SHUFFLE!&リリカルストーリー 27
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第二十七話 借り物競走の行方

 

「それではバーベナ学園体育祭、最終種目の借り物競走スタートです!!」

 

放送によってスタートが告げられると全生徒が一斉に動き出す

 

 

「いくぞ!楓ちゃんと桜ちゃんフェイトちゃんのキスは俺様達のものだ!!まずはA、B班はユーノの妨害に、C,D班は稟の妨害にそれぞれ回るんだ!」

 

樹がトランシーバーを片手指示を飛ばす

 

『A班了解』

『B班了解』

『C班了解』

『D班了解』

 

ちなみに一班は五十人くらいで一組になっておりその中にリーダー、副リーダーと指揮系統がしっかりとしていて充分に組織として機能するという学生にしては恐ろしくできたグループである。

それが少なくとも十弱は存在している。

 

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そうして樹の指示のもとA〜D班が動き始めたころ少し高いところからそれを眺めている影があった。

 

「レイジングハート大丈夫?」

 

『はい、今すぐにでもいけます。マスター』

 

屋上から校庭を眺めている少女-高町なのは-は自分の前に浮かぶ球体に向けて話しかけ、球体がそれにこたえると柔らかく笑う。

 

「うん、ユーノくんとフェイトちゃんのためだもん、今すぐにでも行こうかレイジングハート。悲しいけど言ってもわからない人たちには力で屈服させることも必要だから」

 

『了解です。マスター』

 

そして一瞬の光に包まれると屋上にあったのは白いバリアジャケットに身を包み杖を持った天使の姿をした白い悪魔の姿

 

「レイジングハート、まずは一回おっきいの行こうか?」

 

『そうですね、出鼻をくじくには最適かと。ただあまり多用はできません、地形が変わってしまうので』

 

そう話すとなのはの手に持った杖が変形してゆき砲撃特化のバスターモードへと変化する。そしてなのはは集中するように少し目を閉じるとすぐに開く。

 

「ディバイィーン!!!」

 

『BUSTER.』

 

そして桜色の極光が解き放たれる

 

 

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「よし、我々はこれからユーノ・スクライアおよび土見稟の妨害行動に入る!!みんな心してかかれ」

 

「「「「おす!!!!!」」」」

 

樹からの指令をもらった直後、各部隊長が檄を飛ばしていた。

 

「それでは軍師殿(樹)の想定してくれたルートに先回りし我々は奴達よりも先回りする。それでは諸君健闘を祈る…。行動開始!!」

 

「「「「「うおぉぉぉっ―!!!!!」」」」」

 

だがその部隊は気付いていなかった、空に悪魔がいることを…、その極光が自分達の部隊に向けられていることを…、そして自分達に万に一つの勝機がないことも…

 

何一つ気がついていなかったのだ。

 

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その熱気の中でその砲撃を感知したものはいなかったわけではない、魔力に敏感なものならすぐに気がついただろう。

ただ結果が同じならば気付かない方が良かったかもしれない、気付かなければ恐怖もなく昏倒することができたのだから。

 

そして桜色の極光は部隊のうちの半分ほどを飲み込んでいったのだった……

 

目の前で自分の部下(暫定)がピンク色の光に包まれ爆発が起こった。続けて数度ほど同じ規模の爆発が近くで起こる。

煙が晴れると…

 

「なにが起こったというのだ…」

 

隊長は自分の目を疑った。

目の前にはクレーターと自分の部下の9割弱が死んだように横たわっていたからだ。横にいる他の三つの部隊も程度の差はあるものの五割以上の隊員が戦闘不能になっていた。

 

「…ここから先には進ませません」

 

茫然としているところに頭上からそんな声をかけられ部隊長たちは我に返り頭上を見上げた

 

「「「「―っ何者だ!」」」」

 

そこにいたのは白いバリアジャケットを纏った少女、ただ隊長達にはその姿が――

 

「正式には時空管理局戦技教導官の高町なのは。だけどいまは―」

 

そう、今は…

 

「―――ユーノくんとフェイトちゃんの親友の高町なのはかな?」

 

――自分達に死刑を執行しに来た悪魔にしか見えなかった。

 

そしてこの約十分後この場にいた部隊は壊滅。逃げ延びた隊員も全体の二割ほどいたのだが完全に心を折られていて行動は不可能。

 

こうして樹率いる軍勢はこの短時間に3分の1以上の人員を失ったのである。

 

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「うん。これであっちの稟ちゃんとユーノくんの足止め部隊はだいたい消えたはずよね…」

 

町の中を走りながら少女―時雨亜沙―はそう呟く。その隣には稟とユーノの姿もあった。

 

「「……」」

 

亜沙の物騒な呟きに寒気を感じながらも稟とユーノはこの人が味方でよかったと心底思う。

 

「次は町に紛れ込み始めた部隊の索敵と排除よね。索敵の方は女の子達を動員してるから問題ないとして、排除の方ははやてちゃん頼みかな?最悪、排除は無理でも女の子達に足止めをしてもらえれば問題はないか…。ユーノくんと稟ちゃんはどう思う?」

 

「そうですね。そこはみなさんに任せて僕たちはまっすぐに借り物の方を探しに行きましょう」

 

「俺もそれでいいと思います。とりあえず先輩方が予測してくれた借り物がある場所を中心に探すことにしませんか?」

 

こういうときの亜沙の行動力には驚かされてばかりだ。今回のことが分かってからすぐに全校の女子たちに協力を要請し、借り物競走のときの役割分担をしたのだ。

もちろんこれスムーズに進んだ背景には女子たちが協力的だったのも一因にはあるのだが、亜沙の人望が厚かったのが一番の要因だと言えるだろう。亜沙以外の人物ではこれ以上の効果は望め無かった、と二人とも思っている。

 

「そうね。借り物の捜索班の方も連絡を入れてくれるはずだから私たちはその辺を中心に探せばいいんだろうけど…」

 

「けど?どうしたんですか亜沙先輩」

 

いつもと違い歯切れの悪い亜沙を怪訝に思ったのか稟が亜沙に声をかける。が、答えはその反対側にいるユーノからかえってくる。

 

