真・恋姫無双〜魏・外史伝〜 再編集完全版20
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  ―――少し時を遡る。

  朱染めの剣士は国境付近の深い森の中にいた。

  「・・・・・・」

  日の光が差さない鬱蒼とした場所で、剣士は周囲に誰もいない事を確認した。

  そして、太い幹の木の下に身を隠すと、右手にあった一冊の本を広げた。

  その本の冒頭、最初のページには以下の内容が手書きで記載されていた。

  それは、誰かによって書き記された日誌のようだった。

 

 

  数時間前に外史を削除したばかりだというのに、祝融は本当に人使いが荒い。

  僕は彼女の人形じゃないというのに。

  でも後で愚痴を言われるのはもっと面倒だから仕方なく、彼女が潜伏している外史に降り立った。

  この外史は突端である一刀君がいないせいで面倒な感じなってしまったみたい。

  その面倒を解消するために、銅鏡を探していたみたいだけど、ひょっとして見つけられたのかな?

  それとも、僕達の周りでこそこそ隠れてちょこまかしているネズミの事で呼び出したのかな?

  彼女の元に訪れると、そこには伏羲もいた。どうやら彼も呼び出されたようだ。

  僕の顔を見た途端、不機嫌な顔がなぜか一層不機嫌になってたね。

  祝融の話だと、どうやら銅鏡を見つけて、すでに一刀君をこの外史に降り立たせる事が出来たそうだ。

  だけど、そこで問題が起きて、色々と困っているようだ。

  そこで、僕達にネズミの動きを監視して欲しいのだそうだ。

  南華老仙の奴、この間ぼっこぼこに返り討ちにしたって言うのに、まだ懲りていないようだ。

  とはいえ、彼にはもう戦うだけの力は残っていないのだから、放っておいてもいい気もするけど、

  目の前でちょろちょろ動き回られてもうざったいのは確かだ。

  その上、祝融の話によれば彼はまだ無双玉を隠し持っていたようだ。

  一体どこに隠していたのかな。もし、それが一刀君に渡ったら、とても面倒なことになると。

  でも、話はそれだけでは無かった。

  新しい試みって奴をこの外史でしたいのだそうだ。何でも「彼」にやってくれって言われたんだって。

  その話を聞いてみると、中々面白そうな内容だった。

  特に伏羲はその話にかぶりつくように聞いていたっけね。

  『人の感情を集める』

  それを一体何に使うのかまでは教えてくれなかったけど、伏義は一目散に部屋を出て行った。

  ついさっきまで、面倒くせぇ〜って悪態ついていたのに。

  彼も彼で、何か面白い事を思いついたんだろう。

  まぁ、僕は僕でやりたい事があるから、この外史でそれを実行するとしよう。

 

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  ○月×日

  僕のやりたい事、それは命令忠実の強化人間を作る事。

  祝融も似たような技術を持っているようだけど、僕はそれを超えるものを作ることにした。

  とりあえず、僕の実験に使う人間を100人くらい適当に拉致ってこよう。

 

  ○月×日

  研究を始める前に、僕の助手となる人を作る事にした。

  そこで僕は「黄蓋公覆」を選んだ。別に深い理由は無い。

  ただこの外史ではすでに死んでいたからだ。

  僕達が今までに集めた情報から「黄蓋公覆」に関するものを拾ってきて、

  それを基に僕達と同じ分身として彼女を、祭さんを作った。

  面白いことに祭さんは、僕に盾突く様子も無く、むしろ積極的に協力してくれた。

  色々弄って人形にする必要がなかった。

  正直、彼女が何を考えているのか理解しかねたけど、人の事は言えない。

  とりあえず念のための保険も用意しているし、このままでもいいだろう。

 

  ○月×日

  手始めに、僕の情報の一部を使って、体格、性格、感情、身体の能力に関する情報を核(コア)に組み込んだ。

  適当に捕まえてきた1人の男に核を埋め込んでから、建業の街中に放り投げてみた。

  後はどうなるか高みの見物といこう。

  まぁ、最初からそうは上手くいかないものだ。

  予想はしていたけど、男の情報と僕が組み込んだ情報が拒否反応を起こした。

  結果、男は醜い大男に変貌して、街中を暴れ回った。

  まぁそれはそれで見ていて面白かったけど、あれではただの暴走、命令なんて聞いてはくれやしない。

  今回の結果を踏まえ、今後の研究に生かす事にしよう。

  そういえば、あの時偶然にも一刀君を見つけてしまった。

  そしてあの力、どうやら僕達より先に、南華老仙から無双玉を受け取ってしまったようだ。

  面倒な事になったけど、それもそれで面白そうだ。

  何にせよ、この事を祝融達に報告しよう。

 

  ○月×日

  祭さんの協力もあって、僕の研究は順調に進んでいた。

  だけど、ここでまた困った問題が生じた。

  先の実験の結果から、ただ適当に情報を組み込んだだけでは拒否反応を起こしてしまう事が分かった。

  なので、その人間の形を成している情報を調べあげて、そこにカチリとはまるように核の情報の型と量などを調整した。

  ぴったり一致するようにすれば、これで僕に忠実な強化人間の出来上がりのはずだった。

  確かにその考えは正しく、問題は無かったのだが、一体作るのになんと1日以上も掛かってしまうのだ!

  ぐえ〜〜〜!!これでは意味がない!何か別の対策を講じる方がいいかもしれないな〜。

 

  ○月×日

  数日かけて考えた対策。

  それは核と人間の間に電気を通さない絶縁体の様なモノを噛ませることで解決した。

  まず核をこの絶縁体に組み込み、これを通して人間と核の情報をリンクさせる。

  すると拒否反応を起こす事無く忠実な強化人間となる。

  絶縁体として作ったのが、影篭(かげろう)だ。

  見た目は全身真っ黒黒助な蛸な感じで、これはこれで愛嬌があって可愛いかったりする。

  影篭はこの外史の人間の形を成しているものを一度情報に変換してから、そこに核の情報を混合させる。

  そして、再び人間の形へと再構築させる。

  僕は今まで氷を直接水蒸気にしようとしていた。

  けれど、影篭を使う事で、氷→水蒸気から、氷→水→水蒸気という感じになるわけだ。

  これを実現させるなんて、僕はひょっとして天才?

 

      祭(ー。ー)フゥ<天才?変態の間違いじゃろう?

       

                        ですよね〜♪>\(^▽^)/女渦

 

  ○月×日

  困った事が起きた。一匹の影篭が逃げ出してしまったのだ。

  捜索のために僕は急いで強化人間数体を放った。

  もし何処かの人間に拾われて茹で蛸にされたら敵わない。その前に早く捕まえないと。

 

      祭(゚ー゚)ニヤ<茹で蛸にしたら上手いのかのう?

 

                   影篭はたこじゃないって!・・・似てるけどさ>(-。−;)女渦

 

  その矢先、この近くに孫権ちゃんが来ている事を祭さんが教えてくれた。

  折角なので、試作品として作った強化人間「颯(はやて)」を彼女の元に仕向けた。

  念のために、祭さんにも行ってもらった。

  颯の活躍は僕の想像以上だった。

  攻撃、防御、機動性、指揮系統、戦闘においては十分な能力を発揮していた。

  とはいえ、実践投入にはまだ調整は必要だろう。

  だけど、彼女達の戦闘で得られたデータを組み込めば、最強の強化人間部隊を作る事は可能だ。

  嬉しい事はもう一つあった。それは一刀君だ。

  最初は誰と思ったけど、彼が一刀君だと気付いた時、僕はあまりの嬉しさに発狂してしまった。

  この手で殺したはずの彼が僕の前に現れたんだ。

  それはつまり、もう一度あの時の快感を味わえると言う事だからね!

  そしてあの力、間違いなく無双玉を埋め込まれているね。

  きっと、どうにかして一刀君の死体を回収、無双玉を使って、仮の生を与えられているのだろう。

  でもそれは僕には美味しい話である事に変わりはないさ。

  力を手に入れた彼を殺す、それはきっとあの時以上の快感だろうからね。

 

  ○月×日

  祝融から「颯」が欲しいという連絡が入った。

  先の実戦で得られた戦闘データを基に更なる改良を加えて開発した、「颯・改」を完成させた直後だった。

  何でも、五胡の中に混ぜて洛陽に侵入させたいっていうから、僕は颯・改に擬態機能を追加した上で彼女に送り届けた。

  折角だから伏羲の所にも送った。

  余計な事をしやがって、なんて悪態をついていたけど、それなりに使ってくれているようだ。

  ツンデレなんだな、彼は。

 

          女渦ヤレヤレ ┐(´ー`)┌       

         

                         (-_-メ;)テメ・・・伏義

 

  ○月×日

  久し振りに顔を見にきたら、祝融が僕に愚痴をこぼしてきた。

  何でも伏羲が「彼女」に頼んで、勝手に無双玉を作らせたらしい。

  別にいいじゃない、とか言ったら、伏義にも似た事を言われたと、さらに愚痴をこぼす始末。

  僕達、分身はある意味では無双玉、そのものと言ってもいいだろう。

  そこに無双玉をもう一個上乗せするって、彼も無茶をするな・・・。

  そんなに一刀君にやられたのが悔しかったのかな?

