Alternative 1-6
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「ふぅ……」

 酒場の入り口近くで俺は一息つく。酒が随分回ってきたので、静かな場所で一人のんびりしようと思い、外に出てきたのである。賑やかな場所に長時間いるのは好きじゃないのである。

 一人の時間が必要な人間なのだ、俺は。

 なんせ繊細だからな。

 というわけで酒場の喧噪からできるだけ遠離ろうと、俺は特に目的もなく夜の村を散策し始める。村には外灯なんていう上等なモンあるはずもなく、散在する民家から零れる温かい家庭の灯りだけが、慰め程度に地面を照らしている程度だ。

 もう日はとっくり沈み、空には満天の星々、そして満月だけがあった。

 空気が澄んでいるためか、星がよく見える。いい眺めだ。まるで宝石箱をひっくり返してしまったよう惜しげもない星空だ。鏤められた星の瞬きには、心惹かれるものがある。

 柔らかな月光は澄み切った空気に浸透するように仄かで、ぼんやりと下界を照らしてくれている。

 ホント、ここはいい場所だな。

 民家から漂う、美味しそうな夕食の匂いに鼻腔を刺激されながらそんなことを思う。ビールを何杯か入れたためどうにも空きっ腹で、その匂いは本当に身に沁みる。

 家庭の匂い。今となってはもう二度と俺が辿り着けない場所の残り香に、感傷的になってしまいそうでさえある。

 振り払うように視線を足下に落とし、ため息を吐き出す。

 ここは穏やかすぎる。ありふれた幸せばかりが目に付く。俺がかつて持っていたであろう物ばかりが幻覚となって俺を取り囲む。

 あー、忘れよう忘れよう。

 頭の裏の方に思考のリセットボタンがあればいいのにねぇ。

 俺は逃げるように、いつの間にか村を取り囲む柵の付近まで来てしまっていた。ただでさえ点々としか建物がない村の中でも、特段民家が少ない場所だ。

 無意識的なこんな場所まで逃避できる自分がつくづく嫌になるね、うん。

 俺はポケットから携帯灰皿を取り出し、柵に腰を預ける。柵自体の背が低いため、背中を預けきることはできないし、壊してしまうようなことも避けたいので体重もほとんどかけてはいない。

 俺は胸ポケットから取り出した煙草を咥え、その先端を火で炙ろうとして――

「動くな」

 ――背後から聞こえた女性の声に動きを止めた。硬質な声は冷たく、少しでも動けば何らかのよろしくアクションを取ってくるのは確実だろう。

 ライターの火を熾そうとした状態のまま静止した俺の背中には温かい人肌の感触。きっと相手の背中が触れているのだろう。

「あー、すまない。手は下ろしてもらって構わない。疲れるだろう」

「そりゃお気遣いどうも。なんなら煙草を吸うことくらい許してもらえね――」

 腕を下ろしながら、そんな冗談を言ってみると、途端に鼻先で何かが燃える音。煙草の先端で燻る煙で、煙草の火をつけてもらったことはすぐに分かった。

 なるほど。魔術師か。

「ど、どうも」

「うむ、気にするな」

 どこか親しげさえ感じる声音で女は気さくに応じる。俺の背中に心地よい重量。どうやら完全に背中を預けてきているらしい。

 なんだろう。最初の冷たい声音とは相反する気安い態度は。

 まるで友達同士のようじゃねぇか。

「煙草の灰を落とすくらいなら許そう。申し訳ないんだが振り向くようなことはしないでくれ給え。あまり姿を見られるわけにはいかないのでね」

 なんとも対等な立場からのお願いであった。注意や警告などというものではない。本当に友達に頼み事をするような言い方だ。

 そんな彼女のどうも釣り合わない言葉を聴きながら、俺は綺麗な声だな、なんていうこれまた場違いな感想を抱いていた。

 全体的に声の通りがいい。芯が通っているというか、落ち着いていながらも力強い声だ。もともとの声質も耳に残るものである。

 穏やかで親しみやすく、女性らしいたおやかさも感じられた。

 女性にしては少し低い部類に入る音程だな。それも力強さを感じさせる一因なのかもしれない。

 どうにも聞いていて落ち着く声だ。ずっと聞いていたいとさえ思えてしまう。

 とまあ、ここまで声について分析してるのは、それ以外に相手の情報が一切見えないからなんだけどな。

「まあ、そりゃ分かった。何もしなけりゃ命を奪うようなことはしねぇと信じていいんだな?」

 そんな問いに何の意味があるのかは俺にも分からない。背後を取られた時点で、俺の生殺与奪は全て彼女に握られている。例え彼女が俺を殺さないと言っても、その気になればいつでも殺せるわけだ。

 くっそ、油断していた。最低でも二人一組で行動するように徹底していたというのに、油断してしまった。

 ついつい気が緩んだ……。

 四人全員、アルコールでまともな思考なんてできていなかったんだろう。本来だったら誰かしらが諫めるはずなのだ。

 まあ、そんなことをとやかく考えても仕方ねぇな。

「ふふふ、何もせんよ。別に獲って食うようなこともせん。安心していい」

 やっぱり、どうにも語調が親しげだな。こういう性格なのか?

