真・恋姫†無双〜恋と共に〜 #39
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#39

 

 

一刀たちが陳留の街を発ってから暫しの時が過ぎた。あの街は再び平穏を取り戻していたが、ひとたび華琳の領から外れると、そこには未だ、黄巾の乱による爪痕が残っていた。働き手を失い、苦しみながら大地を耕す者もいれば、賊の襲来で傷を負い、呻く者もいる。また、黄巾党の残党や、大勢力が滅びても構わず略奪行為を続ける輩もまた存在していた。

 

一刀たちは旅路を急ぎながらも、これを放っておくことは出来なかった。家々を修理している街があればそれを手伝い、作物を収穫する老人がいればこれを助け、また賊に苦しむものがいれば敵を討伐し………。その為であろう。彼らの耳に霊帝崩御の報が届き、都に召喚された董卓が暴政を敷いているという噂を聞きつけても、依然洛陽より遠い地を踏みしめていたのは。

 

 

 

「あとどのくらいで着くかな、風」

「そうですねー。何事もなければあと5日もかからないとは思うのですが、ただ………」

「そうなんだよなぁ……最近街を出てもすぐに何かに巻き込まれるんだよな」

「はい、これはきっとお兄さんを董卓さんに会わせたくないとする何かの陰謀ですかね」

「神でもない限り、流石にそれは………」

「まぁ、お兄さんがこの世界の人間でないのなら、お兄さんを排除しようと世界が動いているのかもしれませんねー」

「………怖いこと言うなよ」

 

 

 

風の冗談に少しだけ肩の力が抜ける。彼女の気遣いを嬉しく思いながら、一刀は黒兎を歩ませていく。

 

 

 

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とある城の中庭―――。

 

一人の少女の口から溜息が零れる。空はどんよりと曇り、雨は降らなくともいまの自分たちの状況を表しているようだ。その少女こそ、噂の渦中の人物・董卓その人であった。その儚げな姿は、見る者の庇護欲を掻き立てる。

 

だがしかし、彼女を守ってくれる者は、広く見れば少ない。各地で暴君董卓の噂が流れ、いつ糾弾されるかもわからない。もしかしたら、言葉を通り越して、武力での解決を図ろうと画策する者も出てくるだろう。彼女の親友はその対策の為に部屋にこもりきりになり、また家臣であり友でもある武人2人は毎日兵の調練を行っている。

 

自分にできることはあるのだろうか。少女は自問する。それに答える声はない。再度溜息を吐く。思い出すのは、いつかの眩い姿。彼女に自信を持てと檄を飛ばしてくれた、あの人。彼は言った。皆で力を合わせれば、越えられない壁などないと。少女は草の上で膝を抱え、答えるはずのない人物の名を呟く。

 

 

 

「………一刀さん」

 

 

 

応える声はない。そこにあるのは、微かな風に揺れる葉のざわめく音。孤独を感じながら、それでも泣きそうになる心を抑えつけ、少女は膝に顔を埋める。

 

 

 

「信じて…いいんですよね………?」

「………いいと思いますよ」

 

 

 

ある筈のないと思っていた返事に、弾かれた様に顔を上げる。

 

 

 

「………唯さん」

「今はご休憩ですか、月様?」

 

 

 

声をかけたのは、少女よりも年上の女性。少女がいまだ辛そうな顔をしていることを認めると、彼女は失礼しますと、少女の隣に腰を下ろす。

 

 

 

「少し、寒いですね」

「………はい」

「もう少し、こちらに寄って下さってもよいのですよ?」

「………………」

「それとも………一刀様の方がよかったですか?」

「っ!」

 

 

 

久しく聞いていなかった名前に、少女は膝を抱く腕を強める。

 

 

 

「いま、我々は非常に危険な状態にあります。世間では『暴君董卓が洛陽を牛耳り、民を苦しめている』と考えられています。しかし、我々月様に仕える者や、洛陽と天水の民は、あの噂とは正反対のものを真実と知っています。だから、詠様は皆と対応を話し合い、華雄様や霞様は兵の鍛錬を行っているのですよ。それに、住民の声も同様です。私以外にも、月様や洛陽を案じる声を聞いている者はたくさんおります」

