真・恋姫†無双‐天遣伝‐(25)
[全10ページ]
-1ページ-

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

-2ページ-

 

 

―――健業。

 

大蓮は一人、夜空を眺めていた。

その傍らには、酒。

何時もならば祭か雪蓮が付き合うのだが、今夜は一人であった。

 

無言で杯を傾け、星を見る。

まだ霊帝が即位してそれ程経っていない頃、大蓮は初めて郎中になったばかりの美里と出会った。

最初は家柄も誇りも無い下賤の出自と見下していたが、それはすぐに改められる事となった。

 

美里は、何よりもまず人を大事にしていた。

優秀な人材は、自身の身を投げ出そうとしてまで護り抜こうとする。

人を率いる者としては、致命的とも言えるだろう。

実際、中央の軍人達からの受けはとても悪かった。

だが、大蓮を始めとする呉の者達からしてみれば、拍手喝采ものだったのだ。

 

呉は元々【孫家】と言う家系の生む和を以って、呉を統括していた。

故に、人同士の結びつきが生む力を何よりも重視する。

だからこそ、美里の一見軍に携わる者失格な態度は、大蓮にとっては素晴らしくかつ尊敬に値する物に映った。

それだから、二人が親友とも呼び合える仲になったのは、必然だったと言えるだろう。

同じ様な理由で、西涼の馬家とも親交が結べたのも、良い結果だった。

 

そこで、大蓮は首を傾げた。

何故自分は、この様な過去の思い出に浸っているのか、と。

もしや、友の身に何かが起こっているのではないか、とも思った。

 

 

「何を馬鹿な事を、考え過ぎだろう」

 

「考え過ぎついでに、晩酌も程々にして下さいまし」

 

「ぬぉわっ!?」

 

 

突如、真背面からかけられた言葉に、比喩でも何でも無く大蓮は跳び上がった。

振り向けば、そこに立っていたのは。

流れるような紅いストレートヘアーに、透き通る様な白い肌を有した美女がいた。

最も、透き通る様なと言うよりも、存在感が薄いと言った方が通るかも知れないが。

後、ぶかぶかな袖が目立っている。

 

 

「る、瑠香、何時から?」

 

「堅様が二杯前を口に含んだ頃より」

 

「ついさっきか」

 

「そうなりますね?」

 

「いや、どうしてそこで疑問を」

 

「さぁ?」

 

 

可愛らしく左右に首を傾げる張紘―瑠香に、大蓮は大きく溜息を吐いた。

だが、晩酌の手は止めようとしない。

 

 

「えいっ」

 

「んぎゃー!?」

 

 

が、瑠香が手元の人形に針を刺した瞬間、大蓮が悲鳴を上げた。

そのまま崩れ落ち、腰を抑えてしまう。

因みに杯は瑠香が自身の手に持ち、自分の口に運んでいた。

 

 

「晩酌、程々にと言った筈ですが」

 

「んが、ががが・・・・・・こ、腰が・・・」

 

「お返事を?」

 

「わ、分かったから、早く解いてくれ・・・」

 

「よろしい?」

 

 

そう言って、針を抜く。

大蓮は腰を擦りながら立ち上がった。

 

 

「相変わらず、その人形一体全体どういう仕組みなのさ?」

 

「さぁ? 分かりかねます。

私は唯、皆様方の御顔を思い浮かべながら、丹精込めて作っただけですので」

 

「・・・それ、呪いって言わない?」

 

「くすぐりますよ?」

 

「私が悪かった!」

 

 

即座に土下座する。

呉王の誇りも尊厳もあった物ではない。

 

 

「あ、そうそう、何やら洛陽から密書が」

 

「は? 一体何だい?」

 

 

立ち上がりながら、瑠香に先を促す。

瑠香は密書を解きながら、中身を読む。

次第に、その表情は曇っていく。

 

 

「まさか、そんなにヤバい事が書いてあるのかい?」

 

「えぇ、読みます?」

 

 

差し出された密書をひったくる様に受け取り、読み込む。

最後まで一気に読み切り、一言。

 

 

「馬鹿げている」

 

「堅様なら、そう仰ると思っておりました」

 

「瑠香、全員起こせ、今すぐにだ!

