双子の吸血鬼 第9章;百年な日々(2)
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 前章から軽く100年?位後の話し

 

 

※今回舞台として日本が出てきますが時代背景が実際のものとは大きく異なっているかもしれません。

 それとなく似たような時期にはしていますが正確かどうかかは分かりません。

 wikiによるとエヴァは現代(学園に通い始めた頃)が600歳となっていたので今から簡単に逆算してプラス100年という事なので大体1600年江戸が始まり少し経った頃を想 定しております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 現在ヴァンとエヴァは魔法世界を離れ、旧世界へと来ていた。

何故来たかと言われれば単に暇だったというのがある。

この二人が永らく生きてきて、最近分かった事がある。

それは、争いごとが起こる時期には波があるということだ。

ヴァン達でさえ年がら年中狙われていたわけではない。

その証拠にここ数年は、狙われるということはなくなっていた。

その事は一度エヴァがへまをしでかし、死にはしないがヴァン達が窮地に追いやられた後の事だった。

エヴァがへまをしたことで、ヴァンは怒っているのか、心配しているのか声を荒げ、とうとう、エヴァに魔法を教え始めた。

エヴァは物覚えがよく乾いたスポンジのように見る見るヴァンが教える事を身に着けていった。

しかしエヴァからしてみればヴァンの教鞭は大変厳しいものであったため、兄と二人きりのマンツーマン授業とはいえ、疲れがたまっていくのだった。

だが、そのエヴァの魔法講座が終了してみれば二人の生活にはつかの間ともいえないながい安息の時期が流れていた。

エヴァはヴァンからの授業の鬱憤をその賞金稼ぎ狩りで晴らす心積もりでいたため、当てがはずれ悔しい思いをしていた。

それから、しばらく経ち、またもや安息の時間が流れ出したのでエヴァが突然旧世界にバカンスに行きましょうといったのが始まりだった。

その事を聞いたチャチャゼロは

 

「イマ キュウセカイノ ハルカヒガシノ シマグニガ モットモ アンテイシテイル バショダゼ シカモ ソノクニハ ホカノ クニトハ ボウエキヲ シテイナイカラ オマエタチガ キュウケツキダトイウコト ガバレルコトハアルマイ(今、旧世界の遥か東の島国がもっとも安定している場所だぜ しかもソノ国は他の国とは貿易をしていないからお前達が吸血鬼だという事がばれる事はあるまい)」

 

そういっているので、暗にそこへいくようラーに言われていたから丁度良い行って来い。という事なのだろうと、ヴァンは思いラーの思惑に乗るのも癪だと思いつつもエヴァの観光にも丁度良いし良いかということで後ずれているのである。

今回二人の外見は、年齢詐称の魔法で大きくなりその島国(日本というらしい)には、髪の色が黒色しかいないため極力目立たないために髪の毛を黒色に見えるよう幻術をかけた。

 

「はい、という訳で今エヴァは兄さまと一緒に日本というところの海の近くの藩に来ております」

 

エヴァが誰だか分からないが今いる場所をレポートしていた。

 

「青い海、輝く太陽、照りつける日差し」

 

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そう、外の状況をレポートしているエヴァであったが今は屋外ではなく屋内にいる。

ヴァン達が城で変装をした後、この今でいう京都近辺に降り立ち数ヶ月はここに滞在しようとヴァンが視認誤差の魔法をかけ作り上げた家でエヴァは二階建てであるこの家の二階の窓を開け放ちその窓の枠に手をかけ、窓から身を乗り出していた。

 

「こら、窓から乗り出したら危ないぞ」

 

その様子を同じ部屋で古風な椅子に座り、読書をしているヴァンが注意する。

いつか落ちてしまうんじゃないかとヴァンは気が気ではなかった。

そんなヴァンの心配をよそに部屋に戻るとクルクルと両手を広げて回り始めた。

 

「しょうがないですわ。だって、暇なんですもの兄さま」

 

そう言って部屋の片隅にあるクッションの上にドカンと飛び込んだ。

 

「そうだなぁ〜、せっかく日本にきたんだから何か武術でも学んでくるか・・・・・・」

 

そのヴァンの言葉にエヴァは少し眉間を深くする。

 

「えぇ〜、せっかく日本に来たんですから 観光とかしましょうよ。」

 

「いやいや、こういう時こそ自分の身を守るための武術を身につける事をだな・・・・・・」

 

エヴァが不満を言うが、ヴァンはそれには取り合わなかった。

この100年でヴァンの思考はどうやったら自分を更に高める事ができるのかというものにシフトしていた。

すると、ヴァンは読んでいた本を置き立ち上がると出かけるための仕度をし始めた。

どうやら、本当に武術を身につける気でいるようだ。

 

「よし、ではこうしようか。お互いに違う武術を学びそうだな、1年ほどたった頃ここに戻り、そのお互い得たもので戦ってみようではないか」

 

仕度が終わると、ヴァンは窓に手と足をかけエヴァがいるほうを振り向きながら言う。

その表情は、逆光に照らされよく分からなかった。

言い終わると、ヴァンはその窓かえら飛び出し、エヴァがその窓に駆け寄って確認するとどことはわからぬ方向へと飛んでいった。

 

「本当にやるの? 兄さま・・・・・・」

 

その、顔は呆れやら、残念な気持ちやらがにじみ出ていた。

エヴァは深いため息を一つ吐いて、窓からヴァンとは違う方向へと飛んでいった。

 

あっさり、分かれたヴァンとエヴァ。

 

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その理由であるが実は最初の二人で過ごす事になった時でこそお互いに離れる事を恐れ常に一緒にいた二人であったが、ここ最近はお互いに力があることで1年くらいなら離れることは心配ごとではなくなっている。更に100年生きるという事を経験しているため1年くらいはあっという間という意識があるためである。

 

 

 

 

 ヴァンのどうしようもない提案があった事で、家を飛び出してきた。エヴァ。

そんなエヴァは夕暮れ時のあざやかなオレンジ色の空を眺めつつ一人飛び続けていた。

しばらく空を飛び続けているエヴァ、その背中を見ると黒色のマントのようなものを首にかけ、それを風になびかせている。

ヴァンが空を飛ぶ方法をエヴァに教えたときからの習慣である。

エヴァは時折下を見て部落が無いか確認する、誰に武術を習おうとも先ずはその武術が何処にあるか、そしてその武術の評判を確かめなくてはならないからだ。

 

「あっ、あった。」

 

すると、川が近くにある所にすんでいる集団を見つけエヴァはそこに降り立っていく。

降りていく途中で自身に年齢詐称の魔法と髪の毛の色を変えるための幻術をかける。

もとの金髪での大人の姿もよかったがこの黒髪での大人姿もエヴァはかなり気に入っていた。

事実、ここ日本にいる間にもこちらに住んでいる住人に見初められお茶などに誘われる事もしばしばあった。

だが、エヴァはヴァン第一なのでその誘いに乗る事も無かったのだが・・・・・・

エヴァは自身に魔法と幻術をかけ終え、その集団とは少し離れたところに降り立った。

不審な目で見られないようにという事を考えてである。

 

そして、少しそこから徒歩で歩きそこへと向かう。

そこは対して発展しているという場所でもなく、にぎわっている感じもないおとなしい所だった。

 

(静かで良いところね)

 

エヴァはその町並みを確認すると、その中へと足を踏み入れる。

すると静けさがいっそう身に伝わってくる。

少し歩くと、そこらにはまばらだが住人達が商人から物を買っているのが見受けられた。

その商人も少ないという訳では無く、この静けさの中でもそこそこにはにぎわっている事が分かった。

エヴァはそれらを見た後、さらに歩を進めすこし薄暗い路地の間やその裏に目を向けてみた。

すると、そこには他の集落では少なからず必ずいた孤児達がこの場所には一人たりともいなかった。

その事を考えると、ここの藩の一角は一揆などなく平和だという事が分かる。

 

