真・恋姫無双〜魏・外史伝〜 再編集完全版24
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第二十四章〜彼女の決意と迷いと裏切りと〜

 

 

 

  早朝の軍議が終了し、野営地内では進軍の準備をするべく、全兵士総動員でそれぞれの仕事に徹していた。

 そんな中、兵士達へ朝食を配給していた季衣と流琉は、自分の馬を連れ、一人涼州の方角を見つめる蒲公英の

 姿を捉えた。何処か浮かない顔で、遠くを見つめる様子が気に掛かり、二人は蒲公英に恐る恐る近付いた。

  「どうしたの蒲公英?なんか浮かない顔しているようけど・・・」

  季衣は黙って何か考えごとをしている蒲公英に話しかける。

  「季衣・・・。うん、ちょっと姉様の事が気になっちゃって」

  「と、言いますと?」

  どういう事か蒲公英に尋ねる流琉。

  「姉様・・・、本当は涼州行きたくないんだって、蒲公英は思うんだ」

  「え?」

  「そうなんですか?」

  二人は意外そうな顔をして蒲公英の話を聞き続けた。

  「・・・叔母様が死んだ場所だから。姉様、二年前にお墓参りに行ったきり、足を踏み入れようと

  しなかったし・・・」

  「あれ、そうなの?でも、蒲公英は毎年来ているよね、馬騰さんのお墓参りに。ボクはてっきりいっしょ

  に来ていて、たまたますれ違っているんだとばっかり思ってたよ」

  「蒲公英が誘っても何か理由を付けてどっかにいっちゃうから・・・」

  「やっぱり、馬騰さんの事を今も引きずっているんですかね」

  「他にもあると思うけど、一番の原因はそれだって蒲公英は思っている・・・」

  「そっか・・・、確かに華琳様と話をしている時の翠ちゃん、ちょっととげとげしい感じするし・・・、

  それが関係しているのかな〜?」

  「・・・でも、それならどうして翠さんはここに来たんでしょうか?」

  「姉様、このままじゃ駄目だって思ったんじゃないのかな、桃香様を見て・・・。自分もちゃんと前を向いて

  歩かなきゃいけないんだって。中途半端な自分に決着をつけるために。けど涼州に近付けば近付くほど、

  その決意が揺らいでいる様に見えるから・・・まぁ、蒲公英の思い過ごしなら良いんだけどね」

  「そっかぁ・・・、蒲公英も蒲公英なりに翠ちゃんのことを心配しているってことか」

  「翠さん、早く決着つくといいですね」

  「うん・・・、そうだね」

  姉を心配する蒲公英。だが、そんな事など当の本人は知るはずも無かった。

 

  「真桜」

  支度をする真桜の元に、駆け足気味に駆け寄っていくのは一刀だった。

  「ん、何や隊長?うちに何か用か?」

  「お前、兵力や装備とかを取りに一度洛陽に戻るだろ?」

  真桜は洛陽へと帰還する者達の中に入っているのだ。無論、この帰還は一時的なものだ。先の戦闘で消費した

 兵士、武器、防具、食糧、治療道具といった兵力を補給するための行為なのである。

  「まぁな〜、昨日の戦いで無駄に使ってもうたから、けどそれがどないしたん?」

  「・・・お前に頼みたい事がある。これを見てくれ」

  そう言い、一刀は胸ポケットから四つ折りに畳まれていた紙を取り出すと、真桜の眼前でおもむろに広げて

 見せた。真桜もその紙を大まかに目で読み取ると、少し思案してから口を開いた。

  「・・・・・・隊長、これは何のつもりなん?」

  「多分、これぐらいのものじゃないと、駄目なんだと思うんだ。だから昨日、考えて・・・」

  紙に書いた内容だけでは理解が難しかったかと、一刀は前置きを語ってから、口頭での説明を行おうとしたが、

 それを真桜に制止されてしまう。

  「そうやない!ここに描いているのが何かとか・・・、そないな事やない!うちかて一応はその道の人間や、

  隊長が何を作って欲しいんかは大体分かるで」

  「そっか、俺てっきり描いた絵が下手くそだから分からないと・・・」

  一刀は若干自信を取り戻す。しかし、真桜にはそんな事は問題ではない。

  「うちが言うてんのは、何でこんなんモノを作って欲しいんかってことや!華琳様辺りに相談はしたんか!」

  「・・・一応は」

  その微妙な間を置いてからの返答に、真桜はその時の状況を大体であれど把握した。

  「その様子やと、相当無理を通したんやないか?」

  「・・・否定は、しない」

  またしても微妙な間を置いてから返答した。

  「そうやろうなぁ〜、こんなん見せられてそうすんなり許すはずないで・・・。こんなん、どう使うっ

  ちゅうねん?」

  「そこは『力』を使えば、制御できるはずだ。・・・昨日の奴とまた戦うとなると、これぐらいの

  重装備じゃないと力負けしてしまうからな」

  そう語る一刀の脳裏に昨晩の出来事が断片的に蘇っていく。あの化け物と対等に戦うにはどうすればいい、

 一刀は進軍再会ギリギリまでそればかりを考え、試行錯誤していたのだった。

  「・・・隊長が言いたい事は分かるで。うちかて頼まれれば、作らん事も無い。せやけど、こんだけのモン

  作るとなると、一日や二日じゃ足りへんよ。洛陽に戻るっちゅうても、そない長くはいられへん」

  本隊との合流を考慮すれば、長くとも四日・・・それ以上の滞在は進軍に影響を与えてしまう。一刀が求める

 モノを一から作るとなれば、その短期間で満足のいく仕上がりになるか、非常に怪しいと、真桜は考えていた。

  「そこはお前の力で何とかしてくれるだろう?」

  部下のそんな不満を何そのと言わんばかりに、一刀は無茶な要求を押し付ける。信頼しているのか、楽観的

 なのか、ただの馬鹿なのか・・・、真桜にも今一つ分かりかねる、そんな表情に、真桜はただただ溜息を吐く

 しか出来なかった。

  「・・・隊長、いつも思うんやけど、うちなら何とかなるとか、そない都合の良い様に片づけへん?」

  「無理を言っているのは重々分かっている。だけど、こんな事を頼めるのは、お前しかいないんだ。

  だから頼む!俺には、お前しかいないんだ!」

  真桜の両肩を勢いよく掴んだと思えば、今度はその体勢からぐっと頭を下げる一刀。一刀が動く度に、その

 豊満な乳房が激しく揺れ動き、真桜は両手でその動きを抑えた。自分の目線より下に下げた一刀の後頭部を

 見つめながら、そして、もう一度、今度は大きな溜息を吐いた。

  「・・・・・・・・はぁ〜、ほんま隊長はずるいで。そないな事言われちゃ、断われへんやないか・・・」

  「真桜・・・」

  一刀は頭を上げる、しかしその上げた顔はやや曇っている。無理な頼みごとをした事を自覚はしていた

 ようだと、真桜は少しは安心した。その曇った顔を吹き飛ばしてやろうと、真桜ににひひと笑いながら、どんと

 胸を弾ませてこう言った。

  「うちが何とかしとるさかい、任せときっ!隊長の御眼鏡に叶う代モンを作ったるで!」

  「・・・ありがとうな」

  少し間を置き、一刀は部下に感謝の言葉を贈る。そしてその顔に掛かっていた雲は消えていたのであった。

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 ―――涼州中央の何処か・・・

  「多少のイレギュラーはありましたが、曹操軍はこちらに向かっている様ですね」

  その手に偽りの巻物をぐっと握り締めながら、机に広げられた大陸の地図を見渡す。地図の上には駒が

 何本か置かれており、そのうち洛陽の文字が書かれた位置から少し左側に配置されていた五本の駒がここへと

 独りでに動き、進んでいく。予定よりも早くここに到着する事だろう。

  「・・・・・・」

  撫子に頼んでいた例の巻物は偽物だった。肝心の本物は彼女が持っているのだろう、あれが如何なものかも、

 なんの価値があるかも、知るはずもないにも関わらず。表情は依然変わる事はないものの、自分を出しぬいた

 事に内心は怒りが溢れ返っていた。だが、いつまでもそんな状態に浸るわけにはいかない。元来持ち合わせて

 いる冷静さでその怒りを中和し、平静を取り戻す。そしてその怒りを手にある巻物にへと移し変えた。瞬く間に

 巻物は青白い火に包みこまれ、消し炭に姿を変えていく。それに悪い話だけではない。彼女によってもたらされ

 るであろうこちらの情報を逆に利用してやればいいのだ。消し炭に息を吹きかけ、宙に舞い上がらせ、手で払い

 除けると、席を外し、この場から離れていった。

  「女渦の報告では、亀霊の機動を開始し、例の計画を行うとの事・・・」

  計画、亀霊による外史の瓦解の引き金にする。それが遂行されれば、この外史は情報の綻びを生じ、外史の

 情報化、削除を難なく移行させる。そしてその仕上げをあの方が用意したあれにてこちらで行う。あれは今回、

 初めて使用されるため、使用による結果情報を得たいのだろう。結果次第では、今後の外史削除に大きく貢献

 する事となるはずである。そんな事を考えながら、先程いた場所からそう遠くない所より、下へ下へと降りて

 いく。下に行けば行く程、明かりは次第に薄くなり、暗闇に包みこまれる空間へと足を進めていく。

  「・・・・・・盤古、これが我々の新たな力となりうる、と言う事ですね」

  ある程度まで近づくと足を止め、巨大なそれを見上げる。その植物にも似た外見、しかし良く見れば、無機質

 なゴムの質感があり、それは鈍い黒光りを放っていた。

  

