真・恋姫無双SS 〜この地に生きるものとして〜 第6話「月下の幻」
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真・恋姫無双SS 〜この地に生きるものとして〜

 

 

第6話「月夜の幻」

 

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養母の葬儀が終わった後、後事を華佗に託し

一刀はまた旅路についていた。

 

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華佗や家人達は一刀を引きとめたが、一刀が首を縦に振ることはなかった。

 

一刀が華佗に後事を託したのにはいくつかの理由があった。

まずは、五斗米道の奥義継承者が自分ではなく華佗であること。

つまるところ、これから五斗米道を背負って立つのは華佗なのだ。

にも、関わらず養子という理由だけでここに居座ることは五斗米道の為にも

良くはないと思ったからだ。

また、養母の看病をしながら一緒に過ごした中で、

華佗の医に対する熱い情熱と真っ直ぐな性根に

彼なら道を誤らずに進んでくれると思った事も一因だろう。

 

そして一刀自身、まだ自分の進むべき道が定まっていなかった。

師『丁原』の元で武を学び、確かな実力をつけることはできた。

しかしながら、武官として宮仕えがしたいのかと問われれば否である。

その背景には師である丁原からの影響と

旅の途中に各地の荒廃を目の当たりにした事が大きく影響している。

そこで、一刀は自分の進む道見つけるために、見識を広める為、旅に出る事にしたのである。

義妹である関羽の事も気になったが、別れ際の決意を秘めた眼差しから、

関羽は自身の進む道を見つけているようだった。

そんな所に今の自分が戻っても関羽にとっても良いものにはならないだろうと思ったのだった。

 

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自身の道を見つけるため、

義妹が恥ずかしくない兄であるため、

自分に真名を預けてくれた二人の少女を失望させないために

自分を育んでくれた人達の恩に報いる為に

 

そんな思いを胸に漢中を後にした一刀の向う先は荊州。

彼の地にて私塾を開いているという賢人の元を尋ねる事であった。

 

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数ヶ月前に先生の友人の御子息が尋ねていらしたらしい。

らしいというのは私達がその人を見た事がないから。

その人がやって来たその日から離れの庵の立ち入りが禁止されました。

先生の話ではその人は男の子である為、

正式な門下生として皆と共に生活させるわけにはいかないからとの事。

そう、ここ水鏡塾の門下生は女子に限られているんです。

それも各地の名士、名族の方々が多数いらっしゃいます。

そんな中で間違いが起こらない為の配慮だそうです。

 

そんな先生の説明から最初は興味津々だった皆も

その人が庵からまったく姿を見せない事から次第に気にする人は居なくなっていきました。

 

私を除いて・・・・

 

私は当初その人にまった興味を持っていませんでした。

それは、それ以上に勉学に夢中になっていたから。

でも、ある日を境に私は俄然、彼に興味を持った。

それは私が教室で親友の雛里ちゃんと孫子を読み返している時の事でした。

 

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「あら?朱里に雛里、まだ残っていたのですか?

貴方達は本当に勉強熱心ですね。」

 

そう言って教室に入ってきた先生の手には象棋盤。

 

「はわわ。そ、そんな事ありましぇん」

 

「あわわ。先生は象棋盤など持ち出されてどうされたんですか?」

 

「二人とも、私の友人の子が離れに来ているのは知っていますね?

その子にも個別で勉学を教えているのですが、

その勉学の合間に、一局打ってみたのですが・・・」

 

そこで先生はクスッと笑みを漏らす。

 

「朱里、雛里、この盤上に魚鱗の陣を配置してもらえすか?」

 

そう言って先生が象棋盤を私達に差し出す。

魚鱗の陣といえば本陣を魚鱗の底辺に配置して守備を固める防御陣。

どうしてそんな事を聞くのだろう?と思いつつも私も雛里ちゃんも、

定石通りに魚鱗の陣を並べてみた。

 

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「そうですね、魚鱗であれば、本陣を守る為底辺中央に本陣を置き

それを守るように陣を構築するのが基本です。

ですが・・・・」

 

そう言いながら先生が並べた魚鱗の陣を見て、私も雛里ちゃんも驚いた。

たしかに陣形は魚鱗である。

しかし、私達が並べた物とは本陣の位置がまるで違う、

その陣は本陣を魚鱗の頂点にあたる部分に配していた。

 

「はわわ。これではすぐに本陣が落ちてしまいましゅ。」

 

隣で雛里ちゃんもコクコクと頷いている。

 

「そうですね、私もこんな配置はしません。

ですが、あの子は迷う事なくこの形で陣を引きました。

これが何の為であるかわかりますか?」

 

先生の問いかけに思考をめぐらすがさっぱりわからない。

後方からの奇襲を警戒するにしてもこれはやりすぎだ。

また、敵陣にこのまま突撃を仕掛けるにしても最前衛ではこちらの危険が大きすぎる。

 

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私達が悩みあぐねているところに先生が一石を投じる。

 

「二人が魚鱗の陣を敷くとして、その戦場はどういった状況でしょう?」

 

