夕焼けと雪
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 寒い日、駅の前で。

 ずっと、待ってる。

 息が白くなってぱっと消える。

 来ないかもしれないけど。

 見上げた空は、曇ってる。動かないで立っったままだから、体が冷えてきて鼻水が出てきた。

 鼻水をすする、昨日のことが頭に浮かぶ。思い出したくないけど、思い出してしまったから、

下を向く。

 地面が見える、余計に思い出してきて、強く目を瞑った。

 

 

 教室の開いたドアから見える、並んだ机と椅子。差し込んだ夕日で出来上がる机の窓の影。

 そして、人影。

 重なって見えた。

 似てたから、近づいてみた。

 信じたくなかったから、足音立てないようにした。

 でも。

 本物だったから。重なってたから。

 扉にかけた手が震えてた。

 二人は触れ合ってた。そして、彼女の頬を流れる涙と、お互いを見つめる瞳と微笑み。

 唇が力なく開くのが分かった。物凄く情けない顔だろう。でも、止められない。

 震える手が、扉を鳴らした。

 気づいたのは彼女。それから、彼が振り向いた。

 

 

 彼女の様に、涙は出てこなかった。ただ力が抜けた。

 繋いでいる手と手。しっかりと握り締めた筈だった私は。

 彼女と笑い合って過ごした日々。楽しかったのは、私だけ?

 信じてたのは私だけだったの?

 

 

 

 学校に来たら、手紙があった。下駄箱の中に。

 あの時、もう気持ちに正直にただそう動いただけだった。

 あの子の隣でいつも笑ってた、幼い顔の君をいつのまにか、あの子よりも好きになってた。

 あの子といても、君のことばかり考えてた。

 夕暮時の空。もう人も殆ど残っていない学校。君の教室で、君がいた。

 僕が顔をだしたら、笑いかけてくれて。

 何を話したら良いのかわからなくなって。

 君があの子のことを待っているんだと、そう話してくれた。

 あんまりにも僕が黙っているから、表情が硬くなって心配そうに変わる。そして、覗き込む。

 僕を真直ぐに見つめる揺れる瞳、夕焼けの色が映ってた。唇が僕を気遣う言葉を放つ。

 何も言えない。あの子にも何も言ってない。こんな汚いことしちゃだめだ。本当も嘘も何もな

くなる。

 僕が我慢すれば。

 君が黙り込む。困った顔。僕が悪い、みんな僕が悪い。

 君にそんな顔させるのも、あの子を傷つけてしまうのも。

 それでも。僕は君といたい。君がなんて言うかなんてわからないけど。

 緊張して頬が染まる。

 君の名前を呼んだ。

 

 

 

 どうしよう、きっと、傷ついている。

 私がきっと傷つけてしまった。

 あの時、あそこで、あの子を待っていて。

 ぼんやりして夕日を見たりして、物音に振り向いたら、あの人が立ってた。

 元気のない表情をしていたから、私は笑って声をかけた。

 そしたら、少し笑ってくれた。嬉しかった。この人は、あの子の隣にいる人だから。

 私はあの子が好きだから、傍にいたかった。

 そうすると、あのこの隣にこの人がいた。近づくたびに、この人の傍にもいたくなった。

 それは、好きってこと。

 すぐ打ち消そうとした。この人の最も近くに行くってことは、あの子を傷つける。裏切るとい

うこと。

 そんなことはできない。二人とも欲しいなんて、なんて欲張りな私。

 じゃぁ、どっちを取る?

 なんて考えた。一瞬でも考えた。

 誰も傷つかなければ良い、そう思った。だったら、もう手に入っている方を、取る。

 そうすれば、私がたまに痛い思いをするだけ。

 我慢すれば良い。それだけで、私の望んだものは、一つ手に入る。

 そう決めた。

 

 

 

 あの日、家に帰って。ずっと天井を見上げてた。

 涙の出ない理由。悲しい出来事とか、自分で見てしまっていたのに。どうしてなんだろう。

 なんか、変。私じゃないみたい。

 知ってしまったから?変わってしまった。

 でもそれでも、いつか知ってしまうことだったということ。

 私もしかして、知ってた?

 でも何もできなかった、しなかった。

 彼女の気持ちも彼の気持ちも。知ってたのかもしれないけど。知らなかったのかもしれない。

 あの瞬間愕然とした。信じてたものが一瞬にして打ち砕かれた。

 三人で笑っててずっとこのまま過ごしていくんだろうななんて軽く思ってた。

 夢だったら良いのに、明日学校行ったら。皆、戻ってる。最初から何もなければ良かったのに。

 私ばかだなぁ。認めたくないのに認めてる。

 ずっと傍にいて笑い合えたら良いのに、なんて。

 ひとつだけ方法がある。

 私が、我慢すれば良い。

 

 

 

 好きなんだ、君のこと。

 それが僕の気持ち。君への。

 こんなの不誠実だよ、あの子にも、君にも。

 汚いよね、僕はあの子を傷つけてでも、君の傍にいたいんだ。

 これは不誠実。でもある意味誠実。

 君の傍にいたいから。

 

 

 

