真恋姫無双〜夢の続きへ〜(W)
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「えーと…………」

 

目を開けると、普段寝泊まりしている寮の天井…………ではなく、どこか懐かしさを感じさせる天井だった

 

自分の上に掛かっていた布団を払いのけ体を起こす一刀

 

 

「ここは………」

 

「あなたの部屋よ」

 

寝台の横から声がかけられる

 

「華琳………痛っ…!なんか身体中が…痛いんだけど…」

寝台の横にある椅子に座っている華琳に体を向けようとするも、痛みで思うように動かない

 

「当たり前でしょう?凪に次いで春蘭と戦って体が痛くなかったら化物よ」

 

「はは……確かに。でも他のところも痛いんだけど」

 

「あなたが倒れた後、みんなが殺到したからじゃない?もみくちゃにされてたわよ?」

 

 

「…華琳も?」

 

「…!………あ、当たり前じゃない…」

 

(華琳がデレた!…)

 

少し顔を赤くしてそっぽを向く華琳を見ながら一刀はそんなことを思っていた

 

 

「俺の部屋…残しといてくれたんだ」

 

「当たり前でしょう?凪達に感謝しておきなさい。あなたがいない間、あの子達が掃除していたのよ」

 

「そっか………………華琳」

 

「な、なによ?真面目な顔して」

 

寝台から降りた一刀は正座をし、頭を床につける

 

「勝手に消えて…ごめん」

 

土下座

一刀の精一杯の謝罪

もちろんこれだけで済むとは思っていない

 

(でも…俺には謝ることしかできない……!)

 

「止めなさいよ、みっともない」

 

苛立ったような華琳の声

 

顔を上げるとそこには─

 

 

絶があった

 

 

「うおわぁぁ!?」

 

 

全力で後ろに飛びさする一刀だったが

 

 

ゴン!

 

 

「ぐ、ぐぉぉぉ……」

 

寝台に頭をぶつけ、悶える

 

「それともあなたは─」

 

一刀の首筋に絶の刃が当てられる

 

「私に、好いた男を処刑させるつもりかしら?」

 

 

「いや…でも…」

 

チャキッ……

 

「なにか言ったかしら?」

「ま、待った!華琳さん!?刃が!刃が当たってる!ちょっと血が!血が出てるってぇ!」

 

 

慌てる一刀を見てひとしきり楽しんだあと、やっと華琳は絶をしまった

 

 

「だいたい私はもう罰を与えたでしょう?それとも………もっと凄い罰が好いとでも?」

 

 

「……すいません。遠慮させて下さい」

 

脱力感に苛まれている一刀は意気消沈といったふうに返事を返す

 

 

ガヤガヤ…ガヤガヤ

 

「そういえば…なんか外が騒がしくない?」

 

すでに暗くなった外を見ながら呟く一刀

 

「あぁ…あなたがいつまで経っても起きないから、先に立食ぱーてぃーを始めさせてもらってるわ。早く行かないと、季衣や春蘭に全部食べられてしまうわよ?」

 

「あ、立食パーティー採用されたんだ」

 

二年前に一刀が大勢での食事にと、案を出したのが立食パーティーだった

 

「えぇ、蜀や呉の皆にも好評だったわ」

 

 

「へぇ………ちゃんと三国の同盟も成り立ってるんだな」

 

 

「「へぇ……」ってなによ。あなたも一応立役者の一人なのよ?」

 

「いや…俺、あの宴会の後すぐに消えちゃったし…。あんまり実感がさ」

 

しばらくの静寂

 

「はぁ…………この話題はもういいわ。空気が悪くなるだけでしょうしね。いいからあの子達のところに行ってあげなさいよ」

 

 

扉を指で指す華琳

 

立ち上がり、扉に手を掛ける一刀

 

 

「華琳」

 

「……なによ?」

 

 

扉を後ろ手で閉めながら

 

「ありがとう」

 

と言い一刀は外に出ていった

 

