ポケットモンスターNovels 第8話
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ソノオタウンの北、郊外にひっそりと佇む施設。タタラ製鉄所。

深夜、誰もが寝静まる時刻に密談をする複数の人影があった。

その中にはこの私マキナと、スズナもいる。

みんな真面目に話をしていて、私たちがここにいる事は場違いのように感じられた。

いや、最初はカイリだけが来る予定だったんだけどね。

やっぱりカイリだけにお願いする事じゃないと思ったんだ、こういうのはさ。

私とスズナの隣では、カイリが真剣な表情で談話に入り込んでいる。

そのカイリの向かいの輪となって会話する反対側では、赤毛の男の人が一際熱心に議論に参加していた。

男の人はワタルといって、カントー・ジョウト地方のポケモンリーグの四天王の中でも最強と呼ばれる人だ。

評判を聞く限り、バトルの強さはきっとシンオウチャンピオンのシロナさんと同等かそれ以上なんだろう。

ちなみに、ここに近付く人がいないようにワタルのカイリューが監視役をしているらしい。

話題はギラティナの事だった。

大体の内容はマーズが言ってた事と同じ……かな?

あと、ギンガ団やロケット団以外にも色んな勢力が動いているみたいだ。

ワタル『よし、大体まとまったかな?』

ワタルは言いながら、軽く頷いた。

──カントー・ジョウト地方のポケモン協会とホウエン地方のポケモン保護委員会。それにシンオウ地方のポケモン監査機構はそれぞれ犬猿の仲だ。

お互いの動きを警戒・牽制し合い、全国のポケモントレーナーをその管理下に置こうと隙を窺っているらしい。

ワタル『しかし、カイリが協力してくれるとは思わなかったよ。しかも、こんな可愛いガールフレンドまで連れて来るなんてな』

カイリ『ナタネにも、声をかけようとはしたんだが』

ガールフレンドのくだりは華麗にスルーするカイリ。

ナタネさんなら信用できると思うんだけど。

そんなに、各地方の団体間の溝は深いんだろうか。

ワタル『いや、ありがとう。これ以上危ない橋は渡らせられないさ』

カイリが歯痒さを感じているのと同様に、ワタルも各地方間の事情に頭を痛めているらしい。

カイリともう1人……シンオウに滞在しているある人物がワタルに協力を申し出なければ、そもそもこの会談もなかったそうだ。

情報に精通する人間が現れた事で、ワタルはシンオウ地方との重要なバイブルを得た、と言う事だ。

カイリ『……』

カイリは俯き、黙ってしまう。

『そんなに気を落とす事ないよ。ボクらみたいなジムリーダーは珍しいんだからね』

カイリに気楽な様子で話しかける少年──ジョウト地方のジムリーダー、ツクシだ。

虫タイプのポケモンの使い手で、自称歩く虫ポケモン大百科。

虫嫌いな私とは気が合いそうにない。

ツクシ『ね、アカネちゃんもそう思うでしょ?』

ツクシが横にいた少女に問い掛けた。

アカネ『せやねー、カイリ君は頑張ってるもんなー』

アカネ──彼女もジョウト地方のジムリーダーで、ノーマルタイプのポケモンを好んで使うらしい。

コガネ弁という、関西弁のような独特の喋り方が印象的だった。

カイリ『お前等程楽観的じゃないんだよ、僕は』

と、カイリの拒絶を受けて、ツクシが口調を荒げる。

ツクシ『なんだよ感じ悪い……。せっかく慰めてやってるのにさ』

『やめなさい』

女性が会話に割って入った。

『仲間内で揉めてる場合じゃないでしょう?』

女性の名前はナギ。

ホウエン地方のジムリーダーで、天才飛行ポケモン使いと謳われているらしい。

カイリも自分で苛々している事をわかっていたのか、ナギの仲介に安堵して素直に謝った。

カイリ『……悪かったよ。ありがとうなツクシ』

カイリは、くしゃっ、とツクシの頭を撫でる。

ツクシ『子供扱いするなって』

ツクシが抗議するとカイリは微笑を浮かべてツクシの頭を振り、最後に数度軽く叩いて手を離した。

ワタル『──さて。僕はカントーに戻ろう。ツクシ、アカネもジョウトに戻ってくれ』

ワタルが言い終わると、ツクシとアカネがほぼ同時に返事をする。

ツクシ『うんっ』

アカネ『了解やー』

ワタルは頷いて、そのまま続けた。

ワタル『ナギはホウエンに』

ナギ『えぇ』

ワタル『それと、シバも一緒にホウエン行ってくれるか?』

ナギの少し後ろ、シバと呼ばれた男の人は応っ、と豪快に笑う。

彼もワタルと同じカントー地方出身の四天王で、ワタルとは昔からの友人らしい。

次いでワタルは、私たちと、一団とは少し離れた場所で黙って本を読んでいる女性に視線を向けた。

ワタル『カイリたちとナツメは現状維持だ。なるべく派手な行動は避けてくれ』

カイリ『わかりました』

カイリは即答。

ナツメと呼ばれた女性は一拍置いて、呟くように言った。

ナツメ『……まぁ、はじめから長期滞在する予定だったからな』

女性は一瞬ワタルに視線を向けると片手で前髪を弄り、つまらなそうに読んでいた本に視線を戻した。

ワタル『基本的には各々の考えで動いてくれて構わない。ただ、目立った行動を起こさない事、1人で暴走しない事を心掛けてくれ』

ワタルは全員を見渡し、最後に大きく頷いた。

ワタル『では、解散としよう』

話は終わった。

 

