真・恋姫無双 EP.76 端緒編
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 孫権に急ぎ来るよう呼び出され、一刀と稟は再び屋敷を訪ねた。いつもの客間に通されると、すでに孫権と甘寧が待っており、入り口に背中を向けて座る人の姿が2つある。

 

「風!」

 

 真っ先に気付いて走り出したのは、稟だった。振り向いた少女に、稟が抱きつく。

 

「これはこれは、熱烈な出迎えですねー」

「風、良かった……本当に良かった……」

「……ただいまです、稟ちゃん」

 

 優しい口調で、風は稟の背中をポンポンと叩きながら言った。そして一刀に視線を向け、何を思うのか眠そうに目を細めたのである。

 

「お兄さんも、お久しぶりですねー」

「本当だよ。でも良かった、元気そうでさ」

「そちらは大変だったようですが……」

 

 華琳救出の事だろう。一刀は肘までしかない右腕を振って笑った。

 

「むしろ幸いだったのかな。華琳は無事だったし、俺もまだ生きてる」

「そうですねー。生きて再会出来るのは、幸福な事なんでしょう」

 

 そんな話をしていると、もう一人が立ち上がって頷いた。

 

「まさにその通りだな。生きたくとも生きられない命が、この世にはいっぱいある」

「華佗さん! 戻って来てたんですね!」

 

 うれしそうに華佗の手を取る一刀に、孫権が言った。

 

「程cを連れてきたのは、華佗なのよ」

「そうだったのか。ありがとう、華佗さん」

「気にするな。俺は自分が正しいと思ったことをしたまでだ」

 

 華佗はそう言うが、一刀と稟は何度も礼を述べた。やがて華佗は照れたように、診療所に帰って行ったのである。

 

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 ひとしきり再会を喜び合った後、風は自分の身に起きた出来事を一刀たちに話して聞かせた。

 

「……それで美羽様が行方不明になってすぐ、雷薄の兵士が宮殿にやって来ました。その時、七乃様が風をこっそり逃がしてくれたのです」

「なるほど。それじゃ袁術さんの誘拐は、その雷薄って貴族が黒幕だと?」

「はい。七乃様に対する怨恨のようですねー」

 

 風と一刀の会話を黙って聞いていた孫権が、静かに口を開く。

 

「周瑜も雷薄の手際の良さは、少し気になると手紙に書いているわ。確かに程cの話の通りなら、つじつまは合う気がする。でも、雷薄の最終的な目的は何なのかしら?」

「張勲の処刑とかかな? 責任を取らされてとかさ」

 

 孫権の疑問に一刀がそう言うと、風が首を振って否定した。

 

「それはないでしょうね。永年溜め込んだ恨み、その手口を考えると、もっと陰湿な気がします。あえて七乃様本人ではなく、その一番大事な美羽様を誘拐するあたりは、精神的に追い詰めるやり方です。このまま美羽様が生死不明のまま見つからなければ……」

 

 言葉を切った風に、孫権は大きく頷く。

 

「張勲の苦しみは、終わらないわ。今の私たちなら、その気持ちが痛いほどわかるもの。姉様を失って、生死も不明で、暗闇の中を目的地もわからず彷徨うような不安が消えない」

「はい。自責の念に駆られながらも、七乃様は命を絶つことも出来ません。もしも美羽様が生きていたら、今度こそ自分が守ってあげなければならないからです。そんな終わりの見えない苦しみに耐えるしかない七乃様を、雷薄は一番近くで見続ける気なのでしょう。それが彼の、復讐なんだと思います」

 

 風の話を聞きながら、一刀は拳を握って視線を落とした。

 

「しかも張勲は、首謀者が雷薄と知りながらも手を出せない。くそっ! 何とか出来ないのか?」

「今の状況じゃ、難しいわね」

 

 孫権が答える。

 

