ポケットモンスターNovels 第9話
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*

カイリ『なん、だと』

ナツメ達に加勢するつもりで、マキナやスズナを振り切って走り出したのは良いが……、

目の前で起こっている事象が信じられず、立ち止まってしまった。

こんな馬鹿な。

何故。此処に。

カイリ『姉、上……?』

何故此処に、姉上がいる。

まさか他人の空似、

『打ち噛ませ粉砕しろベロリンガ! 腹太鼓から叩きつけるッ!!』

じゃないな。

あれは間違いなく姉上だ。

戦闘狂モードの。

姉上の指示……もとい命令を受けたベロリンガは両腕で自身の腹を連打し、ダメージを受けるかわりに攻撃力を限界まで高める。

ヒビキ『ほらベロリンガ、スピーダーだ』

続けてポケモンの素早さを一時的に上昇させる道具をベロリンガに与えた。

さらにベロリンガは持っていたオボンの実で体力を回復すると、渾身の力を込めた尻尾を敵の一団に叩きつける。

スズナ『っはぁ、はぁ、やっと追いついた……って、え!? ヒビキさん!?』

カイリ『遅い。僕達も参戦するぞ』

腹太鼓でパワーアップしたベロリンガの攻撃力は普段の4倍近いが、そのリスクも大きい。

ベロリンガをこれだけ上手く扱える人間は、姉上以外にはいないだろう。

これこそ姉上の戦い。

スズナ『カイリ、嬉しそうだね?』

っと、スズナに指摘されて気が付いたが、知らない内ににやけていたようだな。

当然か。

いくら姉上が大丈夫と信じてたいたとはいえ、やはり実際に無事を確認できて嬉しくないわけがない。

カイリ『っははは! 行くぞベロリンガ!』

行くぞ、相棒。

 

 

*

3人の参戦で、戦況はミツキ側に大きく傾いた。

このままいけば、すぐにでも発電所は解放される事になるだろう。

私が行く必要なんてない。

『マキナちゃん?』

振り返る私ににこ、と微笑むのは、突然現れたモミさん。

マキナ『……こんにちは』

やっぱり無事だったんだ。

モミ『こんにちは』

森の洋館では別れの挨拶もしていなかったし、また会えてよかった。

でも、今はとても人と話す気分になれない。

モミ『まるで戦争みたいですね…』

マキナ『…こんなの、許せません』

本当に、許せない。けど、私には何も出来ない。

モミ『なら、何故黙って見ているのですか?』

マキナ『え?』

何故ってそんなの決まって、

――決まって、ない?

何か出来るのだろうか。

私にも、何かが。

モミ『あの方々のやり方が許せないと言うのでしたら、自分のやり方を見せつけて差し上げたら良いんではないでしょうか?』

マキナ『見せつける?』

モミ『貴女が戦うのなら、私が剣を用意します』

そう言って、モミさんがモンスターボールを取り出して私に突き付ける。

はじめて見るボールだ。

赤に黄色のラインが入った、独特のカラーリング。

これは。

モミ『中に入っているのはとても、とても強大な力です』

そう言うモミさんの表情はいつになく真剣で、冗談とは思えなかった。

マキナ『どうして、そんなポケモンを私に?』

モミ『良い人そうだから……でしょうか? 勘ですね』

へらっ、とモミさん。

モミ『ある友人に託されたのです。正義の為に使ってくれ、とね』

そう言うモミさんの視線は、どこか遠くを見つめているようだった。

物憂げな、そのまま背景に溶けて消え入ってしまいそうな笑顔。

あぁ、きっと、大切な友人だったんだ。

私は無言で、モンスターボールを受け取った。

モミ『そのポケモンを扱えるかどうかは貴女次第です。……頑張ってね』

マキナ『っ、はい!』

受け取ったばかりのモンスターボールを投げる。

モミさんがどんな思いでこのポケモンを私に託してくれるのかは知らない。

でも、私はきっとこのポケモンを必要としている。そんな気がする。

白い光を纏ってボールから現れたのは私と同じ程度の背丈の、人型のポケモン。

紫色の瞳。白い身体は筋肉質で、けどスマートで。

瞳と同じ色をした尻尾がゆらゆらと揺れていた。

ポケモンはじっと私の眼を見ている。

その紫色の瞳が、不気味に輝いた気がした。

 

 

*

白い影が戦場に飛来。落下する。

影。人型のポケモンはゆっくりと立ち上がり、周囲を吟味するように見回した。

見た事のないポケモンだ。

ミツキ『──なんだ、あいつは』

俺が知らないポケモンが、存在するなんて。

ッ!?