「樹がこのままいいようにされているわけがないってことですよね?」

 

ユーノの指摘に亜沙は無言で頷く。稟の方もはっとした表情だ。

 

「そうなのよ、緑葉くんがこのまま大人しくしてるっていうのが想像できないのよね〜」

 

「た、確かにそうですけど…、この状態で何ができると―っつ!!」

 

「さっそくきたね。時雨先輩ちょっと下がっていてくださいね」

 

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亜沙がユーノの肩越しにその先をみると魔族のみで編成された部隊が見えた。魔法嫌いでその授業さえまじめに受けない亜沙でさえ知っているような学校内で名前のしれた魔法の名手ばかり。

中には卒業後には軍の入隊が決まっており魔法だけなら入隊すれば十指に入ると言われているようなものもいる。

そんな集団が数十人がかりで火の魔法を組み上げ、こちらに放とうとしていた。その火球の大きさ優に十メートルを超える。

 

この世界の魔法にはミッド型の魔法と違い非殺傷設定なんて便利なものは存在しない、それを本気でこちらに放とうとしていたのだ。それは無論ユーノ達を殺す気でということになる。

本人達にその自覚はないのかもしれない、けれどこの状況でそれをするということはそういうことだ。

 

「逃げるわよ!!ユーノくん、稟ちゃん」

 

亜沙がその場から離れるように鋭い声をあげるがもうすでに遅い。火球はすでに放たれていた。

 

「だめっ!」

 

悲痛な叫びをあげながら亜沙が二人を庇おうと前へ出ようとする。それを制したのは――

 

「だめです」

 

――バリアジァケットを身にまといその手に太刀を持った翡翠色の青年。

 

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目も前には魔族のみで編成されていると思わしき部隊、その部隊はなんらかの魔法を組み上げている。

 

「さっそくきたね。時雨先輩ちょっと下がっていてくださいね」

 

それならば防御してから稟に片付けてもらうのが賢明かなと思い一歩前に出ることにする。

この時の僕はさすがに身を守るすべのない一般生徒である時雨先輩がいるのであちらもあまり強引な手段には出てこないだろうと悪い意味で“彼らを甘く見ていた”。

 

「逃げるわよ!!ユーノくん、稟ちゃん」

 

時雨先輩の声とほぼ同時に放たれる火球、それを見たときに僕の中でなにかが音を立てて切れるのを感じる。

それはいままで切れたことなどほとんどない堪忍袋の緒というやつだ。

 

自分を殺すつもりでくるのはまだいい。稟でもギリギリ許せる。

 

けれど――この場にいる時雨先輩は別だ。

時雨先輩は自分たちの手伝いでここにいただけだ、それを巻き込むとはどういうことだろうか?

 

(いやそういうことはどうでもいいのかもしれない)

 

バーベナに入学して初めに知り合った先輩、元気でたまにトラブルメーカーな太陽みたいな人。きっと稟やフェイト、楓さんに桜さんそして僕にとっても大切な人。

もちろん恋愛感情などではない…と思う、僕が愛しているのはフェイトだ。

 

それでも僕は思ってしまったのだ。

この人を傷つけようとするあいつらが許せないと、なぜか僕に“母”をかんじさせてくれるこの人を護りたいと…。

 

「だめっ!」

 

そうやってあの人が僕たちだけでも守ろうと前に出ようとする。

それはきっと尊いもので、僕にはそれが子供を身を呈して護ろうとする“母親”の姿に見えた。

 

だから僕は――

 

「だめです」

 

――そんなこの人を全力で護ろうと思うのだ。

 

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「え?ユーノくん」

 

亜沙はその背中に自分の母を幻視する。どんなときでも、自分が傷ついたとしても、どんなに辛くても、きつくても弱音一つ吐かずに亜沙を守ってくれていた…小さいけれどなによりも大きい背中。

それを普段は稟と同じで弟のように感じている少年から感じた。

 

「大丈夫です。亜沙さんはぼくが護ります」

 

ユーノは亜沙の方を向いてそう言う。

そして普段の彼からは想像できないような真剣な表情で迫りくる火球を見据え、居合いの構えをとる。

 

そしてユーノはいままでの自身の人生の中で最高の一閃を放った―――

 

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「え?ユーノくん」

 

自分でも馬鹿げているとは思うのだ、自分を制して前へ出た弟のように感じている後輩に母の姿を幻視するなんて。

自分の憧れ、自分の到達目標、それとおんなじ物を持っていると後輩から感じるなんて。

それでも何故かその背中から目が離せない、離したくない。そう思っている自分がいることに驚きながらも、当然のように受け入れている自分。

 

「大丈夫です。亜沙さんはぼくが護ります」

 

その言葉に心が何故か温かくなった。なんでいままでさんざん言っても聞いてくれなかったのに名前で呼んでくれたのかとか、聞きたいことはあったけれど何故か安心した。

何故か絶対に大丈夫だとも感じていたから。そして同時に胸の高鳴りも覚えていた、ただの吊り橋効果だったのかもしれないし、本当は前から心のどこかにあったのかもしれない。

 

でもこの時初めて時雨亜沙はユーノ・スクライアに向かっている自分の恋愛感情を自覚したのだった。

そして同時に借り物競走が終わった後、一つのことをやると心に決める。

 

彼の方を見ると普段の彼からは想像できないような真剣な表情で迫りくる火球を見据え、時代劇で一回見たことがある居合いの構えをとっている。

 

そしていつの間か彼の太刀が振り向かれていて―――

 

―――予感通り火球は跡形もなく消し飛ばされていた。

 

そして飛び出していく二人を見送りながら呟いた

 

「気が付いたら止まれないから―――」

 

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「で、ユーノ。そう言えば何でいきなり亜沙先輩のこと名前で呼びだしたんだよ?」

 

「い、いや、あのね?特に他意はなくて気付いたらそう呼んでた?っていうか前から亜沙さんお母さんみたいだなーって思ってたっていうか」

 

