ひぐらしのなく頃に〜真説・寶探し編〜 後半
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■第三章 ツミカクシ

 

 小さくかわいらしい口を開いてこぼれ出た冷たく残酷な梨花の言葉が、僕を夢の中でまで追い立てるです。眠ろうとしているのに、夢の中の夢で心が溶かされて、世界まで混じり合って、上も下もわからない揺籠(ゆりかご)にいるようでした。船酔いのように大きな幅と小さな幅の揺れに飲まれて囚われたままで体は眠っているのに、心だけ眠ることを許されない拷問(ごうもん)を受けているようだったのです。眠れ眠れと言われながら、瞼(まぶた)を力技で開かれているような不快感。

 そして、目に映し出される映像。

 それは僕から体が失われる夢の中の夢だから、見えたもの。見えてしまったもの。拷問だから、見せられたもの……僕が見ていない、誰かが見た光景……。誰かの夢の断片。

 

 草いきれの濃い、背の高い藪の記憶。カタカタと音を立てて回る、古いフィルムのかすれたような映像の世界。僕はそれを俯瞰(ふかん)風景で見ているのです。舞台には見慣れた三つの顔。悟史、沙都子、梨花……僕はかつて体のなかった時のように、ふらふらと地に足をつけず漂っているのです。

「悟史、こっちなのです。不思議なところを見つけたのです!」

「どこだい、梨花ちゃん」

 悟史を手招き呼ぶ梨花は、雑草の生い茂った一角に、体を全部隠していたです。そうして覗けている頭は、長い髪の毛に顔の多くが隠されていて、表情は伺い知れないのです。それでも、声には何か重要なものを見つけたという張りがあって、僕も悟史もそこへと吸い寄せられて行きましたです。

 梨花のその大きな目が、好奇心からか爛々と輝いているのに気づいたのは、程近くなってからのことでした。

「これは、すごいなぁ……よく見つけたね、梨花ちゃん」

「これなら何かがあっても不思議じゃないのですよ、にぱ〜」

「うん、これはお寶の匂いがぷんぷんしてる」

「ボクのお手柄なのですよ」

「うん。まだ何が出てくるかはわからないけどね」

 悟史は梨花が指差す場所を前にして、腰が引けたように座り込んでしまいましたです。でもそれは、誰でも仕方のない反応なのかもしれませんです。

 悟史が前にしている場所。

 それは、深く深く、底までも陽が届いていない、暗い穴でした。

「河川工事の調査用にでも掘られたのかな……随分深いね……底が見えないよ。幅は……それほどでもないけど、入り口が狭いだけっていうことも考えられるな……」

 悟史は手に当たる小石を拾って、そこに投げ込みます。投げ込んだ悟史は地面に両手をつき、耳だけを穴に差し向けました。

「…………下まで四から五メートル以上はありそうだね。これじゃ今すぐ僕たちだけで調べるのは無理だよ」

「そうなのですか?」

「うん、何の装備もない状態だし、ここは全員そろってでないとね。中に入るとしても、ロープか何かがないと、一度入っちゃったらとても自分の力だけじゃ這い上がれないよ」

 穴を覗き込んだままで、ゆっくりと立ち上がった悟史の説明は、もっともなのです。男といっても悟史ひとりで何とか出来るような問題ではないのです。ここはみんなにこの事を伝えて、少なくともみんなで一緒に。出来ることなら、大人と一緒に調査を行うべきなのです。

「そう、なのですか……落ちたら、ひとりではあがってこられないのですね……」

 

『え……』

 

 宙にぷかぷか浮いている僕と、地面に立つ悟史の声。それが思いがけずにぴったりと重なったのです。僕も悟史も驚いたからという意味では同じ感嘆だったのです。

 でも、悟史はその声を最後に、目の前の穴に消えてしまったのです。するっとゼリーを飲み込むように、吸い込まれてしまったのです。その後はうぐ、とか、ぐは、とか……そんな声が深い穴にこだまし、最後に雨上がりのぬかるみで、不意に足を滑らせたように、ぐちゃりという音が聞こえたのです。

 僕は、目を疑い、耳を疑っていました。だから、テレビニュースで流れる、どこか遠くの場所で起こった交通事故のように、淡々と目にして耳にしたことだけを頭で繰り返したのです。

「り、か……あなたは、な、にを……」

 梨花には届かない、か細い声で呟く僕の目に、さらに疑いたくなる姿が飛び込んできますです。

 梨花はそこいらにごつごつと転がっている、自分が持てる最大の石を、穴の中へ次々と放り込み始めたのです。

 石を頭の上まで掲げて、佇む梨花。そして、息をつくように薄く哂っては、石を放つ。

「梨花! やめるのです!!」

 叫んでみても、これは僕が見ている誰かの記録映画。すでに起こってしまったことは都合よく本物の映画のように巻き戻したりは出来ないのです。

 梨花がひとつ石を投げ入れるたびに、底に到達するまでに加速した石が何倍もの力になってぶつかり、穴の奥では悟史の悲鳴が響く。またひとつ、またひとつ。そしてやがて、穴の奥の反応がなくなるまで……何度も、何度も。

「…………」

 それでも梨花は表情を崩すことなく、息をひとつ整えてから声を上げるのです。

「沙都子、沙都子!! 大変よ、悟史が悟史が!!」

 そう、沙都子を呼ぶのです。

 藪に隠れて梨花がしていたことは、少し離れた川原に下りていた沙都子には見えていない。

 穴の奥で、悟史があげた断末魔は届かない。

 だから、自分を呼ぶ梨花は、沙都子の知っているいつもの梨花。親友の梨花が、大切な兄の危機を知らせている。どんなに用心深い沙都子だとしても、それを疑ってかかることなんて、無理なのです。

 息せき切らせて、駆け寄ってくる沙都子の額には、焦りと不安から、大粒の汗が滴っていましたです。

「り、梨花いったいにーにーに何があったのでございますか!」

 絶え絶えな沙都子は梨花にすがるように、悟史の安否を気遣いますです。

「そ、そこの穴が怪しいと言って、調べてるうちに、足を滑らせて落っこちてしまったのですよ」

 梨花は手に沙都子を抱いたまま、小さな指で暗く深い墓穴を指すのです。

「こ、ここなのですか、梨花……」

 沙都子は恐る恐る梨花から離れて、穴へと近づき覗き込みます。

「に、にーにー! そこにいらっしゃいますかぁ! にーにー、にーにーいたらお返事してくださいましっ!」

 真剣に悟史を呼ぶ沙都子の声。それを聞きながら、梨花は一歩サンダルの足を進めて、沙都子へ近づくのです。

「梨花、お返事がありませんですわ、にーにーは本当に……へ……」

 振り返る前に、梨花は沙都子の背中を奈落へと突き出しましたです。

 何が起こっているか、にわかに信じられない表情のままで固まった沙都子は、髪を逆巻いて穴に吸われていきましたです。悟史と同じように何一つ理解する間もなく。

「もう、やめるのです……梨花……やめて、欲しいのです……」

 でも、僕の声は梨花には届かないのです。

 露知らぬ顔の梨花はまた石を掲げて、穴へと投げ入れるのです。ひとつ投げては、断末魔を確認し、またひとつ投げては、それが聞こえなくなるまで、繰り返す。やがて、何も穴から聞こえなくなると、梨花は滴る汗を拭いもせずに、藪から出てきたのです。

