真恋姫無双〜風の行くまま雲は流れて〜第66話
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はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください

 

 

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「霞様…良くぞご無事で」

 

城門が閉じられるとともに飛び込んだ声に視線を移せばそこには満面の笑みを浮かべた凪の姿があった

まるで主人の帰りをずっと待っていた子犬のように今にも飛び掛りたい思いを必死に抑え、そこに本物の尾が生えていたならば千切れんばかりに振っていただろう

 

「たでーま凪…ええ子にしとったか?」

 

迎える凪の頭を撫でながら白い歯を見せる霞、だがその声は低く

 

「華琳は玉の間か?」

「はい…ですが今は」

 

彼女より一刻ほどに前に入城してきた秋蘭とともについて来た来訪者…そして袁家当主との面談中だと凪が伝えてくる

 

「そか…丁度ええわ」

 

そういうなりずんずんと進んでいく霞、その時になり凪はようやく彼女の隣の存在に気づく

 

「霞様…その」

 

呼び止める凪に霞の口からついて出た言葉は彼女の疑問とはまるで別方向の回答

 

「凪、表の部下全員城内に戻せぇ…外の連中の見張りは不要や」

「は?」

 

まったく意味を理解できずにいる凪に振り返ることなく霞は手をぶんぶかと振って去っていく

 

「ちゃんと戸締りしとくんやでぇ」

 

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「放して!」

 

玉の間に少女の悲鳴めいた叫びが響いた

 

少女…桂花の両脇を稟と一刀が押えつけながら彼女に向けて自制をと必死に呼びかけるが

 

「うるさい!うるさい!うるさい!」

 

騒然とする玉の間にあって彼女の叫びは一番の響き

 

「殺してやるんだから!あいつを殺してやるんだから!!」

 

視線の先、もはや視界もぼやけ当の表情など読み取れもしない…が、彼の足元に転がるそれが何であるか

 

それが『誰』であるか

 

彼女は見間違う訳もない

 

「よくも!よくも!!よくも!!!」

 

日ごろヒステリーを起こしやすい彼女ではあるがここまでに我を失った姿には彼女を知る誰もが息を呑んだ

 

そしてその姿に

 

壁を背に凭れ掛かるように立つ秋蘭は視線を向けることもできずに宙を見つめていた

 

「一刀…桂花を部屋まで連れて行ってくれる?」

 

玉座からの声に桂花を押えつけていた一刀の顔色は何か言いたげに曇るものの桂花の腰に手を回すと一気に肩に担ぎ、一礼をして玉の間の扉を閉めた

 

「放して!放してよう…」

 

心痛なまでの彼女の叫びがフェードアウトしていき…やがて消えた

 

それまで眉根をひそめ瞳を閉じていた彼女が瞼を押し上げた先には

 

困惑した表情の少年、俯いたまま顔も上げず押し黙っている麗羽

 

表情を読み取れずとも、その瞼が腫れていることは見て取れた

 

そして

 

「…貴方と…一度語り合ってみたかったのだけどね…」

 

額、そして鼻から頬にかけて傷跡を残した

 

この戦の宿敵

 

玉座から腰を上げ『彼』の前まで歩を進めるとゆっくりとしゃがみ込み、血で固まった髪を人差し指で撫でる

 

「我が忠臣に触れるな」

「何か言ったかしら負け犬」

 

目線を向けここに来てようやく二人の視線が交差する

 

「彼が哀れでならないわ…貴女のような凡俗についたばかりに」

「袁家筆頭軍師が彼の誇りですわ…それを侮辱しないでくださる?」

 

(笑わせてくれる)

 

鼻に皺を寄せ侮蔑の視線を彼女に向ける

 

「彼がその非凡の才を発揮されるは王の為…貴女ではないわ麗羽」

 

見下ろす先の彼女の瞳が大きく見開かれる

 

「彼を使いこなせないばかりか死に至らしめたその愚…見過ごすはそれこそが彼の死の冒涜だわ」

 

玉の間の扉に立つ兵へと目を見やり顎で促す

 

「牢へ入れておきなさい」

 

兵によって立たされる麗羽、その鼻先に触れるほどに近づき

 

「…戦の始末が終わったなら真っ先に首を刎ねてあげるわ…その自慢の髪ごとね」

 

土を被りボサボサの彼女の髪を一房掴み上げ、満面の笑みで微笑む

 

牢へと送られる彼女を見送り逢紀へと向き直ったその時、乾いた笑いを込めた声が玉の間に入ってきた

 

「おう!ここにおったんかいな♪」

 