 余裕たっぷりの悠然とした口調は、知性と教養を感じさせた。

「今はその言葉を信じておくよ。で、あんたの名前は? 女性を三人称で呼ぶのは趣味じゃねぇんだ」

 俺の冗句に、相手も軽口で応じてくれるものだと思っていたのだが、返答がなかなかこない。しばしの沈黙。

 気分を害したか?

 後ろから何か重いため息が聞こえてくる。思い詰めるような、何か諦観に満ち溢れたため息。聞き慣れたため息だ。常日頃から俺がそんな感じのため息を吐いてる。

「おい? なんか悪いこと言ったか? あー、俺から名乗るべきか?」

「いや、いい。お前の名前は知ってるんだ、創世種(エレメント)第二十五位――付加の元素(エレメント)ガンマであろう?」

「……へぇ。そこまで知ってるわけか」

 俺達の二つ名は基本的に一般人には開示されていないはずなんだけどな。あくまでも俺達四人が所属する組織である《始原の箱庭(アペイロン)》内で使われるだけのものだ。外部にも知る者はいるが、それは本当にごく一部。

 その情報を知ってる奴となると、ある程度相手の素性も見えてくるもんである。

「まあ、お前ほどの頭なら察しは付いているだろうが、私も礼節を踏まえて名乗ろう。初見となる。私は《魔族(アクチノイド)》第八位――言霊の魔術師、キュリー。謂わばお前達の相対者(テキ)だ」

 やっぱりそうだよな。

 これは厄介な相手に絡まれたかもしれない……。

 俺一人じゃ《魔族(アクチノイド)》をどうこうすることなんてできるはずもねぇ。相手は幾星霜の間、世界を敵に回しながら生き延びてきた化け物集団だ。

 勝てるわけがない。

 また逃げられるわけもない。

「《魔族(アクチノイド)》が俺に何の用だ? 勇者なら酒場で他の奴らと飲み会中だ。アルコールが回ってるから、楽に倒せるんじゃないか?」

「ふふふ、迷いもなく仲間を売るとは。相変わらず気持ちの良い奴だな、お前は。どうせ、酒場に私が入った瞬間、後ろから君がずどん、ずどん、ずどん、あとは酒場の三人からの波状攻撃で私を倒すつもりなのだろう?」

 チィッ、読まれてたか……。

 小手先の小細工が通用する相手じゃねぇようだな……。

 さすがは《魔族(アクチノイド)》っていったところか。簡単には騙されてくんねぇな。

「まあ、用件とは言っても、先程も言ったように獲って食うつもりなどはない。ただ、少し助言をしに、な」

「《魔族(アクチノイド)》が助言? どういうことだ?」

 クソ、さっきからこいつの真意が全然読めん。考えが見えない相手は苦手だ。

 俺は煙草の灰を灰皿に落とし、紫煙を吐き出す。

 落ち着け。焦るな。考えろ。思考を止めるな……。

「この村に魔導陣が仕掛けられていることは知っているな?」

「……貴様らがやったことだろうが」

「まあな。とはいえ私は一枚噛んでる程度なんだが。協力を乞われて、やむを得なくといったところだ。私は大量殺戮なんてのは趣味じゃない」

 やっぱりあの魔導陣はそういう代物なんだな。

 プラナの目に間違いはなかった。僅かでも疑った俺の方が愚かだったというわけだ。

 まあ、これで何の迷いもなしに信じていいということなのかもしれない。

「《魔族(アクチノイド)》にも大量殺戮が嫌いな奴がいるとはねぇ。じゃあ、趣味は奴隷を侍らせることなのか?」

「ふふふ、お前の冗句は相変わらず冴えないなぁ、ガンマよ。私は、それほど人間に興味がないだけさ」

 ……一番危険な嗜好の持ち主じゃねぇか。

 他者に興味がない奴は一見不干渉と思えるが、実態はそれに対して何をするもしないも一切の感慨を示さない奴だ。殺すなら殺すし、殺さないなら殺さない。ただそれだけの単純な動機で、どんなことでもやってのけられる。

 素直に殺戮が好きな奴の方がまだ説得の余地がある。

「それでだ、私も片棒を担がされてはいるわけだが、あいつのやり口はあまり美しくない。おそらくこれから起こるであろう阿鼻叫喚の惨劇にも情緒や芸術性が欠けることだろう。本音を言うなら、面白味がない」

 ……つまり、その条件を満たしてれば何の躊躇いもなく協力していたかもしれないというわけか。

 やりづらい相手だ。何を考えているか分からない奴は、何をしでかすかも分からん。悪党は悪いことしかしねぇから楽なんだけどな。

「それで俺達に情報をリーク、か?」

「そういうことだ。私も一応《魔族(アクチノイド)》の一人。あからさまな叛逆行為は慎まなければいけない。なので、お前達にヒントを与えて、その可能性に賭けてみようと思ってな」

 ふふふ、とまたキュリーが艶然と笑う。

 くそ……さっきから分析を試みているが、こいつの性格が全く読めない。真意が見えてこない。

 遊ばれているのか? いや、しかし、それだけならここまでする必要はなにもなく……。

 誤った情報を与えて混乱させるつもりか?

