真・恋姫†無双〜夏といえば…?〜 |
その夜
一つの命が散った
はたしてその死に誰が気づいたことだろうか
はたしてその死に何の意味があっただろうか
誰に知られることなく
誰に悲しまれることなく
一つ確かな事は
彼が死んだという事実だけ
否
そこには少々語弊がある
一つに彼は死んだのではなく殺されたのだということ
一つに彼を彼と呼ぶことは出来ないということ
つまるところが彼の死は彼の予期するものではなく
生殺与奪が当たり前に繰り返されるこの世界においても
やはりそれは彼が望んだ形のものではなかったということであり
そして今『彼』と表記したその存在すらも
誰一人として『彼』を『彼』とは認識していないということ
もしかすると『彼』は『彼女』だったのかもしれないし
やはり『彼』は『彼』だったのかもしれない
だが
それももはや何の意味のない…些細なことなのかもしれない
『彼』であり『彼女』は死んだのだ
それこそが重要かつ些細なことであると
死の間際にはたして何を想ったのか
深い闇の中に何を見たのか
確かなのは
『 』はその夜に死を迎え
自身が生きた
『生きていた』証を残したということ
そして
夜が明けた
「あっっ…………っついわね〜」
手にした扇でパタパタと自身を扇ぎながら雪蓮は机に突っ伏していた
江東一帯を治める孫呉が現王にして巷では小覇王と崇め慕われる彼女だが、机に頬を貼り付けて「ああああ」と声を漏らすその姿は彼女の今日までの功績と普段に王として毅然と振る舞う…民が知るはずの彼女の姿とはおよそかけ離れた
〜だらしのないものだった
「まだ日も出たばかりからそんな調子でどうするの」
そんな彼女の横
目の前の親友に限らず誰もが悲鳴を上げるようなその暑さにあって普段と変わらずに…それこそ汗一つかかずに竹簡にテキパキと署名を入れていく冥琳
「めーりんはぁ…心が冷たいから暑さも平気なんだと思うのぉ」
「無駄口叩いてないで手を動かしなさい雪蓮」
貴女の分まで手を貸すつもりはないわと視線も交わさぬ断金の友の物言いに「だって暑いんだもん」と雪蓮は扇をさらにバタバタとはためかせた
「せっかく涼しいうちに起こしてあげたのに」
「冥琳が起こさなきゃもっと寝てるつもりでしたぁ」
政務の効率化を謀るために朝晩に分けて取り掛かる仕組みを天の遣いこと北郷一刀と二人で打ち出したのだが
「それじゃ一向に終わらないでしょ」
「夜にやるもぉん」
「そう言ってやった試しがないでしょう」
政務に関しては「今出来ることを今やらない」主義の彼女の目の前には竹簡が山積みに重なるばかりであった
勿論後で泣きを見るのは雪蓮本人であり
その彼女の面倒を見る羽目になる冥琳であるのは間違いないわけだが
「なんじゃい…全然すすんでおらんではないか」
「祭殿?」
「あら珍しい…夕べあれだけ飲んでいたのに」
二人の居る部屋にひょっこりと顔を出したのは呉の重鎮、先王の代から仕える彼女〜祭は夕べにまた例によってしこたま酒を飲んでいたにも関わらずケロンとした様子で首だけ部屋に覗かせていた
「給使から朝餉の支度が整ったと伝えてくれと言われてな」
此方を見る二人の視線の意を感じ取りパタパタと手を振ってみせる
雪蓮に次いで政務処理が嫌いな彼女がこの部屋に顔を出した事に二人は首を傾げていたのだが
「直ぐ行くわ!早起きするとやっぱりお腹も空くしね!」
これぞ好機とばかりに椅子から立ち上がりツカツカと部屋を後にするその姿に
「…なんじゃ邪魔したかのう」
彼女にしては申し訳なさそうにちらりと視線を冥琳に向け送って来るものの
「構いません、腹を満たしたらまた此処に連れ戻します故」
ケアの行き届いた黒髪をこれまた優雅に靡かせて進む当人に「恐い恐い」と祭は赤い舌を出しておどけるのだった
「しかし珍しいですな、てっきり午まで寝ているものだと思っておりましたが…」
鼻歌を歌いながら足取り軽く進む王の後ろ
冥琳は「はぁ」と眼鏡に息を吹きかけレンズを磨きながら祭に先に湧いた疑問を投げかけた
「うむ…これよ」
冥琳と並んで歩く祭がちらり裾を捲って見せたのは
彼女のお腹…へその隣りに赤く腫れた小さな「疵痕」
「ああ…蚊ですか」
「老いたものよ、寝首を掻かれるとは…ともあれ痒くて適わん。お陰で日の出と共に目が覚めたわけよ」
「辛いですな、次に戦場に出るときは酒の携帯を禁じます」
むうと年甲斐もなく唇を尖らせる姿には一瞥もくれず
「ともあれ『奴ら』が出始めたとなれば気をつけなければなりませんな」
「うむ、殊更策殿に限ってはな」
「あっさごっは〜ん♪あっさごっは〜ん♪」
ルンルンとスキップ宜しく飛び跳ねる目の前の彼女
これで蚊に刺されようものなら…
