そらのおとしもの 二次創作 〜いぬのかえるうち 前編〜
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「お前は何も考えるな。ただ我々の命令に従っていればいい」

 

 

 

 

 

 

 

   〜いぬのかえるうち 前編〜

 

 

 

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「自分の部屋が欲しいだぁ?」

「そうよっ!」

 

 こんにちはっ! アストレアです!

 今日は智樹の奴に日頃から思っていた事をぶつけてやろうと思います!

「イカロス先輩やニンフ先輩は自分の部屋を持ってるのに私だけないでしょ!? 『ふこうへい』だと思わない!?」

 言ってやりました! 最近憶えた言葉も使って言ってやりました!

「今さら何言ってんの? というかアンタは勝手に居座っているだけじゃない」

「ニンフ先輩は黙っててください! これでも私は本気なんです!」

 いつもは言い負かされる私だけど、今日は負けないんだから!

「私がここに泊る時はいっつも茶の間でコタツに入って寝てるんだから! 絶対『びよう』に悪いでしょ!」

「私達エンジェロイドに、そういう事は必要無いと思う…」

「甘いですイカロス先輩! 女の子が『びよう』を気にかけるのはエンジェロイドでも変わらないんです!」

「…そうなんですか、マスター?」

「いや、知らん」

 師匠が言うには、女の子は綺麗になる努力をすべきだそうです。良く分かんないけど師匠が言うからきっとそうなんです。

「とにかく私にも部屋をちょうだい! もうコタツは飽きたの!」

「真冬の間は完全に占領してたくせに… まあいいか、ついて来い」

「えっ?」

 あれ? こんなにあっさり?

「な、なーんだ。準備してるなら早く言ってよねー」

 なんだ、智樹も分かってるじゃない。そうよ、こいつはもう少し私の扱いを大切にするべきなのよ。

 …あれ? 部屋に案内されてるハズなのになんで庭に出てくるんだろう?

「これがお前の部屋だッ!」

 そこにあったのは簡単に言うと、ボロっちい犬小屋、なわけで。

 唖然としている私をよそに、智樹は小屋に『アス公』というネームプレートを付けて―

 

「ほーらアストレア、ハウスだ!」

 

「死ねバカァァァァ!」

 爽やかな笑顔で命令する智樹を超振動光子剣(クリュサオル)で打ち飛ばす。飛んでった智樹は夜空の星になった。

「はぁ、はぁ…」

「ま、これはトモキが悪いわねー」

「マスターなら、きっと大丈夫」

 庭に出てきた先輩達も智樹の飛んでった方を見え上げて気楽に呟きました。

「うう、こんなのってないわ…」

 いくらなんでも犬小屋って。犬って。

 なに? あいつにとって私は犬並みって事? ペットなの?

「トモキなりの冗談でしょ。いちいち本気にしないの」

「きっと準備が出来てなかったら、誤魔化しただけ。アストレア、ファイト」

「うう、ありがとうございます先輩」

 やっぱり先輩達は優しいなぁ。この人達の後輩で良かった。

「ところでデルタ?」

「はい?」

「トモキに何してんのよこのお馬鹿!!」

「マスターに何かあったら許さない。前にそう言ったよね、アストレア?」

「ええぇぇぇぇぇ!?」

 突然怒り出す先輩達。

「ご、ごめんなさ〜い!」

 それが怖くて逃げ出す私。やっぱり先輩達は怖いなぁ。この人達の後輩になるんじゃなかったなぁ。

 

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「うう、さぶい〜」

 久しぶりに河原に戻って夜を過ごすんだけど、やっぱりまだ朝晩は寒い。最近はサバイバル生活から遠ざかっていたから、余計に辛く感じる。

「晩ごはんも何とかしないと…」

 こんな事ならごはんを食べてから切り出せば良かったなぁ。

「あ、そうだ。ニンフ先輩のおやつがあったんだっけ」

 実はこっそり盗んだんだけど、あれだけ沢山あったからいいよね?

