機動戦士 ガンダムSEED Spiritual Vol36
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SEED Spiritual After-PHASE 壊された心達の行方

 

「お待たせしました」

 プラント≠フ中心地アプリリウスワン=B今その最奥に、終結したばかりの戦争の首謀者達が首を並べていた。ティニセル・エヴィデンスに追従してきた二人の女に見覚えはないが、一人の老人は……DSSDの科学者ではないか。ラクスに同席したキラとイザークは彼らと目を合わせることもできず、ただ彼女の護衛として個を捨てることに腐心する。

 四人の、世界転覆者。彼らは身一つできたわけではなく手土産を持ち込んできていた。

「では敗戦国に要求です」

「言うわねティニ……」

 彼らの持ち込んできた大きなジュラルミンケースに目を奪われていたキラ達も、ティニの物言いに姿勢を正す。

「もう一度、停戦時の要求お願いできますか?」

 ラクスは――少なくとも表面上は――冷静を保ったまま厳かに頷いた。

「はい……アルザッヘル=cつまりイマジネーターの存在を、黙認いたします」

「プラント≠フ総意と受け取ってよろしいのですね?」

「――はい。……ですが、地上に関しては統合国家の管轄なのでわたくしから確約することはできません」

「ああ、全く構いません。今回の件でアスハ代表も復興優先を徹底してくれることでしょう。プラント¢、はただアルザッヘル≠認めて下されば結構です」

 キラは項垂れたラクスというものを初めて見た。彼女が渋面を浮かべたのも見たことがある。微笑もうとして、できずに泣き出してしまったのも見たことがある。彼は心の中でラクスに言い返して欲しいと願っていた。

(僕は、何も言っちゃいけないのか?)

 あくまで護衛に徹する。皆に釘を刺されている。それを圧してまで自分が正しいと言い切れる程厚顔無恥ではない。

「イマジネーターの排斥など一切行わないこと、その運動にを宣誓いたします」

「ブルーコスモス≠ニ言う理不尽を思い知っているコーディネイターのお言葉、信頼させていただきますね」

 

 

 

 はっと、目を覚ます。

 白い天井が見えたアスランは周囲の喧騒を見回した。戦争の事後処理、医療従事者を頼る者は多いのか、目に見える範囲では白衣が慌ただしく駆け回っている。

(気がついた。ならば自分はもう、大丈夫だ)

 ならばいつまでも迷惑をかけていてはいけない。アスランは上体を起こそうと筋肉に意識を注ぎ込んだが、撃墜されるほどのダメージに晒された体はピクリとも動こうとしない。

(!?)

 そういえば、喧騒の渦中にいながらそのざわめきが一向に聞こえてこない。

(まさか…俺はどこかやられて植物状態に――!?)

 押し寄せてきたネガティブに恐慌を起こしそうになったがしばらく眼球だけを動かし続けていると徐々に耳が聞こえ、末端から動くようになってくる。

「……助かった、のか?」

 戦争の行方は? 議事堂で倒れ、動けないままクロフォードを追いやってから記憶はない。それどころかジャスティス≠ェ墜ちてからの記憶も曖昧だ。キラと会ったような気もする。ラクスの無事を聞いたような気もする。だが全てが曖昧な記憶、どこまで当てになるのかわからない。

 しばらく記憶の整理をしているうちに再び意識が途切れたようで……再度目を開くと景色が変わっていた。ICUにでも運ばれたか。いや、個室を宛がわれたか。右手を挙げようとして点滴のチューブに邪魔をされ、左掌を見える位置にまで差し上げる。

(生きてる……な)

 首を横へと巡らすと見覚えのある町並みが見えた。所々傷跡を残すアプリリウスワン≠ヘそれでも滅びることなく次を目指し、ゆっくりと、だが確実に復興していく――

(終わったんだな……)

 確かに、戦争は終わった。戦士にしかなれない自分が穏やかな寝息を立てていられることが何よりの証明。しかし……何が終わったというのか。

 滅ぼすべきイマジネーターは生き残り、あろう事か幾つかの国家を形成した。ラクスですらそれを認めざるを得なかった。あの狂ったクロフォードは、どうなったのか。奴の思想は本当に今の社会の光明になり得るのか。プラント≠ニ統合国家はどういった答えを出せばいいのか……。

 ――俺はこの世界で、何をすべきなのか。

 上体を起こそうとするとまだ痛みが走った。だが起き上がることをやめても自らに問うことをやめられない。アスランは考え続けた――今すぐしなければならないことを。

 

 

 

「シン・アスカさん、ルナマリア・ホークさん、他大勢と言った我々の協力者を不問にすると仰いましたが、信じてよろしいのでしょうか?」

「もちろんです。再びテロ行為に及ぶ、と言うのなら認められませんが」

 ティニはラクスから目を離し同行者を一人ずつ見渡す。不機嫌そうなディアナ、場違いにおどおどするフレデリカ、ただ前だけを見つめ続けるノストラビッチ。ティニはノストラビッチを指差した。

「例えばこちらのノストラビッチ博士、DSSDの科学者でありつつもこちら側として働いて貰っていました。ルインデスティニー≠フ基礎設計に関わったのも彼ですが、放置しても大丈夫ですか?」

 ノストラビッチは書類をたたんで真上からティニをはたいた。虚偽に満ちた発言とは言わないが、ルインデスティニー≠フ基礎設計などターミナルサーバ≠ェ引き抜いてきたZGMF‐X42Sのデッドコピーに過ぎず、星流炉周辺のシステムはエヴィデンス≠フ持ち込んだ技術だ。各武装、装甲に振り向けるエネルギーパラメータの調節を一手に引き受けはしたがそれで主犯のような扱いを受けてはたまらない。

 続けてディアナがティニの肩をつつく。同時にラクス・クラインを真っ向から指差した。

「ティニ、敗戦国なんでしょう? なんで下手に出るの?」

 フレデリカがディアナの裾を引っ張ったが、彼女は敵対者に目を合わせようとしないまま自分の意見は曲げようとしない。

「ディアナさん、クロがこちらの面々を捕虜としていたのなら私も平気で踏みまくるような要求をしていたと思います。ですが、そうはならなかった。我々はプラント¢、の自主性も認めてあげるくらい親切であるべきと、クロはその方が彼らに思い知らせることができると考えていた――そう受け取ってもいいんじゃないでしょうか」

 貶したいのか持ち上げたいのか……。ディアナは納得できなかった。

「そちらさんはお目こぼしを貰ってるってのは、理解してくれてるのかな?」

 相変わらず目を合わせない。ラクス達からも言葉はなかった。ティニはディアナから意識を離すとラクスの目へと問いかけ直す。

「話を戻しますが、こういった方々を戦犯として扱わないわけですね」

「お約束いたします」

 ラクスは戦犯の無視を約束した。提示された交渉案の一つがその補完を行うと考えているのなら……ティニは眉を顰める。

「ターミナル≠フ解体を目指しているようですが、できますか?」

 確かにターミナル≠駆逐できればこのような世界規模のテロが発生するリスクを減らせる。反政府の志を持ったものを放置しても、そのまとめ役を抑えてしまえば言論以上の行動には及べないだろうとの考えか?

