鳳凰一双舞い上がるまで 雛里√ 10話
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殺せ……

 

殺せ……

 

血が……

 

血が欲しい……

 

絶望に、悲鳴に満ちた血が……

 

冷たい……凍りつくような冷血が……

 

その血を吸って…俺は…俺は………

 

殺せ……

 

目の前の人を……殺せ。

 

ただ、それだけでいい。

 

何も考えなくていい。

 

悲しみも、嬉しさも、愛、友情も何も感じなくていい。

 

冷たいまま、人でないまま、

 

俺のために血を流す人形に……

 

殺せ……

 

 

「!!」

 

 

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シャリーン!

 

残っている最後の意識で剣を鞘に抑えた。

 

「はぁーっ!……はぁ……はぁ……」

 

今のは……

 

「一刀さん?」

「…どうしたの?」

「……なんでもない……」

 

雛里と倉がこっちをキョトンとして見つめていた。

二人には分からなかったのか?

これが……これが氷龍の力なのか。

 

恐ろしかった。

こんな武器と二年も過ごしていたというのか…俺は?

祖父さんは……あの時祖父さんも、このような感情を感じたのだろうか。

いや、感情……ではない。

感情も、何もかも刀に吸い取られてしまいそうになっていた。

ただ殺すことだけど、目の前の敵を殺せと、刀がささやいていた。

いや、敵とかそんなのも関係ない。

目の前にいる者はすべて敵だった。

自分以外はすべて敵だと。

殺すべき存在だと…そうささやいていた。

 

……もう二度と抜きたくない。

 

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「倉、この刀……もらっていいか」

「……いい」

 

あれ、あっさりだな。

 

「裴元紹には断らなくていいのか」

「……倉の中にあるのは…全部あたしの」

「そうか……」

「…<<コクッ>>皆、準備性ないから、あたしがないと……直ぐ倉が空に……なる」

「そうか。大変だな」

「……」

 

倉は黙々と俺の顔を見つめていた。

 

「な、何だ?」

「……代わりに」

「え?」

「代わりに……欲しいの…ある」

「な、何だ?」

「……あの、おっきいの……欲しい」

「え」

 

キャリーケースのことか。

嫌、でもあれは……なんというか……

 

「あれがないと、ちょっと困るんだけど……」

 

そもそもあの鞄って本当何なんだろう。

 

「頂戴とは言わない……借りるだけ……」

「借りるって…何に使うんだ?」

「………寝る」

「え、寝る?」

「……うん」

 

いや、待って、寝るって。

 

「寝るって、あの鞄の中で寝る?」

「……寝心地良さそう」

「寝心地って……」

 

いくら小柄だと言って、あんなところに入って寝たら起きて頸とか肩とか痛むぞ。

 

「………駄目?」

「いや、あぁ……うん…そういうのなら、良いかな」

「……<<コクっ>>」

 

俺が良いと言った途端、倉は外に行って、外に置いてあった俺のキャリーケースを持ち込んだ。

 

ガチャッ

 

「………何か入ってる」

「何だ?」

 

また何か他のが入ってるのか。

今度は何だ?

 

「……これって……お布団ですよね」

「………」

 

お布団か…

この際、このサイズのものをどうやってケースに詰め込んだのかは置いといてだ。

このケースって何か地味じ器用じゃないか。

その時必要なもの取ってくれるし。

 

「…要らない」

 

が、倉はケースの中から布団を持ち出して、ケースの中に入り込んだ。

中に入って、頭を少し前にかしげて両足を胸のところまで立てると、ぴったりって感じだった。

 

「おい、本当にそんなところで寝るつもりか?」

「痛むよ、倉ちゃん」

 

雛里も心配そうにしているが、倉は何も言わないままケースの蓋を締めた。

あ、ちょっと待って、中から開けられるの、これ。

 

「倉?<<こんこん>>」

 

がちゃ

 

「…何?」

 

あ、開けられるんだ。

 

「いや、何でもない。お休み」

「……お休み……お休み……鳳統ちゃん」

「うん、お休み、倉ちゃん」

「………」

 

がちゃ

 

倉はまたケースを閉じた。

 

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「何か、不思議な娘だな」

「そうですね……」

 

残されたのは俺と雛里と…後は刀鳳雛ととてもふかふかそうなお布団だけ。

 

「これ、どうしましょうか」

「使ったらいいんじゃないか?それじゃあ、俺は外で寝るから」

「ふえ、一獅ノ寝ないんですか?」

「…は?」

 

いきなり何を言うんだ!?