  話題を変える為に、前に送った颯・改の感想を聞いてみた。

  「まぁ・・・、あなたにして良くやった方ではないですか?」

  全く、どうして僕の周りにはツンデレしかいないのかなぁ〜。

 

  ○月×日

  伏義から連絡が来た。

  成都に来い、ただそれだけだった。

  成都。確か蜀では蜀軍と正和党が暴れているらしい。

  伏義も自分の立てた計画が順調にいっているようで、破竹の勢いに乗っているようだ。

  感情を集めるなら、争わせ、戦わせる方が効率は良い、というのが彼の結論のようだ。

  ここは一つその勢いに乗る事にしよう。

 

  ○月×日

  颯・改を引き連れて成都に向かっている途中、家出中の影篭が見つかったという報告を受けた。

  更に、孫策ちゃん達が僕達を追いかけて来ている、という報告も入った。

  僕は孫策ちゃん達の方を祭さんに任せ、影篭を捕まえに行く事にした。

  久しぶりに彼女達に会えるからか、祭さんは嬉しそうな顔をしていた。

 

  ○月×日

  ようやく影篭を捕まえた。

  ついでに面白いモノを拾った。彼女達はこの外史における主核。

  当然、その辺のモブ人間とは段違いの情報量だ。

  彼女達を颯に仕立て上げれば、他の比では無い事は明らかだ。

  僕は一足先に研究所に戻って調整に入った。さて、どんな風にしようか?

 

  ○月×日

  にわかに信じられなかった。

  伏義が倒されたことを祭さんから教えられた。しかも、倒したのはこの外史の一刀君だ。

  成程、祝融が懸念していたのも今なら納得がいく。

  まだ力をコントロールしきれていない状態でありながら、伏義を倒してしまうなんて大したものだ。

  そんな彼に僕は興味が湧いた。

  祭さんには別の事をして貰って、僕は成都に行こう。

  いやー、こんな楽しい気分は久しぶりだな。ゾックゾクしちゃう。

  さぁて、楽しいパーティーをしにいこう。

    

      祭( ̄o ̄)<わしの出番はちゃんとあるのじゃろうな、女渦?

 

                  いや、僕に聞かれても・・・。>( ̄Д ̄;;女渦                               

 

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第二十章〜還らぬ者への鎮魂歌〜

 

 

 

  于吉の話では、どうやら建業と涼州で大変な事が起きているようだ。

  孫策達は呉に、俺達は魏へと急ぎ戻る事となった。

  俺は最初、女渦の事もあって呉に行こうと考えたが・・・。

  「女渦はもう一人のあなたに任せておけばいいでしょう」

  と干吉に諫められ、その上華琳の痛い視線を受けてしまった。

  それは置いといて、この時、劉備の提案で関羽・黄忠を孫策達に、馬超・馬岱を俺達に同行させる事となった。

  

 

  ―――ここは呉の都、建業。

 呉の中心だけあって普段は人で賑わい、たくさんの物資が流通する。

 だが、今はそんな活気のある姿は無く、通りには人の姿は勿論、犬猫動物の姿も無く、ただ闇から闇へと移動する

 不穏な影のみが見受けられる。街の人間達は外から出ず、家の中でぶるぶると恐怖に震える事しか出来なかった。

  

  ―――街の外・・・

 

  「おい!早く衛生兵を呼んで来い!!」

  「い、痛ぇ・・・うぅ・・・」

  「しっかりしろ!傷は浅いぞ!」

  街の外では呉軍が建業の街から脱出してきた負傷兵達を治療するべく陣を展開していた。

  「亞紗!薬が足りないの!そっちにまだ余っている!」

  「・・・駄目です!城から運び出せたものはもうほとんど・・・!」

  「そんな・・・。まだ怪我している人達がいるって言うのに・・・」

  小蓮は事態の深刻さに困惑する。こんな時、姉様達がいてくれたら・・・そんな弱音をつぶやく。

  「小蓮様!」

  そこにばっと颯爽(さっそう)と現れたのは明命であった。先の暴動事件で負傷した腕はすでに完治し、

 以前の様に動き回れるようになっていた。

  「西の方面にて砂塵を確認しました!」

  「旗は!?」

  「旗は孫!雪蓮様かと!」

  「・・・お姉ちゃん!」

  