「はい。ターミナル≠ヘその組織形態上どうしてもレジスタンスやテロリストの温床になることを防ぎようがないと考えます。平和を求める為に必要ないものです」

 ティニは考える。ターミナル≠フ発端はクライン派≠ナある。ならば彼女の力で解体することは容易か? ――C.E.72当初ならラクス・クラインの鶴の一声でどうにでもできただろうが、今やターミナル≠ヘあらゆるアンダーグラウンドを統べる概念に成り代わっている。彼女の支援者が全てではない。この戦争を経てなお理解できていないとしたら――ティニは、考える。

「議長はターミナルサーバ≠ェどんなもので何が機能しているのか理解されていますか?」

 ラクスは眉を顰めた。それだけで絶望するには事足りる。数秒の沈黙にも耐えきれなくなったのか、キラが口を開こうとするがティニは彼へと半眼を向けた。

「大型の量子コンピュータがどこかにあるなどと考えてらっしゃるのならお話にもなりません」

 黙り込んだ。予想の通り図星らしい……。

 溜息と共に指摘する。

「ターミナル≠排除することで今回の件は不問に、そしてあなた方にも害が及ばないように、と言うことですね。お優しいことです。ですが、あなた方の力ではターミナル≠フ排除は不可能だと思えます。それでも、シンさん達を見逃しますか?」

「わたくしは彼らから牙を抜くために縛ろうと考えるのではありません。あなた方が処置によって縛ろうとする心に、信じる余地があると……信じたいのです」

「わかりました。よかったですね博士」

 ノストラビッチは再びティニを小突いた。

 

 

 

 病院食というものは結構種類が豊富である。量は少しばかり物足りないが訓練もしない身体にはこれが適量なのだろう。食事は人生の楽しみの一つ。至上と宣う人間もいる。しかし、アスランはその楽しみに没頭することはできなかった。

 どうすればいいのか。自分の頭では何も思いつかなかったが……他人から貰った情報が道の一つを示していた。

 ラクス・クライン。今は解消された形となっている。それをどうと思っているわけではない。

(本当か?)

 許嫁の時も付き合いにくさはあったがそれは周囲の視線が煩わしかっただけで彼女自身に苦手意識があったわけではない。自分自身を客観視してみれば彼女が特に苦手と言うわけではない。女性全般が、何となく苦手だ。考えていることが読み切れたためしがない。自分を客観視しながら、ラクスを想う。

 食事の途中で目を閉じかけたアスランは、扉の開く音に引き戻された。

「私を使うなんていい度胸してるわね。アスラン・ザラ」

「う……ミリアリア・ハウ……」

 クロフォードの言葉を確かめるためターミナル≠ノ縋った。そんな、意志を貫けない自分への罰か。

「……な、なんで君が……」

「どうでもいいでしょ。ここしばらく私もアプリリウス≠ノいたのよ。だからあなたがターミナル≠頼ったら、一番近くにいた、私に話が回ってきた――ただそれだけよ」

 彼女は全く目を合わせようとはしなかった。当然、アスランも目を合わせる度胸などない。それでも彼女を無視するわけにはいかなかった。

「なんで私がこんなことを……友達売ってそれでも生きてかなきゃならない私の身にもなってよ」

「す、すまない」

 トレイをどけるとやや乱暴に茶封筒が投げられた。見るまでもない……彼女の態度が物語っている。キラと、ラクスの遺伝子は不適合を示したのだろう。彼らにザフトを捨てることができるのか。いや、できるできないに関わらずどちらかで彼らは絶望する。

 アスランは葛藤した。そして……自分が今の心の内を話せば、彼らの決断猶予を著しく縮めてしまう――可能性ではなく確信がある。

「ラクスに話すべきか…………」

 ぼそりと呟く。答えなど期待していない。自分自身へと向けた問いかけ。

「悩んでるってわけ?」

「黙っているってことは、俺がキラ達を騙してるともとれるだろ……」

 溜息をつかれた。扉にもたれた彼女は一瞬だけこちらに半眼を送ってきたが目を合わせる頃にはそらされていた。

「悩むのが嫌ならここで私があなたを殺してあげるって未来もあるけど?」

 見下すように投げかけられた彼女の視線に冗談はなかった。刃のように研ぎ澄まされ、それでいてさらりとした悪意。そんなモノにさえ縋ろうとする自分を見つけ、アスランはかぶりを振った。

 

 

 

「これは提案なんですが、ラクスさん、アスランさんとくっつくつもりはありませんか?」

 椅子が一個盛大な音を立ててひっくり返った。皆が注目する先にキラがいる。赤面しながら「気にしないで下さい」を連呼する彼を哀れに思いながら、ティニはラクスへ視線を戻した。

「……以前言われた『クエストコーディネイター計画』ですか……」

 頷く。ラクスはゆっくりとかぶりを振った。

「わたくしは……キラと共に歩みます。彼がいなければここに座り続けることもできないでしょう」

「ラクス……」

 イザークの片眉がぴくりと跳ね上がった。ディアナはフレデリカに耳打ちするが、フレデリカは再び相手の裾を引っ張る。

「……なにか?」

「いえ、心の底から…って、いいなァと思いまして。あたしもそんな彼氏欲しいです」

 ラクスは彼女から意識をもぎ離すとティニへと一つ頷いた。落胆するかと思ったが、エヴィデンス≠ヘ冷たい視線を送ってくるのみ。

「そうですか」

 何事もないかのようなその一言、そして彼女が情報を支配する存在だと考えの及んだラクスの顔が、歪んだ。

「キラ・ヤマトさんを愛されていることは充分わかりました。ではアスラン・ザラさんは? 元婚約者であったことから推すと……我慢できない性癖でもあったのですか?」

「その質問は失礼に当たりませんか?」

 人にいつまでも聖人であることを望むのは酷。ティニは平手を向けた。それでも、話題を打ち切りはしなかった。

「申し訳ありません。私としましては他の全てを捨ててでも後ろの彼を選ぶ理由が知りたいのです」

「それは――」

 彼女は答えに窮したが、ティニには聞かなくても解る部分がある。02では全く理解の及ばない領域だろうが。

 地球人類は不思議だ。論理の渦中に立っていながらも感情を優先させて押し通すことができる。三段論法で導かれた解よりも「なんとなく」を優先させられるその理由は……説明できるモノではないのだろう。

 それでも、説明されなければ理解しきれない…。

「………置いておきましょうか、その話題は。いっその事ラクスさんの権限で一妻多夫制でも導入してみてはいかがでしょうか」

 ラクスの顔がまた歪んだ。今度は先程以上に長い間、歪んだ。

 

 

 

「あなた、その、ティニさん?」

「そういうあなたは……アイリーンさんですか」

 広い廊下を並列で歩いていたティニ達は俯いて歩く彼女の通り道を塞いでしまっていた。互いに気がつき頭を下げ目を会わせた瞬間、ティニとアイリーンは互いに互いを指差していた。

「クロフォード君がお世話になりました」

「あ、あの!」

 アイリーンは深々と頭を下げ、そして視線を元来た通路へ流した。彼女の流し目に胸騒ぎを掻き立てられたフレデリカがティニを押しのけ彼女へ問いかける。臨時とは言え元議長であった女、アイリーンと目を合わせられると言いたいことが萎みかけたが…出した言葉を戻せない。無かったことにして構わない程軽い思いではない。