「………それは、嬉しいです」

「はい」

 

 

 

弱々しくも、返事をくれたことに唯は微笑む。しかし、すぐに表情を真面目なものに戻すと、月の眼をじっと見つめ、口を開いた。

 

 

 

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「たとえ偽りであったとしても、大多数がそれを認めてしまえば、それは真実に成り得る。本当の真実を真実足らしめるのは、それを謳いつづける声だけである」

「………………それは?」

 

 

 

突然、唯の口調が変わったことに、月は問いかけた。普段から真面目な彼女だ。このような言い方をするということは、過去の文言を通じて伝えたいことがあるのだろう。

 

 

 

「ふふ、一刀様に教わったお言葉ですよ。天水にまだいた頃、お勉強の時間のどこかで言われたものです。私たちに出来ることは多くありません。私たちに出来るのは、偽りこそを糾弾し、真実を伝えることのみです。それは話し合いで出来る事かもしれません。もしかしたら武力を使わなければ、解決出来ない事なのかもしれません。しかし、どんな行動を採るにしても、貴女がお決めにならなければ、私達は動くことができないのです。

月様は我々を導く標です。貴女が決めたことなら、皆、それを尊重してくれるでしょう。もちろんこの私も。………それが、悩みぬいた末での決断であるならば」

「………………………」

 

 

 

月は答えない。ただ、先ほどまでの彼女と違うのは、その眼だった。彼女の瞳には、何かが浮かび上がり、じっと黙り込んで考えに没頭する。唯はそれを微笑ましく思いながら、しばらくの間、月の隣に座り、彼女を眺めていた。

 

 

 

そして、少女は顔を上げると、隣に座る妙齢の女性を見上げた。

 

 

 

「お決まりですか?」

「はい……まずは、詠ちゃんに話し合いにちゃんと参加させてもらおうと思います」

「………」

「詠ちゃんは私を守ってくれる、って言ってますけど、私だって詠ちゃんを守ってあげたいんです。一緒に、戦いたいんです。………私にはどうすればいいのか、まだわかりません。だから、それを考える為に、皆ともっと話し合おうと思います」

「………いいと思いますよ。すぐに決断できるのなら、月様はもっと早くに世に出ていたでしょうね。このような形ではなく。それに、一刀さんもきっとそう褒めてくれると思います」

「へぅ…」

 

 

 

久しぶりにこの口癖を聞いた。唯は思う。それほどまでに、緊張の日々だったのだろう。彼女の親友も頑張ってはいるが、彼女のやり方では、ただその友を除け者にするだけだ。これまではそれを許してきた月だが、これからはそうはいかないだろう。幼い頃から―――それこそ彼女の母親の代から―――見守ってきた、妹のような少女。そんな彼女のほんの少しの成長を直に見ることができ、唯は思わず笑みを零した。

 

 

 

「それに………」

「………?」

「一刀様がきっと助けにきてくれます。………そう言われたのでしょう?ならば、窮地の友を救いに来た英雄に恥じぬ姿を見せなければ、ですね」

「そう、ですね………そうですよね!」

 

 

 

久しぶりに見る少女の微笑みは、いつもの通り儚げで、しかし同時にほんの少しの強さを湛えていた。

 

 

 

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「まずいな………」

「そですねー」

「………美味しくない?」

 

 

 

洛陽まであと少しという街で、一刀たち3人が食事をとっている時のことだった。一刀の言葉に風は肯定の意を示し、恋は山と盛られた料理を前に首を傾げた。

 

 

 

『なんでも、董卓を討つ為に連合が組まれるらしいぞ』

『本当か!?………しかし、あの洛陽で暴政を敷いているとなっては、仕方のないことなのかもな』

『なんでも袁紹が発起人らしいぞ』

『あー、あの名門袁家のか………なら、他の諸侯も無視する訳にはいかないよな』

 

 

 

街において、情報が行き交う場はいくつかある。食事処もその一つだ。商人たちが顔を合わせ、会話をする。雑談もあれば、仕事の調子、果てはこのように世情に関してもその話題に上がる。