そして、表通りに戻ったエヴァは商人から何か情報を得ようと思い、何か買うついでに聞こうということで懐からお財布をだした。

適当な商人の前に歩み寄る。そこに並んでいるものを見ると、野菜が数は多くは無いが見受けられた。八百屋のようだ。

エヴァはざっとその野菜を見渡しその中からおいしそうなトマトを見つけると、

 

「すいません、このトマトを一つください」

「あいよ、嬢ちゃん。トマトですね」

 

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商人に言ってトマトを買おうとする。

 

「それとですね。商人さん」

「どうしたんだい? 嬢ちゃん」

 

エヴァは少しだけ声を小さくして聞く。と、その商人は言われたトマトをエヴァに手渡し習って小さな声で聞き返す。

 

「この辺りに有名な武術家はいないのかしら?」

「どうした? 女なのにそんなこと急に・・・・・・」

「女だからこそよ。 自衛のすべを学んでおいても損はないでしょ?」

 

そう言うと、商人はあごに手を当てうーんとうなった。

その方面に疎いのだろうか・・・・・・

 

「すいやせん。おもいつかんです」

「あらそう・・・・・・」

 

真剣に考えていたようだったが結局は思いつかなかったようだ。

その答えを聞いたエヴァは少し、気の抜けた返事をしそのトマトを受取代金を渡す。

このお金はどこからかヴァンが仕入れてきたものである。

 

そして、その商人に別れを告げもう一度今度は住人に声をかけようと思いその今さっき買ったトマトにかぶりつきながら丁度よさげな人を探す。

トマトの汁をこぼさず食べるその様子はなんとも器用な事か・・・・・・

そして、そのトマトを食べ終わった頃エヴァの耳が子供の泣き声を捉える。

その声に反応しエヴァは顔をあげ耳を澄ますと一個向こうの通りから聞こえてくるようだ。

原因はなんだろうと思ったエヴァはその声のする場所へと歩を進めた。

 

 

 

 エヴァがその通りへとたどり着くと、そこには小さな男の子が一人で泣いていた。

エヴァが周りを見渡しても誰も話しかけようとはせず我関せずな状態だったので、仕方なくエヴァはその男の子に声をかけた。

 

「どうしたの? ぼく」

 

エヴァは腰を落とし、その男の子と目線が同じになるようにして話しかけた。

しかし、男の子は気が動転しているのか泣きじゃくるだけで答えてはくれなかった。

 

「どうかしたの? ぼく」

 

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もう一度エヴァは聞く。先ほどよりさらに言葉をやわらかくしてだ。

 

「お、おとうさんと・・・・・・ひっく、はぐれちゃったの」

「そう、・・・・・・ならお姉さんとお父さんをさがそうか」

 

そして誰かに話しかけられたことで、動転していた気もすこしは落ち着いたのかどもりながらもその理由をはなした。

それを聞いたエヴァは微笑みそう言う、武術家探しは明日で良いかという考えがその黒髪のなかではうかんでいた。

その言葉に小さくその男の子はうなずくと、エヴァはその男の子の涙にぬれた顔を拭うため、目をこすっていた手をどかし持っていたハンカチで拭くと立ち上がりその男の子に向けて左手を差し出した。

その手を見た男の子は少しだけ止まっていたが、その意図を理解したのか笑ってその手を握り返した。

 

そして、二人は手を握り合いながら歩いていく。

その男の子の左手にはエヴァが先ほど買った柿が握られていた。

それを、汁が落ちるのも気にせずほおばり続ける男の子と、黒砂糖を舐めているエヴァがいた。

ちなみにこの柿と黒砂糖は男の子の親御さんを探そうとして、すぐエヴァがこの男の子を元気付けようとして買ったものだ。

子供というものは現金なもので柿を買ってあげて手渡すとその先ほどまで泣き顔だった顔には笑みが生まれていた。

 

「おねぇさんは、旅の人なんだよね?」

 

その男の子が聞いてくる。先ほどまでエヴァは歩きながらどうして自分がここへと、来る事になったのかを話していた。

 

「そうよ」

「で、武術を出来る人をさがしている・・・・・・」

「そう」

「それなら、良い人がいるよ!!」

「本当かしら?」

 

その男の子は武術の心得がある人に覚えがあるようだった。

 

「うん! 僕のお父さん合気鉄扇術? って言うのをやってるんだ!!」

「それは強いの?」

「お父さんは合気鉄扇術は最強だっていつも言ってるよ!」

「へぇ、それは興味深いわね。あったら紹介してくれないかしら?」

 

そんな話をしている間に柿や、黒砂糖を食べ終えてしまう二人。

もう一個買ってもよかったが、先ほどトマトも食べてしまったエヴァはそれ以上何か買う気が起きなかったので買わなかった。

すると、前の方から一人の男がこちらに向かって走ってくる。

 

「おとうさん!!」

 

その子がその男を確認すると手を離し、トコトコと走っていった。

 

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そして、男の子がその男のもとへと行くとようやく見つかった嬉しさからか抱き上げられていた。

成り行き上そこへと近付くエヴァ。

そして、その男はエヴァに気づき男の子をおろして居直る

 

「おとうさん!! この人僕が迷子だったときに助けてくれたんだ」

「おぉ、そうですか。ありがとうございます。少し目を離した隙にどこかへといってしまって・・・・・・」

「いえいえ、それよりもお子さんから聞いたのだけれどあなたは合気鉄扇術をやっているそうですね」

「えぇ、それが・・・・・・?」

「はい、実は私何かしら武術を教わりたいと思ってまして・・・・・・」

「何と!! そうですかあなたには息子の迷子を助けていただいた、という恩がありますゆえに喜んでお教えしたいと思います」

 

こうして、エヴァがやる武術とその師が決まった。

 

 

 その後、エヴァはその男と談笑しながらその男が使っている道場へと向かう。

今は、どうやら門下生はいないらしい。

それと、エヴァが妻はどうしたのかと聞くと

 

「病で倒れまして・・・・・・」

 

先立たれたようだった。子供もまだ幼いのにこれから先が心配である。

かくして、道場へとつくと、動きやすいようにとその男はエヴァに昔門下生が使っていたという動胴着に着替え早速、説明を受けながらの稽古が始まった。

合気鉄扇術というものは合気道の要素を取り入れているらしく、相手の力を利用して倒すというものだった。

そして普通の合気道とは違うところ、それはその名の通り鉄扇を使うのである。

そして、その男は一通りの動きをエヴァに教えると時間帯も遅い事もあり、今日の稽古は終了となった。

 

「いやー、貴女は筋が良いですねー。これなら1年もやれば直ぐに身につきますよ」

 

エヴァのその鉄扇を使った動きをみて男は言う。

 

「そうかしら? 1年ね・・・・・・やってみたいけれど私が住んでいるところからここまでは遠いわ」

 

エヴァは教わった動きをなるべく真似しようと動いている。

 

「なら、ぜひ私の家に下宿なさってはどうでしょう?」

 

その男は言う、しかしそのセリフに下心が見え隠れしてならない。

先ほどから、この男のお子さんは道場の壁に背中をつき舟をこいでいた。

 

「あら? 迷惑じゃないかしら?」

 

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「いえ、そんな事はありませんよ! 先立ってしまった妻の変えの服もありますし・・・・・・」

「そう、なら今は一旦帰って私の必要なものだけもって明日からここに下宿しようと思いますわ」

 

やっぱり、男は単純だなぁ。その事を考えると兄さまはやっぱり素敵ね。とエヴァはそう考えながら会話を進めていた。

 

 

 

 

 

1年後やはりというべきかエヴァは合気鉄扇術を完璧ではないもののかなり様になっていた。

今エヴァはこの道場で合気鉄扇術の舞を披露していた。

その蝶のように舞っているその姿は美しく見るもの全てを魅了し、さらにそれを外から聞こえる雨音が更にそれを引き立てていた。

ここにいるエヴァの師というべき男もその美しさに魅了されている。人の一人である。

 

(ふむ、やはり美しい。何とかして私の妻に出来ないものか・・・・・・)

 

その男は道場の上座に座布団を敷いてすわりその舞を見ていた。

男の息子もその側におとなしく座りそれを見ていた。

その間もエヴァは自分に刺さっている視線を気にすることなく舞い続けていた。

よく注意して見ると、首にペンダントをしていた。

このネックレスはずいぶん前にヴァンがエヴァに送ったもので、それをつけていると魔法を掛けることなく自分の姿を年齢詐称薬をつかった時と同じ姿になれるというものである。

これは、1年前エヴァが家に戻り取ってきたものである。

 

(あの、首にかけているもの彼女は何と言ったか、ぺんだんと?あれの送り主が彼女の思い人らしいがそれが私の求婚を妨げているのか?)