その周りには二十数人の魔族。けれど二人の顔に気負いはない。負けられないし、負けない、負けてなんかやらない。

それにこいつらは亜沙まで巻き込もうとしたのだ。手加減なんて生ぬるいことしてなんかやらない。

 

「ま、いいか。このことはフェイトさんに報告だな」

 

「ちょ、ちょっと稟!?」

 

見た目緊張感のない二人に周りの魔族は殺気立つ、自分たちが無視されているような状況なのだ怒らない方が不自然だ。

 

「…ふざけているのか?」

 

「まぁとりあえずは」

 

「だな」

 

部隊長と思わしき男が二人の方に声をかける。それさえも無視して二人は会話を続ける

 

「こいつらをつぶしてからかな?」「こいつらをつぶしてからだよな!」

 

それを合図に二人は飛び出す。一人目はユーノの刃に反応すら出来ずに昏倒、二人目ほぼ一人目とほぼ同時に稟の剣の柄によって昏倒、三人目は魔法を繰り出そうと動き出した時には目の前になにかの鞘そして記憶が途切れ、四人目は恐怖で意識を失った。

五人目は魔法発動途中に稟の一撃により気絶させられ魔法が暴走、仲間三人を巻き込み気絶、九人目と十人目は背中合わせになっている稟とユーノに魔法を放ちお互いに放った魔法により半死、その状況を見て残りは逃げ出したがユーノと稟にすぐに追いつかれ昏倒。

 

この間わずか数十秒。圧倒的な力の差、それが二人と部隊の間には存在した。

 

「……レン」

 

「ニャア」

 

ユーノがそう呼ぶと傍に黒猫が寄り添っていた、無論ユーノの使い魔のレンである。

レンはユーノの意図を理解していたのか魔族に近ずくとひとりひとり触れていく。

すると触れた魔族の顔が苦痛にゆがんでいき苦しみ始めた。

それをみるとユーノは亜沙の方に戻っていく。稟は苦笑しながらも止める気はないのかレンを抱き上げてユーノの後を追った。

 

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「ユーノくん!!稟ちゃん!!」

 

二人が亜沙のもとにもどっているととよっぽど心配したのだろう大きな声で亜沙が駆け寄ってくる。

 

「けがとかはないわよね!?」

 

本当に心配そうにそう聞いてくる亜沙に二人は笑みを浮かべる、自分達のことをこんなに心配してくれる人がいてくれることが二人にはなにより嬉しかったのだ。

 

「大丈夫ですよ亜沙先輩、俺もユーノもピンピンしてますから」

 

「そうですよ時雨先輩。むしろ時雨先輩の方こそけがとかはないですか?」

 

稟の言葉に安堵の表情を浮かべたが、次のユーノの言葉に不満顔になる。もちろん二人には何で不満そうな顔になるのかは見当もつかなかったのだが。

 

「うん、なら良かったわ。稟ちゃんがもし怪我とかしてたら問答無用で救急車とか呼び出しかねないからね〜楓は。…で、ユーノくん?」

 

「はいっ?!」

 

何故かすごい迫力で自分の名前を呼ばれたユーノは恐る恐る亜沙の方を見る。亜沙の顔は笑顔だった、それはもう完璧に。目だけを除けばだが。

 

「なあ〜んでさっきは名前で呼んでくれたのに今は名字に戻ってるのよ!!」

 

「え〜っと、失礼だと思ったからですけど……」

 

「そんなこと全然ないの!……だからね今度からはさっきみたいに“亜沙さん”って呼んでくれない?」

 

烈火のごとき勢いで言ったかと思うと後の方はほんとに聞き取れるかどうかという声で言うもんだからユーノも反応に困る。横で見ている稟は“あの亜沙先輩がね〜、へ〜”と思っているのだがユーノと亜沙はそれどころじゃないために気がついていないのだが。

 

「……えっと、じゃあ…その、亜沙さん」

 

「うんうん、よくできました。ユーノくん、いい子いい子してあげる」

 

そしてユーノがそう呼ぶと亜沙は満面の笑み、至福の表情とでもいえばいいのだろうか?本当に屈託のないまるで自分と二人きりでいるときのフェイトの表情みたいだとユーノは思う。そしてその表情を見ていると幸せな気持ちになってくるから不思議だ。

 

子供扱いされているはずなのにそれが全然嫌じゃない。もっと見ていたくなる、その表情をさせたくなる、そして自分まで笑顔になれるそんな表情。

 

ただこのとき一つだけユーノは間違いを起こしていた。

 

ユーノには気がついていなかったものが一つある、それは自分の感情だ。このときユーノはフェイトと一緒にいるときと同じ感情を抱いていたにもかかわらずそれに“ふたをした”、フェイトに向けるものと同種の感情のはずなのにそれは違うものだと“思い込んだ”。

 

そうやって自分でも無意識のうちに自分の感情にふたをしたのだ。それがユーノの犯した間違い。

 

そんな強い感情を抑えつけていられるわけがないのだ、だから当然のように近いうちにその感情のダムは決壊する、それが何をもたらすのかは今はまだわからない。

それでも近くに起こることには変わりないのだ。

 

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「ユーノ、亜沙先輩。じゃれあうのはそれぐらいにしといてくださいよ」

 

稟に声をかけられユーノと亜沙の二人は我に返る。声をかけられた後、いままでのやり取りを稟に見られていたことに気がつき、二人とも顔が真っ赤になったのは御愛嬌というものだろう。

 

「そ、そうね。それじゃあ借り物の方の探索に戻りましょうか」

 

「そ、そうですね亜沙さん」

 

若干、冷静さを欠いている状態ではあるが問題はないだろう。……冷静さを欠いた理由が理由であることだし。

 

「そのことでさっき八神から念話で連絡がありました。楓の借り物を確保したからこちらに向かってくれてるらしいです」

 

「あ、そうなの?ということは後は桜とフェイトの分だけね、とりあえず桜の分はこの辺から近いって予測だったみたいだから探しましょうか」

 