不平不満は私が言わせないから、容赦無しでやれ!」

 

「かしこまりました」

 

 

やけにぶかぶかな袖から、人形を片っ端から取り出しては針を刺しては抜くを繰り返す。

それに連動する様に、城のあちこちから悲鳴や絶叫が響いた。

 

先程の密書は、他の勢力に送られた文と変わらない物。

即ち、『天の御遣いが大将軍何進や董卓と結託して、皇帝と宦官を謀殺。 洛陽で悪政を行っている』と言う物であった。

因みに、緊急の軍議に来ていた将や軍師達は皆揃って腰や頭を抑えていた。

 

 

 

-3ページ-

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第二十四話「連鎖」

 

 

 

―――洛陽政庁。

 

今正に、張譲が美里の命を断とうとして、剣を振り下ろそうとした瞬間だった。

それは唐突に起こった。

 

扉が、爆発したのだ。

 

 

「なっ!?」

 

 

それと同時に飛び散る鮮血。

驚愕によって、張譲の手が止まる。

美里自身、そして美里を抑え込んでいた禁軍兵士達も、皆一様にそちらを見た。

 

そこにあったのは、扉を吹き飛ばしながらこの場に突っ込んで来た禁軍の鎧を着込んだ兵の亡骸。

四肢を欠損し、見るも無残な状態である。

そして、この場に揃った者達は目にした。

 

二人を。

 

 

「よぉう、ド腐れ外道共、張文遠と呂奉先による、楽しい楽しい粛清のお時間や」

 

「・・・・・・」

 

 

鬼、修羅、或いは化物。

そうとしか呼べない姿だった。

返り血で全身を真っ赤に染め、二人はそこにいた。

霞は嬉しそうに残酷な笑みを浮かべ。

恋は見る者そのものの命を断たせかねない憤怒を視線に籠めた無表情で。

 

狼狽するは張譲。

何故これ程早く? と言う疑問よりも先に命の危険を察知し、張譲はこの場に隠しておいた精鋭達の伏兵に、二人を襲うように命令を下す。

 

 

「・・・・・・殺す・・・!!」

 

「堪忍袋の緒は、とうの昔に切れとるでぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

そして殺される。

伏兵は数にして約30人余り。

一人一人が、一介の将に通じる程度の実力を持っている筈。

なのに、呆気なく殺されていく。

 

敗色濃厚。

そう見極めた張譲の取った行動は、単純。

 

 

「貴様等、死ぬ気でこの場を死守せよ」

 

「はっ! 御意に!」

 

 

即時撤退。

しかも、その場にいた者達全てを捨て駒として。

 

 

「待てや、張譲! 首や! 首置いてけ! その粗末な首此処に置いてけぇ!!」

 

「逃がさない・・・・・・っ!!」

 

 

だが、それを見逃す程甘い二人では無い。

恋は即座に、敵の腕毎切り飛ばした剣を掴み取り、張譲へと向かって一直線に投擲した。

しかし外れた。

否、外されたと言った方が正しい。

名も無き一兵によって、剣は軌道を逸らされ、壁に突き刺さる。

無理も無い。

この場で恐れを抱かずに戦える程の錬度を持った者達が、選ばれてこの場にいるのだから。

 

 

「ふん、これまでか。

さらばだ、二度と会う事もあるまい」

 

「待てと―――言うとるやろがぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

凄まじい咆哮と跳躍で、張譲へと霞が上方から襲い掛かる。

だが、やはり途中で邪魔が入った。

 

 

「どかんかい! 己等、そないな外道に仕えるんでええんか!?」

 

「・・・・・・」

 

 

霞を止めた兵は、全く口を開こうとしない。

盲目的に従っているのか、薬か何かでも使ったかと思うが、その思考を許さぬ程には強い。

一人一人は彼女等からしてみれば大したことは無い。

だがしかし、群れで襲ってくるが故、苦戦を強いられていた。

 

 

「くそがぁ! 逃がす訳には、アイツは此処で討たなならんっちゅうに!!」

 

 

足止めを食らっている間に、政庁から炎が溢れた。

最初からこうするつもりだったに違いない、と美里は確信した。

火はあっと言う間に、皆を囲む様に広がった。

 

 

「何をしている! さっさと逃げろ!」

 

「せやかて、張譲を逃がしたら「それで貴様が死んだら、一体誰が涙を流すと思っている!!」っ!