 

「……あわわ!い、いえ、今のはその……ただ、私はあまり固い地面で寝るのは慣れてませんので…一刀さんはそうじゃないんですか?」

「俺は大丈夫だ。別にどこでだって寝られる」

「そ、そうですか……というか、やっぱり駄目ですよね。一獅フ布団とか…あはは」

 

雛里は作られた笑みをしながら笑った。

一瞬、本気で考えたというのは秘密にしておこう。

というか、後になって孔明に殺されたくなければ馬鹿な真似は控えた方がいいぞ、俺。

 

「それじゃ、雛里もここで寝てって」

「はい、お休みなさい、一刀さん」

「お休み」

 

そう言って、俺はランタンを持って外に出た。

 

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雛里SIDE

 

一刀さんがランタンを持って出ると、倉はまた暗くなってしまいました。

 

布団を倉のできるだけ平たいところに広げてみました。

 

「何か…ちょっと広いな」

 

明らかに布団は一人用のものではありませんでした。

ちょっと一人で寝るには広すぎる気がします。

 

それにしても、

 

「あわわ……なんてこと言っちゃったんだろ、私」

 

一獅ノ寝るだなんて。

何であんなこと言ったのか自分でもわかりません。

無意識的…そんなこと言っちゃって……

 

でも、良く良く考えてみると、今まで一人で寝たことなんて…ないかもしれません。

塾ではずっと朱里ちゃんが近くにいたし……一人で寝てるというのを感じたことありませんでした。

 

あ、でも隣に、倉ちゃん居ますよね。

何か一刀さんの鞄の中に入って寝てるけど……

何か、面白い娘です。

 

髪切ってくれただけなのに、直ぐに赤面になったり、その後も色々と助けてもらって、他の山賊の人たちが騒いでるところでも、そんなに不安は感じ無くて済んだし……倉ちゃんが居て色々助りました。

でも、一番良かったのは、倒れてる一刀さんの介抱していたところです。

何故か、一刀さんが側にいるってことだけで、すごく落ち着きました。

きっと、一獅フ布団で寝るとか、そんなとんでもないことを言ったのも、無意識的に一刀さんに依存していたのかもしれません。

 

「明日は…どうしよう……」

 

今日はいろんなことがありすぎて大変でした。

先生と朱里ちゃん、今頃何があったか全部分かっちゃったかな。

私が山賊のところに居るって知ったら、どうなるんだろう。

皆驚いて……心配するかな。

朱里ちゃん、泣かなければいいのに……

 

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同じ時刻、

 

奏里SIDE

 

「はわわー」

「孔明ちゃん、孔明ちゃーん?」

 

もしもーし、聞こえてます?

駄目だね、完全に現実から目を閉じてしまったのですよ。

まぁ、そうもしたくなる報告だったのですよ。

 

まさか、一刀さんに付いていった鳳統ちゃんが、一刀さんと一獅ノ街を襲っていた賊に攫われて行くだなんて。

 

「それで、あなたたちはそれをみすみす見送ったというわけですか」

「お、俺たちでもどうにかできるものではなかったんスよ!ただ…」

「ただ…なんですか?」

「ひいっ!」

 

いつもは穏和な先生が、これほど怒っているなんて……カナはびっくりしちゃうのですよ。

いつもは優しく接する街の人に、これほど威圧感を出すなんて……いつもの水鏡先生の姿を知ってる人なら考えられないのですよ。

 

「…わかりました。明日私が行くと、街の長老さんにお伝えください」

「は、はい」

 

あーあ、完全腰抜けになって街であった話を伝えにいてくれた街人は逃げるように出ていってしまいました。

 

「元直、朱里を部屋まで連れて行ってもらえますか?」

「キャハ、わかりましたのですよ。でも……先生はどうするのですか?」

 