「なにかしら?」

「あの、あの…クロ、は?」

 大丈夫だったのか。いや、この人がクロの見舞いに行ってきたとも限らないではないか。フレデリカはそれ以上何も言えなくなりティニ達の後ろに下がっていった。

 アイリーンが片目を閉じながら嘆息する。

「クロ……なに、クロフォード君の、ニックネーム?」

「コードネームです。ルインデスティニー≠フパイロットに決まったとき、彼が自分で付けていたのを覚えています」

 来た道へと振り返る。長い髪に隠され表情は窺い知れなかったが、もう一度の嘆息が皆の耳に届いていた。

「コードネームって……ほとんど隠せてないじゃないの…」

「あんまりかけ離れた名前で呼ばれても自分のことだと気づけなくてマズい、と。結局彼は単独の作戦ばかりに従事していたので無駄な気苦労だったと私は思っています」

「あー人間嫌いだったわあの子。プラント≠ノ招いてあげたときも、喋らなくて孤児院じゃ役に立たないなーなんて思ったわ」

 しばらく、言葉がなかった。

「………あの子なら、あっちの手術室よ……」

 振り向いた彼女の目端に光るものを見つけてしまいこちらも何も言えなくなる。

「クロフォード君の友人でいてくれてありがとう」

「え? い、いえ……」

「貴方達の行ったことが正しいとは……わたしの立場では言っちゃいけないと思う。でもクロフォード君の義姉としてお礼を言わせて貰うわ。

 ――最終職歴テロリストと書かれるんだろうけど、あの子は幸せだったのかもね………」

 ………

 ……………

「…………あの、クロは?」

「判定、脳死だって」

 ……………

 ………

「……のうし……?」

 意味を取れるようになるまで時間がかかった。四人の内二人、いや三人が動揺から立ち直れずにいる間にアイリーンは取りだしたカードを手の中で回していた。

「……そうね。雇い主には報告しておくべきだったかな」

 呟く。一歩歩み寄ってきたアイリーンはカードを裏返し、ティニの前に提示した。臓器の名前が列挙され、全てが丸で囲んである。

「非金銭目的で内蔵を売る証明……なんでしたっけ………………あぁ、ドナーカード」

 ディアナ達が恐怖に目を見開かされた。食い入るように、皆の視線がティニの手元へ注ぎ込まれる。

「う……」

 ディアナは言いようのない気持ち悪さに苛まれた。アイリーンは言葉も必要なく彼女達の心を共有する。

「『死んだ後なんざ遺体っつってもモノと一緒だと言った覚えがあるが――いざ腹ん中引っ張り出されると思うと、クるものがあるな……』これ置いていくときあの子でもそう言ってたわ」

 ディアナとフレデリカは恐怖に強張った視線をゆっくりとこちらに流してきた。

「自分は要らない人間だって言ってても、やっぱり生きたいのよね」

 ディアナとフレデリカがティニとアイリーンを押しのけ走り出した。アイリーンはそんな二人に哀れみを込めた視線を送っている。ティニがいつの間のか傍らにいた。

「止めなくて良かったんですか?」

「あなたこそ」

 アイリーンは自分の肩までの身長しかない小悪魔を横目で見下ろしながら、やめられなくなった嘆息をまた零した。そういえばこの小娘は、小娘の皮を被った超生物なのだったか……。自分が味わってきた絶望を、この子はすでに見通しているのかもしれない。そしてこの老人も、長く生きているだけあって見通しているらしい。

「わしも行くか」

「お願いします博士」

 アイリーンとティニは遠くなっていく足跡を耳だけで追い続ける。

「……お義姉さんは、泣きましたか?」

「……流石に、ね」

「私達は……同族の死でどうこうというのがよく分かりません。折角進化させてきたところが、ケアレスミスで駄目になったとき悲しいと言うのは……ありますけど」

「今も?」

「はい?」

「それは、今も悲しくないってことかしら?」

 ティニは頬に手をやる。意外な感触が胸に広がり――三人が行ってしまった先を、ただ見つめ続けた。

 ――その先では気を失ったフレデリカをディアナが必死に抱えていた。彼女が崩れ落ちなかったら自分が半狂乱に取り乱し彼女に押さえ込まれていたのだろうと今になってようやく解る。

 彼女達が辿り着いたとき、クロから幾つかの臓器が引き抜かれた直後だった。銀色にパッケージに収められたナニカがどこかへと運ばれていく。

「ディアナ。取り敢えずフレデリカを椅子に寝かせたらどうじゃ?」

「は、はい……」

 哀れな程に震える声。洗脳でもされたかのようにノストラビッチの言われるがまま動いたディアナは自分も腰を下ろすなり……感情を持て余した。嗚咽と、涙と、そして絶叫が喉奧から溢れ出てくる。ノストラビッチはなにもしない。フレデリカを挟んだ座席に座り込みただ、待つ。

 やがて声と涙が涸れた。それでも彼は、何も言わなかった。

「…………どぉも博士。もう大丈夫、多分。落ち着いたわ」

「そうか」

 医療従事者の慌ただしさが三人を置き去りにしていく。それでも蟠る沈黙に耐えきれず、ディアナは爪先を見つめたまま独白を続けた。

「……ドナーとかって、提供した方が世のためーって思ってたけど……こんな辛いモノとは思わなかったな……」

「じゃな」

「……コーディネイターだったら、ないぞー提供して当たり前、と思わないとヤバい?」

「イマジネーター程じゃないじゃろ」

「博士」

「なんじゃ?」

「こういう時に肩を抱くーとかしないとモテないぞ」

「は。株しか見られんよーなクソ爺になってから小娘にモテてもなぁ……」

 相変わらず前を向いたままぼそぼそ呟く老人にディアナは思わず吹き出した。

「ありがとね博士」

「…………わしは何もしとらん。クロの冥福を、祈ってやるだけじゃ」

 切り刻まれたクロの中身は次へ次へと持ち去られていく。誰かを救うために、誰かの希望のために。必要とされることは幸せだと。ディアナは涙を親指で追い出しながら……思おうとした。

 

 

 

「はい。ではこちらの要求は以上です。勝てる戦いを途中放棄したテロリストは、どのような代償を払えばよいのでしょうか?」

「ティニ!? 何でこっちが何かやってあげなきゃなんないのよ!?」

 元々余計なことを言う意味などなかったのだ。目の前の支配者達に対しては、クロが思う存分毒針を突き立てているのだから。ティニは言葉で抗議するディアナと視線で抗議するフレデリカを追い遣るとラクスへと視線を突き刺した。

「はい。失礼ですがあなた方エヴィデンス≠ノは地球圏から追放させていただきたいと」

「そうですね。地球人類は自分以上の存在は縋るか追い遣るかどちらかしか選べませんでしたね」

 互いに拘束もなく、膝をつき合わせたこの状況はほんの少し前までは信じられない会談。いや、今でも信じられないものの方が多いかもしれない。

 ティニの物言いに左右に立つフェイスの二人が殺気立つがラクスの掌に感情を収める。向かいに座るティニは動じた様子もなかったが代わりにノストラビッチが聞こえよがしの舌打ちを零す。それにフレデリカの咳払いが覆い被さり執務室は元の静けさを取り戻した。

「はい。イマジネーターに関してはわたくしだけでなくザフトの総意として……黙認することを決定しました。しかし今の世界に……エヴィデンス=c…シードマスター≠フ存在は、刺激が強すぎます」

「納得です。ジョージ・グレンは信頼していたようですが、人類はまだ幼年期でしたね」

「どのように思っていただいても結構です。ですがその場合、一つ問題があるのですが」

 敵の親玉を遠くに追い遣る。何かマイナス要素があるのか? ヒトの追放を宣言しながらそのものに頼ろうとする神経にディアナ達は信じられない気持ちでいっぱいになったがそれでも疑問の方が先に立つ。

