夢はまた夢の夢で
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 人は誰しもが夢を見る。

 それは悪夢だったり正夢と言われるものだったり

 はたまた自分の願望や妄想とか、将来の自分に胸を躍らせるほうの夢かもしれない。

 後者は自分が見たいと思った夢を見ることが出来る。

 見るだけで叶うかどうかは別問題だったりするのだが。

 しかし前者は違う。

 前者の夢は気まぐれだ。

 時にありもしないような恐ろしい悪夢を見せたと思ったら、ときには正夢と言う形で助けてくれたりもする。

 悪夢は信じたく無い。

 正夢は種類にもよるが信じたほうがいい。

 しかし正夢とただの夢と悪夢と多々ある中でそれを自分で認識し、なおかつおぼえておくことのできる人間がいるのかといわれればいるかもしれないが相当少ないだろう。

 しかし夢について今いろいろと考え事をしている本人真藤実はあるいみそれよりも凄い力を持っていた。

 それは“夢を自在に見ることが出来る”ということである。

 

 

「そろそろ時間か。」

 本日只今テスト中。

 夏休み部活に打ち込みたいやつにとって、そして遊びたいやつにとって最も大事なこの時も今日で最終日を迎えた。

 昨日までのどんよりとした空気やピリピリとした空気もなくどちらかと言うとこれから始まる夏休みに胸を躍らせているようで活気にあふれている。

 それはチャイムと同時に溢れ出るようにあらゆる方向から「終わったー」や「きた!これは欠点ないぞ!」など様々な声が飛び交い笑い声が聞こえる。

「真藤今回のテストどうだった?」

「まぁいつもどうりだな。」

 そう、いつもどうりの高得点だ。

 それは予想ではなくほぼ確信に近いものだ。

「おぉその余裕の態度きにくわねぇ。こっちは完徹やってるって言うのに自信ないっての。」

 鈴木はそういいながらも欠点はないという顔でいる。

 おそらくヤマが当たったのだろう。

 結構満足げな表情で解答用紙を手渡してきた。

「それはそれは、完徹しなくていいように勉強すればたぶん自信を持てるようになるぜ。」

 そんな事をいいながらプリントを受け取り前へと流していく。

 実際真藤実は徹夜はしていない。

 むしろ寝たのは9時ととても早いのだった。

 その理由はなぜか。

 夢の中でテスト勉強をしていたのだった。

 

 真藤実はもともと勉強に秀でていたわけでもなければ特に優れて記憶力が良かったわけでもなかった。

 しかしどういうわけか見た夢はなかなか忘れないのだった。

 ただそれは夢を忘れないないだけで見たい夢を見れるわけではないのだった。

 見たい夢を自在に見れるようになったのはここ数年のことだ。

 数年前テレビかなにかで寝る寸前に勉強をするとそれが夢の中で繰り返されて効率が上がると言うのがあったのだ。

 夢記憶能力のいい真藤は実際その日に試してみたのだ。

 結果としては勉強の夢を見ることはなかったのだ。

 それ以来自分が見る夢を観察してみるとどうやら“その日起こった事”や“今までの経験や記憶”

そして“願望や想像”などが主にでありそれらがごちゃ混ぜになったものなどが多かった。

 特にその中でも“その日起こった事”が多く、その中でもその日で印象に残っているものが多かった。

 次に多いのがそれらが混じりあった話である。

 そしてその中でも特殊な立ち位置にあったのが正夢だった。

 正夢は全てにおいて優先されるようでさらになぜか真藤には正夢が正夢だと認識できたのだ。

 夢をいろいろ認識できるようになってくると次第に真藤は自分の好きな夢を見たいと思うようになっていったのだ。

 そしてここ2,3年でやっと夢を操作・制御できるようになってきたのだ。

 