一刀たちは、とある飲食店でこの会話を耳にした。その内容は一刀がかつて風と恋に語った通りのものであり、彼らに残された時間が少なくなっていることを伝えるものでもある。

 

 

 

「何進は暗殺され、十常侍も姿をくらます、ですかー」

「時間軸的に、何進は十常侍に、十常侍は詠………董卓の軍師である賈駆の指示だろうな。それを董卓に知らせているとは思わないが、彼女も聡い娘だ。何が起きたかくらいは想像しているだろう」

「どうします、おにーさん?この街を出れば、あとは洛陽まで何もありません。突発的なことが起きなければ、明日の午後には着くと思いますが………」

「いや、今日の夜だ。黒兎と赤兎には申し訳ないが、最高速度で洛陽に向かう」

「おぉっ、風にはなかなか難しそうな状況が出来上がっている気がしなくもないのですが」

「安心しろ」

「………おにーさん?」

「風は俺の背に縛りつけて連れて行く。そうすれば、滅多なことでは落ちないからな」

「むー、風の扱いが相変わらずひどいのです」

「今日だけだ」

「…はっ、逆に考えれば、おにーさんとずっとくっついていられるということですね?それはそれで………」

「やっぱり無しだ。頑張って振り落とされないようにしろよ?」

「むー」

「冗談だ」

 

 

 

膨れる風の頭を撫で、一刀は恋に向き直る。

 

 

 

「という訳で、急がなければならなくなった。悪いが、料理は残すか急いで食べ、て………」

「………もごもごもご」

 

 

 

その一刀が見たのは、つい先ほどまで大量に残っていた料理が消え、空になった皿と、口をリスのように目一杯膨らませた恋だった。音的にごちそうさまとでも言ったのだろう。恋は立ち上がると、口の中の物を呑みこみ、2人を促す。

 

 

 

「………一刀、風。急がない?」

「………いや、行くか」

「恋ちゃんの胃袋の構造を一度見てみたいですねー」

 

 

 

恋のいつになく真面目な表情につられて立ち上がった2人は、恋の背を追って店を出るのであった。

 

 

 

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彼は董卓軍古参の兵だった。若かりし日、董卓の母である董君雅の代から董家の兵として仕え、年季を経た今では若い代に部隊長の座を明け渡したが、本人の希望で一兵として軍に残留している。この董卓が天水を離れる直前まで、彼は城の門番の役を買って出ていた。実力は衰えてはいても、その信望は衰えず、厳しいが優しい面も持ち合わせ、若い兵たちに、そして城の者たちにも人気があった。董卓が洛陽に迎えられるにあたって彼は引退を考えていたが、董卓本人の抜擢により、洛陽の城の門番として働くこととなったのだ。

 

 

 

「俺たち………どうなっちまうんですかね」

「さて、どうなるだろうな。ただ、俺たちの仕事はこの門を守ることだ。そのことだけを考えていればいい」

「でも、おっちゃんだって世間の噂を聞いてるでしょう?董卓様が悪者にされて、しかも反董卓連合なんてけったいなものまで出来上がっちまうらしいんですよ?」

「そうだな」

「そうだな、って………」

 

 

 

彼に話しかけるのは、もともと洛陽に勤めていた若い兵である。青年の言う事もわかる。その不安も。しかし、彼はそれを口にしない。自分の仕事は、この門を守ることだ。それ以外に董卓への忠誠を表す方法を、彼は持ち合わせていない。

 

 

 

「あーぁ、こんな時に、『天の御遣い』様でもいてくれたらなぁ。賊の討伐はしても、俺たちを助けてはくれないんすかね」

「無駄口はそれくらいにしろよ」

「でも、不寝番ですからね。最近では昼間でもこの城を訪れる客人はいない、っていうのに」

「こういう時にこそ、予期せぬ来訪者は訪れるというものだ。交代の時間になったらいくらでも相手をしてやるから、今は黙って番をしていろ」

「へーい」

 

 

 

若い兵が何気なく放った言葉に、石突を地面に当てて立てていた槍の穂先がわずかに揺れた。『天の御遣い』。彼は覚えている。彼の者の勇ましい武勇を。そして、彼が故郷の街に残した希望を。だからこそ、こうして未来を見据えて洛陽まで来ているし、こんな寝ずの番も進んで行っているのだ。