 夕焼けが綺麗だったから。

 あの人に名前を呼ばれて、顔を向けた。

 あんまり綺麗で、逆に教室の中にいる私達は、逆光になってた。

 頬を赤く染めた、あの人がそこに立ってて、他には何もなくなって、頭の中は目の前に立つこ

の人のことで一杯になった。

 唇がゆっくりと動いてある言葉を語る。

 信じられなかった。

 私の諦めたものがそこにある。でもそれであの子が傷つついてしまう。

 私は決めた。決めたはずだった。

 目先のことで頭が回らなくなる。

 私の気持ち、彼への気持ち。口から飛び出す。

 確かめ合う想い。

 彼の手が私の頬に触れた。暖かくてなんだかほっとして、ずっと欲しかったんだ。そう想った。

 夕焼けが綺麗で、それがこの人をまた違うように見せた。だからきっと、選んでしまったんだ。

 唇が触れる、涙が溢れる。止まらなくなる。

 もう選んでしまったから。あの子が傷ついてしまうから。

この人が傍にいて嬉しいから。

 

 

 ずっと電話が鳴ってた。

 きっと彼だ、そう思って。でない。

 でたら、何か変わる?

 きっと本当のことを聞いてしまうだけ。

 それが真実だと受け入れたくないから、まだ信じられないから。

 私、どうしたら良い?

 どうしたい?

 見上げたままの天井。たった一つの方法。

 傍にいたかったのは彼。

 信じてたのは彼女。

 欲しいものはなに?

 

 

 

 長く長く電話を鳴らして、受話器を下ろした。

 自らあの子に話そうと思っていたことが、こんな形で知られてしまうなんて思わなかった。

 後悔はしていない、君の言葉を聞いたとき僕は夢でも見てるのかと思ったんだ。

 それは君の隣に立つことを君が、認めてくれたということ。

 嘘じゃないこれからはずっと傍にいられる。

 あの子のことが好きではあるんだ、まだ。でも高望みかもしれないけど、友達として傍にいた

い。

 一番傍にいたいのは君だから。

 怒るのは当たり前。電話に出なくても当たり前。口聞きたくないといわれるのも当然のこと。

 それだけの事を僕はした。

 

 

 

 あの時選んでしまったことを少し後悔してる。あの子を傷つけてしまったから。

 私が悪いのだろう。私がいなければ良かったのだろうか?

 泣いてるかな、でも私は何もできない。何もしちゃいけないんだ。

 悲しいよ、大事なのに。あの子が。傍にいたいよでもだめなんだよ。やったらいけないんだ。

 涙が出てくる。目の前にはあの人がいる。諦めたはずの望み。どうすれば良かった?

 私は本当に二人とも大事で、傍にいたくて。

 痛いよ、痛くて辛いよ。

 あの人に冷たい言葉を放つ、八つ当たりだ。わかってる、止められない、もうどうしようもな

い。

 何もかも否定する、あの子と友達だったことも、この人を好きになったことも。

 吐き出したら、手が触れた。拒否しようとした、そしたら抱きしめられた。強い力で。

 こんなに、酷いこといっても、傍にいる。

 この人は私のこと好きなんだ。

 私とはまた違う、一途な思い。

 腕の中が暖かい。傍にいたい、それも確かな思いだとそうわかった。

 

 

 

 私を挟んで時々苦しみながら、見詰め合ってるそんなこと、ばかみたい。本当に二人は私が怖

いんだね。

 怒りとかじゃなくて傍にいた分、怖いんだろうね。

 でも私も怖いんだよ、私だって傍にいたんだから。三人でいたんだから。

 分かっているのは、二人とも大事だったんだ。だって私は誰を責めたら良いのかわからない。

 彼のことまだ好きなんだ。

 彼女のことまだ友達でいたいと思ってるんだ。

 どっちを選ぶとかじゃなくて、けじめをつけないとね。いけないんだ。

 だから、彼へ手紙を書きます。

 口ですべて言うのは、まだ時間が足りないから。

 だから、あの言葉だけは直接聞こうと思う。けじめとして。

 

 

 

 もう何時間待ってるんだろう。

 来ないんだろうか。

 来るとは思う。そう言う人だから。

 あたりが暗くなってきてる。

 曇った空から、白いものが落ちてくる。

 あまりの寒さに身を縮める。顔をマフラーにうずめて、鼻をすする。

 地面を見つめると、雪が地面につくとすぐに溶けていることがわかった。

 ぼんやりと見つめていると。少しずつ積もっていく。

 ここは駅だから定期的に足がたくさん通り過ぎていく。

 通り過ぎない足が二つ。

 男の足と、女の足。

 来たんだそう思って、顔を上げようとする。

 あげたくない思いとあげたい思い。

 ずるいよね。辛いよね。でもけじめつけなきゃ。

 ゆっくりと顔を上げる。

 二人が辛そうな顔して立ってる。

 本当にずるいなぁ。私が悪いことしたみたいじゃない。

 彼に視線を向ける。答えを促すように、頷いた。

 たった一言。謝罪の言葉。

 繋いでいた手を放された一瞬。

 彼女が何か言いたそうにしてたけど、見ないふりした。

 二人に近づき、私も一言、別れの言葉を言った。

 私は笑ったつもり。今出せるだけの笑顔で言ったつもり。

 でもできてたんだと思う。二人の顔が驚きに染まっていたから。

 そのまま二人を背にして歩き出す。見てる気がする。だからがんばる。ちゃんと終わらせなきゃ。

 私は二人とも大事だったから。

 泣きたくなくても、涙は出るんだね。

 この時、やっと泣けました。

 

 

 

説明
大切な人たち。
二人とも、私には大切なのに。
どうしたら、いいんだろう。

でも、けじめはつけなくちゃいけないんだろうね─…

作成日19991227
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