真恋姫無双 天遣三雄録 第二十五話
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始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。

なお、オリキャラ等の出演もあります。

 

そして、これは北郷一刀のハーレムルートではありません。

そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。

 

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第25話 俺が天下をみせてやる by一刀

 

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城門が開き、華の旗と共に兵士達が溢れ出てきた。

私はそれを見て、なんとか作戦が上手く言ったと安堵をする。

華雄が想像より冷静な武人で、一時はどうなることかと思ったが、結果からみれば華雄を汜水関から引きずりだすことに成功した。

―後は、一旦退いて、後ろに居る袁招軍、袁術軍を巻き込むだけ。

 

「左慈殿!退きましょう!鈴々が弓で援護をしてくれます。お早く!」

 

「、、、け、、な、、だろう」

 

「え?」

 

「退けるわけが、ないだろう!!」

 

左慈の怒声が辺りに響いた。

その怒気に隣に居る星も驚きで馬を揺らし、率いていた部隊で何人かの兵士は地面にへたり込む。

 

「し、しかし。朱里と雛里、于吉殿と仲達の立てた作戦では、此処は一時退くと!」

 

「五月蠅い!黙っていろ!お前に、何がわかる!お前に、、、何が」

 

「、、、、どうしたというのですか。左慈殿」

 

「俺が退いたら、誰があいつの怒りを受け止める。悲しみを、受け止める。幾ら俺が鈍くても、それぐらい、わかるんだよ。あいつが、泣いてるってことくらい」

 

私は困惑した。

董卓軍と北郷軍の関係。暴君とは程遠い董卓の人間性。その可能性。

その全てを、昨日の夜、聞いていた。もしかしたらと思っていた事実を此処に来て見せつけられた。

 

「敵将華雄は、、左慈にとって特別な者なのか?」

 

「、、、、、、恋、、人だ」

 

「そうか」

 

突き付けられた現実は、あまりにも痛々しい物だった。

左慈にとって大切な者、ならばそれは御使い様にとっても、同じなのだろう。

そしてそれは、一つの事実を告げている。

 

――董卓は、善人なのだな

 

それを知って、私の中で何かが決壊したように感じる。

胸の動悸が激しい。えもいえぬ何かが溢れて、狂っていく。

 

――これが、昨夜、御使い様の言っていた。私たち自身で知らなければならないこと。

 

『誰かの悪は誰かの正義、そして、誰かの正義は誰かの悪。これは、水鏡塾で一番初めに教えられることです』

 

『、、どんな善行にも、犠牲があって。どんな悪行にも理由がある。故に、どんなに正しくても、その行いが間違っているということを忘れてはならない。そう言う意味ですぅ』

 

思い出すのは、二人の軍師の言葉。幼いと思っていたあの二人は、自分などよりずっと大人だった。

 

『『桃香様の軍師として、聞きましゅ!人を殺してでも人を救いた!桃香様は、そうお思いになれましゅるか!』』

 

『はわわ、、、大切なところで噛んじゃった』

 

『あわわ、、大事なところで噛んじゃいました』

 

―ならば

 

「今の私に、あらゆる義は無い」

 

―しかし、それでも

 

「“”桃香様が戦うと覚悟したのなら、私の正義は其処にある”“」

 

―二人の軍師の問いに、君主は迷いながらも答えてみせた。

 

『あらゆる正義を押しのけてでも、叶えたい正義が、私にはある』

 

「『誰もが、ううん。誰かが、笑っていられる世界を作る』」

 

私は前を見る。迫りくる華の旗。それを見る眼に、もう迷いは無い。

 

「左慈殿、御使い様は董卓を救おうとしているのですね?」

 

「ああ、」

 

「ならば、救う策があるのですね?」

 

「無論だ!俺達は、その為に此処に居る!」

 

「そうですか。ならば、我らもそれに続きましょう!」

 

「ふんっ、足手まといにはなるなよな!」

 

戦いは、始まった。

 

 

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前方では、華の旗と慈の旗、関の旗がぶつかり合いを演じていた。

 

「やはり、、左慈は作戦通りに動いてはくれませんでしたか」

 

「わかってたろ、あいつはああいう奴だよ。それよりも、ヤバいほどに俺達が窮地だぞ」

 

「、、、そのようで」

 

混戦を演じる三つの部隊の間を縫う様に、ものすごい勢いで迫ってくる旗があった。

さながら、竹の上を流れる素麺の様だ。こんな変幻自在な用兵術を行える奴を、俺は一人だけ知っていた。

 

「北郷一刀―!月っちを泣かせた罪、ウチを騙した罪、その首で支払って貰うでぇぇぇ!」

 