「…………」

 言葉なく空を仰ぎ、僕の姿を通り越して、さらに上の世界をにらみつけて、髪を風に広げました。汗を飛ばすようにした仕草に髪は弾け、上から見る僕にはそれが梨花に生えた黒い翼のように見えたのです。

「やっと、これで……はじめられる……はじまる……」

 薄く笑った梨花の顔。それは悪い癖を出した時のものとも違う。

 僕が、今まで梨花との百年で、一度も見たことがないものでした。

 僕はそんなもの見たくなかったのです。梨花はいつも僕の傍で皮肉屋になりながらも、笑っていたのです。僕はそんな梨花をあやすように、髪をなでなでするのが大好きだったのです。

 こんなもの……こんなもの見たくなかったのです。

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「り、梨花ぁ……」

 

 苦しみから求めて伸ばした手に触れる、柔らかな髪がそこにはなくて、僕は慌てて目をこじ開けて、時計を見ましたです。もう二つの針が十二で丁度そろう手前でした。

「あぅあぅあぅ……また置いてけ堀りなのです……」

 昨日と同じように、僕の枕元にはノートが置いてあったのです。手に取ると、冷たくかさりと乾いた音が指から心に伝わったです。

 僕はゆっくりとページを一枚めくり、今日の伝言を見つけましたです。

「あんたのお守りはもう飽きた……たまには一人にさせてもらうわ……ですか……やっぱり棘々いっぱいなのですよ……」

 僕は手からするりと抜け落ちたノートをそのままに、悪夢に揺れる体に鞭打って、のそのそと服を着替えます。

 よく考えたら、今日はお休みではなく、学校がある日なのです。僕は急いで水を一杯だけ飲んで、昼ご飯も昨日残しておいたおやつのシュークリームも食べずに出かけましたです。

 一番高い位置にあるお天道様はしっかりと僕の頭を照らしてアチチなのですが、そうも言ってられないのです。完全に遅刻な上に、悟史と沙都子の事も気になるです。それに梨花や他のみんなもどうしているか心配なのです。

 考えていて、僕は一瞬足が止まってしまったのです。

 昨夜見ていたあれは、本当に夢なのでしょうか。そう疑いはじめると、梨花に会うことさえ怖くなってきてしまいます。もしかしたら、あれは僕を疑心暗鬼にかける罠や試練なのかもしれないのです。

 レナが圭一を最後まで信じたように。圭一がレナを最後まで信じたように。僕も梨花を信じないといけないのです。

 気持ち新たに、唇をぎゅっと結んで、暑い地面を踏みしめて、学校までの道のりを急ぎはじめました。

 道を歩いていて人と出会うことなんて、この村では珍しいことではないですが、それにしても今日はやたらとよく人に会うのです。

 あっちの農道で青年会の人。こっちの道端で老人会の人。学校までの林道では、消防団の人にも出会ってしまったのです。

 そしてもうすぐ学校と言うところで、僕は呼び止められたのです。

「おんやぁ〜これはこれは、古手羽入さんじゃぁありませんか。お探しの方が向こうから来てくれるってのは縁起がいい話だ。学校まで出向く手間が省けたってもんですよっと、今日はそういえば臨時休校になったんですね……いや、無理もない」

 そこにはしわしわのハンケチで額の汗を拭っている、警察の大石がいましたです。

「いやいやいや、そう縁起のいい事でもないですか。聞くことが聞くことですしねぇ」

 大石は刑事特有の威圧感を発する人物です。でもこの大石からは鷹野たちから感じたものと同じ違和感が僕のお鼻に漂ってくるのです。そう、どこか纏(まと)っている雰囲気が、やわらかいのです。

「な、なんですか……」

「いやいや、小さな村ですし、もうお耳に入っているでしょうけど、北条悟史さんと妹の沙都子さんが行方不明でしてね。それが昨日みんなと遊んでいる最中にだそうでして。こうして関係者のみなさんに詳しい事情を聞いてまわってるってわけですよ」

 ぬふふと笑う大石の話を聞いて、やっと僕はやたらと人に出会う理由に気付いたおバカさんです。あの夢は、やっぱり夢ではなかったのです。

「ゆ、行方不明……ですか……僕は昨日みんなと遊んでないので、わからないのですよ……ごめんなさいです」

「そうですとも。私が聞きまわった通りなので安心しました。それでもどこかで見かけたりというような小さな手がかりを探すのが私の仕事でしてね。お許し下さい」

「はいなのです……僕も早く見つかって欲しいと思ってるです……きっとどこかで迷子さんなのですよ」

 詰まりそうになる喉を必死にこじ開けて、僕は声を絞り出すです。夢で見たこと全てが、まだ本当と決まったわけじゃないのです。

 梨花が悟史と沙都子を穴に突き落としたと、決まったわけではないのです。

「そうですねぇ。両親と死別して、引き取り先の保護者も失って、もう兄妹の二人きりだというのに……こんな事は悲しいですねぇ……早く見つけてやらにゃあいかんのです……小さな幸せを壊すような事は断じて、あっちゃいかん!」

 いつもバラバラ殺人と、園崎の関係を疑う呪縛に囚われていた人には、とても見えないのです。心から悟史と沙都子の身を案じているようです……この夢ではきっと、大石にとって園崎との呪縛は断ち切られていて、父のように慕っていた恩師の死が重石になっていないのですね。そればかりか、人を案じるということへの後押しをしているのです。

 この優しく人を心配する姿こそが大石本来の心の形なのだと、僕は改めて知ったです。

 それを疑ってしまって、初めから色眼鏡で見てしまっている僕は罪深いのです……。

 僕が恥じるように俯いて両の角をさわさわしていると、大石が独り言のようにぼそりと漏らしましたです。

「全く、ほんの一瞬にいなくなるなんて、まるでこりゃぁ鬼隠しじゃあないですか」

「鬼……隠しですか?」

「えぇ、私が自分のおばぁさんに小さい時分に聞いた昔話なんですがね。大昔ここいらにはオヤシロサマっていう鬼がいて、そうやって村人をどこかに隠したように連れ去って食っちまうってね。残酷な話ですが、昔話なんてどこかそういうもんですよ」

「あ、あぅあぅ……そ、そんな事……ぼ、僕は……し、してないのです……誰も、誰も隠してないし……誰も……誰もむしゃむしゃなんてしてないのですっ! 鬼隠しなんて……僕のせいじゃないのです!」

「ちょ、ちょっとどうかされたんですか、古手さん! 古手さんっ!」

 暑さのせいでなく、ぐらりと揺れた頭を隠すように、僕は大石の声を振り切って走り出しましたです。どこへ足を向ければいいのかもわからずに、でたらめにただひたすらに走ったのです。