 

この男はヴァンに浅ましいほどの嫉妬の念を起こしていた。

その心の声を聞いたものは驚きあきれる事だろう。

見た目とは違いかなり醜悪な考えを持っている。

子は親の背中を見て育つというがこういう部分をこの未だ純粋なままでいるこの子が染まらない事を祈るばかりだ。

 

エヴァの舞が終わりを告げた。

そのエヴァは少しだけ息をつくとその男の前まで歩み寄り、頭を垂れた。

 

「いかがでございましたでしょうか」

「うむ、すばらしい物であった。もう私が教える事は何も無いでしょう」

「では、ここへ訪れた時にいってあった。1年たったので私はこれにてここを去ろうと思うのですが・・・・・・」

 

エヴァは先ほどの舞の評価を受取ると早速本題を切り出した。

それに対してその男は上座から降りエヴァへと歩み寄り抱きかかえるように密着する。

 

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「そのことなのだが、ここで私の妻にならないか? そうした方がこの子も喜ぶだろうし、君が家事をしてくれるのでこちらも大いに助かっている。

それに妻になってくれたらここで窮屈な生活はさせないと約束するよ」

 

そういうと、その男は少しだけ強くエヴァを抱きしめさらに右手でペンダントの先についている彫刻をそっと隠した。

 

「もう何回も申しましたとおり私には心に決めたものがございます。ですので申し出は断らせてもらいます」

 

エヴァはそういうとペンダントの先を隠した男の手をどける。

すこし、そのセリフから怒気を感じた。隠した、という行為に対して不快な思いをしたのかもしれない。

 

(これで家に帰れば兄さまがいるはずですわ)

 

そう、今日はあのヴァンが思いつきで言った事の日から丁度1年たったのである。

それすなわち、ヴァンの方も何かしらの修行を終え家に帰っているころあいである。

そのことを考えればこんな所でグズグズしていられないエヴァだった。

 

「そうか、残念だよ・・・・・・」

 

その男はあっさりとその手を引く。

その顔を見ると、以外にあっさりした顔をしていた。ここで断られたら諦めるつもりだったのだろう。

男はその数歩下がる、そしてそれを確認したエヴァはその部屋から出て行き、今着ている胴着を着替えるために更衣室として使わせてもらっている風呂場を目指した。

 

(今日はなにやら、あっさりしていたわね)

 

エヴァはそんな事を考えながら、風呂場までの短い道のりを歩いた。

この道場兼、私の家兼、彼等の家をになっているこの廊下は老化が進んでいるらしく、歩くたびにギシギシという音が鳴った。

エヴァは目的地の風呂場まで着きその扉を開く、ここの扉は開け放すタイプではなく横に滑らすタイプのものだ。

その中に入り、脱衣籠にはいっている自分自身の服を取り出す。それは、今日道場に行く時胴着に着替えるときに置いておいたものだ。

エヴァは1年間慣れ親しんだ胴着を脱ぎ、その綺麗な身体をあらわにする。

そして、元着ていた服に腕を通す。それは、1年前ここに来たときに着ていた服だった。

 

服を着替え終え再び廊下へと戻る、するとそこには息子が壁にもたれかかりながらちょこんと座っていた。

この子はエヴァにこの1年の間にかなり懐いていた。エヴァも小さい子に頼られる事は嫌いではなかったようでこの子の事は気にいっていた。

その子が、目に少しも涙をためていなかったのである。冷たいものだ、とエヴァは思ったがその次の瞬間にこの子は私が永遠にここを去ってしまう事に気づいていないのだ。

と、気づいた。しかし、だからといってその事を諭そうとはしないエヴァであったが・・・・・・

 

その子はどうやら、エヴァの見送り役だったようでエヴァが廊下へ戻ってくるのを見ると立ち上がりエヴァと手をつないだ。

そして、二人は玄関口まで歩いていく。

玄関につくと、そこには男が見送りの為に待っていた。

エヴァを視認すると、少しだけ微笑みを浮かべた。

エヴァは息子の手を放し玄関を出、振り返る

 

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「1年の間ありがとうございました」

 

そう言うと、少しだけ頭を下げお辞儀をした。

 

「私のほうこそありがとうございました、この1年間楽しかったです」

 

その言葉を聞いたエヴァは再度小さくお辞儀をしてそこを立ち去った。

その後、道場の息子がエヴァはもう帰ってこないということに気づいて大泣きするのだがそれはもう少し後の事だった。

 

 

 

 

 エヴァはその道場の主に別れを告げた後、町を一人で歩いていた。空を見ると太陽は西へと傾いていたが完全に暮れるにはまだ時間があるようだ。

商人達が並んでいるその道を時々売っているものをチラッと見ながら歩いていた。

そうして、しばらく歩いていると、気になるものでもあったのか一つの商人のところへと向かっていった。

 

「商人よ。この酒は上手そうだな」

 

エヴァが言う、どうやら酒を探していたようだ。

 

「おぉ、嬢ちゃんお目が高いねぇ・・・・・・、それは海の向こうから渡ってきた、一品物ですぜ!!」

「そう、ならこれをもらうわ。いくらかしら?」

 

そういうと、エヴァは商人が言ってきた値丁度をしはらい酒を手に入れた。

そして、その酒を抱え早足に町の外まで出る。

 

(よし、これから兄さまと二人で宴会ですわよ)

 

その顔は笑みに満ちていた。早く兄にあいたいのだろう。

そして、どうやら先ほど買った酒はどうやら二人で飲むためのものだった。

家にもいくつか酒は貯蔵してあるものの、やはり新しくめずらしいものを飲もうという考えにいたったようだ。

家には何十年もののワインなどもあるがもったいない・・・・・・

 

町を出、早足から、駆け足になり、その姿も綺麗な大人姿から可愛らしい子供姿へと変わり、町から遠ざかった後エヴァは上空へと飛び上がり、家へと帰っていった。

 

 

 エヴァは家が見えるところまで飛ぶと窓が開いていることに気がついた。

エヴァが、このペンダントを取りに戻ったときには閉めたはずなので、その窓が開いているということは、すでに誰かが中にいるということである。

その誰かとは言わずもがなヴァンの事である。

 

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エヴァはその開いている窓を見て嬉しそうにその窓にスピードを上げて突っ込んでいった。

そして、ぶつかるというときに上手くスピードなどを調節し何も壊す事なく、その窓に足をかけ中を覗き込む。

 

「ただいまですわ。兄さまっ・・・・・・」

 

その声は驚きに満ちていた。

エヴァの目に映っているものそれは、まず部屋の真ん中にちゃぶ台が置いてあり、その周りの一所にヴァンは座っていた。

そして、そのちゃぶ台にはなにやら、腕のようなものがドーンと立てられているのである。

突然のことに声が詰まってしまう。

 

「兄さま。何ですの? それは・・・・・・」

 

エヴァは額に手を置きながらヴァンに聞く。

 

「あぁ、これはね鬼の手だよ。 せっかくなので頂いてきた」

 

何事とも無いかのように言うヴァン。

エヴァはその言葉に激しく頭痛を感じたのだった。

どうすれば、武術の修行で鬼の手などが取れるのか不思議でならないエヴァ。

 

「兄さま、それはどのようにしてとって来たのですか」

 

エヴァはすこし、脱力しながら言いヴァンが座っている隣に座った。

ヴァンは待ってましたといわんばかりにエヴァの前にお茶を置き何故手に入れたかを話し出した。

それは、にわかには信じがたく しかし今目の前にこの異様な鬼の手があることからその話が真実だという事なのだ。

 

