仮面ライダーEINS 七之巻 来る鬼
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――2011年10月3日 9:12 a.m.

――都市立大学病院

――内科待合室

「雨無さん、雨無一騎さ……え?」

「おっす」

 亜真菜が読み上げた名前は明らかに一般人ではなかった。戦いに身を置いている漢。そして彼女がよく知る……ある意味で学園都市で一番の旧友だ。

「よう、和泉。仕事はどうだ?」

「まあのびのびとやっているけど……まさか院長と知り合いだと思わなかったよ」

「ははっ、つば……内科長と言わないと怒られるか。まあ内科長とも五、六年来の付き合いだよ」

 そう言って診察室に入った一騎を出迎えたのは、ちょうど内科長と呼ばれるにはいい年頃の男性だった。

「よう、一騎!今日も元気にナンパか!?」

「今日もって何ですか。第一毎日パトロールやら授業やらパトロールや生徒指導で暇無しですよ。第一ナンパするくらいなら研究します」

「お前本当に好きだな……研究。あんまり研究ばっかしていると結婚できないぞ。あいつらみたいに」

「誰のことですか。いや、この場合はどっちのことですか?のほうが正しいか」

・・・

・・

 至って正常だった。

都市警察で前線にでる者は一ヶ月に一度定期検診を受ける必要がある。体の隅々といっても過言ではないくらい調べ上げる。学園都市で開発された骨や筋肉などの軟組織の疲労ですら計測できる機器など最先端の機器も使用するほどで、一般のみならずスポーツ界からも高い評価を受けている。

結果は力学的なものが殆どだが信用に値するものだ。

「日高さん、日高仁志さん。健康診断室にお入りください」

「はーい、はいはーいっと」

 一騎は入れ替わりで一人の漢とすれ違った。

その瞬間、一騎はその漢から何かを感じ取り思わず振り返った。感じ取ったのは悪意ではない。むしろ純粋で強力で、しかし優しげなその威圧感は一騎を驚かせた。

「どうした、一騎」

 その漢の背中を眺めていると、後ろから先ほどの内科長から声がかかり我に返る。

「いえ……ちょっと威圧感に近いものを感じまして」

「ライダーとしての勘か?まあお前からの要請となっちゃカルテくらいは渡してやっても良いが……」

「悪意は一切感じませんでしたから必要ないですよ。まあライダーとしての勘ですが」

 

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――2011年10月3日 12:12 p.m.

――学園都市 理系学区 講義棟一階

――大講演堂

「先生、雨無先生」

 ちょうど授業が終了したところだった。授業は冒険学という如何にも怪しい名目だったが、要するに世界の広さを伝えるという授業であった。若気の至りで世界を飛び回った一騎が適任と言うことで、真面目に授業を受けてさえいればほぼオマケで単位がもらえるということもあり大盛況だ。

そんな授業の後、一騎に声をかけたのは授業でよく見る生徒だった。冒険学の授業で目を輝かせているのが印象的だったが、生徒数のこともあり名前を覚えていなかった。

「……君は?」

「医療学部生体力学科の安達明日夢といいます」

 

安達明日夢

ACTER:栩原楽人

 

「ああ、名前が珍しいので記憶しているよ。とても良い名前だ」

「ありがとうございます」

 記憶の糸を引くと彼に関する情報が頭の中に再生され始めた。

現在三回生であり成績態度共に優秀。一騎の研究室に配属希望というところまでたぐり寄せた。

「で、どうしたのかね?」

「あ、はい。実は進路のことで……」

 学園都市に来た以上、就職ではあまり悩む必要はない。大学と企業が研究委託などで密接に繋がっていることもあるが、下手をしなくても学園都市内で就職口が見つかることもあるのだ。

「ふむ。では無碍には出来ないな。幸い研究室はすぐ近くだ。紅茶くらいは飲ませてあげよう」

「あ、けどそろそろお昼ですし」

「何、構わないよ。この時期の三回生を放ってはおけない」

 

 * *

 

――2011年10月3日 12:18 p.m.