 やがて、息が切れて、呼吸が荒くなってきて足がもつれた僕は、べちゃりと農道の土の上に転がってしまいましたです。

 そういえば梨花にあんたは足がもつれるから危なっかしいと言われたことがあったのです。

「お胸はちょっぴりおっきいですが、下が見えないほどではないのですよ、あぅあぅあぅ……」

 擦りむけた膝をさすりながら、立ち上がり改めて地面を見てみましたです。

「あぅあぅ……足が見えないのです……でもそれだけじゃなくって、地を歩くことになれないからなのですよ……足音がペタペタ言うからって土踏まずがないわけでもないのですよ、梨花……」

 土埃を払いながら、自分の血で汚れた手をじっと見ましたです。色はかき氷のイチゴ味。はたまたりんご飴みたいな色なのです。それは梨花たちと同じ色。僕はそっと舌を出して、掌につくそれを舐めてみたです。

「あぅ……おいしくないのです……」

 ヒトと同じ血が通う体は、歩くにもとっても重いです。でも、これがヒトの命の重さなのです。だから、悟史や沙都子がいなくなったのが悲しいのです。

「僕の夢が全部間違いで、ただの迷子なら早く出てきて欲しいのです…………あ……ぅ……あぅあぅ?」

 僕は口から言葉として吐き出して、やっと気付いたです。大石が言った事と、昨日夢でなく、梨花が僕に言った事の違いに……。

 それは夢を夢と割り切るように簡単で、それでいて信じ難い事実だったのです。

「り、か……どうして……知ってたですか……二人が行方不明じゃなくて、死んだって……」

 僕はまた転げるように走り出しましたです。下が見えないとかそんな事を全部頭の中から消して、梨花の姿を探しましたです。

 一刻も早く梨花を見つけて、僕の中にある不安を消したかったのです。夢も嘘で、梨花が言ったことも、ただのいい間違いで……。

 悟史と沙都子は今頃ちょっと興宮あたりで遊んでいて……ここは全てが上手くいっている世界なのです。こんなことは起こるはずがないのです。

「梨花ぁ、梨花ぁ! どこなのですかー!」

 どんどん荒くなっていく呼吸と汗の隙間から枯れるまで声を張り上げて、梨花を呼びましたです。

 走って走って、転んでまた走って、疲れたら歩いて……僕の声がひぐらしの声に負けそうになる頃、耳にさらさらというせせらぎが届いてきましたです。そこは夢の中で梨花が悟史と沙都子を突き落とした穴がある近く。一昨日はワタナガシのお祭りで、たくさんの人でわいわいだった川辺。今はそれがひっそりとしていて、羽を休める白鷺さんが数羽いるだけです。

「梨花ぁ、梨花ぁ!!」

 声をあげながら慎重に見回っていると、橋の袂の暗い影の中をもそもそと動く小さな影を見つけたのです。僕は初めそれを白鷺さんの仲間かと思っていたです。だけど、その影が手に大きなモノを掴んで、ずるずると引き摺っていることに気付きましたです。

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「り、梨花っ!」

 僕は土手を転がるように駆け下りて、河原に辿りつきましたです。だけど、上からでなく、同じ目線に立ってはじめて見えてくるものもあったです。

 橋の袂にいたはずの梨花が陸ではなく、川の中を歩いているということを知りましたです。

 その手に持っているのが、あの夜レナが引き当てたペンギンのぬいぐるみだということ。

 そしてその白いお腹が真っ赤に染まっているということ。

 知ってるです。

 わかっているです。

 今は夕方だから、川も紅く染まってて、梨花も真っ赤で、ぬいぐるみのペンギンさんも真っ赤っかなのです。

 そうに決まっているです。

「……遅かったわね……たった今、ボクがこの手でこのクソみたいな夢を終わらせてやったわよ……」

「え…………」

「終わらせて……やった……のよっ……この……ボク……がっ……ボク……がっ! ハジメはオワリ、オワリはハジマリってね!!」

 迫るように鳴き続けるひぐらしの声を遮って、梨花の高らかに哂う声が僕の世界を埋めていくです。

 

 

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 ■解章 タカラサガシ 〜解〜

 

 梨花の張り上げた声がひぐらしの声と混じり合って消えても、僕は言葉を失ったままだったです。それは梨花の姿が、まるでこの紅い川から生まれたように、真っ赤だったからです。綺麗で柔らかな髪も、白く透き通った肌も、かわいらしいワンピースも。

 全部みんな何もかも、端から端まで紅く汚れていたからです。

「……何とか言いなさいよ……あんたが出来ないことを代わりにやってあげたんだから」

「ぁぅぁぅぁぅ……」

 僕には梨花が言ってる意味がよくわからないです。僕が出来ないことって何なのですか。

「梨花……梨花が何をしても、終わらないのですよ……この夢は……」

「嘘だッ! いつもいつも、いつもっ! 誰かが死んでしまったら終わりがはじまるじゃないの! みんなみんな、みんなっ! ボクの前から人が誰もいなくなれば全部終わりでしょっ!」

 梨花はレナのペンギンをぎゅうぎゅうと搾りながら、僕に棘を投げつけてくるのです。

「梨花……何があったですか……それに、大石は悟史と沙都子を行方不明で探してると言ったです。なのに梨花は死んだって僕に言ったです……」

 僕の言葉に梨花は足で紅く染まった水面を蹴り飛ばして答えるです。

「あの役立たず……やっぱり役立たずはそんな事しか言えないか……」

「それに、僕は見たんです……夢で」

 僕が頭を垂れると、梨花はまた大きく哂いましたです。

「なるほどね。人の体を得て、あの運命を打ち勝った羽入には、もうそんな力ないって思ってたわ。だけど夢だから違ったみたいね」

「梨花……じゃ、じゃあ悟史と沙都子は……」

「そうよ、見たんでしょう? だったらいちいち説明する必要なんてない。あなたはオヤシロサマなんだから、見たものを違えるはずなんてないじゃない!」

 梨花は落とし穴に獲物を追い込んだだけというように、哂い顔で僕を見るのです。瞳の闇がより濃く、澱んだものを映してしますです。

「梨花、どうして……」

「しつこいわね……この夢を終わらせるためよ。見なさい」

 梨花の指がペンギンさんから離れて、ゆっくりと橋の袂にある流れが少しだけ澱んで、草や流木が集う浮島のような場所へと運ばれるです。

「あ、ああああ、あぅあぅ……ど、どうしてこんな…………こんな……」

 梨花の指の先、そこには澱んだ水に晒されて、折り重なる体があったです。

 一昨日、一緒に笑った仲間たちの体が……もう、動くことがないと、一瞬でわかってしまう目をした体が……。

「圭一、魅音、詩音、レナ…………みんな、梨花が……?」

「そんなはずないでしょう。ボクの小さな体でそんな武勇伝をやってのけられるなら、今までの世界だってもっと簡単に運命に打ち勝てたわよ。ボクは藪に隠れてじっと待って……後始末をしただけ」

