がんばれ吟遊詩人! 第二部第一話(仮案)
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 妖精の庭と数多の詩に歌われているケルティア王国、北の都アルスターの黒い町並みが夜霧にしっとりと濡れている。

 ろうそくの灯りの揺れる酒場は夜が更けてもまだエールの香りと陽気な音楽で満ち溢れていた。

 昼には町辻で奏でていた楽士達のリュートにハープ、イリアンパイプにバグパイプ。

 売れない吟遊詩人、トルヴァドールのラヴェルはそのにわか楽団には加わらず、聴衆と一緒になって楽しんでいた。

 

 その足元には竪琴が置かれているが今夜は出番はなさそうだ。

 それに目を留めたのだろう、誰かがラヴェルの方にぽんと手をおいた。

「よう、姉ちゃんも何か一つ歌ってくれよ」

 ケルティア独特の軽やかで早い拍子に合わせて揺れていた長い髪と帽子の羽飾りが痙攣したようにびくりと震えた。

 見れば、今まで楽しんでいたラヴェルの笑顔が一瞬で引き攣っているではないか。

「あのー……僕、男なんですけど……」

「何ィ!?」

 凍りついた相手を見、ラヴェルは溜息をついた。

 向かいの席でリュートの調弦をしていた相棒がこちらも見ずに尋ねてくる。

「……今日は何回だ?」

「これで四回目だよ……」

 翡翠色の長い髪、赤い服、丸い目に小柄な体躯。女性と見間違うなというほうが無理である。

 もう一度深々と溜息をつくとラヴェルはナイフを握った。

 目の前の揚げ魚と芋に塩とビネガーをかけると口に運ぶ。

「それでレヴィン、この後どうするの? 行き先って考えてある?」

 向かいの席に座っていた相棒レヴィンは調弦の手を休めた。乾いた指先がエールのグラスに触れる。

「そうだな……こんな人間の多い場所よりも田舎のほうがいい。コノートにでもいってみるか」

「そうだね」

 ラヴェルとレヴィンが旅先で出会ってからもうじき一年になる。

 田舎貴族の居候養子として育ったラヴェルはまだまだ旅人としては駆け出しだが、レヴィンのほうはその時点ですでに幾年も放浪していたらしい。そしてその旅はかなり過酷であったようだ。

 酒場の音楽は熱を帯び、皆の意識も酒とともに揺れ動き、流れる調べと一つになって暗い室内を満たしている。

「あっ、レヴィンよしなよ、こんなところで」

「誰も見ちゃいないさ」

 そういうとレヴィンは額に巻いていた包帯と当て布を解いた。顔の半面を覆い隠す長い前髪の乱れを直すと、その下に一瞬、閉じられたまぶたが見えた。

 それに布を当て、包帯を巻き直す。

 レヴィンのただそれだけの動作の間、ラヴェルは一人で緊張して体を強張らせていた。

 相棒が包帯を巻き終えるとようやく緊張を解く。

 冷めかけたスープを飲み終え、ラヴェルは暗い窓の外に視線を向けた。

「ホリンはどうしてるかな?」

「さぁな」

 ケルティア王国最南部はコノート地方といい、赤枝と呼ばれる戦士達が支配下においている。

 その戦士達の頭目が猛犬のホリンとして名を馳せている男で、ラヴェルの顔見知りの一人であった。

「そろそろ寝ようかな」

「そうだな……そうするか」

 二人は腰を上げると二階の階段へと姿を消していく。

 その二人が去ってもまだ酒場の賑わいは衰えず、酔いと音楽が絶えずあたりを満たしている。

 そんな中、酒場の隅にいた一つの影が音もなく立ち上がった。

 どこかの貴人のお忍びなのだろうか。

 クローバー飾りのついた粗末なマントを羽織っているが、立ち居振る舞いにどことなく気品を感じさせる。

 目深にかぶったフードの下の瞳はなぜか詩人達の消えた暗い階段を注視していたが、その人物もやがてどこかへ姿を消していった。

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 湖水地方と呼ばれるアルスターの原野が冷たい朝霧に濡れている。