一方、話を聞いた水鏡先生の目にも、心配の色はみえていますけど、

カナにはわかるんですよ。

先生は今、すごく怒っていらっしゃるのですよ。

 

それは、鳳統ちゃんを攫った賊に対してのものではなく、

だからって鳳統ちゃんのことをそんな目に合わせてしまった原因となる一刀さんでもないのですよ。

それは、誰でもなく、この街の人々たちへ対しての怒りなのですよ。

 

「この街は、先生の人望でこそ今ほどの潤沢さを保っていられるのですよ。そんなことが分からない街の人たちが、易々とここの生徒に剣を向けたり、ちゃんと守ることもできずに自分たちの身の安全のために賊たちに攫わせるなどの仕業。ゆるすまじですよ」

「……カナ」

「キャハー、大丈夫なのですよ。カナはな〜んにも見てないのですよ」

「…あなたはこういう時だけは本当に強いのですね。朱里や雛里よりも……」

「キャハー、カナは現実派なんですよ」

 

この戦いで、先生が失ったものは鳳統ちゃんと、天の御使いと呼ばれた一刀さんだけではないのですよ。

それは、この街の人たちへの信頼。

それを失ってしまったのが、この街の人たちにとっては、村を賊たちに襲われること以上に恐ろしいことになりうるかもですよ。

 

「カナ、明日私は少し出掛けます。皆には休みと伝えといてください」

「山賊のところに行くのですか?」

「…あそこの山賊の方々は、中々紳士的な人たちを聞いています。雛里に下賎な真似はしないでしょうけれど、今はまず二人を取り返すことが先決です」

「キャハ?」

 

気のせいでしょうか。

何故か先生が早まっているように見えるのですよ。

 

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「う……ん」

 

カナは孔明ちゃんを連れて孔明ちゃんと鳳統ちゃんが使う部屋に入ってきたのですよ。

 

……昔はカナの寝床だった場所……今は鳳統ちゃんが使ってるのですよ。

 

「ひな……り…ちゃん…」

「………」

 

大丈夫なのですよ、孔明ちゃん。

鳳統ちゃんには一刀さんが居るのですよ。

だから、孔明ちゃんはカナだけ見ていてくれればいいのですよ。

 

「…キャハ」

 

いえ、ちょっと待ってみるのですよ。

今、この塾には鳳統ちゃんが居ないのですよ。

つまりこの部屋に入って来るような人は皆無なのですよ。

今倒れている孔明ちゃんを、カナが好き放題にできるですよ。

あんなことや、こんなことしても……いいのですよ?

 

「……じゅるり」

「……うぅぅ……」

「……」

 

あぁ、でもいけないのですよ。

魘されているような孔明ちゃんの顔を見ると、何だかそんなことはどうでも良くなるのですよ。

 

「孔明ちゃんは……カナは孔明ちゃんがカナだけ見て欲しいのですよ」

 

だから、一刀さんには絶対に、鳳統ちゃんのことを孔明ちゃんから離してもらわなければいけないのですよ。

でなければ、孔明ちゃんはいつまでもカナのところには戻って来てくれないんですよ。

 

「カナは…こんなに孔明ちゃんが好きなのに…孔明ちゃんはいつも他の女の子のことばかり見てるのですよ」

 

鳳統ちゃんが羨ましいのですよ。

鳳統ちゃんばかり可哀想な娘なぶりをして…

カナだって…カナだって孔明ちゃんに愛されたかったのに……もっとカナも孔明ちゃんと一獅ノ過ごしたかったのに…

鳳統ちゃんが居なければ……

 

「うぅん………うぅ?」

「あ、気がついた?」

 

孔明ちゃん、起きちゃったみたいのですよ。

あともうちょっと寝ていたら襲ってしまいそうだったのに、よかったというか……惜しいというか…。

 

「元直…ちゃん」

「孔明ちゃん」

「………雛里ちゃんが…」

「大丈夫だよ。一刀さんが一獅ノいるんだから」

「…元直ちゃんは、あの人のことを信じられるの?」

「キャハ?」

 

孔明ちゃんは何を言いたいの?