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 制御を出来るようになって数年。

 見たい夢を見るのはとても楽しいものだった。

 夢を見られるようになってからというもの真藤にはそれまでになかった趣味が出来た。

 それは読書である。

 その理由は見る夢、見たい夢を作るための材料集めだ。

 読んだ話を夢の中でもう一度見るのだ。

 そのときは自分の思ったストーリーになったりいろいろな脚色をかける。

 言ってしまえば妄想と大差はない。

「真藤、今日期末お疲れ〜って感じでどっかいかね?」

「すまん。今日はもう予定入ってるんだわ。」

「そうなのか?」

「おう、本貸してもらいに行くのさ。」

 そういうと「じゃぁまた今度行こうな。」と言って鈴木はクラスの連中と出て行った。

 なにを歌うかと話をしていたあたりおそらくカラオケだろう。

「カラオケかぁ最近行ってないね。」

「お、来たか。んじゃとっとと行きますか。」

 彼女は隣のクラスの星川天野。

 そう、真藤が本を借りるのはこの星川からである。

 正確には星川の父が集めた神話の本だ。

 少し前まではライトノベルにはまっていたのだが最近飽きてきたため違うジャンルの面白い話は無いかと相談をしたところ神話を進められたのだ。

 彼女は図書委員でほぼ毎日図書室にいた。

 そして真藤もネタ集めのためにほぼ毎日図書室に通っていた。

 そのため二人は顔を合わせる機会が多くなり本という共通点から話も弾み仲が良くなっていった。

 そんな中「最近読みたいって感じの本が少なくなってきたんだけどなんか良いのない?」と真藤が星川に聞いたところ星川が神話を薦めたのだ。

 そして試験中は試験に集中しなければいけないということで試験の終了日である今日にその本を貸してもらう約束をしていたのだ。

「星川はゲームとかはやらないのか?」

 帰り道話題は本からとんでストーリーへと変わっていた。

 星川は自分で小説を書きたいと思っているようでどんなストーリーだと面白いと人が思うのかを知りたいようだった。

「ゲームはあんまりやったことないかな。」

「そっか、結構ゲームとかでもいいストーリーのあるから機会があればやってみると良いよ。たぶん視野が広がると思う。」

 実際ゲームの話は小説などとは違う面白さがあると思う。

 しかしあれは言葉で伝えることは難しい気がしたのでそれ以上のことは言わない。

 星川は「ゲームかぁ」と呟きながら考えにふけっている。

 2人の会話には空白の時間が多い。

 しかし真藤はその空白の時間が嫌いではなかった。

 そしてそれは星川も同じだ。

 2人で並んで歩く昼下がり。

 太陽は夏らしく輝いており歩いているだけで汗が出てくる。

 しかし2人とも気分が良かった。

 