借り物はどれも花で楓が“薔薇”桜が“スターチス”フェイトが“フリージア”ちなみに店で買ってくるなどの方法はルール違反だ。

学校側が用意した借り物には特殊な魔法によるマーキングが施しているため審査員に見せれば一発である。

 

「ああ、それならあれだと思うんですが」

 

そう言って稟は電柱に結び付けるようにしておいてある籠いっぱいのスターチスを指さす。確かに見ると借り物と大きく書いた札もつけてある。

 

「けどなぁ…」

 

「稟、言いたいことはわかるけどさっさと回収しちゃおう。ぼく取ってこようか?」

 

「いや自分で行ってくるよ」

 

そう言うと稟は飛行魔法を使い電柱の中ごろまで上がり籠ごと回収に向かう。

ちなみに稟とユーノが何を言いたいかといえばこの一言に尽きる。なんだかとても間抜けな光景なのだ。

 

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「ということは後はフェイトの分だけよね。たしかそっちの探索には……」

 

♪〜君の傍にいれられることをいつも神様に感謝です〜♪

 

そう亜沙が呟いていると彼女の携帯が鳴りだした。ユーノに断りを入れると亜沙は携帯を取り出し通話ボタンを押す、どうやら電話のようだ。

 

『あ、亜沙ちゃんですか?』

 

「そうよ〜。カレハどうかしたの?」

 

『こちらのほうでフェイトさんの借り物を回収できたので亜沙ちゃんに報告を、と思ったのですわ。いまこちらは光陽公園なのですけれど、どうしましょう?』

 

どうやらこれで借り物の方は全部そろったようだ。亜沙がフェイトの借り物の探索をお願いしていたのはカレハをリーダーとしたグループである。

亜沙が一番信用している人物であるし何よりあの“妄想”さえなければかなり優秀なのである。……もしもの時を考えて信頼のおける友人を五人ほどカレハには付けているのだが。

 

「う〜ん光陽公園かぁ……」

 

亜沙はどうしようか考えを巡らせる。光陽公園だとこちらの位置からは学校を挟んで反対側なのだ。

 

(こっちが回収に向かうには遠すぎるし、かといって学校で合流なんかにすると、その途中で下手をすると借り物を奪われちゃう可能性も高いわよね…)

 

「え〜と亜沙さん、それならこちらから回収に向かいましょう。幸い転移魔法を使えば時間もかからないので」

 

亜沙が熟考に入ろうとする前にユーノが言葉をかける。実際、転移する場所が知っているとこならばユーノなら一秒にも満たない時間で発動まで持っていける(デバイスは不使用)。

あくまでこれはユーノならという話でどれほど優秀な魔道士でも発動まで三秒はかかると思われる。デバイスを使えばまた別だがそれでも早くて一秒半といったところだ。

 

「そう?ユーノくんがそういうならそうしましょうか。ということでカレハ、いまからそっちに向かうから借り物の番よろしくね」

 

『了解ですわ。亜沙ちゃん』

 

「ということではやてがこっちに借り物を持ってきたら転移魔法だっけ?お願いねユーノくん」

 

「了解です。亜沙さん」

 

亜沙が魔法という単語を口にしたときに何かしら複雑な感情が見えたのをユーノは感じたが、いま追求することでもないなと思いその場は普通に頷いておく。

 

ちなみに亜沙が嫌悪感を示すのはどちらかというと神族や魔族の使う魔法にたいしてだだ、管理局の魔法に関しては勉強してもいいかなという気さえしているのだが魔法という単語にいままでの習慣から複雑な気持ちが少し出てしまう、亜沙自身も気をつけているのだがこればかりはどうしようもない。

 

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「よし、回収完了っと」

 

話がまとまったところでちょうど稟が籠を回収して下りてくる。その手には二つの籠、一つにはスターチス、もうひとつには薔薇が入っている。

 

「ってあれ?もしかしてはやて来てたの」

 

「ん、ああ。きてたのは八神じゃなくてリインちゃんだったけどな」

 

「リインちゃんって言うとあのちっちゃい子よね?」

 

亜沙はリインは一回見たことがある程度でほとんど面識はない。稟の方はそれほど交流があったわけではないのに何故かかなり懐かれている。

 

「なにはともあれこれで借り物は全部揃いましたね」

 

「?てことはフェイトさんの分は見つかったのか」

 

「カレハのほうで確保したって話だったわ。ということでユーノくんよろしくね」

 

ユーノの言うとおり後はカレハの方でフェイトの分の“フリージア”を回収すれば全部そろう。ユーノは亜沙の言葉に頷くと構成を走らせる、この間わずか半秒。

 

「やっぱり魔法の構成速度なんかは段違いに速いよな、ユーノは」

 

「まぁこれだけが取り柄だからね」

 

稟が関したように呟くとユーノは若干てれを含んだ言葉を返す。亜沙は魔方陣の出現するなにか幻想的な光景にボーッと見入っていた。

 

「それじゃあ、転移」

 

ユーノがそう言うと同時に三人の姿がその場から消え、残されたのは少し離れたところで悪夢にうめき声を上げる若い魔族たちだけだった。

 

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ANOTHER VIEW

 

SIDE MIDORIBA ITSUKI

 

「まだ、借り物は見つからないのかい?」

 

「まだだな。怪しいところに入ろうとすると女生徒が道をふさいできて捜索しようにも捜索できない」

 

上級生に当たるその男の声を聞きながら自分たちの負けをうすうす感じ取っていた。

 

完全な準備不足だ、戦力そして戦術で明らかにむこうに上を行かれた。最初の十分ほどの間になのはによってもたらされた被害が思いのほか響いている。人数的にあれで完全に亜沙率いる女生徒に上を行かれたのだ。

そのうえあれを近くで見ていた人間は心まで折られていたのだからどうしようもない。そして、その後にユーノと稟の足止めに向かわせた虎の子の部隊からの連絡も途絶えていることから、何らかの手段で無力化されていると思って間違いないだろう。

 

「結局はなのはちゃん達の力を低く見すぎていたことが敗因か」

 