「たしかポケットに〜 …あれ?」

 無い!? 確かにチョコクッキーをここに入れたハズなのに!

 

 ハフッ! ハフッ!

 

「ああっ!?」

 私のクッキーが犬に食べられてる!?

「ちょっと返しなさいよ…って!」

 クッキーを食べきったその犬は私を見て嬉しそうにしっぽを振っていました。

「わ、私のおやつ〜」

 がっくりと膝をついた私を不思議そうに見つめる犬。

 それにしても結構大きい犬だなぁ。師匠の犬はがっしりとした感じだけど、この子は細くて引き締まっているというか。

 それに白い毛並みはすっごい綺麗で、目がとっても優しい感じがする。

「…って和んでどうするのよっ!」

 いけない! こいつは泥棒犬だった! ここはちゃんと成敗しないと!

「私のおやつと晩ごはんの仇! 討たせてもらうわよ!」

 超振動光子剣(クリュサオル)をつきつけても首をかしげるだけの白い犬。うう、なんか私の方が悪い事しようとしてるみたいじゃない。

「ワンッ!」

「まさかあんた、まだ足りないっていうの?」

 もう私にも食べる物は無いわけで。でもこの犬は期待に満ちた眼差しを私に向けるわけで。

「ワンッ!」

「ああもう! 分かったわよ!」

 結局、私はこの犬を追い払う事ができませんでした。

 

 

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「演算能力でベータに及ばない事はいざ知らず、戦闘能力でさえアルファーに敵わないとはな」

 

 

「やはりお前は『無能』だな、デルタ」

 

 

 

 

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「その犬には帰ってもらいなさい」

 家に帰ると、やっぱり智樹は怒っていた。

「いや、その、ぶっ飛ばした事は悪かったわよ? でもこの子には関係ないでしょ?」

 私の足元にはさっきから嬉しそうに尻尾をふる白犬がいる。できれば無邪気なこの子の期待を裏切るという事はしたくない。

「ぶっ飛ばされた件はもういい。俺が怒ってるのは別の理由だ」

「それってなんなのよ?」

「…説明してやるからとっとと入れ。まだ外は寒いだろ」

 

 私が茶の間に入ると、白犬もてくてくとついて来た。

 その後ろから犬の足跡を雑巾がけをしながらついてくるイカロス先輩。…ってこの子土足じゃない!

「ああ! すみませんイカロス先輩!」

「…いい。その代わりに」

「ワフッ!?」

 イカロス先輩はいきなり白犬に抱きついて頬ずりし始めた。白犬の方も最初は驚いていたけど、すぐにされるがままになった。

「………スイカとは違う感触。でも、良いかもしれない」

「あ! ズルイわよアルファー! 私も混ぜなさいよ!」

 ニンフ先輩まで抱きついてもふもふし始めたし。大人気ね、この白犬。

「お前ら… まあいい、座れアストレア」

「あ、うん」

 先輩達と白犬をほっといて座布団に座る。

「あの犬、人に懐きすぎてる。たぶん飼い犬だろうな」

「そうなの?」

「で、餌をもらったお前に懐き始めてるんだ」

 うーん、どっちかというと餌をあげたというより獲られたって感じなんだけど。

「このままだと、こいつはお前についていくだろう。お前、ちゃんと面倒みれるか?」

「う、わかんない」

 私は犬の飼い方なんて知らない。餌だってあげられないからここに来たわけで。

「…それに飼い主もいるハズだ。向こうは捜してるかもしれない。その時、お前はちゃんと返してやれるか?」

「………できるわよ、多分」

 そりゃ愛敬があるやつだけど、飼い主がいるなら返してあげなくちゃいけないし。

「今はできるかもしれないけどな。でも愛着がわいたらできなくなるぞ?」

「できるって言ってるでしょ!」

「今すっげー自身なさそうだったじゃねぇか!」

 智樹の奴、なんかすっごいムキになってる。…私もだけど。

 

「マスター、この子、追い出してしまうんですか?」

「…う。あの、イカロス?」

 あ、イカロス先輩がすっごく切なそう。

「別にいいじゃない。私も面倒みるから。ね、トモキ?」

 うわー、ニンフ先輩ってば幸せそうな顔してるなぁ。そんなにあの子の毛並みが気持ち良かったの?