 

「私は…私は分からないよ。雛里ちゃんがどうしてそんなに北郷さんに近づこうとするのかも…そんな雛里ちゃんを北郷さんが守ってあげられるかも…分からないよ」

「……カナはね、別に一刀さんを信じてるわけじゃないよ」

「え?」

「でも、初めて見た時確信したの。あの人はカナと同じ人なんだって…それなら、自分が好きな人のことを放っておけられないもん」

「……好き…?」

「うん、一刀さんはきっと鳳統ちゃんが好きだよ」

 

まだ、そうだと気づいてないのか、確信できないのか、それは分からないけど。

一刀さんもカナみたいなら、

例えそれに気づいてないとしても解るのですよ。

 

「孔明ちゃんが他の娘たちにいじめられるのを見た時ね。まるで心臓が燃やされるように痛くて、何も考えられなくなったの。ただ、孔明ちゃんが苦しくしている、その事だけが頭にいっぱいになって…それからは……その人のことが一番大事。他のはどうでもいいの」

「………」

「だからね、一刀さんもきっと、鳳統ちゃんが危険な目に会ったら、自分や他の誰がどうなったって、まずは雛里ちゃんを助けようとするの。だから……きっと大丈夫」

「……………ありがとう、カナちゃん」

「………キャハ」

 

久しぶりに、孔明ちゃんに感謝されちゃったのですよ。

以前、あの雌犬たちから助けた時はすごく泣いていたのに、今回はすごく安心したように、カナの真名を呼びながらありがとうって言ってくれたのですよ。

 

「孔明ちゃんがてーれたー!」

「はわわー!か、カナちゃん!?」

「また真名で呼んだね!ねー、今日一獅ノ寝ていい」

「え?!」

「いいじゃない、今日は鳳統ちゃんも居ないし、昔みたいに裸の絡み合いしよう」

「あ、あの時はまだ幼い時で…ちょっと元直ちゃん脱がさないで」

「キャハー」

「せ、せめて自分でするからー!はわわー!!」

 

カナは孔明ちゃんが笑顔で居られるならそれでいいのですよ。

例え、カナのことをまた好きになってくれないとしても、ただ……孔明ちゃんが笑って居られるなら、何でも……するの……ですよ。

 

 

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雛里SIDE

 

 

翌朝

 

 

「………うぅん……」

 

冷えた空気に目が覚めました。

 

「あ」

 

でも、まだ暗いです……

あ、違いました。

暗いのは倉の中だけです。

この倉、外から全然光が入ってきません。

 

キィーー

 

倉の門を開けて外に出ると、やっぱりいつものような時間に起きたようです。

習慣って怖いですよね。

朱里ちゃんも居ないのに、こんな時間に起きちゃって……

 

「あ」

 

そういえば、一刀さんは昨日どこで眠ったのでしょう。

探しに行くのも一苦労になりそうです。

昨日膝枕していた辺りで寝ていたらいいのですが……

 

がしっ

 

「!」

「………」

 

後から掴まって振り向くと、片手で目をコシコシともんでいる倉ちゃんが居ました。

 

「…おはよう…鳳統ちゃん」

「おはよう、倉ちゃん。……あの、大丈夫なの?」

 

昨日あんなところで寝ちゃって…

 

「……何?」

「その…首とか痛くない?」

「……痛くない。元気」

「そうなんだ……」

 

絶対体に良くないと思うんだけどな……まぁ、大丈夫なことに越したことにないし…

 

「……何処行…くの?」

「私、一刀さんのこと探しに行こうかと思って…心当たりない?」

「………」

 

無言のままです。

多分、知らないのかな。

そうだよね。

 

「そっか…じゃあ、私だけで探すよ」

「……こっち」

「え?」

「……多分…こっち」

 

倉ちゃんがさした場所は…

 

「えっと…あそこは森の奥じゃない」

「…かず……と?…今寝てない」

「え、何で解るの」

「……おじさんと、一獅ノ…行った…聞いた」

「もしかして、倉ちゃん前から起きてたの?」

「……寝心地良くて……二度寝しちゃった…」

 

倉ちゃんは何か恥ずかしそうに顔を俯きました。

 