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 星川の家までは学校から歩いて15分ほどの距離にある。

 真藤はそこからあと5分ほどの距離に家がある。

 一人でこの距離を歩くと結構長く感じるもののそれが二人になるととたんに短く感じるものでそんなに話をしないままあっという間に星川の家に到着してしまった。

「はい、ここが私の家です。」

「おぉ、おじゃまします。」

 どこにでもある一軒家とは違い少し古いがどこか趣のある家で左右の隣の家とは違いひときわ目だって見える。

 中に入ると真藤は奥の部屋へと通された。

 その部屋の中には少し黄ばんだ様々な本が部屋の壁一面といっていいほどに並べられている。

「うわっ。」

 真藤のその部屋に入って第一声はそれだった。

 そして端の方から順番に背表紙を流し見ているとそこに星川がお茶を持ってやってきた。

「はいどうぞ。」

「お、ありがと。」

 一息ついた後早速本題に入る。

 そんなに女子との交友が多いわけではない真藤はこういった状況に柔軟に対応し話を盛り上げれるほどの能力はない。

 かといって星川は基本無口だ。

 無口と言うか話がなくても平気なタイプなのだ。

 となると本題である本を借りる事について真藤が聞かなければ動きが見られない。

「えっとそれで貸してもらえる本ってどれ?なんか大量にあるんだけど。」

「それはね、今から探すの。」

 そう言った星川の顔はどこか楽しげだった。

 本はジャンルごとに分けられているようで探すのは本があると思われる棚の一角だ。

「これ相当時間かからないか?」

「運しだい、かな。」

 二人は様々な話をしながら本を探していった。

 一角といっても軽く100を越えておりなかなか時間を要した。

「後一冊でいいのか?」

「うん。後一冊で揃うはず。」

 窓の外を見てみると既に真っ赤になっており結構な時間がたっていた。

 それもそのはずで気になった本があれば探すのをやめて読みふけっていたことがなんどか、それも二人とも。

 そのたびに片方が「探そ?」と笑って声をかける。

 二人して読みふけっていたときは同じタイミングで気がついて相手のほうを見たためバッチリ目が合ってしまい二人して笑っていた。

 本が後一冊になったところで今まで楽しそうに本を探していた星川の表情が急に打って変わって沈んでいる。

「星川どうかしたのか?」

 星川は本を探す手も止まっているが言葉も何も返ってこない。

 半分背を向けられているためしっかりとは見えないがどこかいつもとは違う表情なのだけはわかった。

 とりあえず続ける言葉の見つからない真藤は作業する手を止めて星川のほうを見ている。

 すると星川は何かを決心したかのように真藤のほうを振り向いた。

「真藤くん。」

「なに?」

 いつもと違う場所。

 いつもと違う雰囲気。

 いつもと違う真剣な顔。

 それらにつられて真藤の顔も真剣なものとなる。

 名前を呼ばれたもののその後に続くはずの言葉がないため真藤は戸惑っていた。

 こちらから何かを言おうかと真藤が口を開きかけたところで。

「実は、今日家に呼んだのは理由があって。」

 その開いた口で真藤は「なに?」と返事をする。

「その、私実は秋から外国の学校に留学するの。」

 真藤は一瞬それがどういうことかわからなかった。

 真藤が自分の学校に留学制度が存在する事くらいは知っている。

 そしてクラスでも何人か留学する人間が居るわけだからそこまで重い話でもない。

 いたって普通でありむしろ喜ばしい事だった。

 その留学制度は学年で何位以内に位置し成績優秀で品行方正とまでは行かないにしろそういった生徒が先生たちにより選ばれて候補生となる。

 それに選らばれ留学する事になったのであればそれはとても喜ばしい事だ。

「よかったじゃん!!星川凄いな!おめでとう。」

「うん。その、その留学と同時期に親が向こうに仕事に行くの。2年くらいの間なんだけど向こうに住むことになりそうなの。」

 「え?」と思わず真藤は聞き返しそうになった。

 たしかに留学自体は珍しい事ではない。

 留学の日数は約半年だが最大1年近く留学している生徒も年に1〜2人はいるそうだ。

 しかし星川はそういうことではない。

 これはもう転校に近かった。

「それでね、この家に2年は帰ってこれなくなるからもし今借りたいと思う本があるなら全部持って行ってくれていいよ。」

「あ、あぁありがとう。」

 星川は明るく言ったつもりだったのかもしれないが顔が微笑んでいないのに真藤は気がついていた。

 しかしその後なんともいえない雰囲気にのまれて真藤は特に何も言葉に出せなかった。

 もちろんいつものような話はずっとしていたが真藤は話をしている星川がどこかいつもと違っている気がしてならなかった。

 残りの一冊が見つかってから「借りていいよ」という許可というより「借りていって」頼みに聞こえた真藤は読みたいと思った本を全て選んで選別した。

「なんか読みたいやつとりあえず選んだら凄い量になったな。」

 それは軽く20冊近くあったりする。

 その欲張りな真藤にかそれともそれを持って帰ろうとしてカバンに詰めようとしても入らない状況を見てか星川は笑いながら真藤にこういった。

