そらのおとしもの二次創作ショートストーリー ラブストーリー
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そらのおとしもの二次創作ショートストーリー ラブストーリー

 

「ねえ、智ちゃん。一緒に映画行かない?」

 春が訪れを告げた4月のとある暖かい日の放課後、私は智ちゃんを映画に誘った。

「映画? 何でまた?」

 智ちゃんは渋い顔をして消極的な反応をしてみせる。

 智ちゃんは女の子の体には興味津々だけど、女の子からの誘いには結構淡白な方だったりする。

 デートのお誘いをしても応じてくれないなんて日常茶飯事。

 でもそんなことで諦めていては智ちゃん争奪戦には勝ち残れない。

 だから智ちゃんが誘いに応じ易いように更に工作が必要になってくる。

「おじさんから映画のチケットを2枚もらったの。だから一緒に行こうよ」

 本当は私がデート用に自分で準備したチケット。

 だけど私が買ったなんて言ってしまうと、借りを作るのはどうとか始まって智ちゃんが一緒に行かなくなる可能性が高くなる。

 だから智ちゃんにはできるだけ負担がないことをアピールしないといけない。

 デートするのにここまで気を使わなくちゃいけないなんて、ほんと智ちゃんったら、智ちゃんなんだから。

 だけど相手はエンジェロイドの超美少女たちを惹き付けて止まない鈍感ハーレム王。手をこまねいていたら私に勝機はない。

「そうか。そういうことなら一緒に行くか」

「うん♪」

 きっと智ちゃんは何とも思っていないのだと思う。

 女の子と2人きりで映画に行くのにデートだと思わないのだろうな。

 私のこと、一緒に映画に行く友達がいない寂しい女ぐらいにしか考えてないのかもしれない。

 だけど、それは智ちゃんにとっての話。

 私にとって智ちゃんと2人きりの映画鑑賞は紛れもないデート。

 智ちゃんとの素敵な思い出を作る大事な一時。

 

「で、今日見るのは何て映画なんだ?」

 智ちゃんと2人、電車に乗って大都市に向かう。

 せっかくのデートなのだから大きくて綺麗な映画館で見たい。

 だから時間は掛かるけど街の映画館のチケットを準備しておいた。

「『豪デレ美少女 凪原そら』っていう、有名なパンツ作家の漫画を実写化したラブストーリーね」

「豪そら? 聞いたことない作品だな」

 実はこの作品については私も全然知らない。

 他に上映している作品がハリウッドのアクション映画だったり子供向けアニメだったりした。

でもデートだったらやはりラブストーリーと思い、前売り券をとりあえず買ってみた。

「そらのおとしものOO(ダブルオー)劇場版が延期になっちまったからな。他の作品はノーチェックだった」

「実は私もなの」

 そらのおとしものOO劇場版はこの春最大の話題作になると騒がれていた。

 フラレテルビーイングの蜂起から1年。再び近づいてきたバレンタインデー。しかし、その日が近づくにつれ空美学園では1年前に死んだ筈の桜井智樹の幽霊が現れたと騒がれるようになる。それとほぼ時を同じくしてエンジェロイドたちはシナプスからの通信が一切途絶えてしまっていることを知る。果たしてシナプスで何が起きたのか? 智子たちに待ち受ける運命とは一体?

 そういった内容の作品らしい。だけど、公開を2ヵ月後に控えた段階で突如上映は延期されることになってしまった。

「何が起きたんだろうな?」

「何でも配役に変更があったらしいわよ。あすとれあが2代目Missカラテドーになったとかソハラがツインドライブを搭載したとか、サクライトモキはその辺歩いているエキストラで済ますとか」

 映画の世界のことはわからないけれど、きっとお金が絡んだ話なのだと思う。

「何でテレビシリーズの時の主役がその辺のエキストラで済まされちまうんだよ!」

「そんなこと私に言われても……」

 私に理不尽な怒りをぶつけて来る智ちゃんはやっぱり智ちゃんなんだと思う。

 こんな子供っぽい人をどうして好きになっちゃったのかなと自分でも不思議。

 だけど、それでも好きなのだからこの好きは本物なのだとも思う。

「……そういえば2人きりで電車に乗るのも久しぶりだよね」

 遠足は家に帰るまでが遠足。デートだって、映画見るだけがデートじゃなくて、映画館に行く所から、家に帰るまでがデート。

「そういやそうだな。最近は出かける時はいつも未確認生物ズと一緒だもんな」

 みんなで出掛けるのは嫌いじゃない。

 でも、たまには2人きりで出掛けてみたい気分になる。

 だって、私は正真正銘の恋する乙女なのだから。

「たまには、2人きりも良いよね……」

「そうだな。静かでいられるからな」

 ……智ちゃんたらっ、ほんと智ちゃんなんだから。

 

