バカとれでぃと大人のデート 前編
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 ユラユラと。

 

 微睡みの中で心地の良い揺れと体前面に広がる温もりを感じていると、すぐそばでお姉ちゃんの声が聞こえてきました。

 

「ごめんねアキ、葉月背負ってもらっちゃって」

 

「ぜんぜん起きなかったもんね、まああれだけはしゃいでたら疲れちゃうか」

 

 すると今度は本当にすぐそば、葉月の耳元でバカなお兄ちゃんの声も聞こえてきました。どうやら葉月は、バカなお兄ちゃんにおぶってもらっているようです。

 そうです、思い出しました。今日はお姉ちゃんがバカなお兄ちゃんの家に遊びに行くというので、葉月も付いてきたのでした。どうやらこの状況からすると、葉月は途中で寝ちゃったみたいですね。もっとバカなお兄ちゃんと遊びたかったのに……残念です。でも、お兄ちゃんにおぶってもらえたのはラッキーです。お兄ちゃんの背中は暖かくて気持ちよくて。ずっとこうしていたいです。葉月が起きたのに気づかれると下ろされちゃいそうだからしばらく寝たふりをしていましょう。

 

「……そうね。ねえ、アキ」

 

「なに、美波?」

 

「……ありがとうね」

 

「えっ、ああ気にしなくて良いよ。葉月ちゃんなら重さなんて全く感じないし」

 

「そうじゃなくって、それもあるんだけど……葉月、あんたといるとすっごいうれしそうだからさ。いつも葉月と遊んでくれてありがとうって意味」

 

「それこそ気にしないでよ。僕だって葉月ちゃんと遊んでると楽しいし」

 

 その言葉を聞いて少しほっとしました。いつもいつも葉月はワガママを言ってお兄ちゃんを困らせてしまうので、ひょっとしたらお兄ちゃんには迷惑に思われているかもしれないって。だから、お兄ちゃんがこう言ってくれてうれしかったです。でも……。

 

「それに、美波の妹なら僕にとっても妹みたいなもんだよ」

 

 バカなお兄ちゃんのこの言葉を聞いて、胸の奥がズキッと痛んだような気がします。二人はそんな葉月の様子に気づくことなく楽しそうにおしゃべりしていて、それがまた少し葉月の胸を締め付けます。

 

「えっ!?それって、将来の義妹――」

 

「きっと雄二や姫路さんだってそう思ってるよ」

 

「――なわけないか。まあアキだしね」

 

「あれっ、結構良いこと言ったつもりだったのになんかバカにされてる気がする」

 

「……はあっ」

 

「やっぱりバカにしてるよねっ!?」

 

「ふふっ、なんてね。冗談よ、冗談。そんなに騒いだら葉月が起きちゃうでしょ」

 

「……美波に言われるとなんか釈然としないな」

 

「はいはい、ごめんごめん」

 

「ずいぶん投げやりな謝り方だっ!!」

 

「まあ、感謝してるのはほんとよ」

 

「なら、いいけどさ……」

 

「ほらっ、そんな細かいこと言ってないで、急いで帰らないと、もう真っ暗じゃない」

 

「わっ、そんなに早く歩かないでよ。葉月ちゃん背負ってるんだから」

 

 

 

 

「………………バカなお兄ちゃんにとって葉月は妹ですか」

 

 

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「む〜、これはゆゆしき事態です」

 

 次の日、ちょっと考えなきゃいけないことがあって、葉月は小学校が終わってもまっすぐ帰らずに公園のブランコに座っているのです。もちろん考えているのは昨日のバカなお兄ちゃんの台詞。

 

『僕にとっても妹みたいなものだからね』

 

 その後のお姉ちゃんの勘違いは寝た振りとか胸の痛みとかいろいろ忘れて笑っちゃいそうになったけど、今回はどうでもいいのでカットしますです。今重要なのはバカなお兄ちゃんの方なのです。

 葉月も立派なれでぃでお兄ちゃんのお嫁さんだっていうのに、妹はヒドいです。確かにバカなお兄ちゃんの周りにはきれいなお姉ちゃんみたいに美人で頭も良くてお胸もバインバインな人がいて、葉月はお兄ちゃんより年下だし背も低いしお胸も小さいですし………………。

 と、とにかくっ! このままではお兄ちゃんの正妻としても問題があるのです。何とかしなければいけないのです。でも、いったいどうすれば……。

 そういえば前にお兄ちゃんが大人のデートをしてくれるって言ってくれたけど、まだ行ってなかったです。大人のデートってなにをするんです? 前はお兄ちゃんに任せればいいかなって思ってましたけど、変な失敗しないためにもあらかじめ予習しておいた方が良いのではないですか?

 

「問題はどうすれば大人のデートについて調べられるのでしょうか」

 

 身近な大人と言うとやっぱりお姉ちゃんですか? ふ〜む……。

 頭の中に、いつものお姉ちゃんを思い浮かべてみます。

 

 葉月のお姉ちゃん。いっつも明るくて、葉月の面倒をみてくれて、うちは普段お父さんもお母さんもいないからお姉ちゃんがお母さんの代わりをしてくれて。葉月はお姉ちゃんが大好きです。でも……。

 思い浮かぶのは葉月ににっこり笑いかけてくるお姉ちゃん――のある一部。ぺったんこです。断崖絶壁です。活発なお姉ちゃんがいくら動いてもちっともゆれません。やっぱり大人の女性と言えばバインバインのナイスバディですよね。……葉月はこれからなので問題ないのです。

 

「ともかく、ぺったんこのお姉ちゃんには用はないのです」

 

 いくら葉月がお姉ちゃんのことを好きでもそれとこれとでは話が別です。いくら年上でも、一部が葉月と変わらないような人から聞くことなんてないのです!