 

 

 ヴァンは武術を習おうとエヴァに言い窓から飛び出し空を飛んでいた。

ヴァンが向かっている方向は京都である。先ほどまでヴァンが読んでいた本に昔の京都の事が書いてあり、そこに鬼や悪霊など楽しげなセリフがたくさんのっていたので目指しているのだった。

そんなヴァンは京都近くまで難なく飛ぶと地面へと降り近くの馬売りから馬を一匹買い求めた。

 

「よし、これで京都までは直ぐだな」

 

ヴァンはそう言って京都のまでの道のりを歩く。

京都の関所までは直ぐだった、ヴァンは関所の直ぐ近くまで来ると地震に魔法と幻術をかけ関所の目をたやすく掻い潜り京都へと入った。

 

その京都の景色は言葉にすることも難しいほどの優美さを誇っていた。

 

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「なかなか凄いなぁ・・・・・・」その、景色に圧倒されるヴァン。

 

その素晴らしい景色に圧倒されながらも馬に乗りながら辺りを見ている。

すると、他と比べ開け放たれている通りを見つける。奥に見えるいかにも貴族が住んでますといわんばかりの豪勢な建物がこの時代の皇居なのだろう。

 

「なるほど、この通りを中心にしてこの都市はにぎわっているのか」

 

その言葉通りこの通りには数々の人たちがいた。

庶民、商人はもちろん休みなのだろうかなんと役人と思われる人もいた。

その多種多様な人たちにヴァンは驚きつつも馬を操りその通りを歩いていた。

こうしてみると商人と一口で言っても色々あることが分かる。

ある者は野菜などを売りに、ある者は海沿いに居を構えているのだろうか魚類を売っている者、はたまた衣食住など関係なくさまざまな物を売っている者。

瓦版を売る者に、幾頭かの馬を引いている者もいた。

ヴァンはその馬売りを見つけるとその馬売りに近付いていく。

 

「やぁ、調子はどうかな?」まるで仲間に話しかけるようにヴァンは声を掛ける。

「いやぁ、中々売れないなぁ・・・・・・。京都にいれば大体が手に入るから外へ出ようと考える人が少ないからかもしれない」その事に特に驚いた様子もなく応じるその馬売り。

「そうかそうか、そんな時に悪いけどこの馬を引き取ってもらいたいのだが・・・・・・」ヴァンが申し訳なさそうに言う。

「・・・・・・たいした売り金を出せるわけではないが良いのかね?」その馬売りは少し考え、ちいさな声で言う。

「いや、金は良いんだ。旅からつい先ほど京都に観光で来たのだが、それだと馬がちと、邪魔になりそうなのでね」

「そういうことなら・・・・・・」

ヴァンは馬売りがそういうのを確認すると、乗っている馬から降り馬売りへと渡した。

身軽になったヴァンは再びこの都を見物し始めた。

 

そして、日がかなり傾いてきたときの事ヴァンは近くにいた商人にオススメの安い宿を聞き、そこへと足を運んでいた。

安い宿とあって確かに古びている感を感じるが、泊まるだけというには格安の値段だった。

 

「それではお客様は慰安の間をご利用ください」

 

ヴァンがその安宿へと訪れ、管理所へと向かい泊まるという主を伝え金を払うとその慰安の間という部屋にいくまでの地図を渡された。

ヴァンが渡された地図を見ながら宿の廊下を歩く、所々に扉がありその幾つかからは薄暗い明かりが漏れている所が少々あった。どうやら、ヴァン以外にも本日の利用客はいるようだ。

ヴァンの部屋はその宿の奥の方にあった。中に入ってみると、真ん中に裸電球がつるされており端っこに寝るための布団が畳んであるだけという状態だった。

その布団は定期的に干してくれているのだろう、ダニがいるという心配は無いようだった。

早速ヴァンは自分の身を清める為の魔法を使い清めると、その布団を敷き。夢の世界へと旅立った。

 

 次の日朝遅く起きたヴァンは武術の事などそっちのけで京都を観光していた。

さまざまな寺や神社を始め素晴らしい建造物を見て回る。その建造物一つ一つは素人目のヴァンから見ても巨匠の腕が分かるほど素晴らしいできであった。

昼は近くの団子屋で取り日が暮れ時間も遅くなってきた頃ヴァンは昨日泊まった宿に泊まった。

 

 その夜ヴァンは異変を感じ取り目を覚ました。そしてその異変を確かめるべく立ち上がり、窓を開け空を見るとその異変が分かった。

 

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都の一角でなにやら結界が張られているのである。

そしてかすかだが、その結界からは異様な気が少しばかり漂ってきていた。

 

 

 

 結界の中では、一人の男が長い刀を持ち異界な者に立ち向かっていた。

結界の内側から外を見ると、時が止まったようになっているようになっておりあたり一面が灰色になっていた。

その中でこの刀を持った男と異界の者だけが動いていた。

その男を見ると、長い時間戦っていたせいか既に息が上がっており所々怪我を負ってた。

対して、異界の者もかなりの深手を負っており、刀を持っている男から逃げ惑っていた。

しかし、結界のから外へと抜け出す事ができず、その結界の中を逃げ回るという形になっていた。

 

「くっ、まちなさい!!」

 

その刀を持った男が言うその男は袴のような服を着て目が悪いのか眼鏡をかけていた。

男の声とは反対に鬼は先へ先へと逃げていく。その鬼は逃げ足だけは速く遥か先の方へと逃げていた。

 

「しょうがない・・・・・・神明流奥義斬鉄閃(ざんてつせん)!!」

 

その男は持っている刀を振りかぶってそう言うと力を溜め、振り下ろした。

すると、その刀の衝撃波が飛んでいき、遥か先にいた鬼へと当たった。

 

(おぉ、素晴らしい。こんな芸当が出来る人間がいたとは・・・・・・

しかもあの衝撃波、力技ではないな。すると何らかの魔法か? いや、この島国には魔法という物は伝わっていないはずだ・・・・・・ふむ、知る必要があるな)

 

その様子をヴァンは少し離れた小藪の中からうかがっていた。男はその鬼が本当に死んでいるのか確かめるために近付いている。

辺りは、未だ灰色に包まれたままだ。

ヴァンもその男に接触するべく気配を消しながら近付いている。そして、今度はその鬼と男がいる本当に直ぐ近くの民家の屋根の上に座った。

男を見ると、その刀で鬼をつつき反応を見ているようだ。

すると、辺りの灰色があせた色の赤色に包まれた。

 

「な、なんだ?」

 

その事に男とヴァンは驚き当たりを見渡すと上空にかなり大きな陣が描かれていた。

そして、その陣は赤く光発するとその中心から幾匹もの鬼がこの地上に生み出されていた。

またたくまに取り囲まれてしまう男。その顔にはかなりの絶望が写っていた。

 

(ふむ、あの数相手はさすがにきついものがあるか)

「そこの者!!」

 

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ヴァンは屋根の上に立ち上がり叫ぶ。すると、その男は片目をヴァンのいる所へと向けた。

両の目をヴァンに向けると、隙が出来てしまうためだ。

 

「先ほどの貴殿の剣の腕しかと見させてもらった!! 大変素晴らしきものだった。しかし、どうやらその数相手ではつらいご様子

なれば、私がお助け進ぜよう!!」

 

ヴァンが高々と叫ぶと「すまない! どこの誰だかは知らぬが助けてくださると非常に助かる!!」

その男も素直にその助けに応じた。その間も次々とどれほど鬼が出てくるのだとばかりにその陣は鬼を生み出し続けている。

 

「では、まずあれをどうにかしなければなるまい」

 

ヴァンは屋根から降りその男の隣に立つと上空にある陣を指差す。

 

「あれを壊す手立てというものが分からないのです。 あれは、その陣の大きさに見合った数の鬼を生み出すのですが・・・・私もあの大きさの陣には出会ったことがありませんので・・・・・・ 今までは出てきた鬼全てを切っていたのですがこの数となると