〜〜〜ッ! 恋、退くで・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・分かった」

 

 

苦虫を噛み潰したかのような表情となり、霞は泣く泣く撤退の意を決した。

恋も、納得がいかない様ではあったが、霞の言を受け入れ、辺りの敵を方天画戟の連閃で一掃し、逃げた。

美里は、霞と共に突っ込んで来た隊員に拾われ、無事。

 

皆が先の部屋を離脱してから少しして、天井が落ちた。

 

 

 

-4ページ-

 

 

走る、走る。

炎に巻かれて今にも崩れ落ちそうな政庁の中を、走っている。

 

足を止める訳にはいかない。

止まれば、即死に直結だ。

が。

 

 

「・・・?」

 

「何やっとんねん恋! 死にたいんか!?」

 

 

恋が急に立ち止まってしまったのだ。

しかも、その視線は別の方を向いている。

 

 

「・・・人の気配、それと猫の声・・・」

 

「あっ、ちょい待ちぃ!」

 

 

ボソリと言葉を零した恋に続き、霞もその後を追う。

自分の部隊員にはもう命令を下していた。

 

足の速い恋を、霞もその俊足を如何なく発揮して追う。

それでも、火で彼方此方崩れかかっている所為で、走り難い。

なので、普段なら追走出来る筈が、明らかに遅れてしまっていた。

 

どうしてこうなった、と毒づきながらも、廊下の四つ目の角を曲がった所で、部屋から女性と猫を運び出す恋を見付けた。

文句の一つでも言ってやろうと思い、恋の元へと急行する霞だったが。

抱えている女性の姿に思わず息を飲んだ。

 

美しい。

まず胸中を過ぎったのはそんな言葉。

透き通る白磁の様な肌。

絹糸を思わせる銀髪。

その両方が奇跡的な調律。

全体的な線の細さも素晴らしい。

なのに、その癖女をしっかと感じさせる体付き。

 

同性の霞ですら、こんな非常時でなければ襲い掛かってしまったかもしれない程だ。

 

 

「て、アカンアカン」

 

「?」

 

 

急に首を振り始めた霞に、首を傾げる恋であったが、それを手で制す。

しかし、先程は気付かなかったが。

この女性、血濡れなのだ。

だが失血している様子はない。

つまりは返り血。

しかし何故?

そこまで考えた辺りで、周囲が崩れ始める。

 

 

「グダグダ考えとる暇は無し、と。

恋、逃げるで!」

 

「コクッ」

 

 

二人は再び走り出した。

恋は人一人と猫一匹を担いでいるにも関わらず、平然と霞に付いて行く。

そのまま走り続け。

 

 

「見えたで! 脱出や!」

 

「んっ・・・」

 

 

二人揃って、夜の帳の元へと飛び出した。

その勢いのまま、ゴロゴロ地面の上を転がる。

それを見下ろすレンズ越しの目。

 

 

「よっ、無事逃げて来たで」

 

「全く、怪我は無い?」

 

「・・・だいじょぶ」

 

「そう、良かった」

 

 

ぶっきらぼうに言ってそっぽを向く詠に、ニヤニヤした笑みを向けながら、霞は地面に身を投げ出した。

しばし夜半の石畳の冷ややかな感触を楽しむが、同時に脳髄も冷え張譲への冷たい殺意を思い出す。

周りで消火活動にあたっていた董卓軍の面々を仰天と恐怖で少し距離を取ってしまう程であった。

 

 

「あ、そや、一刀の見舞い行かな」

 

 

思い出した事柄を切欠に身を起こし、また走り出す。

最も、火の中で見付け出した女性を華佗の診療所へと運ぶ途中の恋を追う形であったが。

 

 

 

-5ページ-

 

 

―――華佗の診療所。

 

恋と霞は、駆け足でやって来た診療所に、勢いよく飛び込んだ。

そして、華佗に制された。

 

 

「・・・気持ちは分かるが、静かに。

今は夜なんだ・・・・・・って、その怪我人はっ!?」

 

「・・・・・・火に巻かれてた」

 

「よし、すぐに治療する!

一刀は入ってすぐの左の病室だ!」

 

 

そう言って恋から女性を受け取って診療室へと運ぶ華佗。

暫くして、恒例の「元気になれぇぇぇぇぇっ!!!」と言う(叫び)声が聞こえた。

 

 

「アイツが一番煩いと思うわ」

 

「・・・コクッ」

 

 

ボソリと呟いた霞の言葉に、頷きを一つ返す恋。

 

二人は華佗に言われた一刀の病室へと足を運ぶ。

先程の忠告通り、静かにソッと扉を潜った。

そして、そこにある半ば当然の光景に霞は苦笑した。

 

眠る一刀に寄り添う様に、風と稟が眠っていた。

眠る二人の目下には、薄らと涙が浮かんでいるのが分かる。

余程心配だったのだ、無理も無い。

 

 

「ずるい・・・・恋も」

 