まったく台無しにと彼女に視線を向けたとき

 

「…?」

 

彼女が纏ういつもと違う雰囲気に首を傾げる

 

その横で

 

少年の喉がごくりと鳴った

 

「なんや久しぶりやっちゅうにウチに挨拶もせんと…ああもう、ほんまいけ好かん面やなぁ♪」

 

仮とはいえ玉の間というのに帯刀どころか振りながら近づいてくる霞

 

彼女が手首を捏ねる度

 

ブオンブオンと飛龍偃月刀から風を切る音が響いた

 

「なんで…貴様が此処に…」

 

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「何故…貴女が此処に…」

 

牢に押し留められるや兵とすれ違いに入ってきたのはかつて自身が漢王朝が仇敵と呼んだ一人の少女

 

冷たい笑みを浮かべ此方を見下ろしてくる

 

牢というこ狭な空間にあって『入れられた者』と『自ら入って来た者』二人の間には明確に線引きがなされていた

 

「ご無沙汰しております袁紹さん」

 

なんの他愛もないその挨拶に彼女の身の毛がお立つ

 

光を拒むかのような暗い彼女の瞳が震える彼女を見下ろす

 

「ふん…『泥棒猫』が私に何の用ですか」

 

虚勢を張るも尚も震える彼女に月はどこまでも優雅に−冷たく微笑みかける

 

「泥棒猫…言い得ていますね」

 

麗羽にしてみればそれは正しくに…彼女から彼を取り上げた怨敵

 

そのことが月にはとても可笑しく

 

とても悲しく思える

 

「よくも…図々しくも私の前に顔を出せたものですわね」

 

辞職の願いを受理したとき、彼女は内心の怒りを抑えるのに必死だった

 

少なくとも彼女の想いはその他のお気に入りとは違う…本物だっただけに

 

彼を見返すつもりで

 

彼の存在を心のうちから抹消した

 

それが今

 

その原因が目の前で笑っている

 

初めて

 

自分を惨めだと思った

 

「貴女があの人を奪ったりしなければ…こんなっ…」

 

その先は言葉にならず、彼女の嗚咽だけが牢の中に響き渡る

 

やがて

 

ひんやりとした小さな手が

 

彼女の頬に触れる

 

「泥棒…その言葉を…私は否定しません」

 

両手を縄で縛られる彼女の代わりにその涙を拭い

 

「あの人は優しくて、優しすぎて私の願いを聞きうけてくれました…私の傍に居てくれると…だから私もあの人を求めました…あの人がそれを拒まないことを承知で」

 

聞きたくもない…だというのに彼女の暗い瞳が、彼女を見つめる瞳がそれを許さない

 

「…あの人が来ます。貴女の為に」

 

何をと呆ける麗羽を余所に月は彼女の頬を撫で続ける

 

「あの人が来ます…貴女を求めて…貴女が大切だから…貴女が、貴女だけが愛おしいから…誰彼に虚勢を張って…誰彼からも非難を浴びることになっても…貴女だけの為に」

 

彼女の瞳にようやく灯った光はその頬を伝い、流れていく

 

「私はそれがとても…羨ましくて」

 

いつの間にか彼女の手には一本の小刀が握られており、その鞘が床に滑り落ちた

 

「ほんの少し…妬ましい」

 

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それは突然に

 

玉の間に慌しく入り込んだ兵が息を切らせながら礼を取る

 

何事だと声を上げる秋蘭を一瞥で押し留め華琳はその兵へと向き直る

 

「報告!袁紹陣営より本隊が出陣!」

 

それまでの空気が一遍し再び騒然となる

 

「本隊ですって!?」

 

意味がわからない

 

総大将たる袁紹はこの城の牢にいるというのに

 

「確かなのか」

 

詰め寄る秋蘭に兵は再度「はっ」と再度一礼し

 

「およそ一万余…折れ曲がった『袁』の牙門旗を掲げ此方に進軍中であります!」

 

兵の報告とともに霞が「あっ」と声を上げた

 

「忘れとったわ華琳!あんたの首を貰い受ける言うてたわ♪」

 

瞬間、周囲から鋭い視線が霞に突き刺さるものの、何処吹く風と彼女はすり抜ける

 

「一体誰が…?」

「決まってるやろ」

 

にっしっしと一頻り笑った後、霞は恭しく一礼をとった

 

「袁家にはそれはごっつう美人な袁紹ご自慢の将がおること…忘れてはないかい?」

 

その言葉に曹魏の何れもが息を呑んだ

 

「…張口…奴が」

「ほんま退屈やったこの戦も…ようやっとおもろくなって来たやろ?」

 