 梨花は腕に抱え直したペンギンの手をにぎにぎしながら、詩でも呟くように語るのです。

 まるきり他人事のように……冷たく。

「簡単よね。私たちは幾万の世界で失敗を犯してきた。それを再現するように、ほんの小さな石を道端に置いてやるだけで、世界なんて簡単に歪んで、ねじれて狂っていく」

「ほんの小さな石?」

「わからないの? 悟史と沙都子よ」

 冷たい口ぶりだったのです。

「梨花……梨花は大切な仲間をそこいらに落ちている小石と同じにするですか?」

「ふん……それで十分でしょう……だってこれはボクの見ている夢なんだから。誰をどう扱ってもいいのよ……ここから逃げ出すきっかけになるならねっ!」

 梨花はさらに瞳の闇を濃くして、僕に一歩近づくのです。

「ひとつを崩せば簡単……悟史と沙都子が理由もなくいなくなれば、心配をはじめるのは詩音に決まっている。そこで、もう一押し」

 梨花は小さな口を横一杯に広げて、にたりと哂ってみせるのです。

 僕はその仕草に、どこかで味わった感覚を呼び覚まして、身震いしましたです。

「詩音に悟史たちは鬼隠しにあったと言えばいいのですよ、にぱ〜。誰かの隠した寶を見つけたからと言ってね……そうそう、誰かさんがいつも宝探しをしているゴミ山でって忘れずに付け加えてね」

 含み哂いの梨花は、僕を下から見上げて、紅い舌をちろりと出しましたです。

「あとは、詩音が行動してくれる……ゴミ山という手がかりからレナを疑って、そこで鉄平とリナの死体でも見つけてくれれば大正解。そしてボクの勝ちなのですよ、にぱ〜」

 それこそ夢ならばいいのです。でも違うのです。

 みんなはここで折り重なり虚空を見ている。

「結果は見ての通り。詩音は鉄平とリナというレナの寶を見つけ、隠したかったレナは詩音に襲い掛かる。いつ見ても、あの二人がブチ切れてる姿は滑稽で、愚かしくて、最高に愛しいわ……羽入もそう思わない?」

「ぼ、僕は思わないのです……そうして仲間同士が殺しあうように仕向けて、梨花は楽しいのですか?」

「ええ、とっても……このクソみたいに長い夢から醒めるための余興でしょう? 楽しくって仕方ないわ」

 僕は棘ばかりを吐き続ける梨花を、抱きしめてあげたくて、自分からも一歩近づいたのです。この手が梨花を抱きしめることが出来る距離まで。

「寄るなっ!」

 でも梨花はそんな僕を一瞥して、手に抱いていたペンギンさんを足元に叩きつけたのです。

 血しぶきのように、川の水が弾け四散して、僕の顔も濡れるのです。

「あぅあぅあぅ、梨花……」

「あぅあぅ言ってごまかしてれば済むと思うなっ! この夢は……この世界は……これはあんたが言ってるような、病気が元の疑心暗鬼が産んだ悲劇じゃない! 今まで上手く行きすぎていた事が一気に弾けただけでしょ……ホウセンカの種が熟して、勝手に弾けるみたいに!」

 僕は近寄るなと静止された線を越えて、どうしても一歩だけ梨花に近づこうと、冷たい川の中に踏み入りましたです。

 ただ、悲しい夢に囚われている愛しい梨花の孤独な心を、今すぐに抱きしめてあげたくて……。

「近寄るなと言ったでしょ! ボクに触れるならこのクソみたいな夢を終わらせてからにしてよ!」

「梨花……だから、それは……」

「出来ないとでも言うの? 誰もいなくなれば終わるんでしょ! 早く、早く誰かがボクを殺しなさい!」

 梨花は僕を押し留めて、足元に横たわるペンギンさんの背中についているチャックを開けはじめますです。

 ちきちきちき、チキチキ、ちきち……ひぐらしの声と混じり合って、壊れたオルゴォルが途切れ途切れの詩を歌うみたいに……ちきちきちき、チキチキ、ちきちき。

 梨花がそこからずるりと引き出したのは、レナの鉈でした。ただし、刃が所々こぼれて、身にぬめった血の油がべとりと纏わりついた、禍々しいまでの鉈。

「そうね、面白くない……あんただけがボクの口伝だけで知った気になって、事実を何も知らずにいるなんて許せない……あんたにも見せてあげる……いいえ、見るがいいわ……愛しい者たちが、血にまみれて踊る姿を!」

 レナの鉈を手に、僕を注視して放さない梨花の黒い瞳。僕はそこに引きこまれて、体が動かなくなってしまったのです。

「さぁ、あんたにまだ力があるというならば、見るといいわ……オヤシロサマとして、人のヒトたる厄災を身に受け、滅びるために!」

「梨花……」

 梨花の瞳のなかではじまる記録映画。そこからは、レナや詩音、魅音に圭一。愛しい仲間たちの声がこぼれてきたのです……。

 

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僕は体だけを外に置いて、梨花の瞳に吸い込まれて、ぷかぷか浮かびながら、再生される映像を見下ろしているのです。

 そこは強い日差しを避けた、ワタナガシの川にかかる橋の袂。さっき梨花が出てきた暗い世界。悟史と沙都子の墓穴があるすぐ近くなのです。

「悟史くんと沙都子ちゃんがいなくなりました」

 詩音の冷徹な声に、みんなは凍るように表情を硬くするです。

「それはわかってるよ、だからこうして皆で探してるんじゃねぇか」

「圭一君は、ふたりが鬼隠しにあったって言われてるのを知ってますか?」

「へ、お……なんだって?」

「圭ちゃんが知らないのは無理ないよ……詩音、鬼隠しなんて実際にはないんだ……」

「おねぇは黙っててください。私はこうも聞いたんです……二人は誰かの寶を見つけたから、鬼隠しにあったと……」

 詩音は汚れてぼろぼろになった服の端を千切れんばかりに握って、瞳を陰に渦巻かせ濁らせますです。

「誰かの……寶?」

 レナは明らかにその言葉に反応して、唇の端を震えさせます。

「そうですよ……何でもあのゴミ山にあるっていうから、そこに悟史くんたちもいるのかと思って、探しちゃいましたよ……」

「へ、へぇ……」

「ん、どうしたんだレナ? 震えてるぞ……」

 気遣う圭一の言葉も届かないと、レナは唇の震えを全身に広げていきますです。それはもうただの震えではなく、レナの焦りだったのです。

「そこで見つけちゃいました。残念ながら悟史くんと沙都子ちゃんじゃなかったですけど……あれが寶だなんていうのは、酷過ぎる結末ですけど」

「な、何を見つけたんだい、詩音」

「まぁおねぇなら見慣れたもんかもしれませんが、かつて人だったものっていうところですかね。廃棄冷蔵庫のなかに、黒いポリ袋に入れられて……骨と腐乱した肉に虫がいっぱいで……空けた瞬間に吐いちゃいましたよ……」

 あっけらかんと詩音は言うですが、見知っても耳慣れてもいない圭一は、すでに口元を手で押さえているです。

「これが寶っていうなら、誰の寶なんでしょうね。私には関係ないですけど、この寶を見つけたから、二人が鬼隠しにあったっていうなら、私は黙ってません……」

「黙ってないなら……詩ぃちゃんはどうするのかな、かな?」

 震えるだけだったレナがついに口を割って、抱えていたペンギンさんの背中を開け始めたのです。

「どうもこうも、見つけて居場所を吐かせて、その後はズタズタに引き裂いてやりますよ……私から大切な人を奪っておいて、タダで済むと思うなよっ! ってね。この世の地獄っていうのを体の芯で味わってもらうことにします。全くこんな寶を探すためにあんなものが書かれたっていうなら、誰の仕業なんでしょうね。オヤシロサマが誰かの罪を受けるのに疲れて、罪を見つけさせたくて、遣わせたんでしょうかねぇ……どうでもいいですけど」