刹那。白いポケモンはオーバの腹に脚の先端を突き立てる。

オーバ『……っぐ、ァ』

敵……!?

オーバが倒れる。

白いポケモンは素早くその場から離脱してサターンの前に降り立ち、

サターン『──!?』

サターンが反応する間もなく、サターンの頭目掛けてハイキックを繰り出した。

直撃されたサターンは10メートルほど吹き飛ばされ、数回地面を跳ねた後動かなくなる。

トレーナーの指示を失ったオーバとサターンのポケモンは混乱し、各々のボールに帰った。

白いポケモンは一息つくように、ゆったりとした威圧感のある動きで視線を巡らせる。

次の敵を、見定めているのか。

『全部ぶち壊して、ミュウツー』

女の声。

いつの間にかそこにいた女は、静かに白いポケモンの側に近寄り、並び立った。

女性の瞳は深い紫色に染まっている。

その佇まいからは生気が感じられないが、間違いない。

 

あれは、マキナだ。

 

 

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*

ヒビキ『っ痛!?』

白いポケモン。マキナはミュウツーと呼んでいたか。

ミュウツーは流れるような動きで様々な攻撃を連打。

その攻撃は無差別に人間に襲い掛かる。

味方に。

敵に。

姉上にも。

カイリ『っベロリンガ! パワーウィップ!』

ベロリンガに指示を出すが、ミュウツーは軽やかに回避、飛翔し、マキナの傍に戻る。

カイリ『っ、マキナ! 貴様、どういうつもりだ!?』

スズナ『そうだよマキナ! 何でこんな事を……ッ!?』

スズナも必死に訴えるが、マキナは声など全く聞こえていないかのように、虚ろな目でミュウツーを見ている。

訳がわからない。

なんなんだ、この状況は……!

 

 

*

『やっぱ暴走したか。な? 俺の言った通りだろ?』

『……(コクコク)』

『確かにね。見込み違いだったかな』

『まだわかりませんよ』

『そうは言っても、ここからどうなるものでもないだろう』

『事態を収拾しないと』

『2人の言うとおりだ。変に期待してる場合じゃなくてだな、さっさとアレをなんとかしないとマズいぜ』

『あぁ。死人が出てしまうよ』

『……(コクコク)』

『今、私たちがとるべき行動はただ一手。静観です』

『お、おいおい。暴走をはじめたミュウツーを放って置いて、人間が殺されるのを指をくわえて見てろって言うのかよ!』

『そうです』

『なッ!?』

『!』

『そこまで賭ける意味がある人間なのかい? あの娘は』

『俺は誰とも知らねぇ奴なんかに未来を託すのはごめんだぜ』

『なら、貴方が代わりますか?』

『う゛……!』

『頑固だね。オーケー、僕達は手出し無用だ』

『……チッ、正気とは思えねーぜ』

 

 

*

ナツメの言葉に、俺は耳を疑った。

ミツキ『あいつと戦う、だと?』

オーバもサターンも、ミュウツーの前に為す術なく倒された。

ヒビキも、後から味方として参戦してくれた2人も30分と持たなかった。

今もロケット団やギンガ団の連中が対抗しているが、その実力差は歴然だ。

ミュウツーの勢いは止まる所を知らない。

そんなポケモンと、本当でまともに戦う気なのか?

ナツメ『ロケット団もギンガ団も退却をはじめてる。が、私達は退く訳にはいかないだろう? あれを町に向かわせてはいけない』

驚いた。

まさかナツメがこんな事を言うとは。

他人の事なんてどうでも良いと豪語していた、ナツメが。

ナツメ『ミツキ。お前はそこに転がってるのを連れてソノオタウンのポケモンセンターに向かえ』

ミツキ『何? ……犬死にする気か? 従えんぞ』

1人であのポケモンと戦うなんて無謀としか言えない。

ミュウツーの強さは見ただけでわかった。

俺のポケモンが万全で、全力を出したとしても勝てるかどうか。

とにかく、あいつはヤバい。

戦えば、最悪死──

 

自ら犠牲になって、俺達を助けるとでも……?

