竜鎧?戦記 〜ドラゴニック・クロニクル〜 02
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02 呼ぶ声 

 

 

 ジリリリリッ!!

 

 部屋に差し込む朝日と共に、けたたましい音が部屋の中に響き渡る。

 

「ううぅ〜ん…」

 

 ジリリリリ…ガン!

 

 うめき声と共に布団の中から伸びてきた腕が目覚まし時計のボタンを強く叩き、時計がベルの音を止める。そしてのっそりと布団から起き出したのは、黒い髪をツンツンにはねさせた青年。この部屋の住人である、剣裂悠斗である。

 

「ふわぁ〜あぁ」

 

 大きく伸びをしながら大あくびを隠すことなくする。時刻は午前五時。高校三年生としては早起きの部類に入るだろう。しかし、悠斗にとってはそれが日常である。

 

 まだ少し寝ぼけ眼の状態で、悠斗は二階の自分の部屋から一階の洗面所へと足を運ぶ。無論、顔を洗うためだ。

 

 水道のハンドルを回して水を出し、バシャバシャと冷水で顔を洗う。悠斗としては、季節として秋に差し掛かったこの頃は少し水が冷たいと感じるのは、気の所為では無いだろう。

 

「ふぅ…」

 

 顔を洗い終え、さっぱりした所でタオルで顔を拭く。少し冷たい冷水は、寝ぼけていた悠斗を起こすのにはちょうど良かった。

 

「さて、と。今日もやるか」

 

 そう独り言をつぶやき、誰も居ないリビングへと足を向ける。リビングはテレビと食卓、その他生活用品がいくつかあるだけで、あまり多くの人が住んでいるようには感じられない。実際、悠斗は4LDKの二階建一軒家に一人暮らしなわけであるから、当たり前のことである。

 

 悠斗はリビングの端に飾られている一本の刀に手を伸ばすと、それを手にして庭へと出る。秋の早朝は少し肌寒く、それがまた気持ち良いとも思える。

 

 悠斗は裸足で庭の真ん中に立つと、鞘から刀の抜き放つ。透き通るような輝きを持つそれは、模造刀の類では無く、明らかに真剣が放つ輝きであった。鞘を地面に置き、正眼の構えを取る。幼い時から毎日欠かさず続けてきたそれは、下手に近づけばすぐさま刀の錆になる。そう感じさせるほどの威圧感を放っていた。

 

「……」

 

 正眼の構えのまま目を閉じ、静かに呼吸をして神経を研ぎ澄ませる。明鏡止水の心を持ち、曇りなき眼で刀を振るう。それが、はるか昔から剣裂家に代々伝わる対人剣術、剣裂流の教えである。

 

 精神統一を終えた悠斗は、構えを八相の型へと変える。そして、

 

「…せいっ!」

 

 気合と共に鋭い袈裟斬りを放つ。そしてそのまま剣裂流の基本の型へと繋げて全て流し、それから自分が編み出した技の練習へと移る。その動きは、世の剣術家が見たならばそれだけで自信を失うであろう。それほどまでに、悠斗の動きは常人を逸脱した動きであった。

 

 剣裂流剣術は、剣術家たちの間では知らない者がいないほど有名である。数百年も昔から続く剣裂家と、代々受け継がれる洗練された剣の技。その技を得るために、過去に何人もの剣術家が門を叩き、そして挫折していった。

 

 いや、挫折せざるを得なかったというのが正しいのであろう。

 

 昔から剣裂家の人間は、一般の人間と比べて身体能力が恐ろしいほど高いのだ。それは筋力然り、俊敏さ然り。動体視力や反射神経もだ。その家に伝わる技も当然、それに合わせた物となる。悠斗の父と祖父も例外では無く、祖父に至っては80歳になっても引きしまった筋肉を持つ体であったのを、悠斗は良く覚えている。無論、父もそうであった。

 

 しかし、いくら身体能力が高いと言っても所詮は人間である。だからこそ、父と母、そして祖父は事故で命を落としたのだ。

 

 今日で悠斗以外の家族が死んで一年。事故当時は悲しみに暮れた悠斗であったが、今はもうしっかりと現実を受け止めている。だからこうして、剣裂流の継承者の名に恥じぬよう技を良磨き続けているのだ。

 

「…ふぅ」

 