 水気をたっぷり含んだ空気の中、足元には縁が茶色くなりかけたシロツメクサが可憐に揺れている。

「クローバーはケルティアでは神聖な草とされているらしい」

「そうなの? 僕の故郷じゃただの牧草だけど」

 濡れている小さな白い花をラヴェルは摘んでみた。隣にかがみこんだレヴィンも濡れた大地に手を伸ばすが、その指は花ではなく小さな葉に触れた。

「葉の形が何か特別な意味があるらしい。他にもクローバーは平和の象徴ともされているそうだ」

「ああ、それはわかる気がする」

 花を地面に返すと二人は原野を南に向かって歩き出した。

 目指すナヴァン・フォートは、コノートの赤枝戦士団の居城である無骨な砦だ。

 数日をかけてケルティアの大地を南下する。

「それにしても……多いね」

 うんざりしたようにラヴェルはレイピアをしまうと額の汗をぬぐった。レヴィンも宙に掲げていた手をようやく下ろす。

 見渡せば辺りには小さな鬼や巨大な猪といった妙な生き物の群れが昏倒して地面に埋もれている。

「妖精の国といわれる所以だ、仕方あるまい」

「そうだけど……」

 街道沿いに進んでいるのだが、あちらこちらで妖精鬼や妖精獣の襲撃を受ける。

「同じ妖精なら可愛いフェアリーとかのほうが良いのになぁ」

「……そいつは見た目は可憐かもしれんがタチは悪いぞ」

「それもイヤだなぁ」

 服についた泥を払い落としているラヴェルを眺めていたレヴィンだが、片方の眉をひそめるとその手が薄く輝いた。

「え? ちょ、レヴィン……」

「バーストフレア」

「きゃあああああああっ!?」

 どうやらまだ息があったらしい。

 ラヴェルの背後で泥の中から身を起こした妖精鬼にレヴィンは情け容赦なく魔法を浴びせた。

 ラヴェルが思い切り巻き添えになったことなど気に留める様子もない。

 今度こそ息の根を止められた鬼は土くれのようになって崩れ去る。

「レヴィン」

 泥を撒き散らしながらガバッと起き上がるとラヴェルはレヴィンに詰め寄った。

「至近で魔法を使うの危ないからやめてくれって何度も言ってるでしょ!」

「気にするな。いつものことだろ」

「殺す気!?」

 赤い衣服を泥色に染めたラヴェルの前ではレヴィンの青いマントがまさしく他人事のように、いや、涼しそうに風になびいている。

「ほら行くぞ、早く歩け」

「〜〜〜〜〜〜」

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 豊かなマンスターの地を南西に抜けるとそこは荒々しい大地がむき出しになったミーズ地方だ。

 この辺りは勝利のコナルをはじめ、高名な戦士がそれぞれ自分の小さな領土を治めている。

 だが、その影響力はそれこそ各々の小さな村一つか近隣の村まで程度、全体に少なからずの影響を及ぼしているのはむしろ、更に南のコノート地方全体をその支配下においている赤枝戦士団であった。

「おう、久し振……へっ……へっくしょい!!!」

 そのミーズ地方とコノート地方のほぼ境界にある森に彼はキャンプを張っていた。

 ク・ホリン。

 猛犬のホリンとして知られる男で、その名はケルティアのみならず、大陸にまで知れ渡っているという豪傑だ。

 コノート地方を影響下においている赤枝戦士団の頭目である彼は、多くの戦士達を率いてこの森で狩りをしていたらしい。

「悪ィな。何ももてなしは出来ねーぜ……へっ……ひくしょい!」

「……大丈夫?」

 そう声を掛けながらもラヴェルは思わず顔を腕でかばいながら身をそらした。

 何かの飛沫が目の前をひどい速さで飛んでいく。

 熊をも倒すという、泣く子も黙る最強の戦士はくしゃみと鼻水で顔の真ん中を真っ赤に腫れ上がらせていた。

 有名な槍、ゲイ・ボルグを片手に折り畳みのスツールに腰掛けているが、今日は威厳は皆無。

「ちくしょう、しつこいくしゃみだぜ……っくし!」

「…………」

 ホリンは横を向き、親指を小鼻の片側に上から押しつけると中身を吹き飛ばした。

「へェ、ちったぁすっきりしたぜ……」

「……品がいいとは言えんな」

「黙りやがれ」

 レヴィンを一睨みすると下顎を突き出す。

「まあいい、座れや。おいお前ら、ラヴェルにあぶった肉でも出してやりな」

 恐らく仕留めた獲物であろう、鹿のものと思われる肉が、串の先に刺さったまま一本ずつ出された。よく見れば脇の焚き火の周りにも同じものが立てられていて、ジュウジュウ言っている。