「問題……どういったものでしょうか?」

 浮き上がったディスプレイにはプラント≠フあるL5と、月を映す二次元グラフィックが浮かび上がった。

「指導者を追放することにより、月の蜂起が懸念されます」

 余りと言えば余りの物言い。ティニは隠すこともなく失笑を漏らした。

「私が指導者ですか?」

「何が……おかしいのですか?」

「クライン議長。停戦の際にもあなたは我々をエヴィデンス≠ノ従うターミナル≠ニ形容されましたが、私はリーダーになった覚えはありません。そして大半はここにいるもう一人のエヴィデンス≠ネど知りもしませんよ」

「でもそちらのターミナル≠ヘ……あなたと、あのクロフォードの考えで動いていたはずです。あなた達がいなくなれば――」

 ティニは二人の物言いを失笑したまま手で制した。笑いが収まると、あまりの無礼な物言いに怒りすら湧いてこなくなる。彼らはこちらを何一つ理解していない。そう心を慰めなければ落ち着くことすら難しくなる。

「仰ることは理解できます。しかしイマジネーターという概念を見くびってもらっては困ります。

 リーダーが必要なら適正在る者を利権だ利己だの鬱陶しい要素を廃して選出できます。適任者がいない場合は造り出せます。彼らが路頭に迷うことはあり得ません

 あなた方とは違うんです」

 完全制御された人間と言う概念に、キラは返す言葉を失った。ここで議論されているのは月が混乱しないか否か。個人の心の多様性など持ち出せる世界ではない。

「…………ならば、心置きなくあなた方を地球圏から排除できますね」

「そーゆーことです。遠慮はいりませんよ。ですが、漂流は困りますので……ヴォワチュール・リュミエール≠ナしたか、ソーラーセイルシステムを所望します。中身を使い切った星流炉一基では他の恒星系に向かうのは無理です」

 ……都合をつけるしかないだろう。あの炉が汲み取るエネルギーは不明のままだが地球の寿命を縮めかねない『充電』を許可するわけにはいかない。

「わかりました。システムは…DSSDに依頼しても?」

 ノストラビッチは目を上げることもなく深くゆっくり頷いた。

 

 

 

 目を覚ましても悪夢は去らない。何度も目を覚ましたはずだがべったりと張り付いた魔物はいつまでたっても自分に見切りをつけてくれない。

 対処法は、提示された。クロが残していった。そんなモノに縋る――自分自身の否定だと思え、いつまでもいつまでも頼る気にはなれなかったが、今もティニに泣きつかずにいたとしたら廃人となっていたか、もしくは目の前の知り合いを殺してしまっていたことだろう。

 小銃を向けられたこと。自分を守ると宣言したあの誓いは、他人にどうこうされてしまうほど弱々しいモノだったのか。シンがわたしを思う気持ちはそんな程度だったのか。いつまでも待たせ、いつまでも想い煩わせ、その結果が銃口か。許せない!

 シフト

 人の記憶など電気信号ではないか。蟻や蜂など女王に絶対逆らえない身で生まれている。何より彼は、そんな遺伝子に刻まれた絶対命令にさえ気を失うほど抵抗してくれたのだ。今わたしが生きていられる……それは彼が歌姫の殺人マシーンに堕ちることなく自分を想い続けてくれたからこそ。操られたことだ。仕方がない…。

 前者から後者に思い直せるようティニが自分に何かした。ルナマリア自身も、それを理解している。

「シン!」

 それでも、シンを見つけて手を振る自分の心は晴れやかだった。

「ルナ! もう、大丈夫なのか?」

「平気よ。シンこそ、ヤバかったって聞いたけど……?」

「あぁ……まぁおれのことはいいんだ」

 脳波が一度停止したなどと伝えて同情を引きたい気持ちもあるがシンの罪悪感はそれをよしとはしなかった。ルナマリアに正面から向き直り、直立から九十度以上に腰を折る。

「ごめん! おれは、ルナを――」

「ち! ちょっとやめてこんな街中でっ!」

 謝罪対象が肩を掴んで揺さぶってきてもシンは譲らなかった。

「も、もぉわかったわよ! ってもあれはシンだけのせいじゃないんでしょ? だったら関係者全員に謝らせないとシンばっかり不公平じゃない」

「な、よ、よし! 今から研究者とか軍神とか全員連れてくるから待ってろ」

「やめろっつーの」

 冗談を言って笑いあえる。ルナマリアもシンも誰かに操られた自覚があっても、これは幸せだった。

「……ルナ、これからどうするんだ?」

「え? そうね……どうしよっかな…。ザフトにもオーブにもいられないしな…。一度メイリン会っとこうとは思ってるけど、あの子に会っちゃうとオーブに来いと言われそうよね……」

「おれも、もうザフトには戻れない。クロが話しつけてくれたみたいだけど――」

 キラは今も殺してやりたい。だが、議長の前にはもう二度と立ちたくない。ザフトに残っては、生活の保障はされるだろうが……自分を残しきれるわけがない。

「なあ、ルナ、行き先ないんなら……一緒にアルザッヘル″sかないか? …月が嫌ならあの、地上のアレでもいいけど」

「え? シン、イマジネーター嫌なんじゃなかったの?」

「今更嫌も何もあるかよ……。オーブやプラント≠ノ比べれば、おれにとっては遙かにましだ」

「よかった……」

「ん?」

「うん。アルザッヘル″sこうよ。あそこじゃわたし、女王様もどーぜんだから、シン一人くらい面倒見てあげられるから」

「…………いきなりヒモ決定みたいな言い方やめてくれよ…」

 半眼になったシンの肩をばんばん叩いてやる。シンは憮然としながらも小さな微笑みを浮かべ、ルナマリアも微笑んだが視界の端に余計なモノを捉えてしまった。ティニと、ラクス・クラインか。ティニには一言言いたかったがシンとラクスを会わせたいとは思わない。ルナマリアはさりげなく歩調をずらし、彼もろとも彼女の姿を視界から閉め出した。

「あ、でも」

「うん?」

「月に行く前に、地上に行きたいんだけど、いいか?」

「何? 復興の手伝いするとか?」

「いや、おれが個人的に行きたいところがあるんだよ」

「……そうね。メイリンには会っておくわけだし。シンは、オーブはやめとく?」

「付き合うよ」

 シンとルナマリアは何かを話し合いながら、ラクス達の視界から見えなくなった。二人寄り添う恋人達。ラクスが微笑み以外の意志でもって彼らを見たこと、ティニは見逃さなかった。

「やはり、ルナさんを見る目が変わってしまわれますか?」

 元々彼女のことなどほとんど知らない自分に元の彼女を論ずる資格などないはずなのに。

「ええ。その幸せは、誰かに仕組まれたモノだという考え方は拭い去れません」

「流行、慣習、通説、常識、前例、制度に法律……地球人類の社会に誰かに仕組まれてない生活基盤などあるのでしょうか?」

 ラクスは運転手に命じ、車を進ませた。

「クロは、今のあの二人のような関係修復方法は完璧だと考える人でした。その完璧にひびを入れるのが今のラクスさんの視線です。目の前に彼がいたら今頃罵詈雑言のオンパレードですよ」

「それが、本当に正しい人の関係なのでしょうか?」

「つながり方を論じると……個に関わりすぎてしまった私にも首をかしげる部分があります。ですが、方法としては正しいのではないでしょうか。少なくとも、あなた方に彼らを救うことはできなかったのですから」