彼はいま何処で何をしているのだろうか。そんな思いが頭をよぎる。彼は言った。皆には『天の御遣い』がついている、と。ならば、何故来ない。そんな、理不尽にも近い怒りを覚えることもある。だが、それを口に出すことはしない。彼を本当に必要としているのは、自分のような老兵ではなく、自分が仕える主なのだ。遠くに犬の鳴き声を聞きながら、彼は少しだけ回想に耽った。

その所為で反応が遅れたか、ふと見れば、隣で若い兵が槍を構えていた。

 

 

 

「そこの者、名を名乗れと言っている」

「………………」

 

 

 

そして、彼は見た。

 

 

 

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「それで話って何、月?」

「うん………あのね、やっぱり私も話し合いに参加させて欲しくて、お願いしに来たの」

「え…月の気持ちはわかるけど、今はボクが頑張らないと………董卓の名は出しても、月自身を表舞台に出したくないの」

「うん、わかってるよ、詠ちゃんの気持ち。でも…それでも私も力になりたいの。いつまでも詠ちゃんや霞さん達に守られるだけじゃなくて、私も皆を守りたいの」

 

 

 

反董卓連合の対応策の協議に追われ、街に関する政務は夜に片づけるのが、最近の詠のライフスタイルであった。この晩も詠は遅くまで執務室にこもり、内政に取り組んでいた。そして、そろそろ手を止めて私室に戻ろうかと考えた時に訪れたのが、彼女の親友でもあり、仕えるべき主でもある月だった。

そんな彼女の、かつてないほどの決意に満ちた瞳に詠は絶句する。こんなにも、強い娘だっただろうか。こんなにも、主張をする娘だっただろうか。袁紹や袁術のような大家がいるような街ではなく、大きすぎない街の領主として、彼女はすこぶる優秀だった。街の多すぎない住民を庇護し、慕われ、かつて友が言ったように、街全体が家族のように過ごせていた。だが、いま目の前にいる少女は、その記憶と重ならない。

 

 

 

「そんな眼で…見ないでよ」

「詠ちゃん」

「………あぁ、もう分かったわよ!でも、今日は遅いから、明日の朝からだからね。こうなったら月にもボク達の主として頑張って貰うんだから!」

「うん、ありがと、詠ちゃん」

 

 

 

と、その時だった。扉の外から声がかかる。通常なら深夜番の侍女であるはずだが、この日は違っていた。

 

 

 

「か、賈駆様、いらっしゃいますか!?」

「こんな夜分に何!?開いているから入ってきなさい!」

「失礼します!」

 

 

 

開かれた扉の外には、2人もよく知るあの老兵が立っていた。戦時や調練の時以外は真面目で、しかし穏やかな彼の顔が、今は涙を双眸に溢れさせて転がり込むように部屋に入ってくる。その後ろには侍女が困ったような顔をして立っていた。どうやら止めようとして強行突破されたらしい。

そんな彼の初めて見せる様子に、詠は問いかけた。

 

 

 

「どうしたのよ、そんなに慌てて。何があったの?」

「き、来ました………」

「………何がよ?」

「来て、くれたんです………!」

「だから何が、って聞いているのよ!」

 

 

 

月の姿も目に入らないのだろう。彼はただ詠の眼を見つめ、来たと繰り返す。そして、彼女たちは耳にする。

 

 

 

 

 

「そんなに怖い声を出すなよ。折角知らせてくれたのにさ」

 

 

 

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「この、声……」

「………まさか」

 

 

 

久しく聞いていなかった、しかしずっと聞きたかった声。2人の少女は言葉を出そうにも、それが出来ない。そして、扉から顔を出した人物を見て―――

 

 

 

「一刀さん!」 「一刀っ!」

 

 

 

―――2人はその胸に飛び込んだ。

 

 

 

「久しぶりだな………月、詠」

 

 

 

涙を零しながら抱き着く少女達の頭を撫で、彼は2人を抱き締めた。

 

 

 