 詩音が言い終わるかどうかで、レナはペンギンさんから鉈を抜き出して構えていましたです。詩音も、自分に鉈を構えるレナの目が尋常ではないことに気づきましたです。

「レナさん……さすがにその目は冗談じゃ済まされないですよ……今の私は向かってくる相手に慈悲なんて与える余裕はないんですから……それとも、レナさんが悟史くんと沙都子ちゃんを……」

 詩音は後手にスタンガンを取り出して、同じく構えて見せましたです。

「詩ぃちゃんに守りたいものがあるように……レナにもね、何ものに変えても守らなきゃいけないものがあるのっ!」

「……許せない……許さない! 自分のそんなモノのために、二人を殺したっていうのかっ!!」

 言い終わると同時に、二人の体は動いていましたです。そして、一瞬で決着がつきました。レナの鉈は詩音の手ごとスタンガンを草むらへ弾き飛ばし、振り抜いた遠心力のまま振り上げ、頭蓋へ一閃打ち下ろしたのです。声を上げる間もなく、全ての感覚を取り上げられた詩音は、膝を折って前のめりに倒れました。長い髪の間をぬって、暗い橋の袂に紅い花が咲きましたです。

「詩音!! レナ……あんた正気なのっ!」

 怒りと混乱が混じった魅音は、レナに掴みかかろうとしますです。手に何も対抗できるような得物も持たず、ただ最愛の片方を失った感情にまかせて、息を荒げました。

「ごめんね……でも見られちゃったから……」

「え……」

 するりと魅音の脇を抜けたレナは、ダンスのステップでも踏むように華麗に円を描き、鉈の背で思い切り魅音の腰を砕きましたです。その場に崩れる魅音の側頭部に鉈の背で慈悲なく一撃を浴びせます。次いでレナは、返す手で頭頂部へと刃を立てました。魅音は断末の声もあげる暇なく果て、魅音の前頭葉から噴出した赤黒い血と脳しょうが噴水のように辺りに飛び散ります。

「レ、レナ……いったいどういう事だよ……どうして、こんな……」

 口にあてがっていた手をはがし、脂汗を滴らせた圭一はよろよろと、レナの前に出ます。

「圭一くん……ごめんね……こうするしかないの……」

 友達の血にまみれ、日陰に咲いたレナの笑顔は、凄惨でありながら悲壮なものでした。それでも圭一は、自分に出来る事を探すように、レナへと歩を進めるのです。殴られても、殴られても笑顔のままだった、あのときのレナのように。

「レナ、俺にできることはねぇのか……いや、なかったのか……こんな事になる前に……」

「ごめん、ごめんね……あった、はずなんだ……いつかレナは圭一くんに、みんなにそうしたはずなんだ……どうして言えなかったんだろうね……詩ぃちゃんが言ったように、オヤシロサマがレナの罪を背負うのに疲れちゃったのかな、かな?」

 レナは自分の行いを悔いつつも、圭一の頭上へと鉈をゆっくりと掲げていくです。圭一もそれを恐れることはせず、レナを迎えるように両腕をひろげます。

「今度はって言うのもヘンだけどよ……今度があれば……レナの罪は俺が一緒に背負ってやるよ……」

「オヤシロサマが重くて放り出しちゃうようなものだよ。それでもいいのかな、かな?」

「ああ。まかせとけ……俺はこう見えても意外と力持ちなんだからな、心配すんな」

「ありがとう……頼もしいね圭一くん……大好きだったよ」

「こんなときに何言い出すんだよ、恥ずかしいじゃねぇか」

「ううん、どうしてもこれだけは言わなきゃいけない気がしたから……だから」

 圭一は照れながらも、視線だけはレナから外さずにいますです。それは圭一の強さというより、レナを信じているからこそできる行為だと思いますです。

「最後にひとつだけ聞かせてくれよ、本当に悟史と沙都子を殺したのはレナなのか?」

「ううん……レナじゃないよ……それだけは」

「へへ、そいつを聞いて安心したぜ……じゃあ、またな……レナ……」

「うん、ありがとう圭一くん……またね……」

 圭一がそっと瞬きをして、世界を閉じた瞬間に、レナは掲げていた鉈を、最愛の圭一へと打ち下ろしました。

 最愛の人を捨ててまで守りたいものっていうのは、何なのでしょう。それが父だと、自分の生活だと僕は知っているのです。でも、僕は口に出して確認しないと、目の前で倒れる、笑顔のままで痛みさえ苦しみさえ唇を噛み千切っても耐えたまま果てた圭一の姿が、哀れで仕方ないのです。

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「ん?」

 放心したように、鉈を下げていたレナの足元に、じゃらりという金属が這う音が急にしましたです。僕もそれに気づき、圭一から目を移そうとしたときでした。

「あ……」

 短い疑問のような呟きをもらして、レナが地面に倒れてしまいました。みると、手にはさっきまではなかった鉄で出来た鎖をつかんでいましたです。あの音は、これが投げつけられた音のようなのです。

「みんな片付けてくれて、ありがとうなのですレナ……」

 そして、続く鎖の端には、梨花が哂っていましたです。詩音から弾き飛んできたスタンガンを片手に、袂の外……日向の輝かしい世界で。

「り、梨花!」

 あわてて叫んでみても、これはただの記録映画。僕には参加する権利はないのです。

「さすが、水で濡らした金属はよく電気を通すわね。不思議がって触ってくれるなんて、レナも好奇心の旺盛な猫ちゃんね……後片付けはどうしようかって思ってたけど、隠れてた場所に詩音のスタンガンが飛んできたのは、どんな神様の悪戯かしらね」

 呟きながら、日陰の世界に入ってきた梨花は、とどめとばかりレナの首筋に、スタンガンをもう一度当てましたです。ビクンっと大きく跳ねたレナの手から、鉈が零れ落ちました。

「さてと、これじゃみんなと違うのがイヤでしょう……鉈女の最後は最後らしく……してあげるわっ!」

 拾い上げた鉈を、重さのままに、レナの首筋に落とした梨花。鈍い音の連なりの果てに、どくどくと流れ出る紅い血。梨花はその水溜りに両足を突っ込みながら、仲間たちを足蹴にして、川の澱みへと落として行く。