  それより数日後、華琳率いる本隊は予定通り、涼州へと進軍を再開した。その道中で邪魔が入る事無く、

 涼州へと入る事が出来たのであった。進軍再開より、およそ六日後の事、洛陽へと一時帰還した隊が本隊に

 ようやく合流する事が出来た。

  「隊長!ただいまなの!」

  野営地の中、周りに元気を分け与えるの様な勢いで、一刀に駆け寄って来たのは沙和だった。何か嬉しい

 事でもあったのだろうな、誰が見てもその事が分かる程に顔を輝かせていた。

  「沙和、お前もこっちにいたのかよ・・・」

  「うん、今月の新作の服とか気になっちゃって!」

  目線を沙和の手元まで落とすと、恐らく服が入っているだろう紙袋が握られていた。一刀はそんな自分の部下

 に対して、呆れ、しかし、何処か嬉しそうにほほ笑んだ。

  「全く、お前って奴は・・・相変わらずというか何と言うか・・・」

  「おっ、ここにおったんか、隊長」

  と、今度は真桜がやって来た。疲れているのか、気だるそうにだらしなく歩いて来る。

  「真桜、頼んでおいたヤツはどうだ?」

  「洛陽中の鍛冶屋ちゅう鍛冶屋をみ〜んな集めて、何とか期日通りに作ったで。後ろの方にあるから

  後で確認してや」

  「そっか、無理言って悪かったな」

  「ほ〜んまやで、寝るのも削りに削ってふぁ〜・・・、眠くてしゃーない」

  欠伸に合わせて背筋を思い切り伸ばすと、真桜は一刀に踵を返し、そのまま行ってしまった。

  「っつう訳やから、うちは少し仮眠を取らせてもらうで。よっぽどの事でもない限り、起こさんといてな」

  背を向けたまま手を振ると、真桜は自分の天幕の方へと戻っていく。

  「おぅ、ゆっくり寝ていけよ」

  さて、と呟くと、一刀は真桜が言っていた場所へ行く。すると、大よそ見当のついた事ではあったが、

 後ろから沙和が興味ありな顔をしながら追いかけて来た。

  「ねぇねぇ隊長、真桜ちゃんに何を作らせてたの?」

  「うん?あぁ、ちょっとな」

  説明するのが面倒と、適当にはぐらかす一刀。当然、沙和はぶすくれる。

  「えぇ〜、ちゃんと教えて欲しいのー!」

  「まぁ、そのうち分かるし・・・、その時まで楽しみを取っとけ」

  しつこく絡んでくる沙和を軽くいなしつつ、一刀は進軍再開に備え、指定された場所へと戻っていった。

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  それから二日後、魏軍は雍州潼関より涼州に入った。だがその道中、一刀はある違和感を感じた。

  「何だろう・・・、人がいない?」

  町、村、あまつさえ、誰もが通るであろう道さえにも人の姿が見えない。閑静な雰囲気、ゴーストタウンと

 化していた。しかもそれが一つ二つならばともかく、それが道中全ての町村でそんな状況なのだ。無論、それに

 関しては華琳達も気付いていた。

  「誰もいない・・・、一体涼州でなにがあったというのかしら?」

  斥候を放ち、情報を集めてはいるものの、肝心の人がいないのであれば、状況を掴む事など出来るはずもない。

 兵達も多少なりとも、その異常な事態に不安を抱く者もいた。人は何処へ行ってしまったのか。何処かへと避難

 しているのか、五胡に襲われたのか、様々な憶測が軍の中で錯綜し、混乱を抑えようと武将達が駆け回る始末

 である。しかし、この謎が明らかになるのは、さほど時間が掛かる事は無かった。

 

  潼関よりやや西に位置する扶風と呼ばれる地、現在涼州の中枢として機能する都がある。そして馬超、馬岱の

 生まれ故郷である。久しぶりの故郷の匂いに、翠は懐かしく、しかし何処かもの寂しさを感じていたのであった。

 

  都より数里離れた場所に野営地を設置した魏軍。今の所いつかの様な襲撃はなく、それが返って不穏な空気を

 漂わせているそんな状況の中、華琳達は今後の行動について軍議を進めていた。

  「人がいない・・・、それは間違いないのね?」

  都に放った斥候から報告を桂花が説明し終えると、華琳が内容を確かめる様に桂花に聞き返した。

  「斥候全員が町に人一人を見つける事が出来なかったそうです」

  「空城の計?」

  桂花の話を聞き、一刀は思った事を口にした。しかしその意見に春蘭が反論する。

  「前回派手に奇襲して来ておいて、今更そんなことをする必要があるのか?」

  「誘っているのでしょうねぇ。私達が街に入るのを・・・」

  「都城戦に持ち込もうっちゅうわけかいな?」

  風が可能性の一つを提示すると、霞が尋ねる様に風に代わって簡潔にまとめた。すると、稟が風の考えを肯定

 するべく、以下の様な分析を説明し始めた。

  「今までに出現した黒尽くめの兵団との戦闘はそのほとんどが都城戦でした。彼等の武装及び戦法より推察

  するのであれば限局地、つまり狭い場所での少数による一進後退の戦法を得意としているのではないかと

  思います」

  「何だか、私達のやり方とは正反対な戦い方ですね・・・」

  と、流琉が呟く。この時代の主な戦いは平原といった広い場所に展開した多数による突撃戦が主の戦法である

 事からも、如何に相対的であるかが分かる。

  「成程な・・・、中に入ってしまえば、嫌でも狭い場所での戦闘を余儀なくされるってわけか。じゃあ、

  どうするんだ?向こうが出て来るのを待つのか?」

  「そんなものを待っていたら、先にこちらが潰れるでしょうね。遠征して来ている以上、兵糧にも限りがある

  上に、兵達の疲労も蓄積するばかり。長期戦に持ち越されれば、こちらが不利になるわよ」

  「そうだよなぁ・・・」

  桂花に自分の考えを否定され、一刀は予想通りだなと思いつつ、渋い顔で後頭部を掻いた。

  「その上、今回は気掛かりな点が幾つも存在するわ。その中でも、皆も気付いているでしょうけど、涼州の民

  の行方が不明となっている事もある」

  華琳は滞る軍議を別の議論に切り替える。

  「確かにここまで人間がいないのは、明らかに異常な事だとは思いますが・・・」

  「皆一体どこに行っちゃったの?」

  首を傾げ、考える凪と沙和。その横で真桜は両手を首の後ろに回し、う〜んと唸っていると、何気ない間隔で

 こう言った。

  「・・・連中に殺されてたりな?」

  「そんな訳あるかっ!?」

  軍議が行われる天幕内に怒声が響き渡った。突然の事だっために、その場に居合わせた者は言葉を失った。

 怒声を放った者は我に返ると、たちまち気まずさに赤面、その場から逃げ出したいのを堪え、弁論する。

  「あ、い、いや・・・、悪い突然大声を出して・・・」

  怒声を放ったのは翠であった。軍議が始まってからずっと沈黙を通していた彼女が、真桜の言い放った何気

 ない一言に、衝動的に声を荒げて否定したのだ。一方で真桜は涼州出身、かつ涼州連合の元盟主でもある翠の

 手前、自分が何気なく発言した事に対して、さすがに不謹慎だったのではないかと、申し訳ない気分になる。

 首の後ろに回していた両手を正し、真桜も言葉を慎重に選びつつ翠に謝罪した。

  「あー、いやうちも・・・な。何の根拠も無いこと言うてもうたわけやし、な」

  「けれど、その可能性も否定出来ないでしょう」

  「・・・っ!」

  その会話を聞いていた華琳がこう言うと、翠は華琳の方を睨む様にして見た。その視線を感じながらも、

 華琳は話を続けた。

  「生きているかもしれないし、死んでいるのかもしれない・・・。現段階ではそのどちらにも可能性は残って

  いる。生きているならば、今どこに?死んでいるならば、死体は何処に?最もそれを今ここで議論する事自体

  に意味があるのかしら・・・?」

  疑問形で終わっているが、答えを聞くまでも無い事だと言う風な言い回しをする華琳。だから敢えて答えを

 求めず、続けて話を続けた。

  「今分かっている事は事の黒幕が誰なのか、そしてその居場所。私達は都城内にいるとされる祝融を、出来る

  事ならば捕縛する。まずはこの一点に焦点を当て、事を進めましょう。いいわね?」

  一通りに話をまとめ上げ、再び軍議は進行される。作戦の方針は都城の制圧、そして祝融の捕縛と決定した。

 また今後都城戦が発生する可能性も高い事から、対応策も立てられる事になった。緊急時でも瞬時に少数隊に

 編成できるよう、歩兵、槍兵、弓兵、騎馬の数の調整と配置、更にそれによる陣形の修正が事細かく行われた。

 開始より一刻半過ぎた頃、軍議は終了し、武将達はそれぞれ役割を分担、仕事に取りかかる。

 