 仕留めた獲物をその場でさばき、塩を振って焼いただけの素朴だが豪快な料理である。

「熱いうちに食っちまいな。ここでしか食えないんだぜ。しかも、最近は仕留められなくなっちまってな。今日も鹿が一頭だけだ……くしょい、また始まりやがった……」

「薬草、あげようか?」

「おう、悪ィな。」

 ラヴェルから乾燥させた薬草を受け取るとホリンは薬湯を作ってすすった。

 その口からぶつくさと文句が出る。

「まったくよ、付近の住民から最近家畜がよくいなくなるって苦情が続いてな、仕方ねぇ、見張ってたらよ、猫だぜ、猫! 猫のくせして集団で家畜を襲いやがって。へっくしょ!

リンクスっていうンかね、あいつはよ。やたらとでかくてよ。どうもこの森に巣があるらしくてな、こうやって見張ってる訳よ……へぶしっ!」

「ほう……?」

 何か興味でも持ったか、レヴィンが抑え気味の声を漏らした。

「リンクスは一匹で行動する生き物だ。猫のような姿の獣のうち、群れるのは獅子か虎の雌とその子供くらいだ。だが奴らは家畜は襲わない」

「この辺りにゃ獅子はいねェな。虎ほどもデカくはねェ。ちょいと灰色じみた毛並みで……っくしょ! うっすらと縦縞模様がういてやがる。第一、顔がただの猫だぜ?」

「ふむ?」

「ねぇ、ボギービーストじゃないかなそれ?」

 ラヴェルは焼肉を食べ終えると串を火に放り込んだ。

 同意を求めるように隣のレヴィンを見るが、レヴィンは何か考え込んでいるようだった。

「その外見ではリンクスだ。妖精獣ではないな。リンクスが集団で、か。これは面白いものが見られそうだな」

「何が面白いだ、冗談じゃねェ、おれ様は猫族は苦手なんだ! へ…へっへっ…ひぃッくしょい!!」

 ホリンの逆毛だった砂色の髪がますますぼさぼさになって揺れている。

「連中といるとくしゃみと鼻水が止まらな……ッしょーい!!」

「……なるほど、その様子だと近くにいるな」

「へぶしっ!」

 鼻をぬぐうとホリンは億劫そうに立ち上がった。

 魔の槍ゲイ・ボルグを部下に託すと愛用のバスタードソードを背負う。

 鼻の頭をすりむかせたホリンに連れられ、ラヴェルはレヴィンと共に森に分け入った。

「狩りの獲物も少なくなってるぜ。リンクスのヤツら、動物を片っ端から食ってるんじゃねぇだろうな?」

「そういうわけでもあるまい」

 人が通るには細すぎる獣道。覆いかぶさる草を分けながら進む。いや、分けるというよりも草が自ら分かれていく。

 ラヴェルには、それはレヴィンが辺りの精霊に働きかけているからだという事が何となく分かった。

 注意深く周囲に視線を走らせながらレヴィンは先頭に出て歩き始めた。

「先程も言ったが……リンクスは基本的には単独で行動する。普通ならば巣を見つけてもその主が一匹いるだけだ。繁殖期以外はな」

「今は繁殖期じゃあねぇはずだぜ?」

「そう、だからおかしいのさ」

 さわさわと、人間の耳には聞こえないようなかすかな音を草が奏でている。

 精霊使いにしか聞こえない草霊の声を頼りに三人は森の中の空き地へ出た。木の根に腰掛けて一休みする。

「ホリン、この辺りに人間が隠れるにうってつけの洞窟か何かはないか?」

「あ? そうだな……向こうに地面が盛り上がっている所があって、そこから黒い岩が顔を覗かせている。その隙間にでかい穴が開いていて、そうだな、一番奥まで二百ヤードちょいくらいかね」