 戦争の傷跡。慣れた最短ルートが時折寸断されている道路にまた運転手の溜め息が聞こえてきた。

「ラクスさん。教育や躾は、言葉や態度を媒介にした洗脳ですよ」

 反論はない。彼らの姿を見なかったとしたら……わからないが。

「群生物としてしか生きていけない分際で個としての意志が強すぎるんですよあなた方は。それは完全に個人で全て完結できる存在の思考方法だと私は思います」

 到着した。今から自分は彼女を裁く。その資格があるのか……支配者と祭り上げられるラクス・クラインの胸中に解はなかった……。

 

 

 

 

「追放対象はエヴィデンス%体、そして星流炉搭載型二機とさせていただきます」

「二体? 化石の01は含めないのですか? あなた方は死骸と認識しているかもしれませんが実はさなぎででっかい生物が孵るかもしれませんよ」

「――では追放対象のエヴィデンス≠ヘ三体といたしましょう」

 生物学者や進化論者から凄まじい非難を浴びることになるかもしれないが、世界に知れ渡ってしまった神の存在を彼方へ追い遣る方が先決、何より彼女との言葉遊びにうんざりしていたラクスは即決した。議論したいのはそんなことではない。

「星流炉搭載型は二機。ターミナル≠ゥらの情報では、ルインデスティニー∴ネ外にもう一機、ジエンド≠ネる機体が存在するとのことですが、ジエンド≠フ提示をお願いできますか」

「持って来たいのは山々ですが、蒸発した機体など提示のしようがありません」

「それを信じる理由が、こちらにはありません。軍事力を制限するためにも、逸脱した存在である星流炉搭載型の存在は看過できません」

 当然だろう。ルインデスティニー≠ヘ一機で世界規模のテロを行った。同等の機体が地球圏に残されては対応しきれまい。知性体は他者を騙す。「失われた」などという言葉ではいつまで経っても安心が得られない。

「仰るとおりです。フレデリカさん、お願いします」

 ケースを開けさせたティニは中から数枚のディスクを取り出し差し出してきた。

「ブレイク・ザ・プラネット≠フ処理中、私が管制を引き受けていたのことはご存じかと思われますが。これは火山鎮圧活動の全記録です。量子認証セキュリティトリプルAパスの証明書もおつけしますが…不安でしょうからそっちでチェックはしてみて下さい」

 断りもなくスロットに突き刺したティニはその膨大な映像情報を一気に流し始めた。コンピュータウィルスの可能性に三者が声を上げたがティニの示した映像に直ぐさま意識が引き寄せられる。黒いデスティニー≠ニレジェンド≠ノ酷似した機体が戦闘を始めた映像に凄まじい数のコメントデータが追加される。コーディネイターですら読み取るのに苦労する程の凄まじい量とスクロール速度の中、二つの機体は激突を繰り返した。

「これがジエンド=H レジェンド≠フ再生機じゃないのか――」

 画面の中で五体を弾けさせた常軌を逸した機体構造にイザークが言葉を失う。戦闘は続きやがて黒いデスティニー≠フ掌がジエンド≠フ欠片すら残さず焼き尽くす。超熱量、激衝撃、空間の変異、光波の消失――限定した崩壊空間を無数の数字が示した後、確固として存在していた質量が消失する。尚も映像は続けられるがラクス達はそこから視線を離した。

「如何でしょうか?」

「……解りました。そのデータはこちらで検証の後、追放対象を再提示させて貰います」

 

 

 

 会談に応じたのは少年だった。黒褐色というよりも墨色の肌をもつ少年が一師団にも相当する軍を指揮していたとは驚嘆に値する。

「停戦勧告に応じてくれたこと、感謝する」

「ティニ様からは『私の部隊というわけではないのでご自由に』と言われましたが、武力行使を停止したものを後ろから撃つ趣味はありませんので」

 自分も若輩の身で代表者を務めているプライドもあったが、彼からは自分より優れた点ばかりが目に付く。話を進める程にその思いは強まり、カガリは居たたまれなくなっていった。

「断っておきますが、私は提案を退けるつもりはありません。政権の移譲かあなたの洗脳か。現状維持よりもそのどちらかの方が、世界を正しく導けると確信しています」

「話し合う余地はないと言うことか?」

「先に攻めたのはそちらですからね」

 それは自分の意志とは何の関係もない。そう言った所で彼は納得しないだろう。独断専行する莫迦を抑えきれないことが為政者の責任となってしまう。理不尽だと思う。だが覆せない。

「そんなことではいつまで経っても戦いが終わらないとは、思わないか?」

「思います。ナチュラルもコーディネイターも人類の利益より個人の利益を優先させて考えますからね」

 貴方達はそうではないのか!? 普通の相手ならばそう怒鳴りつけることもできる。だが相手はそうではない。

 カガリは言葉を返せなかった。脇に控えるメイリンは……口を挟む物ではないと胸中で繰り返していたが……結局のところ意見を求められても何も出せないだけである。

 沈黙がしばらく続くと、少年は鼻腔だけで嘆息した見せた。

「話し合いも何も、モビルスーツ越しで充分だったかと」

 飲み物には手を付けないまま席を、立った。まさか待てと言えるはずもない。彼らに差し出せる条件など用意できていないのだから。

「今回は、こちらが折れましょう。物別れ、と言うことで。

 ――どこまで世界というものをまとめ上げられるのか見せてもらいます。あなたに殺された、僕の友人が言ったでしょう? 欲しいのは『結果』。空虚に響くだけの『理想』など実現しなければ寧ろ裏切られたと感じるだけです」

 カガリは、頷いた。彼の頷く気配に刹那怒りが隠ったように感じられ――カガリは戦慄した。

「――ただ我が国にもう一度危害が及ぶようなことがあれば覚悟しておいて下さい。いえ、世界をまとめると豪語する以上、もう一度、『どこか』で似たようなことがありましたら……許しませんよ。他国の内情でも……同じ条件持ってきますから」

「……あぁ。肝に、命じておく」

 彼は……脇を通り過ぎ扉に手をかけながら振り返りもせずに呟いた。

「あなたは、洗脳されるべきナチュラルだ。僕はそう思います。このあとあなたのためとウチに暗殺者を送り込むような奴がいそうですが……そいつがどのような姿になって帰ってくるか想像してみて下さい。

 ……じゃないと、陰湿な虐めがこの世からなくなりません」

 扉の閉じる音がする。張り詰めた空気はまだ部屋に残ったが扉が揺らすと多少緩んだ。カガリは思わず背もたれに全体重を押し付け腹の底から溜息を吐いた。メイリンは直立し、バインダーを小脇に抱えたまま嘆息につき合った。

「お疲れ様でした。代表」

 嘆息に嘆息が上乗せされた。それは自責か、それとも安心か。どちらかによりメイリンの共感は大きく替わる。聞き出す勇気はとてもなかったが。

「わたしは……駄目な代表だな……」

「あぁ…いえ」

 はっきりとそうではないと言えない自分が恨めしいが…自分が上司と思い描ける唯一の女、タリア・グラディス艦長と比べてしまうと見劣りするように思えるのだから仕方がない。あの人はこちらが何も言う前に幾つも幾つも指示を飛ばし間に合わなければ「何やってるの!」だった。その迷いのない指示の数々によって、ほとんど新兵同然の輩が多数を占めていたミネルバ≠ェ地球一周と月の制圧をやってのけた要因の一つではなかったろうか。その分勝手な人だと反発心も生まれはしたが……上司が部下に質問しているよりは良かったのではないかと今は思う。