 それとも本当に助言を?

 分からねぇ。読み取れねぇ。

「なるほどな。お気遣いは有り難いわけだが、話す相手を間違えたな。勇者様が出てくるまでもう少し待つことだ。俺に話したところで――」

「いや、私はお前がいいのだよ」

「は?」

 俺でいいのではなく俺がいい?

 俺が出てくるのを待っていたっていうのか?

「キュリー、お前は案外見る目がないんじゃねぇのか? 俺は、あのメンバーの中で一番の雑魚だぜ? その上発言力もねぇ。俺に言ったところで何も変わらんぜ?」

「ふふふ、本当にお前は小さく纏まるのが好きなのだな。私からすれば、お前が適任だよ。それに考えてもみろ? クロームの前に私が現れた場合を、さ。その瞬間、私は十六寸に切り刻まれるだろう?」

「……た、確かに、な」

 あいつは敵に対して容赦がねぇもんな。

 例えキュリーが何かを嘯いたところで、クロームは何の躊躇いもなく剣を抜き、徹底抗戦することだろう。キュリーにその気がなくても。

 おおよそ話にならない。

 プラナもまた同様であろう。敵には案外、冷たいのがプラナである。屋敷でのトリエラとの舌戦を鑑みれば、分かることだろう。

 セシウは……馬鹿だからなぁ。

「お前が一番中立的な立場で物を見れる、と私は思っている。それに頭の回転も速い。そこそこに善人で、そこそこに悪人なお前なら、私の情報が有益だと思えば、それを参考にすることもできよう?」

 ……こいつは、どこから俺達を、俺を見ていた?

 いつからだ?

 こいつは俺達の多くを把握している。

 分析できている。その上で俺が適任だと判断している。普段は馬鹿やって、頭を使ってるような素振りは見せないようにしているというのに、どうして気付けた?

「だから、それでも俺に発言権はねぇんだよ」

「お前は本当に脚光を浴びるのが苦手だな、ガンマよ。お前は勇者一行の頭脳(ブレイン)だろう? 貴様はその軽薄な口振りと、ふざけたような演技で、常に勇者達を自分の望む方向へ誘導しているではないか。なあ?」

「何の話かさっぱり分からねぇな。俺は小狡さには定評があんだが、そんなすげぇ能力は持ってねぇよ。ま、相手を呆れさせることに関しては自信があるぜ?」

「変わらんなぁ、お前は」

 どこか慈しむように、ぽつりと独白のようにキュリーが述懐を零す。まるで遠い過去に想いを馳せるような口振りだ。

 ……こいつは今、何を見ているんだ?

「さて、お前はどうしても話を逸らす傾向があるな。毎度毎度困ったものだ。歓談を楽しんでしまう。本題に移っても構わぬか?」

「おっと、そりゃすまねぇな。入ってくれて構わねぇ」

 言いながら、俺は煙草を灰皿に押しつけて火を揉み消す。

 今となってはすっかり緊張感が途切れている。肩の力が抜け、すっかり友人と話している気分だ。

「煙草はもういいのか? なんなら火を貸そう」

「いや、今はいい。本題に入ってくれ」

「そうか。ではそうさせてもらおう」

 ふぅと一息ついて、キュリーは話し始める。

「魔導陣の起動は、予定通りだと明晩、一九〇〇(ヒトキュウマルマル)。時間に猶予はないだろう。本当なら魔導陣のプログラミングコードの詳細を与えてもいいのだが、それは少し難しいだろう?」

 確かに、な。

 それがあればプラナは簡単に魔導陣を無力化するプログラムを構築できるだろう。ただ、そのコードの詳細を俺が持っていることをどう説明する?