  「シャオ!!」

  「雪蓮姉様!!」

  蜀から急ぎ帰還した雪蓮の元に小蓮が駆け寄っていく。雪蓮は馬から降りると小蓮に近づいた。

  「ごめんさい・・・。またあなたに面倒を押し付けちゃったわね」

  「ううん、そんな事はいいの。それより蜀の方はもういいの?」

  「ええ、桃香達と正和党のいがみ合いはもう終わったわ。だから今度は私達の番よ。だからシャオ、

  何があったのか、私達に教えてくれるかしら?」

  「うん、分かった」

  そう言って、小蓮は事の一部始終を雪蓮達に伝えた。

  事の発端は数日前・・・、いつもと変わらない平穏な日。何の前触れもなく異変が起きた。

 正体の分からぬ、武装した黒ずくめの者達が街に現れた。彼等を捕らえるべく、雪蓮達が万一のために

 残していた兵士を連れ、小蓮、明命、亞紗は街に向かった。しかし、彼等の抵抗に苦戦を強いられる事になり、

 小蓮達は兵達を連れて街の外へと脱出せざる得なくなったのだった・・・。

  「・・・成程、でもこの様子だとまだ何かあったようね?」

  一旦話を聞くのを止めると、雪蓮は辺りを見渡す。至る所に傷の治療が出来ずにいる負傷兵が横たわり、疲弊し、

 休んでいる兵士達もいた。その上で彼等の士気がひどく下がっている事は誰が見ても分かった・・・。

  「そ、それは・・・その・・・、えっと・・・」

  雪蓮に指摘され、言うか言うまいかと迷いながら言葉を濁す小蓮。明命も亞紗も雪蓮から目をそらし、余所余所しい

 態度を取る。そんな彼女達を見て、雪蓮は悟った様にこう言った。

  「祭がいたのね」

  「「「・・・!!」」」

  三人の表情が一瞬に驚きへと変わる。それを見た雪蓮は確信した。

  「やっぱり、か・・・。敵の中に祭がいたのね?」

  雪蓮の疑問に答えず、俯く小蓮。

  「・・・敵の総大将が死んだはずの祭殿であった。それが兵の皆さんに大きな動揺を与える事となりました」

  沈黙する小蓮に代わり、亞紗が答える。

  「軍の指揮系統は混乱・・・、もはや私達ではそれを収められない状況にまで陥ってしまいました」

  「さらに、向こうにはまた異様な姿の兵士が・・・」

  亞紗の説明に続く様に、今度は明命が喋る。

  「その身を白銀の鎧で包まれ、背中には六つの羽を生やした・・・、その、何て言えばいいのか分かりませんが、

  その常人離れの攻撃に私達ですら歯が立たない始末・・・」

  「だから、小蓮達は軍を連れ街の外へと脱出せざる得なくなった」

  「「・・・はい」」

  気まずそうに、答える亞紗と明命。

  「・・・っ!」

  俯いていた小蓮が突然雪蓮に抱きつく。

  「シャオ?」

  「・・・何で?」

  雪蓮の腹部に顔を埋めていた小蓮の顔が出てくる。その目には涙が・・・。

  「何でなの姉様、何で・・・?何であの祭が、こんな事をするの?」

  「シャオ・・・」

  涙目の妹の疑問、雪蓮は答えられなかった。代わりという様に妹の頭を優しく包み込むように抱いた。

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  「・・・・・・ぁあ・・・」

  「気が付きましたか?」

  「・・・・・・、どれ、くらい、寝、ていた?」

  「・・・二日と十二時二十七分十九秒間」

  「・・・動ける、時間が短・・・く、寝る・・・時間が長く、なっている。外史の動き、は?」

  「どうやら言語機能にも影響が出ていますね。・・・呉と魏で外史喰らいの分身が動きを見せました。

  呉の建業で黄蓋が現れたようですね」

  「・・・そう、か。彼女が、そこにい、ると・・・言う事は、奴もそこ、にいる・・・な」

  「行くのですか?」

  「・・・・・・」

  「・・・失礼、愚問でしたね。しかし、まだ動かないで頂きたい。あなたに埋め込んだ無双玉に外史の情報を

  補充している所です。もっともたかが知れていますがね」

  「・・・それを、注ぎ終わ・・・れば、あとど、れくらい・・・動け、る?」

  「生きるだけであれば、およそ半年。戦いに使えば一日から三日・・・」

  「あま、り・・・時間は、無いな・・・」

  「ええ、ですので大事に使って下さい。あなたの孫権殿を注いでいるのですから」

  「・・・?」

  「今、あなたに注いでいる外史の情報、あなたの外史が存在していた場所からかき集めた、外史喰らいが

  食べ残した外史の記憶・・・、孫権の情報も含まれているのですよ。文字一個分の情報量ですが・・・」

  「・・・・・・・・・」

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  「じゃあ愛紗、紫苑、よろしく頼むわね」

  「ああ」

  「えぇ、こちらこそ」

  軍の編成を終え、雪蓮は愛紗、紫苑に改めて協戦を頼む。一方で、蓮華は彼の姿を見つけようと辺りを見渡すが、

 彼の姿は何処にもなかった。

  「(彼はまだ来ていない・・・?いや、彼は必ず来る。祭は女渦と繋がっている。祭が動くと言う事は

  裏で女渦も動いているはず。女渦に近づくために、彼は必ずここに現れるはず・・・)」

  この時、蓮華は心の中で一つの覚悟を決めた。そして作戦会議の場、そこでは冥琳が先行して話を進めていた。

  「不幸中の幸いか、連中はこの建業の街の中から出てくる様子は無い。しかも入って来いと言わんばかりに、

  城壁の門も開いたまま・・・」

  「罠・・・でしょうか?」

  思春が冥琳に尋ねる。

  「祭はそんな事をするような人間じゃないわ。きっと、私達が来るのを待っているのよ」

  と雪蓮が代わって答えた。

  「恐らくはそうだろうな。我々が祭殿の考えが分かるように、その逆も然り」

  「どういう意味ですか?」

  冥琳の最後の言葉が理解出来ず、紫苑は尋ねる。

  「向こうもこちらの考えが分かっていると言う事だ。恐らく、それを見据えた上でこちらと戦う気だろう」

  「・・・油断は禁物、という事か」

  と、愛紗は最後にまとめる感じで言う。

  「祭殿の性格からして、籠城戦は展開せず、街に入って来た我々を真正面から潰しにかかるはずだ。

  しかし、そこに一つまみの隠し味を加えているはずだ・・・。先程、明命が言っていたのがそれなのだろう」

  「背中に羽を生やすという・・・、鳥人の類のものかしら?」

  先ほど明命が言っていた事を思い出すように、蓮華は口に出して言う。

  「・・・ここまで来たら、何が出てきてももう驚かないわよ」

  普通に聞けば、眉唾物の話・・・なのに、自分達はそれをすんなりと受け入れているこの状況に雪蓮は皮肉を

 込めて、けらけらと笑う。

  「聞けば剣も槍も矢も効かないと聞く。下手をすれば祭殿以上に厄介な相手なのかもしれない」

  「では、その者が現れた際は如何なさるのですか?・・・投石機、破城門兵器を使うのですか?」

  おおよそ人に対して使うもので無いものを明命は提示する。

  「そんな物を街中で使えば、街は大変な事になりそうだな・・・」

  と、首を横に振りながら答える冥琳。

  「街の中にはまだ住民の人達がいる事ですしねぇ〜。まずは住民の避難を優先するべきだと思いますよ?」

  と冥琳の横で補佐していた穏がそう述べる。

  「街中の様子は今どうなっているの?」

  「何度か斥候を放ったのですが、いまだ誰一人として帰って来てません」

  雪蓮の疑問に明命は否定的な返答をする。

  「・・・・・・駄目ね」

  そしてぽつりと呟くと、席を立ちあがった。

  「こんな所でくだくだと話していても仕方が無いわ」

  そう言って、雪蓮は今すぐに進軍する事を促そうとする。

  「それでも、もう少し対策を練ってからでも・・・」

  雪蓮の短絡的と思える判断に対して、愛紗がそれを言葉で制止する。

  「そうね。・・・でも街の皆がまだあの中にいるのよ。策を練っている間に連中に襲われたりしたら・・・」

  その言葉に焦りや迷いは無く、むしろ冷静な口調で愛紗に返答する。

  「・・・そうか。なら、私はもう何も言いはしない」

  「ありがとう、愛紗」

  「・・・・・・」

  そんな勝手な事を言う雪蓮を、黙って睨む冥琳。無論、雪蓮もその視線に気付く。

  「分かっているわ、冥琳。でも・・・、私は」

  「・・・皆まで言わずとも、あなたが何を考えているのかぐらい分かっているわ。・・・祭殿の本心を、

  知りたいのでしょう?」

  そして雪蓮は瞼をゆっくりと閉じ、溜め込んでいた空気を吐き出した。

  「・・・きっと、私はまだ信じていたいのね。私が・・・いいえ、私達が知っている祭を・・・」

  「・・・そうだな」

  そして、少しの沈黙・・・。

  「・・・行きましょう、皆。祭が待っているわ」

  雪蓮はその沈黙を破り、会議の場を離れる。そこに居合わせていた者達は彼女の後を追うようにその場を去って

 いくのであった・・・。

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  軍編成はすでに完了し、開かれた街の城壁門の前に待機する兵士達の前に雪蓮は立っていた。

  「全軍!これより我々は自分達の街を敵の手から取り戻すべく、我々の街・・・建業へと進軍する!

  皆も知っているように、あの祭が敵の総大将・・・、でも思い出しなさい!祭は二年前のあの日、赤壁の

  海の上で・・・、死と引き換えに呉の礎となった。奴は祭の姿と名を騙った偽人だ!祭の誇りある死を

  汚し、祭の愛したこの国を脅かす輩を・・・、絶対に許すわけにはいかない!皆のその武にて、祭の誇りを

  守るぞっ!!」

  「「「「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」

  雪蓮の檄に兵士達は呼応するように、天に向けて地響きにも似た雄叫びを上げ、手に持った武器を高らかに掲げた。

  「孫呉の兵(つわもの)たちよ!その勇気を奴等に見せつけよ!そして、死を恐れるな!その手で我々の国を

  取り戻すのだ!」

  雪蓮は南海覇王を鞘から抜き、その切っ先をこれから自分達が向かおうとする先に向ける。

  「全軍、進軍開始っ!!!」

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  「はぁああああああっ!!!」

  ブォウンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「ッ!?!?」

  敵を薙ぎ払う雪蓮。そしてまた彼女の前に新たな敵が現れる。

  「相変わらず、きりがないわね!」

  愚痴を零しながらも、雪蓮は剣を振る事を止めない。そして彼女の目に映るは、建業の城。

 雪蓮を筆頭に他の武将、兵士達も街の中央を駆け抜けていくが、それを阻むべく前に立ち塞がる傀儡達。

 幾度も苦戦を強いられて来た彼女達、だが今の彼女達は自分達の国を守る、その強い意志の元、その時以上の

 気概を敵兵達に見せつけていた。人は成長できる、その成長の向かう先が確かであるのならば。どんな困難が

 待ち受けようが、それを乗り越えようとする意思があるのであれば・・・。 

  ガッゴォオオオッ!!!

  「・・・っ!?」

  雪蓮の目の前に突き刺さる一本の長槍。そこにまた別の影が降り立つ。それは何かに身を包まれた、まるで

 継ぎ目だらけの繭の様なもの。そしてその継ぎ目だらけの繭がゆっくりとほどかれていく。それは繭ではなく、

 無機質の六枚の羽であった。そしてそこから現れたものはその身を白銀の鎧に身を包む、体格からして女であった。

 女は目の前に突き刺さる長槍を手に取ると、地面から引き抜き、雪蓮の前で容易く振りかざす。

  「こいつね・・・、明命が言っていたのは!」

  明命が言っていた事を思い出す雪蓮。応竜の背中から生える羽達はまるで意思がある様に雪蓮に襲い掛かる。

  「な・・・っ!?」

  雪蓮は咄嗟にその羽の先端を避ける。

  ザシュッ!!!

  「ぐぎゃああっ!?」

  ザシュッ!!!

  「ぶばはっ!!」

  ザシュッ!!!

  「がぁあっ!?!」

  雪蓮をすり抜けて行った羽達はその代わりと彼女の背後を付いて来ていた兵士六人を逃す事無く、その身を

 刺し貫かれる。兵士の一人が手から得物である剣を落とすと同時に、羽は引き抜かれ、応竜の背中へと戻って

 いく。それに合わせて雪蓮は羽と一緒に女に近づいていく。

  「・・・生憎、そんな芸当も見慣れているのよね!はぁあああっ!!!」

  ブォウンッ!!!

  ガギィイインッ!!!

  雪蓮の放った斬撃が応竜を捉える。が、その一撃も彼女の身に纏う白銀の鎧が弾き返し、雪蓮の腕を痺れさせた。

  「・・・確かに、これは厄介だわ」

  雪蓮は痺れが残る右腕を左手で擦りながら呟く。そんな彼女に向かって、応竜は背中の一枚の羽を伸ばす。

  「ふっ!」

  弓で放たれた矢のような速さで襲い掛かる羽の先を紙一重で避ける。伸び切った羽を叩き斬ろうと、雪蓮は

 南海覇王を振り下ろすも、その異様な弾力をもつ羽は地面すれすれまで振り下ろされても斬れない。

 そして、振り下ろし切った南海覇王を雪蓮の両腕ごと跳ね返した。反動はそのまま雪蓮の両腕にも伝わり、剣ごと

 背中まで押し返される。

  「・・・っ!?」

  思わぬ反動に体の体勢を崩す雪蓮。そこに容赦なく別の羽の先が襲いかかる。

  「はぁっ!!!」

  ガギィッ!!!

  何処からともなく現れた思春によってその羽の先端がいなされ、その軌道が逸れる。

  「へやぁっ!!!」

  ブォウンッ!!!

  その隙を狙い、明命が応竜の正面へと斬り込んでいく。だがそれを察知した応竜は残りの羽にて応戦する。

  ガギィイッ!!!

  「くっ・・・!」

  明命の斬撃を羽で受け止めと、別の羽で明命の体を払い除ける。

  「きゃあ!」

  明命の小さい体は宙へといとも容易く吹き飛ばすも、何とか体勢を整え、足から着地する。

  「貰ったぁあああっ!!!」

  ブォオウンッ!!!

  明命の脇をすり抜け、愛紗がさらに一撃を放つ。

  ガッゴォオッ!!!

  「ぐぐぅ・・・!!」

  だが、それも応竜の長槍によって防がれ、愛紗はやむなくその長槍を強引に跳ね返し、応竜から距離を取った。

  「ふっ!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  そしてその後方から紫苑が二本の矢を連続で放つが、応竜の羽によって防がれてしまう。

  「姉様!」

  「雪蓮!」

  「蓮華!冥琳!」

  雪蓮の元に蓮華と冥琳が駆け付ける。それを見た愛紗は雪蓮達に言い放つ。

  「雪蓮殿!ここは我々に任せ、あなた方は早く総大将、黄蓋殿の元へ!」

  「愛紗・・・!」

  「雪蓮、ここは彼女の言う通りにするべきだ!」

  「・・・分かったわ。行くわよ皆!」

  冥琳の言葉に従い、雪蓮は蓮華、冥琳、親衛隊を引き連れ、この先、祭がいる城へと急ぐ。

  「皆さん!この周辺の住民の避難は完了しましたぁ!」

  と、そこに住民の避難を進めていた穏が駆け付ける。完全ではないが、愛紗達がいる区域に住民はいない事を

 報告しに来たのだ。だが、それは逆にこの区域から応竜達を出してはいけないという警告でもあった。

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  「はぁっ!!」

  「へやぁっ!!」

  「でやあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ブオゥンッ!!!