 

 

一人部屋に残される華琳

 

「お礼を言いたいのは私だって同じよ、一刀………帰ってきてくれて…ありがとう」

 

自分以外誰もいない部屋で華琳は呟いた

 

 

 

 

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「さて……お、いたいた」

 

廊下を歩いてしばらくすると東屋で飲んでいる三人組を見つけた

 

「お〜い」

 

手を振りながら近づいていく

 

「た、隊長!」

「隊長やー!」

「隊長なの〜!」

 

凪も沙和も真桜も一斉に立ち上がり、歓喜の声を上げる

 

 

「ここ座ってもいい?」

 

「ど、どうぞ!」

 

一応座っていいかを聞き、凪の隣に腰を下ろす

 

 

「あ〜!凪ちゃんずるいの〜」

 

「うちらかて我慢してんねんで〜?」

 

凪に二人からブーイングが入る

 

凪は顔を赤くして俯いている

 

「ま、まぁまぁ二人とも…!?にゃ、にゃにしてりゅんでひゅか?」

 

 

一刀の頬の左側をつねる沙和、右側をつねる真桜

 

「いやいや、ほんまに隊長かな〜って確認中」

 

「だって凪ちゃんに勝っちゃうなんて隊長らしくないの〜」

 

言いたい放題な二人

 

「いや、凪に負ける俺らしさって─」

 

そんな二人にツッコむ一刀だったが

 

「隊長!」

 

凪の声に遮られる

 

「お、おぉ……どうした、凪?」

 

「すいませんでした!」

 

「はい?」

 

急に謝りだした凪に驚き、間の抜けた声が出る

 

「隊長だとは知らずに暴力の数々……」

 

凪の謝罪は続く

 

(あれを暴力って……やっぱりこっちと現代じゃ考え方に差があるよなぁ…)

 

あれはもはや暴力というレベルではないはず、と一刀が思っていると

 

 

「この償いは私の命で!」

 

「へ?」(今なんか物騒なこと言わなかった?)

 

 

次の瞬間、たまたま近くにあった沙和の双剣の片方を持つと、あろうことか自分の首にあてがった

 

「ちょ!待った待った!」

 

かろうじて凪を抑える一刀

 

「止めないで下さい隊長!償うには私の命しか!」

 

「何言ってんの凪!?ちょ、沙和と真桜も手伝って!」

 

 

一瞬呆然としていた二人だったがすぐさま凪の手から剣を引き剥がす

 

 

数分後

 

「はぁ…はぁ……落ち着いた?凪」

 

「は、はい……すいませんでした…取り乱してしまって」

 

 

手から剣を引き剥がした後、一刀の必死の説得によって凪は落ち着きを取り戻していた

 

その手腕は、どこぞのネゴシエーターのようだったという。

 

 

「凪って…こんな…キャラだったっけ?」

 

必死の説得により精神力と体力を多大に消費した一刀が二人に訪ねる

 

「「きゃら?」」

 

「ごめん。性格とか人格って意味でいいと思うけど」

 

 

「あー、あれ隊長のせいやで?」

 

「俺の!?」

 

真桜の説明によると、一刀が消えてしまった後、三人の中で一番情緒不安定になったのが凪だったらしい

 

壁を見ながらぶつぶつ呟いたり、今のような人傷沙汰を起こしたり。まぁ他人に当たらない分マシかもしれないが

 

(うわぁ……)

 

聞いていると、どんどん精神が病んでっている気がする

 

 

「凪!」

 

「!」

 

突然呼ばれてビクッと肩が震える凪

 

「ごめんな?勝手にいなくなったりして」

 

「もう……」

 

「え?」

 

「もう勝手にいなくなったりしませんか……?」

 

消え入りそうな声で聞いてくるのは、小刻みに震える肩

 

 

ギュッ……

 

 

凪を背中から強く抱き締める

 

「俺はもうどこにも行かないよ。ずっと凪達の傍にいるから」

 