《魔族(アクチノイド)》の手を借りたなんて言って、あのクロームがそれを快く思うわけがない。最悪、キュリーから得た全てを使わない道を選びかねない。それは遠回りすぎる。

「じゃあ、どうすんだ?」

「そのための計画について話し合いたい。とはいえ、お前が長時間戻らなければ、勇者達が不審に思うはずだ。それも避けたい。今は一度、酒場に戻った方がいい。宿屋に戻った後、一号室に来てくれ。そこで待っている。いつでもいい。なるべく怪しくない形が好ましい。不審に思われないなら時間がかかっても問題ない」

 宿屋の一号室? 随分と近場じゃねぇか。

 そういや一号室は、よく看板娘が出入りしていたな。今日も俺が出かける時に一号室で何かしていたっぽいし。

「バレないようにとは言うが、そうなると全員が寝静まった後になるぞ? クロームとセシウは放っておくといつまでも飲み続けるから、帰ってくるのさえ遅いと思うぞ?」

「相変わらずレディへの気遣いはできるようだな。気にすることはないさ、待つのは――嫌いじゃないんだ」

 どこか優しい声音でキュリーは答える。

 なんなんだろう。こいつがたまに発する、懐かしむような声は。

 遙か過去に思いを馳せているようだ。

「もし、話に乗らないのであれば、部屋に来なければいい。その時はその時、仕方のないこと、だよ」

「行くから安心しろ。ここまで聞いて、尻込みできる人間でもねぇ。だから、遅くなるかもしれねぇが待っててくれ」

「ああ」

 なんとなく背後でキュリーがゆっくりと頷く気配を感じた。

 敵、なんだよな、こいつは。そんなことまで考えてしまう。どうにもこいつを敵と思えていない俺がいる。

おかしな感覚だ。

「あー、それと、宿屋の三号室にある机の抽斗に俺の本が入ってる。多分帰るまでしばらくかかるだろうし、暇なら持っていって読んじまってもいいぞ? 本は好きか」

「ふふ、ああ、大好きだよ。借りるとしよう」

 ……何気遣いしてんだ、俺は……。

 三人に知られたら軽蔑されること間違いなしだな。敵勢力と仲良くご歓談だなんて、な。

「では、今は一旦別れよう。私は先に去る。それまで決して振り向いてはいけない。面倒だが、すまんな」

「そうかい。じゃあ、また後でな」

「ああ、また、いずれ。ふふふ、まるで逢い引きでもするようだな」

 そんな悪い気はしない冗句を言って、キュリーは俺から背中を離す。心地よい重みと温もりが背中から消えて、なんだか物悲しささえ感じている自分がいた。

 この感情は何だろう? 無性に焦れったい。

 キュリーの足音が聞こえなくなるまで待って、俺もまた酒場への道を進み始めた。

 考えなければならない。

 キュリーの真意が何なのか、彼女と話して俺は如何なる行動を取るべきなのか。

 それを見誤れば、全てがダメになってしまう。

 考えろ、考えろ……。

 白刃の上に裸足で立たされているような気分だった。

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 存外、酒場から宿屋に帰るのは早かった。俺が酒場に戻る頃にはセシウはべろんべろんに酔っていて、そう待たないうちに潰れた。プラナもあまり酒に強いわけではないため、酒にはほとんど手を付けずおつまみのチーズばかりを食っていた。クロームは一人酒を嗜んでいたわけだが、俺と一緒に酒を少し飲み交わした後、早々に切り上げることを決めた。

 酔いつぶれたセシウは俺が背負い、クロームは足下がふらつくプラナに肩を貸して、のんびりとした足取りで宿屋に帰ることになったわけである。

 クロームも帰ってすぐ、床に就いた。俺もそれに合わせてベッドで横になり、クロームが寝静まるのを待って、部屋を後にした。

 帰ってすぐ、机の抽斗の中から本がなくなったのを確認している。キュリーが持っていったのだろう。

 隣の女性陣の部屋からも物音は聞こえない。二人ともすでに酩酊状態だったので、あっという間に寝たのだろう。

 消灯されて真っ暗な廊下に出て、俺は深呼吸をする。看板娘もその親父である店主もすでに寝ているだろう。

 田舎の夜は早い。

 俺達が帰ってくるのを二人は眠気に耐えながら待っていてくれたようだ。悪いことをしたな。これからは帰りが遅くならないようにしなければならないな、などと反省してしまう。

「さて、と……」

 俺は三号室の隣の扉、一号室の扉に目をやる。扉の隙間から灯りは漏れていない。そりゃそうか。なんせ隠れ潜んでいるわけだしな。

 目は暗闇に慣れ、ある程度の距離は十分見える。歩くのにも支障はない。

 覚悟を決めて、俺は一号室の扉をノックする。

「来たか」

 扉の向こうから聞こえてくるキュリーの声。

 鍵はかけていなかったらしく、扉がそのままゆっくりと開けられる。蝶番の軋む音がやけに耳についた。他に物音がないせいだろう。

 僅かにできた隙間から女性の顔が覗く。初めて見る、おそらくキュリーの顔であった。

 想像を絶するほどの美女だ。それが最初に抱いた印象。

 顔は小さく、目鼻立ちがはっきりとしている。鼻梁はすっと通っているが高すぎず、個人的には適度な高さだ。切れ長ながらも丸みがある黒い目はそれほど大きくはなく、キュリーの落ち着いた雰囲気らしい力強さがあった。柳のように細い眉とよく合っている。