  「う〜ん・・・、やっと終わったか」

  長い軍議からようやく解放され、天幕より出た俺は凝り固まった背筋を伸ばした。太陽の光を全身で浴び

 ながら、これからの事について考えようかと思った時だ。

  「ん、あれは・・・」

  視界に馬超の姿が入ってきた。どうやら馬舎へと向かう所のようだ。そのまま見過ごそうと思った時、

 さっきの事を思い出して、俺は慌てて彼女を追いかける事にした。

  「馬超」

  「ん?・・・北郷、か」

  馬超の背中に声を掛けると、足を止めて俺の方に顔を向けてくれた。

  「な、何だ?あたしに何か用か?」

  馬超は少し戸惑った感じで尋ねてくる、俺が声を掛けてきた事が意外だったのか?。

  「いや、さっきの軍議で真桜が変な事を言って、君に嫌な思いをさせたからさ。俺からも謝っておかないと

  って思ってな・・・。本当に、済まなかった」

  姿勢を正し、頭を90度くらいまで下げ、俺は馬超に謝った。あいつは今も一応は俺の部下なわけだしな・・・。

  「え?あぁ、いや・・・止めてくれよ。あんな事、全然気にしてなんかいないし、それにあたしだって

  ちょっと言い過ぎたって思っているから!」

  申し訳なさそうな声で馬超はそう言うと、俺は頭を上げる。すると馬超は困った顔で、辺りを見渡していた。

  「後で俺から真桜にも注意しておく。だからそれで一応許してくれないかな?」

  「だから、もう気にしていないから、さ!・・・大体あんたは少しに気にかけ過ぎなんだよ!そうされる方が、

  返って迷惑なんだよ!」

  「そ・・・、そうか?」

  そういうつもりは無かったんだがな、だがこれ以上この話題に触れるのは止した方がいいな。だが、真桜には

 後でちゃんと言っておかないとな・・・。とは言えこのまま別れたらあれだし、少し違う話をしておくか。

  「それはそうと、俺が見てる限りだと、凪達と仲が良いみたいだな?」

  「・・・まぁ、そりゃ色々と。最もあたしが弄られているのが大抵だけどな」

  凪と一緒に真桜と沙和に・・・と言った所か。その光景が目に浮かぶ。

  「そうか、苦労しているな」

  その気持ちは俺にも良く分かるわけで。

  「・・・、それでもあたしには嬉しい事だよ。国がどうこうとか、過去がどうとか・・・そう言う事を気に

  せず付き合えるのは」

  国がどうとか、過去がどうとか・・・か。

  「本当の所は?」

  「毎度毎度からかってくるのは・・・どうにかして欲しい」

  「それについては激しく共感する」

  加減しないし、しつこいからな、特に凪以外は。

  「・・・あんたも苦労しているんだな」

  今の会話で、馬超は俺があいつ等からどういう扱いを受けているのか、理解したみたいだな。

  「時々、本当にあいつ等の隊長なのか・・・疑わしく思う事がある」

  「あっははは・・・」

  馬超は同情を込めた愛想笑いを返してくる。

  「だ、だけどあたしは聞く限りじゃ、あんたの事を大事に考えていると思うぞ」

  「そうなのか?」

  「一緒に飲んでいるといつもいつもあんたの事を話していたし、隊長にまた会いたいとか・・・耳にたこが

  できるくらい言っていたぞ」

  ちょっと涙が出そうになった。久しぶりにいい話を聞いた気がする。

  「そ、そうか。なら、これからもあいつ等と仲良くやってくれよな」

  「あぁ、北郷もあいつ等を大事にしろよな!」

  そう言うと、馬超は馬舎へと歩いて行った。

  「隊長、こちらにいましたか」

  馬超を見送ると、今度は俺が後ろから声を掛けられた。振り返ると凪、真桜、沙和の三人がそこにいた。

  「なぁ〜んか、翠と話しておったみたいやけど・・・。早速翠に目ぇつけるんはさすがは隊長、

  って所かいな?」

  にやにやと俺を見てくるドヤ顔の真桜。さっきまでの感動は何処ぞへと消え、ちょっといらっときた。

  「自分の部下が変な事を言って気を悪くさせて済まなかったて謝っていただけだ。別に真桜が考えている様な

  事はしていないぞ」

  俺がそう言うと、先程までのドヤ顔が一気に崩れる。

  「うっ、藪蛇かいな〜。やっぱ翠の奴、気にしとったん?」

  「そうだな、気にしてないとは言っていたが、一応お前の方からも一言言っておいた方が良いかもな。

  ・・・後、凪も沙和もな」

  「えぇ〜、何で沙和達もなの?」

  沙和は不満そうに俺に聞く。確かにちょっと言い方が悪かったな・・・。

  「別に謝れって話じゃなくて、色々と話をしてくれって意味でな」

  「何か、気になる事でありましたか?」

  二人は違い、凪は真面目な態度で俺に尋ねてくる。ただ、真面目に聞かれても困るんだよな・・・。

  「う〜ん・・・、気になるって言えば、そうだな確かに。確信は無いんだが、馬超は何か悩みを抱えているん

  じゃないかなって思ってな」

  「悩み、ですか?」

  「何で悩んでいるのかは具体的には分からないけど、悩みを抱えたまま戦うはお互いにも良くないだろ?」

  あの時、馬超が何気なく言った事がどうも気になって仕方がない。さっきの軍議に限っても、華琳とはあまり

 仲が良い関係とは言い難い感じだった。華琳は上手くやっていると思っているのかもしれないけど、その事が

 きっかけで内部亀裂が・・・なんて、少し考え過ぎか?

  「そりゃ考え過ぎやないか?」

  まるで俺の考えている事を見通しているかのような事を真桜が言ってきた。

  「何も考えてないお前が言うな」

  と俺が言う前に凪が突っ込みを入れた。凪の言う通りだよ、本当に。

  「ちょっ、その返しはずるいでぇ〜!」

  「でも分かったの、隊長!沙和も翠ちゃんがけがして欲しくないもの!」

  「隊長がそう言うのであれば、一応こちらからも声を掛けてみます」

  「あぁ、よろしく頼むな三人とも」

  そう言って、俺は凪達と別れる。怪我か、・・・怪我程度で済むような話ならいいんだがな。

 

  部隊編成に半日をかけ、態勢を整える魏軍。明日の朝、都城に入る。出来る事ならば明日で全てに決着を終え

 たい、誰しもがそう望み、今夜を過ごすのであった・・・。

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  「全軍、進軍開始!」

  春蘭の声に合わせ、銅鑼が叩かれる。銅鑼を叩く音は全兵士にまで伝わり、前へと進めさせる。日の出より

 一刻後の事であった。進軍の最中、特に際立つ者がいた。一刀である。紫を基本色とする一般兵の兵装の中、

 少し汚れた白い布を首から膝下まで纏い、その布から大きくはみ出た、背中に背負った巨大な剣、二m近くの

 斬馬刀が特に目を引く。あと他に目を引くものは、首に付けられた鍵付きの鉄製首輪だろうか。そして更に首輪

 から伸びる長い鎖、辿ってみると、兵士の間をすり抜け、総大将の布陣の中央にまで伸びている。そして絶影に

 乗る華琳の右手にその鎖の端が握られていた。

  「ちょ、俺は犬かっ!」

  「犬?地べたを這いずるしか能のない卑しい雄豚の間違いでしょう?」

  「何でそういうことになるんだよ!?悲惨過ぎるだろ、俺!」

  「あら、嫌なの?桂花と稟なら、喜んで地べたを這いずり回るわよ?」

  「そこにあの二人を持ち出してくる時点で間違いだろう!だったらあいつ等にやってやれ!」

  「えぇ、してあげるわ。あなたの後で、ね・・・」

  「ちょ・・・!」

  そんなやり取りがあったかどうかはさておき・・・、そのせいなのか一刀は肩を落とし、前のめりに歩いき

 つつ、時折後ろにいる華琳の様子を見ていた。そして華琳もまたそんな一刀の様子を見ていた。

 

  「兄ちゃん、ちょっと腕上げて」

  「兄様。前の方、お邪魔しますね」

  とある天幕の中、季衣と流琉は一刀の支度の手伝いをしていた。それは一刀一人では難しく、力を要する

 内容であったため、この二人が行っていた。

  「そんな装備で大丈夫なの?」

  天幕の隅、椅子に座り、その様子を見ていた華琳は一刀に聞いた。

  「・・・さぁ、どうかな。何せ、実際に着けるのはこれが初めてだからな」

  両腕を水平にしながら、一刀は答え続ける。

  「けど、あの真桜が作ったものだ。大丈夫、問題ない」

  「・・・・・・」

  最後の言葉に、華琳は何を根拠に、と言いた気な顔で一刀を見た。一刀は季衣と流琉と一緒に締め付け具合が

 どうだとか、位置がどうとかを話し合いながら、支度を進めていた。華琳の心情を察する事もなく・・・。

 

  「・・・・・・」

  「・・・華琳様?いかがなさいましたか」

  「・・・あ、いえ。何でもないわ。どうかしたかしら、稟」

  進軍より少し前の事を思い返していた華琳は横にいた稟の声に数秒ほど反応が遅れた。

  「はっ、先刻程前に都城内に放ちました斥候なのですが、予定の刻限を過ぎましても戻って来ておりません」

  「それは確かな事?」

  「はい、残念ですが恐らくは都城内で・・・」

  「やはり、こちらの思った通りの筋書きという所なのでしょうね」

  向こうはこちらが都城に入るのを待っているのだろう。そして都城に入って来た所を襲撃する。籠城ではなく、

 都城内での戦闘に持ち込むための、黒幕・祝融という者の筋書き。筋書き通りに踊ってやろうと言うのだ、

 こちらも十分な備えと対策を張り、その上で進軍を開始した。

  「ところで華琳様?お兄さんの扱いについては、今朝の方針で本当によろしいのですか〜?」

  「無論、あの男は最初から戦力に入れない。よほどの事態にでもない限り、首輪をつけて、行動を制限するわ」

  だが、その中に一刀は含まれてはいない。承諾をしたとは言え、彼のしている事は良く言えば慈善事業、悪く

 言えば身勝手な行為でしかないのだ。何故そのように見なしているのか?確かに彼の力はこちらにとって有益な

 もの、自分達の勝利に大きく貢献するだろう。

  だが、だからと言って、その彼を頼れば、兵達は彼の力に依存し、そこから油断が生まれる。自分達が戦わ

 なくとも・・・、北郷一刀に任せておけば・・・、それは軍の風紀を乱し、そして兵士間の連携にほころびが

 生じ、軍力低下をもたらす。最初から質の良い玩具は与えない。自分達の国内の問題は自分達で対処する。

 それが曹操孟徳の考えである。

  「・・・・・・」

  しかし、それは建前。彼女の真意はもっと単純で、そして純粋なものなのかもしれない。

  