 

 

「隊長…!」

 

 

二人がいい感じの雰囲気になったところで

 

 

「凪ちゃんと隊長、熱々なの〜」

 

「うちらにも隊長分けて〜な〜」

 

 

お約束の邪魔が入る

 

 

 

「沙和……!真桜……!お前らぁぁぁ………!」

 

 

怒りと恥ずかしさで赤くなった凪からオーラが立ち上る

 

 

「わー!凪ちゃんが怒ったのー!」

 

「沙和、言ってる場合とちゃう!逃げるで!」

 

 

「待てぇぇ!逃げるなー!」

 

 

沙和と真桜が逃げて、凪がそれを追う

(二年前と同じような風景だな……はは)

 

 

あっという間に三人は見えなくなる

あとに残るのは遠くから聞こえてくる宴会の音

 

「……他のみんな探しにいくか。そういえば凪に試合でのこと謝るの忘れてたな…………後で改めて謝っておこう」

 

 

一刀は頭を掻きながらその場を後にした

 

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「兄ちゃーん!」

 

「兄さまー!」

 

庭に歩を進める一刀に二つの声がかかる

 

「ん?」

 

声に反応してそちらを見ると、手を大きく降っている季衣と流琉がいた。

その後ろには春蘭と秋蘭もいるようだ

 

 

「お帰り!兄ちゃん」

「お帰りなさいませ!兄さま」

 

「うん、ただいま」

 

一刀は二人に近づいて、くしゃりと頭を撫でた

 

 

「兄さま、お腹大丈夫ですか……?」

 

流琉が心配そうに見上げてくる

 

「え?兄ちゃんお腹痛いの?」

 

 

「季衣が頭から突撃したからでしょ!」

 

「……んにゃ?」

 

流琉の指摘に首を傾げる季衣

どうやら自覚が無いようだ

 

「俺は大丈夫だよ……一応」

 

苦笑いしながら4人の輪の中に入る

 

 

「春蘭、秋蘭…ただいま」

 

「お、おぅ………」

 

「あぁ…お帰り」

 

目を瞑りながら感慨深そうにお帰りと言う秋蘭に対し、春蘭から返ってくるのは気の無い返事

 

「春蘭どうしたの?」

 

隣にいた秋蘭に聞く

 

「いや…それがな、あの試合でお前を叩きのめしたのを悔いているようでな。北郷はそんなこと気にしてないとは言っているんだが………なにか言ってやってくれ」

 

 

困ったような表情をつくる秋蘭

 

 

「春蘭…」

 

春蘭のほうに向き直った一刀だったが

 

「かじゅとぉぉぉぉ!!!!すまにゃかったのらぁぁぁ!!」

 

春蘭が半泣きで抱きついてきた

 

「うわっ!ど、どうしたんだよ春蘭…って………酒臭っ!春蘭酒臭っ!これどう考えたって酔ってるだろ!」

 

 

「姉者はかわいいなぁ……」

 

「ちょ!秋蘭まで!?」

 

よく見ると、春蘭は顔が真っ赤、秋蘭は頬がほんのり赤くなっている

 

「秋蘭様…春蘭様のお酒に付き合ってましたから…」

 

「納得……」

 

流琉の説明にまたも脱力しそうになる一刀だったが

 

 

「こりゃ!りゅりゅとばっかりしゃべっれりゅんりゃにゃい!」

 

 

ぐい、と春蘭に引っ張られる

 

「わ、わかった!わかったから引っ張るのやめてくれ春蘭!このままだと腕が!腕がもげるー!」

 

 

 

「大丈夫だ、北郷。人間の腕はそう簡単にはもげん。」

 

杯を傾けながら言う秋蘭

 

「いやいや!秋蘭とか春蘭達武官が言っても説得力無いから!」(だって首を刎ねるとか、日常会話で使う人達だよ!?)