「なんだったらまた今度着てよ。8月の10日まではまだいるからさ。その時にまた持って帰ったら?」

「そうか?悪いな。」

 と返事をしたところで真藤は思った。

 8月10日を過ぎたらもう星川は行ってしまうのだと。

 重たいカバンを背負いながら星川に対してどうするべきかを悩んでいた。

 星川が留学をするというのは素直に嬉しいと思った。

 しかしせっかく親しくなれたのに2年もの空白が空くというのも寂しいものだった。

 そして今日の星川の態度は何か違和感がある気がした。

 しかしそれが自分とはなれる寂しさから来るなどとは真藤は考えなかった。

 知り合い話すようになってまだ半年もたっていないのである。

 それは思い上がりだと真藤は思った。

 するとやはり留学への不安だろうか。

 しかしそれとはまた違う気がしてならないのだった。

 星川の家を出て家に着いてから真藤はすぐに夕飯を済ませるとすぐさま本を読みふけっていた。

 星川から借りた神話の本は今までとは違い難しい表現などがあったりもするがそれがまた新鮮で面白く今2冊目を読み終えようとしていた。

「実ー、お風呂空いたから入りなさーい。」

「はーい、もう少しで終わるからもうちょっとだけしたら入るー。」

 おそらくあと15分ほどで真藤はこの巻を読み終わるだろう。

 体感速度的には一瞬かもしれないが15分はけしてすぐではないな。

 などと思いながら残りを読み終わらせていく。

「あ、ここでこの巻終わりかよ。」

 漫画アニメ小説問わずそれらは必ずいいところでその間が終わってしまう。

 理由や理屈がわかる歳だけに「仕方ない」と思いつつもそこに続きの巻があると無性に続きが気になって読みたくなる。

 しかし手にとってしまっては埒が明かないので軽くため息をつきながら「風呂の中でも本が読めたらいいのになぁ」などと思いつつ浴室へ向かった。

 真藤は風呂に入りながら今夜見る夢についてシミュレートしていた。

 今読んでいる神話はオデュッセウスというギリシャ神話の英雄である。

 トロイア戦争にて木馬の奇計によりギリシャ軍を勝利へと導いたとされる英雄の話である。

 最初にあらかたの本を流し見してわかったのだが神話には超人が多い。

 超人とはエスパーではなく類まれな身体能力を持ったものというに近い超人だ。

 そういった中でオデュッセウスは頭脳派の英雄である。

 真藤がなぜこの話を最初に読んでいるかというと星川が別れ際に真藤に「これよんでみるといいよ」と進めてきたのがこの本だったからだ。

 星川の目は間違ってなくとても面白い内容だ。

 風呂から出て真藤はまた本を手に取るもちろん先程の続きだ。

 結局その後真藤は2冊読んでから床に就いた。

 次の日真藤は朝からずっと本を読んでいた。

 読み出したら最後まで読んでしまいたいと思う真藤は残りを借りに行くのは今ある本を読み終わってからでもいいだろうと思っていた。

 おそらく今ある本は8月5日には読み終わる。

「・・・ちょっと遅いか?ギリシャ神話の読み終わったら返して借りに行くか。」

 と思い直し一日が過ぎていく。

 

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 時がたつのは早く真藤が星川から本を借りて一週間が過ぎようとしていた今日真藤は星川の家に行き本を返すと同時に本を借りた。

「重いと思うから気をつけてね。」

「大丈夫だよそんなに貧弱じゃないし。」

 2人は玄関で話をかれこれ1時間近くしていた。

 真藤はあと少しで星川とはしばらくあえなくなるから話せるうちに話しておきたいという気持ちがあるのでそっんして帰る気にはならなかった。

 星川ももっと話していたいと思うもののこの前のように家に用事があるわけでもないので「上がっていいよ」という勇気がなく玄関で話すという形になったのだ。

「もう向こうに立つ準備は終わってるの?」

「うん。昨日終わったかな。あとは向こうでも調達できるようなものも持っていくか考え中。」

「そっか。」

 真藤は廊下靴を置くスペースの段差に腰を掛け星川はその隣に座っている。

 その後も2人はとりとめのない話をして日が沈む頃これ以上の話題がなくなって別れた。

 

 帰り道真藤は悩んでいた。

 最近どうも胸の中が穏やかではない事に自分で気がついていたからだ。

「やっぱり見送るだけじゃなくってなんか俺から渡したりしたほうがいいのか?」

 確かに本を借りるなどいろいろしてもらっている手前何か恩返しとまでは行かないがしたほうがいいのは真藤自身わかってはいる。

「だとしてなにあげたら喜ぶんだろ。」

 考えても考えてもこれといったものは出てこない。

「よし!」

 真藤は一括入れると借りた本を抱え家へと走った。

 真藤の夢を見るという能力は過去の記憶をさかのぼることが出来る。

 とはいってもそれは上手くその能力が扱えるようになってからの記憶しかほとんど上手く引き出すことは出来ないが星川と仲良くなったときには既に使いこなせていたのでおそらく見返すことが出来ると思ったのだ。

 そう、真藤はその記憶の中でもしかしたら星川がほしいと思うような何かが見つかるかもしれないと思ったのだ。

 家に帰った真藤はすぐさま布団にダイブした。

 そして己の記憶の夢の世界へと落ちていく。

 