「やめとき。

そんかわし、起きたらたんと甘えたらええ」

 

「・・・・・・・・・・コクッ」

 

 

指を銜えながら、物凄く名残惜しそうに頷く。

 

霞も改めて一刀を見る。

左腕の、矢の中った辺りには包帯が巻かれていた。

話通りなら、麻沸散とか言う薬を使って切開。

骨を小刀で削って毒を取り除く、とか言っていた。

ゾッとしない話だと思うが、霞は同時に洛陽に華佗が滞在してくれている幸運に感謝した。

 

 

 

今朝、一刀と霞は目を覚ましてから暫くして、逃した自分達を捜し回っていた敵から逃げていた。

白澤の御蔭で逃亡自体には然程不自由はしなかったが、流石に武将二人分の体重と武装の重量を乗せたまま走り続けるのは、如何に名馬と言えども難しかったらしく、次第に速度を落としていき、後少しで力尽きてしまう程に疲労してしまっていた。

そんな時、二人は自分達を捜しに来た華雄の隊を発見したのである。

正に天佑。

その後、華雄達と連携を取って、敵を殲滅。

何人かを捕えた。

すぐに洛陽へと引き返し、毒矢を受けた一刀を華佗に預け、敵の捕虜を尋問。

その結果、張譲の命で動いていたと漏らしたので、今回の謀略に十常侍が関わっていると分かり、詠が代表で問い質しに来てみれば、武装した禁軍が護る門の内側で、大将軍が張譲と話し合っていると言うではないか。

これは非常事態と悟り、護衛として付いて来た霞と恋の二人で斬り込んだと言う訳である。

 

 

 

と、これが、今に至るまでの経緯。

正直、誰か、もしくは何かが欠けていたら、誰かが確実に命を落としていただろう。

そんな状況を作った張譲を逃がさない、と思いを新たに、恋を病室に残して霞はその場を後にした。

 

 

「どうした張遼。

見舞いはもう良いのか?」

 

「んー、ウチ思えば今回ダメダメやったな、って」

 

 

診療所外で待機していた華雄の言葉に、言葉を返す。

霞の独白を聞き、華雄は首を傾げた。

 

 

「何故だ? 逆だろう、お前の働きのおかげで北郷は命を救われた」

 

「違うんや、ウチはホンマなら、そないな事になる前に一刀を護らなあかんかった。

賈駆っちが言っとったんや、『一刀はアンタが思ってるほど【強くない】』って」

 

「・・・それは」

 

「ウチ、そないな事無いて高括ってもうて。

で、結果がこれや」

 

 

後ろから霞を見る華雄からでも、霞の声が震えているのが分かった。

地面が湿っているのも。

 

 

「一刀も言っとって、知っとる筈やったのに」

 

「張遼、余り自身を責めるな」

 

「駄目なんや、ウチがウチを許せへんのや」

 

「霞!!」

 

 

突如として、真名で呼んだ華雄に仰天して、霞が華雄を振り返った。

が、そこには誰もいない。

 

 

「ならば私が、いや私【達】が許すさ。

お前は、私達の想う唯一の男の命を救ってくれた。

心の底から感謝する」

 

「・・・あっ」

 

 

既に霞の振り返ったのとは反対側に来ていた華雄に、肩を叩かれながら言われた言葉に、霞は大粒の涙を零した。

涙は次々と流れ、それは次第に大きな嗚咽を伴っていく。

華雄は唯その肩に手を乗せたまま、その場で留まっていた。

 

 

 

-6ページ-

 

 

―――とある森の中。

 

故十常侍筆頭の宦官張譲は、洛陽からそれなりに遠く離れた場所まで逃げて来ていた。

元より政庁や宮殿には多々の脱出用の道があり、それを利用した為に、洛陽内の包囲からまんまと逃げて来ていた。

 

頻りに舌打ちを漏らす。

確かに美里を殺害する事に失敗はした。

だがしかし、そうなった場合用の策は既に放った。

後は、諸侯達によって押し潰される様を見物するのみだ。

だがその為には、何処かの諸侯に匿われるのがいい。

 

 

「袁紹辺りが丁度いいか。

あ奴等めを斃せば、失った領地を水増しして返してやるとでも言えば、喜んで従うだろう」

 

 

ニヤリと口の端を吊り上げる。

 

そうと決まれば、目標は河北。

袁家縁の地だ。

 

 

「行くぞ、お主等」

 

「「はっ・・・」」

 

 