 

 

 

それを言い終わるころ

 

「ふにゃあ………」

 

急に腕を引っ張る力が無くなる

 

「へ?」

 

少し驚いて横を見ると、春蘭が腕に寄りかかって静かな寝息をたてていた

 

「すー………すー………」

 

春蘭の寝顔を見る一刀は泣き笑いのような表情になっていた

 

 

「…ごめんな…」

 

頭を撫でながら言う一刀

 

すると、まだ少し意識があったのか

 

「…あや……まりゅにゃ……びゃか…」

 

そんな声が春蘭の口から漏れた

 

 

「うん………それでも…ごめんな?」

 

 

「すー………すー………」

 

今度はなにも返ってこなかった

 

 

 

「秋蘭は…………。はは…寝ちゃってるよ」

 

「すー………すー………」

 

視線を移すと、秋蘭は机に突っ伏して寝息をたてていた

 

 

「流琉、なにか掛けるものある?」

 

「あ、はい!」

 

流琉が急いで掛け布を二枚持ってくる

 

「ありがとう」

 

流琉から渡された掛け布を二人に掛ける一刀

 

 

「さて、後は……」

 

キョロキョロと辺りを見回す

 

「季衣。桂花達見なかった?」

 

 

「ん?みふぇふぁいふぉ?」

 

 

「季衣、口の中のもの飲み込んでから喋りなさい」

 

 

流琉の注意などお構いなしに

 

「ふぁ!ふぇもふぁっひひいふぁ……………気がするよ!」

 

 

話の途中に口の中の物を飲み込んだようで、ちょうどここから死角になっている東屋を指差した

 

「もぅ………季衣ったらぁ……」

 

流琉が嘆きの声を上げる

 

 

「ん、ありがと。行ってみるよ」

 

 

軽く手を上げて応えると、一刀はそちらへ足を向けた

 

 

 

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コツコツコツコツ………

 

季衣に教えてもらった東屋に向かって歩いていく一刀、すると

 

 

ボスンッ……!

 

一刀の背中に鈍い衝撃とともに少し重量が加わる

 

「………なにしてるの?風」

 

 

「おやおや〜、重さだけで風と分かるとは流石ですねお兄さん」

 

 

背中に乗っかってきた風を下ろす一刀

 

 

「いや、こんなこと何回もあったし……。稟と桂花は?」

 

「風の目の前で他の女の話をするとは、いい度胸なのですよ〜」

 

 

ぷくりと頬を膨らませる風

 

「あー、いや……」

 

しばらく頬を膨らませていた風だったが、困る一刀を見て少しは気が張れたのか

 

「冗談なのですよ〜。稟ちゃん達はこっちなのです〜」

 

 

そう言って微笑んだかと思うと、トテトテという足音が似合いそうな歩き方で先へ進んでいった

 

 

「あ、一刀殿」

 

「来たわね………!変態!種馬!全身白濁「稟、ただいま」ちょっと!私を無視するんじゃないわよ!」

 

 

ただいま、と言いながら稟と桂花の反対側の席に風と共に座る一刀

 

 

「冗談だよ。ただいま桂花」

 

 

「ふん!あんたなんか帰って来なければよかったのに…………と、言いたいところだけど久しぶりに華琳様の笑顔が見られたから良しとするわ」

 

 

「…そうなんだよ……華琳から笑顔を奪ったのは…俺だよな…はぁ・・」

 

 

途端に空気が重くなる

 

 

「全く…あなたという人は…」

 

 

はぁ、とひとつ溜息をつきながら桂花の方を見る稟

 

 

「わ、私のせいだっていうの!?」

 

「明らかにそうでしょう?こんな日ぐらい嫌味はやめたらどうです?」

 

 

「う…、………わ、悪かったわよ…」

 

 

流石に空気を重くした自覚はあるのか、謝る桂花

 

 

「いや、いいんだ…本当のことだし」

 

 

「寂しかったのは華琳様だけじゃないのですよ〜。」

 