 瞳が大きいな。黒目の部分が多い。

 顔の脇から零れる髪は長く、膝まであるんじゃなかろうか。驚くほど艶やかなストレートヘアでダメージなんて一切ない緑の黒髪だ。

 外見的な年齢で言うと俺に近いくらいか。その気さくな笑みは姐御肌の印象を与え、人当たりのいい姉ちゃんみてぇな感じだ。

 あ、左目に泣きぼくろ発見。イイ女の証だ。

「どうした、そんなに人の顔をじっと見て」

「いや……別嬪だな、と」

 俺の正直な感想に、キュリーはにっこりと微笑む。本当にいい奴がしそうな笑顔だな。

「それはどうも。さ、入ってくれ。立ち話もなんだ」

 言って、キュリーは顔を引っ込めて、扉を開ける。さてさて、ここまでは俺の好みにドストライクの女である。あとはスタイルである。

 一体どんなナイスバデーなんだか……。

 そんな期待を抱きながら、開かれていく扉の向こうに注目し、俺はやがて言葉を失った。

「ちょ……! お、おい……!」

 声にならない声を喉から漏れ出しながら、俺は咄嗟に目を逸らす。

 お、おい、なんだ? 今、肌色しか見えなかったぞ……?

「ん? ああ、すまない。服を着るのは苦手なんだ」

「だ、だからって……! おま! ……ぜ、全裸じゃねぇか……」

 必死に俺は廊下の方へと目をやる。が、謎の引力が俺の眼を引っ張る。他でもないキュリーの方へと。

 これは俺の意志ではなく、何らかの引力のせいであって、決して俺のせいではない。不可抗力である。

 む、胸は大きい。俺に掌から少し零れるであろうくらいの程よいサイズである。幸いなことに髪が乳房の上にかかっているお陰で全体は見えない。ざんね……いや、よかったよかった。チクショウ、よかった。

 腰は細いながら、肋骨が浮かぶほど脂肪がないわけではない。女性としての柔らかさを感じさせながらもしっかりとくびれた適度なくびれ具合だ。ケツもいい締まり具合だな。肉付きがよく、さらさらとしていそうだ。

 太股も肉厚な感じがいいな。下に行くほど細くなっていく脚線美にそそられる。特に膨ら脛の膨らみ具合と、きゅっと締まった足首がヤバイ。

 決してまじまじと見たわけじゃないぞ……。これは謎の引力が原因であって、俺は何も悪いことはしていないのだ。何度も言うが。

「あんまり気にすることはないぞ。別に見られて困るものでもない。さ、上がれ」

 言って、キュリーは部屋へと引っ込む。部屋の机には手元を照らすために蝋燭が一本だけ置かれており、ぼんやりとした橙色の光がキュリーの白い肢体を照らし出す。あ、背中のラインと浮かび上がる肩胛骨がヤバイ、エロイ。尻なんてまるで白桃のようで……。

「だ、だから……俺が落ち着かねぇんだよ……!」

 抑えた声で必死に反論するも、キュリーは何食わぬ顔だ。渋々部屋に入りながらも、俺はずっと視線を彷徨わせるばかりだ……。

「ふむ……と、言われてもなぁ。服を着ると私が落ち着かないのだぞ」

 ふんっと腰に手を当て胸を張るキュリー。

 わー! 馬鹿やめろ! 乳房にかかっていた髪が零れそうだ!

「せ、せめてだ。下着くらい着ろ……」

「下着が一番いやなのだがなぁ。密着するようなものが一番嫌いなんだ」

 そんな堂々と宣言すんなよ。何、こいつ裸族なの?

