜、俺は桶を片付けるから、ちょっと待っててね・・って、いーちゃん?」

「・・駄目、離れちゃ」

 

 

とはいえ、いーちゃんが俺の袖を掴み離してくれない。

 

 

「えーと、でも、この桶を片付けないと」

「駄目・・」

 

 

そういった後、いーちゃんは鈴を鳴らす。

しばらくすると、一人の侍女が入ってきた。

 

 

「お呼びでしょうか?司馬懿様」

「ん〜」

 

 

いーちゃんは桶に目線をむける。

 

 

「はい、分かりました。では、私のほうで片付けておきますね」

 

 

それで理解したらしく、侍女が桶を手に取る。

 

 

「ごめんね、賈充ちゃん。歯磨きの世話をした、俺がやるべきなのに・・」

「いいんですよ、かずとさん」

 

 

俺がそう謝ると。

侍女・・賈充ちゃんはそう答え軽く微笑む。

 

 

「ほんと、ありがとうね」

「いいえ、私もいつもかずとさんにはお世話になって・・」

 

 

賈充ちゃんが、そういいかけていたが。

 

 

「あっ・・。え、ええと〜すみません、用事を思い出したので!」

 

 

なにか怯えるように、急いで部屋を出て行った。

 

 

「どうしたんだろう?」

 

 

そういいながら、俺はいーちゃんのほうを向く。

 

 

「・・さあ」

 

 

いーちゃんはそっけなく返事をした。

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「それよりも・・かじゅと、本」

「あ〜はいはい、ええと〜『論語』でよかったよね」

 

「ん〜」

 

 

そうだと頷く。

 

 

「はい、はい」

 

 

俺はいーちゃんをお姫様だっこして机まで連れて行った後、書庫から『論語』をもってくる。

その後、胡坐をかいた上にいーちゃんを座らせ、そのいーちゃんの両脇から腕を伸ばして、竹巻を開く。

 

これは俺の主たる仕事=「竹巻の開き」である・・。

まあ、本で言うページ捲りである。

 

いーちゃんは、毎日10時間以上読書をしている。

とはいえ、その間、いーちゃんが動かすのは目だけであり、身体は微動足りと動かない。

 

 

・・俺がいーちゃんの世話するようになった、ここ数年。

いーちゃんは冗談でなく箸より重いものはもった事はないだろう。

 

いや、「箸より重い」という比喩表現すら似つかわしくない。食事をとる時すらいーちゃんが動かすのは口だけで、箸は俺が手にしていーちゃんの口まで運んでいる。

 

そんな感じで、いーちゃんの衣服の着替えや、風呂も全部が全部、俺が世話をしている。

20代にしては残念体系のいーちゃんであるが、それでも最初こそドキドキした・・。

 

まあ、今ではほとんどなんも感じない。

10代にして俺は、男として枯れたのかも知れない。まあ〜下手に興奮しないほうが、いーちゃんの世話を焼くのには都合がいいのでかまわないが。

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「ん〜!」

 

 

いーちゃんがご機嫌斜めの「ん〜」をあげる・・どうやら思惟しすぎたらしく本業(ページ捲り)が疎かになっていたようだ。

 

 

「ごめんごめん・・」

 

 

俺は素直に謝る。

 

 

「んー」

 

 

どうやら許してくれないらしく、不機嫌なまま、いーちゃんの目線が『論語』に戻る。

 

 

「し、しかし・・いーちゃん、なんで今更、孔子の『論語』なんて読むの」

 

 

俺は怒りを和らげようと・・話を振る。

 

 

『論語』は漢の国教ともいえる儒教の聖典だ、本の虫であるいーちゃんなら、こんなポピュラーな本は腐るほど読んだであろう。

 

 

「これには、この「国」がある」

 

 

いーちゃんは短くそう答えた。

俺達が住む、この世界、漢(実権は曹家に握られているが)の「基本」が此処にあるとの意味で。

基本こそ繰返し、押さえて置くべきとの事だろう。

 