亜沙の求心力やユーノや稟達の女生徒からの人気など、予想以上のものがあったのは確かだがそれだけではここまで決定的ではなかったはずだと思う。

あの悪魔のような戦場を蹂躙できる戦闘力、虎の子の部隊でも相手になったかどうか……。さすがは管理局の“大空のエース・オブ・エース”かと樹は思う。

 

「で、どうするんだ。軍師殿?」

 

「こうなったら作戦も何もあったもんじゃないですよ。あとは皆さんの頑張りに期待させてもらいます」

 

上級生も樹の反応を予期していたのか何も言わずに“そうか”とだけ返す。それならば俺様達も行こうかと思い、その場から動こうかとしたときにそれは現れた。

 

「こんにちは緑葉くん」

 

その背後からの声に顔が盛大に引きつり、冷や汗がどっと噴き出す。自分はこの声を知っている、友人といえる間柄なのだから当然だ。

けれど今は…そう今だけは絶対に出会ってはいけない相手だった。

 

「や、やあ。奇遇だねなのはちゃん」

 

そういって振り向くとなのはの女神のような満面の笑顔、目だけは笑っていなかったが。

 

「そうだね。でね緑葉くん」

 

女神のようなその声に何故か冷や汗が止まらない。

 

「な、なんだい?なのはちゃん」

 

それでも震えて声が出ない喉をなんとか動かし言葉を紡ぐ、隣では上級生が完全に固まっていた。

 

「うん。ちょっとあたま冷やそうか」

 

そしてなのはが向けてくる指先、その先に集まる桃色の魔力光を見つめる。きっと手加減してくれるはずだとか、あり得ない期待を抱きながら。

 

「ちょ、まっ…!!」

 

「クロスファイヤー・シュート」

 

その抑揚のない声を最後に俺様の意識は途絶えた。

 

ANOTHER VIEW OUT

 

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「転移完了っと。亜沙さん大丈夫ですか?」

 

「うん、全然問題ないわよ。けどすごいわね〜これ、ほんとに一瞬じゃない」

 

「まぁ、そう言う魔法ですし。けど良かったですよ、最初はこれで酔う人とか居たりするんで少しだけ心配だったんです」

 

「まぁ、俺なんかひどかったもんな。あんな思いは二度とごめんだ」

 

光陽公園の入り口に翡翠の光が起こったかと思うと三人の男女が現れる、稟、ユーノ、亜沙の三人だ。

ユーノが亜沙が転移魔法で酔ったのではないかと心配しているがそんなこともなかったようで安心といったところだ。稟が初めて転移魔法で転移した時はこれがひどかったため(着くなり蹲って吐いた)ユーノも少し過敏になっている。

 

「亜沙ちゃん、稟さん、ユーノさんお疲れ様です」

 

そんな三人に神族の少女が声をかける。金色のロングヘアーに整った顔立ち、亜沙の親友にして料理部の双璧の片割れ“癒しのカレハ”だ。

 

「あ、カレハお疲れ様」

 

「「お疲れ様ですカレハ先輩」」

 

「はいお疲れ様ですわ。ではユーノさんこちらのほうをどうぞ」

 

「あ、はい」

 

そう挨拶を返す三人に一言だけ答えるとユーノに籠を手渡してくる。その籠には借り物の張り紙と“フリージア”の花、フェイトの借り物だった。

 

「ええっと、ありがとうございましたカレハ先輩」

 

「お礼なんかはいいので早く行ってあげてくださいませ。フェイトさんも桜さんも楓さんも不安でいらっしゃるでしょうから」

 

ユーノはお礼を言うがそんなことよりもと言うような感じで、カレハは早く行くように勧めてくる。もちろんカレハの後ろにいる女生徒達も同じ心境なのかうんうんと

頷いていた。

 

「はい!じゃあ転移するよ」

 

「ああ。それじゃ先輩がた、本当にありがとうございました」

 

「じゃまたあとでねみんな。これが終わったら祝勝会とでも行きましょうか」

 

亜沙がそう言うと後ろの方からそれいいいね〜などと声が聞こえてくる、その声をバックに――

 

「転移」

 

――三人はバーベナ学園へと跳ぶ。

 

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「で、やっぱりこうなるよな」

 

「そ、そうよね〜」

 

「予想の範囲内ではあるけど頭が痛い」

 

三人が転移した校門から先にはひしめくように男どもの群れ、当然こうなることぐらいは予測していたのだが……。

 

「やっぱこれ見ると萎えるよな」

 

「稟に同感」

 

「あはは…」

 

当然これまで走り回ってきたのにいまからこれはかなり萎える。が、行かないと始まらないので覚悟を決めて一歩踏み出そうとして――

 

「こういうのはわたしに任せてくれへん。ユーノくん、土見くん」

 

――タヌキに遮られた。

 

「って、はやて!?」「え、八神!?」「あ、はやてちゃん」

 

横から声がしたので見てみるとリインとユニゾンまでしている状態のはやてがいた。なんだかもうやる気(殺る気)満々といった感じだ。

 

「殲滅戦なら私が一番得意やからな〜、なにかといいつつ今回私あんまり活躍してへんし魔力が有り余っとるんよ」

 

『リインも頑張るですよー』

 

「……じゃあお願いしようかな」

 

なんだか投げやりにこたえつつも三人とも助かったとは思っているので文句はない。

 

「それじゃ、リインやろか?」

 

『ハイです!はやてちゃん』

 

「遠き地にて、闇に沈め」

 

「『ディアボリック・エミッション』!」

 

目の前の男子生徒達を包み込むように闇のドームが広がりその場にいたほぼ全員が球体に包みこまれる。

 

『詠唱完了。発動まであと三秒です』

 

「これでしまいやね。じゃ後は土見君、ユーノくん?」

 

「うん、わかってる」

「もちろんだな」

 

「うん、男の子の顔や。しっかり決めてきぃや」

 

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はやてが満面の笑みでそう告げるとほぼ同時に魔法が発動する。その後には死んだように倒れた男子生徒達、なんか若干騒ぎを鎮めようとした先生達が中に入っていたのは御愛嬌だろう。

