真恋姫無双〜風の行くまま雲は流れて〜第62話
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はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください

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「烏巣に火を…ですか?」

「そうだ」

 

いまだ辺りには木々が燻す臭いが立ち込める中、比呂の命に斗詩は首を傾げた

 

「此処が既に兵糧と敵方に知れている以上、このまま放置する訳にはいかん…本隊と合流するにも現状運べる分のみ持ち出し以下此処を放棄する…悠ならそうするはずだ」

 

意見があればと視線を向けてくる姿に彼女は一寸の後にわかりましたと部下に指示を促す

 

戦場の空気より落ち着き始めた兵達が再び慌ただしく作業に戻るのを見届けると一団から少し離れたつい先ほどに降参の手を挙げた霞の元へと歩き出した

 

「おう!もう動くんかい!?」

「だから動かないでください…包帯が結べません」

 

月の手で頭に包帯を巻かれるところだった霞が立ち上がろうとするのを掌を向けて制し彼女等の前に腰を下ろす

 

「まったく元気な『捕虜殿』だ…」

 

頬杖を付いて溜息を吐く姿に当の本人はやはりにししと白い歯を見せる

 

「あったりまえやん!待ち焦がれた逢瀬の相手が目の前におるんや!そりゃなんぼでも…あだだだ」

 

目尻に涙を浮かべるその後ろで月が手に持つ包帯の端をギリギリと絞めていた

 

「ちょおっ!月ぇ…もうちょい優しゅう…」

 

振り向いた彼女に映るは唇を尖らせて「むぅ」と唸る月の姿

 

その月に何かを感じ取り、と今度は澄ました表情で懐から水の入った徳利を差し出す比呂を交互に見比べ

 

「えっ?…あれ?…」

「…飲まないのか?」

「いや…やってん…あんたら…うそお!?」

 

受け取った徳利を口元まで運びかけ…ガバリと月に向きなおり

 

「どどどどどういう!?月ぇ!?」

 

彼女の小さな肩を掴み寄せ小声でボニョボニョと彼女にだけ聞こえるように呟く…と一寸の間の後

 

「へ…へぅ」

 

耳まで真っ赤にして彼女がコクリと頷いた

 

ががーーーん

 

がーーん

 

がーん…サラサラ(←砂になって崩れる音)

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数分後

 

「まあ…大体の大筋は解ったわ」

 

どうにか砂状から人型に戻った霞は腕を胸の前に組み、一人ウンウンと頷いていた…まるで自分にそれを言い聞かせるように

 

「こら参ったでしかし、張?とケリ着ける心算がこれは…参ったでホンマ」

 

う〜っと目の前の二人の顔を尚も交互に見比べては一人ごちる

 

自身の欲と大切な家族の存在の間で揺れに揺れる霞だった

 

「…本題に入りたいのだが?」

 

そんな空気を破ったのは比呂

 

なんやと首を傾げる霞を真直ぐに見つめる

 

「本陣奇襲には誰が動いている?」

「あんなあウチは…」

「我が軍の捕虜だ?…違うか?」

 

そこに微塵の冗談もなしに冷たい視線を向けられた彼女は

 

「月ぇ…張?がいじめるんやぁ」

 

月に頬ずりしいやいやと首を振るが向けられた当人は何処吹く風で

 

「まあ…捕虜ですから」

 

よしよしと背中を擦りながらもピシャリと言ってのける

 

「ウチの味方やと思たんのにぃ」

「味方ですよ」

 

だから此処に居ますと霞の耳元を優しい声が撫でる

 

「うぅ…秋蘭…やゆうても解らんか、夏侯淵、許緒、于禁の三将に二万の兵や…」

 

意外とあっさり全容を話し出した彼女だった

 

「魏武の大剣は出て来ないのか?」

 

ふと構成面子に春蘭の名前がないことに気づくが

 

「風邪で欠病や、せやから流琉が看病にのこっちょる」

「…」

 

…決して作者が忘れていたわけではありません

 

「比呂さん、準備いずれも整いました」

 

斗詩の声に振り替えれば烏巣からパラパラと火の粉が舞って来るのが見えた

 

「挟撃の地は…?」

「此処より少し離れています、一刻程に」

 

そういって山の向こうを指差す

 

「よし、全軍これより…」

 

全軍へ向け指令を発さんとしたその時

 

「なんや…やっぱり挟撃する算段やったんか?」

「…何だと?」

 

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「その蒼髪、左肩の髑髏…魏の宿将、夏侯淵殿と御見受けする」

 

袁紹を追う道すがら、彼女は自身の横を並走するように馬を駆る少年を一瞥するように睨む

 

本陣を奇襲した時から彼女等、曹操軍と共に前方の袁紹を袁家の軍勢が追っていたのは事実、理解していたが

 

「貴様に私の名が知れている理由など興味もない…が、私は貴様を知らぬ」

 