 ここは記憶の世界。

 記憶の過去は一瞬で過ぎ去る。

 そう、それは1日の出来事を、1週間の出来事を、1ヶ月の出来事を思い返すのと同じようなものだ。

 記憶をさかのぼるといっても主に真藤と星川が話をしているときだけの話。

 とはいっても全てを見ていたら結構な時間がかかる。

 さしてヒントになりそうな話をしていないところは飛ばし飛ばしに回想していく。

「星川はさなにか読書以外に好きなのとか趣味とかってないの?ほとんど本以外の話したことないけど。」

「そうね、本を読むほうじゃなくって書くのも好きよ。あとは絵も描くし最近音楽も好きになってきたかな。」

 回想の中のワンシーン。

「そうかそういえば最初はあんまり歌とか興味なかったんだ星川。」

 最近は歌や音楽の話も普通にするようになっていたので真藤はこのことをすっかり忘れていた。

「そうか、そうだな俺の好きな曲のCDを渡すか。」

 以前そのCDの話をしたところなかなか反応がよく授業のためあまり聞かせれなかったが携帯で音楽を少し聞かせてあげたところ今度しっかり聞いてみたいとも言っていたのを真藤は思い出した。

「そうと決まればとっとと起きるか。」

 そのCDがどこにあるか部屋の中を探って探し出さなければならない。

 なければ買いなおす必要も考えなければならない。

 CDをそのまま渡すのも味気ないのでラッピングも考えておこうなどと考えながら真藤は夢の世界から目覚めていくのだった

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 本日は晴天なり。

 その翌日にラッピングも済ませ後は渡すばっかりとなったプレゼントのCDを手に今日星川と待ち合わせをしている。

 今日は8月9日。

 明日星川はこの町を、この国をたつことになる。

 CDのほかにふと思い出したことがあったためただ渡すのではなく待ち合わせることにした。

 それは映画。

 以前2人がこの本は面白かったととても意気投合した小説が今、といっても結構前からだが映画化されており今なお上映中なのだ。

 それを思い出した真藤は星川に電話をかけた。

「そういえば例の映画気にしてたじゃん。俺も見たいと思ってさ、まぁなんていうか俺のおごりで見に行かないか?あ、おごりなのは向こうでも頑張れとかそういうの入ってるから気にするなよ。」