  ブゥオウンッ!!!

  思春、明命、愛紗の三人同時攻撃を応竜は六枚の羽で身を守る。無機質でありながら、そのゴムの様な

 弾力性を持った羽にその三人の一撃は吸収され、さらに三人の得物は跳ね返される。三人の攻撃をいなすと

 応竜は六枚の羽をはばたかせ、上空高く跳躍する。舞い上がった応竜は六枚の羽を伸ばし、三人に攻撃を仕掛ける。

  「来るぞ!散れっ!!」

  愛紗の掛声と同時に一ヵ所に固まっていた三人は別方向へと散っていく。伸縮自在の羽達はそれぞれ二枚ず

 つ、一人一人を追撃する。思春は二枚の羽の動きを見極めながら、緩急ある動きで羽の先を回避する。屋根の上

 に登った明命はバク宙を加えながら、屋根から屋根へと飛び移る。その際、足甲の裏に手を忍ばせ、そこから

 苦無(くない)に似た小型の刃を二本取り出すと、応竜に目がけて飛ばす。二枚の羽はそちらを優先的に追跡

 し、叩き落とす。愛紗は他の二人の様に遠くへと下がらず、敢えて前へと突き進んでいく。当然、二枚の羽が

 愛紗に襲いかかる。

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  その時、紫苑の放った二本の矢が愛紗の横を風を切って飛んでいく。二枚の羽は愛紗からその二本の矢へと

 軌道を変え、その矢二本を叩き落とす。愛紗はその二枚の羽の間を割って入り、そのまま応竜の本体へと近づいた。

  「ふぅうっ!!!」

  ブォウンッ!!!

  応竜の胸の中央を貫く様に、青龍偃月刀を突き立てる。

  ガッゴォオオオッ!!!

  鈍い金属音が響き渡る。偃月刀の切っ先がその白銀の鎧とぶつかる。その一撃によって、鎧を砕く事は

 出来なかったが、応竜を後ろへと吹き飛ばす事は出来た。伸びていた羽達も応竜の元へと戻ってくる。

  ズザザザザザザザ・・・!!

  応竜は両足で地面を削りながら、その勢いを削り、愛紗との距離をかなり開けた所で停止する。

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」

  警戒しながらも、その乱れた呼吸を整える愛紗は目の前の敵に対して妙な感覚を覚えていた。得物の扱い方、

 身のこなし、取るに足らない仕草・・・それらが愛紗に何かを訴えかけていた。

  そして、応竜の一つ眼が愛紗を捉え、長槍を両手に持ち、構える。

  「・・・!そ、その構えは!?」

  応竜の長槍の構えを見た愛紗は、その姿を別の人物と重ねる。一方で、その長槍の二つに別れた切っ先が先端から

 ぐるぐると螺旋状に巻き付き、一刃の槍へと変貌させ、六枚の羽を大きく羽ばたかせた。

  「愛紗さん!」

  「・・・っ!?!?」

  紫苑の掛け声にはっと我に返る愛紗。

  

  ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

  

  応竜の背後で突風が発生する。その突風はその通りを駆け抜け、応竜を前方に向かって加速させる。

  「っ!!!」

  応竜の突進を寸前で回避した愛紗。だが、愛紗を打ち損ねた応竜は彼女の真横で停止、そこに遅れて

 突風が後ろからくる。応竜の突進によって生じた突風は、後方で戦っていた敵味方関係なく、上空へ吹き飛ばした。

 愛紗は慌てて応竜から離れる。

  「・・・今の動き。私は知っている・・・。あれは・・・、まさか・・・!」

  愛紗の困惑など余所に、応竜は再び槍を構え直す。

  「星!お前・・・星ではないのか!?」

  愛紗は槍を構え直した応竜に向かって、そう叫ぶ。だが、応竜は愛紗の言葉に耳を傾ける事は無かった。

  「おい、星!私の顔を見忘れたか!!」

  必死に呼びかける愛紗。しかしそんな彼女など知らんと言わんばかりに、応竜は愛紗に襲いかかる。

  ビュンッ!!!

  「うわっ・・・!」

  今度は間髪入れない槍による連続攻撃が愛紗に襲いかかる。

  「おのれ・・・、一体どういう事なのだ!あれは間違いなく星だと言うに・・・!これも外史喰らいの

  仕業だというのか!?」

  「愛紗さん!」

  ビュンッ!!!

  愛紗を援護するべく、紫苑が矢を放つ。

  カチンッ!

  だが、その矢は背中の羽が矢を叩き落とし、さらに羽の先が紫苑へと襲いかかる。

  ザシュッ!!!

  「きゃあっ!」

  「紫苑っ!?・・・星、貴様ぁあああああっ!!!」

  怒りを顔に露わにした愛紗は、青龍偃月刀を振りかざし、応竜に飛び掛かる。

  ボゥンッ!!!

  「がはっ・・・!」

  愛紗の攻撃が届く前に、彼女の脇腹を羽が薙ぎ払う。ギシギシと骨の軋む音を立て、愛紗の体は家の壁に

 叩きつけられる。

  「が、・・・がは・・・!」

  完全に動けない愛紗。しかし、応竜は彼女の方を見ておらず、とどめを刺す様子は無い。ただ上の方を見ている。

 すると、再び上空高く飛び上がる。

  屋根の上に降り立つ一人の男、飛び上がっていた応竜は彼の前に降り立った。愛紗はいつでもやれると判断した

 のである。そして今、一番に倒すべき相手をこの者と断定したのであった。

  「朱染めの剣士、またお前か・・・」

  屋根の上にて女と対峙している彼を見て、その場に戻って来た思春が零した。

  「あれがあの朱染めの剣士なのですか?」

  「わぁ・・・、本当に朱色に染まっている!」

  初めて朱染めの剣士を見た明命と小蓮の目は彼に釘付けであった。

  「あの・・・、今は戦闘中なのに・・・」

  そんな二人を見て、亞紗は呆れていた。

 朱色に染まった外套を身に纏った朱染めの剣士、右手には細身の片刃剣を握られている。

 そして、両手で握り直すと応竜に立ち向かって行くのであった。

-9ページ-

  

  一方で、先行する雪蓮、蓮華、冥琳達は城内に入っていた。

  「もう、城に入れたのはいいけど、何なのよ!あの敵の数は!?」

  「ここは敵の本陣・・・!何ら不思議な事では無いでしょう!」

  親衛隊を引き連れながら、後ろから追撃して来る自分達の倍以上の敵に愚痴を零す雪蓮と、その愚痴を

 受け流す蓮華。

  「・・・・・・」

  そしてもう一人、冥琳は何かを考えている。

  「周喩様、このままでは追いつかれてしまいます!」

  そこに後ろから付いてくる親衛隊の兵士が一人が叫ぶ。

 そして冥琳は一つの決心を付けた様に、親衛隊の兵士達に言った。

  「お前達、この私に命を預ける覚悟はあるか?」

  彼女の言葉に首を横に振る者はそこにはいなかった。彼女が言おうとする事を、彼等は理解していた。

 そして、親衛隊の兵士達は冥琳の合図に合わせ急な方向転換をして、後ろから追撃する敵達を迎撃態勢に入った。

 そこは王宮と目と鼻の先の石畳の廊下の所であった。

  「「冥琳っ!!」」

  冥琳の行動に、思わず立ち止まる雪蓮と蓮華。

  「二人は早く王宮に行きなさい!!ここは私達で食い止めて置きます!」

  「冥琳!?無茶言ってんじゃないわよ!あなた達だけであれだけの数を相手に出来るわけ・・・!!」

  「待って下さい、姉様!」

  雪蓮が言いきる前に口を出す蓮華。

  「蓮華・・・っ!?」

  そんな妹に目を丸くする姉。

  「奴等を倒した所で、すぐに増援が来るだけ。奴等を街から追い払うにはその総大将を・・・、祭を

  倒す以外に手は無いはず!ならば、ここは冥琳に任せ、一刻も早く祭を!」

  「蓮華様・・・」

  いきり立つ姉を上手く説得させる蓮華を見て、何かを感じた冥琳。蓮華は冥琳の方に顔を向ける。

  「冥琳、ここはあなた達に任せていいのね?」

  今までに見た事も無い凛々しい姿の彼女がそこにはあった。それを見た冥琳は、一瞬嬉しそうな顔をして

 縦に頷く。そしてすぐにきりっとした軍師の顔に戻る。

  「行け、雪蓮!走るのです、蓮華様!」

  「ええ!行きましょう、姉様!」

  冥琳の言葉に従うように、その場を後にし、駆け出す蓮華。そんな妹と親友を交互に見ながらどうしたら

 いいのか迷っている雪蓮。

  「・・・分かったわよ!行けばいいんでしょ行けば!冥琳、頼んだわよ!」

  やややけくそ気味に・・・、妹の後を追いかけるのであった。二人の背中を見送る冥琳。そして蓮華の背中を

 見つめながら、何かを悟った。

  「・・・もしかすれば、蓮華様が王になる日は近いのかもしれないな」

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  ガゴォオオオッ!!!ガゴォオオオッ!!!ガゴォオオオッ!!!