恐らくですが術者を倒すかあの陣の一角を崩せれば陣は崩壊すると思うのですが・・・・・・」

 

その男は言う。

その言葉には自身が無いようだった。これほどの規模の陣を目の当たりする事が無かったのだろう。戸惑っているようだ。

 

「そうか、ならばアレは任せるがいいぞ」

 

ヴァンは不適に笑うとその場から飛び上がった。

そして、ヴァンは上空に向かって手を挙げ呪文を詠唱し始めた。

その事にさらに驚き目を丸くする男であったが、その男にも数多くの鬼達が取り囲みそのうちの一匹が襲い掛かってきたことにより現実に戻ってきた。

その鬼は手数の多い鬼でその男は防戦を余儀なくされていた。この瞬間に他の鬼に襲い掛かられてこられたら男の命は無かった。

そして、頼みの綱のヴァンはまだ上空にいる。

(はやく戻ってきれくれぇ・・・・・・)男は情けない事に鬼の数の多さにそう願うしかなかった。

 

「空高く浮かぶ太陽よ、我が求めに答えその力を我に与えよ、その力我の力となり、我を拒むもの全てを灰へと変えろ 太陽(レイ)」

 

ヴァンの手のひらから浮くようにして小さい太陽が作られる。

そして、ヴァンは次々とその小さな太陽に自分の魔力を喰わせていき大きくしていった。

その太陽が空中しある陣と同じくらいの大きさになったときヴァンは上空に向かってその魔法を放った。

その魔法が陣に当たる。すると、その陣は消えていきもう新たな鬼が生まれる事は無くなった。

 

「よし、もうあの陣は無いな」上空の陣が消えた事を確認したヴァンは地面へと急降下した。

「うおっと」そして、未だ男と戦っている幾つかの鬼を蹴散らし、その男を片腕で担ぎあげると再び遥か上空へとあがった。

 

「空高く浮かぶ太陽よ、我が求めに答えその力を我に与えよ、その力我の力となり、我を拒むもの全てを灰へと変えろ 太陽(レイ)」

 

-15ページ-

 

そして、同じ呪文をヴァンは唱える。

そして、先ほどは上空に向かって放ったそれを今度は下へと向かって放った。

すると、地上では核爆発なみの爆発がおき数多くいた鬼達はたちまちに炎の中へと消えていった。

 

GUGAAAAAAA!!

 

鬼達の咆哮が遥か上空にまで届く。

 

「すごいな・・・・・・」

 

その遥かしたの地上で起こる出来事にその男は感嘆をもらした。

その隣では何を考えるでもなくその出来事をただただ眺めているヴァンがいた。

 

 

 ヴァンはしばらく上空に待機し続け、地上の自分の魔法の影響が無くなった頃を見計らい地上へと降りた。

 

「いてっ」

 

その時に担ぎ上げていた、男を振り落としてしまったが、それは些細な事だった。

その男は、立ち上がり手を胸の辺りまで持ってきて何事か切るとあたりに色が戻ってきた。

その様子をみて、ヴァンはその場を立ち去ろうとするが「まってください」その男に肩をつかまれ立ち去る事ができなかった。

 

「頼みがあるのです」

 

その男の目は至極真剣なまなざしだった。

ヴァンはそこで断ろうかと思ったが、その目をみて聞いてみる事にした。

 

「実は私はこの都に住む帝から、この都にはびこる妖を退治するよう依頼されているのですが・・・・・・

いかんせん私の実力が足りません。なので、さきほど素晴らしい技を披露してくれた貴方にもついてきてもらいたいのです」

 

男は言うと、ふかぶかと頭を下げる。ヴァンはその様子を見て怪訝そうにする。

 

「なぜ、私がそのような事に手を貸さなくてはならないのか・・・・・・」目を閉じて少し下を向いてやれやれとでも言うように首を振る。

「まぁ、何か見返りがあるのならば考えない事も無い・・・・・・」そして再びヴァンは目をその男へと見やる。

その男はすこし困ったような、考えるような顔をすると男は自身の脇に指している。刀を握った。

 

「では、これはどうでしょう? この刀は朝凪と言います。この刀は代々神明流に伝わっているという名刀でございます」

 

そして、刀を抜きその美しき刀身を見せるためにヴァンへと手渡す。

その刀をヴァンはしげしげと眺めた、その刀は勿論先の鬼との戦いで使用されたものである。切れ味も申し分ない。

それでいて、あれほど激しく戦っていたのに刃こぼれの一つも無いのだ。それは、既に名刀と呼ばれても間違いはなかった。

 

-16ページ-

 

「ふむ、なかなかの業物と見える。しかし、そんなものを私に託して平気なのか?」その刀を見終えたヴァンは男に剣を返し尋ねる。

「あぁ、お主のような強者にもたれるのであれば朝凪もそのほうがいいであろう」男は刀を受取ると、鞘に収める。

 

その言葉からしばらく考えるヴァンであった。

 

「まぁ、よかろう。私の名前はヴァンガード・マクダウェルだ。ヴァンと呼ぶが良い」

がそのどういった考えにいたったのか、その男の依頼を受けた。

 

「助かる。私の名前は近衛中道(このえなかみち)だよろしく頼む」再度その男は深々と頭を下げた。

 

 

 

 ヴァンは中道の頼みを受けた後、そのことを報告するためにこの都に住む帝に謁見をしていた。

帝が住む屋敷は豪華絢爛という言葉がまさにふさわしかった。

そして、その屋敷のある一角にて中道と帝の臣下は帝が来るのを頭を地に着けながら待っていた。

その中でもヴァンは頭をつけるなどするはずもなくただその場で立っていた。

 

「おい、帝が来るのに頭が高いぞ!」

 

臣下の一人がヴァンに向かって言う。

しかし、ヴァンはその言葉には応じず、その言った者に対して強烈な殺気を送り身を固まらせていた。

その一件を見てから、他のもの達がそのような事をいうことは無かった。

その時、扉の隅に備えていた一人が声を上げる、どうやら帝がいよいよこの場に姿を現すようだった。

そして、その声と同時にそこにいるヴァン以外の者達は身を少しばかり硬くした。

いよいよ、その扉が開き帝がその姿を現す。

 

「え?・・・・・・」帝を見たヴァンの第一声がこれだった。

 

そしてその扉が開きどんないかつい姿なのだろうか、と思えば

そこにいるのは年が幾つもいかない小さな女の子だった。その容姿はまさしく可憐という言葉がふさわしく政(まつりごと)を取り仕切っているとは見えなかった。

 

「そこの者、わらわにに対しその無礼な言動は何事じゃ!!」

 

そしてそのヴァンの言葉に対して帝の檄が飛ぶ。

 

「もうしわけありません。 あまりにも想像していた帝とは違い可愛らしいご容姿でございましたので・・・・・・」

 

ヴァンは内心小さく笑いながらそう言うと先ほどとは違い自分も姿勢を低くする、しかしそれは他の臣下たちのそれとは違い。

片足を着き右手を心臓辺りにそして少しだけ頭を下げる。その様は西洋の騎士を思い出させた。

 

-17ページ-

 

 

「なんじゃ? その面妖な姿勢は」その姿勢を不思議に思った帝が聞く。この姿勢は西洋の物なので今の時代知っている者はいない。

「これは、海の遥か向こうでの臣下の主への忠誠の姿勢をあらわす姿勢でございます。 短い間ですが、貴女に忠誠を誓おうと思います」

「ふむ、よく分からんがよろしく頼む。 すると、お前が今回この中道と共に妖退治をするという者か?」

「さようでございます」

「よろしく頼むぞ」

 

帝はそう言うと、話は終わりだというばかりにササッとその場を立ち去った。

その場には未だ頭を下げ続けている臣下と、既に立ち上がっていたヴァンが残された。

 

 その後ヴァンと中道はこれから退治に出るための仕度をしていた。

仕度と言っても、ヴァンに攻撃が届くものは中々いないのでヴァンが買い込むものは食べ物ばかりだ。

それに対して中道は医療具などたくさんのものを買っている。

それを見ていた、ヴァンは中道にいつ妖退治に行くのかを聞いた。

 