  「このまま行けば、都城内で戦うことになるん、だよな・・・」

  着実に都城城門へと近づいていく中、軍の先頭に立つ翠はこれからの事について考えていた。華琳達の考えが

 正しければ、確実に城内の中で戦いが起こる事になる。乗馬に長けているとはいえ、戦いの場所が制限される

 街中での戦闘では騎馬は不向きだ。何より、これから戦う場所は自分の故郷なのだ。

  「仕方がないって言っても、自分の街が戦場になるのは嫌だな・・・」

  人の住む家屋が次々と損壊し、多くの人間が倒れ、大量の血が街中で流れる。先の成都襲撃後の、その光景は

 あまりに悲惨で胸を締め付けられるものであった。自分は戦う事で、街を守ったんだ。たくさんの人達をこの槍

 で守ったんだ。それなのに、素直に喜べない自分がいた。広野で戦う時とは、全く違うものがそこにあったのだ。

 そして、今度は自分の生まれ故郷がそうなるのだと思うと、翠は苦悶の表情を浮かべ、手綱を握る手に力が入る。

  「あたしは、一体・・・どうしたいんだ・・・?」

  過去(母親)への決別、故郷を守ろうという愛郷心、その一方で曹操に対する憤怒、自分の故郷が戦場になると

 いう嫌悪感・・・、翠の中で、相反する思いが衝突を繰り返していた。

  「姉様、何か考えごと?」

  そこに翠と同様、先頭に配置されていた蒲公英が横に近づいてきた。

  「な、何だよいきなり・・・あたしが、考えごとをしていたら悪いのかよ?」

  「別に悪いとは言ってないよ。ただ戦前に色々と考えていると、怪我しちゃうよ」

  「・・・、お前も凪達と同じ事を言うんだな」

  翠は耳を弄りながら、少し呆れ気味に答えた。実は少し前にも、凪達にも同じ様な事を言われていたのだ。

 その時は適当に誤魔化して、煙に巻いたのであった。

  「ふぅん、あの三人組にも言われたのか〜。ま、当然と言えば当然かな?」

  「当然?どういう意味だよ」

  「だって、脳筋の人間が変に頭を使っていれば、誰だって異常事態って思うもん」

  「うーん・・・、やっぱりそういうもんなのか?」

  蒲公英に言われ、首を傾げる翠。少しの間を置き、翠はある事に気付いた。

  「・・・って、誰が脳筋だ!誰がぁああああああっ!?」

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  そして軍最前列が城門を通過しようとすると、兵士達に更なる緊張が走る。今だ姿を現さない敵、いつ、どこ

 から、どのように襲ってくるのか、一歩一歩の足取りは慎重になり、神経を尖らせ、周囲に気を配り続ける。

 その警戒心の結果、行軍速度が落ちる。

  そんな中、一番乗りに都城内に入った翠の目に広がる光景は、二年の間に姿を変えた街々、しかし見覚えの

 ある街並み、その一方で人一人存在しない、閑静な空気が漂う無人の街並みであった。久し振りに見た故郷の

 街に不思議と懐かしさを感じない。それが彼女の胸を一層締め付けた。

 

  軍の半分程が城門を通過する頃、状況は急変する。

  「ここより北に位置する城門が開門!さらに砂塵を確認しました!!」

  一人の兵士が全員に聞こえる様、大きな声を上げて報告する。次第にその砂塵より姿を現したのは、五胡の

 連合軍であった。開いた城門より、五胡の軍勢が雪崩れ込む。魏軍は迎撃体勢を取ろうと武器を構えたが、

 再び状況は急変する。

  「な、何ぃいいいっ!?」

  既に入城していた春蘭が慌てて後ろを振り返り、驚く。何の前触れもなく、突如として城門が勝手に閉じて

 いくのだ。前より五胡、後ろは締まる城門、二方向より迫り来る事態に一人の兵士が落ち着きを失い、城門の

 外へと出ようとした。その兵士につられ、また一人、また一人と、次々に城門より外へ後退する者達が現れる。

 だが、すでに約半分まで入城を完了していたため、軍は急な方向転換に対応できない。その上、出入り口が城門

 のみと限定され、更に刻々と門が閉じていくため、全兵士の対応が遅れる。

  「急げぇっ!急ぎ、外に出るのだぁあああっ!」

  誰が言ったのか、分からないその言葉が兵士達に焦りを促した。華琳達は慌てず、落ち着いて行動するよう

 指示を出すが、誰も聞こうとはしない。五分の二程度の兵数が都城より脱出した所で、城門は完全に締まる。

 城門を開けようと、門際に立つ何十人の兵士達を力を合わせる。だが、今こうしている間にも前方より五胡の

 軍勢が近づいてくる。

  「華琳様っ!」

  傍にいた桂花が華琳の対応を窺う。華琳は考える間もなく、城内の兵士達に言った。

  「各部隊に通達!これより城内にて、五胡軍の第一波と応戦する!馬超隊、馬岱隊、張遼隊は先行し、相手の

  陣形を崩した後、他の部隊は一斉に攻勢に出よ!!」

  なお現在、都城内には春蘭、季衣、翠、蒲公英、秋蘭、流琉、一刀、華琳、桂花。都城外には凪、真桜、沙和、

 稟、風がいる。この状況の中、都城内の者は五胡と応戦、都城外の者は城門を突破するべく奮闘する事となった。

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  「お前ら、いくで!」

  「「「おおおおおおおおぉっ!!!」」」

  偃月刀を掲げ、霞は兵士達の意思を統一する。

  「翠、蒲公英、お前らもいけるな!」

  「もっちろん!」

  「こっちも行けるぞ!!」

  霞の声に蒲公英、翠は調子を合わせ、臨戦態勢に入る。すでに五胡の兵達との距離は数里程、目と鼻の先に

 まで近づいていた。

  「おっしゃぁあああ、突撃ぃいいいいいいっ!!!」

  押し込まれる前に、こちらからと霞、翠、蒲公英達、騎馬部隊が街の大通りを駆ける。

  「「「うぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」

  霞達騎馬隊と五胡の先陣を担っていた兵士の合間を潜り抜け、二つの軍が混じる。騎馬から歩兵を攻撃し、

 逆に歩兵数人がかりで騎馬兵を馬より引きずりおろす。そんな光景が最初に繰り広げられる。騎馬隊の衝突に

 より、五胡の先陣は大きく崩れ、動きが鈍りだした。

  「よし、今が好機!夏候惇隊、突撃ぃいいいいいいっ!!」

  戦況をいち早く察知した春蘭が隊を引き連れ、突撃を掛ける。それに釣られ、次々と季衣、秋蘭、流琉の隊も

 突撃を掛けていった。劣勢かと思われた戦況は、華琳の迅速な対応により一変、優勢へと転じた。が、再び状況

 は一変する。それは春蘭、季衣の隊が一足早く五胡軍と接敵した直後であった。

 

  ドガァアアアアアアアアッ!!!

  この爆発にも似た音が響くと、大通りに砂塵が大きく舞い上がった。丁度、突撃を仕掛けに行った春蘭と季衣、

 秋蘭、流琉の隊を引き裂く具合に。

  「くっ・・・!!」

  秋蘭と流琉は眼前に発生した砂塵に、急停止をする。それに伴い、ついて来ていた隊の兵士達も急停止した。

 勢いづいていたものを突然に止めたため、隊の陣形が大きく乱れる。急ぎ、陣形を直そうとするも、砂塵から

 現れた黒尽くめの兵団が襲いかかってきた。五胡の侵攻の中にいなかった彼等がここで現れたのだ。

  「秋蘭様、砂塵より敵が!黒尽くめの兵団です!」

  「あぁ、皆の者怯むな!訓練通り、五人一組にて対処しろ!」

  秋蘭の指示通りに、兵士達は二歩兵、二槍兵、一弓兵構成の五人一組を作った。

 

  「秋蘭!?」

  後方の砂塵に反応する春蘭。その向こうには妹の秋蘭がいるが、その姿は確認できない。

  「流琉っ!」

  季衣は急ぎ、親友の安否を確かめようと、砂塵の方へと向かおうとする。

  「待て、季衣!今は目の前の敵に集中しろ!」

  だが、それを春蘭が止める。

  「だけど春蘭さま!」

  季衣は渋るが、彼女達はすでに五胡の軍と接敵し、霞達、騎馬隊と合流し戦闘を行っていたのだ。

 本当であれば、秋蘭達、そして華琳率いる本隊も攻めるはずであった。しかし、その流れが途切れてしまい、

 結果、五胡の軍を少ない兵数で対処しなくてはならなくなったのだ。

  「お前の気持ちは私にも分かる。だが・・・!」

  春蘭が季衣に何かを言おうとした時、後方の砂塵より一つの影が飛び出してきた。立ち込める砂塵を

 吹き飛ばしてその姿を現したのは、先の戦いで一刀を襲った怪物、麒麟であった。

  「あ、あれは・・・あの時の!!」

  春蘭はあの時の記憶を呼び起こす。あの人馬一体を見事に具現化した巨体を忘れるはずもなかった。

 そして麒麟は春蘭達の背後を取るべく、二本の戟を高く振りかざし駆け馳せた。

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  「せいやぁっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「グフ・・・ッ!」

  翠は馬の上より五胡の兵士を蹴散らす。四方八方より襲いかかる敵を、卓越した馬術を駆使し、その攻撃を

 切り返していたが、その圧倒的な敵の数に対処が追いつかなくなりつつあった。そこに五胡の騎馬兵が翠の不意

 を突いて襲いかかった。

  「ヌォオオオッ!!」

  ブゥオンッ!!!