「風?」

 

風が唐突に口を開く

 

 

「お兄さんは自分で自覚しているより遥かに、魏にとって無くてはならない人なのですよ。その証拠にお兄さんが消えてから一ヶ月間ぐらいは魏はまともに成り立ってませんでしたからね〜」

 

「それ本当に?」

 

「えぇ、一刀殿がいなくなってから魏国内、主に城の方ですが、ひどいありさまでした」

 

 

その時の様子をしみじみと語りだす二人

 

「華琳様は言わずもがな、春蘭ちゃんと秋蘭ちゃんは少し見た限りでは変わらないように見えるものの、いつもの元気はありませんでしたね〜。特に秋蘭ちゃんが」

 

 

「目に見えて酷かったのは凪達3人と季衣と流琉でしょうか、特に凪は─」

 

「さっき会ったときにその片鱗を体感したよ」

 

 

ははは、と乾いた笑いを上げる一刀を見て稟は納得したような表情になると話を続ける

 

 

「そうですか、季衣と流琉は………流琉の方が酷かったですね、えぇそれはもう…」

 

 

「そ、そんなに?」

 

 

少し聞くのが怖くなってくる一刀

 

「えぇ、……流琉が料理好きなのは知ってますね?」

 

 

「ん?そりゃもちろん知ってるけど……それが?」

 

なにを当たり前のことをと、先を促す

 

 

「その…………作る料理がですね……、たまにとんでもない物に…」

 

 

「とんでもない物?」

 

 

「作った料理が……その…毒…料理に」

 

 

「毒ぅ!?」

 

 

とんでもない単語に耳を疑う一刀

 

 

「毒って………毒だよね?」

 

 

「えぇ、毒です」

 

 

 

重々しく頷く稟

 

 

「……………誰か…食べたの?」

 

 

「いえ今のところ被害者は出ていないのですが…………そうですね……鳥が…」

 

ふむ、と考え始め、鳥という言葉を出す

 

 

「鳥が?」

 

 

 

「その料理の臭気で飛んでいた鳥が墜ちてきました」

 

その言葉を聞いた瞬間、一刀の脳裏に閃くものがあった

 

 

 

毒料理→毒調理→ポイズンクッキング!

 

 

 

「ビ〇ンキ!?」

 

バン!

 

おもわず卓を叩いて立ち上がる一刀

 

 

 

「か、一刀殿?び〇んきというのは?」

 

 

「マフィアだよマフィア!」

 

 

 

「ま、まふぃあ?」

 

「ちょ、ちょっと!落ち着きなさいよ!」

 

急に意味のわからないことを叫びだした一刀に、稟も桂花も少し取り乱す

 

 

「お兄さんお兄さん。まふぃあというのはどういう物なのですか?」

 

 

唯一取り乱していない風が質問する

 

「マフィアっていうのはね─」

 

 

説明中

 

 

 

 

 

「なるほど、まふぃあというものは分かりましたが、どうしてそれが流琉に繋がるのですか?」

 

 

もっともな質問を稟がする

 

 

「俺のいた世界─まぁ、こっちじゃ天の世界ってことになるけど………漫画、絵本みたいなものの話の中にビ〇ンキっていう毒料理しか作れない人がいてさ」

 

 

「なるほど〜。でも流琉ちゃんは毒料理しか作れないわけではないので、まだそのび〇んきさんでは無いようですね〜」

 

 

「あ、そうなの?」

 

 

「えぇ一応普通の料理も作れるので」

 

 

「よ、よかった……」

 

稟と風の言葉にほっと胸を撫で下ろす一刀

 

しかし

 

「くっくっくっくっ…………甘いわね」

 

 

「け、桂花?」

 

 

不適な笑みを見せる桂花に、一刀は嫌な予感がしてきていた

 

 

「私調べたのだけれど、流琉の料理が毒になるのってあんたに関係があるみたいなのよね」

 

 