 その暗き闇を宿した瞳は、梨花を解体しようとする、いつかの世界の鷹野そのものなのです。

「あぅあぅあぅあぅ! もう、いいのです……もう、わかったのです!」

 僕はとうとう目を瞑り、見る事をやめましたです。

「……何がもういいの……もう見終わったってことか……ならボクを見なさい! そして殺しなさい!」

 声に、梨花が見せていたのか、僕が自分の力で見ていたのかもわからない白昼夢から醒めたのです。

 醒めて目の前にいる梨花の表情は、より影を濃くして、僕を睨んでいました。こんな顔……運命を呪うように僕を見つめるよりも、まだ苦しそうな顔なのです。

「梨花、もういいのです。もうやめて欲しいのです……この夢で梨花が何をしても、何をしなくても、鷹野は梨花を殺してくれはしないです……でも大丈夫なのですよ?」

「何が大丈夫なのよ。クソ気持ち悪いけど、あいつがボクを殺さなきゃ、夢は醒めないじゃないの。あんたがこれを夢だ夢だっていうから、あの女がボクを殺すことだって思い出したわよ!」

「鷹野は……ムリなのですよ……富竹ととても幸せそうなのです。大石だって、本当に悟史や沙都子のことを心配していて、優しかったのですよ……この夢に限っては、関係ないのです……」

「じゃあ……どうすればいいのよ……あんたが、あんたっていう神様が、ボクに詩音のスタンガンを渡すようなことをしたり、あんな寶の地図をつくって、みんなが争うように仕向けたんじゃない!」

「そんなことないのです……僕はそんなこと願ってないのです……」

 僕はもう一歩踏み込んで手を差し出しますです。こうすればいつだって梨花は僕の胸に飛び込んで来てくれるです。大きな瞳を潤ませて、漆黒の髪を揺らして、僕を求めてくれるです。梨花の大好きな僕のぽよんぽよんでぎゅってしてあげれば、荒れ果てた心も落ち着くに決まってるのです。

「梨花…………」

「寄るなって言ってんのよっ!」

 梨花は僕を一瞥して、大きな瞳を鋭く細めると、遮るように鉈を振り抜き、二人の距離が詰まる事を拒んで空を切り裂いたです。

「!」

 僕の指先に僅か触れた鉈は、血でぬめっていたために、そのまま梨花の手から滑り抜けて、少し離れた川の流れに落ちましたです。その音に驚いた白鷺(しらさぎ)さんたちは、一斉に夕方の空へと飛び立って行きましたです。

 白い羽が朱鷺色(ときいろ)に染まって、とても綺麗でした。杏色の世界を朱鷺色の白鷺さんが羽ばたいて……あの翼の行く先にはどこまでも綺麗で穏やかな世界が広がっている。僕はきっと、こんな風景を梨花と笑いながら見ていたかっただけなのです。

 それなのに、どこで何が歪んでしまったのでしょう。

 痺れる指先は、幸い爪が剥がれただけだったです。その指の痛みも流れる血もあるままに、僕はやっと歩み寄って、梨花を抱き寄せました。

 そしてぎゅうと、僕を染み込ませるように梨花を抱きしめましたです。

「あんたがっ……あんたがこれは夢だ夢だっていうから……ボクはこれが気持ち悪くって……それで、早く終わって欲しくって……」

「そうなのです、夢なのですよ梨花。だけど、夢だとしても人が死ぬことは悲しいことですし、人を殺すことは罪なのです……」

「な、んでよっ……夢なんだから、何をしてもいいでしょ……早く、終わらせたいのよ……早く、みんながいる……ボクが本当にいるべき、夏休みに帰りたいのよ……明日だって、ボクはここに泳ぎに来る約束してたのよ……それなのに、約束は守れないし……ここで、ボクはみんなを……」

 僕は漏らす梨花をただ抱きしめて、考えていましたです。どうやったら梨花を救うことが出来るのでしょうと……だけど、僕にはすぐにわからなくて、夏の暑さも忘れ、こうして梨花の温もりにすがるようにしている事が心地よくなってきていたです。

「そうよ……終わらせなきゃ……じゃないと、いつまでもボクは帰れない……そうだ……まだ足りないんだ……」

「梨花……どうしたですか……一緒に終わらせる方法を考えるですよ。梨花は一人じゃないのです」

「そうね……ひとりじゃないのよ……」

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もぞもぞと腕の中で蠢(うごめ)く梨花は黒髪の隙間から大きな目で僕を見上げます。それは、何かを諦めた目ではなく、何かを決意した目でした。

 言うなればそれは、神との対峙を選んだヒトの目でした。

「…………まだ…………一人じゃないのよ」

「ぅぐっ!」

 梨花の言葉が終わる瞬間、僕の太腿が鈍い音を立てて、引き破れましたです。

「い、痛い……ですよ、梨花…………折りたたみの剪定鋸なんて、どこから……」

「ペンギンさんは意外と食いしん坊なので、いっぱいお腹に入ってるのですよ、にぱ〜。それにこういうことにはもってこいの道具でしょ?」

 小さな肩をゆらし哂い顔の梨花は、僕の太腿を引き続けます。剪定鋸の歯は、脂(やに)から刃を守るために、表面が綺麗に仕上げられていて、それでいて作業効率を図るために、とっても刃が粗いのです。梨花はまるで僕の太腿が、立ち木の打たれるいらない枝のように、ふたつになればいいと、深く大きく尖った刃に肉を絡ませながら、引き続けます。

「ボクを離すですよ、羽入……」

「そしたら……離したら、ぎこぎこやめてくれるですか?」

 痛みに歪む顔で、腕の中にいる梨花を覗き込んだです。僕の額からどろりとした汗が一粒落ちて、梨花の唇を叩きましたです。

 それを感じた梨花は、手を止めてにぃっと薄く唇を開くと、舌を這わせて舐めあげましたです。

「だぁめ……あんたが離してくれたら、すぐ楽になれるように、今度は首をぎこぎこしてあげるわ……」

「ぁ、う……あぅぁぅ……それは、もっと痛い痛いなのです……」

 僕が離す気がないとわかった梨花はもっと強く鋸を引きはじめますです。

「鷹野が関係ないって言うなら、ボクに関係した人間は、あとはあんただけなのよ……あんたを消せば、この夢は終わるわ。終わるはずなのよ! だから、お願い……ボクを助けなさい……早く、早く、早く早く、早く……死んで、死んで死んで、死んで死んで死んで、死んでっ、ボクを助けてよっ!」

 僕の足から滴り落ちた血が、川の水に溜まり、新しい紅い道を作って流れはじめましたです。それだけに血を体から失い続けている僕は、だんだんと梨花の声とひぐらしの声の区別が出来なくなってきていたのです。心地よいはずの夏の川に足をひたしておきながら、がくがくと膝が笑いだして、全身から体温が消えていく感触が僕の体をがたがたと大きく揺らしますです。

 ぼんやりとしたその視界の中で必死に鋸を引く梨花。その向こうに見える、夕陽が沈む山。空は蒼を残した茜に染まって、白鷺さんに混じって飛ぶカラスさんも、お山のお家に帰るです。かわいい子どもがいっぱい待ってるのですから……僕も帰らなきゃいけないのです。圭一、レナ、悟史、沙都子、魅音、詩音……悪夢という墓穴にはまった仲間たちと、心で泣きながらぎこぎこしてる梨花を連れて。