「これ以上政務をサボる言い訳を与える訳にはいかん」
太陽の光が差し込むと共に廊下に蝉の鳴き声が響き渡る
いよいよ本格的な夏の到来と
奴らの季節がやってきたのだ
「おはよう御座います姉様」
厨房と並ぶ食卓には既に妹〜蓮華とその側近、思春が姉の到着を待ち構えており姉であり現王である雪蓮が入るやに恭しく一礼する
「おはよう」
雪蓮に続き祭、冥琳と順に入る年長者にもこれまた目礼を続ける二人
自身を律し、年長者を敬い、そしてそこには確かな威厳
孫呉の次代を担う彼女達が姉に似ずに良かったと
つくづくに思い
目尻が自然に下がる
「すみませんシャオはまだ起きて来なくて…」
それがさも自身が悪いというかのように悪びれる蓮華だが
「いいのよぅ、寝ることもお子ちゃまの仕事なんだから」
席に付きながらふるふると首を振る雪蓮
当の本人がこの場に居たならば顔を真っ赤に否定するだろうが
末っ子には甘いという世の理は此処呉においても例外ではなく
勿論シャオに限らず蓮華に対しても姉としては大らかに接する雪蓮に
ふと目が合えば
(解っているわよ雪蓮…貴女が「らしさ」もその良さも)
無言に肩を竦める冥琳に向け雪蓮は器用に片目を瞑って見せた
「さてさて、お寝坊さんの到着を待ち続けてたらせっかくの料理が台無しよ♪頂きましょう」
彼女が言う「お寝坊さん」とは誰であろう天の御使いこと北郷一刀であり朝寝坊も日常と化した彼の到着も待たずに雪蓮は箸を手にし…と
「何してんの?早く座りなさいよ」
雪蓮の問いかけに皆の視線が彼女に集まる
彼女らの視線の先
誰よりも早くこの場に来ていたはずの蓮華は何処かそわそわと自身の目の前の椅子を見つめ続けていた
「えっ!?あっ…はい!!」
姉の声に我に帰り慌てて椅子を引く彼女だが
「…」
やはり座ることなく寧ろもじもじと身を捩る
「御加減でも悪いのですか」
側近であり親友でもある思春が彼女を気遣うも
それにも
「なっ、なんでもないわ」
見れば顔は蒼白にうっすらと汗すら浮かべている
「いやいやなんでもないことないでしょ」
一向に座る気配のない妹に雪蓮は食卓に頬杖をつき
「なに?『穿いて』ないの?」
「ちっ違います!」
「雪蓮…食事中だぞ」
およそ王にあるまじき物言いに彼女の妹と親友が非難の声を上げるも彼女は妹の姿に何かあると感じ取り
「あんたもしかして!?」
解った!手を合わせる姉に気付かれたかと蓮華はビクリと硬直し、冥琳は怪訝な視線を雪蓮に向けた
「一刀ったらあんたのお尻に…」
「断じて違います!!」
「雪蓮!!食事中だと言っただろうが!」
噛みつかんばかりの剣幕に
「じゃあ何なのよぉ?」
雪蓮は椅子の背もたれに肘を掛けぶらぶらと重心を後ろにかけては椅子をもたげさせた…と
「蚊に刺されたのではないかのぅ…権殿」
湯気の立つ湯呑に息を吹きかけながら問い掛けた祭の一言に蓮華の顔がみるみるうちに朱く染まり…遂にはコクンと頭を垂れた
「おっ…お尻ですか?」
誰に聞こえないように蓮華の耳元に手をやり尋ねる思春だがもはや彼女が「何を」聞いているのかはその場の誰にも明白であり
溢れ出る雫に睫を濡らし再びに彼女は頷いた
そして沈黙の後に
「ぶッ…ひゃっひゃっひゃっひゃっひ…」
遂に堪えきれなくなった小覇王の笑いが宮中に木霊した
まさかの後編に続く…?
あとがき
ここまでお読み頂きり難う御座います
ねこじゃらしどす
皆様の作品を読んでるうちにムラムラと衝動が湧き上がり飛び入りにて参加させて頂きました
さて今更に自身の紹介ですがTINAMIで恋姫二次創作を書いておりますねこじゃらと申します
現在此方のサイトで〜風の行くまま雲は流れて〜なるタイトルで進行形で執筆中です
※オリ主ものですが宜しければ覗いてやって下さい
でもってオススメの作品ですがそれは後編あとがきにて記載させて頂きます
それでは次回の講釈で
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コメント | ||
蚊の仕業なら仕方ない・・・彼らを殲滅する事は不可能(アキナス) まぁ、“蚊”も夏の風物詩ですよねw(濡れタオル) 早いですね〜♪ 後編に続くのですかw祭り終了残り26時間27分で完成するかw(thule) ま、刺すのは雌ですけどね・・・(sin) 続くのかww(峠崎丈二) 蚊、なんて羨・・・ゲフンゲフン なんとけしからん!退治してくれるわ!!(アロンアルファ) とりあえず、至急続きを要求しても構わんのだろ?(朱槍) |
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