「他には?」

「あとは思い当たらねぇな。それで、洞窟がどうした?」

「行けば分かる」

「ふうん……まぁいいや、こっちだ」

 今度はホリンを先頭に、一番後ろをラヴェルが気が乗らなそうな足取りでついて行く。

「ひぃーっくしょい!」

「……近づいてきたようだな」

 収まっていたくしゃみが始まったらしい。

「レヴィン、ホリンってもしかして……」

 ふと思い当たり、ラヴェルはレヴィンの背に問いかけた。

 まだ全部口に乗せていないうちに相手からはそのものの答えが返ってきた。どうやらレヴィンも同意見らしい。

「ああ、だから犬と熊なんだろ」

 猛犬のホリン。熊をも倒すといわれる豪傑だ。

 詩人達は強さを通常は獅子や虎などの動物に例えて歌うが、ホリンについている賛辞は熊殺しだ。

 もちろんホリンの強さであれば獅子も虎も倒せるだろうが……猫に近づいただけでこのくしゃみと鼻水だ、この状態で猛猫である獅子や虎を倒せというのは酷だろう。

 体質的に猫がダメ、という人間は少なからず存在するが、どうやらホリンもその仲間らしい。

「おう、見えてきたぜ。あれだ、あの岩の向こう側に……へっ……へっ……!!」

「……立ち止まりし風の精」

 レヴィンが呟いたのと同時、森の精気を帳消しにして盛大にホリンの口から汚い飛沫が飛び散った。

 しかし、くしゃみの音は全くしない。

 見ればホリンは池の小魚のように口をパクパクさせている。

「……リンクスは夜行性だ。せっかく眠っている昼間に不意打ちをかけるのに、品のない大くしゃみで起こされては元も子もないからな……行くぞ」

 まるきり他人事のように言ってのけるレヴィンにホリンが身振りで毒づいている。

 そんな案内人には構わず、レヴィンとラヴェルは暗い洞窟へ入ってみた。

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「静かにしろ」

 松明のはぜる音も立てたくないらしい。

 レヴィンが手のひらに魔法の灯りを生み出した。灯りといっても太陽や炎の明るさではない。月のような燐光のような青白い光がうっすらと辺りを照らす。

「…………?」

 足下を見ながら歩いていたラヴェルは雰囲気の変化に顔を上げた。目にはレヴィンの後ろ姿が確かに映っているのだが、気配が無い。

 奥で何かが動いた。

 無数の青い目が暗闇に光る。

「……どうやらお待ちかねだったようだな」

 リンクスの群れがまるで獲物を待ち構えていたかのように一斉に姿を現した。

「夜行性じゃなかったの!?」

「普通はな。だが生憎今は通常時ではなさそうだ」

 爪が地面を蹴る音と共にそれらは一気に飛び掛かって来た。

 洞窟内が一瞬で赤く染まった。

「……炎の奔流……イグニスストリーム!」

 巻き起こった炎の流れに先頭の数匹は灰と化し、残った者もある者は勢いが止まらずそのまま火に突っ込み、残りの者は本能でそれを恐れて突撃をやめる。悔しげな低い唸り声。背の体毛を逆立たせ、尾も何倍もの太さになっている。