まあ、その考え(基本こそ大事)は俺が居た現代社会でも同じ事だ。

ただ・・いーちゃんが口にした、その「国」という言葉には重い響きがあった。

 

・・いや、正確には俺には強く重い言葉に聞こえた。

 

それは、俺が仕えている、このいーちゃんが「国」との言葉に深い関わりを持つ娘だからであろうか。

いーちゃん、つまり・・司馬懿は「晋」の礎を作り上げた人物なのだから。

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司馬懿・・演戯においては、諸葛亮のライバル軍師として争った人物であるが。史実においては軍師というよりは優秀な将軍・政治家であり、特に曹家宗族である曹爽を殺害した後は、魏の中枢の実権を握り・・それが数十年後の司馬氏の天下につながる。

 

 

だが、俺の目の前にいる司馬懿は、ただの引篭もりお嬢様だ。

 

さっきも言ったとおり、ほとんどの事を俺が世話をしており。

食事も風呂(濡れた布で拭く)等も賈充さんが部屋まで運んで準備しており・・。いーちゃんは部屋から一切でない。

 

そして、やる事といえば、本を読む事ぐらいである。

まあ、すごい難しい本を読んでるらしく、賈充さんはそれだけですごいと擁護していたが。

 

ちょっと節目がちだったので・・。

そのプラス点を含んでも、結局、総合すればマイナスな娘なのだろう。

 

 

とはいえ・・。

昔からこうだった訳ではないらしい。

 

司馬家は漢の有力官人であり。いーちゃんの死んだ両親も厳格な人物であったため。いーちゃんも元々はしっかりした人だったらしい。

その時(しっかりしてた時)は、他の姉妹たちと共に「八達(司馬家の8人の姉妹の字に全て「達」が付いているため)」と呼ばれ、その英明さを称えられ期待される人物であったらしい。

 

だが、数年前から。

突然邸宅に引篭もり、姉妹を含め、誰にも会わなくなったらしい。

 

 

それから数年後。

司馬家の長女であるろう姉(司馬朗)に拾われた俺が、いーちゃんの世話役を任じられた時は、酷い惨状であった。

 

当時のいーちゃんは、散発もせず、風呂も入らず、髪は伸び放題で、全身から悪臭を放っていた。

だが・・それよりも、その何も見てないような虚ろな目が、俺に強い印象を残した。

 

 

それから今まで、俺はいーちゃんの世話をし続けている。

 

 

垢にまみれで赤んだ体を綺麗にした・・。

埃まみれの髪を本来の綺麗な髪に戻した・・。

所々壊れた部屋を、女の子が住める部屋に戻した・・。

薄汚れた服を、いーちゃん本来のかわいさに似合う服に替えた・・。

無言のいーちゃんにただただ話しかけた・・。

 

そんな些細なことを繰り返し。

現状にたどり着いた。

 

いーちゃんは、まだまだ、一人じゃなにもできない。

でも、自分がしたい事を、俺に教えることができるようになった。

 

いーちゃんは、まだまだ、人と話せない。

でも、俺には「ん〜」とか不明瞭な物が主だが、話せるようになった。

 

・・いーちゃんは徐々によくなってきている。

 

更に年月を交わしていったら。

さすがに俺の知る、魏の重臣司馬懿にはなれないかもしれないけど。

いつか、俺以外の恋人や友達に寄り添える・・。そんな、普通の人間として過ごせるぐらいにはなれるかもしれない。

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「ん〜!!!!」

 

 

引篭もり姫が、再び、ご機嫌斜めの声を上げる。

また、俺が思惟にはまりこんで、本業を忘れてたらしい。

 

 

「ああっ〜ごめんごめん・・いーちゃん」

「・・」

 

 