 一通りの型を流し終え、悠斗は刀を鞘へとしまう。リビングを覗けば既に六時。思ったよりも集中していたようである。あらかじめ用意してあった濡れタオルで足を拭き、リビングに入ると手早く朝食の用意を済ませ、制服に着替えて朝食を食べる。今日は日曜日であるのだが、所属している剣道部の大会が近いので練習に赴くのである。

 

「ご馳走様」

 

 何時もの癖でそう言い、洗い場に食器を置く。そして閉じまりと電気の確認を済ませると、玄関に置いてある竹刀袋を肩にかけ、トレーニングも兼ねたランニングで学校へと向かうのであった。

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「面あり、一本!」

 

 審判を務める部員が旗を上げて言う。これで十連勝。と言うのは、悠斗一人に剣道部員が全員で勝負を挑むもののことである。当たり前ではあるが、もちろん勝者は悠斗である。

 悠斗は主将である。実力からして十分頷けるが、本来なら大学受験で忙しいはずの三年生が引退もせずに未だに主将をしているのは普通ならあり得ない。なのに主将をしているのは、悠斗が進学をしないからである。

 

 悠斗は別段あまり進学には興味が無い。学びたいのなら自分で学べばいいし、必要な物が有れば自分で調達すればいい。幸いなことに、人脈と資金は豊富にある。

 

 それを学校の教師たちも知っているので、進学の事に関しては口を挟まないのだ。それに学校側としては悠斗のおかげでみるみる剣道部が強くなっていくのだから、これほど嬉しい事はないというのも、理由の一つである。

 

「う〜む、やはり剣裂の腕前はすさまじいな。それだけの腕がありながら全国大会に出場しないのはもったいないぞ」

 

 剣道部の顧問である鈴木先生が顎を撫でながらそう言うのに、悠斗は苦笑を交えて答える。

 

「それはダメですよ。俺は本職なんですから」

 

「まあ、そりゃそうなんだが…」

 

 全国の高校生が汗水を流して努力をし、歯を食いしばって頑張ってやってきたと言うのに、その道を本職である自分が阻むのは流石に悠斗には気が引けた。別に自分の強さにおごり高ぶっているわけでは無い。剣裂流は対人剣術。つまりは人を相手にするのに特化した剣だ。そして自分は生まれながらの剣術家。普通の高校生とは歩いてきた道が違う。その自分が世間一般の道に立つ事がお門違いなのだ。

 

「いいんですよ鈴木先生。だってそのかわり、俺の自慢の後輩たちがちゃんと結果を残してくれてますから」

 

 にかっと笑ってぜーはー言っている後輩たちの方へと悠斗は目を向ける。悠斗が高校二年生で主将になってからは、賞状の一つも飾られていなかったこの剣道場に、今は十以上の賞状が飾られている。地区大会から県大会。全国大会優勝の賞状もある。どれもみな、後輩たちが厳しい練習を耐え抜いて手に入れた勲章であった。

 

「全く。お前みたいな主将は、何処を探してもそう居ないだろうな」

 

「剣術家の高校生だなんて、今の日本には多くないですよ」

 

「バカ、それだけじゃねえよ」

 

 鈴木先生は笑いながらそう言う。何がそれだけではないのか悠斗には分からなかったが、嬉しそうな顔で生徒たちを見るその顔に、そんな事はどうでも良いと思ってしまう。

 

「お、時間だな。…おーい、お前ら。防具外して十分休憩だ。存分に休め〜!」

 

 うおおぉぉ! っと、声を上げて喜ぶ後輩たちに、悠斗は思わず苦笑してしまう。まあ、それだけ自分の組んだ練習は大変なものなのだろう。それについてくる後輩たちは、やはり偉いと思う。

 

 そんな事を思っていると、悠斗の肩に鈴木先生の手がポンっと置かれる。

 

「お前も休めよ。お前が鍛えた後輩なんだ。流石に十連戦はしんどいだろ?」

 

「この程度で疲労するほどヤワな鍛え方はしてないですよ。でもまあ、少し風に当たってきます」

 

 悠斗は防具を外してそう言うと、道場の入り口から外へと出た。

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「やっぱり、ここは落ち着くな」

 