  応竜の背中に生える六枚の羽が朱染めの剣士に襲いかかる。

 剣士はそれをステップを踏むように、屋根の上を移動する。羽の先端は瓦を砕き、屋根を貫く。

  ボゥウンッ!!!

  今度は真っ直ぐに剣士の体に向かって襲いかかるが、剣士は後ろに捻りを加えた宙返りをして回避すると

 同時に下に降り、地面に倒れていた兵士の手から一本の剣を拾い上げた。

  ザシュウウウッ!!!

  その兵士の死体を刺し貫く羽。朱染めの剣士の上に飛び下りてくる応竜に、彼は身を屈めた体勢から地面を

 転がり、その場を離れる。そして彼がいた場所を五枚の羽が刺し貫く。五枚の羽は女の背中へと戻っていくが、

 残りの兵士を刺し貫いた羽は彼にめがけてその死体を投げる。朱染めの剣士は右に軽く避けるが、そこにすかさず

 羽が襲いかかって来た。朱染めの剣士は先程拾った剣を逆手に持ち、自分に襲い掛かってくる一枚の羽をその場で

 待つ。

  ザシュッ!!!

  逆手に持った剣を振り降ろすと、剣の切っ先は地面ごとその羽を刺し貫いた。

  「・・・!?」

  羽を戻そうとする応竜だが、完全に固定され戻す事が出来ない。朱染めの剣士は落ちている剣を拾い上げると、

 三枚の羽が襲いかかる。朱染めの剣士は家の壁を背後にして、三枚の羽を待ち構える。

  ザシュッ!!!

  今度は羽三枚一緒に、家の壁ごと刺し貫いた。朱染めの剣士はもう一本の剣、南海覇王を鞘から抜くと四枚の

 羽を固定されてしまった応竜に向かって行く。応竜は彼を迎撃するべく、残り二枚の羽を伸ばす。が、朱染めの

 剣士はそれを地面にたたき伏せ、立ち止まる事無く一気に近づく。

  「・・・!」

  ブォウンッ!!!

  ガッゴォオオッ!!!

  応竜は彼の放った斬撃を長槍で防ぐ。すると、今度は背中の羽の根元を固定していた鎧の部分が開き、六枚の

 羽の根元が応竜の鎧から落ちる。

  「見て!あいつの羽が取れたよ!!」

  それを見た小蓮が大声を上げて皆に教える。

  ギィイイインッ!!!

  鈍い金属音と共に、二人は離れると応竜は長槍を両手に持ち、再び先程の構えを取る。

 そんな応竜の姿を見た朱染めの剣士も剣を構えた。

-11ページ-

  

  バァアン・・・・・・ッ!!!

  その大きい扉を両手で開く雪蓮。そこは自分達が良く知る王宮・・・、王宮内は物音一つせず、静寂に

 包まれていた。雪蓮と蓮華は剣を取りつつ、中へと慎重に入っていく。歩くたびに二人の足音が響き渡る。

 二人は何事も無く、王座の間へと辿り着くと、二人は歩みを止め、再び王宮内は静寂に包まれる。

  「・・・祭!ここに居るのは分かっているのよ!出て来なさい!」

  雪蓮の声が王宮内で何重になって響き渡る。

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  「「っ!?」」

  何処からともなく飛んできた二本の矢、雪蓮は咄嗟に剣で叩き落とし、蓮華は身をかわして避ける。

 そして今度は天井の上、闇の中から矢を放った張本人が王座の前に音も無く降り立った。

  「「祭っ!」」

  二人がその人物の真名を呼ぶ。以前、朱染めの剣士によって左腕を斬られたはずが何故かそこにあった。

  「ふむ・・・。思いのほか、来るのが早かったようですな。策殿、蓮華様」

  「・・・あなたの事は、女渦から聞いたわ。と言っても、完全に理解してるわけではないけどね」

  「ふはは・・・、まぁそれで良いのではなかろうか?わしとて全部を理解している訳ではないからのう」

  「・・・でしょうね。そして、あなたがどうしてこんな真似をするのかも・・・ね」

  「こんな真似・・・とは?わしの愛するこの国を襲った事を言っておるのですかな?」

  「分かっていて、そう言う事をしているのね」

  「それが何か問題でも?」

  「祭!もう止めて!あなたはあの男に利用されているのよ!」

  「・・・でしょうな」

  蓮華の叫びにも似た説得に抵抗する事無く肯定する祭。

  「え・・・?」

  「何・・・ですって?」

  そんな祭に面食らう二人・・・。

  「何をそんなに驚いておるか?お二人の誤解が無いよう言っておくが、わしは別にあの小僧に術などで操られて

  いるわけではありませんぞ?わしは・・・、わし自身の意思で、女渦の手となり足となり、そして今ここに

  おる・・・、ただそれだけの事じゃ」

  祭の言葉を聞いた蓮華の顔が一瞬にして青ざめる。

  「・・・嘘よ。そんなの、嘘よ!!ならどうして、どうしてこんなひどい事をするの!?

  誰よりもこの孫呉を愛していたあなたが、この国を!民達を!その想いを!どうしてそんな簡単に

  傷つけ、踏みにじる事が出来るというのっ!?」

  蓮華の両目から大粒の涙が零れ落ちる。それを見た祭は目を閉じ、そして軽く一息をついた。

  「うざいのぅ・・・、本当に」

  「・・・・・・え?」

  その祭の思いがけない言葉に、蓮華は理解が出来ず、一瞬思考が止まる。そんな彼女を、祭は露骨に卑下する

 目で見ている。

  「甘ちゃん思考の小娘の言葉なぞ、聞いているだけでも反吐がでそうじゃよ」

  そう言うと、祭は蓮華にピンと伸ばした一指し指の先を向ける。

  「そんなお主が、このわしの・・・一体何を知り、何を理解しておるというんじゃ!?

  自惚れるな・・・、孫仲謀!お前さん如きに語られる程に、わしは並み程に生きてなどおらぬわッ!!!」

  「ぅ・・・っ!」

  祭の持つその威圧感と発した言葉の重みに、蓮華怯み、一歩後ろへと引き下がってしまう。

  「この外史は女渦達・・・、外史喰らいによって跡形も無く消される事となる。これはもはや不動たる

  決定的な運命じゃ!お主達、駒風情がどう足掻こうとも!・・・ならばせめて、どうせ消えるのであれば、

  せめてこの孫呉だけは私の手で滅ぼすッ!!それが・・・、それこそが!この国に一生を捧げ、死してなお

  もここに存在する、わしに出来る唯一の愛情表現だと、何故にそれが分からんのじゃ!?」

  「・・・ふざけんじゃないわよっっっ!!」

  「ね、姉様!?」

  雪蓮の腹の奥底から吐き出された低音の怒声に、隣にいた蓮華はびくっと体が震えた。

  「聞いていれば勝手なことばかり・・・!!消されるなら、せめて自分の手で滅ぼす!?それが愛です

  って!?まさかあなたの口からそんな言葉が出るなんて思いもしなかったわ!!」

  「・・・・・・」

  その雪蓮の怒りの込められた言葉が祭の全身に叩きつけられる。そして、雪連は祭を獣の様な目で睨みつける。

  「祭・・・、いえこの下朗!!私達の国は・・・、孫呉という国はそんな生半可なもので出来てなんて

  いないのよ!!!母様が・・・、そして今までに散っていった多くの英兵達の血と肉を礎にした、その上

  にこの孫呉という国は成っている!!」

  「そしてわしの血肉もまたその礎となった・・・」

  そう言いながら祭は目を瞑り、感慨深く言う。その一方で、雪連の激昂はさらに高まる。

  祭の言葉に耳を

  「黙れ、この偽物風情が!!!」

  「下朗の次は偽物呼ばわりですか?」

  やれやれと首を横に振る祭。

  「はっきりと分かったわ・・・。あなたは、あなたは!私達が知っている『黄蓋公覆』でない!!

  私達の『敵』だって事がっ!!!」

  「・・・ならその敵であるわしをどうなさる気なのじゃ?」

  「決まっているわ・・・!これ以上、私達の『黄蓋公覆』の誇りを汚させないために、あなたを・・・斬る!!!」

  そして雪蓮は南海覇王の切っ先を祭に向けた。

-12ページ-

 

  羽をもがれた応竜と対峙する朱染めの剣士。

  「ようやく我等と同じ・・・となったか?」

  青龍偃月刀を杖代わりにして、腹を抱えながら立ち上がる愛紗。そこに容赦なく襲いかかってくる傀儡の兵。

  ザシュッ!!!

  「ッ!?!?」

  だが、思春の背後からの一撃に切り捨てられる。

  「油断するな。敵はあれだけではないのだぞ!」

  「あぁ・・・、世話を掛けた・・・」

  「とは言え、あの男の介入で戦況は大きく変わったと言ってもいいだろうが・・・」

  そう言って、思春は朱染めの剣士の後ろ姿を見る。

  「大丈夫、紫苑?」

  小蓮は負傷した紫苑の側で心配する。

  「えぇ、出血はひどいようだけど、傷は浅いからすぐに止まるわ」

  心配そうに見ている小蓮に自分は大丈夫である事を伝える。

  ガッゴォオオオッ!!!

  再び動き出す応竜と朱染めの剣士。先に攻撃を仕掛けて来たのは応竜であった。6枚の羽を失ってなお、

 その突進力は健在であった。朱染めの剣士は応竜の突きをまず、二つの剣にて受け流し、突進してくる応竜に

 臆せず自ら距離を詰めていく。

  ドガァアッ!!!