 アーサー・トライン副長よりはマシだろうか。いや、その比較は、アスハ代表に失礼か。

「洗脳されるべき、か……。努力が、足りないのかな……」

 メイリンは忙殺、と言う言葉を思い出した。人の上に立つ度胸は、自分にはない。だがカガリ・ユラ・アスハは生まれながらにして人生を仕組まれていた部分がある。

 一人取り残されるのは耐えられない。メイリンはオーブを見限ったアスランの後ろ姿に追いつけず、心の底からそう思った。今も、一人放り出されたらどうしたらいいのか解らない。それでも……人の上に立ちたいとは思わなかった。取り残されるのは耐えられない。それでいて頼られすぎては応えきれない。

 丁度良い。その条件の中でしか生きていけない人という存在の弱さに、メイリンは嘆息した。

 

 

 

「では話もまとまったところで、世界の支配者さんにお渡ししたいものがあります」

 ティニが指し示すとディアナとフレデリカが席を立ち、大きなジュラルミンケースを持ち上げ、デスクにのせる。

「ディアナ、もう少し丁寧に」

「筒は丈夫だって」

 開け放たれた一つのケースの中には一抱え近くある金属筒が三本収められていた。銀色の円柱。見た目だけではそれ以上の理解は及ばない。

「これは?」

 中に何かが収められているであろうことは想像できる。その何かは、見るものに不安を掻き立てさせた。

「ウィルスです」

「ウィルス?」

「新型のS2インフルエンザウィルスです」

「……学会に発表された、感染力の強い、発症はほとんどしないと言う――」

 ラクスが呟く内に疑問符だらけだったキラの表情に怒りが浮かぶ。

「まさか毒性を強めて生物兵器として扱うつもりだったとか!?」

「いいえ。これはベクターです」

 ベクター……運び屋?

「このウィルスはイマジネーターとして最低限必要な『理性』を運ぶよう調整されています。まぁ効能や効果範囲は同封のディスクを見てもらえれば理解していただけるかと」

 ティニセル・エヴィデンスが蕩々と語る金属筒の正体、その理解が染み渡るにつれあのラクス・クラインの表情が劇的に変化した。不安感は最悪の形で報われた。いや、最悪をすら通り越す形で、自分達の前に示された。

「ま、待って下さい……これは、つまり……世界を征服する兵器……」

 ばらまく位置に気をつける。ただそれだけで人類を全滅させる生物兵器と言うことなのか!? 人を一人として傷つけることなく、心を皆殺しにする……禁断。

「まさかアルザッヘル≠ノ――」

「いえ。まだこれは地球復興のために一度使っただけで量産体制など整ってはいません。ウィルスはここに持ち込んだものが私達の保有する全てです。アルザッヘル≠ナは外科手術でしか洗脳することはできません。

 責任逃れは、させませんよ」

 信じる要素など何もない。だがイマジネーターとエヴィデンス≠ノ領土的野心など在ろうはずもない以上、否定する材料もない。

 口の中がカラカラに乾いた。

「どうでしょうか。あなたは望まずとも支配者であることを運命づけられた方です。人のあらゆる醜さを目の当たりにしなければならないお立場です。本当に人間に絶望したとき、壊せるものが手元にないと不安でしょう?」

 

 

 呆として宇宙を見る。透明度の高いガラス越しに見る宇宙は肉体はそのままに魂を根こそぎ吸い込んでいきそうな、そんな深さを感じさせた。実際、果てしなく深く果てしなく高く果てしなく広い。壁や景色を前に呆とすれば耽るだけの思いがつらつらと浮かんでくるはずだが深淵は絶えず浮かぶ何かを次から次へと飲んでいった。中身のない思考に退屈したルナマリアが何気なく向けた視線の先では、ワークローダーがアルザッヘル≠ノパネルをはめ込む作業を繰り返している。修復だか補強だか拡張だか判別の付かない作業を行う作業機械は、シンが操っている。通信装置を通じて、ゴトンとパネルが定位置にはまる重々しい音が聞こえてきた。

「お疲れー。そろそろお昼よ。みんな休憩にしない?」

〈わかった。じゃあこれもう一枚はめたらそっち行く〉

 全く男というのはどうして規定時間過ぎて尚働こうとするのだろう? 誰も咎めはしないというのに。人一倍頑張る自分に酔いたいのだろうか……。嘆息しながら管理室を抜け出したルナマリアはシンの操るワークローダーを目指した。お腹が空こうが何だろうが彼を待つ。そんな自分のことをわかって欲しいものである。

「お、頑張ってるじゃないの」

 誰? 目指していたワークローダーに一足先に声をかける男がいた。自分たちより年嵩の……そう、クロと同じくらいではないか。思い出すと痛みを伴うその名を押しやり観察する。男だけではなく、女と子供連れ。家族? ルナマリアは何者かわからぬまま疑問符を並べ続けたが、シンはハッチを開けると彼に向かって手を振っていた。

「お? ネオか!」

「ネオじゃねーって。ムウ・ラ・フラガ! いい加減覚えろよ」

 引っ張り出しかけた外装パネルを元の位置に直したシンはルナマリアのところにまで降りてきた。しばらく首をひねっていたルナマリアだが、徐々に記憶が繋がっていく。シンを連れてきた、アカツキ≠扱っていたパイロットか。髪型が変わっていたため繋がらなかった。隣の女性は……ぼやけた記憶はどんどん過去へとさかのぼり、やがて思い起こされたのはヨーロッパの雪山。グラディス艦長の降伏勧告を有視界通信で断ってきたのは、この女性ではなかったか?

「あ、あなたもしかして、アークエンジェル≠フ艦長さんですか?」

 彼女は困ったように苦笑した。

「ええ。マリュー・ラミアスと申します。あなたは?」

「元ミネルバ¥椛ョのルナマリア・ホークです」

 思わずザフト式の敬礼をとってしまいひどく後悔する。当時を思えば敵同士であり今はザフトを名乗るのはおこがましい脱走兵……。敬礼を崩しかけて固まってしまったがマリューは気にした風もなく、一般人らしい礼を返してきた。

 そんな二人に挟まれて、自分達より小さな子供が一人。ルナマリアはその子にも見覚えがあるような気がしたが……出てこない。繰り返すもどかしさに彼女は子供を見つめながら首を傾げていた。