 といったところOKが出た。

 実際その映画は結構面白い人が多いらしく両者気にはなっていたのだが内容を全て知っている手前どうしても行こうと言う気になれなかったところがある。

 真藤が行こうと思ったのはプレゼントをどのタイミングで渡せばいいのか迷っていたからだ。

 それを渡すだけために星川の家に行くのはなんだか恥ずかしい気がしてならなかった。

 しかし呼ぶのも何かおかしい。

 そう考え思いついたのがなにかの後に渡すと言う方法。

 そして思い出したのが映画だった。

 待ち合わせ場所は駅前。

 2人の家はその駅から歩いて10分ちょっとのところにあるためそこから電車で行く事となった。

 そして今の時刻は待ち合わせの時間の5分前。

 やはり主役より後に着くのはなんか変だという思いから真藤は待ち合わせの15分前に待ち合わせ場所に来ていた。

 そして今星川の姿を目に捉える。

「やっぱり早く来ておいてよかった。」

 さすがと言うべきか見事に待ち合わせ時刻の5分前。

「え?何か言った?時間過ぎてないよね。」

「おう、きっちり5分前だよ。」

 思わず笑いが出るくらいなまでに正確な5分前行動だ。

 その駅で電車に乗って2駅、約10分程度のところに映画館がある。

 場所は知っているが行ったのはもう数年前でどんなところかはほとんど覚えていない。

 星川にいたってはこれがはじめてだと言う。

「電車の乗り方はわかるよな?」

 冗談めかして聞いてみる。

「それくらいわかります。」

 と入ったがその動作はいまいちぎこちない。

 しかし電車の時間まではまだ十分に時間をとってあるためゆっくりと待つ。

 そもそもの話星川は基本動作がテキパキしているわけではないのでそう見えるだけかもしれない。

「あ、ごめんちょと手間取っちゃった。」

「いやいいよまだ時間あるし。」

 電車の中で聞いたところ星川は電車に乗ったことは何度かあるがこの電車ではなく勝手が少し違ったらしい。

 そんな事を電車の中で話しているとすぐに目的に駅に到着する。

 そこから映画館までは約15分かかる。

 少々歩く事になるが仕方がない。

 星川は場所を知らないため自然と真藤が誘導する形で歩く。

 真藤はここらへんにはよく来るものの映画館に足を伸ばしているわけではないので携帯には映画館の場所をインプットさせてある。

 なるべく携帯を確認せずにしかし自信の無いところは確認しながら進んでいく。

 その様子を星川は隣で見て笑っていた。

 真藤はどこか恥ずかしかったものの迷子になるよりはずっとましだと開き直っている。

 携帯のおかげもあり迷わず映画館につくことが出来たが予想よりも早くついたため少し時間が出来た。

「のどかわいたしなんか飲むか。星川なににする?ジュース一本くらいならおごるよ。」

 真藤ははっきり言って自分が飲みたいだけだが自分だけ飲むのもなんなので星川の分も買ってこようと思った。

「え?いいの?じゃぁカフェオレお願いしようかな。」

 「はいはい」とだけ答え列に並ぶ。

「真藤君なにか食べる?」

「え?いや特にはいらないけど。」

「あ、えっとそれじゃぁポップコーンのジャンボサイズって言うの買ってみたいなぁって思ったんだけど全部食べる自信ないから一緒に食べない?」

「あぁいいよ。」

 星川がおごってもらってばかりいるようで悪いとでも思ったのだろうかと真藤はこのとき思った。

「ポップコーンなんでジャンボがよかったの?別にLとかでもいいじゃん。」

 二人がそれぞれのものを買い終わり指定の席に着いたところで真藤は星川にそう聞いた。

「えっとね、周り見たらなんかみんな買ってて美味しいのかなぁって思って買ってみたかったの。」

 少しほほを赤く染めながらそんな事を言っている星川は恥ずかしげに周りを見ている。

 確かに良く見ると1人、2人今見つけただけでも7人近くの人がこのジャンボサイズを手にしている。

「なるほど確かにこれは気になるな。」

 食べてまた納得する。

 そのジャンボザイズのポップコーンはとても美味しかったのだ。

「これで何円?」

「430円。」

「確かにこれは買いだな。」

 しかしいくら美味しいとはいえいつまでも食べられるわけではない。

 二人とも少々小腹が空いていたとはいえ星川は半分にいくかいかないかのところで手が止まった。

 「もうお腹いっぱいだから後は食べちゃって」といって真藤は結局4分の1近くいただいた。

 とはいっても真藤からすれば少し食べ過ぎたかな程度の量だったのだが。

 映画上映数分前に真藤はポップコーンを食べ終わる。

「ごめんね、ちょっと無理させたかな?」

 と星川は罰の悪そうな顔をしていたがタダでおいしいものを食べさせてもらっていやなことがあるわけもなく。

「いやむしろ腹減ってたし丁度よかったよ。上映中に腹なったりしたら嫌だしな。」

 と真藤が返したところ「それは確かに嫌だね」と笑って星川は返してきた。

 そのあと館内は徐々に暗くなり映画が始まった。

 

 

 映画の後2人は喫茶店で映画について話をしながら少し遅い昼ごはんを食べていた。

 映画の内容は面白くもあり原作を読んだ二人には少し納得の行かない感じのものだった。

「なんか最近の映画って凄いんだね。CGとか凄くリアルでビックリした。」

「うん、でもそういうのに少し頼りすぎな気がしたなぁ・・・。もう少し臨場感って言うかリアルな感じに作ってほしかった。」

「そこらへんは私あまりわからないけれど内容はもう少し何とかならなかったのかな?って思った。」

 全体的に見ればしっかり話を捉えていてなかなか良い感じに仕上がってはいたがところどころ小説とは異なる部分があったことが今回の映画の不満点だ。

 小説ではワンシーンで終わっているような場面が10分近く続いたり、逆に主人公やその仲間が活躍をするもっと引っ張ってほしかったところが案外簡単いすぎてしまったり、そういったところに真藤も星川も残念だったなぁといった顔をしている。