「ニンフお前、俺の話を聞いてたか?」

「ごめん、もふもふに夢中で聞いてなかった♪」

「右に、同じです」

「お前ら…」

 頭を抱えた智樹はちらっと私を見た。

「お前はどうなんだ?」

「…飼うっ!」

 ちょっと迷ったけど、やっぱりこの子を捨てておくなんて出来なかった。

「はぁ、わかったよ。ちゃんとお前ら全員で面倒みろよ?」

「やったぁ!」

 ため息まじりに智樹はこの子を迎えてくれた。なんだかんだ言っても優しいのよね。

 

「じゃあ一応の名前を付けてやらないとなぁ」

「…それでしたら」

 智樹の呟きに、イカロス先輩は小さな紙の筒を差し出しました。

「この子の首にかけられていたものです」

「やっぱ飼い犬か… どれどれ」

 筒から紙を出して皆で読む……………読めない。なんか涙が出てきた。今ほど自分のバカさ加減が憎いと思った事は無かった。そんな私をほっといて皆は首をかしげました。

「天照(あまてらす)?」

 ニンフ先輩だけがその字を読む事ができました。当然なんだけどなんか悔しい。

「なんか大層な名前だなぁ。挿絵まであるぞ」

 二枚目には凄い綺麗な絵でこの子が書かれていた。…あれ?

「すっごい脚色してるわね。体に赤い模様とかあるわよ」

「…背中に鏡を背負ってる。重たそう」

 先輩達の言う通り、なんかこの子の絵にはごちゃごちゃと変なのがくっついていた。

「そうか。こいつ…」

 智樹は何かに気付いたみたいで、すっごい真面目な顔をしている。

 

 

「飼い主が厨二病なんだッ!」

 

 

 結局、この子の名前は『アマテラス』の最初をとって『アマ公』になりました。

「おい! なんで皆して全力スルーなんだよ!」

 こうしてアマ公は私達の家の一員になったのでした。

 

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「よし、こんなもんか」

「ワンッ!」

 次の日、私は智樹と一緒にアマ公の家を直していました。そう、昨日智樹が私の部屋だと言ったあれです。

 ネームプレートも『アス公』から『アマ公』にちゃんと変えました。

「そういえば、なんでこんなの持ってたの?」

「…ああ、昔じいちゃんが犬を飼っててな」

「ふぅん…」

 智樹は少し懐かしそうな顔をしていました。

「それより、今のアマ公の飼い主はお前なんだからな。ちゃんと世話してやるんだぞ」

「当然よ!」

「ワンッ!」

 私の答えにアマ公も嬉しそうにしっぽを振っています。

「その根拠のない自信はどっから来るんだよ…」

「ふっふっふ。私には『秘策』があるのよ!」

 また新しい単語を使って言ってやりました。最近の私ってば賢くなってると思います。

 

 

 

「そこで私に相談する辺り、アストレアちゃんもまだまだね〜」

「はうっ!」

「ワンッ!」

 その日のお昼過ぎ、いつもの河原で師匠に叱られました。

 犬の飼い方を聞いただけなのになんで怒られるんだろう。犬を飼っている師匠なら詳しいと思ったんだけど。

 ちなみにそのアマ公は師匠の犬とじゃれ合ってる。やっぱり犬同士は仲が良いなぁ。

「そこは桜井くんと一緒に色々してフラグを立てる所なのよ〜」

「ふらぐってなんですか?」

「要するに仲良くする事よ〜」

「仲良く、ですか? いつもそうだと思うんですけど」

 スケベなアイツと喧嘩する時もあるけど、別に今はしてないし。アイツとはそれなりに良い友達なわけで。

 