――学園都市 理系学区 医療学部 

――一騎の研究室

 明日夢の目の前には机には紅茶とサンドイッチが置かれていた。

「へぇ。お医者さんに?」

 そして目の前の椅子には亜真菜が座っていた。

何故ここにいるのかと言われれば、昼飯をねだりにきたとかかなり不純な理由であったが、カフェAOのサンドイッチにありつけたのを見ると奇襲は成功したらしい。

部屋の主である一騎は晴彦のデスクのモニターを凝視していた。どうやら明日夢に関する成績や進路条件などを閲覧しているらしい。

「ウチの大学じゃ、医師になるには最低でも7年かかるからな」

 日本国内の大学ではかなり異例だが、学園都市において医師になるには学部卒業後に大学院に相当するメディカルスクールに進学する必要がある。

もっとも学園都市は俗に言う"入るのは簡単、出るのは難関"という体質をしており、理系の場合では学部卒業に6年在籍はざらにある。明日夢のようにストレートで三回生になっている例はかなり希有である。

「僕の家は母子家庭で……あまり母さんにお金かけられないというか」

「ハル。奨学金の条件はどうなってた?」

「君が推薦書出したら顔パスじゃない?事務じゃなくて学園長に直接出したら多分一発だよ」

 明日夢が思わず吹き出した。決して紅茶が熱すぎたとか、サンドイッチのハムがベーコンだったとかではない。一騎と晴彦の会話のノリが軽すぎた。

「そんな簡単に……」

「一騎は若いけど学園都市の創始者の一人だからね。それくらいのコネくらいあってもいいじゃない」

「ま、若すぎるせいか客員扱いだがな。君の成績なら来年の試験さえクリアすれば進学できるだろう。幸い医師を目指す生徒への基金がある。それを活かせば金の心配は少なくなるだろう」

 

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――2011年10月3日 13:02 p.m.

――学園都市 理系学区 医療学部 

――一騎の研究室

 様々な書類や助言を明日夢に与えた。

もっとも彼の成績ならばメディカルスクールに進学することはできる。彼の今の学科を考えると臨床工学技士の資格も習得できるので有能な医師になるのは確実だろう。将来有望な生徒の未来に思いを馳せ、一騎はお気に入りの椅子にもたれこんだ。

「先生も大変だね」

 亜真菜はサンドイッチの最後に手を付ける。

「あ、それ俺の!」

 一騎が狙っていた生クリームたっぷりのフルーツサンドだ。一騎は手を伸ばすが亜真菜の口に含まれるのに間に合うはずもなくデスクで肩を落とす。

「くっ、早く仕事に戻りなさい」

「今日は久々のお休みでーす」

「ったく、俺はこれからパトロールだよ」

 よほど悔しかったのか机に突っ伏したまま言葉を絞り出した。

「雨無くん、たまには休みなよ。体をこわしちゃうよ?」

「鍛えてますから」

 再び椅子に深く体を預けたその時、彼の部屋に警報が鳴り響く。

すぐさま晴彦がモニターを確認し、一騎はアインツコマンダーを開いた。

「一騎、理系学区の機械工学部から救援要請!」

「俺には休みってものはないようだな」

 そう言って一騎はすぐそばの壁を押す。そこは隠し扉になっており、都市警察御用達の高機動バイクのガレージに続く通路になっている。

まあ亜真菜には正体がバレている上、それを言いふらすような人ではない。もはや気にする必要はなかった。

「さて、一仕事終わらせてゆっくり休むとしますか」

 

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――2011年10月3日 13:12 p.m.

――学園都市 理系学区 機械工学部 

 一騎がサイレンを鳴り響かせながらバイクを走らせているとあたりに不快音が鳴り響く。形容するのであればグボーであろうか?

戦闘地帯が近いのだろうか。一騎はアインツコマンダーにコードを入力し腰にベルトを召喚する。

 

――変身!!

 

 走りながら光輪に包まれた一騎は、バイクの上で変身を完了させた。

非常用の警報スイッチが押された場所…比較的人通りの少ない路地だった…にたどり着くと、そこには服装も奇抜で雰囲気も邪な二人の男女が佇んでいた。足下には生徒と思われる人が二人。

「安達くん!?」

 先ほど助言を与えた生徒が転がっていた。強く打撃されたものの意識はあるらしい。もう一人の女生徒をかばうような形になっている。

アインツが到着したのを見た二人の男女は、まさしく怪人と呼ぶにふさわしい形容に変化する。

「ちぃ!」

 初めて見るタイプだ。アンプルはおろか特殊な動作も必要としない。

そして目の前の二体が明日夢や女生徒を襲ったのは明確だ。アインツは二人の間に飛び込むように殴りかかる。

『新型かい?』

「ああ、見たことないタイプだ。データの採取を頼む」

 初撃は躱された。

しかし二撃目は男性体の頬に入り大きく後ろにふっ飛ばす。後ろから攻撃を試みていた女性体には、体をひねり裏拳をお見舞いする。そのまま女性体を仕留めるが如く腹にインファイトを行い、最後の一撃と言わんばかりに腰の入った右ストレートで追撃した。

「危ない!」

 その隙に男性体が回復し、アインツの後ろに迫っていた。先ほどの声の主は明日夢だろう。彼に心の底から感謝し、敵の姿を一切見ずにアインツコマンダーを開く。

2――2――2――

 

――超変身!! 

