おぼつかない夢
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私の話をしましょうか

遠い遠い昔、私がまだ小さな赤子だったころ、

片手には「友」がくっついていました。

「友」の名前はキンキセイと言いました、私はよくきぃちゃんと呼んだものです。

友は私の親友で、唯一の肉親でした。そう、その場所では。

私の名はカキ、これから話す事は、ずっと昔の物語です。

 

現実か夢か分からなかった、

ただ分かっていたのは、私は今何かしんどい場所にいて、

きぃちゃんがいなければ気も狂いそうな、そんな場所にいると、それだけだ。

きぃちゃんもそれは同じだったのかもしれない、

よく私の片手を握り締めては、その湿った感触に励まされていたようだった。

 

きぃちゃんと私はよくおままごとをした。

きぃちゃんは話すことを、

私は見ることを禁じられていたので、

もっぱらダンスのように踊る、そんなおままごとだった。

きぃちゃんはよく、お姫様になりたがった。

私は王子様の役が好きだったので、それはぴったんこに合致していた。

私達が踊るのを見て、その場所にいた人々はみんなあざけるような笑みを浮かべた。

 

その場所は地獄だった

その場所は血だらけだった

その場所は腐っていた

 

私達は、生まれた場所とは違う異国に、

「超能力者」という奇妙な名前で飼われていた。

 

その場所には私達以外にも、たくさんの「力」を持った人たちがいた。

私達はそれぞれ暗い部屋という名の牢獄に閉じ込められていた。

誰も彼も気が狂いそうな、そんな場所だった。

 

隣に住まわされていた人の名は知らない、

私達は話をすることを禁じられていた。

でもやさしい人だったと想う。

少ない泥のような食事が出た後、

空腹で寝ているときに、なんらかしらかの力を使って、

よく私達にその飯を分けてくれた。

きぃちゃんが話せれば、その人と話しもできたのだけど。

 

よく私達は大人の男の人に連れ出されて、

―手錠を引っ張られて―

大広間に連れて行かれた。

きらびやかなその部屋で、僕は何にも怖くないんですよ、という顔をした、

醜い男が私達に話し掛けた。

ねぇ君たち、おじさんはとても困っているんだ、

力を使っておくれよ、

この人を―殺してほしいんだ―

私は目を硬く閉じて、

きぃちゃんは口を硬く閉じて、

全身で拒絶した。

怒った大人の人は、不機嫌にぶちこんでおけ、という。

そしてまた牢獄に逆戻りだ。

罰しますか?

いや、それはいい、別のやつにやらせればいい。

男達はそういっていた。

 

きぃちゃんと私の口と目を閉じさせたのは「おばば様」だ。

夜中にふとおばば様の顔を思い出して泣いたこともあった。

そんなとききぃちゃんはよく肩を抱いて、慰めてくれた。

もちろんきぃちゃんが泣いているときは私が慰めるのだ。

そうやって私達はうまくやっていた。

 

暗いくらいもっと暗い、夜に、おばば様は私達を呼び出して言った。

ろうそくの炎だけが頼りなくちろちろと燃えていた。

よくお聞き、

おばば様の深い声。

おまえの唇は吉兆を運ぶ。

そしてきぃちゃんの唇に、何か描いた。

おまえの瞳は吉兆を運ぶ

そして私のまぶたに何かかいた。

強すぎる力は身を滅ぼす、だからおまえ達、

口を閉じなさい、目を開けてはならない、

力を使ってはならない。

おまえ達の力はあってないようなものとするのだ。

 

分かるね、とおばばさまは言った。

私達はこれっぽっちも分からなかったけど、

厳かにうなづいた。

 

私は力がなくて、おまえ達の力を閉じるだけで精一杯だ。

いつしか封印がとかれてしまうかもしれない、

もしそうなったら…………

なったら…………

なったら……………

この先は、忘れてしまった。

 

その日はいつもと様子が違っていた。

その牢獄にさらわれて、つれてこられて、14ヶ月目のことだった。

複数の誰かが何かを低くささやいているような、

そんなざわめきが牢獄をおおっていた。

事実、どこかで誰かが叫ぶ声も聞こえた。

「逃げるんだ子供達」

何かが割れる音がした、深夜のことだ、不意に隣の誰かが話し掛けてきたのだ

「逃げるのだ、君らだけでも逃げるのだ、

私達がここは、きっとなんとかするから、今から飛ばすから、逃げるんだ、

君たちのプロテクトを解く、だから自力で」

慌てた声だった

瞬間、私達は外にいた。

なにをすべきか、なにをやればいいのか、それはわかっていた。

とにかく逃げるのだ。

そして気が付いた、私達が「閉じて」いたものが、開いている

 

暗い森をずんずんにげた。

きぃちゃんの握った手のひらは、じっとりと湿って

きぃちゃんがどきどきしているのか、私がどきどきしているのか分からなかった。

せめてと、目をきつく閉じていた

せめてと、きぃちゃんは何もしゃべらなかった

森の中できぃきぃと何かが声を立てて笑った

ざざざっざざざ、と私達を追う音がした

ざわめく森。

暗い月が、私達を照らしていた

あんなに月が嫌いだったのは、後にも先にもあのときだけだ。

 

不意に、開けた場所に出た

ぐうるりと、縁をかいて鳥が飛んでいた。

それは大翼(※)だった

けんけんと、狐が鳴いていた。

それはぐるい(※)だった。

さまざまな妖怪が、後ろから前から、私達を取り囲んでいた

私は見ずに、その力を感じた。

その喜びを感じた、何かに喜んでいる。

 