  槍の間合い、さらに剣の間合いの内側に入った朱染めの剣士は全体重を左足に傾け、応竜に当て身を放つ。

 白銀の鎧は如何な攻撃をも受け付けない。だが、衝撃までは受け止める事は出来ない。渾身の当て身をまともに

 喰らった応竜は後方へと吹き飛ばされ、そのまま家の壁を破壊した。崩壊した壁に近づこうとする朱染めの剣士の

 前に愛紗が立ち塞がる。

  「待て、待ってくれ!奴を殺さないでくれ!」

  朱染めの剣士は足を止め、彼女の方を見る。

  「奴は・・・星、私の仲間なんだ!」

  「・・・そうだろうと、・・・関係、ない」

  そう吐き捨てる様に言い、愛紗を自分の前から退かす。

  「・・・待て!」

  自分の横を過ぎ、応竜へと近づこうとする朱染めの剣士の右腕を咄嗟に握る。剣士は足を止め、彼女の方に

 顔を向けた。

  「頼む・・・、待って、くれ・・・。お願いだ・・・」

  そこには誇り高い武人の関羽雲長ではなく、ただ一人のかけがえのない仲間を案じ、懇願する少女がいた。

 彼女には仲間を救うための術を知らない。だから、それを知るであろう唯一のものに頼るしかなかった。恥も

 屈辱も捨て、愛紗は朱染めの剣士に仲間である、星を助けて貰えるように・・・。

  「・・・・・・」

  彼は何も言わず、ただ彼女を見ているのみ。そして、何かを思い返した様に上を見上げた。

  「・・・一つだけ、ある。彼女を救う方法が・・・」

  その言葉に、曇った顔に光が指し込む。

  「っ!?本当か・・・!」

  「だが、そのためには時間が、必要だ。少しの間、奴の・・・、動きを、封じて欲しい」

  分かった、そう愛紗が言葉にしようとした。

  「何を好き勝手に話を進めておるのだ、貴様」

  思春は何が気に喰わないのか、ひどく不愉快な顔で彼を睨み、愛紗の声を遮った。

  「し、思春殿!こんな時に喧嘩をしている場合では無いかと・・・!」

  喧嘩腰の思春を明命は思い止まらせようとするが、彼女は聞く耳を持たない。

  「勝手に現れ、勝手に戦い、勝手に去り、勝手な事を平然と言い、貴様は一体何様のつもりだ?」

  そして彼の首筋に鈴音の剣先をすれすれの所まで押し当てる。

  「そんな貴様の事だ・・・、お前がいた世界の蓮華様にもさぞかし苦労を掛けたのだろうな。違うか、

  北郷一刀・・・?」

  「・・・・・・ふっははは・・・」

  自分の首筋に剣先が押し当てられているにも関わず、朱染めの剣士は声が掠れた感じに笑い始めた。

  「っ!何が可笑しい!?」

  「・・・、俺が、知っている彼女も・・・、何かと因縁をつけ、よく俺の首に、剣先をつき付けていた・・・」

  そして彼は思春の方を見る。

  「君も・・・、全く同じ事、をするんだな・・・、と思って、な」

  「な・・・っ!」

  思わぬ彼の言葉に、思わず剣を引き、自分の表情が彼から見えないように隠す思春。

  「・・・全く、こんな時に何を言うのだ貴様は!!」

  怒っている様ではあるが、何処か照れ隠しのようにも映る。マフラーで顔半分を隠し、後ろの明命を横目に見る。

  「幼平」

  「は、はい!」

  「あれの動きを私達で封じる」

  「・・・はい、分かりました!」

  「ならば・・・!」

  「行きます・・・!」

-13ページ-

 

  家の中から壊れた壁を押し返して外へと出てくる応竜。その真上には鈴音を応竜に振り落とす思春の姿。

  ブォウンッ!!!

  思春が振り下ろした斬撃を長槍で受け止め、彼女の体ごと弾き返すも思春は宙で体をひねり返す。

  ブオゥンッ!!!

  思春の斬撃を受け返した直後の応竜の右横に今度は明命が魂切で鎧と鎧の間、つまり関節の部分に横薙ぎを

 放つが、応竜は右足を右に90度回す事でその一撃をすり抜ける。そして今度は明命に反撃を返そうとする。

  ガチィイインッ!!!

  がその前に、思春が背後に一撃を叩きつける。その衝撃に前のめりになりながらも後ろの思春にすかさず

 反撃を与える。

  ボゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  その長い槍の切っ先が回避したはずの思春の左太腿をかするも彼女は動じない。

  ガチィイインッ!!!

  今度は明命と思春が反対方向から入れ替わりながら同時に斬りかかる。鎧と剣がぶつかる時に鳴る金属音が

 二重に重なって響く。そして応竜に反撃の隙を与えまいと、立て続けに同時攻撃を重ねるていく。二人の連携

 に翻弄される応竜。そしていつの間にかその身体には鎖が幾重にも巻き付けられていた。応竜に攻撃する際に

 二人が巻き付けたのである。そしてその鎖を少し離れた所から力の限りに引く呉の精鋭達によって、応竜の

 動きが止まった。だが、応竜もまた必死に抵抗する・・・。

  ブゥオンッ!!!

  そこに朱染めの剣士が応竜の体に触れそうで触れない、右拳による寸止めを放つ。応竜の動きが封じられ

 てから三秒後の出来事であった・・・。

  ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

  一瞬の静寂を切り裂くその轟音と共に寸止めされた右拳の前から応竜に向かって青白い光が大量に放たれる。

 一瞬にして光に包みこまれる応竜。光はそのまま地面と平行に通りを駆け抜けながら、次第にその軌道を上方

 へと逸れ、雲を掻き消しながら、空の彼方へと進んでいった。

  応竜の鎧の下、肌に密着していた黒い膜状のものが次々と鎧の隙間から溶ける様に光の中へと消えていく。

 そんな中、応竜の背中に必死にしがみつく一つの影。その影こそ、応竜、もとい星を操っていた張本人であった。

 その影から数本の触手が光の外を飛びだし、朱染めの剣士に襲いかかる。朱染めの剣士は右腕に左手を乗せる。

  「終わ、りだ・・・」

  そう言って、両腕に力が込められる。途端、光は更に太く、光速が上がる。影はついに星の体から引きはが

 され、その姿は光の中へと掻き消されていく。

  「・・・・・・ッ!?!?」

  影は次第に小さくなっていき、ついには跡形も残らず、光の中へと消滅するのであった・・・。空の彼方へと

 伸びて行った光は次第に中心へと収束し、消滅した。

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

  そこに居合わせていた者達は揃って口を開けたまま、声を発する事無く唖然としていた。

 そこに残ったのは、白銀の鎧を脱ぎ捨てた、裸体の星だけ。支えていたものを失くした彼女の体はそのまま地面へ

 と倒れる。朱染めの剣士は身に付けていた外套を脱ぐと、それを星の体に掛ける。

  「・・・星!!」

  自分の世界から戻って来た愛紗は星の元に駆け寄る。

  「ん・・・」

  「星・・・、まだ息があるのだな」

  まだ息がある事が確認できた愛紗は安著する。

  「私だけでなく、星も助けてくれるとは・・・、お主と北郷殿には助けられてばかりだな。

  一体どう礼をすれば・・・、ん・・・い、いない!?」

  朱染めの剣士の方に顔を向ける愛紗。しかし、当の本人はそこにはおらず・・・。愛紗は彼の姿を探すが

 何処にも無かった。

  「あ、あれ・・・?今そこにいたはずですが・・・」

  そう言いながら、明命も彼の姿を探す。

  「全く・・・、人の話を聞かん男だ」

  やれやれと呆れる思春、そしてここからよく見える建業の城に目をやる。

  「蓮華様・・・」

-14ページ-

 

  「がはっ・・・!」

  「姉様!」

  口から血を吐き出す雪蓮の体を蓮華は支える。

  「・・・ふぅ」

  そんな二人の姿を見て、祭は二人に聞こえるようにわざと大きな溜息を吐いた。

  「失望しましたぞ、御二方。二人掛かりだというに、この儂程度に遅れを取るなどとは・・・。この二年の

  間に随分とふ抜けてしまったようですな」

  「何、ですって・・・!?」

  血反吐を吐きながら声を出す雪蓮。

  「平和ボケし、戦を忘れた虎は自分の爪を研ぐ事を怠るもの・・・。今のお前達はまさにその虎じゃ!

  わしはこんなふ抜け共のために命を捨てたと思うと、歯痒くて仕方がないわっ!!」

  「・・・・・・」

  「・・・・・・!」

  祭の罵声に言葉を失くす蓮華と俯く雪蓮。そんな二人に追い打ちをかける。

  「何よりその程度の力で、儂等と対等に戦が出来ると思うた、その浅はかさ!

  はッ!片腹痛いにも程があるわ!所詮は、与えられた役割を演じるだけの道化に過ぎぬということじゃ・・・!」

  と、そこに一人、朱染めの剣士がコツコツと音を立てて現れた。

  「あなたは・・・!」

  蓮華は彼の姿を複雑な顔で見る。やはり来てくれたという喜び、このタイミングで来るかという不快感が水と油

 の様に入り混じらない相反する感情のせいで・・・。一方で、純粋に喜ぶのは祭であった。

  「おぉ!やはりお主も来ていたのだな!丁度良い、ふ抜けた小娘達の剣戯に突き合うのも飽き飽きしていたのだ。

  お主なら、退屈せずに済むかものう・・・」

  「・・・・・・」

  朱染めの剣士は無言のまま腰に帯刀してあった剣の柄に手をかけ、ゆっくり歩み寄ろうとした。

  ビュンッ!