 …そりゃ私だって友達ってだけだとちょっと物足りないというか、なんというか。

 

「…やるわねアストレアちゃん。会長、少しあなたの事を甘く見ていたわ〜」

「はぁ」

 あ、私がちょっと考え事してる間に師匠が頭を抱えそうになってる。

「美香子、アストレア。少しいいか?」

「あら守形くん。なにかしら〜」

 今まで釣りをしていたスガタが私達に話しかけてきました。

 ここの河原はスガタの家みたいなものだし、師匠とはとっても仲が良いんです。

「その犬、アマテラスといったか?」

「ええ、そうよ!」

 スガタにもアマ公の名前と絵が描かれた紙を渡します。ちゃんと飼い主を捜さないといけないからと智樹に渡されたものです。

「これは…」

「…まぁ〜」

 絵の方を見てスガタと師匠はちょっとだけ驚きの声をあげました。

 

 

 

「天照大神(あまてらすおおみかみ)とは、日本神話に登場する神だ」

 私と師匠はスガタに連れられて、大桜のふもとにある小さな建物(師匠が言うには『祠』というらしい)に来ていました。スガタによると、ここは昔に神様を祭っていた所だそうです。…祭るってよく分かんないから、あとで師匠に聞いてみよう。

「太陽を神格化した神であり複数の名前を持っているが、一般には『アマテラス』という呼び方が定着しつつある」

「はへぇ…」

「アストレアちゃん、寝ちゃ駄目よ〜」

「は、はいっ!」

 あぶないあぶない。スガタの話は難しくてついていけない時があるのよね。

「女神という説が有力だが、男神という説も根強い。まつわる逸話は絶えないが、どれも神として最上位に位置する存在として描かれている」

「へぇ、アンタ女の子だったの?」

「ワンッ!」

「あくまでそういう話もあるという事よ〜。それよりもアストレアちゃんの関心はそっちなのね〜」

「そりゃそうですよー」

 だって神様とかよく分かんないし。

「神様ってそんなに凄いんですか?」

「ああ。神は人間に無い力を持っていて、その力で願いを叶える時もあれば、困らせる時もある」

「おおー、なんか凄いんですね。ねえアマ公、あんたおむすびとかぱぱっと出せない?」

「ワゥ?」

 アマ公は首をかしげるだけでした。

「さすがに要約しすぎじゃないかしら〜」

「そうか? アストレアにはこれくらいの説明が妥当だろう」

「はぁ…?」

 私とアマ公を見比べて納得した感じで頷く師匠とスガタ。良く分からないけど褒められてはないみたいです。

「かの大神の名前を犬に与えるとは随分と大胆な飼い主だ。是非会ってみたいものだな」

「私達も協力するから頑張って捜しましょう〜」

「はいっ!」

「ワンッ!」

 

 

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「変な事考えないでよデルタ。アンタは『無能』なんだから、私達の言う事を聞いていればいいのよ」

 

「本当、なにが近接戦闘用よ。私達のような要撃用の方がよっぽど優秀なんだから」

 

 

 

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 アマ公が家の一員になってからちょっとした騒動もありましたけど、だいたいはいつもの日常です。

 その模様を『ダイジェスト』で紹介します。…やった、また新しい単語を使えたわ!

 

 

「ワンッ! ワンッ!」

「………」

「ああぁっ! アマ公がイカロス先輩のスイカ畑を荒らしてる!?」

「見て! あのアルファーがスイカに関する事での怒りを堪えているわ!」

「…アマ公は、悪くない。悪いのは、飼い主の、しつけ」

「へっ?」

「アストレア、飼い主としての責任を、とって」

 当然ですが、この後で私は酷い目にあいました。

 

 