……。

ミツキ『ここは俺が、』

ナツメ『黙れ。お前達がいると本気で戦えない。悪いが、邪魔だ』

ミツキ『!』

ナツメはきっぱりと言い切った。

確かに、ナツメの力は俺達の中でもずば抜けているが。

そこまで差があるのか。

俺達が足手纏いだと、そう言うのか。

だが、

ミツキ『マキナを、あの娘をあのままにしては行けない』

マキナがこんな事をする筈がない。

何か裏があるに決まっている。

ナツメ『フン。まあ、任せろ。なんとかするさ』

そう言って、ナツメは笑った。

いつもと同じ。オーバに罵倒を浴びせる時と変わらない笑顔で。

ミツキ『……、くそっ! メタグロス! オーバとヒビキを頼む! ハガネールはそこの2人を! ……ソノオタウンに行くぞ!』

たまには、他人に頼るのも悪くないか。

頼むぞ、ナツメ。

ナツメ『出て来い、ネイティオ、モルフォン、フーディン』

……!

まだ、それだけの戦力を隠していたのか。

乱戦の中にあっても温存してたのか。

ナツメ『トロいぞ。さっさと失せろ』

まったく、敵わないな。

ミツキ『あぁ。後はお前に』

任せる、と言いかけて、

──ミュウツーと、目が合った。

ミツキ『しまっ……ッ!』

ミュウツーが高速で飛来。

そのまま俺に飛び掛かろうとしたところで、ナツメのフーディンが中間点に飛び込む。

ミュウツーは一瞬で標的をフーディンに変更し、殴りかかる。

が、フーディンが右手に炎を纏わせ、ミュウツーの拳を受け止めた。

さらにミュウツーがもう一方の拳を繰り出すと、フーディンは左手に雷を纏わせて受け止める。

っ、今だ!

メタグロスもハガネールも既に皆を救出している。

俺はハガネールに飛び乗り、振り向く事なくその場を去った。

 

 

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*

フーディンとミュウツーが力比べの体勢に入る。

が、そんなものに付き合ってはいられない。

まさかフーディンのひ弱な腕力で勝てるとは思わない。

ナツメ『(ネイティオ)』

私のテレパスを受けたネイティオが飛翔・回転し、嘴を先端にしてミュウツーの横から突っ込む。

それに気付いたミュウツーは咄嗟に離れようとするが、

ナツメ『逃がすかっ』

フーディンがミュウツーの拳をしっかりと握っていて、ミュウツーは思うように動けない。

殺ったか?

そう思った瞬間。ミュウツーの姿が消える。

ナツメ『む』

ネイティオはそのままフーディンの前を通り過ぎ、空中で羽ばたいて停止。

フーディンの後ろに視線を向けた。

テレポート……か!

フーディンの後ろでは、ミュウツーが腕に漆黒色の力を纏わせ、今にもフーディンに向けて放とうとしていた。

ナツメ『(やらせない!)』

ミュウツーの放ったシャドーボールが空を切る。

フーディンにはテレポートで回避させた。

同時に、ミュウツーの後方からモルフォンがサイケ光線を、ネイティオが熱風を繰り出す。

直撃。

したように見えたが、ミュウツーの張った光の壁に阻まれ、攻撃は通らなかった。

まだだ。

フーディンが右拳に冷気を纏わせてミュウツーに殴りかかる。

ミュウツーは顔面を殴られ、数メートル吹き飛んで地面を滑った。

よし。畳み掛ける。

倒れたミュウツーに向けてフーディンが気合い玉を。モルフォンがサイケ光線を。ネイティオがシャドーボールを繰り出す。

爆発。

煙と砂埃が舞い上がって視界が奪われる。

しまったな。

おそらく今の同時攻撃が地面の一部を吹き飛ばしたのだろう。

相手の姿を確認出来ない。

ミュウツーのダメージは、どうだ?