「俺的にみんなが集まってくるあのシーンはもう少し引っ張ってほしかった。」

「たしかにあそこあっさりしすぎてたもんね。」

 などと話をしている時刻はもうそろそろ3時を回る。

 フリードリンクといくつかのデザートものを食べながら2人は会話を続けていた。

 真藤はカバンに入れてあるプレゼントのCDをいつ渡そうかと左手をそわそわさせてあることを確認するかのごとくラッピングされているCDケースをカバンの上からさわっている。

 渡すのは帰り電車を降りてから家まで送りその時に渡そうと真藤は決めていた。

 星川が最後の注文した最後のデザートを食べ終わったところで「これ以上いると迷惑だろうしそろそろでよっか。」といったところでその喫茶店から2人は出て行った。

 その後は真藤が遠いためいつもとまでは行かないがほしい本が近くの本屋になかったときに行っているお勧めの本屋に星川を連れて行くきそこで1時間半近くの時間を潰したところで2人は帰路に着いた。

「星川さん、今日は楽しんでもらえたでしょうか?」

「はい。」

 そう答える星川の顔は本当に嬉しそうな顔をしている。

 それを見て真藤も満足げな表情になる。

「でも一つ不満がありました。何であの本屋もっと早く教えてくれなかったんですか?」

 そんな会話を続けているとすぐに家までついてしまう。

「今日はほんとにありがとね。楽しかったよ。」

 まだ渡していない本日の本当のプレゼント、今渡さないでいつ渡す。と深呼吸をして真藤は星川に言葉をかける。

「星川!」

「はい!」

 緊張のせいて声がいつもより少し大きくなってしまった。

 その声にビクッとしながら星川は返事をした。

「えっと、なんて言うかまぁそのなんだ結構前の話になけどさ俺の持ってるCDで聞きたいってやつがあるって言ってたじゃんか。そのCDお前にやるよ。」

「え?いいよそんなの!」

「いやなんていうか向こう行っても頑張れとかそんなんだから受け取ってくれ。」

 「でもなんか貰ってばっかりなきがする。」と星川はなかなか受け取ってくれない。

 確かにこのCDはマイナーだった人はじめの頃の曲で今ではもう販売しておらずオークションにでも出せばそれなりの値段がつく可能性もある代物だ。

「じゃぁあれだ、俺も星川から本借りてるしこれは貸すってことでどうだ?」

「俺もお前が帰ってきたときにしっかり本を返すから俺はその本を借りる代わりに星川にこのCDを貸しておく。これならいいだろ?」

 そういうと星川はテレながらCDを受け取り大切そうに抱きしめる。

 その姿を見て真藤も少し照れてしまう。

「えっとじゃぁそろそろ俺は帰るよ。」

「あ、うん。今日はありがとう。」

 自分の家に向かいながら後ろを振り向き手を振って帰っていく。

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 「これでいいのか?」

 「さぁな。」

 「でも悪くはないと思うぞ。あのCDほしがってたのは事実だし。」

 「この後は何もなし?」

 「何もって?」

 「告白とかさ。」

 「するなら今のタイミングだろう。むしろこの後にするのは変だ。」

 「というかここで告白するのか?OKされても遠距離恋愛だぞ?しかも国またいでの。」

 「いいじゃんロマンティックで。」

 「いや小説とかの世界じゃないんだからな?めったにって言うかあえても年に2,3回だぞ。」

 「あえないよりましだろ。」

 「“お前(俺)”は星川のこと好きなんじゃないのか?」

 

 

 輪廻する夢の狭間。

 会話を続ける俺たち。

 答えのまとまらない頭の中いくつものパターンを試し検証しあう自分と自分。

 先程の世界、それもまた一つの夢でしかなくそこに生きる人たちは己が夢の旅人である事など知るよしもない。

 夢は始まりと終わりを繰り返す。

 たった一つの答えを探して。

 さっきの真藤は星川と関係を保ったままそう、そのまま分かれた。

 しかしその選択で自分は、真藤実は本当に後悔しないのか?その疑問が解消されない限り夢は夢へと回帰する。

 夢から夢へと続く夢。

 現実まではまだ遠く、また別の夢が始まろうとしている。

 

「さてと、次だ。197人目の俺はどうする?」

 

説明
夢を自在に見ることの出来る人間の物語
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