「ハフッ! ハフッ!」

「………(プルプル)」

「あっ! アマ公がニンフ先輩のリンゴアメを食べてるっ!」

「凄い、あのニンフが、怒らない」

「…アマ公は悪くないわ。悪いのは飼い主のしつけよね」

「はぃ?」

「デルタ。ちょっとこっち来なさい」

 納得いきませんが、この後で私は酷い目にあいました。

 

 

「ワンッ!」

「お、俺のエロ本に小便しやがったな!! アマ公てめぇ!!」」

「別に一つくらい良いじゃない」

「…飼い主のお前も同罪だぞ、アストレア!」

「え…?」

 智樹にまで酷い目にあわされました。

 

 

 スガタは凄い神様とか言ってたけど、アマ公って絶対に違うと思う。

 師匠に聞いたら「実は疫病神なのかしら〜?」って言われました。やくびょうがみってなんだろう?

 

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「はぁ。見つかんないわね、あんたの飼い主」

「ワンッ!」

 町内は捜しつくしてしまった感があるので、今日は学校の休みを使って皆で都会に出てきました。

 皆で分担して行動し、私はアマ公と一緒です。あーあ、智樹と一緒の先輩達がうらやましいな。

「あんたが本当に神様だったとしたら、飼い主なんていないのかも…ってこらー!」

 ちょっと目を離した隙に知らない女の子からお菓子を貰っているアマ公。この子には怖い物がないのかしら。

「あらあら、そんなに急がなくても無くなりはしませんわ…ってあなたは!?」

 あれ? どこかで会ったような、ないような。思い出せないなぁ。

「えーっと、どちら様でしたっけ?」

「鳳凰院=キング=月乃ですわ。まったく先輩共々失礼な子ですわね」

「…ああ! あの時の!」

 確か文化祭の時に会ったんだっけ。

 あれ? でもあの時確かニンフ先輩が… あれ? あれ? なんか思いだしてはいけない事を思い出しそうな気が…

「それにしても、この犬の飼い主は貴女でしたの? 迷惑ですからさっさと連れ帰ってくださる?」

「えー? なんか楽しそうだったと思うんですけど」

「だ、黙りなさい!」

 怒ったり照れたり、忙しい人だなぁ。

「フン、これだからお馬鹿で無能な公立の生徒は…」

 

 

 

『おまえは無能だな、デルタ』

 

 

 

「ち、違うもん」

 やだ、なんでこんな事を思いだすんだろ。もう昔の事なのに。

「あら? 図星ですの? 無能な貴女でもその程度の自覚はあるんですのね?」

 

 

 

『無能なあんたが考えるなんて無駄なのよ。黙ってマスターに従いなさいな』

『そうね、無能なんだからそれくらいはしてもらわないとねぇ』

 

 

 

「違うもん! 私は、私は!」

 意地悪に歪むツキノさんの顔が、嫌な事を思い出せる。

 いやだ。せっかく忘れていたんから、忘れたままでいさせてよ。

「ホーホッホッホ! 違いませんわ、あなた方公立の生徒はお馬鹿で無能な負け組ですのよ!」

 

 

 

『この無能め。いっそお前も廃棄―

 

 

 

 ワンッ!

 

 

 

「アマ、公?」

 気がつくと、アマ公が私とツキノさんの間に割って入っていた。

「あらまあ、飼い主をかばうんですの? なかなか殊勝な犬ですわね」

「ウー…ッ!」

 あのアマ公が、怒ってる? なんで?

「ですが飼い主を惨めにするだけですわよ? やっぱりあなたも無能な負け犬―」

 

「惨めなのは、てめぇだよ」

 

「!? ミ、ミスター桜井ではありませんの。…ところで、今何とおっしゃいました?」

 智樹? なんであんたがここにいるの?

「惨めだって言ったんだよ。お前がな」

 あれ? なんでアンタまで怒ってるのよ?

「失礼な人ですわね。私のどこが惨めなんですの? こっちの低俗で無能な子の方がよっぽど―」

「こいつは、アストレアは無能なんかじゃねぇッ!」

 

 

 

「ただの大馬鹿だッ!」

 

 

 

 ………うん。これは私も怒っていいよね?