「この子は、ネオの?」

 それにしては、どちらにも似ていない。

「莫迦言え! そんなのいたらマリューに殺される!」

「わたしが預かっている子なの」

 マリューが促すと、その子ははにかみながらも一歩前に出、あろうことか先程ルナマリアの見せたザフト式の敬礼を返してくる。

「レイ・グラディスです。初めまして」

「グラディス!? ――って、もしかして」

「ええ。タリア・グラディスミネルバ♀ヘ長の息子さんよ」

 言われてルナマリアの胸のつかえがストンと落ちた。言われてみれば目元や髪質などがグラディス艦長そっくり。

「レイって言うのか? 艦長……どんな気分でレイに命令していたんだろ……」

「お前達の後輩だぞ。こいつ先日ザフトのアカデミーに入学したんだよ」

「キラ君、挨拶してたけど、噛んでたわね」

 キラ・ヤマトの名前にシンが顔をしかめるかと思ったが、特に気にした風もなく勝手に話し合うムウとマリューの会話を聞いている。

「あぁ。都合三度だ。アイツにエライさんとかスピーチなんてやらせようというのが間違いなんだよ。

 ――でも、良かったよな」

 ムウがおもむろにレイの頭に手を乗せる。その子は笑顔でムウを見上げた。

「この間までは、軍人なんて無理だったんだよな。感謝感謝だ」

 疑問符を浮かべたシン達の表情を読み取ったのだろう。マリューがレイを指しながら二人に説明してくれた。

「この子、生体肝移植受けて。……半年前くらいかな。ドナーがまだ現れなかったら今年のアカデミー入学なんてしてなかったのよね」

「そっか……良かったな、えと、レイ」

「はい!」

「お母さんのような、白服になるのよねー」

「いや、そ、それはどーなるか解りませんが…、母は…目標です」

「そうか…。おれが言うのも何だけど、がんばれよ。アカデミー、ナイフのフレッドと一騎打ちやらされたらとりあえず実技首席の証らしいから」

 タリア・グラディス艦長の息子を囲んだ楽しげな談笑。ルナマリアの体はそれに加わりながらも、心が一歩離れた場所から見つめようとしていた。会話に加わることなく思いがつらつらとかんでくる――艦長の忘れ形見。彼は半年前に生体肝移植を受けた。今は元気になりザフトに入隊準備中……臓器提供、半年前、ドナー、脳死患者!――

「――いやぁ無職になったって聞いて心配してたが余計なお世話だったようだな。そこの彼女、泣かすんじゃねーぞ」

「アンタこそ。また記憶失ってそこのお姉さん泣かすんじゃねーよ」

 思考が高速回転している間にネオ達はこちらに手を振り離れていく。別れの挨拶がすんだ後にようやく忘我から帰還したルナマリアは一つの可能性を持て余していた。

 その臓器、誰のだ?

「ちょ――」

 ルナマリアは彼らを呼び止めようとしたがシンが乱暴に引き寄せた。

「なによっ!?」

「ルナこそなんだよ。何を聞くつもりだ?」

「それは――」

 冷静になれば、とても聞ける話題ではないと思える。ドナーの情報は秘匿されているだろうから彼は半年前に脳死したモビルスーツのパイロットなど知りもしないかもしれない。それどころかドナーはその男とは全然関係のない者なのかもしれない。何より聞いてどうする? 肝を引きずり出して彼のクローンでも造ろうというのか?

「う……」

「まぁ、気持ちはわかるけどな。アイツ、勝手なことばっかり言って勝ち逃げみたいに逝くなんて……」

 願ったところでどうにもならない。寧ろ彼が知ってしまえば重荷にしか感じないだろう。それでもシンとルナマリアはレイ・グラディスの幸福を祈った。世話になった艦長の分まで、のみならす幸せなど知らないまま壊れ続けたあの男の分まで、と。

 

 

 

 ザフトの手により修復を施され、同時に全ての武装を取り外された宇宙艦アイオーン=B今、後部メインスラスターに併設される形でソーラーセイルを形成するフレキシブルアームが接続される。

「では皆さんごきげんよう。スターゲイザー≠ノ会えましたら、近況報告させていただきます」

 艦の発進は極秘とされた。エヴィデンス02≠ネる巨大生物を隠し通したいが為の極秘であったが、無駄に終わった。エヴィデンス≠ニ言う存在は自由に形相への干渉ができるらしく、市立図書館から連れ出され、艦に乗り込む異生物の姿は――ただの壮年の人間にしか見えなかった。

「馬鹿な奴だ……。やりようによってはここを拠点にすることもできただろうに」

「私達は、所詮は漂流する難民です。国家が移住を認めてくれなかったら国外追放なんですよ」

「ここの人間に感化されすぎだ。法なんぞ我らで作れば良かっただろう」

「ならそうすれば良かったじゃないですか。いつまでも引きこもっていないで」

 ティニはモニタを一つ灯すとクロの私物の一つをセットした。

「あなたも見ますか? はぐれ者の意見ですから、大衆に適応できないものかとは思いますが」

「なんだ?」

 しばしして再生が始まる。録画機器の位置を調節しているのかやたらと揺れる画面の後、クロが困ったような顔でこちらを覗き込んできた。

〈えー…何言えばいいんだ……。 日時、C.E.76の8月1日、午前1時31分。……ティニがつけろと言ったのでビデオ日記なんぞスタートする。

 戦争根絶を成して世界平和を獲得する方法について……まぁ、ラクス・クラインに見逃された分際でもあっちのやってることよりこっちのやってることの方が順調に進んでるとは自負している

 ――けど良いのか? 洗脳しねーで。裏切る、はないと思うが引き金を引く指が鈍る、はあると思うぞ〉

 一月程度は退屈せずに済みそうである。

 旋回したアイオーン≠ェ太陽に背を向けた。円を描く位置に調節されたフレキシブルアームがヴォワチュール・リュミエール<Vステムを作動させ、太陽風を孕んで艦体を押し出す。ゆっくりと――やがて高速に。太陽系外を目指して飛び去っていく闇蒼色の艦のシグナルは、やがて追いきれなくなり消失した。

 太陽系の霊長地位は再びヒトに取り戻される。その未来は次世代と呼べるものなのか? 誰も、答えられずにいる――

 

 

 

「や、やたらと危ないところ登るわね……」

「ファントムペイン≠フ隠れ家だったらしい。見つかるところにあっちゃマズいんだろ」

「…そーよね。前はモビルスーツとか艦で来たわけだし」

「実際歩くと被災地の状況がよくわかるってとこかしら?」

 シンとルナマリア他三名はブレイク・ザ・プラネット≠フ影響で四分割された大陸の、北西側にいた。大陸名は、まだない。

「ねぇシン、ここに、何があるの?」

「………おれが見捨てちまった人が、な」

 シンがここに向かうとどこからか聞きつけたアサギとマユラそしてステラは渋面を浮かべた彼へと是非ともの同行を申し出た。シンの中ではルナマリアと二人で行きたいとの思いがあっても、当のルナマリアが拒まなかった以上断る理由が見つけ出せなかった。彼女たちの見舞いたい理由はもしかしたら自分のそれよりも強いのかもしれないのだから。

「みえた。みんないそげ」

 小柄なステラは跳ねるように瓦礫と土砂の山を越え先行していく。

「こーゆーアスレチック、子供は強いわね。なんでだろ? 重心が低いから?」

「軽いから、崩れる物が少なくて足を取られる確率が低い、とか?」

 なにやら疑問の袋小路に入り込み足を動かすことが疎かになった二人を追い越す。時折ルナマリアに手を貸しつつ盆地外周を乗り越えた彼らの目に、沈み込んだ廃墟が飛び込んでくる。空を見上げ、それから見下ろさざるを得ないこの風景のほぼ中央に位置する建造物の屍はたった今この場に生えたかのように彼女には感じられた。

「……何あれ、基地?」

 シンはただ「行くぞ」と答えた。斜面を滑り降り、手招きするステラの後を追うその先は、以前放棄したときと何も変わらない景色が広がっていた。その時は、自分の周囲にもっとたくさんの人間がいた。今はアルザッヘル≠ノ移り住んだ奴もいる。自分と同じようにこの場に戻ってきた者もいる。それでも歴然としてもう二度と会えない者達もいる。夢を追った代償として命を要求された者達が。