  「なっ、しまった!?」

  不意を突かれた翠は槍の柄で急ぎ防御を固めた。

  ガゴォオッ!!!

  「うわぁあああっ!」

  五胡兵の一撃を防ぐ事は出来たものの、突然の行動であったため、体勢を崩してしまい、落馬をしてしまう。

 落馬した翠に、一人の五胡兵が大剣を振り下ろした。

  ブゥオンッ!!!

  「・・・っ!?」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「ガゥ・・・!」

  翠は大剣が振り下ろされる寸前、槍先で五胡兵の腹を裂き、難を逃れる。だが、五胡の兵士達が翠に集りだし

 てくる。そこで囲まれる前に、翠は行動を起こした。

  「やぁあああっ!」

  ブゥオンッ!!!

  一人の五胡兵を槍の柄の部分で側頭部を叩くと、次に襲いかかる者の一撃をかわす。

  「はぁっ!」

  ブゥオンッ!!!

  そして攻撃直後の隙を狙い、再び柄の部分で後頭部を叩いた。ふらつく五胡兵、前のめりになった所を翠に

 踏み台にされる。背中を踏みつけ、翠は前方へと更に飛び跳ねた。その先には、先程翠を落馬させた騎馬兵が

 いた。

  「これはお返しだぁっ!!」

  その声と共に、翠は槍を大きく振りかぶり、そのまま振り払った。

  「おりゃぁあああっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  ドガァアアアッ!!!

  「グワァアアアッ!?」

  槍は騎馬兵の顔面を捉え、為す術もなく落馬した。

  「翠姉様、大丈夫だった!?」

  蒲公英は翠の身を案じ、急ぎ彼女の元へと駆け付けると馬から降り、傍まで近づいていく。

  「大丈夫もなにも、あたしは・・・」

  シュルルルッ!!!

  「え・・・っ!?」

  踏み出そうした右足に何かが巻きついた様な違和感を感じ、翠は急ぎ右足を確認しようとした。

  「うぉあっ!」

  だが、その前に彼女の右足が前に引っ張られ、翠は仰向けに倒れる。やはり右足に何かが巻き付いている、

 翠はその正体を確認するべく、頭を上げ、それを見た。

  「な、何だよこれぇ!?」

  翠は驚く。彼女の右足に黒い触手のようなものが何重にも絡みついていたのだ。

  「翠姉様っ!!」

  倒れた翠の手を取ろうと蒲公英は手を伸ばしたが、彼女の体はまた前に引っ張られてしまう。

  「うあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・っ!!!」

  「姉様ぁあああああああああああああああっ!!!」

  翠の姿が戦場の中へと消えて行く。彼女の声が次第に小さくなっていき、そのまま聞こえなくなってしまった。

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  秋蘭達がいる場所より後方に布陣する本隊。桂花は城外にいる者達と協力し、開門作業を指揮をする一方で、

 一刀は華琳の傍にて戦況を眺めていた。

  「・・・・・・」

  一刀は苛立っていた。伝令の報告で各部隊が押されている事を知っていた。

 春蘭達、先行部隊の布陣が敵軍に突破されていない所をみると、彼女達はまだ奮闘しているのだろう。彼女達の

 おかげで、一刀は比較的安全な場所にいる事が出来ている。しかし、比較的安全だからと言って、戦場に立って

 いる事に変わりはしない。ましてや、彼が率先して戦に出ようという事自体、本来であればあり得ない状況でも

 あるのだ。北郷一刀、今の彼は戦う力を持っている。力があるのに何もせず、ここにいる自分自身が許せなかった。

  力を得た今の彼を見て、昔とは別人だ、などと言う者もいるが、実際は違う。今も昔も、北郷一刀は何も

 変わっていない。今の彼が無茶をする事が多々あるのも事実であるが・・・。

  「っ!」

  もう我慢の限界だと、先に体が動く。一刀は戦の最前線へと赴こうとした。

  「駄目よっ」

  華琳は手の中にある鎖を手前に引っ張った。

  「ぐえ・・・っ!」

  首に着けられていた鉄製の首輪が喉に喰い込み、一刀は嗚咽を漏らす。また首輪に繋がった鎖はピンと伸び

 切り、一刀の行動範囲を制限していた。

  「私の許可無しに勝手な行動は許さないわよ、豚」

  「・・・華琳っ、だけど・・・!」

  一刀は首輪に手を掛けながら華琳の方を見る。

  「あなたは!」

  珍しく華琳が声を荒げ、思わず口を紡ぐ一刀。華琳自身も驚いた表情を一瞬浮かべたが、すぐに冷静さを

 取り繕った。

  「・・・感情に身を任せて動けば、視野が狭くなるもの。なれば大局を見誤り易くなるでしょう。

  時には感情で動く事が良い事もあるけれど、今はその時ではない。大局の流れには逆らわず身を任せ、

  されど流れの変化には機微に対応するのが、今為すべき事・・・」

  戦況が混乱している今だからこそ全体を見渡し、戦況の変化に素早く対処出来る必要があるのだ。

 そして華琳は更に話を続けた。

  「一刀、あなたにとっての流れの変化は必ず来るでしょう。その時が、あなたの出番よ」

  「俺にとっての・・・変化」

  一刀は考える、自分にとっての流れの変化とは何か。そしてすぐさまに思い当たった。

  「も、申し上げます!」

  そこに一人の兵士が息を荒げながらやって来た。華琳に一礼し、急ぎ報告をする。

  「現在、夏候淵隊、典韋隊が敵の奇襲に遭い、進軍停止!更に夏候惇隊、許?隊が後方より、白銀の鎧を

  纏った怪物の攻撃を受けているとの事です!」

  報告を横で聞いていた一刀は再び華琳の方を見る。華琳は一刀から視線を外し、軽く溜息をついた。

  「華琳・・・今が、俺にとっての流れの変化、そうだろ?」

  一刀は今が自分の戦うべき時だという事を確信する。当然、それは華琳も理解していた。理解し上で、華琳は

 敢えてこう言った。

  「・・・はぁ〜っ、出来ればもう少しこうしていたかったのだけれど・・・」

  「それなら後でいくらでも相手してやるよ」

  一刀の言い放ったその一言を、華琳は聞き逃すはずもなかった。

  「言ったわね。なら、後でたっぷり相手をしてもらうわよ♪」

  「・・・・・・」

  華琳の不敵な笑みに、一刀は声を失う。これは完全な失言だと激しく後悔したが、今はそんな事を言っている

 場合ではない。華琳は一刀の傍に近づくと、おもむろに鍵を取りだし、首輪にある鍵穴に差し込み回した。

 すると、カチッと音が鳴り、鉄製の首輪が外れた。ようやく束縛から解放され、自由になった一刀。そんな

 彼の顔に、華琳の顔が不意に近づく。

  「か、華琳・・・さん?」

  「何を赤くしているの?ただの景気づけよ。さぁ、いってきなさいな」

  思わぬキスに動揺する一刀。だが、いつまでも悦に浸っていられない。気持ちを新たにし、一刀は予め用意

 していたゴーグルを装着すると、羽織っていた白色の布を脱ぎ捨てた。布の下には鉄壁の鎧、両腕に装備された

 肘から指の第二関節まで覆い尽くす盾と、背中に背負った規格外の斬馬刀が目を引く。しかし、腰には愛刀・刃

 をちゃんと据えている。

  「・・・・・・・・・」

  目を瞑り、深呼吸を一回、再び目を開ける。地面を足で慣らし、身を少し屈める。

  「よし!」

  そして、一刀は走り出した。

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  「う、・・・うぅ・・・ん」

  朦朧とする意識の中、翠は重い瞼をゆっくりと開く。だが、瞼を開けても周辺が暗闇に包まれているため、

 目を開けていても閉じていても、あまり変わり映えが無い。また近くに人がいる様子もなく、ここには自分しか

 いない。手が触れる所には何かが走っているようで、無機質の独特の冷たさが手に伝わり、更にそれを強めに

 押せばある程度まで押し返すだけの弾力があった。だが、周りが暗いおかげでそれが何なのかは分からない。

  「あたしは・・・、一体何処にいるんだよ」

  先が見えない場所に一人しかいない、そんな状況に心細くなってくる。翠は誰かいないのか、周りに何がある

 のかも分からない場所を手探りをしつつ動き回った。

  「おーーーい、誰かいないのかーーーっ!」

  大きな声で呼びかけるが、返って来るのは自分の声。それでも叫び続けた。その間も槍を使って周りに

 障害物が無いか確かめつつ、一歩一歩ゆっくりと前へと進み続けた。

  「誰もいないのかーーー、おーーーいっ!!」

  だが、一向に変化は訪れなかった。連続で叫んでいたため、そろそろ喉が渇き始め、ひりひり痛みを感じ

 始める。喉を擦りながら、翠は叫び続けた。

  「おーーーい、誰もいない・・・うわぁ!?」

  ドサァッ!!!