「誰が大馬鹿よこのバカっ!」

「うるせー! いちいち落ち込んでんじゃねぇよバーカ!」

「ワンッ! ワンッ!」

「痛てぇ! こらアマ公! 噛みつく相手を間違えてねぇか!?」

 嫌な事は、もう頭から抜け落ちていた。やっぱり私ってバカだな。こんな事で忘れちゃうんだから。

「…興がそがれましたわ。せいぜいその負け犬さん達と仲良くしたらいいですわ、ミスター桜井」

「…言われなくてもそうするっての」

 ツキノさんが立ち去っていく。その後ろ姿はちょっと寂しそうだった。

「あの、さ」

「なんだよ」

「あ、ありがとね。ちょっと嫌な事思いだしちゃってさ」

「気にすんなよ。俺は思った事を言っただけだ」

 

 やっぱり、私は智樹が好き。

 ぶっきらぼうだけど本当はとても優しいこいつが好き。

 

「ほら、さっさと行こうぜ。アマ公の飼い主、捜すんだろ?」

「うんっ!」

 

 

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 アマテラスは気づいていた。

 羽を持つ少女の心が上げていた悲鳴を、あの少年は聞き逃さなかった事を。

「あ、そういえば先輩達は?」

「そはらがついてるから問題ねぇよ。考えてみればお前らだけって方が不安だしな」

 少女を傷つけた者への怒りを必死に呑みこみ、おどけてその場を収めようとしていた事を。

「なによ、信用ないわね」

「じゃあここがどこだか分かるか?」

「…ごめん、わかんない」

 この世界にも、心優しき人々がいる。

 

 大いなる神が頬笑みを浮かべている事に智樹とアストレアは気づいていなかった。

 

 

 

 

 黒い影は気づいていた。

 羽を持つ少女を傷つけた少女もまた、傷ついていた事を。

「…面白くありませんわ」

 親愛する兄がうつつを抜かし、その関係者が幸せそうにしている事に苛立っていた事を。

 それは嫉妬という感情がもっとも的確な表現なのだろう。

「あんな、無能で低俗な輩に憐れまれるなんて…!」

 この世界にも、心卑しき人々がいる。

 

 妖しの蛇が嘲笑を浮かべている事に月乃は気づいていなかった。

 

 

 

 後編に続く

説明
『そらのおとしもの』の二次創作になります。
今回の目標は二点。

1.アストレアをヒロインにして真面目な話を書く。一部の方からは世の法則に反するとか言われそうですが、これも挑戦という事で。
2.他作品とのクロスオーバーをする。これは以前からやってみたかった事なので。そらおと勢の出番を尊重しつつ、肝心な所はしっかりとゲストに活躍させる事を目標に。せめて某わんこ神ファンの方々から怒られない程度にはしたいなと。
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コメント
枡久野恭(ますくのきょー)様へ 全くもって困ったものです。アストレアさんはおバカですがそこが可愛いという方も多いので、できるだけそれを活かせる様にしてみました。目指せ不遇キャラ脱却です。…こんな話は今回限りかもしれませんけど。(tk)
アストレアさんが健気で可愛いですな。まったく、アストレアさんがラストで大空に笑顔でキメていないと偽者だなんて広めている奴は許せませんな(枡久野恭(ますくのきょー))
BLACK様へ ご指摘ありがとうございます。さっそく訂正させていただきました。 オチの場面でハウスを誤字ったのが痛いなぁ。 アマテラスの戦闘については後編をお待ちください。(tk)
2p目「ハウス」のはずが「ハスウ」になってますよ。それと細かい事ですが、アストレアは智樹と呼んでますよ。名前でほとんどないから気付きにくいけど・・・。しかし天照ですか。マーヴルVSカプコン3に出てますけど、使ってませんね。ところでこの天照、やっぱり戦闘能力あるんですか?(BLACK)
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