「あぁ、準備が出来次第行こうと思うのだがどうだろう」

 

その言葉にヴァンは同意し、更に買い物を続けようとする、中道に何も言わずに着いていった。

そして、買い物も全て終了し、気づけば空はオレンジ色に染まっていた。

 

「そろそろ帰るか」

 

中道のその言葉で二人は帰路へと着いた。

 

 次の日の朝、またもや安宿に泊まっていたヴァンは扉がドンドンと大きな音を立てているのに気づき目を覚ました。

 

「なんだぁ・・・・・・?」

 

ヴァンは不思議に思って、眠い目をこすりながらふらふらを扉へと近付き開ける。

すると、そこには必死の形相で扉を叩いていた中道がいた。

その顔は何事かあったのか切羽詰っている顔をしていた。

 

「何かあったのか・・・・・・?」

 

その顔を見たヴァンは瞬時にその状況を察知し、中道を中へと招き入れる。

そして、寝ていたため敷きっぱなしだった、布団をヴァンは片付け隅にあったちゃぶ台を置き、中道にお茶を入れようとする。

 

「いや、お茶はいい。 今はそれどころじゃない」

 

そんなヴァンを中道は片手をだし止める。

しかしヴァンはそんな片手は無視して普通にお茶を入れ始めた。

 

-18ページ-

 

そして、お湯が沸きお茶を入れ、ちゃぶ台の上に2つの置いた。

やはりここに来るまでに喉が渇いていたのだろうか、熱いはずのそのお茶を一気に飲み干すと咳き込んでいた。

ヴァンはちびちびと飲んでいる

 

「で、何があったんだ」

「ゲホッ、ゲホッ実は昨晩鬼の一派に帝様が連れ去られてしまったらしい」その男はちゃぶ台を乗り出して言う。

「ほう、らしいということは確かではないのか?」

「いや、確かに宮に住んでいる侍女によるとその場面を見たらしい。 その時の侍女は恐怖に足がすくんで動けなかったららしいのだ」

 

そこまで説明すると二人は腕を組み黙り込む、帝の誘拐など本来であればあってはならないことだ。

ならばこの事は当事者とヴァン、中道を除くと知っているものは少ないのだろう。

 

「どこにいるのか分かるのか」そんな中ヴァンが沈黙を破る。

「恐らくは羅城門と呼ばれる所だ。あそこは鬼の住処として有名だ。いるとしたらそこだろう」こたえる中道の声は覇気が無い。

「数が多いのか」その言葉に中道は肯定を示す。

「この前よりかか」

「いや、この前ほどでは無い」

「なら、何が問題なのだ」

「あそこには閻魔というものが住んでいるのだ」いっそう声のトーンが下がる中道

「強いのか」

「あぁ、あいつに挑みかえってきた者はいないと聞く」

 

その言葉を聞くとヴァンは大丈夫だ、問題ないと言って立ち上がった。

 

「では、いくぞ」

 

ヴァンはそのまま扉へと近付き取っ手に手を掛ける。

それを見た中道は驚いていた。帰ってきた者がいないと聞けば気遅れると思っていたからだ。

 

「何を驚いている。私は魔王だ、閻魔などには負けはしないぞ」

 

そんな中道を見て、ヴァンは言う。その顔には少しばかり笑みがこぼれていた。

 

 

9 ※ここでの羅城門(羅生門)は実際のものとは違い門ではなく古く大きな屋敷となっております。

   さらに、この時代羅城門(羅生門)は無かったかと思われますがそこらへんはご都合主義ということでお願いします。

 

 二人は早速羅城門へと向かっていた。やはりそこは妖の住処といわれることだけはあり、遠目からでもかなりの数の鬼や妖がいることが分かった。

暗い雰囲気が漂っているせいか、羅城門周辺の空は赤黒い色をしていた。

この雰囲気に飲み込まれているのか中道の顔色はよくない。今すぐにでも倒れてしまうのではないかと思われるほどだ。

 

-19ページ-

 

「しかし、ここの空気良くないな」

 

そんな中でも普段の態度とは変わらず、ヴァンはその羅城門を見上げていた。

その顔は空気が悪いという言葉通り、空気がまずいせいか顔をゆがめていた。

中道はそこから無意識のうちにか一歩下がった所から羅城門を眺めていた。

 

(すごいなヴァン殿は・・・・・・こんな所でも臆せずにいられるとは。私には無理だ・・・・・・)

 

羅城門を見上げるヴァンを中道は尊敬の意を持って見つめていた。

そして中道は意識して脇に刺してある朝凪をの柄をぎゅっと握る。

 

「では、帝を救出しに行こうと思うのだが・・・・・・」中道が前にいるヴァンに向かって話しかける。

「しかし、何処にいるか・・・・・・は分からないのだろう?」ヴァンは振り向き答える。

「そうだが・・・・・・」言葉尻が小さくなる。

「なら、片っ端から調べていくしかないだろう。何、閻魔といえどもそう簡単には帝を殺す事は無い」そういうと、ヴァンは城の方を向き直った。

「そうなら、良いのだが・・・・・・」

「他人には見えにくくなる魔法・・・・・・お前達の言い方で言うと術だな。がある。それを使っていこう」ヴァンは再び中道の方を向いて何事か、呟くと颯爽(さっそう)と振り返り行くぞと言って一人羅城門の内部へと向かった。

「ま、待ってくれ!!」そのヴァンの後を追いかける中道。

二人の背中は何故かこの異様な空気の中で輝いて見えた。

 

 その二人は羅城門の入り口に足を踏み入れる。

離れたところからでは分からなかったが、入り口付近にも幾匹か鬼がいるようだった。

その中を二人は気を止めるでもなく歩いていった。

 

「改めて思うが、この魔法とやらは凄いな」中道が前を行くヴァンに向かって言う。

「ん? どうしてだ?」先に行っていたヴァンが少しだけペースを落とし、中道と位置が隣り合うようにして聞く。

「ここまで、鬼に近寄っても気づかれぬのだ。 これは、私では考えられなかった事だ」中道は辺りを見渡している。そこには大きくは無いものの鬼がいた。

「ふむ、そういうものかな」ヴァンはそう言うと再度歩くペースを上げ中道の前に出た。

 

 ヴァン達は羅城門の中に入り、片っ端から開いている部屋を覗いていく。

その間、二人は一言も話すことはなかった。

 

「何故、開いている部屋しか覗かないのだ?」中道は開いている部屋しか覗いていないヴァンを見て不思議に思い尋ねる。先ほど中道がしまっている部屋の中を確認しようとした所ヴァンに叱責された為である。

「ここに存在していない者が扉を開けるなんて不自然だろう。つまりはそういうことだ」その問いに対しなんてことはない。とヴァンは答える。その答えを聞いて納得する中道。

 

そして、幾つめだったかの扉を開けそこに幼き帝がいないことを確認しその部屋を出ようとしたときである。

 

「おい、聞いたか? 昨日攫(さら)ってきた奴を閻魔様は魔界へと連れ帰るらしい」

「まじかよ。あんな小さな子供に何が出来るっていうんだ?」

 

-20ページ-

 

その部屋にいた、二匹の鬼からそのような事を聞いたのだ。

その事を聞いた、中道は更なる情報を得るべくその鬼に掴みかかろうとする。

 

(ぐっ、何をする。ヴァン殿離して下され)

が、そのすんでの所でヴァンに首元を捕まれ掴みかかる事はできなかった。

(落ち着け、その魔界とやらには心当たりがある)

そう言い聞かせるがしばらくの間、中道はその鬼を襲おうと暴れていたが、観念したのかおとなしくなった。

(で、その心当たりとやらは?)そう言って中道は眉を潜める。その瞳には切羽詰ったものが合った。

(あぁ、魔法には門(ゲート)という物がある。それは、魔力を使ってある呪文を詠唱することで作る事ができるのだ。)