 俺の理性がやばいんだけど。

「じゃあ、せめてこれくらい着ろ」

 言って、俺は自分の着ていたジャケットを脱ぎ、キュリーに差し出す。

「……んー、仕様がない奴だな。別に童貞というわけではないのだろう?」

 キュリーはジャケットを俺から受け取りながら唇を尖らせる。そんなに服を着るのがいやなんだろうか。

「あったりめぇだろ。これでも結構遊んでる方だ」

「ふふ、罪な男だな」

 言いながらキュリーは俺のジャケットに袖を通す。ちょうど胸元が隠れて……逆に官能的だ。こ、これはまずい。

 蝋燭の自然な灯りでぼんやりと浮かび上がる柔らかな肢体、そして裸にジャケットという普段はお目にかかることのない姿。

 ま、まずいだろ……。

「これで、いいのか?」

「あ、ああ。それなら、まあ、良しとしよう」

 まあ、目のやり場には多少困らなくなってきた。

 お陰で周囲を観察する余裕も生まれる。部屋の間取りは俺達の部屋とほとんど同じだ。ベッドは二つ、机は一つ、その他の調度品にも大差はない。

「いつからこの部屋を使っているんだ?」

「お前達がここに泊まる少し前、くらいかな」

「なるほどな。お前が使ってるから、あの娘さんがいつもここを片付けてたわけか」

 それなら納得がいく。たまに隣の部屋から感じた誰かの気配も、こいつのものだったんだろう。

 看板娘も甲斐甲斐しい。

「あー、本は読ませてもらったぞ。時間が余ってな。二巻の方も借りたがよかったか?」

 机の上に置いてあった本を手に取り、俺に掲げてみせる。こいつ、俺の鞄を漁ったな……。別に文句はねぇんだが。

 敵の一時的な拠点で堂々と物色をするとは、こいつは本当に大胆不敵だな。

「読むの早い方か?」

「そうだな。読書は趣味でな。いつの間にか速読になっていたよ」

 答えながらキュリーは机の椅子に腰掛ける。一糸纏わぬケツで木製の椅子に座って痛くならないものなのだろうか?

 キュリーは俺にベッドへ座るように促す。拒む理由もなく、俺は素直にベッドへと腰を下ろした。

「感想は?」

「なかなかに面白かったよ。最後の伏線回収は一巻の方が巧妙であったが、反面二巻はすでに世界観が固定されているお陰で物語が伸び伸びとしていた、かな」

「ふぅん」

 悪くなさそうだな。ちなみに俺は一巻の中程までしか読んでいない。

 まあ、俺は暇を見つけてちょくちょく読む感じだしな。

 部屋には蝋燭の優しい灯りのみ。キュリーの姿がぼんやりと浮かび上がっていて、余計官能的に見えてくる。

「さて、早速本題に入ろうか、ガンマ。魔導陣をどうするか、だ」

「魔導陣の起動は本当に明日の晩なんだな?」

「ああ、そこに間違いはない。とはいえ、あれは術者の手で起動するもので、時限式ではないんだがな。術者はおそらく予定通りの時刻に起動させることだろう。偶然ではあるが、勇者一行もいる。なおさら予定は変えないだろうな」

 俺達を待ち受けていたわけではないか。当然と言えば当然だけどな。なんせ、俺達はプランもなくその場の考えで行き先を決めているし。

「術者の意志で起動できるとするならば、下手を打つと予定は早まるか?」

「効果が大きく削がれるレベルであれば、その可能性も考えられる。奴は、その程度には柔軟な思考を持ち合わせている」

 まあ、そりゃそうか。予定を尊重して、計画が頓挫したら意味はねぇ。

 そうなると地道に魔導陣を破壊するようなことも危険なのかもしれない。

「一番、手っ取り早いのは術者そのものを叩くことか」

 キュリーは机に頬杖をかいて、くすりと笑う。さらさらと流れる黒い髪は見惚れるほどに美しい。

 本当に俺の好みドストライクなんだよな、こいつ……。

「それは確かに一番早い方法だ。その上確実でもある。ただ、私も一応《魔族(アクチノイド)》だ。仲間を売るわけにはいかない」

「ふぅん、術者も《魔族(アクチノイド)》ってわけか。やっぱ」

 仲間を売れないってことはそういうことだろう。

 まあ、分かっていたことだけど、確信できる要素が手に入ったのは大きい。

「賢しいな」

 皮肉を言うようにでもなく、純粋に褒めるようにキュリーは呟く。

「こんぐらい序の口だよ」

「そうだな。そうでなければ、お前にこのようなことは話さないだろう」

 キュリーの遠回しな褒め言葉に俺は渇いた苦笑を漏らす。そうだな、仮にも認められたからこそ、俺が選ばれたわけだ。

「《魔族(アクチノイド)》に認められるってのはある意味光栄かもしれねぇな」

「私はお前を高く買っているよ。なかなかに見込みがある」

 こいつもこいつで知性的だ。考えを巡らせる頭脳と知識、そして最後に物を言う経験があるのだろう。

 キュリーが味方であれば、どれだけ楽なことだかな。

「そらどうも。で、そうなると村人を生還させるのはさらに難しいんじゃないのか?」

「一番確実なのは村人を外部に逃がすことだ。森に入り逃げることができれば、魔術の効果範囲外となるはずだ」

「おいおい、森には厄介な魔物がいるって話だぞ? そいつらから村人全員を守るのは、クローム達でも辛い」

 一匹相手にするだけでもクロームはそれなりに手こずっていた。四人がかりでも、村人を守りながら戦うのは辛いだろう。

 あまり安全な策とは言えない。

「その点なら問題はない。あれは術者に頼まれて、私が召喚した式神だ。尤も、その一匹はすでにお前達にやられてしまったがな」

「へぇ、式神、ねぇ」

 式神――東洋における召喚獣の呼称だったか。そういえばこいつの顔立ちも東洋系だ。セシウとかとはまた趣の異なる見てくれのよさは、その辺の血も入ってるせいなのかね。

 あれだけの式神を四体、それも長期間召喚させていられる辺り、こいつの力が読み取れる。

 恐ろしい限りだ。《魔族(アクチノイド)》ってのは。

「明日、お前達が村人を脱出させるというのなら、式神達が危害を加えないように私が手配しよう。召喚を解くとなると私が怪しまれる。もし姿を見つけてもできる限り手は出さないでくれ。あれでも、私が育てた式神なのだ。できれば失いたくはない」