 映画館は、劇場自体が一種の魔術装置だと言われている。

 暗く閉ざされた空間は一時だけとはいえ別世界を作り出す。そして人々はその別世界に映し出された映像に自己を重ね、投影し、酔いしれ、日常とは違う時間を経験する。

 薄暗い世界の中、智ちゃんと横に並んで別世界へと入っていく。

 

 

     豪デレ美少女 凪原そら

 

 僕の名前は山川将太 高校1年生

 のっけからいきなりなんだが 僕は二次元が大好きだ

 原色だらけの色が好きだ 宝石のような瞳が好きだ

 とにかく二次元を愛してる むしろ誇ってさえいる

 そんな僕は最近恋をした──もちろん二次元だが

 「たま×キス」の凪原そら  ……素敵だ

 こんな娘が…… そばにいてくれたらな……

 

『えっ?』

 

 ……ゆ……夢でも見ているのか……?

 凪原そらが……僕の目の前に!?

 

『私は貴様に聞きたいことがあったからわざわざこちらの世界まできたのだ』

『僕に聞きたいこと?』

『いや…いい男が昼間からネコ耳だの萌えだの二次元の女ばかり眺めて…何がそんなに楽しいのかとおもってな?』

『……僕にとって二次元の女の子は「理想」なんだ』

『どこまでも理想の女を追い求めるか……何たる漢気……さてはお主、いずれ世界を制する者とみた』

『は?』

『ホラ!! 「英雄色を好む」と言うであろう!? お前のその限りない性欲はその証じゃ!! となると私は世界覇者の側室となるわけか。フム、悪くない』

『側室って……ちょ、まさかここに住み着く気じゃ……』

『おおそうじゃ! 側室が私1人じゃその余りある性欲を持て余すじゃろう? よし! 手みやげ代わりに捕まえてくるわ!!』

 

 ……捕まえて……くる?

 

『はっはっは。たーんと召し上がれ』

『『『いやぁあああああぁ。たすけてぇえええぇっ!』』』

『では私、しばらく外に出ておりますゆえ。これからよろしくお願いしますな、殿!!』

『『『おうちに帰してぇえええぇ』』』

 

 こうして「凪原そら」は家に住み付いた

 あと俺……逮捕された

 

『もうすんじゃねえぞコラァッ! 警察ナメんなよコラァッ!』

『はい……』

 

 ……帰ってもらおう。二次元の国へ

 

 

 

「すごい、映画だったわね……」

 映画館を出て、智ちゃんと先ほどの作品の感想を話す。

 私は今の映画にカルチャーショックを受けて体がよろめいてしまっている。

 そんな私に対し智ちゃんはさり気なく自分の体を壁にして倒れないように支えてくれる。

 智ちゃんの優しさはいつもこんな風にさり気ない。でも自分が大事にされているんだなって思えてとても嬉しくなる。

 まあ智ちゃんの場合は、さり気ない優しさよりも明確な下心とか子供っぽさがもっとよく見えてしまうのが問題なのだけど。

「作品の内容を100%全裸とおっぱいで表現できる一般向け映画なんて初めてだったぞ」

 エッチな展開が大好きな智ちゃんもあの映画の内容にはさすがに驚いたようだった。

「智ちゃんの日常と何一つ変わらないよね……」

 智ちゃんのいつも通りの生活を観察して作ったんじゃないかと思うぐらいにエッチなシーンと男の裸に溢れていた。よく年齢制限が付かなかったものだと思う。

「で、あの作品のどこがラブストーリーだったんだ?」

「それは私が知りたいよ」

 映画にラブの要素がなかった訳じゃない。

 あの凪原そらって二次元から出て来た猫耳の女の子、それから鏑木亮子って寮長で幼馴染の子、それから腐苦王火(ふくおか)拳闘部の諸岡天花って女の子は主人公の将太って男の子に明らかに恋していた。