ユーノと稟はそんなものは気にせずにひたすらにグラウンドまで走った。自分が護りたいと思った少女たちのもとへ、一秒でも早く不安を取り除いてあげたいとそう思って。

 

それを亜沙も追いかける、正確にはユーノの背中をだが。けれど追いつけない、置いていかれるそう思ったときに……

 

「亜沙先輩、おいてきますよ?」

「亜沙さん、おいていきますよ?」

 

差しのべられた手それをつかみ亜沙も一緒に走っていく。ゴールには涙を浮かべている楓と桜、そしてフェイトの姿。

 

その直前で亜沙は手を離し二人の背中を押した。

 

「ほら行ってきなさい、男の子」

 

「「はい!!」」

 

そして――

 

『借り物競走の勝者は芙蓉さん、八重さんには土見選手!!ハラオウンさんにはスクライア選手です!!』

 

――借り物競走は幕を閉じたのだった。

 

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ANOTHER VIEW SIDE RIN

 

「稟くんありがとうございます」

 

「うん、稟くんありがとう」

 

涙を浮かべてながら笑っている二人の姿を見て本当に良かったと心から思う。護れたという充足感が体を包み込んでいた。

 

「ま、まぁあれだ。恋人として当然のことをしただけだ、それに楓に桜が他の男となんてその……嫌だったから」

 

それが本音だった。結局は自分が嫌だったからやっただけだ。それ以上でも以下でもないのかもしれない。でも今は――

 

「ふふっ」

「あはっ」

 

――この笑顔があるからそれでいいかと思える。

 

「じゃあ稟くん」

 

「商品をどうぞ」

 

いつの間にか楓と桜はオレの左右にいて

 

「「ちゅっ」」

 

ほっぺには柔らかい感触、恥ずかしいけど嬉しくてきっと顔は真っ赤で、桜と楓もそれは同じで――

 

「ありがとう楓、桜」

 

――これがオレが護れたものなら嬉しいと思うのだ。

 

 

ANOTHER VIEW OUT

 

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ANOTHER VIEW SIDE YUNO

 

「ユーノ、ホントにホントにありがと」

 

フェイトが泣き笑いでそう告げてくれる。

その顔を見ているだけで疲れとか、何とか全部吹き飛ぶ気がしてさっきの亜沙さんとのやり取りのときのように自然と笑みがこぼれてくるから不思議だ。

 

「ううん、ボクはボクがしたいことをやっただけだから。むしろお礼を言うなら亜沙さんにじゃないかな」

 

今回の最大の功労者であろう人物の顔を思い浮かべながらボクはそう告げる。何故かフェイトが驚いたような顔をした後、なんだかやさしい顔になったのが気になったけれどまあ些細なことだろうと思う。

 

「うん。――亜沙先輩ありがとうございます」

 

フェイトが僕の後ろに向かってそう言うので後ろを振り返ると笑みを浮かべた最大の功労者の姿があった。

 

ANOTHER VIEW OUT

 

-21ページ-

ANOTHER VIEW SIDE FATE

 

「ううん、ボクはボクがしたいことをやっただけだから。むしろお礼を言うなら亜沙さんにじゃないかな」

 

ユーノがそう言った時、正直に言って私は驚いていた。その言葉は至極真っ当なものだったが自分を低くしすぎな気がしないでもない。が、正直そんなことは『ユーノだから』で納得できてしまう。

亜沙先輩の呼び方もだけどそれぐらいあんまりたいしたことではない、再三のアタックにユーノが折れたと考えることもできるから。

私が驚いたのは亜沙先輩の名前を口にしたときのユーノの表情。私はその表情を知っていた、いままでは女性では私を呼ぶときにしかしないと思っていた表情(男性でも土見君ぐらいだと思うけれどその表情はまた違う)、本当に心を許した相手の名前を呼ぶときにしかにしか出さない、そんな顔。

 

恋をした男の人の表情(カオ)、私がそれを見て浮かんできた感情は何故か――安心、そして嬉しさ…だった。

 

普通は嫉妬とか“ユーノの浮気者〜!”とか思うのかもしれないけれど……自然とそんな気持ちは起こらなかった。

ユーノがわたしのことを思ってくれているのが伝わってきていたから、その声から、態度から、ありとあらゆるものからユーノの私への気持ちが伝わってきている気がしたから。

 

そしてこれが一番の決定打なんだけどユーノの肩越しに見えた、亜沙先輩の表情。

恋する女の子の表情。

私と同じ表情。

 

でもそれでいながらも私とユーノの関係をきっと心から応援してくれているのがわかる、そんな雰囲気。

だからなのかもしれない……私はこう思ったのだ。

 

“この人とならユーノを一緒に好きでいられる。共に歩んで行ける。そしてふたりでユーノを支えたい”

 

だからお礼を言おう。今日のこととか、ユーノのことを男性として好きになってくれたこととかいろいろひっくるめて。

 

「うん。――亜沙先輩ありがとうございます」

 

そういって私は亜沙先輩の所に歩いていく

 

「これから二人で頑張っていきましょう。亜沙先輩」

 

「やっぱり気付いちゃうか……、っていま何て言ったの?フェイト」

 

そういって驚く亜沙先輩がおかしくて私は笑みを浮かべる。

 

「ユーノを二人で支えていきましょうね、って言ったんです。それともエリオとキャロのお母さん二号としての方が良かったですか?」

 

今度は笑顔、私も大好きな太陽みたいな笑顔。

 

「けど、フェイトはそれでいいの?ボクねこう見えて結構甘えん坊だからユーノくんに甘えられなくなったりするかもよ?」

 

「だったら二人で甘えればいいんです」

 

私の答えに“なにそれ”といって噴き出す亜沙先輩。む、私そんなに変なことは言ってないよ。

 

「けど、それもいいわね。けどユーノくんは大変よ〜、ボクもフェイトもついでにエリオくんもキャロちゃんも甘えんぼさんだから」

 

「きっとユーノだから平気です。それにユーノが疲れたら私と亜沙先輩でユーノをいっぱい甘えさせてあげるから問題ないんです」

 