 

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*

製鉄所の南、ソノオタウン近郊。

マキナ『で、結局のところ、私たちは何をすればいいの?』

私がそう言うと、カイリはやれやれといった様子で大きくため息をついた。

カイリ『聞いてなかったのか』

マキナ『いや聞いてたけど、要点をまとめてくれると嬉しいかなーなんて……あはは』

かなり込み入った話もしてたようだけど。

カイリ『今まで通りだ。その時が来れば招集されるだろう。それまでは、常に万全の状態でいられるよう心掛けろ』

マキナ『はーい』

なるほど。

ワタルの言葉通りに解釈してしまって良かったのか。

スズナ『ねーねー、あれ何かな?』

スズナが指差す方向を見ると、何か大きな建物が見える。

カイリ『発電所だ。膨大な電気エネルギーを作っているんだが……様子が変だな?』

発電所の前にいるのは、黒装束に赤いRの文字の制服と、同じく黒地に金のGの文字の入った制服の集団。

マキナ『ロケット団と、ギンガ団!?』

スズナ『はぁ〜……こんなところにまで』

カイリ『近くに行ってみよう』

 

 

*

オーバ『おーおー、派手にやらかしてくれるなぁ』

隣の馬鹿は緊張感の欠片も無くのんきに発電所の状況を眺めている。

今から、突入するっていうのに。

『あの、』

オーバの足に、泣き顔の女の子がしがみついている。

これは俺達が引き受けた仕事の依頼人だ。

女の子は発電所に父親と2人で住んでいたらしい。

いわく、宇宙人みたいな連中に発電所を占領されて、父親が何かをやらされている、と。

オーバ『任せとけって。君の親父さんは必ず助けてやるさ』

ナツメ『まぁ、そういう事だ。安心して待っていると良い』

2人の言葉に少なからず安堵して、女の子は力無く頷く。

しかし、宇宙人とはよく言ったものだな。

ミツキ『ふ、ふ、』

ナツメ『なんだ、その気持ち悪い笑いは』

ミツキ『いや、なんでもないよ。気にするな、行こう』

言い終わるのとほぼ同時、モンスターボールを2つ投げた。

白い光。ボールからハガネールとハッサムが出現する。

一気に蹴散らしてやる。

ミツキ『ハッサム、馬鹿力ぁあッ!』

俺の指示を受けたハッサムがハガネールの背後に周り、尻尾を掴む。

オーバ『お、おいミツキ何を、』

ミツキ『まぁ、黙って見ているといいさ。ハガネール、鈍いだ!』

ハガネールは自身の技で硬化。

ハッサムは槍のようになったそれを持ち上げ、大きく後ろに振りかぶって、

投げた。

『ッひ?!』

『う、うわぁああああああぁッ!?』

ハッサムの馬鹿力によってハガネールは投擲され一直線に飛翔。

その頑丈な頭をギンガ団とロケット団のど真ん中に突き立てる…!

暴挙ともいえるハガネールの投擲は発電所の前に陣取っていた連中を一撃で吹き飛ばし、発電所内への突破口を開いた。

オーバ『……』

ナツメ『……』

最近の戦いで思いついた戦法なんだが上手くいったようだ。

ミツキ『よし、戻れハッサム!ハガネールはそのまま入口をこじ開けろ!』

起き上がったハガネールが尻尾を入口に突き刺し、えぐり込んでいく。

と、攻撃を免れたギンガ団の数人が襲撃に対抗しようとして、

『っ、  ……ッ!?』

何の言動も許されないまま空中を舞った。

ナツメのユンゲラーの、サイコキネシスだ。

ミツキ『殺すなよ』

ナツメ『ん』

ユンゲラーはサイコキネシスでギンガ団を地面に叩きつける。

よし。これで中に、

『ドーミラー、怪しい光』

……!

突然飛来したドーミラーがハガネールに怪しい光を放つ。

ハガネールは混乱。我を失い、暴走する。

『お前等の顔を知っているぞ』

ドーミラーの使い手は、発電所の中からゆっくりと姿を現す。

ギンガ団の幹部の1人、サターン。

サターン『ハクタイのギンガ団アジトに乗り込んできた連中だな……ジュピターも情けない。こんな奴らに負けるとはな』

言ってくれる。

俺達がまぐれで勝っているとでも思っているのか?