 愛しい子たちを連れて。

「そ、うか……そう、なのですね……だから僕にも体、があったのです、ね……やっと気づいたのです」

 切れ切れに漏らすことしか許されないくらい、僕の呼吸は荒くなってきてますです。体があるが故の終焉が僕にも迫っているのです。

 梨花も僕が痛いと言ってるのに、全くぎこぎこをやめてくれないです。だから僕は残る力を込めて、梨花を抱きしめますです。

「早く……死んでよ……しつこいわね、手が疲れるでしょ……」

「梨、花……も、ういい、ですよ……もう、苦しまなくても、いい、です……」

「えっ?」

 僕の声に顔を上げた梨花……縁深き愛しい娘の顔。

「ぐ、ぐぅ……ちょ、あん、た……な、に……を……」

 この世界で最後に見る、愛しい顔。

 梨花の手からこぼれた鋸が、冷たい水を叩き、玉砂利の浅い水底(みなそこ)に僕の血と肉で汚れた身を沈め、木の柄だけが浮かび、流れに揺れる。

 そして僕の血が作った紅い糸は流れにたゆたうです。

「梨、花……僕、は……やっと、自分、に……体が与え、られた意味、と、この夢の正体を知った……です……よ……」

 愛しい娘の細く白いだけの首。豊かな髪に守られ、陽にも焼かれず、純白を残す艶(なまめ)かしい首。

 それに巻きついた十の指は、誰かのものじゃなくて、僕のものなのです。僕が力を込めればしまっていく、僕の意志で動く指なのです。

「ぐ、ぐぅううぅぅ……がぁはぁ……」

 蒼白に近づく顔とは双璧に、唇は青黒く染まって端に泡をもらす梨花。でも、瞳だけは対峙を決めた時のまま、黒く暗く僕を見据えているのです。

「この夢で、鷹野が敵では、ないということ……悟史も沙都子も罪を犯したのに、雛見沢症候群を高い域で発症して、いない……レナも圭一も詩音も……」

 朦朧とした意識の中で答えが次々と浮き上がってくるのです。

 この夢で僕に体が与えられた理由。

 それはオヤシロサマという土着神としての僕の役目がないということだったのです。鷹野と富竹の関係が良好で、梨花にも執着していない。それはこの世界で雛見沢症候群が鷹野の研究対象として、すでに終了しているということなのです。だから女王感染者たる梨花への執着もない。そしてそれは治療薬がすでに開発されている事実でもあるのです……だから悟史も沙都子も症状が悪化せず、普通に暮らせていたです。レナも発症による疑心暗鬼はなく、詩音もレナに応戦しただけで、圭一は最後の瞬間までレナを信じ続けることができたのです。

「そして、誰も、残らなくて、僕だけ、が残った、理由……ぼ、くが……連れて帰る、のですよ……梨花、も……みん、なも……」

 だから、僕は最後の力を十の指に込めて。

 愛しい娘の首を。

 まるで鶏(にわとり)さんを絞めるように。

 まるで畔(あぜ)に咲く彼岸花を手折るように。

 梨花が僕に話しかける声は、歌のように聞こえて心を満たしてくれたです。誰もが僕をすり抜けていく世界で、梨花だけが僕を認識し、僕に僕への言葉をくれた。

 その愛しい梨花の、この世からかの世へと届く断末魔はひぐらしの合唱に溶けて……いとも簡単に……本当にポキリという音を立てて、梨花は……僕の手の中で……夢を終わらせたです。

「り、か……これ、で……帰れる……です、よ……」

 僕の流した汗を連れるように、手からすり抜けた梨花は膝から崩れ、水面を叩きそのまま仰向けに倒れましたです。紅の混じった川の中、梨花の黒髪が扇を広げ、それは真っ黒だとしても、夢を脱するための翼に見えたのです。夢の中の夢でみたように、禍々しくない、美しい烏の濡れ羽色の羽。

「梨花……飛んでいく白鷺、さんにも……負けない、くらい……綺麗、ですよ……」

 骨まで達していた傷のせいで、僕はもう立っていられなかったです。梨花を追うように足が崩れ、川面に膝立ちで留まりましたです。でも、立ち上がる事もできず、体はそのまま水に引かれて前に倒れましたです。

 目の前の梨花に重なることを許されなかったのは僕の罪だからですか? せめて開いたままの目を閉じてあげようとしても、その命を散らした指が届かないのは、僕への罰ですか?

 顔半分、川に浸かって見る世界。片目を閉じれば、夕焼けの空が広がる愛しい雛見沢。片方を瞑れば、紅く染まった水から見上げる光り輝く星が降る世界。だけどそれは半分が水に埋まったとても狭い世界です。その中で、僕は梨花と目が合いましたです。

 もう動かない梨花……その開いたままの目が僕を見据えているようでした。僕と対峙しようとしたことさえ、まるで後悔していない、死してなお鋭い眼光。

 梨花が本当に言いたいことはもう聞けないのです。だけどその目は帰りたいと訴えてるように、僕には見えたのです。

「はい……帰ろう、です……ひぐらしが鳴いたから、もう帰ろうです……みんなで……」

 ここはきっと誰のためでもなく、僕のためにあった世界……僕のための夢なのです。

 僕が娘に負わせた親殺しの大罪。それと同じように、僕は子殺しの大罪を背負った。

 この夢は僕がみんなと同じになるためのもの。体を与えられた代わりに、僕はオヤシロサマとしての力を徐々に失っていくかもしれないです。こうして夢だとしても罪を背負う事で、梨花たちと同じになれて、千年の果てに安らぎを手に入れる事が許されるのです。

「り、か……僕も背負ったですよ……同じ、ように……だから、帰るです」

 そう、この夢は僕が終わりだと思ったら、そこで終わる夢。そこで終わらせることが出来た夢。きっと初めからわかっていたです。

 雛見沢症候群もオヤシロサマも、きっと関係ない……。

 でも僕はみんなと同じになりたいから、それを認めなかった。そして梨花に仲間を手にかけるようなことをさせてしまったのです。

 たったひとり、小さな背中の可愛らしい少女に全てを押し付けてしまったのです……。

 もう、届かないとわかっているのです。だって、僕の声なんて……体がないだけで梨花にしか届かなかった……発症者にやっと僕とわからない程度で知覚できる程度のもの……だけど、これだけは梨花に届いて欲しいのです。もう触れることも許されない目の前の梨花へ。

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 

 だけど、もう終わったです……。

 だから、帰ろうです……みんなで。

 

-8ページ-

 

 

 

動かない腕に必死に命令を、僕は送り続けるです。

 ただ、動け届けと。

「り、か……」

 かすれていく意識と視界の中、自分のものなのに石柱のように重い腕が、ゆっくりとゆっくりと水面から飛び立って、空へと泳ぎます。緩やかに、羽のない手は僕の腕が届く範囲という狭い空を泳ぎきって、墜落していきました。