「はぐっッしょーい!」

 魔法を切り替えたせいでホリンに掛かっていた沈黙が解けた。最前までとは比較にならないほどのくしゃみの嵐が背後で炸裂している。

「……こいつは戦力にならんな」

「黙りやが……ッしょーい! なるほどね、こい……へぶしっ! つが集団化の答えか……っくしッ!」

 ホリンのぎょろ目が洞窟の奥をねめつけている。

 リンクスの集団の背後に、得体の知れない人影がいるのだ。

 恐らくあれで操っているのだろう、香煙を放つ塊を手にもてあそんでいる。

「ひっしょーい!!」

 くしゃみをするたびに剣の軌跡がずれる。

 おかげでホリンの両手剣は一匹もリンクスを退治していない。

 レヴィンが魔法で応戦しているものの、このような洞窟で大技を出せば自身が生き埋めになりかねず、戦果ははかばかしくない。

 鉤爪が岩を削る音と砂埃が洞窟の中に充満する。炎の灯りに飛び散った太い猫の毛が銀色に光り、闇の中を青く光る目が縦横無尽に駆け巡る。

 襲い掛かる鉤爪にラヴェルはレイピアを抜いて応戦した。甲高い金属音が響き渡る。

「……ラヴェル、レイピアというのは突く武器ではなかったのか?」

「仕方ないでしょ!」

 殴るように襲い掛かる太い腕と鉤爪を振り払おうとレイピアを振るうが、チンチンチンと音を立てながらのチャンバラになってしまっている。

「い、いたたたたっ、いたっ、痛い痛い!」

 顔やら腕やら見事に引っかき傷をこしらえながらラヴェルは洞窟の中を走り回った。

 その後ろから、毛を逆立たせ激しく威嚇の息を噴出しながらリンクスが追い回している。

 水袋が破れるような音を立て、ラヴェルのレイピアが敵のわき腹をようやく一突きした。

 空気を振動させるような断末魔に一瞬他の獣達がそちらを向いた。

 そのわずかな隙を見逃さず、レヴィンの魔法が解き放たれた。

「海よ……光なき闇色の渦となりて全てを飲みこめ……タイダルウェイブ!」

「!」

 リンクスの群れの後ろにいた怪しいローブ姿が大きく揺れた。

 レヴィンの魔力に反応したのか、ローブを着ている者の胸元を飾る草の葉をあしらった留め金が怪しく輝く。

 地響きを伴って洞窟内を荒れ狂ったのは大量の水だった。

 巨大猫の群れを押し潰し、流し去って水が消えた後には何も残っていない。

「へっ……やったか?」

「どうだかな」

 洞窟内は嘘のように静まり返っていた。見た限りもう怪しい姿は見当たらない。

 腑に落ちないものを感じつつも、三人はやがて森の外の野営地へ戻っていった。

 

「っきゃ〜〜しみるぅ〜〜」

 鉤裂きだらけの衣服の下にうっすらと血がにじんでいる。

 キャンプに戻ってきたラヴェルはちまちまと回復魔法を自分にかけていたが、それだけでは足りずに薬草の汁を傷に塗っていた。

「ああ、まだ鼻がむずむずしやがる……」

 湿布だらけになっているラヴェルの横では、ホリンが薬湯に浸した布の小片を丸めて鼻に突っ込んでいる。

「ちくしょう、折角の良い漢が台無しだぜ」

「気にするな、いつもだろう」

「なんだと!?」

 音を立ててホリンの鼻に詰まっていたものが飛んでいく。

 それから身を避けるとレヴィンは白湯を口に含んだ。

「しかしだいたいは予想通りだったな。リンクスが集団化するとは普通は考えられないからな。何か背後に厄介な奴がいるのだろうと思っていたが」

「なんだったんだ、あの黒ローブはよ」

「わからん」

 リンクスを操っても出来るのはせいぜい家畜を襲って村を荒らすくらいだ。あまりメリットはない。

 気づけばすっかり日が傾いている。茜色の光線を受け、森のシルエットは焦げ茶色に染まっている。空に浮いている黒い点はねぐらへと帰っていくカラス達だ。

「おい、テメェら、これから帰ェるから、一緒に砦に泊まって行きやがれ。手間もかけたし、何もしねえのも気に食わねえ。夕飯くらいは恵んでやる」

 配下の戦士達がキャンプを取り払っている。

 彼らの拠点である砦まで多少距離があるが、夜更け前には着くだろう。

 相変わらず粗雑な言動のホリンではあるが、ラヴェルはホリンなりの好意を喜んで受けることにした。

 

説明
がんばれ吟遊詩人! 〜ラヴェル君の場合〜
第二部 第一話:妖精の庭(仮称)

サイトにて一度完結した【がんばれ吟遊詩人!】の続編を執筆開始しました。
ここに掲載している文章は推敲以前の仮案ですがお楽しみ頂ければと思います。

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妖精の庭と讃えられる西の島国ケルティア。
吟遊詩人のラヴェルとレヴィンは、顔見知りの戦士ホリンを訪れる。
熊をも倒すと恐れられるホリンであったが、何か様子がおかしい。
そう、猛犬のホリンは猫が苦手なのだ……。
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