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「おっちゃんも、もう少し落ち着いたってよかったのに」

「はは、面目ない…」

「でも嬉しかったよ。これまでよく月達を守ってくれた。ありがとう」

「北郷さん………」

 

 

 

一刀の労いの言葉に、老兵はかつて萎れさせていた涙腺を再び緩ませる。

 

 

 

「いえ…私に出来るのはこれくらいです。これからは………」

「あぁ、ここからは俺たちが引き継ごう」

 

 

 

よろしくお願いします。老兵はそう言って部屋を出る。この騒動が始まって初めて、彼は自分の足取りを軽く感じるのであった。

そして、彼と入れ違いに入ってきたのは、恋と風だ。

 

 

 

「………月、詠、久しぶり」

「相変わらずおにーさんはモテモテなのです」

 

 

 

恋は長らく会っていなかった友の頭を優しく撫で、風は初っ端からかましていく。

 

 

 

「恋さんも、お久しぶりです」

「貴女は………?」

「あぁ。旅先で仲間になった程cだ。今は俺付の軍師をしてくれる」

「初めましてー。程仲徳と申します。おにーさんの側室第一号なのですよー」

「えっ…」

「………一刀?」

「彼女のいつもの冗だ―――」

「ちなみに正室は恋ちゃんなのです」

 

 

 

風の言葉に、詠は鬼のような形相で一刀を睨み付け、月は先とは別の涙を零す。

 

 

 

「風?」

「なんでしょー?」

「今すぐ訂正しろ。でないと………」

「やっぱりおにーさんは風に厳しいのです。訂正しますので、お二人もご安心くださいー」

 

 

 

その言葉に、詠はまったく、と愚痴を零し、月は再び一刀に抱き着くのであった。

 

 

 

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「先ほどは失礼しました。でもおにーさん付の軍師ということは本当なので、これからお手伝いさせて頂きますのでー。あと、風の真名は風と申します。お見知りおきを」

「………いいのですか?」

「はいー。おにーさんのお友達ということは、風のお友達でもあります。これからよろしくですよー」

「ありがとうございます。私は董仲穎。真名は月です」

「ボクは賈文和、真名は詠よ。一刀が連れているくらいだし、相当の実力者なんでしょうね」

「ふふふ、それは戦場でお見せしますのでー」

「あぁ、それは保証するよ。きっと俺たちの力になってくれる」

 

 

 

ようやく落ち着きを見せた月を卓に座らせ、詠手ずからお茶を用意すると、一刀たちも席についた。昔話に花を咲かせたいところではあるが、今はそのような余裕もない。自己紹介も終え、彼らは早速話し合いに入る。

 

 

 

「噂でだが、状況は知っている。霊帝が崩御し、何進が月を招致。だがその何進は暗殺され、彼女と対立していた十常侍も姿を消す………十常侍は詠の指示か?」

「そうよ………ごめんね、月。黙っているつもりだったけど………」

「うぅん、いいんだよ。………それに、たぶん詠ちゃんが頑張ってくれたんだ、って思ってたから」

「………ありがと」

「話を戻すぞ?その後、月が劉協を帝に据えた。月や詠のことだからそんなことはないと分かってはいるが、董卓が帝を擁し、暴政を働いているとの噂が流れている。そして袁紹を発起人に、反董卓連合が結成される………ここまでで補足はあるか?」

「えぇ、旅路ではなかなか情報も入りにくいとは思うけど、連合はすでに集結しつつあるわ。袁紹の呼びかけに諸侯が応じ、各地で軍が遠征に出たと報告が入っているの」

「いいでしょうかー?」

「何?」

 

 

 

詠の補足に、風が手を挙げて問う。

 

 

 

「現・帝の姉である劉弁様はどうなさったのですか?」

「………亡くなったわ」

「それは詠ちゃんの指示ですか?」

「ちょっと、馬鹿なこと言わないでよ!」

「詠ちゃん、落ち着いて」

 

 

 

風の質問に思わず詠が激昂し、それを月が宥める。表面上は落ち着きを取り戻した詠であったが、その眼は風に据えられている。

 

 

 