「……こっち」

「あ、うん」

 

でも、直ぐ開き直った倉ちゃんが向いた方向に私も付いて行きました。

 

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一刀SIDE

 

「これは……!」

「どう思うか?」

「………すごい」

 

朝はやく裴元紹にたたき起こされて連れて来られた場所は…

山の奥に広げられている広い……畑だった。

畑…少なくも何百人を養えるほどの……。

 

「部下たちと一獅ノ少しずつ森に火を付けながら広げた畑さ。すべて自分たちの手で……賊と言っても元々は農民だった連中は中々腕が立ったな」

「こんなものがあるなら……賊なんてしなくていいじゃないか」

「それが俺の目標さ。この山の奥で、……腐った官吏どもや朝廷、他の賊たちにも邪魔されずに俺たちだけの村をつくり上げるんだ……ここに部下の連中がちょっと器用で女でも連れてこれるようになれば、この山に立派な村を立てることができるさ」

「……山賊だというのは嘘だったのか。実は……」

 

実はここで新しい生活を…普通の人に戻るための準備をしていたわけなのか?

 

「もうすぐだ。まだは俺たち全部が食えるほどの作物が収穫できない。でも、周りも街に金になる作物を売って他のと交換すれば…なんなく賊の仕事をやらなくてもやっていけるようになるだろう」

「貴方に対しての態度を訂正しなければならない。あなたは賊などではありません。ここに居る人たちの救世主だ」

「寄せ!俺はただ戦で逃げてきた負け犬の盗賊さ………だけど…あの戦は本当にひどいものだった」

 

裴元紹はそこにあった岩の上に座って言った。

 

「あの時俺は黄巾党の本隊に所属していた。連勝で勢いが増している俺たちは何も怖くなかった……でも、違ったんだ」

「…何が会ったんですか」

「…女一人」

「…え?」

「たった女一人の手によって、3万もしていた黄巾党の本隊は壊滅された。あの女は鬼だった。…たった一人で……俺の隣にいた仲間たちも……殺されてしまった」

 

裴元紹はあの時のことを思い出したのか体を震わせた。

 

「死んだ連中は俺を臆病ものだというかもしらねー。でも俺は生きるために盗賊になって、生きるために逃げてきた。ただ一つだけ心配になることがあるとすれば、地和ちゃんがその時どうなったのか未だに知らないって話さ」

「………」

「大丈夫だろうか……あの娘たちはそんな軍の中には居てもまったく賊の魁首などやっていけそうな娘たちじゃなかった。俺たちや、他のただ人たちから奪うことが好き盗賊たちに乗せられて、あんな風になったけど、実は……ただ歌うのが好きな娘だったのに……」

「…良く分からないが、好きだったのか?」

「好きだったさ。そこにいた全員があの娘たちに惚れ惚れだったさ…長三姉妹の歌を聞いていると、現実の苦しさなんてすべて忘れてしまいそうになってたさ…だから、あの娘たちの夢を叶うために戦った。でも…俺は今ここに居る」

 

歴史にて、裴元紹と言えば、張宝の部下であった。恐らく、彼が地和といったのは張宝の真名ではないだろうか。

 

「と、昨夜の酒がまだ聞いてるのか。変なことを言っちまった」

 

裴元紹は開き直って、俺を見た。

 

「でも、今はそんなことよりだ。俺は養う部下たちがある。もうすぐでこの夢を叶えるんだ」

「……俺にして欲しいものでもあるのか」

「お前さえよければだ、俺の部下が襲ったあの街。あそこに俺たちと引き取りをしてくれるように言って欲しい」

「……」

 

街と賊の間の引き取り……

 

「恐れながら、賊と内通しているということが知らされると、官軍が黙っては居ないはずだ。街の人たちがそんな話を飲むはずもないし、俺もこれ以上街を危険に晒すようなことはしたくはない」

「………そうか」

「……済まない」

「いや、良いんだ!そんな返事ぐらい考えていたさ!」

 