張譲と轡を並べるのは、禁軍所属の腕利き二名。

脱出口に配置しておき、いざと言う時には・・・と言う訳だ。

だが、張譲は一つ思い違いをしていた。

それは。

 

 

「御免!」

 

「がっ!?」

 

 

今まで思い通りに事が動いてからと言って、これからもであるとは限らないと言う事だ。

いきなり、片方に取り押さえられた。

張譲は目を白黒させて狼狽する。

 

 

「何をする!? 無礼であろうが!」

 

「申し訳ありませんが、そうとは思いません」

 

「な、何っ!?」

 

 

張譲を取り押さえているのとは違うもう一方が、徐に兜を脱ぐ。

その下から現れた顔は、女。

長い、ウェーブがかった茶髪。

パッチリとした瞳。

背は高い方。

見る時に見れば、侍らせたくなる様な美女であった。

 

 

「貴様等一体何者だ!? あ奴等は、あの場にいた者達は!?」

 

「彼等は大将軍に多大な恩義を受けた身らしく、私達の謀を聞いて嬉々として乗ってくれましたが?」

 

「な、何だと!?」

 

「申し遅れました、私は荀攸。

字は公達と申します」

 

 

ぺこりと優雅に一礼する荀攸。

しかし張譲は目の前で起こっている事態に今一付いて行けていないようだ。

 

 

「私と鍾?。

あ、そこで貴公を抑えている人です」

 

「どうも、鍾元常と申します。

こう見えても女なので悪しからず」

 

 

挨拶しながら兜を脱ぐのが、鍾?。

そこに居たのは、亜麻色の短髪を持ったこれまた美人であった。

ただし此方は中性的な、が頭に付くが。

 

 

「十常侍暗殺計画を練っていたのですが・・・」

 

「待った檪花、ちょっと腕が痺れて来た。

用事さっさと済まそうよ」

 

「えぇ〜、もう少し持ちませんか? ここからが良い所なのに」

 

「私元々武官じゃないもん」

 

「しょうがありませんね、ではさっさと終わらせましょう」

 

 

そう言い、禁軍の鎧と共に身に付けていた剣がスラリと抜かれた。

一気に青褪める張譲。

 

 

「ま、待て! 何が望みだ!? 恩賞か!? 官位か!? 何でも、幾らでもくれてやる!」

 

「そんなの、真っ当に仕事出来れば幾らでも稼いでみせますので、いりません。

今欲しいのはたった一つなんで自発的に頂きます、貴公の頸を、ね」

 

「や、止めろ、止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

“ザンッ!!”

 

 

張譲の頸が、地に転がった。

 

 

 

-7ページ-

 

 

「・・・終わった、離していいわよ」

 

「あ〜、疲れた」

 

 

剣を鞘に仕舞った荀攸に、先程まで拘束していた張譲の首無死体から手を離す鍾?。

肩をグルグル回して、疲労を抜こうと精一杯の伸びをする。

それから漸く気付いたのか、禁軍の鎧を脱ぎ捨てる。

とっくに鎧の部分を脱ぎ捨てた荀攸はその間に、転がった張譲の頸を拾い上げていた。

 

 

「うわ、気色悪い・・・」

 

「ええ、本当に。

肝が腐っていると、面も腐るのねぇ」

 

 

張譲の頸は、死の間際の恐怖の表情そのままになっていた。

顔の高さまでそんな頸を持ち上げて眺め、心底おかしそうにクスクス笑う荀攸に、鍾?はドン引きする。

つるんでから真名を預け合う程度に関係は長いが、それでもこういう所は受け入れ難い。

そんな鍾?の心中を知ってか知らずか、荀攸は一枚の風呂敷で頸を包み、担ぎ上げる。

 

 

「さ、行きましょう沙羅(シャラ)。

目指すは陳留よ」

 

「分かったよ檪花(ロウファ)。

で、曹操様に仕官する予定だっけ?」

 

「ええ、私の叔母さんが『来い』って言うからね」

 

「へぇ・・・檪花の叔母さん・・・」

 

「私よりも6歳年下だけど」

 

「えぇっ!?」

 

「あれ? 5歳だったかな?」

 

「えぇ―――」

 

 

びっくり仰天な事ばかり言う荀攸―檪花に、鍾?―沙羅は呆れる位しか出来ない。

馬は張譲を取り押さえた瞬間に逃げて行ってしまったし、ここから暫くは徒歩で行くしかない。

その間をずっと隣にいる女と一緒にいると思うと、少し気が滅入ってしまった。

 

 

「ハァ〜」

 

 

自然と溜息が出る。

その溜息をどう言う意味に解釈したのか、檪花が口を挟んだ。

 

 

「溜息ばかり吐くと幸せが逃げるらしいわよ?