  が、彼の足が止まる。その喉元に雪蓮の南海覇王の先端が突きつけられている。

  「下がりなさい・・・!あれの相手は、私よ!勝手にやって来た揚句、勝手に横槍を入れんじゃないわよ!」

  「・・・」

  朱染めの剣士は何も言わず、雪蓮の方を見る。

 数秒の沈黙の末、彼は柄から手を離し、数歩後ろへと下がっていく。雪蓮は蓮華から離れると、蓮華に彼が変な

 動きをしないように見ていないさいと言い残すと、祭の方を見る。

  「策殿・・・、お主はわしの命だけでなく、わしの愉しみまで奪うつもりなのか?」

  不機嫌な様子で喋る祭。雪蓮は口元の血を親指を拭うと、祭を睨みつける。

  「黙りなさい。あんたのお喋りにはもううんざりなのよ。死人に口無し・・・、私の手でもう一度あの世に

  送り返してやるわ!」

  「・・・弱い者ほど良く吠える、じゃな。まして、その研がれておらぬ爪でわしを切り裂く事は出来まい!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  二本の矢を弓で同時に放つ祭。

  カチンッ!!!カチンッ!!!

  その矢二本を一振りで払い落とす雪蓮。

  「研がれていないですって?研がれていないか、あんたのその身を以て判断してみなさいよ!!」

  ブォウンッ!!!

  「ふんっ!言う事だけが達者じゃなぁっ!」

  見え透いた斬撃を軽く横に動いてかわすと、祭はそのまま雪蓮の顎に肘鉄を叩き込んだ。

  ゴッ!!!

  「ぐ・・・っ!」

  肘鉄を受けた雪蓮、折れる膝を踏ん張りで支え、必死に反撃に移る。

  ブゥオンッ!!!

  ガッゴォオオッ!!!

  だがその反撃も祭の弓によって防がれる。しかもその弓にはすでに矢が引かれ、矢の先端が雪蓮の首筋を

 捉えていた。

  「姉様っ!?」

  姉の危機に前に出ようとする蓮華を手で遮る朱染めの剣士。そして矢の尾を摘まんでいた祭の手が離れる。

  ビュンッ!!!

  「っ!!!」

  ザシュッ!!!

  「・・・・・・」

  「・・・っ!!」

  「・・・痛っ!」

  矢が雪蓮の左手を刺し貫き、そこから血が流れる。その痛みに声を洩らす雪蓮。雪蓮は咄嗟に左手を前に出し、

 矢を受け止めたのだ。雪蓮は祭の弓を力任せに払い除けると、そこに斬撃を放つ。

  ブォウンッ!!!

  「ちぃっ!」

  祭は斬撃を避けるべく、後ろへと下がる。再び矢を放とうとしたが、すでに雪蓮は前に飛び出し、間合いを

 詰めて来ていた。雪蓮の口には先程左手を貫いた矢が咥えられており、ぺっと横に吐き出し、南海覇王を振った。

  ブォウンッ!!!

  南海覇王は祭の首筋にを捉え、矢は雪蓮の眉間を捉え、二人は互いにその状態で膠着する。

  「・・・あなたと戦っていて、私にも少し分かったわ」

  「・・・・・・」

  膠着していた状態で、雪蓮は心に思った事を敵の祭に吐露する。祭はその声にただ黙って聞く。

  「あなたは私達の知っている祭とは違う・・・でも、それだけの事。やっぱりあなたは『黄蓋公覆』・・・、

  『祭』なのよ。一つの信念の元で、そのためならばその命を捨てる覚悟を辞さない・・・今、思いだしたわ」

  「・・・・・・」

  祭はなお黙って聞いている。

  「私には正史だの、外史だの、外史喰らいだの、正直よく分からないわ。けれど、あなたがこの国のために

  戦っている事は私にでも分かる・・・」

  「・・・・・・」

  「その証拠にあなたは街の皆には危害を加えなかった。あいつ等にそうさせない様、あなたが抑えていた

  のでしょう・・・?この国を襲い、私達にあんな事を言ったのだって、私達に戦う覚悟を確固たるものに

  昇華させるためだった。・・・あなたは自ら私達の敵となる事で、私達を影ながらに守ろうとしていたのよ」

  自分の推論を言い終えた雪蓮は祭から南海覇王を下ろす。

  「所詮、儂は人形・・・。あ奴の指示に従い、演じるだけの人形じゃ。そんな儂の想いなど・・・、何の意味も

  為さん。人形に・・・心は無いのじゃからな」

  そして、祭も引いていた弓の弦を緩め、矢と弓を下ろす。

  「祭・・・」

  小さい声で雪蓮はそう呟きかける。

  「儂がそのような事をした所で、女渦達の思惑に何ら影響が出るわけじゃない。じゃから、ここでどうこうした

  として、先程言った結末が変わるとは・・・」

  何処か悲しげで、しかし何処か淡い希望を求めている様な、そんな複雑な表情で俯き、淡々と語る祭。

  「何よ、らしくない事を言うのね、祭?」

  それを聞いていた雪蓮はそんな祭の弱音ともとれる台詞に対して嫌味で返してみる。

  「では、逆に勝てると思うておるのか?」

  「・・・・・・」

  その問いに途端、雪蓮は眉を潜め、黙り込む。その沈黙を祭は解答と解釈した。

  「その沈黙が答えじゃ。勝てる負けるは他ならぬ自分が良く分かっておるわけじゃ」

  その言葉が雪蓮の心に突き刺さり、深く項垂れる。少しの沈黙を得て、顔を上げる。

  「・・・そうね。でも、だからといってこのまま何もしないで、殺されるのを待つ程、物分かりが良くないのよ

  私達は・・・。だから最後の最後まで抗うわ、例え、滅ぼされるのが運命だとしてもね!」

  先程までの苦心の表情がまだ残っていたが、それでもその言葉は力強く、確かな発言力があった。

  「・・・はぁ、馬鹿じゃ馬鹿じゃと思っておったが、ここまでとは・・・」

  くくく・・・と、祭はやや馬鹿にした感じで喋る。途端に、場の空気が緩む。

  「・・・、わ、悪かったわね!・・・けど、そう言っているあなただってかつてはこちら側にいたのよ」

  「じゃな、確かに・・・。ふふっ・・・!」

  そして、どっと笑い出す。蚊帳の外の蓮華と朱染めの剣士は呆れ返るばかりだった。

  「まぁ・・・、あの男がそちらにいるのならば・・・」

  「・・・・・・」

  祭は朱染めの剣士の方を見ると、祭はけらけらと笑う。

  「祭、教えて頂戴。奴は・・・、女渦は何処にいるの?」

  雪蓮は祭に問うと、祭は笑うのを止める。

  「行くのですかな?」

  「えぇ、勿論。それとも、さっき言った事・・・もう一度言った方が良いかしら?」

  「・・・そうじゃな。奴は、傷の治療のため・・・」

 

  ピィイイイイイインッ!!!

 

  「ぐ、ぐぅうっ!?!」

  「「祭・・・!」」

  「・・・ッ!」

  祭の頭の中に弦を引っ張った様な音が鳴り響く。その途端、祭に頭に激痛が走り、堪らず頭を抱え、苦しみ出す。

  『祭さん?もうそれ以上喋らなくていいよ・・・』

  祭の頭の中だけに女渦の声が響く。

  『祭さん・・・あなたは酷い人だぁ。これでも僕はあなたの事を信頼していたんだよ?この僕の信頼を裏切る

  ような真似をしてくれちゃって・・・、残念だ。とても、残念だよ!!!』

  そんな事を言いながら嬉しそうに喋る。

  『まぁ、そろそろお役御免だったしね。ここが潮時だったてことかな?だから・・・、せめて最後は僕のために

  散っておくれよぉッ!!!』  

  「・・・・・・・・・っ!!!」

  そして、力尽きた様に横に倒れる祭。

  「祭っ!?」

  倒れた祭の体を抱き起こす雪蓮。

  「祭、どうしたの!?しっかりして・・・!」

  ドスッ!!!

  「な、ぁ・・・っ!?」

  雪蓮は下腹部に違和感を感じる。見ると、下腹部に小刀が一本深く突き刺さり、じんわりと血が滲み出る。

 雪蓮に抱きかかえられていた祭は雪蓮の腕を払い除け、一人で立ち上がる。今度は雪蓮が横に倒れる。彼女が

 握っていた南海覇王が床に落ち、祭はそれを拾い上げる。

  「あ、あなた・・・、祭じゃ、ないわね・・・!」

  地べたを這いずるように、雪蓮は祭を見上げる。見れば彼女の目に生気は無く、死んだ魚の様であった。

 祭は何も言わず、両手で逆手に握った南海覇王の切っ先を雪蓮に向ける。

  「祭ーーーっ!!」

  祭の真名を叫ぶ蓮華。だがその叫びは彼女に届かない。祭は雪蓮に南海覇王を落とした。

  

  ガギィイイインッ!!!

 

  祭の南海覇王の切っ先、朱染めの剣士の南海覇王の剣先が見事に捉える。間一髪の所で朱染めの剣士が祭による

 雪蓮への止めを阻止したのであった。

-15ページ-

 

  「・・・これ以上、あなたの手を、奴のために・・・汚させる、訳にはいかな、い!」

  ガキィイッ!!!

  そう言って、朱染めの剣士は雪蓮の南海覇王を跳ね返すと、祭は数歩後ろへと下がって行く。そして、体勢を

 整えると、今度は祭から朱染めの剣士に仕掛けていく。

  「・・・っ!」

  朱染めの剣士は南海覇王を両手で構え直し、祭の攻撃を待ち構える。

  ブゥオンッ!!!