 目を伏せ、手元に視線を落とすキュリー。その声は痛みに耐えるようで、キュリーにとってすればあの化け物でしかない式神もペットと同じようなものなんだな、と思った。

《魔族(アクチノイド)》は全員非情で冷酷な破綻者ばかりだと思っていたが、その認識も改めるべきなのかもしれない。キュリーが例外であるという可能性もあるが。

「知らなかったとはいえ、あの白い狼のことは悪かった」

「瞬のことか? いいさ。仕方のないことだ。頼まれ事とはいえ、私はあの森に入った多くの人間を殺してきた。そういうこともあるさ」

 殊勝な奴だな、ホントに。

 人間よりも人間らしく、人間よりも遙かに達観している。諦観とも悲観とも違う、悟ったような物の見方をしているな。

「……この村を捨てさせる、か。あいつらに」

 それは一番安全な方法かもしれない。

 でも村人達はこの村を愛しているんだよな、きっと。それを捨てさせなければならないのか?

 こんなにも素晴らしい場所を、永遠に喪わなければいけないのか?

 俺もこの村は気に入っている。少し憚られるものがあった。

「魔導陣の起動には幾分時間がかかる。あの魔導陣は最終的な始動式を組み上げなければ起動しない。その詠唱に関わる時間はおよそ三十分――タイムトライアルだ。あまり猶予があるとは言えない」

 その間に村人全員を避難させなければならないわけか。

 ……小さいとはいえ、村人の数は百数十人ほど。その数を統率し、三十分以内に逃げなければならない。

 少し辛い物があるよな。

「なあ、あのトリエラとかっていう魔術師はやっぱり《魔族(アクチノイド)》と協力関係にあるのか?」

 トリエラ自身はおそらく《魔族(アクチノイド)》ではない。《魔族(アクチノイド)》と人間を見分けることができるプラナがそう言うのだから、間違ってはいないはずだ。

 いや、それを過信するのも愚かではあるんだが。

「そう聞かれて、私が答えられると思うか?」

「まあ、だよな」

 一応こいつにも立場ってもんはある。無理に聞き出すわけにはいかん。それに機嫌を損ねて、殺されたらたまらない。

 キュリーは前髪を掻き上げため息を吐き出す。

「どうする? ガンマよ? お前達が行動を起こし、相手が危険だと判断してからの猶予は僅か三十分。その時間でできることを考えなければならない」

「トリエラを説得できれば、《魔族(アクチノイド)》を表舞台に引き出すことができる。あとはクローム達と共にそいつを叩く。それができれば魔導陣は絶対に起動しない」

「あれが、そんな説得に応じるものか?」

 ……仰るとおりである。

 先程の様子を見る限り、あいつはプライドが高く、傲慢、また強情だろう。最悪、《魔族(アクチノイド)》に情報をリークされ、残された時間を縮めることになりかねない。

「交渉事は得意な方だが、危ない橋だな」

「ああ、いつ紐が千切れるかも分からぬ。その上板は全て傷んでいそうな橋だ」

 渡るのは愚の骨頂。

 分かりきったことだ。

「クソ……ここは完全に相手の領域(フィールド)になってやがる。相当数の人質、閉鎖された環境、張り巡らされた魔術……付け入る隙がねぇ」

 キュリーが森を通してくれるように手配をしてくれただけ、まだいい方だ。ここでキュリーの協力がなければ脱出という選択肢さえ取れなかった。

 あまりにも分が悪い……。

 考えろ……考えろ……。

 村人達を救う手立てを。

「私も、できれば虐殺の片棒は担ぎたくない。この村はいい場所で。自然が溢れ、村人達は生き生きとており、誰もが平穏に笑って暮らしている。そんな場所を壊すのは、あまり気が進まないものだ」

 ……こいつは本当に《魔族(アクチノイド)》なんだろうか?

 俺達なんかよりずっと人格者にさえ思えてくる。

 こいつはどこまでが本音で、どこからが嘘なんだ? そもそも真実と虚構は混在しているのか?