「怒るなよ、詠。風は不確定な情報を避けたいだけだ。そこに他意はないさ」

「………わかったわよ。十常侍を始末しようとした時にね、どこから聞きつけたのか、あいつらは洛陽から逃げ出したのよ………皇女様の2人を連れてね」

「やっぱりですか」

「あら、想像はついていたようね」

「まぁ、状況的にそうかもとは思ってましたけどー」

「それで、私たちも隊を率いて追跡したのよ。霞の騎馬隊が追いついたんだけど、馬車の速度を上げ過ぎて横転。霞が護衛を片づけて馬車の中を覗くと、劉弁様は劉協様を庇っていたの。………立派な最期だったわ」

「そうか………」

 

 

 

詠の言葉に、一刀は瞼を下ろす。思うのは、顔も知らぬ少女。時期天帝として祀り上げられ、動乱の渦中にあったその人物は、その最期には1人の姉として妹を守ったのだ。彼は敬意を禁じ得なかった。

 

 

 

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「それで、彼我の戦力差はわかっているのか?」

 

 

 

しばしの間続いた沈黙を絶ち、一刀は詠に問いかけた。

 

 

 

「えぇ、多少の誤差はあるでしょうが、連合は総勢20万。対してこちらは兵を総動員しても5万よ。天水から率いてきた隊が4万、禁軍を選抜し直して得られたのが1万。向こうはこっちの4倍ね」

「ただ、洛陽の守備にも回すことを考えると、その差はさらに広がりますねー」

「そうね………」

 

 

 

そして、再び落ちる沈黙。月は瞳を伏せ、詠は眉間に皺を寄せる。風はいつものように半眼で飴を咥え、一刀は天井を見上げる。………恋は一刀に寄り掛かって眠っていた。

 

 

 

「まぁ、こんな時間だし、この面子だけで進めても得るものは少ない。話し合いはまた明日にして、今日はもう休もう」

「………そうね。明日は兵の訓練も早めに切り上げて貰って、霞と華雄にも協議に参加してもらうわ。月もそれでいいよね?」

「うん、そうだね」

「一刀、部屋を用意させるから、一刀も旅の疲れを癒してちょうだい」

「あぁ、そうさせてもらうよ」

「それと………」

「なんだ?」

「来てくれて、ありがと………」

 

 

 

消えそうな声で呟いたその言葉は、それでも確かに一刀の耳に届いた。

 

 

 

「約束したもんな」

「………うん」

「風も感謝するわ」

「いえいえー、お安い御用なのですよ。あぁ、それと風の部屋は用意しなくて結構なので」

「え?」

「風はおにーさんと一緒に寝ますので、お部屋はおにーさんと一緒にして欲しいと言っているのですよー」

「………へぅ」

「――――――っ!」

 

 

 

その後の様子を、一刀は思い出したくもない。こんな非常時になにやってるんだと、目の端を吊り上げる詠、それをからかう風、そして真っ赤になる月を残して、恋をその背に部屋を出るのだった。

 

 

 

 