すっと、誰かが手を上げた。

妖怪たちはざわめきを抑えた

「娘ら」

「何」

私が言った。きぃちゃんは私をかばうように前に出る。

「娘ら、おまえ達を追っている者が1人、2人、3人………いっぱいいるぞ」

けたけたと何かが笑った。

しんしんとその声は吸い込まれた。

「おまえら死んじゃうぜ」

「死んじゃうんだ」

「とらわれて」

「死んでしまえ」

私は目を開いた、綺麗な景色に何匹のけだものたちがいた。

それらは私を見て、ざわめいた。

「深紅のメ」

「やはり、吉兆の娘らか」

「だからなんだっていうんだ」

きぃちゃんが口を開いた。

けだものよりも透き通り、つんとひっぱった声だった。

しんしんと、吸い込まれる。

「娘ら、助けてほしいか」

「助けてやろうか」

「いい、けだものの力は借りない」

私はきぃちゃんの手を握り締めた。

「借りない」

「なぁに、怖がるな」

真中にいた黒髪の端正な男が、口を開いた。

さっき手をあげたやつだろう、

けだものの、長だろう。

「私達がほしいのは、その力だ、

一石二鳥だ、おまえ達、

そんな力、人間が持っていても仕方なかろう、辛かろう、

だから私達が引き受けてやる、

追っても巻いてやる、さぁ、うなづけ娘ら」

じっと私は考えた。

きぃちゃんがどきどきしているのを感じた。

 

ああ、私達は子供だった

たった2歳の赤子だった、

赤子になんの判断ができよう、

二人で顔を合わせて、そして言ってしまったのだ

 

「ならばいい、それなら応じる」

けだものがほえた、

男の姿をしたけだものが、

月に近い咆哮だった

あれは、笑っていたのかもしれない

 

そして私達は竜巻にあった

正確には、竜巻のようなすざまじい出来事に

私ときぃちゃんはけだもののうずに巻き込まれ、つないでいた手ががぶりと食われた

そして別々になった

別々になりながら、雄たけびのような悲鳴をあげた

血がびゅんびゅんでた

けだものの鳥が私の胸をつついて肉片をもぎりとった

大猿が、とがったつめで私の足をもいだ

「うそつき!!」

きぃちゃんの叫び声がどこかで聞こえた

「うそつき!!!!」

「嘘ではない、おまえ達の追っても美味しく食べてやる、

おまえ達も力を無くし、命も無くす、一石二鳥だ」

ひっひっひと奇妙な笑いで、私の唇を食みながら、男が言った。

 

私は自分の体が食われていくのを見ていた

じっと見ながら痛みを感じた

きぃちゃんはもう遠くへ行ってしまったらしい

どこかの洞窟へ運ばれた私は、そこで狂気を見た

けだものたちは宴を開きながら、私の体をばらばらにしてばりばり食べた

骨まで。

首になった私はぽいっと捨てられた

いや、捨てられたのかは分からない、

もしかしたらささげられたのかもしれない、

私の目の前に座って、じっとこちらを見ていた「長」に。

 

私は血の混じった涙を流しながら王を見つめつづけた

きぃちゃんが何かを言っている、

聞こえなかったけど、分かった

「けだものの、地に落ちた、妖怪どもめ」

それは私の言いたいことだった、

きぃちゃんと私のこころはひとつだった

瞳を食われたきぃちゃんのことも分かった

私達は一人ずつ、二倍に痛みを感じていた。

 

きぃちゃんは私の瞳でそれを見た

私はきぃちゃんの唇でそれを言った

 

「私の声を聞け」

「私ののろいを受けろ」

「死よりも辛い」

 

 

「のろいを受けよ」

 

 

それは呪詛だった

 

私達の知っている知らなかった呪詛だった

 

光が満ちた

 

いくら眠っていたのだろう、

気が付くと、夜が明けていた

手足が戻っていた、

それどころか、傷一つなかった

 

あんなにいたけだものたちはどこにもいない、

ただ洞窟にへばりついた血痕だけが、そのすざまじさを物語っていた

 

「娘よ」

 

振り返ると王がいた

本来の姿で。

 

「けだものたちを狂わせ、

おまえのものとした娘よ」

 

王が笑った。

まがまがしい笑みだった

 

「面白い、おまえ達は確かに面白い」

王はぐろんと、口を開いた、

その中に、深紅の瞳、目玉があった。

 

「取り返しに来い、この目玉、

美しく育て、それまで。

もう一度会って、私を静めたら」

おまえの者になってやろう。

王はそういって、飛んでいった。

高く、高く。

 

私は悲鳴を上げた、ではこの体はなんなのだ、

この瞳はなんなのだ、

直感で、あの目が私の目だと分かっていた

どんなに悲鳴をあげても、なにもおこらなかった

まるで平和のように

まるで静けさのように

 

 

これで私の話は終わります、

たぶんね、今なら私もこう推測できます、

その手足はけだものたちを吸い取って作ったのだと。

この私が。

ただ私の肉片を食べて力をつけた、けだものの数匹は、逃げたのだと。

その「吸い取り」から逃げたのだと。

私の体は90%以上、けだものでできている、

夜に見る夢が、それを教えてくれる。

私の肉となったけだものの、見る夢が……

説明
カキの幼少の頃の話です。特異な命を歩んできたカキの、始まりのお話。獣に蹂躙されるシーンがあり、決してHappyEndではないのでお気をつけください。
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タグ
グロ  カキ ファンタジー SF 

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