すくっと立ち上がる霞は尚も満面の笑みを浮かべ

 

「そんでな…捕まえたばっかりのところ申し訳ないんやねんけど…袁紹な…逃がしたったわ♪」

 

呆気にとられる面々…そして

 

「貴様あぁ!!」

 

沈黙を打ち破り胸元に掴みかかる秋蘭に霞は「はあ〜」と息を吹きかけた…酒臭い息を

 

「っ!?」

「ごめんなぁ…交換条件やったさかいに…ウチの解放の」

「なっ!?」

「ほんま堪忍やでぇ」

 

一切の感情もなしに棒読みに詫びる霞ともはや言葉もない秋蘭

 

そして覇王は

 

「ぷっ…あーはっはっは♪」

 

目尻に浮かんだ涙を掬いながら霞の肩をポカポカと叩いた

 

「やってくれたわね霞…まったく貴女、いや『貴方達』は」

 

尚も込上げる笑いにしばらくそうして腹を押さえていた後

 

「逢紀」

 

事態を飲み込めずに居た少年へと振り向き

 

「貴方を歓迎しましょう♪早速なんだけど逃がしてしまった袁紹…首だけで構わないわ!…此処に連れ戻してくれるかしら」

 

妖しく光るその瞳の奥の真意さえ汲み取れぬ少年に

 

「見事達成した暁には褒美として…そうね、貴方の願いを一つ叶えましょう♪」

「曹操殿それは…いかなる願いとても?」

「くどい!」

 

静かにそれでいてはっきりと彼女が告げる

 

「帝の身だろうとなんだろうと…貴様が欲する願いを聞き入れよう」

 

少年の顔が恍惚にそまり歪むのを彼女は満面の笑みを浮かべ見つめていた

 

「直ちに」と逢紀が玉の間を後にし

 

「意地が悪いで」

 

半眼で此方を見つめる霞に華琳は優雅に髪を掬い

 

「あの女に借りを作るだなんて私の誇りが許さないもの」

 

そしてと彼女は繋げる

 

「見定めましょう♪『彼』が覇王が欲するに値する人物か」

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本当に

 

楽しくなってきたわね

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あとがき

 

ここまでお読みいただき有難うございます。

 

ねこじゃらしです

 

いろんな作家様の作品を読んでふと…最終回はどうしようかと考えました

 

最近はこの官渡の戦いの決着を最後に閉めようかとも思ったのですが

 

それって

 

どう考えても桂花に救い無いよね…

 

うーむ

 

それでは次回の講釈で

 

 

 

説明
第66話です。

この一ヶ月でゆで卵を作るスキルがかなり上昇しましたw
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コメント
濡れタオル様、コメント頂き有難う御座います。両者の思惑の行方や如何に?(ねこじゃらし)
簡単に華琳の元まで行けるとも思えないけど、比呂が簡単にやられるとも思えない。次回楽しみにしてます(濡れタオル)
thule様、コメント頂き有難う御座います。気づけばこんな話数なってました、両陣営の行く末、二人の再開は…生暖かく見守ってやって下さい。(ねこじゃらし)
サラダ様、コメント頂き有難う御座います。彼女の幸せを願うのは自分も同じ…が如何せんにこのヒロインにしてこの主人公…ツンとツンな関係なものでしてw(ねこじゃらし)
淡雪様、コメント頂き有難う御座います。長かった官渡もあと少し…頑張りますよぉ!(ねこじゃらし)
Night様、コメント頂き有難う御座います。まともな出番がなかった彼女にもようやく日の目が(ねこじゃらし)
更新お疲れ様です。└|∵|┐♪ うおー もう66話。どのような結末になるのでしょうか・・・最後のどんでん返しに桂花プラグはたつのでしょうか!?(thule)
幾つもの想いの交錯。交差し交わる想いの果てに、幸せはあるか、否か。全面的にNight様の意見に賛同させて頂きますが……、桂花好きといたしましては彼女には幸せになって欲しい、そう思います。私もそろそろ執筆速度を上げなくては、いつまで経っても終わりが見えない。(R.sarada)
決意の基折れた牙門旗を掲げ進軍・・・戦いも大詰めで次回に期待が高まります。無理せずに頑張って下さい。(淡雪)
更新お疲れ様です。さても麗羽がどうなるのかがきになるところ、次回を楽しみにしております。作品は作者が終わりだと思ったところが終わりではないかと。ともあれ、終わりが一番難しいというのには同意します。(Night)
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真・恋姫†無双 桂花  二次創作 比呂 風の行くまま雲は流れて 

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