彼女の怒声は、空気を切り裂かんばかりに響き渡る。

兵士達は怒気に当てられて震えている・

しかし、無論。勇気凛々元気百倍の俺は足が震えているなどと言うことは無い。

むしろ、全身が武者震いして仕方がない位だ。

 

「于吉、下がってろよ」

 

「震える声で何を言っているのです。一刀君を置いて下がれる筈がないでしょう」

 

「戦場ではお前は邪魔だ。後ろで、兵達を頼む」

 

「、、、あれの相手を、一刀君がすると?」

 

于吉の言葉に無理やり、笑みを浮かべる。

 

「、、、、まったく、貴方といい、左慈といい、女の子には優しいのですね!」

 

于吉はそう顔を顰めながら言って、

 

「死んでは、いけませんよ」

 

そう呟いてから去っていった。

 

 

 

残った俺は、いまだに傍に居る孫権と甘寧の方を見る。

 

「私たちのことは気にするな。自分の身くらい、自分たちで守る」

 

甘寧は何か言いたそうにしていたが、孫権の決意は固いようだった。

 

「そっか。なら、せめて、逃げる時は俺を囮に逃げてくれ」

 

「なに?」

 

「せめて死ぬとしても、可愛い女の子二人守って死んだって言う名誉が欲しい。それに、今日が死んでも良い日だろうかどうかは、自分で判断してくれよ」

 

突っ込んでくる袴と羽織姿の女性。天に掲げられる飛龍堰月刀。

それを見て、俺は馬を下りた。

 

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「男には、退けない戦いが二つある。一つは、目の前に泣いている女の子がいる時。一つは、背の後ろに女の子がいる時だ!故に、俺は退けない!俺が男である限り!」

 

とか、なんとなく叫んでみたが戦場の音で掻き消されて誰も聞いていないようで虚しくなる。

ん?訂正、一人聞いている奴がいた。甘寧は聞いていたようだ。何故か視線がさらに鋭く、嫌悪感に満ちたものになっている。何故だ?

ともかく、なけなしの勇気を振るっても体の震えが止まらない。

あ、勘違いはするなよ。震えと言っても武者震いだ。

え?武者震いなら止める必要無いだろ?ふっ、これだから素人は。

武者震いであっても震えは震え、体が震えてちゃ、武器まで震えて狙いが付けにくいだろ。

付けくわえ、俺の武器は剣先が相手から外れた瞬間負けが確定するほどデリケートな武器なんだ。

さらに言えば、その武器を使う俺自身もデリケートなんだ。豆腐なんだ。プリンなんだ。触れただけでプルプル振るえちゃうんだ。

無論、武者震いだが!

まあ、わかっりきったことは置いといて、俺は身体的には当然デリケートであり。

精神的にも討たれ弱いんだ。巷には俺の異常な精神力や行動力に螺子が一二本飛んでるんじゃないのか?なんて失礼なうわさも流れてるけど、的外れもいいところだ。

先も述べたとおり、俺は卵豆腐並みにデリケートなんだ。ん?なんか混ざってる?気の所為だろ。

最近じゃ、俺が左慈や于吉に続きゲイになったとかいう噂が流れ始めて、本気で首をくくろうと思ったくらいだ。

劉弁君や仲君に気があるふりをしたりしたけど、あれは全部演技だ。面白おかしくするための演出だ。

第一、俺が惚れてるのは華琳だ。そりゃ、華琳は男並みに胸のふくらみが可哀想だけど、曲がりなりにも女なんだ。

そんな華琳大好きな俺が、ゲイなわけ無いじゃないか。

大体、そんな噂が流れたら二人にも迷惑だろ。仲君は明かに朱里や雛里に好意と劣情(男として当然の感情)を抱いてる。俺個人の考えだが、それはどちらかと言うと朱里に対しての方が強い気がする。となると、俺が雛里を口説き落とせば面白いことになるかな?

えっ、なんか俺が非道な奴に見える?馬鹿、冗談だって。

劉弁君はまあ、なんかたまに変な熱い視線を感じたりしてたけど、気の所為だろ。

大体、これはまだ俺が洛陽に居たころの話だけど、劉弁君の妹、劉協ちゃんに感動の涙を流されながら抱きつかれたこともあったんだ。

『兄上を変えた!』と、多分、劉弁君が俺と出会って男として一枚も二枚も成長したことに対して御礼を言いたくてしょうがなかったんだろう。何も泣くことは無いのにな。

その後、手をジタバタさせて傍から見ると殴るけるの暴行を受けているかのように見えるくらいじゃれ付かれたりした。可愛いもんだ。妹が幼かったころを思い出した。

だから、まあ、そんなこともあって、多分劉弁君から送られる熱い視線は羨望とか憧れの類だろうと俺は結論づける。

ああ、そう言えば。これも洛陽に居た時のはなしなんだが。

えっ?なに?ところで、なんか話が脱線してないかって?ははは、気づいちゃった?