「雷薄は袁術配下の中でも、もっとも力のある豪族なのよ。多くの貴族が、彼の顔色をうかがっているほど。下手に動けば、こちらが危険だわ」

 

 と、眠そうに目を細めた風が、座っていたソファから立ち上がった。

 

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「風は行きます」

 

 驚いて、孫権が問いかける。

 

「どうするつもり?」

「雷薄は各地に屋敷をいくつか持っています。おそらく、しばらくは寿春から動かないでしょうから、その間に調べるつもりです」

 

 袁術が生きている保証などない……孫権はそう思ったが、風の顔をみたらそんなことは言えなかった。自分も同じ、生きていると信じるしかない。

 

「よし、俺も手伝う」

「もちろん、私も手伝います」

 

 一刀と稟が同じように立ち上がり、風と共に並んだ。

 

「本当は私たちも手伝いたいのだけれど……」

「良いのですよ。そちらも、大切な方を探さなければいけないのですからねー」

 

 うつむく孫権に、風が言う。

 

「周瑜さんからの手紙に、何か手がかりがあったようですし」

「ええ。姉様を狙った犯人を捜査していた黄蓋が、有力な情報を持って帰ったそうなの。そこからおそらく、暗殺を計画したのは私たちが力を入れて取り締まっていた、子供の誘拐・売買を行っている組織らしいとわかったのよ」

「なるほど……確かに彼らにしてみれば、孫策さんの存在は邪魔ですからね」

 

 話を聞き、一刀は何度も頷く。

 

「お互い、やるべき事は見つかったみたいですね。それじゃ、一緒には出来ないけれど、大切な人を取り戻せるよう、がんばりましょう」

 

 そう言って一刀たちが帰ろうとすると、また孫権の心に不安がよぎる。これで、何も関わりが無くなってしまうのだろうか。思わず、引き留めてしまう。

 

「そ、その……私たちも袁術に関する情報を、それとなく調べてみるわ。別の角度から見た方が、わからないことがわかることもあるし……。だからその……時々、顔を出してみてちょうだい」

「なるほど……そうですね。わかりました。お願いします」

 

 礼を述べて出て行く一刀を見送り、孫権は痛いほど鼓動が早くなっていることに気付いた。そしてその奥にある、ほのかな甘いうずきに「ほうっ」と息を吐いたのである。

 

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 霞はとても不満だった。一刀が稟と二人で、また出かけてしまったのである。亞莎のゴマ団子はおいしいが、満腹になると退屈で仕方がなかった。

 

「にゃあ!」

「にゃん!」

「ふにゃ〜」

 

 ぼんやりと座って日向ぼっこをする霞の周りで、三匹の猫たちも暇そうだった。亞莎は奥の部屋で、何やら勉強をしている。

 

「ヒマやな〜」

 

 指を使って猫たちをジャレさせ遊んでいたが、それも飽きてきた。もっと体を動かしたい。

 

(かじゅと、帰ってけーへんなー)

 

 自分だけ仲間はずれ。そう思うと、苛立った。脳裏に浮かぶ一刀の笑顔も、何だか憎らしくなってくる。

 

「よし! なあ、遊びに行かへんか?」

 

 霞は三匹の猫に声を掛ける。猫たちは不思議そうに霞を見上げ、首を傾げていた。

 

「ずっとここにおっても退屈やろ? うちと一緒に、遊びに行かへんか?」

「にゃ?」

「にゃあ?」

「ふにゃ〜?」

 

 トンッと勢いよく立ち上がった霞は、奥の亞莎のところに走る。

 

「うちら、遊びに行ってくるわ!」

「へっ? あ、あの!」

「ほなな!」

 

 キョトンとする亞莎を残し、霞は三匹の元に戻る。そして三匹を抱えると、楽しそうに満面の笑みを浮かべた。

 

「冒険に出発や!」

説明
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば、幸いです。
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コメント
このあと霞もさらわれるのか?(VVV計画の被験者)
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