きっと、胸の大きさにも関わるんじゃない?」

 

「ぐっ、う、煩いな、ほっといてよ!」

 

 

ジト目で、歩く度に少しではあるが揺れる檪花の女の象徴を睨む。

そして次に見るのは自分の胸元。

見事に絶壁。

それ足す、自分自身の中性的な顔立ちが相俟って、風呂場で痴漢と勘違いされた事があるし、男色の男に夜這いをかけられた事も・・・

 

 

「ぐぅぅぅ・・・・・・」

 

 

自身のトラウマを抉ってしまい、悶える。

落ち込んでしまった友人を見て、檪花はしまったかと顔を顰める。

だが気遣いの出来る檪花は、フォローを試み。

 

 

「大丈夫、そんな沙羅が大好きだって人は絶対いるから!」

 

「ゲハァッ!!」

 

 

止めを刺した。

完全無欠に止めであった。

 

実は、先の夜這い騒動、真のトラウマ部分とも言える先がある。

―――暗がりで襲われ、必死で抵抗した沙羅。

だが男の本気の腕力に叶う訳も無く結局脱がされ・・・【付いてない】事に落胆され、そのまま放って何もされずに帰られたのである・・・

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「あっ、ちょっと!?」

 

 

沙羅は滂沱の涙を流しながら、全速力で駆け去る。

それを檪花も全力で追う。

 

 

「ああもう、今の沙羅の泣き顔なら、誰だって貴女の事女の子だって信じてくれるから!」

 

「嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁっ! びえぇぇぇぇぇん!!」

 

 

後ろをチラチラと振り返っては、ブルンブルンと震える檪花の胸を目にして、更に涙を流して加速する。

それに必死で追い縋っては・・・の無限ループに突入。

夜中と言う事もあって、その光景は異常にシュールであった。

 

 

 

-8ページ-

 

 

―――診療所。

 

あの一夜から夜が明け、一刀は目を覚ました。

最も、身体が痺れている為に身体を起こせなかったが。

それでも、自分の顔を覗き込んでいる相手の顔だけは、はっきり見えた。

 

 

「じーーー」

 

「・・・あー、その」

 

「じーーー!」

 

「えっと・・・」

 

「じーーー!!」

 

「ごめん、それとただいま」

 

「・・・ま、いいでしょう」

 

「おいおい、目ぇ覚めてから今に至るまでの二刻の間もずっと顔を覗くに飽き足らずせっpアンギャー!!?」

 

「おや宝ャ、汚れが付いている様ですので、よ〜く擦って取ってあげましょう!」

 

「いやいやいや、それは擦り過ぎで―――ぎゃああああ!? 誰かー! 誰か助けてー!?」

 

 

いきなり自分の身体の上で漫才を始めた風と宝ャを生暖かい目で見詰める。

何処となく風の頬が赤い様な気もするが、朝日の所為だと思っておこうと思った。

 

壁の方に視線を向ければ、壁に立てかけられた暁と、その近くで猫の様に丸くなって眠る恋が目に入った。

 

 

「お、起きたか一刀。

それと程c、ここは病室だ。

騒がしくしていい場所じゃないぞ」

 

「む〜・・・」

 

「医者の兄ちゃん、もっと言ってやってくれ!」

 

「仕方ありませんね」

 

 

風は漸く宝ャから手を離し、ヨレヨレになった宝ャは風の頭に戻った。

それを見て一度頷き、華佗は一刀にどんな治療を施したのかを伝える。

 

 

「ありがとう(正史の通りなら、この治療を受けたのは関羽の筈なんだけどな・・・)」

 

「いや、何て事はない。

患者を救う為なら、人の身体を切る事だって厭わないさ」

 

 

そう言ってサムズアップする華佗に、自分もサムズアップを返そうと思ったが、麻沸散の効果で身体が痺れていた為、不可能だった。

代わりに笑顔を向けると、華佗もこれまた笑顔で返した。

 

 

「ではお兄さん、風は政務に戻るのですよ」

 

「ああ、済まなかったな、迷惑をかけた」

 

「んー、その言葉はこれからお見舞いに来る子達に言ってあげて下さい」

 

「ん、そうする」

 

「はい、ではでは」

 

 

スキップするかのような軽い足取りで、風は立ち去った。

首から上以外自由に動かない身体がもどかしいが、今の状況に文句を言う事は出来ない。

全て、自分の過信と油断が招いた結果なのだから。

 