 

 

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「「「くしゅっ」」」

 

 Fクラスで集まって雑談をしていたのじゃが、突然島田、姉上、工藤の三人がくしゃみをしおった。三人そろって風邪でも引いたのじゃろうか。

 

「どうした、三人そろって風邪か?」

 

「こんな時期に珍しいね?」

 

 雄二と明久もそう思ったようじゃ。

 何というか、ワシの偏見ではあるのじゃが、三人とも風邪を引いてもおかしくなさそうな寝方をしておりそうじゃからの。姉上は寝るときどころか家にいる間はずっとラフな(これでもオブラートに包んだ物言いじゃが)格好をしておるし、島田はなんというか寝ている間暑がって布団を蹴飛ばしていそうじゃし、工藤は……あの性格じゃからの。姉上よりひどい格好をしていそうじゃ。

 そんな感想を持っていたのを感じ取られたわけではないじゃろうが、島田たちはなにやら不愉快そうな顔をしておった。

 

「う〜ん、そんな感じじゃないのよね。なんか誰かに悪口言われたような……」

 

「島田さんも? 実はアタシもなのよね」

 

「優子もそういうってことはボクの勘違いっってわけじゃなさそうだね」

 

 ふむ、聞いた感じじゃと誰かに噂をされてくしゃみをしたようじゃな。

 

「そうなんですか?私はなにも感じませんでしたけど……」

 

「……私も特には……」

 

 どうやら姫路と霧島は特になにも感じていないようじゃな。ということはあの三人共通の悪口でも言われたということになるのじゃろうが、ここでありえそうな悪口と言うことは。

 

「この三人の共通点っつうと、ああ、なるほど」

 

 どうやら雄二は思い当たることがあったようじゃな。見ればムッツリーニもひそかに頷いておるし。この三人の共通点といえば一つしかないじゃろうな。まあ、明久はわかっておらんようじゃが……。

 

「え、なに雄二。なにがなるほどなの?」

 

「……身体的特徴」

 

「ムッツリーニまで、って身体的特徴ってことはひょっとして胸がペッタン――」

 

「「「ていっ」」」

 

「――ぐはぁ」

 

 ムッツリーニの一言でようやく明久も気づいたようじゃが……。わざわざ口に出すあたりが明久の明久たるゆえんじゃな。ある意味いつも通り、島田、姫路、姉上の三人同時攻撃を受けて昏倒しおった。

 

「ア〜キ〜、誰が貧乳だって?」

 

「明久君、女の子に向かってそんなことを言うのはどうかと思うわよ」

 

「あ、明久くんっ。いつも美波ちゃんばっかりみて。エ、エッチなのはいけないと思いますっ」

 

「……口は災いの元」

 

「なにやってんだ明久(ズドッ)目が、目がぁああああああっ」

 

「……雄二、ほかの女の子の胸元をみるなんてだめ。みるなら私のに」

 

「誰がおまえの胸なんかみるか!」

 

「……それはそれで許さない」(バチバチバチッ)

 

「あばばばばばっ」

 

 その様子を眺めておったら、今度はまたいつも通りよくわからん部分に嫉妬した霧島の攻撃を受けて雄二がのたうち回り始め、

 

「そういえばムッツリーニ君、さっきの台詞はムッツリーニ君もボクたちのことをぺったんこだと思ってるってことでいいのかな?」

 

「……事実を言ってなにが悪い」

 

「いやいや、別に悪くはないよ。だけどね、ムッツリーニ君」

 

「……?」

 

「胸が小さいってことは、襟元から覗くと奥の方まで見えるってことだよ」

 

「……!?」

 

「ふふっ、ちょっとこっち見てみる? ボク、ムッツリーニ君が相手なら別に良いよ?」

 

「……!!」(ぶしゃぁああああああああああああっ)

 

 ムッツリーニは工藤によって血の海に沈められた。

 

「……なぜワシ等の周りはこうも簡単に阿鼻叫喚の地獄絵図が広がるのじゃ?」

 

 

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ピュキーーンッ

 

「はっ、何か今バカなお兄ちゃんがひどい目にあったような気がしますです」

 

 特に根拠はないですが、なぜかそんな気がしました。いわゆる女の感という奴です。バカなお兄ちゃん、大丈夫でしょうか?

 

「………………まあ、いつものことですし、きっと無事なのです」

 

 どうせまたお姉ちゃんのことをペッタンコとか言って怒らせたに違いないのです。もう少し学習したほうがいいんじゃないですか、バカなお兄ちゃん。周りにはきれいなお姉ちゃんとかしっかりした大人の人が多いのですから。

 

 ……まあ、そんなおバカなところもお兄ちゃんらしくて葉月は好きですけど。

 

 そういえばバカなお兄ちゃんたちは高校生ですよね。高校生と言えばもう立派な大人ですよね。だったら、お兄ちゃんの周りにいる人はみんな、大人のデートがどんなものか知ってるってことですよね。

 

「……そうですっ、文月学園に行って、きれいなお姉ちゃんたちから大人のデートを教わるのです。バカなお兄ちゃんにも会えて一石二鳥です」

 

 我ながら良い考えです。そうと決まった早速文月学園に向かうです。待っていてください、バカなお兄ちゃんっ。

 

説明
どうもおひさしぶり、naoです。
今回は葉月メインでお送りいたします。正直葉月のキャラがうまくつかめていないのですが、よければ見ていってください。
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コメント
葉月ちゃんは純粋すぎてひどいことを言っても怒れないな(VVV計画の被験者)
そう言えば葉月ってピュアな女の子だったなあとこれ読んで思い出しました。そして明らかに負けに行っている彼女に乾杯♪(枡久野恭(ますくのきょー))
タグ
バカとテストと召喚獣 葉月 

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