「シン……これは?」

 中に入ってすぐ、朽ち果てた建造物の中心に軍事とはほど遠い神聖さを感じさせるモニュメントがそびえていた。あの時周囲を埋め尽くしていた白い花は全て枯れている。堆積した花の死骸に囲まれより一層罪を認識させるそのモニュメントはシンに涙を流させた。

「シン?」

 のぞき込んでくる彼女から目をそらし、涙の気配をかみつぶす。

「今度は、本当だ。ここに、マユが眠っている……」

 マユ……マユ・アスカ。シンの、妹の名前。ルナマリアははっとした。アイオーン≠ナシンの口から聞いた覚えがある。服従遺伝子にとりつかれ、軍神に妹を殺させてしまったと。

「マユ……ごめんな。おれは、お前の仇を討てなかった……!」

 許せないだろう。

「わたしは……許したよ」

 それはティニに制御されたからなのだろう? そう思いながらも、シンは涙した。救いなど欲しくなかったと言えば嘘になる。慰めなどはね除け修羅道を征く覚悟などあるはずもない。優しげに微笑んで抱きしめてくれたルナマリアに彼は縋り付いた。

「あ、赤いの! ま――」

「はいはい邪魔しちゃダメよステラちゃん」

「うー! いいわァ! 今は静かにさせてあげるから後で思う存分茶化させてもらうかな」

「まだ日は高いけど今日はここに泊まってく? モノスゴイものが見られるかもしれないよ」

「そこまではステラの教育上良くないっしょ」

「おまえ達なにいってる? 離せ」

 三者はそれぞれの面持ちで恋の具現を見つめながら、ライラへの哀悼を思い描いていた。と、静かな霊場をかき乱す乱暴なローターの音が響いてくる。顔を上げれば穴の開いた天井からヘリに施されたマーキングが確認できた。

「オーブ? なんでこんなところに!?」

 かき乱される風から顔をかばいつつシン達は外へ駆け出す。ローターのかき乱す風に花びらの死骸が撒き散らされるのが我慢ならなかった。

「くそっ! 誰だ!」

 思わずヘリ目掛けて拳銃を突き付ける。どんな怒号を吹き上げてもそれ以上の爆音で掻き消す複数のローターが腹立たしい。ホバリング状態を保った状態で、三人が下りてくる。

「待て! シン、撃つな!」

「アスラン!?」

 そう言われても彼らから銃を下ろす理由が見つからない。下りてきたのはアスランとメイリン、そしてカガリ・ユラ・アスハ。シンはカガリを睨み付けたが不思議なことに彼女に対する怒りはそれ程湧いてこなかった。あの時には間接的な家族の仇と感じさせられたというのに。

 寧ろアスランの方が、彼を透かして見せられる分、苛立たしい。

「何か、用ですか!?」

 言葉遣いを正さなければ激しそうな感情。脇で呼び合うルナマリアとメイリンに目をやり心を落ち着けながらアスランへと問いかける。

「いや……俺は……」

「わたし達にも、彼女の冥福を祈らせてくれ」

 歯切れの悪いアスランに変わってカガリが答えた。彼女もまだシンとは話す際に覚悟がいる。そこ覚悟は……望まぬ形で報われた。銃を下ろしたシンは直ぐさま怒りをあらわにした。

「なんだと!? ここは…アンタ達が来るような場所じゃない!」

 かつて家族を殺した者とまだ記憶鮮やかな妹を殺した者、それぞれに最も近い人間が自己満足のために聖域に踏み入ろうなど到底許せることではない。

「シン……俺は、俺達は――」

「おれを洗脳したことに詫びるためか! 自己満足のために、マユまで利用しようってェのか!?」

「違うんだ! 話を聞けシン!」

 そう叫びながらも、違わない。人が謝る理由など自分の心の平安を求める以上の理由があるだろうか。

「俺は――」

「どうせ来るんなら、おれはアスランじゃなくてあいつに来させたかったな。今! ここで! 土下座させてやりたいね!」

 そう言いつつも来たら来たで追い返していた可能性の方が高い。それに気づけない程激昂したシンは――

「シン! やめて! アスランも」

 ルナマリアに肩を掴まれはっと我に返った。戦争など、もうする気はないというのに……。

「解ったよ……」

 納得できないようだったがシンは道を空けた。ルナマリアに促され、アスランとメイリンが奧へと歩いて行くが、カガリだけはシンとすれ違いかけて、止まる。

「お前は、これからどうするんだ?」

「アンタ達の世話にはならない」

「……わたしは、どうすればいい?」

「……おれみたいな人間が生まれないような国を、作れよ。――おれのことを哀れむ暇があったら」

「わかった。色々すまなかった」

 振り返り。アスハの背を視線で追う。その先には、妹が眠っている。ともすれば恋人以上に最愛の妹が。

 何かを差し出されても必ず奪われるような世界はもう嫌だ。世直しの希望を何に求めるべきか? シンはアスハの背中を見つめ続けた。

「お姉ちゃん。月に行くの?」

「ん? あぁ、まあね」

「平和の国……」

「え?」

「この間、統計調査やったんだけど……」

「統計調査? 復興の度合いとか?」

「うん……。まぁ復興はどこも大丈夫くらいになってるんだけど、それとは別に犯罪統計が圧倒的に低いとこってのがあったの」

「……あの国?」

「そう。月と同じ国。まぁ他の人を立てて遠慮ばっかりする気質みたいで、対戦するスポーツ関係が廃れてるみたいだけど」

「あぁ……」

「お姉ちゃん……平和に暮らすには夢や希望って余計なのかな?」

 クロのようなことを、妹が呟いた。

 目の前には枯れ花を纏わされた十字の石碑が聳えている。跪き、祈りながら、ルナマリアはその戦慄を祈りに溶かす。妹の問いに応える術を彼女は持っている。が、あまりに救いがないように感じられ、ルナマリアは黙祷を選んだ。

説明
コレガケツマツ。
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コメント
んでもって、恐怖の夜中仕事は本日で終わり、ようやく一息。次回作はーむかーし書いた奴とか引っ張ってくればー…いや、実はこの種魂が完全に最終回を造り上げられた初作品デスのでこれを超えられる自信がねぇえ! またなんか引っかけたら連絡いたしましょか。その時はまたよろしく(黒帽子)
心の価値を問いまくってきた以上、アレを外しきれず…。魂と肉、現世で動くにはどちらか採れはないわけで…いや多くは物語から受け取って下されば感無量。ドナーもイマジネーターもいや、まぁなんだかスゴイ存在です(黒帽子)
うむ、スタートは8月でしたか…無事終わることができました。特に東方さんには開始当初から痛み入りまくりました。はい続くような終わらせ方微妙でしたが、二次創作である以上彼らの人生を決していくわけにはいかんなぁと思い…。ドナークロについては最初のプロットで決めてはいたんですが…ラスト近づくにつれ何とか別の道を探したりも。(黒帽子)
まだまだ思うことが沢山ありますが、それは胸にしまって置いて・・・さて、次回作はあるんでしょうか?なにやら仕事や周りの環境が慌しいようなので判りませんが、もしあれば楽しみに待っています。最後にもう一度。貴方と、この作品に最大級の賛辞を贈ります。ありがとうございました♪(東方武神)
連載、お疲れ様でした。終わり方がちっと物足りないような感じがしましたが、これはこれで良しとしましょうか。・・・やっぱクロは助からなかったみたいだな。しかし彼の体の一部は今もどこかで誰かの命を繋いでいるのだと思うと、少し感慨深くなります。(東方武神)
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