  何かに左足を引っかけ、翠はそのまま前に倒れる。

  「い、てて・・・、何であたしがこんな目に会わなくちゃいけないんだよ・・・」

  涙目に愚痴を零す翠。だが、そんな事を言った所で仕方のない。早く立ち上がって、誰かいないか探さないと。

 そう思い立ち、身体を起こそうとした時、翠は右手にある感触を感じる。

  「ん?何だ・・・軟らかくて、それに生温かいこの感触は」

  先程のものとは全く異なる感触、それに何処かで触った覚えのある。翠はそれが何かを思いだしながら、

 それを触り続けた。

  「こ、これって・・・もし、かして・・・」

  ほのかにその正体に気付きかけた時だった。突然、周囲が光に満ちる。暗闇に慣れていた翠の目はその光に

 耐えられず、反射的に瞼を閉じた。そしてゆっくりと瞼を開き、段々と光に慣れさせていく。時間をかけて

 ようやく慣れた目で翠は触っている何かを確認した。

  「う、うわぁあああっ!?」

  悲鳴に似た声を出し、鷲掴みしていた乳房を慌てて離すと、尻餅をついたまま後ろへと下がった。

 良く見れば、女性の体には黒く無機質な触手状のものが縦横無尽に絡みついている。女性に意識はない、目に

 生気が全く感じられない。いったいどうしてこの人はこんな事になっているのだろう。そう思いたった時、翠は

 ようやく自分がいる場所に気付いた。

  「・・・っ!?な、なな、な、なん、だよ・・・何だよ、ここはああああああ・・・っ!?!?」

  この空間を支配する異常性に翠の全身に戦慄が走る。

 目の前にそびえ立つは見上げても頂上が見えない巨大樹、漆で塗りたくれた様な表面が鈍い輝きを放ち、不気味

 さを醸し出す。巨大樹から伸びる蔓と根が今いる空間内を無作為に覆い尽くし、蔓に言えばもはや蜘蛛の巣だ。

 おかげでここが本来どのような場所なのか分からない。だが、それだけではなかった。巨大樹の幹には一人、

 二人・・・数えればきりがない程の数の人間達が埋め込まれているのだ。先程の女性と同様、根と蔓に絡まって

 いる者も多々いる。一体、この空間内に何人の人間がいるのだろう。翠はその想像を越えた光景に、思考は完全

 に停止し、ただただ呆気に取られる。

  「驚かれましたか」

  「!」

  呆然としていたあまり、翠は声を掛けられるまで背後に誰かがいる事に気付かなかった。翠は反射的に背後に

 立つ誰かに対して警戒をする。そして向こうがこちらに仕掛けて来ても、すぐ反撃できるよう身構えたまま後ろ

 を振り返った。

  「・・・私の事を随分と警戒されているようですね。無理もありませんが・・・」

  そこには、一人の女が立っていた。自分を警戒する翠に対して、特に警戒する様子も無く、仕方ないと割り

 切った感じでそう呟いた。

  「だ、誰だ・・・っ!こんな場所で、何をしているんだ!」

  ようやく出会えた人間に、翠は敵意を向ける。こんなおかしな場所に平然といるのだ。まともな人間である

 はずが無い。いくら翠でもそれは分かった。それとは対照的に、女は溜息を一つ吐き、やれやれと首を横に

 振った。

  「・・・我が名は祝融。最も、この名に大した意味などはありません。そして、私はここで『盤古零式』を

  管理しています」

  「ば、ばんこって何だよ!」

  「あなたの後ろに立っているモノです。こういった地下深い場所に生育させ、外史に設置された人形を利用

  する事で、我々の戦力である傀儡兵『颯(はやて)』を短時間かつ大量に生産する事が可能となりうる外部付加

  装置です」

  翠には祝融の言っている事が分らなかった。冷静でない頭は混乱する一方だ。意味が分らない、分かるように

 説明しろ、と言いたかったが、そう言えば相手に足元をすくわれそうで、負けた感じになると思ってしまう。

  「い、一体・・・この人達をどうするって言うんだよ、お前は!?」

  だから翠はこう言った。この盤古という植物に取り込まれた人間達はこれからどうなっていくのかを祝融に

 聞いたのだ。

  「どうする、と・・・先程の説明ではご理解頂けませんでしたか?颯生産のための材料にさせて頂くのです」

  「はやてって・・・もしかしてあの全身黒い奴らのことを言ってんのかよ!」

  「如何にも、あれが颯です。そして現在地上で戦っている物達はここで随時作られているのです」

  今ひとつ理解に苦しむが、とりあえずあれが悪い意味でやばいものだと言う事は理解出来た。

  「だったら、早くあれを止めやがれ!」

  「申し訳ありませんが、こちらにも都合がありますので今すぐに盤古の活動を停止させる事は出来ません」

  「うるせぇっ!そっちの都合なんてあたしが知るかよ!そっちがその気が無いなら、あたしが無理矢理にでも

  ・・・!」

  翠は槍を手に取り、盤古に近づいて行く。止め方など知っているはずもないが、とりあえず傷つければ、と

 手始めとして槍での攻撃を試みた。

  「おりゃあっ!」

  ブゥオンッ!!!

  だが、槍の先端は盤古の表面を貫かなかった。

  「え・・・、うわぁ!?」

  バシィッ!!!

  翠の攻撃は盤古から伸びる触手に容易く払われ、逆に触手の攻撃を受け、その場に尻餅を付いた。

  「い、てて・・・、な、うぉあ!」

  更に触手は翠の両足に巻き付き、そのまま逆さづりにし、動きを制限した。

  「くっそぉ、離せ・・・!離しやがれぇえええっ!!」

  全身を使ってばたつかせるも、逆さづりの状態では何の意味も無い。そんな翠に祝融はゆっくりと近づいて

 行き、そしてこう言った。

  「二つ、あなたにお伺いしたい事があります」

  「なっ、何だよっ!?」

  翠は祝融に対してわずかばかりの抵抗と睨みつける。

  「あなたは何がしたいのですか?ここへ来たのは一体何のためです?」

  「それは・・・、涼州を、皆を守るためだ!」

  至極当然の事だと、翠は質問の答えを祝融に答えると、祝融はふむふむと頷いた。

  「涼州を守る?成程、それは結構な事です。しかし、そのために実の母を死に追いやった、憎むべき仇敵と

  一緒にここへ来たと・・・?」

  「違う!あたしはもう誰かを憎んでなんかいない!あたしは、・・・いつまでも誰かを憎んでいるのは

  駄目なんだって!そう、気づいたんだ!!」

  その事を桃香様達を見ていて、翠は自分もそうあるべきなのだと思った。だが、祝融は彼女への質問をなおも

 続けた。

  「結構、結構・・・。とても素晴らしいお考えだと思います。で、それで捨てたはずの故郷に舞い戻って来た

  わけですか?」

  「違う!あたしは・・・、あたしは、涼州を捨ててなんかいない!」

  「では、何故今までこの地へと踏もうとしなかったのですか?」

  「そ、それは・・・」

  そう聞かれ、翠は今度は答えられなかった。それを反応を見た祝融は更に畳みかける。

  「先程、あなたはもう誰かを憎んでいるのは駄目だ、と仰っていましたが・・・。実際はどうでしょう?

  あなたは曹操孟徳を憎んでいない、とこの場で断言できるのですか?」

  「それ、は・・・」

  これも翠は答えられなかった。だから祝融は代わりに答えた。

  「出来る訳がありませんよね?あなたは未だに怒りと憎しみに囚われている。誰かを許すとか、そんな余裕が

  あなたにあるはずがないでしょう」

  ズシンと心に思い衝撃が走る。翠は祝融の言う事を否定する事が出来なくなっていた。

  「やめろ・・・」

  だから代わりにこう言った。こう言うしかなかった。

  「あなたが自分にそのような虚言を吐く理由、それは周りが自分より先へと行ってしまう、このままでは自分

  一人が孤立してしまう」

  「やめろ・・・・・・」

  翠は自分の心の中を見透かされている様な感じがして怖くなった。自分が見て見ぬ振りをしていたものが

 明るみになる事が怖くなった。

  「あなたはそれが嫌で、それで仕方なくと自分に言い聞かせ、周りの歩く速度に無理に合わせる。

  そうする事で自分は皆と同じなんだと安心したいからなので・・・」

  「やめろ・・・!もう、止めてくれ!もう、これ以上・・・、あたしの心をぐちゃぐちゃにしないでくれ

  ぇええええええええええええっっっ!!!」

  翠にはもう耐えられなかった。自分の決意を尽く踏みにじられるのに、耐える事が出来なかった。

  「もうやだ、嫌なんだ・・・っ!皆、皆あの頃から変わって、なのにあたしは!あの頃から何も変われて

  いない!そんな自分が、もう嫌なんだよ!自分だけが取り残されているような気がして、怖いんだ・・・っ!