「……………」

 

 

「流琉が毒料理を作るときって、決まってあんたの話題で精神的に不安定になった時なのよ」

 

 

「え」

 

 

顔色が青くなっていく一刀に対し、桂花は喜色満面だ

 

 

「つまり………」

 

 

「そう!つまりあんたの食べる物を流琉が作るときに、下手をすれば毒料理が出来上がるかもしれないってことよ!」

 

 

 

「あなたは………一刀殿を貶める時、華琳様から伽に呼ばれる時並に生き生きしてますね。趣味なんですか?」

 

 

「そうよ!」

 

 

「おやおや、断言してしまいましたね〜」

 

 

「というかこれ………死活問題じゃないか?」

 

 

先の未来に不安な構図しか浮かんでこない一刀

 

「お兄さんなら大丈夫ですよ〜」

「一刀殿ならなんとかなると思いますが」

「死ねばいいのに」

 

 

三者三様の答えが返ってくる

 

 

「なにその根拠の無い慰めは!?桂花に至っては願望だし!」

 

 

「五月蝿いわね!なんで私があんたに大丈夫なんて言わなきゃいけないのよ!」

 

「いや、それは─」

 

 

 

ギャーギャー!と一刀と桂花が言い合いをするのを風と稟は少し離れたところから見守る

 

 

「ふふっ」

 

「珍しいわね、風が笑い声をあげるなんて」

 

「こんなに楽しいのは久しぶりですからね〜。つい声が漏れてしまったのですよ」

 

「そうね……。みんなが笑っているのを本当に久しぶりに見た気がするわ」

 

しみじみと呟く稟

 

 

「桂花ちゃんも心なしか楽しそうですからね〜」

 

 

騒いでいる二人を遠目に見て、軍師二人は顔を見合わせて微笑んだ

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「よいしょっ…と」

 

 

城壁の縁に手をかけ、勢い良く登る一刀

 

 

桂花達3人と別れたあと、少し風にあたろうと1人で城壁の上まで来ていた─のだが

 

 

「あら?みんなへの挨拶は済んだのかしら?」

 

 

 

そこには先客がいた

 

 

「霞と天和達以外はね、隣いい?」

 

 

「構わないわよ」

 

 

先客─華琳がいたことに然程驚きもせずに、断りをいれ腰を下ろす

 

 

「いい風だなぁ……」

 

「えぇ……」

 

 

言葉こそ少ないものの、心地よい時間

 

 

「街の方も凄い賑わいだね」

 

「えぇ、天の御使いが魏に戻ってきたと知らせたら、途端にこうよ」

 

 

一刀と華琳、2人の視線の先には賑やかな街

普段から賑わいを見せてはいるが、今日は特別輝いて見えた

 

 

「一刀」

 

「うん?」

 

華琳に呼ばれ視線を横に移すと、目の前には杯と酒瓶

 

「一杯付き合いなさい」

 

「そんなこと言って、一杯じゃ足りないくせに」

 

「そう…なら、いっぱい付き合いなさい」

 

 

「ははは…………仰せの通りに…覇王様」

 

 

トクトクトクトク…………

 

2人の杯が満たされていく

 

まず、華琳が先に杯を口元に持っていく

 

 

それを見ながら一刀も口元に杯を運ぶ

 

 

「んくっ…………はぁ…………美味しいわね…」

 

「んくっ…………うん…………美味しい…」

 

 

杯の中身を飲み干し、同じような感想を漏らす2人

 

 

「こんなに美味しい酒は久しぶりね…」

 

「へ?」

 

「あなたがいない間に飲む酒はただ、不味いだけだったわ……………一刀、あなたはどう?」

 

 

「俺も……かな。向こうでも酒を飲む機会は何度かあったけど、みんながいないと…美味しくなかった」

 

「2人の時ぐらい…みんながとか言うのやめなさいよ…ばか」

 

「はは…でもまぁ…事実だし」

 

 