説明
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コメント
西涼の馬トウ を味方につけれるようにはしなかったのかぁ?(qisheng)
>>ヒトヤ犬 ちょwww(一郎太)
?不吉な台詞があったが、まさかこれは伏線だったりして・・・(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
>>readman様 かっこつけすぎな気もしますがねw(一郎太)
カッコいいなぁ♪(readman )
>>獅子華刃武様 ふひひ、さーせんwww(一郎太)
このロリコンがぁぁーーーーーーーーーうらやましぬぞ俺が(獅子華刃武)
>>ぬ どっちかって言うと、保健所に電話をしてくれ(一郎太)
一郎太を見る影 ┃電柱┃_・)ジー (110番したほうがいいかな・・・)っと俺は考えていた! (運営の犬)
>>阿様 エヴァチョコ………テラウラヤマシスwww(一郎太)
その日いとこがエヴァチョコくれました。   必死に考えたそうです(阿)
>>くらの様 ………おばちゃんなめんな!たぶん、お母さんみたいに甘やかしてくれるに違い………ない………………orz(一郎太)
作者め……。そんなうらやましい夢を。な、なら俺は結婚の夢を見たよ! 知らないおばちゃんとだけど。(くらの)
>>東方武神様 誰がナイトだこらwww さて、一刀君たちには頑張って欲しい物です←他人事(一郎太)
チョコがもらえるだけでもいいじゃないか。俺は『無い』のだから。っま、気にしたって仕方ないけどね。謙虚なナイトはそこを気にしない。さーて、どういった戦略でこの兵力差を覆すのか?楽しみだね。(東方武神)
>>hmku様 先生、明日の天気を教えて頂きました!(一郎太)
>>ZERO様 ………(つД`)(一郎太)
誰か、110番にTELをするんだ(hmku)
その日一日はなにもありませんでした。(ZERO&ファルサ)
>>ぷちとまと様 若者よ、労働に勤しむがいいwww(一郎太)
>>Shinji/n様 俺の代わりに筋骨隆々でスキンヘッドだが揉み上げだけおさげにしてピンクのビキニ1枚の漢女が行くが、それでもいいか?(一郎太)
>>こるどいぬ 妄w想w乙wwwwwwwwwwwwwww(一郎太)
>>ロンロン様 だが、授業が終わって兄貴が外に出て妹(小4)も外に出て、俺が授業道具の片づけをしているところに寄ってきて上目遣いではにかみながら渡すという状況を想像したら………どうかね?(一郎太)
>>2828様 ガクブルしたら面白そうですね。そして何も考えない袁紹と袁術と、突っ走っちゃう関羽将軍的な何かを感じるwww 1でサーセンwww(一郎太)
>>TK様 このラ〇ウ、同じ攻撃、二度は喰らわぬ!!(一郎太)
>>森羅様 あぁ、妹ですねわかります………リアルに?w(一郎太)
>>神龍白夜様 彼女=クラスの大人しめな娘 幼馴染=ツンデレ(素直になれないが、彼女にヤキモチを妬いている) 先輩=学校でも人気の女性だが、主人公の前でだけは仮面を外して素の自分を出す ………あぁ、エロゲですねわかります(一郎太)
>>博多のお塩様 ひでぶっ!?(一郎太)
・・・気づいたらそんなイベントは終わってた・・・・・・orz(ぷちとまと)
体育館裏にちょっと用事があるんだけど・・・・・・・・・・イッショニキテクレルヨネ?(Shinji/n)
はっはっは!俺は何個も貰ったぞ!!・・・だけど・・・(運営の犬)
え?夢オチ?・・・・(運営の犬)
お礼としてもらったチョコでどうこう言う程、小さい男ではない・・・・・・多分。(龍々)
・・・曹操軍と孫策軍兵士たち一刀見たらガクブルするのかな?w   0と1じゃ天と地ほど違うんだねぇ・・・w(2828)
次回が楽しみです!それとリア充爆発しろ!ww(TK)
さて、いつ爆発するかな?このリア充!!wwwとかいいつつ、自分ももらってたりwwwホワイトデーがマンドクセ('A`)。マジで・・・(森羅)
次回が待ち遠しい!!自分は彼女と幼馴染と先輩・・・etcにもらいましたよww(リンドウ)
一郎太さんおめでとうございます。チョコもらったって怒ったりしないですよぉ、だが爆発しろ!(博多のお塩)
>>nameneko様 あああ姉だと!?それだけでリア充じゃねーかorz(一郎太)
>>320i様 どうなっていくのか………一番難しいのは戦況の流れなんですよね。策とか陣形とかorz(一郎太)
>>sai様 おめでとうございます!と言いたいところだが、sai様がリア充という可能性を捨てきれないwww(一郎太)
次回期待してます。姉貴の友達からもらいましたよww(VVV計画の被験者)
何とか月と合流を果たしましたね。ここから一刀たちがどう戦うか楽しみです。そして一郎太様、自分も今日バイト仲間からもらいましたよw(sai)