  怖くて・・・、だから!あたしも変わらなきゃいけないって、そう・・・思っていたのに!」

  翠は祝融の言う事を認めた。ぎゅっと閉じられた目から一筋の涙が零れ落ちる。翠の心はぐちゃぐちゃに

 なっていた。そんな所に、祝融は追い打ちをかける。

  「・・・もう一つ、あなたは涼州の皆を守ると、そう先程仰っていましたね」

  「そ、それがどうした・・・」

  「では、ここにいる人間達を見て、あなたは何か気付きませんか?」

  えっ、と翠は改めてここにいる人間達の事について考え始める。そう言えばこの人達は何処からやって来た

 のだろう・・・と。

  「涼州に入り、ここに来るまでの道中、村、町・・・。おかしいとは思いませんでしたか?何故、誰もいない

  のかと」

  その助言で、翠はある一つの可能性を思いつく。だが、それは翠にとって否定したいものであった。

  「ま、まさか・・・」

  「答えは簡単です。いなくなった者達は皆、盤古によってここに集められ、そして颯に作り替えられたのです。

  戦闘の際にはここで生産された颯達を利用しました。全く、あなた方はこちらの都合も考えず、次から次へ

  と壊すものですから、ある程度設定が加えられている五胡だけでは生産がとても追いつかない・・・」

  「やめろぉ!もう、それ以上言うなぁああああああっ!」

  段々とその可能性が確信となろうとしている。翠はそれを何としても食い止めたかった。だが、祝融は話す事

 を止めなかった。

  「あなた達が殺めた颯達、そのほとんどが実は涼州の民達だったのです。あなたが守らねばならないと言った

  人達を、あなたは手に掛けていたと言う事です」

  可能性は確信へと代わり、確信は翠の心を粉微塵に打ち砕いた。

  「う・・・、う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

  悲鳴を上げる翠の心。砕けた心が涙に変わって目から流れる。今すぐにでもこの現実から逃げ出したい。

 これが夢であることを強く、強く望んだ。夢ならば早く覚めてくれ。早く悪夢から覚めてくれ。だが、一向に

 自分が覚める気配は無かった。何故ならば、今この瞬間が他ならぬ現実なのだから。

  「結局の所、あなたはあなたが言った事を何一つ為し遂げていないのです」

  「・・・・・・・・・っ」

  祝融の言う事など、翠の耳には届いていなかった。

  「さぁ、それよりもどうしますか?今あなたが泣いている間にも、涼州の民達は戦場に駆り出され、憎き

  曹操軍はその儚い命を次々と奪っています。あなたにこの盤古を破壊する事は不可能です。そんな状況の中、

  あなたに出来る事とは何でしょう・・・?」

  祝融は自分の顔を翠の顔に近づける。

  「今一度聞きます。あなたが成し遂げたい事、それは一体何なのですか?」

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  ビュンッ!!!

  ザシュッ!!!

  秋蘭の撃った矢が颯の眉間を射抜く。だが次から次へと絶え間なく颯達は出現する。先程の砂塵が上がった

 場所は大きく陥没し、そこより颯達が這い上がって来るのであった。

  「先程の砂塵は地面が裂けたために起きたものだったのか。この者達が這い上がって来るという事は、何処か

  へと続いているのは間違いなかろうな・・・」

  しかも陥没は大通りを完全に分断しており、ここより先、春蘭達がいる所まで行くには違う道を使い、迂回

  していく、もしくは両端に掛かる渡しが必要である。

  「どういう原理かは分からぬが、意図的に地割れを起こし、我々を分断したという事なのか?」

  いずれにせよ、この颯達を一掃しない事には迂回も渡しを置く事さえも出来ない。しかし、その颯達は陥没

 した箇所から現れ続けている。これではただ疲弊する一方である。と、そこに流琉がやって来る。

  「秋蘭様、言われました通り、渡しになりそうなものを大工屋さんから拝借してきました!」

  流琉は三m程の長梯子が六本束にしたものを両手にそれぞれ一つずつ持っていた。迂回も良いが、それには

 迂回路を探すという手間がかかるため、渡しを配置する事を決め、流琉達に渡しに利用できそうな物を探して

 くるよう、指示を出していた。

  「うむ、良く見つけてきたな。流琉、あとは・・・」

  あとは渡しを配置するために邪魔となる陥没場所周辺を陣取る颯達を片づける必要がある。それも短時間で

 こなす必要がある。そこで手間取れば、増援が出現し妨害されてしまい、いつまでも進めない。果たして、今

 ある戦力でそれが可能なのか、秋蘭は頭の中で想定していた時、思わぬ助け船が通過した。

  ドガァアアアアアアッ!!!

  突然、後方の方で十数体以上の颯達が何かに上空高く跳ね跳ばされた。秋蘭達は何事かと思わずそっちを見て

 しまう。そして戦場を駆けるそれを見つけた瞬間、彼の名前を叫んだ。

  「北郷っ!!」

  「兄様っ!!」

  華琳の元を離れ、一刀は猪の如く猛進ぶりで敵味方混じる戦場を駆け抜ける。両腕に装備された盾で前を

 固める事で鋼の塊となった一刀は、一か所に固まる颯達を見つければそのまま突撃、一瞬にして蹴散らす。

 それはまるでボウリングでストライクを取る感覚だ。一刀が過ぎ去った跡には、颯達の骸と彼が残した足跡。

 二つの盾の隙間から、一刀は何処に誰がいるのかを確認する。颯の数、味方の数、そしてその配置する場所を

 確認すると、左盾の裏側から五十p程の短戟を取り出す。

  「うぉおおおおおおっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  速度を落とさず、そのまま一体の颯の横を通過すると同時に短戟で斬り払った。そして次に右盾の裏側から

 短戟を取り出し、もう一度颯の横を過ぎると同時に斬り払った。

  「北郷・・・、あれでは姉者とそう変わらないな」

  「ふふっ、そうですね」

  颯達を短戟で倒しつつ、一刀は秋蘭、流琉の元へと近づいていく。秋蘭は一刀に向かって叫んだ。

  「北郷!この先は先程の地割れで陥没している!渡しを配置するためには奴等が邪魔だ!!」

  一刀は無言のまま秋蘭達の横を過ぎる、短戟を手渡しして。

  「一刀両断、受け取れよなぁっ!!」

  背中に背負った斬馬刀を手に取り、陥没場所周辺を陣取る颯達に力の限り横振りに放った。

  「どぅりゃぁあああっ!!!」

  ブウォオオオンッ!!!

  斬撃でと言うよりは振り払った際に生じた突風にて、颯達を上空へと一掃した。

  「っ!」

  そして一刀は減速せずそのまま陥没した場所を斬馬刀片手に軽々と飛び越えていった。一刀が駆け抜けた戦場

 は静寂に包まれ、秋蘭達は前へ前へと猛進するその背中に声援を送るのであった。

-11ページ-

  

  「桂花、状況は!?」

  「依然、城外との連絡が取れておりません。城門の破壊を進めさせておりますが、城門突破にはまだ時間を

  要すると思われます。また、先の奇襲により、前方に展開していた春蘭、季衣、霞、馬超、馬岱の隊が本隊

  より分断され、状況を把握出来ておりません。ですが北郷の単騎特攻が奏しましたので、本隊はこのまま前進

  させ、そのまま前方の部隊と合流、五胡連合軍を押し返します」

  「結構。開門作業を一刻も早く完了させなさい。あと、秋蘭と流琉には逐一状況報告をさせるようにしなさい。

  桂花は私の元で二人の報告を整理、良いわね?」

  「御意」

  華琳に一礼すると、早々にその場から離れる桂花。隊は前後完全に分断され、早くも戦況は混乱する。一刻も

 早く前方の隊と連絡を取らなくてはならない。

  「一刀、あなたはやはり・・・」

 

  ザシュッ!!!

  「うぎゃあああっ!」

  グシャアッ!!!

  「ぎゃあああっ!」

  麒麟による奇襲により、多くの部隊は混乱に陥る。二本の戟が戦場で猛威を振るい、兵士の命を奪う。

 麒麟の周辺には兵の死体が既に数十ほど転がり、その光景が兵士達に更なる追い打ちをかける事となった。

 身構えつつも麒麟から距離を取ろうと後ろへと下がる兵士達、その合間を掻き分け、逆に前へと飛び出した

 のは、一刀だった。

  ドガァアアアッ!!!

  「・・・ッ!!!」

  特に構え直す事もなく、低姿勢の状態から麒麟へと突進していった一刀。両腕に装備した盾を前に突き出し、

 そのまま麒麟にぶつかると、その巨体が浮立だった。後ろへと吹き飛ばされるのを見て、誰もが転倒するのでは

 と思ったが、麒麟はその巨体を巧みに操り、四本の足で再び立ち上がった。

  「ちっ、やっぱりそうは簡単に倒れてはくれないか!」

  一刀は斬馬刀を手に取り、身構える。麒麟も戟の先を地面に向け、一刀の動きを窺う。

  「北郷殿!」

  一人の兵が一刀に声を掛ける。

  「あいつは、俺の方で何とかしておく!今のうちに態勢を整えるんだ!」

  「は、はい・・・っ!」

  兵士たちは急ぎ負傷した者達をこの場より退避させていった。

  「・・・・・・」

  一刀の登場に合わせ、麒麟の背中に固定されていた内側の二本の腕が解放される。そして四本の腕が一斉に

 動く。それぞれの手に持つ戟四本を水平に広げ、下半身前脚を大きく上げる。前脚二本が同時に地面を踏み、

 足並みを揃えると、初速より全速力で駆け出した。

  「ふぅっ!」

  距離を瞬く間に縮められるが、一刀はその場から動かない。動かず、斬馬刀を横に大きく振りかぶる。

  ブゥオンッ!!!

  間合いに入って来た麒麟に横薙ぎを放った。だが、麒麟の巨体が斬馬刀が描く軌道上を易々と飛び越え、

 一刀の頭上をも飛び超えた。

  ドスンッ!!!

  麒麟が着地すると、地面が揺れる。地面を揺らしながら、麒麟は一刀から距離を取り、方向転換、再び一刀へ

 と突進していく。一刀は急ぎ、後ろへと体を向け直すと、斬馬刀を右肩に乗せて自分も走りだした。

  「ちぇええええええいッ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ガッゴォッ!!!

  一刀が振り下ろした斬馬刀の一撃を、麒麟は左側の二本戟で受け止める。そしてもう反対側の方で反撃した。

  ブゥオンッ!!!

  「うぉっ!?」

  一刀は咄嗟に左腕の盾で防御する。

  ガギィイイイッ!!!

  鈍い金属音、戟の刃が盾の強固さによって受け止められる。一刀は麒麟の戟をそのまま盾で押し返すと、

 斬馬刀を両手で握り直し、今度は斬馬刀を受け止める戟を強引に、力任せにいなした。

  ガギィイッ!!!