 でも、それで十分だったのです。

 着水したそこには、梨花の指があったから……僕は梨花に触れることができた……触れることが許されたのです。

「あ……」

 梨花の指先に触れた瞬間、見ていた景色全てが色そのままにたくさんの鳥の形に変わり崩れ、一斉に飛び立ちはじめましたです。

 色が失われ、黒く変わっていく世界。色を奪った鳥たちは、空の一点を目指して昇っていくです。黒い世界にただひとつ、光る場所を目指して。

「き、こえる……です」

 黒の天井に光る点から、懐かしい歌が聞こえてきたのです。それは僕が梨花やあの子……桜花に聞かせたかった子守歌なのです。

「帰りたい……帰るのです……」

 決意を口に出したとたん、僕の体はふぅっと軽くなって、光へと導かれ始めましたです。

 眼下、遠のいていく、せせらぎの音とひぐらしの声。

 それだけは千年前、人目を避けるため、夕暮れを待って……ここであの子と一度だけ遊んだ時と、ちっとも変わらないのです。

 その風景もやがて鳥に姿を変えて、夢の世界から飛び立ち、僕を包んで光へと羽ばたいていきますです。

「きっと、夢だ夢だと全てに言い聞かせ、人の死をないがしろにして、心というものを忘れかけていた事……それが僕の本当の罪なのですね………………」

 

 素直に、人という肉体の重さを受け入れられなかったこと。

 千年の旅の果て、人の温もりと人の死の冷たさが、この身から薄らいでいたこと。

 

 それが、僕の罪……。

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 ■転章 〜隙間〜

 

 また、歌が聞こえるのです。

 僕を夢から連れ出してくれた、あの懐かしい歌が……。

「あ、ぅ……?」

 薄く目が開いたまどろみの世界。そこには懐かしい匂いが広がっていましたです。それにやけに硬いようなやわっこいような、不自然な枕に頭が納まっているのです。

「あ、やっと起きたわね……まったく寝ぼすけのお守りは疲れるのよ?」

 梨花は切りそろえた前髪から覗く瞳を細めて、僕の額にかかる髪を優しくはらってくれたのです。

「あぅあぅ?」

「あぅ? じゃないわよ……散々うなされてたから悪い夢でも見てたのかって心配したじゃない」

 梨花は少し視線を外して恥ずかしそうに、鼻の先をかいてみせるです。僕はそんな梨花を見て、夢から本当に醒めたのだと確信しましたです。

「梨花……僕より先に夢から醒めたのですか?」

「まぁそういうことだってあるんじゃないかしら……ボクだっていつもいつも、あんたに抱かれてるだけじゃないってことよ。ボクたちは勝ち取ったこの世界で、少しずつ成長していく……少しずつ変わっていくのよ……昨日のあんたもボクも、今日のあんたとボクとは違うのよ」

 力強く、未来を語る梨花の姿は頼もしく、夢の中で喘いでいた姿が嘘のようでした。

「梨花は……怖い夢を見なかったですか?」

 膝枕から問いかけると、梨花は悪戯っぽく片目を閉じてみせるです。

「夢は、夢よ……どんなに凄惨なものだとしても、夢は夢……記憶の整理がみせる劇中劇に過ぎない……ボクにはこの世界がある。百年を旅して、みんなで奇跡を起こして勝ち取ったこの世界がある。それさえ忘れなければ、どんなものだって数時間の時空旅行ってくらいで楽しめるものよ」

「あぅあぅあぅ……その通りなのです……」

 僕は梨花の膝枕から起き上がって、しっかりと梨花の小さな体を抱き寄せましたです。

「なんなのよ、もう……でもいいわ。あんたの頭はそのでっかい角のせいで重いから、少し疲れたわ」

 僕の抱擁からすり抜けた梨花は、ふわりと髪を扇に広げて、僕の膝に頭を乗せましたです。

「選手交代……まだまだラジオ体操には時間があるんだから……今度はあんたが枕になりなさい……」

 ぐりぐりと動いて、自分の頭の形に僕の太ももを整えた梨花は、深い息ひとつで、眠りに向かってしまいましたです。

「梨花……もう安心なのです」

 僕は梨花の髪を撫で付けながら、本当にあれが夢だったことに安堵したのです。そして、あれは僕が見ていた夢だったということに驚いたのです。

「結局、僕には何が寶で、誰があんなものを用意したのかもわからなかったです……」

 口に出してみて、僕は驚いたのです。

「……そんな事、関係ないのです……僕はちゃんとタカラモノを手に入れたのです。あの夢がこれ以上ないくらいに残酷で冷たくて、組木の箱みたいに全ての罪を積み重ねて、世界を閉じていくような感触を残しただけだとしても……僕はかけがえのないタカラモノを手に入れてきたのです……」

 僕は梨花が起きてしまう事もかまわないように、強くぎゅぅっと抱きしめましたです。

「僕のタカラモノ……それはこの感触この匂い……この梨花……そしてみんなと過ごすこれからの時間……それこそ、タカラモノなのです」

 温かい体がなくてもいい。現実に触れる事もなくてもいい。誰も僕を振り返らなくてもいい。誰も僕に話しかけなくてもいい……僕が見るもの全てがタカラモノ。そう思えること……それが僕に与えられた肉体というご褒美なのです……きっとこの体がなければ、こんな風に思うことはできなかったのです。体がないままだったら、僕はきっとみんなを妬み続けるだけだったのです。

「みんなが笑っている事……それが僕のタカラモノなのですよ」

 梨花の髪に顔を寄せて、その香りに溺れるです。それはとても温かくって、ほにゃんと心が安らぐものなのです。

 それを教えてくれたあの夢は、僕のための逆夢だったのです。

 どんなに怖い夢でも、逆夢と知って乗り切って、目が醒めたら望む世界はもっともっとぴかぴかで……これはそう……鍵みたいなものなのです。僕が千年待ち望み、梨花が百年たっても諦めず、みんなが一緒に闘って運命から勝ち取った、昭和五十八年の夏休みから続いていく世界をタカラモノにするための……。

「ぅうん……」

 寝返りを打ち、声を漏らす梨花の髪を撫で付けると、梨花はまた安らかな寝息を立てはじめるです。そして僕はその柔らかな感触に安らぐのです。それは、とても温かい人という「ぬくもり」の証なのです。季節の温度とは違う、人の温もりを知ること、忘れぬこと……それはきっと人の死がどれほど冷たいかを知るにも、忘れてはいけないことなのです。

「梨花……梨花がいい夢を見られるように、歌を聞かせてあげるです……あの子には聞かせてあげられなかった子守唄を……梨花が僕に歌ってくれたように……」

 梨花の呼吸に合わせて、僕はゆっくりと歌い始めるです……眠りの妨げにならないように、細く小さく、でもちゃんと夢の中まで届くように。

「あなたには、まだ子守唄が必要なのです。そして、それを欲しても許される幼子なのですよ……」

 言っておいて、僕は自分で少し笑ってしまったのです。

 長く神として生きてきた僕ですが、体を得て時を経ていくということにおいては、梨花のほうが随分経験豊富で、僕なんかはまだまだ幼子なのです。

「いっぱい教えて欲しいのです……ラジオ体操の上手なやり方、部活での勝ち方、圭一のからかい方……だから今は眠って……そうだ、梨花が起きたら、一番にノートを買いに行くです。夢の中のノートセットに負けないくらい、かわいいやつを僕と梨花の分、二冊。これから続いていく日々を忘れぬように……ふたりで一日を、二つの想い出にできるように……それに書き残していこうなのです」

 

 楽しい夏休みの続きを。

 

 

 この世界の続きを。

 

 

 

 

 

             (了)

 

 

 

 

 

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