 

「・・・・・・」

 

「ん?」

 

 

顔に影が被さったのに気付き、一刀は其方を見た。

恋がいた。

眠そうに目を擦りながら、此方を見ている。

未だに半分夢の中にいる様にも見える。

 

 

「おはよう、恋」

 

「・・・ん、おは、よ・・・・・・!?」

 

「?」

 

 

いきなり恋が目を見開いた。

その目に、凄い勢いで涙が溜まる。

何事かと一刀が聞こうとした瞬間、恋がワープしたかと見紛う速度で一刀に縋り付いた。

首筋に顔を埋められた事に驚くが、そこからヒックヒックと嗚咽が漏れ始めた事に気付き、一刀は申し訳なさで胸が一杯になった。

 

 

「だい、丈夫、大丈夫だから。

心配しなくても大丈夫」

 

「・・・・・・グスッ」

 

 

一刀の言葉に顔を離し、一刀に見える様に強く頷いた。

一刀も、強く頷く。

だが。

 

 

「あれっ? あの、恋? 何で俺の顔を掴んで?」

 

「恋は、一刀が好き、好きだから・・・」

 

「へっ?」

 

 

唐突な告白に、一刀は混乱する。

恋の様な美少女にそう言われて嬉しくない筈は無い、無いのだが。

この状況では、困惑の方が先に出る。

でも、恋はそんなの知ったこっちゃ無し。

 

 

「・・・んっ」

 

「〜〜〜〜〜〜〜R1○△L2△L2↓△L2↓↑△L2○L1↑△+○!?」

 

 

口付けた。

キスである。

それはもう、熱烈な。

思わず翠の様な混乱言葉が漏れ出る程、一刀は混乱の絶頂にあった。

止める様に発言しようと思っても、その出口は恋によって完全に塞がれ。

自発的に止める事を望んでも、恋は初めての行為に夢中になっているのか、目がトロンとなってしまっている。

力尽くで止めさせようと思っても、麻酔の影響で身体は殆ど全くと言っていい程動きやしない。

息継ぎを待っても止まらず、それ所かその後も再び口付けて来る。

確かに、美少女とのキスは少なからず夢見た事ではある、だがこんな死に直結しそうな物は望んでいない! と言うのが、一刀の正直な感想であった。

 

結局、見舞いにやって来た霞が引っぺがすまでキス連鎖は続いた。

後余談ではあるが、稟が緊急入院する破目になり、その為に詠がブチ切れた。

 

どっとはらい。

 

 

 

 

第二十四話:了

 

 

 

-9ページ-

 

 

オリジナルキャラ紹介

 

 

名前:張紘

字:子綱

真名:瑠香

設定:呉の建国の立役者の一人。

  存在感のオンオフが自在と言う、一級隠密もびっくりなスキルを持っている。

  その為、明命には憧れの目で見られる事も。

  基本フリーダムな孫家親子を諫める事が出来る貴重な存在。

  裁縫が大得意で、布の人形を作るのが趣味。

  しかし余りにも人形が似過ぎな上、本人の一部を使わなくても呪いの人形染みた性能を有している。

  この為、瑠香こそが孫呉の実質上の支配者等と言う噂まである。

  身体が生来弱いが、酒が身体を健康に保つ薬になると言う特異過ぎる体質を持っていて、大蓮や祭にはとても羨ましがられている。

  最も、本人にとっては煩わしい事この上ないのだが。

 

 

名前:荀攸

字:公達

真名:檪花(ロウファ)

設定:桂花より6歳年上の姪。

  かなりブラックな計略ばかり考えるものの優秀な頭脳の持ち主で、普通に男が好き。

  但しイケメンに限る。

  桂花と比べると色々と違い過ぎて、一族同士に見られない。

  髪の色と顔立ちが似ている程度で、それ以外は全部違う。

  特に違うのが、背と胸。

  大体D以上F以下。

  ナヨナヨした男が大嫌いで、そこの部分だけ桂花と意気投合する事もある。

  趣味嗜好や華琳さえ合間に入らなければ、桂花との仲は結構いい部類に入る。

  相当変態的な嗜好を持っているのだが、それを知られても極々自然体な為、それ程人間関係に不自由した事は無い。

 

 

名前:鍾?(ショウヨウ)

字:元常

真名:沙羅(シャラ)