裴元紹の顔には一点の俺に対しての怨望とかはなかった。

俺もできることなら彼らを助けたいと思ってきていた。

だってこれほどの苦労をしたんだ。

過去はどうであって、彼らはもう賊ではなくなろうとしている。

賊になった頃も、それもまた苦しくて飢えてる生活が我慢できなくて成り立ったものじゃないか。

ただ、運が悪かっただけだ。

 

官吏たちの圧政、重なる天災、そこに凶作が加わると、人たちは飢えて死ぬか、それとも他の人を襲って自分が生きるか選ばなければならない。

その中で、人を襲って生きたことは間違っていて、そのまま飢え死に死ぬ方が正しい方法だと言える者が居るだろうか。否、そんなこと言えるはずがない。

 

だけど、何か、何かないのか。

この人たちを助けられる方法が……

 

 

 

 

「できます」

「!!」

「その街との引き取りというもの、出来るかもしれません」

 

俺と裴元紹が振り向くと、そこには雛里と倉が立っていた。

 

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「雛里…」

「おはようございます、一刀さん」

「あ…おはおう…というか」

 

さっきの話は…

 

「お嬢ちゃんよ、それはほんとか!」

「はい、と言っても、自身を持っていえるほどではないのですけれど…」

「何でもいい!俺たちを助けられるのなら、小さな希望だって良いんだ。言ってくれ」

「あわわっ!」

 

裴元紹はあまりにも興奮して雛里の両肩を掴まって雛里を振った。

 

「裴元紹」

 

ペチッ!

 

「おじさま……落ち着く」

「っ!お、おお、そうだったな」

 

俺が止める前に、雛里の後にいた倉が手のひらで裴元紹の額をペチッと叩くと、裴元紹は我に戻った。

 

「それで、何か策があるのか?」

 

俺が雛里に聞き直すと、

 

「策…と言えるほどじゃないですけど……あくまで希望的な話です」

「言ってくれ。雛里も聞いただろ。この人たちは……」

「はい……一刀さんが何を考えているのかは大体わかります。私もできればこの人たちを助けたいと思います。だけど、本当にそううまく行くかはわかりません」

 

雛里は私をいつものまっすぐな目で見ながら話を続けた。

 

「私の先生、水鏡先生は荊州でかなりの人望を持っています。だから、先生が上げる言葉なら、官軍だとしても先生の言葉を無視することはできません」

「つまり、水鏡先生の人望を盾にして引き取りを成り立たせるというのか?」

「いいえ、それだけでは足りません。いくら先生の言葉でも、盗賊と組むという話を飲む荊州の官軍ではありません」

「それなら……」

「…裴元紹さん」

「…何だ?」

 

雛里は、ゆっくりと裴元紹を見て、後にいた倉を前に出した。

 

「倉ちゃん、この盗賊のお頭の座を譲ってください」

「…は?」

「……鳳統ちゃん…どういうこと?」

 

倉も裴元紹も、そして俺もキョトンとした顔で雛里を見つめた。

 

「水鏡先生は、以前から女の子しか自分の門下に起きません。ですから、倉ちゃんをまずここのお頭にさせて、その後水鏡先生の弟子に入れさせてもらうんです。そしたら、ここの賊の群れのお頭が、先生に感化されて賊の仕事をやめて、その部下の人たちも賊をやめて街の人たちを一獅ノ暮すようになった、という話を作るのです」

「…!そうか!」

 

たしかにそういう話になると、言い訳として成り立てる!

 

「……おじさま?」

「……ほんとに、お嬢ちゃんの言う通りにしたら、俺たちはこれ以上賊と呼ばれないようになるのか」

「はい。もっとも、先生が許してくれれば、の話ですけど…そこは、私がなんとか先生を説得してみます。それに、倉ちゃんは全然勉強とか受けてないし、この際先生の弟子入りさせてもらえば、もっといい環境で暮らせると思います」

「頼む!俺たちを…助けてくれ!」

 

裴元紹は雛里の前で土下座までしながら言った。

裴元紹の声からその必死さが感じられた。

彼は本当に、この負の循環から脱出したいんだ。

飢えて、人を殺して養って、そしていたら人が増えて、まだ飢えて……そんな盗賊たちの悪循環。

戻りたくても、既に遠いところまで来てしまったせいで、戻ることもできない。

世界からは悪人として決め付けられてるけど、本当はほんの少しだけ、運が悪かっただけだ。

 