 悠斗は道場の裏手に設置されているベンチに腰かけそう呟く。この場所は、悠斗が剣道部に入部してからのお気に入りの場所であった。周りは木に囲まれてちょっとした森林浴になるし、風の通りも良くて気持ちが良いのだ。さらに言うとこのベンチは、廃棄処分になりそうだったものを悠斗が譲り受けて改修した物だ。少し古いデザインの金属フレームに、何故か木製の板が渡されている。このちょっとしたミスマッチも、町の中の森林浴場であるこの場所にはピッタリだと思う悠斗である。

 

「……」

 

 悠斗はしばし考える。それは、最近毎日のように見るようになったあの夢の事だ。二人の男が宙を舞って剣を交えあい、魔法や竜など、いかにもファンタジーと言った言葉が出てくる夢。単なる夢ならば、自分のたくまし過ぎる想像力に身悶えするだけで済むのだが、しかし悠斗にはそうは出来なかった。

 

 あまりにも現実から離れた内容だと言うのに、何故かそれが本当にあった出来事の様な現実味を帯びていると感じるからだ。

 

 現実からかけ離れているのに、現実味を感じる。矛盾しているのは分かっているが、それでもただの夢であるとは一蹴できなかった。

 

「(一体、何だって言うんだ…)」

 

 もやもやとした感じに、無意識に溜息をついてしまう。…その時だった。

 

 キィィィィン!!

 

「ぐあぁ!!」

 

 甲高い音と共に、強烈な頭痛が突然悠斗に襲いかかった。頭を割られる様な激痛に、流石の悠斗も地面に膝をつく。

 

『け……く…よ。たた……の…きが…た』

 

 頭痛に苦しむ悠斗に、頭に直接響く様な声がする。途切れ途切れで内容は良く分からない。いや、それ以前に頭痛の所為で思考がちゃんと働かない。

 

「ぐっ…つあぁ!!」

 

 さらに激しさを増す痛みに、もはや膝をつくことすら叶わず悠斗は地面に倒れる。

 

『契約者よ。戦いの時が来た』

 

「(戦いの時…だと。一体、何の事だ)」

 

 それに契約者とは一体何の事なのか。自分に向けられている言葉である事は分かるが、その内容はさっぱりわからない。

 

 キィィン! キィィン!

 

「……っ!!」

 

 最早痛みで声も出ず、指一本動かす事は出来ない。

 

『我は汝との契約を求む。契約者よ。汝は我との契約を求めるか?』

 

 先程から頭に響くこの声は、一体何を言っているのか? 悠斗にはまったくもって理解できない。言葉に中につい最近聞いたものが有る様な気もするが、激しい頭痛によって正常な思考が出来ない今の悠斗には、それが何処での事かは思いだせない。

 

「(お前と契約すれば、この状況から抜け出せるのか!)」

 

 声に出してそう言ったつもりではある。が、恐らくは言葉になっていないだろう。しかし、何故か悠斗は、自分の言葉が相手に伝わっている様な、そんな気がした。

 

『恐らくは抜け出せるであろう。…汝は、契約を望むか?』

 

 その証拠に、頭の中の声は自分の問いかけに即答する。ここで「はい」と言うのは、ハッキリ言って愚かな行動以外のなにものでもない。しかし悠斗は、今はただ、この痛みをどうにかしたいとそう思った。だからこそ、普段では絶対にしないような事もしてしまったのだろう。

 

「(分かった。お前と契約する!)」

 

 悠斗は消えそうになる意識の中、何とかその言葉を捻りだした。

 

『よかろう。ここに契約は交わされた。我の力を汝に、汝の魂は我と共に』

 

 頭の中の言葉がそう言った、その瞬間。

 

 ドクン!

 

 悠斗の中に、何か力の奔流の様なものが流れ込んできた。そして同時に、体全身に例えられない程の痛みが走った。

 

「ぐああぁぁぁーっ!」

 

 雄叫びの様な叫び声を上げる悠斗。視界が痛みのあまりにスパークし、白い光に包まれる。しかし、それは違った。本当に自分の体が白い光に包まれているのだ。

 

「(こ、これは…)」

 

 薄れゆく意識の中、気を失う前に確かに悠斗は見た。自分から少し離れた所から、夢で見たあの男が自分に強い意思をこめた眼差しを向けているのを…。

 

 

 

説明
プロローグだけでは何なので、ちょっと無理して連投です。

ちなみに今回から主人公が出て来ます。

それでは、どうぞ。
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タグ
異世界  ユニゾン 魔法 戦闘  友情 ファンタジー 

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