 ……どうにも奥が見えない奴だ。

「やっぱり、制限時間内に魔導陣を全て破壊するのが一番確実か……」

 思い詰めた顔で俺は結論を絞り出す。こんな案しか浮かばない自分に苛立ちを覚えた。

 キュリーは驚いたように目を瞠り、やがて顎に指をかけて思考を巡らせ始める。

「確かに――勇者一行の実力があれば不可能ではない。プログラミングコードもあるのだ。お前のところの魔術師なら明晩前には対策プログラムを構築できないことはなさそうではある。しかし、どうやって三人を説得する? 私が関与していることは言えんだろう」

「まあ、な」

 事実を知ればクロームは拒むだろう。敵の助言に従うほどあいつは敵に対して寛容じゃない。

 俺の言葉も聞かず、キュリーを殺しにかかるかもしれない。

 これ以上の面倒事はごめんである。

「その次はさっきお前が言った村人全員を村から脱出させる方法」

「うむ。この村を失うのは惜しいが、村人を確実に安全圏まで連れて行ける。ここから南下した先には大規模な都市もある。事情を説明すれば、村人全員分の寝食も保証されよう」

 確かに、南には都市がある。かなり大きい街だ。キュリーの言うとおりだろう。

 あれだけの規模ならば、しばらくの間村人全員の安寧は保たれる。

「問題は村人全員を統率できるか、否か……」

 少しでも混乱が起これば、それは伝播して大きなタイムロスとなる。

 こちらもやはり苦しい賭けだ。

 蝋燭はいつの間にか随分と短くなり、溶けた蝋が机の上で固まっていた。

 キュリーにできることは限られている。実力も頭脳も俺より遙かに上だが、その制限がある以上そこまで頼るわけにはいくまい。

 それにキュリーが言っていることが正しいという保証もないのだ。もし仮に森を抜けて脱出しようとしても、彼女の式神三匹に襲われれば村人を助けきることはまず不可能だし、俺達だって危うい。

 これが罠である可能性だって否定はできない。

 俺は考えなければならない。何を信じるべきで、何を疑うべきなのか、を。

「ガンマよ。喉は渇かないか?」

「ん? あー、そりゃまあな」

 不意に投げられた問いに、俺は思考に意識を傾けたまま素っ気なく返答する。するとキュリーはおもむろに立ち上がり、俺の方へと歩み寄ってきた。

「一杯どうだ? いい酒がある」

 言いながらキュリーは何を思ったのか俺の隣に腰を下ろしやがった。

 柔らかい肢体がすぐ側にある。

 長い黒髪からは石鹸の香りが漂い、俺の鼻腔を刺激してくる。

 ……な、なんだ?

「酒なんてどこに?」

「ここに」

 言ってキュリーが掲げた手には一本のボトルが握られていた。もう片手には二つのグラス。気が利くことに氷まで入っている。

 なるほど、それも魔術か。

「どうだ? お互い頭が凝り固まってきただろう。アルコールで脳を少しばかり柔らかくしないか?」

 妖艶な上目遣いでキュリーが俺の顔色を窺ってくる。蝋燭の灯りから遠離ったキュリーの顔ははっきりとせず、その不明瞭さが逆に彼女の色気を強めていた。

 紅い唇の艶やかさが官能的だ。

「そう言って、本当は酒が飲みたいだけなんじゃねぇのか?」

「ふふ、まあ、な」

 どこか湿っぽい声で肯定し、キュリーは俺の前にグラスを掲げてくる。

 細い指先だ。ハリがあって絹のように滑らかな肌に包まれている。

 しばし躊躇ったものの、美人の誘いは断りきれず、結局俺はそのグラスを手に取っていた。

「ほら、注いでやる」

 言って、キュリーは俺にさらに身を寄せてくる。それはもうほとんど撓垂れかかるようなもんだった。

「い……!」

 腕に柔らかい感触。分かるぞ。これは間違いなく胸の感触だ。

 俺のシャツと、キュリーの着たジャケットだけが隔たり。

 別の意味で獲って食われそうなんだが……。

 身を強ばらせる俺に構うことなくキュリーは俺のグラスに透明な液体を注ぎ、自分のグラスにも同様に注ぐ。

「ふふ、ガンマよ、夜はまだ長い。最後まで付き合ってもらうぞ」

 艶美な笑みで俺を見上げ、キュリーはグラスを持った手を伸ばし、俺のグラスに打ち合わせてくる。身体にかかるキュリーの重みがさらに増した。悪い気はしねぇな、実際。

「なんだ、偉く機嫌がよさそうじゃねぇか」

 茶化すような俺のその場しのぎに、酒を呷ったキュリーはくすりと笑う。頬は上気し、目は潤み、瞬きのために震える睫毛がやけに目につく横顔だ。

「独り酒にも、飽きていたところなのだよ。どんな美酒も、語らう者がいなければ、ただの水よりも不味いものさ」

 官能的な表情で答えるキュリーに惑っちまいそうになって、俺はほとんど衝動的にぐびっと酒を喉に流し込んでいた。

 喉を焼く冷たい酒。度数はかなり強いようだが、確かになかなかにいい味だ。

 ふむ、悪くない芋焼酎である。

 キュリーの出で立ちや式神という呼称から考えて、焼酎の本場である東洋の物と考えていいかもしれない。

 俺の、どす黒い欲望との戦いはこうして静かに幕を開けた。

 酒を呑み身体は熱くなっているというのに、どうにも胃の底だけが異様に冷えていた。

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