設定:普段着の時は、ほぼ確実に男に見間違われる程の【美女】←ここ超重要。

  背が高く、胸はほとんど真っ平らな為、風呂場でも間違われる事がしばしば。

  しかし実際には、とても繊細で大人しく女らしい性格。

そして立派なガタイにも関わらず、超が付く程優秀な文官である。

  泣き虫でもあるのだが、平時はキリッとした(緊張で強張った)表情なので、素でハッタリが常備されてしまっている。

  その所為で、男よりも女にモテてモテてしょうがない。

  男に惚れられる事もあるが、その相手は今まで全部同性愛者だった。

  その事から、普通に恋愛したいと思っているにもかかわらず、異性に若干以上のトラウマと苦手意識を持っている。

  檪花とは親友と言っても過言ではない間柄。

  華琳によって新しい世界に目覚めてしまうのではないかと、檪花に危惧されている。

 

 

 

-10ページ-

 

 

後書きの様なもの

 

実はバイトが週固定で、意外と時間が取れました。

それに、今回の展開は以前から概ね決まっていましたので、とても速く仕上がりました。

良かった〜。

 

コメ返し

 

 

・赤字様:無事、生きています。 そうそう簡単に死なせたくは無いです。

 

・流浪人様:二人とも無事でした、繋がりを作ってその通りに動かせれば何とか。

 

・はりまえ様:狙いました(笑) そんな風に悶々としてくれたのだったら、早目に書き上げた甲斐ありです。

 

・KU−様:意外と速くの、次弾投下です。

 

・悠なるかな様:と言う訳で、外道に相応しい死に方です。

 

・poyy様:あっるぇー? あの道士二人組もかなりのド腐れ振りを発揮していると思うのですが。

 

・ロンロン様:と言う訳で、華琳への手土産に早代わりしました。

 

・nameneko様:恋と霞は、張譲の息のかかった禁軍勢を鏖殺しました。

 

・ryu様:死にました。

 

・mighty様:すいません、まだどうにもなりません。 華蘭はもう暫く空気が続くんじゃよ。

 

・O-kawa様:深くは言えません。 が、色々と起こります。

 

 

ふー、かなりの駆け足でしたので、所々おかしな場所があるでしょうが、見逃して頂けると嬉しいです。

ではまた次回で会いましょう!

 

 

 

説明
かなり早い次のお話です。

今回は色々とアウトかもしれない表現を多々含みます。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
8631 6391 62
コメント
GJ!大変面白く読ませていただきました。張譲ざまあみさらせと思ってしまいました。これからも、自分のペースで頑張ってください。応援しています。(F97)
張譲が殺されたら、反連合は組まれるのか?ん〜〜、期待して待ってますよ♪新オリキャラ組もこれからの活躍が楽しみです・・・・・・・華蘭、華蘭、華蘭、華蘭(ボソボソ(mighty)
うーん、やはり歴史どうりに反董卓連合がくまれるのかな?クズを始末しても大まかな流れは変わらないのか。(西湘カモメ)
四肢を切り落として失血死した後に首を切る・・・・・なんてね。(龍々)
うん、やっぱり外道はこうならなくてはね 個人的にはもっと酷い目にあって欲しかったけどw 新キャラも出てきましたしここから反董卓連合まで一気にいくのかな?(悠なるかな)
いくら動揺したからってコマンド入力は言わないよwww(poyy)
種馬なら・・・一刀なら沙羅を初対面で女性と見抜いて落としてくれる・・・!(O-kawa)
ここは皮肉を込めて「私は剣は不得手なので首を落とすまで何度斬りつけるか分かりませんよ」と同じ言葉で言い返して死なないように何度も斬りまくって欲しかったですね(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
やっぱ新キャラ二人は一刀が落とすんだろうな〜w だとしても、沙羅さんの希望する”普通”の恋愛には絶対にならないなw(mebius)
張譲が死んでるのに文が回ってる?先手を打ったのか、他の誰かか?(KU−)
オリキャラの二人が一刀にあったら堕ちそうだな(VVV計画の被験者)
コマンド入力の効果は、みんなからの嫉妬の嵐(まあいろいろ)の歓迎。いやぁすっきりした話だけど、次のこともあるからなかなか大変な話になりそうだ。(黄昏☆ハリマエ)
恋、恐ろしい子!(根黒宅)
美里さんが無事生きてよかったです そして外道の張譲は・・・まあやってきた事の清算を自分の命で賄った訳ですな、小悪党の結末はこんな物かと そして新キャラ二人がどう絡んでくるか・・・楽しみに次回待ってます(村主7)
タグ
真・恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀 華佗 華雄   張譲  

素面ライダーさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com