(なるほど、閻魔とやらはその門とやらで魔界へと行くわけだな。 なれば、その門を見つける方法とは?・・・・・・)

(フフフ・・・・・・安心するがよい。私は魔王なるものぞ。魔力の流れなぞ一発で分かる)そう良いながら、不適に微笑むヴァン。その微笑を見た中道はヴァンが味方でいてくれてよかったと心底思うのであった。

 

 その話を聞いたヴァン達二人は一旦外に出て、羅城門の上空へと飛び上がっていた。勿論片腕には中道がいる。

「ふむ、中にいたときには分からなかったが中々どうしてでかいな・・・・・・」

その、羅城門を上空から見たヴァンが感想を漏らす。

「私もです。生まれてこの方、上の方向から羅城門を見ることがあるなどと考えた事もありませんでした」

中道はそういうと感心したのか、その羅城門を上から黙って眺めていた。

 

そうして、しばらく経ってからヴァンは中道を抱えている腕ではないほうを上へと突き上げ手を広げ呪文を唱えだした。

そして、その魔法がこの羅城門全てにかかる。

この魔法はそのかけた範囲の魔法の流れを把握できるというものだ。これは、ヴァンが魔法世界にいたとき作り上げたものである。

これを魔法世界にいたヴァンは入り口を中心にして半径数キロに常に駆けていた。そうすることで、外部からの進入が魔法を使ってるものだけという縛りがあるがいち早く分かるという事である。

それにこれは、消費する魔力も少ないので長時間の使用が可能だ。

そのヴァンオリジナルの魔法(・・・・・・ここでサーチと名づけようか)を使って何をしようとしているのか、それはこのサーチを使い。

魔力の流れを感知する事によって閻魔が使おうとしている門の魔力の流れを察知、すぐさまヴァンがその場へと門を使って移動しそこで帝を奪うという算段である。

だがしかしその時に万が一にも魔界へと逃げられるという可能性はある。そのときヴァンは単身で魔界へと乗り込み、そこで帝を助ける事を考えにいれていた。

ヴァンは何故自分がそこまで必死なのか分からないかつては憎んでいたはずの人間であるというのに・・・・・・

 

ヴァンは突然その場でどかっと座った。その魔力の流れが出来るまでそこで待つつもりだ。

 

そして、一言も発さずにしばらく経つするとその時サーチが一つの魔力の流れを捉える。

「ん・・・・・・、魔力を感知した行くぞ」ヴァンはそういうと中道を引き寄せ門を作り出し、その中へともぐっていった。

 

ヴァンと中道はその門をくぐるとそこはただ何も無いただっぴろい部屋であった。

そのヴァンと中道の目の前には至極でかい図体をした閻魔と、その傍らで気絶をしている帝がいた。

未だ門を作り続けていることからこちらには気がついていないようだった。

その事を利用して中道がこっそり帝を奪還しにいこうとする。その行動をヴァンはとがめなかった。

 

-21ページ-

 

(あと少し・・・・・・)中道はあと数歩で帝に手が届く範囲にいた。

そして、中道はまた一歩足を進めようとする。

「ん?・・・・・・」

が、しかしその中道の接近を閻魔は目ざとくも気づいてしまった。

「お前達は何者だ!!」

閻魔がこちらを振り向きその名に負けないほどの覇気をかもし出した。その目はヴァンと中道を捉えていた。

そしてその覇気を間近で受けてしまった中道は気が飛びかけそうになるが何とか持ちこたえヴァンの元へと下がっていった。

しかし、ヴァンの近くにいても覇気の影響を受けてか腰が少し引けていた。帝を奪還する事は出来なかったようだった。

「名を聞いたか? そこの閻魔」

そんな閻魔にも臆することなく、堂々とし態度で迎えるヴァン。

「そういったはずだ!!」

声量がその姿を同じでかなりでかい。その声はヴァンと中道の耳を激しく打っていた。

「ならば、教えてやろう。 俺の名はヴァンガード・マクダウェルだ!!」

 

 

10

 

 その名を閻魔が聞いたとたん閻魔の顔が凍りついた。

「何だと?炎獄の魔王が何故ここに!魔法世界にいたのではないのか!!」

閻魔の顔に冷や汗が幾つも流れ、歯を噛み締めその場から後ずさっていた。

その頭にはもう既に帝の事など無く、今何故か目の前にいる魔王をどうやってしのぐか、それだけに考えが注がれていた。

「ん? その異名を聞いたことは無かったが恐らく俺のことで間違いは無いだろう。 そして今ここにいる理由は少しばかり旅に出ていただけだ」

 

そのここで始めて聞くものにとっては意味が分からないであろう理由を聞いて閻魔は歯噛みしていた。

(くそっ、そんな意味の分からぬ理由で私の野望が潰えるのか・・・・・・)

実はこの閻魔の帝を誘拐した理由はそれであった、帝を誘拐し案じにかけ人間界へと支配の手を伸ばそうとしていたのだ。

その閻魔は憎しみを込めてヴァンの事をにらんでいる。

 

(おい、中道あいつが俺のことを気にしている隙に帝を取り返して来い)ヴァンはそんな閻魔をよそに中道に向かって小声で話し掛ける。

(!!そ、そうだな)中道はそう言って帝に近付こうとするのだが、閻魔がこちらを威嚇しているために迂闊に近寄る事ができなかった。

(無理だ!!)中道が泣き言を言う。

それから閻魔とヴァン、中道の無言の声の掛け合いが始まった。

閻魔はヴァンが目の前にいるということから、ヴァン達は閻魔の近くに帝がいることから互いに手出しが出来なかった。

そのまま緊張した状態がしばらく続く。

ちなみに閻魔の門は途中で詠唱を中断していたために作られていない。

 

「ぐっ、ぐっ、ぐおぉおぉおおおおおお!!」

痺れを切らした閻魔がヴァンと中道に襲い掛かる。その巨体から来る攻撃は魔法で身を強化していてもしていなくてもひとたまりも無い。

閻魔はその巨体からは似合わずすぐさまヴァン達との間合いを詰める。

そして、ヴァン達を文字通り叩き潰すために握りこぶしを作り振りかぶって降ろした。

 

-22ページ-

 

ヴァンはいきなり咆え襲ってきた閻魔に対して恐ろしいほど冷静に対処していた。

いきなり襲ってきた事に対して腰を抜かしている。中道を帝の方へと蹴り上げ、その閻魔の叩き潰しの攻撃を余裕を持ってかわす。

その事で隙が出来た閻魔のわき腹に魔力を込めたストレートを繰り出す。

「ぐおおぉぉぉおおお!!」

閻魔は吹っ飛び羅城門の壁に頭から突っ込む。しかし、これでくたばるような奴でもなく閻魔は周りの壁を叩き壊し立ち上がる。

「ちっ・・・・・・」

その事に軽く舌打ちをするヴァン。だがその閻魔の頭が壁に埋もれじたばたしている隙に中道は帝をしばっていた縄を切り後方へと下がった。

「うおっ!?」

それをヴァンは確認すると閻魔に向かって走り出しとび蹴りを食らわせて今度は床へ頭を埋めた。

そしてやはり立ち上がるために足をじたばたさせている。身体がでかいのでそのじたばただけでもかなりの広範囲にわたっての攻撃となっている。

「よし、逃げるぞ!!」

それを確認するとヴァンは閻魔に背中を向けて中道の方へと走り出した。

そして中道を脇に抱え、帝を片手で赤ちゃんを抱っこするときのように抱きその場から飛び上がった。

その飛び上がるスピードはまさしく弾丸のようであった。

天井を突き破りめずらしく太陽が差し込んでいた羅城門の上空へと飛んだ。

下にいる閻魔はやっと帝を取られた事に気づきヴァンを追おうとするがヴァン達は既に遥か空の上。追いつけるはずも無かった。

 

 

 