これは決定事項だ。亜沙先輩も異論はないらしく笑顔で頷いていた。

 

「でもね、先にボクにはやっておかなきゃいけないことが一つあるんだ」

 

ユーノが後ろで驚いている気配が伝わってくる、それはきっと私だけを愛してくれようとしていた彼が、ある思いにした蓋を私が取ってしまおうとしているから。

そして亜沙先輩もそれをどけるのに躊躇なんてないみたいだ。緊張とか恥じらいとかは伝わってくるけれど後ろ向きなものは何もない、まぁその要素を根こそぎ取っ払っちゃったのは他でもない私なんだけどね。

そしての亜沙先輩はユーノの前まで歩いて行った。

 

「ユーノくん、ボクねユーノくんのこと好きになっちゃったみたい……だから、だからね」

 

「ちょ、ちょっと待って!亜沙さん。ボクにはフェイトっていう恋人が――」

 

「ユーノ、そう言うの抜きで答えてあげて?ユーノは亜沙先輩をどう思ってるの?ユーノの素直な気持ちは?それとこれが一番大事なんだけど――自分に嘘はつかないで、それがどんなものでも少なくとも私と亜沙先輩は受け入れるよ」

 

ここまで来ても往生際の悪いユーノにはこれくらいでちょうどいいんだ、うんきっとそうに違いない。

 

「……はぁ、わかったよ。亜沙さんのことは好きだよ、きっとフェイトと同じくらい」

 

「「じゃあ……」」

 

迷うこと無いじゃないかと私と亜沙先輩が言おうとしたのを遮ってユーノは続けた

 

「でもね、わからないんだよ」

 

「「???」」

 

「この気持ちがLIKEなのかLOVEなのか」

 

この期に及んでそんなことを言っているユーノにいささかあきれつつも彼らしいなとも思う。

 

「ん〜、だったらね――」

 

そういいながら亜沙先輩はユーノの前に回り込んで――

 

「――んっ!」

「!!」

 

「あ、亜沙先輩大胆すぎますよぉ〜」

 

――彼の唇を奪った。ああもう自分がしたわけでもないのに顔真っ赤だよ私。

 

「えへへ〜、これではっきりした?」

 

「……はい、もうはっきりと」

 

この光景を見てマイナスの感情が浮かんでこないのは我ながらすごいなと思う。ただ一つ決めたことがある。

 

(このあとユーノにキスしよう。うん、そうしよう)

 

「僕、ユーノ・スクライアは時雨亜沙さんのことが好きです、……もちろんLOVEの意味で。だから――」

 

「うん、だからボクをユーノくんの恋人にしてくれませんか?」

 

「――僕のセリフを取らないでくれますか?」

 

ただ目の前の光景がなんだか夫婦漫才みたいに見えて若干妬けるのだが、まぁ羨ましいって意味で。

 

「で、ユーノくん。返答は?」

 

「はぁ、YESです。だから僕を時雨亜沙さんの恋人にしてください」

 

「もちろん私もいるよユーノ?」

 

ちゃんとアピールしておく。じゃないとこの場で忘れ去られそうだったから。

 

「わかってるよ。……フェイト、亜沙さん」

 

「ん、なに?ユーノくん」「なにユーノ?」

 

「二人のこと絶対に幸せにするから」

 

そう言うユーノの顔はホントに幸せそうででもかっこよくて不覚にも見とれてしまった。いつものことなんだけど何だか悔しい。

 

だからではないけれど――

 

「ユーノ、そう言えば賞品をまだ渡してなかったよね?」

 

「え?」

 

「んっ」

 

――無性にキスがしたかった。

 

-22ページ-

あ、でもね?亜沙先輩にでも譲歩したくないものが私には一つだけあるんだ。

 

それは――

 

「ユーノのことを一番好きな女の子であることだけは亜沙先輩にでも譲りませんから」

 

「やだな〜フェイトは。ボクとフェイトで同率一位に決まってるじゃない」

 

「そ、それならいいのかな?……ってこれだけは私が一番なんです!!」

 

「じゃあボクはユーノくんから愛し愛されている女の子の一番ってことで手を打ちましょう」

 

「って、そっちも私が一位なんです。そうに違いありませんから!」

 

――ユーノを世界で一番愛しているってこと。

 

ANOTHER VIEW OUT

 

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ANOTHER VIEW SIDE ASA

 

「これから二人で頑張っていきましょう。亜沙先輩」

 

「やっぱり気付いちゃうか……、っていま何て言ったの?フェイト」

 

いまフェイトが言ったことが信じられなくて思わず聞き返す。

 

「ユーノを二人で支えていきましょうね、って言ったんです。それともエリオとキャロのお母さん二号としての方が良かったですか?」

 

「けど、フェイトはそれでいいの?ボクねこう見えて結構甘えん坊だからユーノくんに甘えられなくなったりするかもよ?」

 

フェイトのからかうようなセリフの中に本気の色を見たボクは笑みを浮かべながらフェイトと話す、こんな展開は予測できなかったな〜、というか今日はイレギュラーなことが多すぎる。

 

「だったら二人で甘えればいいんです」

 

なにそれといったら若干ふくれられた。こんな仕草も様になるからもてるんだろうなと思いつつ今日のことを思い出し、いいことばかりでもないかと苦笑が漏れたが。

 

「けど、それもいいわね。けどユーノくんは大変よ〜、ボクもフェイトもついでにエリオくんもキャロちゃんも甘えんぼさんだから」

 

「きっとユーノだから平気です。それにユーノが疲れたら私と亜沙先輩でユーノをいっぱい甘えさせてあげるから問題ないんです」

 

それに対しては異論はない。むしろどんと来いって感じだ。

 

「でもね、先にボクにはやっておかなきゃいけないことが一つあるんだ」

 

ユーノくんがが後ろで驚いている気配が伝わってくる、それはきっとフェイトだけを愛そうとしていた彼が、蓋をした思いをフェイトが揺さぶっているから。

そしてわたしもそれをどけるのに躊躇なんてない。緊張とか恥じらいとかはあるけれど後ろ向きなものは何もない、まぁその要素を根こそぎ取っ払っちゃったのは他でもないさっきのフェイトとの会話なのだが。

