そうして一刀たちはこの街で出産に備える事にした。

ここは一刀と泉が住む家の近くの酒家、そこに一刀は落ち着き無く一人でいた。

あれから泉のお腹の子は順調に育ち今朝早くから陣痛が始まり、医者と近所に住む女の人たちによって追い出されてしまったのである。店の一角に座り立ったり座ったり足を小刻みに揺らしたりと落ち着きが無い。

「若旦那落ち着きなさいよ〜」

この酒家の常連である老人に酒を勧められながら言われたが一刀は飲む気にもなれずそれを断る。老人は気にせず自分の器に酒を注ぎ飲む。

「男はこういうときは〜何も出来ないんだから、只じっと待つしかないんでさ〜よ。んっんっんっ、ぷは〜！」

「うん。」

一刀の方は聞いていないらしく生返事を返す。その様を見て周りにいた人たちは苦笑いを浮かべるしかなかった。

夕方になり夕餉を取りに人が集まり騒がしくなりだした頃、

「若旦那！生まれたよ、元気な男の子が生まれたよ！」

そんな喧騒の中出産に立ち会っていた女が一刀の元に駆け寄ってきた。

「ほんとか！？」

一刀はその人に詰め寄って聞く。

「勿論本当だよ。さあ早く行って赤ん坊の顔を拝んでおいで。」

そしてそれを聞いていた周りの人たちは口々に一刀へ「おめでとう」と言った。

「よし今日はめでてえ日だ！皆じゃんじゃん飲んでくれ、御代は気にすんな！」

ここに来ていた者達は主人のその言葉を聞いて盛り上がる。

そして主人は「若旦那、早く子供と奥さんとこに行ってやんなよ。」と言う。

一刀は皆に礼を言い酒家を後に、泉の元に向かう。

部屋に戻り泉は子供を抱いていて一刀の姿を確認するとこちらを微笑んだ。

「一刀さん、見てください。私達の子供です。元気な男の子です。」

泉は一刀に子供を見せ渡してきた。

「泉、ありがとうそしてお疲れさん。」

渡された我が子を抱きながら一刀は泉に礼と労いの言葉を掛ける。

「この子が俺と泉の子…」

生まれたばかりの眠っている我が子を腕に抱き感慨深く呟く。

「一刀さん、この子の名前は以前から考えていたあれですね？」

「うん、前から二人で考えていたものにしようと思う。」

「「この子の名は北郷一樹」」