  ガギィイインッ!!!

  祭の放った振り下ろしを剣先でしっかりと受け止め、撥ね退ける。

  ブゥオンッ!!!

  ガッゴォオオッ!!!

  そして朱染めの剣士は祭に横薙ぎを仕掛けるが、祭に受け止められる。そして、祭はくるりと一回転を加え、

 剣士の左肩を狙って袈裟蹴りを放つ。

  ブゥオンッ!!!

  剣士は咄嗟に後方に下がり、その斬撃は空を切る。そして、下がった瞬間と同時に朱染めの剣士は前へと詰め、

 祭に斬撃を放つ。祭も同様、仕掛けてきた剣士に斬撃を放つ。

  ブゥオンッ!!!

  ガギィイインッ!!!

  南海覇王の刃がぶつかり合い、そのまま鍔迫り合いに移る。きりきりと鍔を競り合わせ、互いに牽制する。

 先に仕掛けるは朱染めの剣士、祭が一瞬引いた所をみて、一気に押し返すと更に直蹴りを放つ。放った蹴りは

 祭の腹部を捉え、祭を後ろへと引き下がらせる。しかし、祭も引き下がりながらも、裾から小刀を数本取り出し、

 剣士に投げる。

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  投げられた小刀を南海覇王で弾き落とつつ、朱染めの剣士は距離を詰めていく。

  ブゥオンッ!!!

  ガギィイッ!!!

  ブゥオンッ!!!

  ガッゴォッ!!!

  ブゥオンッ!!!

  ガギィイッ!!!

  ブゥオンッ!!!

  ガッゴォオッ!!!

  斬撃の撃ち合い、受け止め、そしてその隙を狙ってまた斬撃を放つ。

  ブゥオンッ!!!

  「ッ!!」

  ザシュッ!!!

  眉間に放たれた突きを寸前の所でかわす朱染めの剣士。突きは顔の間横、こめかみすれすれをすり抜ける。

 その時、彼の長髪と彼の目もとに巻かれていた鉢巻が宙を舞う。鉢巻きによって隠れていた両目が露わになるが、

 彼の左目はその中央を横断した深く抉られた傷跡と共に閉じられていた。

  ブゥオンッ!!!

  それに構わず反撃する。

  ガギィイイインッ!!!

  だが、それも祭に受け止められてしまう。この時、一瞬南海覇王を握る祭の手首を見ると、一旦距離を取り、

 構え直す。

  「・・・・・・」

  改めて祭を見る。朱染めの剣士は理解していた。今の彼女は女渦によって操り人形と化してしまった事を。

 南海覇王を握る両手に力が入る。彼女を女渦から救う方法は、一つしかない事を。

  「・・・ッ!!」

  ブォオンッ!!!

  ガッゴォォオオッ!!!

  剣士の一歩前に深く踏み込んだ一撃を祭は受け止めるが、構わず全体重を南海覇王にかけ、強引に

 押し込む。しかし、祭は何のそのと言わんばかりに、南海覇王ごと跳ね退けたようと押し返した。

  ブゥオンッ!!!

  剣士はは咄嗟に引き、再び振り下ろす。

  ガゴォオオッ!!!

  再び、剣と剣がぶつかる。祭は朱染めの剣士の南海覇王を押し返そうとした。

  「・・・ッ!」

  だが、剣士は祭のその動きを見極めると、押し返さず逆に自ら引く。

  「・・・!?」

  押し返そうとした祭は肩透かしをされる形で、わずかに体勢が崩れる。

 剣士はは引いた南海覇王にて祭の握る南海覇王を下からその手首に最も近い鍔付近に叩き上げた。

  キィイイインッ!!!

  朱染めの剣士の下から叩き上げによって、祭は手から南海覇王を離してしまう。

 雪蓮の南海覇王はくるくると回転しながら、上へと跳ね飛ばされた。無防備の状態となった祭に、朱染めの剣士は

 南海覇王をぎゅっと両手で握り締め、そして大きく振り上げる。 この時、一瞬ではあったが、祭は笑っていた。

 それに気づいたのか、気付かなかったのか、・・・朱染めの剣士は、一刀は振り下ろした。

  「や、止めてっ―――!!!」

  咄嗟に蓮華が何かを言おうとした瞬間・・・、

  ザシュウウウウウウウッッ!!!

  彼女の右肩から左横腹部にかけて、斬り降ろされた所からおびただしい鮮血が天に向かって溢れ出て、束ねられ

 ていた髪がほどける。南海覇王は祭の血に濡れ、またそれを握る一刀もまた彼女の血に濡れた。

  「祭ーーーーーーっ!!!」

  思わず叫んでしまう雪蓮。

 先程まで殺し合っていたはずなのに、それにもかかわらず祭の姿を見た瞬間、何か大事なモノを失ってしまう

 喪失感が彼女を支配する。

  「ぁ・・・、ぁあっ・・・ぁあ」

  祭は死んではいなかった。すでに多量の出血で体から血という血が抜け出てしまったはずなのに、それでも

 彼女は死んでいなかった。祭は何かを探すように、両手を前に伸ばして前に数歩歩く。彼女の前には朱染めの剣士が

 立っていた、全身を彼女の血で染めた・・・北郷一刀だった男が。そしてようやく祭の両手が彼の両肩を掴む。

  「はぁ・・・、・・・はぁ・・・、・・・はぁ・・・」

  肩で呼吸をするも、血が足りないせいで彼女の顔がみるみると青白く変貌していく。

 そんな姿を見るに堪えず、朱染めの剣士は祭の顔から目をそらす。それでも祭は持てる力を振り絞り、口を開いた。

  「朱染めの、剣士・・・、頼みが・・・ある。・・・この、儂を・・・黄公覆を、討ち取った・・・男の顔を

  ・・・見せてはくれぬか?」

  苦しそうに息継ぎをしながら喋る祭に願いに答えるのように、朱染めの剣士はゆっくりと彼女の目の前に自分の

 顔を差し出した。祭はその顔をしっかりと見ようと両手で彼の顔の輪郭をなぞり、確かめる。そして、祭の顔は

 苦しいながらも、嬉しそうにその顔を見る。朱染めの剣士はそんな祭を無表情と言える表情で見つめる。

  「・・・ぉぉ、・・・ぉおお、これが・・・わしを討ち取った男の顔・・・なのか・・・何と・・・、何

  とこんなに、良い男に・・・なりおって・・・」

  彼女の目は、成長した自分の子供を見る親のような、そんな優しい目だった。

  「・・・右も左も分からぬ・・・ひよっ子だったくせに、・・・こんなに立派になりおって・・・、なぁ・・・」

  その時、祭の目から一筋の涙が流れ落ちる。

  「祭・・・さん」

  この時、朱染めの剣士は初めて彼女の真名を呼んだ、言うまいとしていたその名を。

  「・・・・・・」

  祭は朱染めの剣士に体を預けると、彼は彼女を優しく、両手で抱き締める。

  「・・・ああ、北郷・・・。お前で・・・、本当に良かった・・・。後の事は・・・、任せても大丈夫

  じゃな・・・。た、のんだぞ・・・、さく、どのと・・・、れん、ふぁ・・・、さま・・・を・・・」

  そう言い残し、祭はゆっくりと目を閉じていく。

 

  バアアアアアアアンッッッ!!!

 

  巨大風船が破裂したような音と共に、朱染めの剣士に抱き締められていた祭の体は、黒い文字の破片へと姿を

 変え、破裂音と共に周囲に散っていく。宙に舞った文字の一つを、蓮華は右手で受け止めるも、文字は皮膚に触れた

 瞬間、風化し、消えてしまう。祭の体だったはずの文字達は、次々と消えてなくなっていく。それはまるで祭が

 ここに存在していた事を無かった事にしようとしている様であった・・・。

-16ページ-

 

  ―――なれるかなぁ?

 

  ―――なってみせろ。そして、わしを使いこなしてみせるがいい

 

  ―――俺が・・・祭さんを?

 

  ―――ああ。期待してるぞ。未来の大都督よ

  

 

 

  ―――天の遣いであるお主が、都督として名を轟かせれば、まさしく神と崇められ、他国からは

    恐れられよう。さすれば我が国の将来は安泰じゃ

 

  ―――国に返す、か・・・

 

  ―――ん?何か言ったか?

 

  ―――ううん、何も。祭さんがそう言うなら、頑張ってみようかな

 

  ―――ほう。頼もしい事を言ってくれるではないか

 

  

  ・・・俺は頑張った、祭さんの期待に応えるために、祭さんに一人前の男として認められるために。

 そして俺は今・・・、祭さんに一人前の男として認められた。でも、彼女は・・・、もうそこにはいない。

 ・・・この手で彼女を殺したのだから・・・。

 

  俺は・・・、祭さんを殺した事で・・・、祭さんに・・・、一人前と認められた。

説明
こんばんわ、アンドレカンドレです。

 寒い日が続いてますね!僕なんか朝布団から出られなくてこまっています。早く暖かくなって欲しいです。

 なんだかbasesnonの方で何やら戦国恋姫のようなものを製作するするとか、何処の戦国無双だと・・・。

 僕的には、真・三国無双6が気になっていますけど・・・!

 さて、今回は朱染めの剣士のお話です。たくさんの人から応援を頂けたこのルートのお話。描写の改変、挿絵の修正、描き直しをし、より良く話を盛り上がるように直しました。

 では。真・恋姫無双 魏・外史伝 第二十章〜還らぬ者への鎮魂歌〜をどうぞ!!
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真・恋姫無双 恋姫無双 二次創作 魏ルート 再編集完全版 

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