 だけど男の子は二次元の女の子、つまり空想の世界に夢中で女の子たちの気持ちに少しも気付かない。結局、あれだけ女の子たちを惹き付けていたのに自分では最後まで気付かなかった。

 ほんと、智ちゃんの日常まんまの物語。

「もし、智ちゃんが主人公の物語があったら、それをラブストーリーと呼ぶのかなっていうのと同じ問題だと思うよ」

「俺の日常のどこにラブストーリー要素の欠片でもあるってんだよ?」

「智ちゃんは智ちゃんだからラブストーリーにならないんだろうね」

「何だそりゃ?」

 確かにまだ智ちゃんのラブストーリーは始まっていない。

 だけど、智ちゃんのラブストーリーは存在しないんじゃない。本人が気付いていないだけ。

 だから、私が気付かせてあげたい。

 智ちゃんはラブストーリーの主人公になれる存在だってことに。

「ねえ、智ちゃんはラブストーリーの主人公になってみたい?」

 智ちゃんの顔を見つめながら意思を確認する。

「そりゃあまあ俺だって女の子と恋してみたいとは思うけどな。けど、相手がいないんじゃなあ……」

 渋い顔を見せる智ちゃん。

「じゃあ、相手さえいればラブストーリーしても良いんだ?」

「まあ、相手さえいればな。そんなのどこにもいそうにないけどな……」

 軽く溜め息を吐く智ちゃん。自分のことを好いてくれる女の子なんて世界のどこにもいないと信じきっている瞳。

 でも、そんなのはただの思い込み。

 だから私がその幻想から解き放ってあげる。

「智ちゃんにラブストーリーをさせてあげるね」

「えっ?」

 言葉と共に不意打ちで顔と顔をくっ付ける。

 重なる唇と唇。

 伝わる智ちゃんの唇の感触。

 生まれて初めての、感触。

「そはら、おまっ、突然一体何を……」

 智ちゃんが私の顔から離れながら仰け反る。

「私が智ちゃんのラブストーリーのヒロイン役じゃ、ダメ、かな?」

 智ちゃんの顔をもう1度間近で覗き込む。

「ダメ、じゃねえけどよ……」

 智ちゃんは戸惑っているのか俯いている。

 イエスでもノーでもない答え。

 だけど、私はイエスになって欲しい。

 なって欲しいからもっと頑張ってみる。

 今日の私は、いつもより大胆。

「ダメじゃないのなら……私と智ちゃんのラブストーリーをこれから作ろうよ……」

 私はそう言ってもう1度智ちゃんと唇を重ねた。

 映画はラブストーリー未満で終わっていた。

 だからこそ私の恋はラブストーリー未満で終わらせたくない。

「あのなぁ、女の方から2度もキスしてきたら、男の俺の立場がないだろうが」

 智ちゃんがふて腐れた声を上げる。でもその顔は真っ赤。

「だったら、3度目のキスは智ちゃんからしてくれる?」

「タクよっ、しょうがねえなあ」

 智ちゃんが震えた手で私の腰を抱き寄せ顔を近付けて来る。

 ゆっくりと重なる3度目の唇と唇。

 好きな人にしてもらえるキスはまた格別。

 智ちゃんも私のことを好きなんだって感じられるから。

「大好きだよ、智ちゃん」

「…………俺もだよ」

 こうして、私と智ちゃんの映画以上のラブストーリーは始まりを告げたのだった。

 

 了

 

 

 

説明
そらのおとしものは先月書き溜めた物語がありますので
毎週水曜日に更新していきたいと思います。
今回はそはらさんです。次回からはサブキャラの物語になります。
次回は美香子・智子です。


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コメント
エンジェロイドに押され気味ですが、そはらもヒロインとしての素質がありますからねぇ。ところで、劇場版OOの公開予定はありますか?(tk)
BLACK様へ 豪デレ美少女はそらのおとしもののギャグパートと変わらないですから書き易そうですが、オリジナルと同じぐらいしかニーズがないでしょうね。延期は単に私が書いている暇がないのをネタにしただけです。その内にあげます(枡久野恭(ますくのきょー))
智樹にとっては「ラブストーリーは突然に」ですかな。しかし作者の他漫画ネタが来るとは・・・。しかも00っておま・・・。(笑)でも延期ってひょっとしてヤフーでもトップになったまどかを意識したのですか?(BLACK)
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そらのおとしもの そらは 桜井智樹 豪デレ美少女 凪原そら そらのおとしものOO 

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