>>無双様 作者の守備範囲は広いのですよ。小学校の時は外野守ってたしwww(一郎太)
>>紫炎様 ………いやいやいや、「高校時代」ということは、わざわざ渡しに来てくれたのですね!?全然勝ち組じゃないっすかorz(一郎太)
>>はりまえ様 そして女の子(小学生orz)と雪の中戯れる作者………リア充と思いきや、妹2人組みに雪をめちゃくちゃぶつけられて泣きそうになる作者でしたorz(一郎太)
>>KU-様 夢オチと書いておかないと、皆に〇リコンと言われてしまいますので(←伏せ字になっていないwww(一郎太)
>>PON様 覆せたらいいなぁ(遠い眼)wwww(一郎太)
>>名無し様 あべしっ!?はともかく、あれは別の外史の中の二次創作なので、色々歪んでいるものと思ってくださいwww(一郎太)
>>kabuto様 さて、それはどうなることでしょう?その辺りは秘密ですぜぃ(一郎太)
>>砂のお城様 くくく、夢オチだったらいいなぁ………www(一郎太)
>>poyy様 その書き方だと勝てる気がまるでしないwww(一郎太)
>>nanashi様 すぐそっち系に走っちゃうんだからwww(一郎太)
>>O-kawa様 皇女様ですね。作者も書いていてあれ?とか思ってましたが、そのまま流してしまいましたorz そして直しましたぜ(一郎太)
>>クラスター様 風はその若干Sが入ってるので、その状況で困る一刀君を見るのが好きなのだと思いますw そして直しましたorz(一郎太)
>>ヒトヤぬ くくく、夢…だったらよかったのにな………(一郎太)
>>よーぜふ様 直しました………orz(一郎太)
>>motomaru様 直しました!ありがとうございますorz(一郎太)
>>とり様 愛とかいらないからお金が欲しいorz(一郎太)
作者は”ロリ”で始まって”コン”で終わるやつなんですかねww(無双)
パルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパル…………………・。妬ましい妬ましい……と書こうと思ったのだが、よっく考えてみれば私ももらっていた事実。といっても高校時代の演劇仲間でしたけど。 絶望的な兵力差。いかにして覆すのでしょう。(紫炎)
世の中甘いのか(チョコ的な意味で)世間はこんなに苦いのか(ビターな意味で)連合話楽しみに待ってます・・・・・・畜生!=(つ3<)(黄昏☆ハリマエ)
夢オチ?ロリコンwって突っ込もうかと思ってたのにww(KU−)
パルパルパル……さぁこの絶望的な戦力の差をどう覆すのか、楽しみです。(PON)
リア充爆破!! はともかく、一刀はもう少し番外編(恋が書いているような小説)のようになってもいいんじゃないかなと思います。少しだけ、……(名無し)
風のマイペースさにあきれるしかない・・・。劉協さんも仲間入りと考えていいんでしょうか?www(kabuto)
月と一刀合流!!これでかつる!!(poyy)
姉亡くして傷心中の皇族、いかにも落としてくださいという状況なんですけど(nanashi)
9p、女性の場合でも皇太子っていうんでしたっけ?自分は知らないんdすが気になりましたもので。 ああ一昨年までは自分もチョコ貰ってたので通報はしませんよHAHAHA。ただ月の無い夜は背中にご注意を。(O-kawa)
…遂に反董卓連合が結成されてしまったな。結局、結成に至るまでの歴史の流れには、何人も抗う事は出来なかったか…。それと、董卓軍の描写が久しぶり過ぎて、唯が誰の真名か思い出せず、読み返す羽目になった…李儒の真名か。それにしても風が、頭良いのに(良いが故に?)場を掻き乱す、チョイと痛い娘と化してるな…。最後に、これって三十九章ですよね?(クラスター・ジャドウ)
夢オチなんだよね?夢だったんだよね?何そのエロゲのようなシチュは、家庭教師でその家の、それも小学生なんて俺のドストライクな娘からチョコだ〜?夢じゃなかったらどんな手使ってもあなたの家を探し出し爆弾仕掛けるところですよ、俺も貰いたい(女にくれる女が欲しい)(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
三十九章ですねぃ。三十八章になってますぜ? そしてなんというかっこいい一刀なんだ・・・(よーぜふ)
あれ?38?39じゃなくて?(motomaru)
チョコはいいから愛がほすぃ・・・チョコも無いけど(とり)
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真・恋姫†無双  一刀     『恋と共に』 

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