視線を向けたのはほんの一瞬、次の瞬間にはもはや彼女の視界からそれは外されていた

 

「僕の名は逢紀…以後御見知り置きを」

 

そういって屈託のない笑顔を彼女に向けるもののやはり視線は返ってこず

 

「袁家の者が私に何か用か?貴様が相手というならば…」

「とんでもない!」

 

表層部だけ慌てふためいた声が彼女の興味をほんの少し引く

 

ちらりと目線だけをずらせば恭しく馬上で頭を下げる少年がそこいる

 

「何が狙いだ?」

 

それまでよりも低く

 

少年の答えによってはこの至近距離より馬上から射殺さんと語尾に若干の殺気を込めて相手方に投げる

 

威圧するようなその声にも少年はなおも動じることなく、それどころか品の良い笑顔を浮かべ

 

「曹操殿への手土産の一つも…と『あれ』を追っている次第です。此処に居るものはいずれも我が忠臣にして覇王が下僕」

 

御覧なさいと指される辺りを見渡せば成程…いずれもやはり一心に鞭を振い袁紹を追っている

 

「御理解いただけましたか?」

 

そういって再び頭を下げる英心、だが何故か彼女はその少年のことが気に入らなかった

 

「口で言うならば物は容易い、何より私は貴様を信じる気にはならん」

 

再び突き放す一言、一瞬少年がポカンと口を開けたまま呆けているのが見えた

 

「成程、しかしこれは参った。やはり『あれ』の首を差し出して示すしかないようだ」

 

くすくすと笑うその笑いもやはり気に食わない

 

「それも口で言うのは容易いこと」

 

自分が此処まで感情に言葉を並べるのも珍しい

 

ついて出る皮肉も侮蔑もこの少年を的にして違わない、ようは嫌いなのだ、初対面のこの少年が

 

「ならば我が臣とくと御覧あれ」

 

はっと鞭を振いその速度を上げていく英心、その後ろ姿に

 

「なんか気に食わないの〜」

「ボクも〜」

 

彼女の直ぐ後方からの声

 

「私もだ」

 

フンと鼻を鳴らす

 

だがこれで一連の動きにも説明が行く

 

(内部ですでに崩壊を起こしていたか)

 

一段より更に前方…単騎で駆けていくその姿に同情ともいえる念が沸く

 

「…名家も落ちたものだな」

 

その姿が

 

とても滑稽で

 

とても哀れで

 

どこか悲しい

 

だがそんな情念とは別に常に周囲を警戒している自分もいる

 

辺りの夕闇が更に深く、まるで落ちていくような錯覚

 

「渓谷に入った…そろそろ仕掛けてくるか田豊よ」

 

直後

 

ジャーン

 

ジャーン

 

ジャーン

 

銅鑼の音がけたたましく鳴り響いた

 

 

 

 

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田豊は此方が懐深く入り込むのを見計らって動いてくるわ

 

だからこれは貴女にしか頼めない

 

貴女だけが

 

急襲に対応できる

 

貴女だけが

 

今回の陣営でそれを可能なものにできる

 

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空から降ってくるは大量の岩、岩、岩

 

それがやがて行く手を遮ぎ

 

一団の足が止まる

 

そして

 

ある者は短い断末魔と共に押し潰され

 

ある者は自身が駆っていた筈の馬の下で悲鳴をあげた

 

空から降ってくるは大量の矢、矢、矢

 

眼の光が届かぬ闇から降り注ぐそれはたちどころに辺りを覆い

 

ある者は声も出せずに馬上で絶命し

 

ある者は矢を受けて尚も駆ける馬に引きずられ絶命した

 

完全に立ち往生した彼等を挟み込むように

 

左右の崖から転がってくるのは濛々と燃え高る車

 

坂を転がり地の底でひっくり返るそれから大量の瓶が飛散し中からやはり大量の油が辺りに振り撒かれる

 

運良く落馬しても尚も生き延びた一人の兵が飛散した液体をもろに浴びた

 

一寸の間の後

 

はっと空を見上げれば

 

まるで流星のように降り注がれる火矢が目に入った

 

目に映るそれは

 

ゆっくりと

 

ゆっくりと

 

「いっ、嫌だ…」

 

辺りに耳を劈くような絶叫と肉の焦げる匂いが充満していく

 

 

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「くそお…田豊おぉ!!」

 

右も左も絶叫のと断末魔の嵐

 

剣も振るわずに誰もが一方的に殺されていく

 

(知っていた…知らされていたはずだ!僕は!)