「魚鱗を敷くとなれば、防衛線もしくは撤退戦であるかと・・・」

 

私がそう答えると隣で悩んでいた雛里ちゃんが何かを思いついたように一瞬顔を

上げるが自らの考えを否定するように首を振るとまた悩みだしてしまう。

 

「雛里は何か思い当たったようですね?」

 

「そうなの雛里ちゃん?」

 

「・・・・もしかしてですけど、兵隊さん達を逃がす為に本陣が盾になるということでしょうか」

 

雛里ちゃんの言葉で全身に衝撃が走り、あわてて陣容を見直す。

本陣に配されている兵はいずれも歩兵や重歩兵で騎兵は一切存在しない、

それに対して後曲にはやたらと騎兵が多い。

でも、そんな本陣を盾にしての撤退なんて・・・

 

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そんな私を他所に先生は雛里ちゃんを褒める。

 

「さすがは雛里ですね。

この少ない情報の中で見事に答えに行き着くとは」

 

「で、でも先生.こんな陣容ありえません。

本陣を置いて兵を先に逃がすなんて」

 

こんな陣容はありえないと食って掛かる私の頭を

先生は優しくなでていさめる。

 

「朱里の言う通り普通に考えればこんな陣容はありえない。

主君を置き去りにする兵はいない。

ですが、あの子の考えは違うようです。

あの子が言うには、敗戦の責は君主にある、

なればこそ君主が我先に逃げ出す事などあってはならないと。

兵を民を戦乱に誘ったのであるのならばその責任を取らねばならないと」

 

先生の言葉を聴いて唖然とした。

そんな事を考える人などこの大陸に何人いるだろう?

名君、仁君と言われた方達ですら、こんな事は言わないのではないだろうか。

こんな人が君主となられたらと考えていると先生は更に言葉を続けた。

 

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「この考え方は人としてはとても素晴らしい・・・・ですが、

実際にこの様な陣を敷くことはあってはならない。

朱里も雛里も覚えておきなさい。

確かに自身の行動に責任を持つことは大切です。

ですが、人の上に立つ者が自身の命を軽んじるようではいけません。

付き従う兵や民達は己が主君が太平に導いてくれると信じて己が命を懸けているのです。

確かにこの行動で十の兵は救えるかもしれません。

ですが残された百の民はこれからどうなるのでしょう?

 

名誉ある死をという風潮がありますが、

たとえ屈辱にまみれようとも生きているからこそできる事もあるのです。

将来、二人が誰かの下に仕えた時にこのような場面に遭遇するかもしれません。

その時は自分の主君を諌められる人であってください。

苦言と呈す事もできないようでは真の忠臣とはいえません。」

 

そこで言葉を切った先生は視線を私達の方から外に向ける。

 

「ですが、臣として仕えるのであれば・・・」

 

そこまで呟いて先生は教室を出て行ってしまった。

 

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そんな事があってから私は、彼に興味津々だった。

時間をみつけては人目につかない影から庵の様子を伺う日々が続いている。

 

そんな日が続いたある日の夜。

寝ようとしていた私の耳に微かに聞こえた笹笛の調べ。

その音色に誘われて部屋を出る。

 

「しゅ、朱里ちゃん。何処に行くの〜」

 

そう言いながら追いかけてくる雛里ちゃん。

 

「こっちから笹笛の音が・・・」

 

「笹笛?そんなの聞こえないよ〜?」

 

雛里ちゃんの疑問の声に足を止め耳を澄ます。

 

「やっぱり聞こえる。こっち・・・」

 

「ま、待ってよ〜朱里ちゃ〜ん」

 

走り出す私を雛里ちゃんが必死に追いかけてくる。

 

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しばらく走るとさきほどまで微かにしか聞こえなかった音色が

ハッキリと聞こえるようになってきた。

雛里ちゃんにも聞こえたようで先ほどまでの不安げな表情がいくらか和らいでいる。

そうして辿り着いた先で一人の少年が月光の下、

笹笛を吹いていた。

 

その光景と音色にしばし時を忘れて聞き入っっていると、

やがて笹笛の音色が止み、そこで意識が途切れた。

 

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次に気が付いたときには私達は自室の寝台で寝ていた。

あれは夢だったのかな?

そう思い悩んだ私の耳にまた微かに笹笛の音色が聞こえた気がした。

しかし、今度は部屋から出て行くことはせずに寝台に寝そべったまま

その音色に耳を澄増す事にした。

次にあの少年に会う事ができたら名前を聞いてみよう。

そんな事を考えながら・・・・

 

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あとがき

 

書き始めた頃の予定よりも長くなりましたが、

幼少編がこれで終了になります。

 

次の話から年代が飛びいよいよ黄巾編です。

拙い文ではありますがこれからもよろしくお願いいたします。

 

それでは

 

説明
おまたせしました。
6話目になります。

今回は途中から視点が変わりますが
楽しんでいただければ幸いです。
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コメント
これはおもしろいですね!続きに期待です!(フラン)
タグ
真・恋姫無双 北郷一刀 水鏡 朱里 雛里 

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