『SPLASHFORM』

 

 宣言と電子音が鳴り響き、アインツドライバーから緑の光輪が飛び出し男性体をふっ飛ばす。光輪が回転によって光球となりその球体が振り払われ緑のスプラッシュフォームが姿を現す。

先ほどダメージを蓄積させた女性体にスプラッシュロッドで殴りかかろうとしたその時、女性体の口から高圧の水流が飛び出してきた。

「水圧カッター!?」

 これに驚いたアインツは横に回転し避けるものの後ろからも水圧カッターが迫っていた。アインツ・スプラッシュフォームの特徴は高機動だ。体勢が整っていなくともかなりのジャンプ力がある。

手頃な壁に向かって跳躍し、三角跳びの要領で再び女性体に迫った。

これに対し女性体は、後ろに大きく跳躍しながら水圧カッターで迎撃を試みる。それをスプラッシュロッドの丁度中央部分で受け止め、攻撃をせずに地面に着地した。

しかし目の前のスプラッシュロッドには異変が起こっている。

「折れたァ!?」

 相当丈夫であるスプラッシュロッドが真ん中から分離していた。一瞬動揺を見せたアインツに二体が吶喊してくる。

「なんてな」

 分離したスプラッシュロッドを双鞭のように扱い、二体の腹に打撃を加える。

「元から真っ二つに割れるのよね、これ」

 ロッドモードからスティックモードに移行させたアインツは右手のスティックを回転させ、再び二体の腹に打撃を与える。

仕留めるのは散々攻撃を重ねた女性体の方からだ。アインツコマンダーを開きコード222を入力する。

 

「ライダービート!」

「RIDERBEAT!!」

 

 左手に電撃のようなエネルギーが走りスティックが光り、連動するように右手のスティックも光る。

そしてスプラッシュフォーム特有の跳躍力を加速度として女性体に一気に迫った。

『一騎!三体目!!』

(三体目!?)

 毛むくじゃら。そう形容するのがいいだろう。視界の隅に入ったのはそんな怪人だ。何らかの液体を発射しているようだが、怪人のなりから見て危ない液体であるのは目に見えていた。

体勢はどうしようもない。体に与えたエネルギーが大きすぎるせいか防御は間に合わない。

(ちぃ!)

 女性体に必殺技をヒットさせる。手応えはあった。すぐさま回避運動に移るが体が思考について行かない。

液体が無防備なアインツに直撃しようした瞬間、赤いタカのような有機物が弾き飛ばしていた。次の瞬間女性体が爆散するがアインツの意識は完全に赤いタカに注目していた。

「へっ?」

「大丈夫?お兄さん」

 

 * BGM:輝(仮面ライダー響鬼より) *

 

「ヒビキさん!?」

「えっ!?」

 声のした方を見た明日夢とアインツは、男性の姿を確認する。明日夢にとっては師匠、そしてアインツにとっては朝交錯したあの男性だった。

「よう、明日夢。久しぶり」

 男性は右手でシュッと独特な敬礼のようなポーズを二人に見せた。

「オオナマズの胃袋か、こりゃ一波乱ありそうだ」

 音叉を取り出した男性は、指でそれを弾きあたりに澄んだ音色を響かせる。その音叉を額に寄せると、彼の額には鬼の形相を備えた石が浮かび上がる。

途端に炎に包まれた男性は、徐々にそのシルエットを変えていく。

 

――破ッ!!

 

ヒビキ/仮面ライダー響鬼

ACTER:細川茂樹

 

 手によって振り払われた炎の中から、黒いボディに赤いラインが走る戦士が現れた。

その姿はアインツにそう思わせるには充分だった。

「仮面・・・ライダー?」

 

Kamen Rider Eins

七之巻 来る鬼

 

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次回予告

――鍛えてますから

 

――水源……プール……海?

 

――俺はヒビキ、よろしく。

 

八之巻 響く魂

 

 * *

 

おまけ:紅茶

亜真菜「雨無くんの研究室は紅茶も置いているんだね」

一騎「俺もハルもコーヒー飲めないからな」

亜真菜「じゃあここに来たら紅茶にありつけるんだね」

一騎「簡単にくるな。これ飲んだら仕事に戻れ」

亜真菜「何これ?」

一騎「カモミールとレモングラスのブレンドだ」

亜真菜「ぶほっ!?」

(※カモニールとレモングラスをブレンドさせると相当渋くなります。よい子は真似にしないように)

 

説明
この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。

執筆について
・隔週スペースになると思います。
・日曜日朝八時半より連載。
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タグ
仮面ライダー 仮面ライダーEINS アインツの世界 TINAMIの世界 

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