苦笑いをし、頭を掻く一刀

 

 

「そうね…そういうあなただから私は───」

 

 

「ん?なにか言った?華琳」

 

 

「な、なんでもないわよっ!」

 

 

顔を赤くしてそっぽを向く華琳

 

 

(なんかさっきもこんなことあった気がするなぁ…)

 

と、思いつつ再び杯を口に運ぶ

 

 

「一刀…」

 

「へ?んむっ!?」

 

唐突に唇に柔らかいものが押し付けられる

 

それが華琳の唇と頭が理解するまで、然程時間を必要としなかった

 

 

「んっ………ぷはぁ…」

 

 

時間にして数十秒

しかし今の2人にはそれだけで充分だった

 

 

ギュッ…

 

 

一刀の手を華琳が握る

 

 

「しばらくこうしていても良いかしら?…怖いのよ……あなたがまた消えてしまいそうで…」

 

消え入りそうな声

覇王ではなく1人の女の子の声

 

 

「俺は消えないよ」

 

「え?」

 

「今度こそ…絶対消えない。消えてって頼まれたって消えてなんてやるもんか」

 

笑いながら宣言する天の御使い

 

 

「一刀…………そうよ。それでいいわ」

 

2年前と同じ言葉を全く違う心境で言った華琳

 

その表情は幸せに満ちていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで華琳」

 

 

唐突に一刀が口を開く

 

 

「なにかしら?」

 

 

「大事な話があるんだけど……」

 

 

ガシッ!

 

華琳の肩を掴み、真剣な表情をする一刀

 

 

「な、なによ…」

 

 

突然の一刀の態度に少し引く華琳

 

 

そこに──

 

 

 

「華琳……少し小さくなった?」

 

 

 

無意識下の爆弾、いや核が投下された

 

ブチッ!

 

 

「誰の……胸が小さくなったですって………?」

 

 

なにかが切れる音と同時にゆらりと立ち上がる覇王

 

 

 

「へ?いや俺は身長の───」

 

「死ね!この種馬ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

とんでもない勘違い

まぁ一刀が悪いのだが──

ボグスッ!

 

「ぐはぁぁぁっっっっ!!!」

 

 

華琳の右フックが見事、一刀の頬にクリーンヒットした

 

 

ズザザザザザ!!!

 

 

凄い勢いで城壁の上を滑っていく一刀

 

しばらくして、ようやく止まる

 

「うっ!ううっ……な、なんで…?」

 

 

流石に鍛えただけあって、すぐによろよろと立ち上がる一刀

 

 

そこに──

 

 

「か〜〜ず〜〜と〜〜!」

 

ドドドドドドドドという音と共に、大声がかけられる

 

「え?」

 

その声に振り向く一刀

そう、振り向いたのがいけなかった

 

 

「ぐぼあぁぁぁっっっっ!?」

 

 

凄いスピードで走ってきた霞の頭が一刀の鳩尾に直撃する

 

 

さすが神速の張文遠、季衣よりも重い一撃が決まった

 

 

「だ、第二段……?」

 

 

そこまで言ったところで一刀の意識は暗転した

-6ページ-

 

<あとがき>

 

 

ども!十六夜です

 

おとといには更新しようと思っていたのですが、PCを使える状態に無く遅れました

 

すいません

 

さて、今回のあとがきにはあまり書くことがありません。

 

あえて書くとすれば、:華琳デレ過ぎ?とか:霞と3姉妹出せなくてゴメンネ。

 

的な感じです。

 

どしどしコメントをお願いします。

 

十六夜でした。

 

 

説明
しばらく間が空きました。
久しぶりの投稿です。
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コメント
霞のロケット〇つき。一刀に9999のダメージ?(アカツキ)
ビア〇キですね わかりますw(クロスEX)
一刀は、みんなのみんなの癒しだね。(カイ)
す、すいません(十六夜)
とりあえず 天保→天和 です(よーぜふ)
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