「あわわ!立ってください!そんなにまでされるほど自身があるわけじゃないんです。できるだけやってみますからそんなことまでしないでください」

「雛里にあまり負担をかけてくれるな、裴元紹」

「……はっ!そう、そうだな。すまん、お嬢ちゃん、つい嬉しくて我を失っちまった」

 

土下座していた我に戻って立ち上がった。

 

「しかし、もしお嬢ちゃんが言う通りになると、倉番がこの群れのお頭になるわけだが……」

「なにか問題でもあるんですか」

「流石に部下たちが黙ってはいないだろう」

「いや、それはまぁなんとかなる。なにせ建前でそうだと言ってやれば納得してくれるはずだ。だけど、そうなると今まで俺たちがやったことの罪をアイツに背負わせるハメになるのだろ」

 

あ、そうか。それは考えてなかった。

 

「……あたしはいい」

 

が、倉は案外あっさりと引き受けてしまった。

 

「いいのか、倉番」

「……おじさまがそれで幸せになれるなら……いい」

「倉番…」

「倉ちゃん」

「今までおじさまのことずっと見てた。…おじさま、いい人。だから……」

「……ありがとう、倉番」

「倉(そう)……それはあたしの名前」

「…ああ、ありがとうよ、倉」

「………<<コクッ>>」

 

 

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その後、俺たちは陣地に戻り未だに酔いつぶれていた部下たちにこの話を説明した。

大体の者たちは雛里の策に賛同した。

意外と、倉の人気はすごいものだったらしく、裴元紹を排除して倉をお頭にしようっていう話も実存してらしく、裴元紹は胸をなで下ろしていた。

賛同できないという連中もいたが、裴元紹の説得があってなんとか説得してもらった。

 

もし、雛里の言った通りにうまくいければ、彼らはもはや山賊ではなくなるわけだ。

いや、もしではない。

なんとしてでも成功させよう、と俺は心の中から思った。

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

説明
真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。

人は変わっていくという。
だけど、元からその人は最初からそんな人で、実はその人の新しい部分をみつけたことに過ぎない。
その人の知らなかった部分を知ったことは、時には嬉しくて、時には悲しい。

でも、実はその人の新しい部分をみつかたのは、自分のその人を見る目が変わったせい。
結局変わってしまったのは自分だったのかもしれない。
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コメント
ヤンデ・・・いや、まさか。(下駄を脱いだ猫)
関平さん&gt;&gt;それで構いません(TAPEt)
くましゃんさん&gt;&gt;徹夜したら体を壊しますよ。これ以上暑くなるとより体力とか削られますしね(TAPEt)
シリウスさん&gt;&gt;ほんとですよねー(TAPEt)
久しぶりに徹夜で読み返しました(´∀`*) P7の確信できないのか、まだ分からないけど。の後で一刀さっもってなってます(;・∀・)(くましゃん)
本当孔明大好きっ子なんだのぅ徐庶!(シリウス)
??? ???? ??(TAPEt)
山県阿波守景勝さん&gt;&gt;ちょっと編集途中でくるちゃってたようです。まあ、自分は先生よりも街の人たちの方が心配ですね・・・ネタバレ的な意味で(TAPEt)
9Pの「もうすぐだ。まだは俺たちのはがいらないのでは?このお頭は人として立派ですね。普通こんなことなかなか出来ないですよ。問題は勘違いしている先生か……(山県阿波守景勝)
紫炎さん&gt;&gt;賞賛ありがとうございます。これからも期待に応えられる作品になれるようにしたいと思います(TAPEt)
いやあ、すごい。狼ですらねぇ……。徹頭徹尾ただの人だった御頭。それをここまで表現するその技量に感服です(紫炎)
nigekatiさん&gt;&gt;うわっ、ほんとだ。自分と一獅ノ寝るとかどんなナルシスト発言だよw(TAPEt)
5pの&lt;塾ではずっと雛里ちゃんが近くにいたし&gt;の雛里の部分は「朱里」ではないでしょうか?(nigekati)
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