ナツメのユンゲラーが、サターンに向けて気合い玉を放った。

ミツキ『殺す気かナツメッ!』

──と、サターンは微笑を浮かべ、手に持っていたモンスターボールを投げた。

ボールからはユンゲラーが出現する。

サターン『念力だユンゲラー』

サターンのユンゲラーは気合い玉の正面から念力をぶつけて受け止め、そのまま弾き返した。

ナツメのユンゲラーは自身に返された気合い玉をテレポートで回避する。

その間、オーバのモウカザルがサターンに突撃を仕掛けていた。

が、サターンの新たに繰り出したドクロッグがモウカザルに殴りかかり、モウカザルは飛び退がる。

オーバ『く……っ!』

俺のハガネールは……まだ混乱しているか。

孤立すると厳しいな。

ミツキ『行くぞメタグロス! エンペルト!』

ハガネールはこのまま戦闘続行したいところだ。

暴走して俺の指示を受け付けないとはいえ、鈍いで強化されている。

巨体に巻き込まれないように立ち回れば問題ないだろう。

ナツメ『行けエーフィ。バリヤードもだ』

オーバ『出て来いミミロップ! ブースター! 本当の戦いってもんを教えてやろうぜッ!』

発電所の中にいたギンガ団とロケット団も出て来たようだな。

数の上ではこちらが圧倒的に不利だ。

サターン『ギンガ団の邪魔となる要素は、どんな可能性でも潰す!』

 

 

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*

それは、戦争だった。

巨大なポケモンから小さなポケモンまで数多くが入り乱れ、互いを傷付けあっている。

1体、また1体と倒れては、新たなポケモンが繰り出されて戦いに投げ入れられる。

ポケモンは、人間にも容赦なく攻撃していた。

司令塔を潰せば機能しなくなる。

理屈はわかる。

けど、無性に、胸の辺りがむかむかする。

頭に血がのぼって、イライラする。

何故こんな事が!

スズナ『ねぇ、あの人って』

スズナがうろたえながら言う。

おそらく、あの人、とはミツキの事を指しているのだろう。

カイリ『ナツメ達だな。加勢するぞ』

カイリはミツキの事を知らない。

モンスターボールを手に取って駆け出そうとするカイリのその腕を、

カイリ『マキナ?』

私はしっかりと握った。

カイリは、何故? といった様子で私を見つめてくる。

マキナ『行かせ、ない』

こんな事、許せない。

ポケモンバトルは戦争とは違う。

ミツキもナツメも、許せない。

マキナ『ポケモンは戦争のための道具じゃない!』

つい、口調が荒くなった。

自分らしくない。でも、黙っていられない。

スズナ『マキナ……』

スズナが細い声を出す。

カイリは冷ややかな目で私を見ていた。

カイリ『正しいとは思わない。だが、それでも僕は奴等と戦う』

握り締めていた腕は振り解かれる。

……なんで。意味、わかんないよ。

カイリ『断言してやる。ギンガ団は悪だ。悪と戦う事を正義と言うつもりはないが、悪を見過ごす事は悪だ』

カイリは言って、振り返らずに走って行く。

スズナ『ごめん、あたしも行くね』

スズナも、カイリを追うように走り出した。

私は──

 

 

*

ミツキ『陣形を敷け! なんとか体勢を立て直すぞ!』

多勢に無勢。状況は芳しくない。

俺のエンペルトは倒れ、オーバのブースターやナツメのバリヤードも戦闘不能になった。

対して、相手は付近の味方を次から次へと呼び寄せて戦力としている。

サターン『お前等が何をしても、流れる時間は止められない!』

癪に障るやつだ。

しかし、これではキリがないな。

押し切られて負ける。

一旦退くか?

『逃げるのはまだ早い!』

突如、ベロリンガが戦線に割って入った。

ベロリンガは舌を振り回してギンガ団とロケット団のポケモンを薙ぎ払う。

『援護するぞミツキ! ヨーギラスとタツベイも出て来い!』

いきなり現れた助っ人はさらにポケモンを2体繰り出した。

味方…なのか? 何故俺の名前を知っている。

いや、この際なんでもいい。

戦力になるなら、誰だろうと構わないさ。

ミツキ『感謝する!』

オーバ『助かったぜ!』

ナツメ『……ふんっ』

オーバとナツメも、若干の安堵の声を漏らした。

『ハクタイではお前等に助けられたからな……! 借りは返すぞ!』

助けに来たトレーナーが俺に向かって言い放った。

ハクタイと言うと……なるほど、救出した人質の1人か。

『破壊光線で蹴散らせヨーギラス! タツベイはハイドロポンプだ!』

2匹のポケモンが同時に攻撃を放つ。

直撃された複数の敵がトラックに轢かれたかのように弾き飛ばされる。

あの2匹、鍛え上げられているな。

さっきのベロリンガも充分な攻撃力を持っていた。

これなら、戦える。

オーバ『お前強いな! ……うぉっとマッハパンチだモウカザル! 名のあるトレーナーと見たが!?』

オーバはモウカザルに指示を出しながらトレーナーに聞く。

確かに。かなり腕の良いトレーナーだ。

ミツキ『コメットパンチだメタグロス! なあ、名前を聞かせてくれないか!』

トレーナーは少し迷っていたが、すぐに俺達の方に向き直った。

ポケモンに指示を出す時とは全く違う満面の笑顔で、女性は名乗る。

『──私の名は、ヒビキ』

 

 

説明
第8話『発電所騒動』
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