 

開戦間もなくに

 

それは軍議で

 

彼自身も余すことなく

 

― この渓谷にて挟撃、一切の壊滅を図ります ―

 

だから安心していた

 

彼の全貌を知っていると

 

事実を

 

事実だけを彼は知っていた

 

あいつには時間がない

 

だからこそ

 

あいつの隙を付けば

 

自ずとそれは手に入ると

 

だからこそ動いた

 

あいつは

 

あいつこそが居た堪れなくなり

 

繊細一隅のチャンスを掴んだと

 

あいつが放った女にも目を光らせていた

 

そして絶妙のタイミングで

 

彼の目的は成った筈だった

 

― 味方だけが助けになると思うなんて浅はか過ぎるのよ −

 

「黙れっ!!」

 

最初から『これ』を画策していた

 

最初から攻城戦など頭に無かった

 

最初から僕達を、僕達もハメる心算でいた

 

「くそお…くそくそくそくそくそおおお!」

 

踏鞴を踏む少年の横を

 

魏の一団が駆けていく

 

辺りの惨状をもろともせず

 

 

あたかもそこに何も無いかのように

 

「…馬鹿な」

 

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「どういうことだ?」

 

目の前の彼女がそれまでとは打って変わって神妙に比呂の眼を真直ぐに射抜く様に見つめる

 

「どうもこうも…そのままや?」

 

ゴクリと鳴ったのは自身の喉

 

熱く

 

ひりひりと

 

そして首元に刃が添えられたように

 

ちりちりと

 

彼の全身が総毛立って行く

 

 

 

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何があろうと立ち止まっては駄目

 

 

何があっても進みなさい

 

 

何があっても踏み越えなさい

 

 

そうすればあいつが出てくる

 

 

袁紹の前に立とうと

 

 

あいつは出てくる

 

 

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「やはり…出てくるか」

 

袁紹を裏切った者達を踏み越え

 

尚も袁紹に攻め込まんと

 

岩も屍も踏み越え

 

降り注ぐ矢の雨を潜り

 

猛々と立ち込める炎を?い潜れば

 

「お前らあ!姫をお守りしろおおっ!」

「全軍抜刀!此処で止めろ!」

 

いずれも屈強な兵達が

彼女達の前に立ちはだかる

 

「沙和!季衣!」

 

振り向くことなく後ろに付く二人の名を呼ぶ

 

「こらあウジ虫どもぉ道を開けさせるの〜」

「ボクの邪魔をしないでぇ!」

 

自身も弓を引き矢を放ち目の前に躍り出た兵を矢の勢いそのままに吹き飛ばす

 

 

 

そして

 

 

 

その先に

 

 

 

「我が君!我らが時間を稼ぎます!烏巣まで後退を!」

 

 

その男はいた

 

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で、さ…頼みがあるんだけども

 

もしそこに田豊がいたら…ううん…絶対にそいつは…そこに…いるんだけれども

 

 

あの…その…

 

………

 

 

いっ生捕りに…出来ないかしら

 

 

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「生捕り…か」

 

餓狼爪の弦がキリキリと啼き

 

ヒュという音を残して

 

彼女の手より

 

悠へ向け

 

矢は放たれた

 

 

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「あんたんとこの…田豊ゆうたか?読まれとんで」

 

 

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あとがき

 

ここまでお読みいただき有難う御座います

 

ねこじゃらしです

 

いやはや連日すごい雪ですね

 

…といっても三日前から風邪で死んでた私は外に一歩も出ていないわけですがw

 

さて今回はやや足早に坂道ダッシュ

 

一気攻勢かと思いきや悠さん一転大ピンチ!

 

悠が練りまくった策に対する桂花のそれは…

 

…ごり押しの進撃?

 

そして…その時は来るわけです

 

それでは次回の講釈で

 

 

説明
第62話です。

雪がすごいことなってますな
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コメント
田仁志様、コメント頂き有り難う御座います。ご無沙汰しておりましたw二人の変革の時を上手く書けてればなあと…桂花にもちゃんと出番を!月に圧され気味なのでw(ねこじゃらし)
策の読み合いが熱いです!! 比呂も悠もガンバレ!!超がんばれ!! そして月と桂花がかわいすぎて生きてくのがつらい!!(ペンギン)
久しぶりにサイトにこれたら話が進んでて内容が分からない!?!? 前の話読み返して来ます!!(ペンギン)
こるど犬様、コメント頂き有り難う御座います。ならば語らねばなるまい…姉者の闘病生活を!…いつか(ねこじゃらし)
春蘭が風邪?・・・馬鹿なのに?ww(運営の犬)
Night様、コメント頂き有り難う御座います。追い詰められたその時彼は…はい、次回も読んでやってください(ねこじゃらし)
更新おつかれ様です。策ははまれば恐ろしい物、しかし読まれれば立場が一瞬でひっくり返る諸刃の剣、悠の切り替えしなるか!?(Night)
サラダ様、コメント頂き有り難う御座います。悠さんの回と前回称しておきながらほとんど空気でしたなw(ねこじゃらし)
魏武の大剣ェ…………そんなことより悠ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううううううう!!(R.sarada)
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