そしてのボクはユーノの前にたつ、緊張でどうにかなりそうでも伝えたいから、だからボクはここに立つ。

 

「ユーノくん。ボクねユーノくんのこと好きになっちゃったみたい……だから、だからね」

 

「ちょ、ちょっと待って!亜沙さん。ボクにはフェイトっていう恋人が――」

 

「ユーノ、そう言うの抜きで答えてあげて?ユーノは亜沙先輩をどう思ってるの?ユーノの素直な気持ちは?それとこれが一番大事なんだけど――自分に嘘はつかないで、それがどんなものでも少なくとも私と亜沙先輩は受け入れるよ」

 

ここまで来ても往生際の悪いユーノくんにフェイトのカツが入る。若干尻に敷かれてるなーと思いながらも、ユーノくんらしいと心の中で呟く。

 

「……はぁ、わかったよ。亜沙さんのことは好きだよ、きっとフェイトと同じくらい」

 

「「じゃあ……」」

 

迷うこと無いじゃないかと私とフェイトが言おうとしたのを遮ってユーノくんは続けた。

 

「でもね、わからないんだよ」

 

「「???」」

 

「この気持ちがLIKEなのかLOVEなのか」

 

この期に及んでそんなことを言っているユーノくんにいささかあきれつつも彼らしいなとも思う。それは真剣に考えてくれているからこそ出てくる言葉だから。

本当は恥ずかしいけれどショック療法をっとってみることにしようかな〜と思う

 

「ん〜、だったらね――」

 

そう言いながら彼の前方に回り込んで――

 

「――んっ!」

「!!」

 

「あ、亜沙先輩大胆すぎますよぉ〜」

 

――彼の唇を奪った。平静を装うと思ってたのにのに顔真っ赤だよボク。

 

「えへへ〜、これではっきりした?」

 

「……はい、もうはっきりと」

 

これではっきりしてくれなかったら万策尽きた状態だったのでユーノくんが真性の優柔不断男で無くてよかったと思う。さすがにここまでしてわからないとか言われたら悲しすぎる。

 

「僕、ユーノ・スクライアは時雨亜沙さんのことが好きです、……もちろんLOVEの意味で。だから――」

 

「うん、だからボクをユーノくんの恋人にしてくれませんか?」

 

「――僕のセリフを取らないでくれますか?」

 

ううん、だめ。これだけは自分で言うって決めてたからユーノくんでも譲ってあげない。

 

「で、ユーノくん。返答は?」

 

「はぁ、YESです。だから僕を時雨亜沙さんの恋人にしてください」

 

「もちろん私もいるよユーノ?」

 

大人しくしてたフェイトが話が終わったと同時にアピールしてくる。これは大変強力な仲間兼ライバルだと思う。

 

「わかってるよ。……フェイト、亜沙さん」

 

「ん、なに?ユーノくん」「なにユーノ?」

 

「二人のこと絶対に幸せにするから」

 

そう言うユーノくんの顔はホントに幸せそうで、でもかっこよくて不覚にも見とれてしまった。普段は中性的なのにこういうときの男らしさとのギャップは反則だと思う。。

 

「ユーノ、そう言えば賞品をまだ渡してなかったよね?」

 

「え?」

 

「んっ」

 

そんなこんなしてる間に賞品の授与は終了、そして私たちは我に返る。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

「逃げるわよユーノくん、フェイト!!」

 

「は、はい!」

 

「明日からが大変そうだな〜。転移」

 

そして本日三度目の転移魔法によってその場を後にする。我に返った後三人とも真っ赤だったのはしょうがないわよね?そうよね?

 

ANOTHER VIEW OUT

 

-24ページ-

「「おかえりなさい、とうさん(おとーさん)、かあさん(おかーさん)、あさかあさん(あさおかーさん)」」

 

一部始終を見ていたらしい子供たちの(青龍からお母さんが増えましたよと言われた)お家でのお迎えに亜沙が感動して泣いてしまったのは仕方がないと思う。

こんな自分でもおかーさんと呼んでくれるそんな子供たちが亜沙は愛おしくてたまらなかった。

 

だから亜沙はこの子たちの“母親”になりたいと思った。いつかフェイトが思ったように、小さいようで大きい一歩を亜沙は今踏み出したのだった。

 

けれど思うだけならだれでもできる。行動に移すのは難しい。亜沙にはまずはじめにやらなければいけないことがある。

 

まずはそこからだと思う、これが一番難しいのだが……。

 

子供たちとそしてユーノ達と一緒に暮らすためにやらなければいけないこと……。

 

すなわち両親の説得だった。

 

-25ページ-

あとがき

 

皆様お久しぶりです。

すいません、前回の更新から四か月ほど間があいてしまいました。更新がカメ以下な作者のグリムです。

 

今回は借り物競走の話。そして書いていて気がついたのが“あれ?麻弓がどこにもいないぞ”ってことですね。

まぁあの人は私の中では中立なんでこういう争い事には基本不干渉です。煽るだけ煽ってトンずらタイプです。

そして芙蓉家メインではないので幹夫さんとリムちゃんの出番が全くないんです。いやだそうと思えば出せるんですがね?私の筆力が足りないという結論に落ち着きだしませんでした。

 

もしまだ見捨てずに見てくれている方がいらっしゃったなら感謝を。

更新速度は……上がるといいなぁ。まぁ気長に待っていてください。

今回はこれで失礼します、読んでくださった皆様に多大な感謝と、こんな作品を待っていてくださった方々にそれ以上の感謝をです。

 

以上グリムでした。

説明
ついに始まった借り物競走。樹率いる軍勢に稟とユーノはどう挑むのか?

はいかなり久々な投稿です。つたないぶんしょうですがどうぞ。
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コメント
樹がかなり哀れ…でも仕方ないですねww(オイ(TETSU)
魔王様降臨wwwww(つくよみ)
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SHUFFLE! リリカルなのは ユーノ  亜沙 なのは はやて フェイト   

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