――徐々に視界が晴れる。

そこには、傷だらけとなったミュウツーが立っていた。

ミュウツーがぐらりと揺らめく。

確実に追い込めているようだが、今の攻撃で倒せないとは。

と、ミュウツーが大きく天を仰いだ。

ミュウツーの周囲に淡い緑色の光が発現し、激しく乱舞する。

ナツメ『……そんな技を覚えていたとは』

言う間に、ミュウツーのダメージが癒える。

数秒後には、傷は跡形もなくは消え去っていた。

自己再生。自らの代謝をコントロールし、ダメージを回復する秘技。

完全に回復したミュウツーは、先程とは比べものにならない殺気を放って私にプレッシャーをかけてくる。

まだ、全力ではなかったか。

トレーナーであるマキナを叩けば早いのだろうが、それは最悪の場合の手段に取っておきたい。

出来れば、使いたくない方法だ。

とするとだ。

ナツメ『やはり、真っ向勝負して勝つしかないな』

ミュウツーが尻尾をしならせ、次の攻撃の準備に入る。

ミュウツーは右手に漆黒色の力……シャドーボールを溜め、標的を吟味するように、私と私のポケモンに、順に視線を巡らせた。

二度と自己再生する暇は与えない。

押して、押して、息つく暇さえないくらいに押しまくって倒す……!

フーディンの第六感が私のテレパスを鋭敏に感じ取り、サイコキネシスでミュウツーを攻撃する。

と、ミュウツーは迎撃するべく左手でサイコキネシスを繰り出し、ぶつけて相殺した。

いや、フーディンのサイコキネシスはかき消されたが、ミュウツーのそれは勢い衰えずにフーディンに襲いかかる。

打ち負けたか。

まあ、これは予想していた。

フーディンは攻撃を終えると同時に回避動作に入っている。加えて、ミュウツーの後方ではモルフォンが攻撃態勢に入っていた。

さらにこのアタックを外したとしてもまだネイティオが控えている。

死角はない。

すぐにモルフォンのヘドロ爆弾がミュウツーに炸裂、

しなかった。

予想外の事が起こった。

ミュウツーはモルフォンの攻撃を片手で受け止め、残す片手でシャドーボールをショットガンのように拡散させて連打。モルフォンに直撃させた。

ネイティオは攻撃を行う前に、突如目の前にテレポートしたミュウツーの念力を受けて落ちた。

フーディンも、サイコキネシスの影に隠れていつの間にか放たれていたシャドーボールをまともに喰らい、倒れた。

ナツメ『……っ、は、』

これほどまでのものとは思っていなかった。

多少の苦戦は覚悟していたが、この3匹で勝てると踏んでいた。

ナツメ『ふ、ふふ、ふふふふふ!』

こいつを倒す為なら、多少の金などは惜しまなくても良さそうだ。

金平糖のような形の、手のひら大の石を取り出し……計6個。

その石を瀕死になった私のポケモンたちに与えた。

元気の塊。瀕死になったポケモンに活力を与え、再び戦う力を与える使い捨ての道具。

このレベルの大きさになると数が少なく値段も馬鹿にならない。

ミツキやオーバが見ていれば腰を抜かすくらいの、途方もなく莫大な金額になるだろうが。

ここで使わずに、どこで使うというのか。

フーディン、ネイティオ、モルフォンが力を取り戻す。

さらにエーフィ、バリヤード、ユンゲラーも戦線に復帰した。

6対1。

しかし、この場において正々堂々などは必要ない。

普通のトレーナーなら同時に3匹以上のポケモンを操るだけでも至難の技だろう。

だが、私はナツメ。

エスパー少女と呼ばれたカントージムリーダーの腕前、伊達ではないと教えてやろう…!

私のポケモンの復活を目の当たりにしたミュウツーが力を溜め、今にも襲いかからんと威圧をかけてくる。

ナツメ『ヌルいな。私はお前以上の力に出会った事があるぞ』

楽しい。

全身の血が沸き立ってくる感じがたまらなく気持ち良い。

久々の、全力だ……!

 

 

説明
第9話『破壊の遺伝子』
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