11

 遥か上空にて。

 ヴァンはそこから羅城門を見下ろしていた。鬼の一つが翼を持っていてそれがこちらに飛んでくる。そんな可能性があったからだ。

しかし、そんな心配も杞憂に終わり、ヴァンはゆっくりと飛びながら中道と共に帝の住む宮へと戻っている。

中道は羅城門から逃げ切れた事で、緊張の糸が切れたのかぐっすりと眠っていた。

その姿にわずかながら怒りを覚えたヴァンであったが起こさないでいた。

もし、ここで起こしたならば隣で気絶から睡眠へと移行した帝さえも起こしてしまうからだ。

中道のせいで帝の寝顔を崩してしまう事はヴァンであっても気が引けた。

それにこの帝の寝顔は、いつだったかのエヴァを思いださせるものだった。それはここ最近のものではないそれこそ、ヴァンが人間だった時の話だ。

(あぁ、そうか)そこで、ヴァンはある事実に気づく。(俺はこの小さい帝に昔のエヴァを重ねていたのか・・・・・・)そうして、もう一度帝の顔を眺める。

そもそも東洋人である帝と、西洋人であるエヴァはいろいろな面で決定的に違う。

しかし、髪の色だとか目の色だとかそんなもので帝をエヴァと重ねていたのではなかった。

ならばどこかと聞かれると返答に困るヴァンであるがそんな外見的なものではなく内面的なもので重ねていたのだった。

 

「ん・・・・・・・・・・・・んぅ・・・・・・」

 

そんな帝が目を覚まそうとしていた。

そして眠気眼で半開きな目で今自分を抱いている者の顔を見ようとする。

 

「かみ・・・・・・さま・・・・・・・・・・・・?」

 

帝が見ようとしていたヴァンの顔は太陽の光によって輝いて見えた。

 

-23ページ-

 

それに加えて今自分達が空を飛んでいるという事をまだ半覚醒な頭で認識する。

それならば、そのような感慨もうなづけるであろう。

 

「違いますよ。昨日お会いしたでしょう? 貴女を守る騎士ですよ」

 

ヴァンは普段とは口調を変えボーっとしている帝に向けて答える。

頭がだんだん覚醒してきたのか今時分が置かれている状況を理解し、段々と顔が赤くなってくる。

 

「お、お主は寝室で寝ていたわらわを連れ出していったい何をしておるのじゃ!!」

 

その物言いに少し違和感を覚えたヴァンそして何の事か、と考えるが簡単な事だった。

 

「帝様は先ほどまで閻魔に誘拐されていた事を覚えてないんですか?」

 

その言葉に首をかしげる帝、その様子に少しヴァンは笑みを漏らし何があったのか伝えた。

いわく、帝は昨夜閻魔によって連れ去られた事。いわく、今朝方下宿所に中道が訪ねてきて帝を救ってほしいと頼んだこと。

いわく、どうやら帝はこの世ではない魔界と呼ばれる場所に連れて行かれそうになった事などを事細かにヴァンは説明した。

すると、見ていて面白くなるほどに帝の顔は青くなり、最後にいたってはプルプルと振るえぎゅっとその小さな手でヴァンの服を握りこんでいた。

 

そしてそのまま途中で中道は目を覚まし、宮まで着くとそこは帝がいないことが公になっていないせいかいつもと変わらないでいた。

「なんであの者達はわらわが誘拐されたというのにいつもどおり仕事などしておるのだ?」ヴぁんはそういうものなんだと帝に諭す。

「そういうものかの」口ではそう言うものの帝は少々納得のいかない様子ではあった。

 

 それからこっそりと帝は自室へと戻りその誘拐されたという事実を知っている少数の人数で帝の帰還を喜んだ。

そして、帝はヴァンに「そなたは今回の件で大儀であった」といってこの急から少しはなれたところにある屋敷をヴァンに与えた。

だがそのたち役者でもあった中道にも何かしら帝は送ろうとしたのだが中道自身がそれを断った。

 

 そして、それからという物中道はヴァンの住んでいる屋敷に通うようになり日々を鬼退治であったり、ヴァンに神明流を教えたり、ヴァンと手合わせをしていたりしていた。

 

 そんな日々が一年ほど続いたある日ヴァンは屋敷を返すべく帝の元へと立ち寄っていた。

「帝、そろそろ旅を再会しなくてはならない。だから屋敷を返還しようと思うのだが・・・・・・」

帝とも以前のようにかしこまった口調ではなくかなりフランクな砕けた口調になっていた。

帝はそのヴァンが言ってきたことで取り乱しそうになったがはやり最後は笑顔で分かれたいと思い泣かないようにと我慢していた。

そして、帝はヴァンの方へと歩み寄り抱きしめる。そして、耳元でささやく。

「ならばわらわはあの屋敷を寝室として使おう。短い期間だったがありがとう」

その言葉は振るえていた。

ヴァンは何も言わずに帝を抱きしめていた。

 

 

 この日ヴァンは京都を旅立ちエヴァが待っていると思われる家へと帰っていった。その際ヴァンを送る会として宮内で盛大に宴が行われ、それが終わる頃ヴァンに中身から選別として以前から約束していた。朝凪と何故か鬼の腕を貰った。そして何故かヴァンは神明流に神明流を守る守護神として名を残す事になる。

 

-24ページ-

 

 後日談だがこの帝、この後子を成す事はなく。生涯男を知る事はなかったという、実際周りの者達により強要されることもあったそうだがその度ある屋敷に引きこもりその屋敷の入り口を一人の剣士が守り続けたという。その剣士と結ばれる事があるのでは、と噂される事もあったがそのような事もなかった。

 

 

 

-25ページ-

 

 

 

12

 

 「こんなわけなんだけど」

 

 「なるほど、兄さまも大変だったのですね。しかし、私以外の女に現(うつつ)を抜かすとはどういうことですか」

 

隣に座っているエヴァはそのまま笑顔でこちらににじり寄ってくる。

 

 「いや、それにはしょうがない事情があってだな・・・・・・」

 

その気迫に思わず後ずさるヴァンしかし、エヴァはどんどんとこちらへとにじり寄ってくる。

そして、がばぁっとエヴァはヴァンに抱きつき、そして首元の匂いをクンクンと嗅ぐ。

 

「本当に女の匂いがしますわ・・・・・・・・・・・・」そうエヴァは小声で言ってヴァンをジト目でにらみ「兄さま嫌い!!」と言ってのけた。

そのことで、大きなショックを受けたヴァン。

しかし、その状態から脅威の速さで立ち直るとエヴァを強く抱きしめ「愛してるよ。エヴァ」と言う。

その事でエヴァは更に強くヴァンを抱きしめその胸板に顔をうずめる。

その顔は笑顔で満ち溢れていて二人だけの世界がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-26ページ-

 

あとがき・・・・・・

 

やっと双子の吸血鬼第9章が更新する事ができました。

長かったです。

しかし、もう少し早く更新する事ができなかったかな?と、思います。

 

そんなことはさておいて今回の第9章百年な日々(2)はどうだったでしょうか?

 

すこしでも退屈しのぎになれば良いなと思います。

 

これからも私が好きな作品での文章の描き方を盗んでこの作品に生かせれば良いなと思います。

 

こんなところで今回の挨拶を終わりにしまして少しこの作品の読み方について

 

ん?誤字?→すいません。仕様です。各々の脳内で正しい漢字に変換しておいてください

コレって矛盾!?→すいません。極力矛盾はないようにと意識してはいるのですが矛盾点はあるかもしれません。その時は都合よく脳内補完で修正しておいてください。

一人称がさだまっていない!!→すいません。私の設定不足でございます。これからはエヴァ→私 ヴァン→俺で定めていこうと思いますが時と場合により変える必要があるときがあるかもしれないので断言は出来ません。

ちょっと意味が通ってないんじゃないの?→すいません。各自都合よく脳内で補完しておいてください

 

 

 

                                      以上です。

説明
小説書き素人が無謀にも長編小説に挑戦
今作品は魔法先生ネギま!の二次創作です。
稚拙な文章ではございますが楽しんでお読みいただけたのなら
これ幸い。
では、「双子の吸血鬼 第9章;百年な日々(2)」をお楽しみください。
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