いーちゃんは頬を膨らませる・・。2回目の失敗は全然許す気がないようだ。

引篭もり姫は以外に他人には厳しい・・まあ〜「あばたもえくぼ」で、それも可愛い・・。

 

そんな、可愛らしい娘を。

両脇から伸ばしている腕の力を、いーちゃんのほうに痛くない程度こめて抱きしめる。

 

 

「・・(いーちゃん、・・・絶対、しあわせになろうね)」

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もし、このssを長編にしたらダイジェスト版(没ネタ集)

 

 

1 いーちゃんが壊れた理由

 

 

「ああああああああああーーーーーーーー!!!!!」

 

どれだけ・・美しく飾ろうともこの国の現状は何なのだ!!

官は腐りきり、民は絶望の目をし・・皇帝は有力者の道具に成り下がる。

 

わたしが父上の厳格さ耐えれたのも、この国に尽くすため・・なのに、なぜこの国はこんなにも醜い!!

 

 

 

2 ろう姉・・いーちゃんが壊れた理由を語る。

 

あーなる前はね・・周りからは穏やかな、いい娘だといわれてたわ。

でも、姉の立場から見ればあれは演技・・あの娘の本性は純粋で激しく恐ろしいまで苛烈なのよ。

 

・・だから、現実の醜さを受け入れなかった。

 

 

3 依存のはて・・

 

 

「わたしは病気」

それは仕官を嫌がる、司馬懿のため作り出した、北郷のやさしい嘘だった。

 

「でも・・この娘は、私を元気だっていった」

だが・・その結末は。

 

「・・この娘、変」

血にまみれになりながら辛うじて息する賈充と・・。

 

「変だから・・主である私の物を、カズトを私から奪おうした」

そして・・。

 

「だから・・壊すの」

血のついた包丁を持つ、いーちゃんだった。

 

※ネタ元は司馬懿夫人

 

4 「はわわ〜」と「ん〜」

 

 

俺、普通に昼寝してたはずだよな・・?

なんで・・いつのまに2人に腕に抱きつかれてるんだろう。

 

 

「はわわ〜ごしゅじんさま〜//」

 

「ん〜かじゅと//」

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キャラ設定

 

北郷

司馬朗に拾われた後、司馬懿の世話役に。

長年のかいがいしい世話により、司馬懿との信頼関係は強い。

 

 

司馬懿 

没ネタ集1の通り、世に絶望し引篭もる。

その後北郷と会い・・徐々に回復し、最後は天下を?

 

依存娘で・・北郷が奪われるとなると狂気化の可能性も。

 

賈充

元々名門官僚の家の生まれであるが、現在は貧窮しており・・司馬家に世話になっている。

北郷と共に、司馬懿の世話役を務めているが・・司馬懿からは嫌われている。

 

特定の人物以外には、心底いいひとではない※。

 

※史実による、権力闘争云々が元の設定。

 

司馬朗

司馬懿の姉。

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司馬懿伝・・実は2つめw

 

ただ・・1つ目があまりにも、司馬懿らしくない(関連エピソードが含まれてない)ので。

曹操に呼ばれても出仕しなかった点を、「引篭もり」と悪く解釈して新たに作成しました。

 

今後は、こっちの司馬懿をベースに「晋」系武将の「伝」を作る予定です。

同名の「伝」は二ついらないので、元の司馬懿伝は名前だけ挿げ替えて再利用するか、『TINAMI』より削除するかのどちらか予定です。

説明
司馬懿を恋姫風に・・ssです。

残念な文章になってます。
タグをよくみて・・大丈夫かご確認を。
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コメント
最後のヤンデレやめてwww「はわわ」と「ん〜」のライバルって・・・。(kabuto)
先の展開が気になりますね。司馬懿の性格次第でどう転ぶのでしょうか?他キャラとの絡みも気になります。(GNX)
続き読みたいお・・・(よしお)
タグ
司馬懿 ヤンデレ  恋姫 壊れ 依存 嫉妬 父性本能 

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