  二本の戟を撥ね退けると、そのまま自分の体を重心にし右に一回転、その勢いに乗せて斬馬刀を振り放った。

  ガゴォオオオッ!!!

  「ぐぅ・・・ッ!」

  しかし、その返しも四本の戟の前にその一撃は無効化されてしまう。四本の腕がそれぞれ互いを邪魔する事も

 無く、互いに連携し合い、手持ちの戟を巧みに操る。受け止められた斬馬刀は撥ね返され、一刀の体は浮立ち、

 体勢を崩される。そこに麒麟は容赦なく追撃を加える。

  ブゥオンッ!!!

  「うぉおおおっ!!」

  ガッゴォオオオッ!!!

  麒麟の放った戟の重い一撃、斬馬刀の刀身が直撃を防いでくれたが、体勢を崩した状態ではその一撃を受け

 切る事が出来ず、一刀は吹き飛ばされてしまう。

-12ページ-

 

  「はぁああああああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「グゥアッ!!」

  「ちょりゃぁああああああっ!!!」

  ブゥウオオオッ!!!

  ドガァアアッ!!!

  「グブゥッ!!」

  「はぁ・・・、はぁ・・・、これじゃきりがないですよぉ、春蘭さま!」

  「弱音を吐くな、季衣!こんなもの二年前の乱世程のものではない!」

  倒しても倒しても次々と襲いかかってくる五胡兵の攻勢に弱音を吐く季衣に、春蘭は得物を振り回し一喝する。

 背後の方では麒麟が暴れている。並みの兵士ではとても太刀打ちできる存在ではない。早くこの場の敵を片づけ

 ようと奮戦するも、一向に片付く気配が無い。

  「ブアァアアアアッ!!」

  そして二人に一人の五胡兵が襲いかかる。

  「ふぅっ!」

  ガッゴォオオオッ!!!

  春蘭は襲いかかって来た五胡兵が振り下ろした大剣を受け止め、撥ね退けるとすかさず反撃する。

  ガギィイイッ!!!

  だが、五胡兵は春蘭の一撃を左腕に持った盾で受け止めると、再び大剣で攻撃を繰り出す。

  ガッギィイッ!!!

  「甘いっ!」

  春蘭は五胡の兵の放った横薙ぎを横に受け流し、五胡兵の体勢を崩す。

  「はぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!! 

  ザシュッ!!!

  「・・・ッ!?」

  春蘭の放った斬撃は五胡兵を捉え、切り裂く。しかし致命傷には至らず、出血が激しいものの倒れる様子は

 無かった。するとその五胡兵の周りに他の兵達がわらわらと集まりだしてきた。

  「な、何をする気だ・・・?」

  一ヵ所に集まった五胡の兵士達の体が途端黒く変色し、たちまちに全くの別の姿形へと変貌した。

  「ひゃぁあああっ!・・・何ですか、あれ!!」

  「あ、あれは・・・!?」

  突然、五胡兵達が別の姿形になってしまった事に驚きを隠せない二人。それは他所で次々に起き、兵士達は

 動揺する。五胡の兵士達は黒尽くめの兵団、傀儡兵・颯へとその姿を変えたのだ。

  「こいつ等・・・、はぁああああああっ!!!」

  春蘭は単身、颯達へと突撃していくと、一カ所に集まっていた颯達は一斉に散開、左右より挟み込む形で春蘭

 に襲いかかった。

  「春蘭さま、危なぁい!!」

  ブォオオオンッ!!!

  季衣は左から右へと春蘭に襲いかかろうとする颯達を一掃するために鉄球を力一杯に振り回した。

 だが、先行していた二体が自ら身代りとなり、その一撃を受け止める。

  「そんな!・・・こぉなくそぉおおおおおおっ!!!」

  季衣は鉄球を振り回そうにも、二体の颯がそれを妨害しているため、思う様にも振り回す事が出来ない。

 それを横目に、切っ先を向け、颯達は次々と春蘭に襲い掛かる。

  「く・・・、私を舐めるなぁあああっ!!」

  ブォウンッ!!!

  一斉に襲いかかってきた颯達を春蘭は渾身の一薙ぎにて振り払う。だが、その一薙ぎを掻い潜った二体の颯が

 春蘭の眼前にまで迫って来ていた。

  「しまっ・・・!」

  防御が間に合わない、やられる・・・そう思った瞬間だった。

  「でやぁああああああっ!!!」

  騎馬に乗り、まさに神速の如き速さにて、霞が流れを一瞬にして変えた。

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  騎馬の速度を落とす事無く、すれ違い様に偃月刀にて一体の胴体を切り捨てる。

  「霞!っはぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュゥウウッ!!!

  霞に負けまい、と春蘭は七星餓狼を持つ両手に力を込め、残りの一体を頭上から斬り伏せた。

  「霞、どうやら借りが出来た様だな!」

  「ほんじゃ、終わったら後で酒を・・・って、そないなこというとる場合やない!春蘭、大変や!一刀が例の

  でかいのと応戦しとるらしいで!!」

  「な、何!?本当か、それは!」

  「ほんまな話や!せやから後ろに乗りぃっ!一刀を助けに行くでぇ!」

  霞は後ろに乗る様、春蘭を促す。

  「ふ・・・、面白い!神速に乗って戦場を駆け抜けるのも一興だな!」

  春蘭は霞の騎馬の後ろに乗る。

  「行くで春蘭!落とされんよう、気ぃつけや!!」

  「応!!」

-13ページ-

 

  無事、渡しを掛ける事に成功し、次々と陥没場所を超えていく兵士達。華琳達も渡り終え、急ぎ春蘭達の加勢

 に向かおうと本隊の先頭に立ち先を急ぐ。そんな時、朗報が入る。

  「華琳様!先程、城門の解放に成功したとの報告が入りました。直、凪達とも合流できるかと思われます」

  「そう。では、このまま敵軍を壊滅させるわよ。全軍、突撃っ!!!」

  「「「おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」

  華琳の飛ばした檄に呼応する兵士達。そして春蘭達が戦っているであろうその光景が目視出来る距離にまで

 近づいた時であった。

  はるか後方より、馬を手綱で操り、華琳率いる本隊の中を馬の持つ限界の速さで抜けていく者。四千を超える

 本隊の兵士達を瞬く間に追い抜くと、華琳の真横をそのまま通り過ぎる。この時、華琳は自分を横を過ぎようと

 する者の顔を横目に見た。一瞬ではあったが、見間違えるはずもなかった。

  「馬超・・・?」

  華琳は自分の前へと出た、翠の背中を見つめる。さすがは錦馬超、馬術では向こうが上か・・・、そう感心

 する一方で、彼女の様子がおかしい事を察した。すると、翠の乗せた馬が急に反転、逆走を始めた。

  「馬超!一体何処に行くというの!?」

  一体何事かと、隣の桂花が翠に向かって叫ぶ。後退するつもりだと思ってのその台詞。だが、翠は後退する

 つもりなど無かった。

  「・・・っ!」

  華琳は翠の視線を感じる。彼女の視線は明らかに華琳に向けられていた。

  「曹操・・・!あたしは・・・、あたしはっ!!」

  翠は何かを思い、槍を握る手に力が入る。華琳の線上に乗った瞬間、翠は馬の背中に両足を乗せ、背中を踏み

 台にして前上方へと飛び出す。

  「うわぁあああああああああっ!!!」

  槍を振り上げ、悲鳴にも似た叫び声を上げ、翠は華琳に跳びかかった。

  ブゥオンッ!!!

  翠の突然の裏切り、彼女は何も思い、何を以ってその決断を下したのか。この事態にはさすがの華琳すらも

 想定する事はできなかった・・・。

説明
 お久しぶりです、アンドレカンドレです。先月の11日、皆さんは大丈夫でしたか?僕はその日実家の茨城にいまして、被災しました。幸い家族、親戚、友人の間で死んだという人はいませんでした。たくさんの人が亡くなった中、本当に運が良かったです。

 更に大学も再開し、卒業研究のテーマを決めるなどして、あまり創作に割ける時間が減り、随分と時間が掛かってしまい、この作品を待っていた方々には申し訳ない気持ちで一杯です・・・。ようやく続きが完成しましたので、投稿します。

 今回、いよいよ涼州に入る一刀君達。その先で待ち受けるのものは一体!?前回同様、改訂前と比べ、大部分の内容を
書き直しました。もはや原型が無く、別物となっています(笑)。ただ個人的には改訂前のお話はかなり駆け足気味であまり質が良い物ではなかったと思っています。その辺りを踏まえ、登場するキャラは変更せず、きゃらごとの立ち回りを変え、話の流れを変更しました。

 では、真・恋姫無双 魏・外史伝 再編集完全版 第二十四章〜彼女の決意と迷いと裏切りと〜をどうぞ!!

 
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コメント
jackryさん、wktk頂きました!ありがとございます!ただの焼き直しで終わらない・・・、それが再編集完全版なのです!(アンドレカンドレ)
スターダストさん、挿絵の感想感謝します!実は僕も描き終わってモン○ンだって気付きました。まぁ、カッコよければいいかと思ってそのまま行きました(笑)。(アンドレカンドレ)
取り合えず絵の感想を先に、少し時間が無いのでまだ読んでいませんが、時間があるときにじっくり読ませていただきますので、読んだ感想はまた後日に)(スターダスト)
確かに別物ですね、しかし絵がとてもリアル感が出てきていてすごく見入ります、最早規格外だと思いました。ゴーグルが格好良いですね!そして鎧の上半身の部分がバイクライダースーツって感じがしました。足の部分は爪先部分が刃とフック状に成っていて戦闘力が高そうです。 しかしこの装備、何だかモン○ンにありそうですねwww(スターダスト)
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