俺としては、俺だけの語り部でこの話を終わらせたかったんだけど、、気づかれちゃったならしょうがない。

俺も現実を直視しよう。けれど、忘れないで欲しい。もし、語り部を終えた瞬間、俺の首が切られる描写があったとしても、それは君たちの所為だ。

続きを見たいと思った君達が悪い。

責任のおしつけだ?自分達は関係ないだろ?文才が無い言い訳するな?

いいじゃないかそれくらい。自分の死んだ理由くらい、誰かに押し付けたって。

それでは、現実世界に旅立とう。

 

「、、なんや、もう一人ごとはええの?じゃ、始めよか。ほら、ウチ、ずっと待ててあげたよ?嬉しい、一刀ぉ?ウレシイ、ヨナ?カズトォ。ウチも嬉しい。こうして、ウチらをウラギッタ一刀ヲ、コロセルンヤカラ。月を泣かせた罰や、その首モラウデ」

 

ほら?笑顔で、眼を見開いて、口元に三日月のような笑みを浮かべる霞を見たら、ずっと俺の語り部を聞いていたかったって思うだろ?もう、遅いからな。もう、手遅れ。

あ~あ、マジでどうしよ、、、

 

「、、けどまあ、いきなり首が飛ぶシーンからじゃなくてよかったと喜ぼう。ポジティブに考えよう。うん、ポジティブシンキングが世界を救うんだ」

 

はー、ふー、と一度、深呼吸してから腰に差した刺突剣を抜く。

 

「霞」

 

「なんや?一刀」

 

「安心しろ。俺はツンデレからヤンデレまで、デレと付くモノなら何にでも萌えられる」

 

「そ。よかったわぁ。ウチ、一刀ヲ殺して、首をちょん切って、踏みつけて、胴体を堰月刀の柄でぐちょぐちょに掻き回し後、月っちの前に引きずり出して、みんなで細切れにしながら酒飲んでる時、一刀に嫌われたらどうしようかとおもったわぁ」

 

「ふ、はははは。安心しろよ。俺を殺した暁には俺の死体はくれてやる。首切ってぐちょぐちょにした後、サイコロ状にしてもいいし、干物にしたって、なんなら食っても、蝋人形にしてもいい。だから、安心して俺を殺せ」

 

――霞に殺される覚悟なら、月を裏切った時からしていたからさ。

 

俺言葉を聞いた霞はニイーと口元を釣り上げると、堰月刀を横に掲げる。

 

戦いは、始まった。

 

 

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剣には三つの代表的な攻撃方法が存在する。

すなわち、『断ち切り』『切り裂き』『突き刺し』の三つだ。

それぞれの用途に置いて代表的なものを言えば―

 

断ち切りなら、クレイモア。

切り裂きなら、サーベル。

突き刺しなら、レイピア。

 

この三つが、一般的だ。ちなみに日本刀は刀なので除外しておく。

そして、俺の持つ剣の用途は突き刺し。

故に、俺の持つ刺突剣はレイピア!だと思われがちだが違うのだ。

レイピアは決闘用の剣であって、実戦用の剣じゃないらしい。(俺も于吉に聞くまで、そんなことは知らなかった)

ならば、俺の持つ武器は何なのかと言えば――

 

「なあ、一刀。前から思っとったけど、一刀の武器。おもろいな。なんて言う武器なん?」

 

「ああ、俺の武器は刺突剣コリシュマルド。だよ」

 

「ふーん。そか。で?その武器つこうたら、ウチに勝てるんか?」

 

「さあ、そればっかりは、、やってみないとな!」

 

前後に大きく足を開いて、腰を曲げて腰を落とす。

そして、右手で構えた刺突剣の先端を的に向ける。

的は、、、霞の眉間!

 

「せいっ!」

 

「おっと、いきなり非道いなぁ。一刀ぅ」

 

ケラケラと笑いながら避けられるが、構ってなんていられない。

前に出した右足を追うように左足で地面蹴り、初動の姿勢に戻す。

 

「あんまり男を舐めてると、痛い目見るぞ、霞」

 

そして剣先を霞の眉間に。後はもう、その繰り返し。

 

「なんやて?」

 

「せいっ!はっ!やあぁぁ!」

 

「っっ、ああ、そう言うことかいな。せこいなぁ、一刀!」

 

ようやく、俺の考えていることに気付いただろう霞が動き出す。

しかし、もう遅い。あらゆる武器の中で、刺突剣は最も前方攻撃に適した武器。

そして、何よりの特性はその軽さ。その軽さを持って、あらゆる攻撃に対して先制する。

霞が堰月刀を振るう前に、的を武器を握る手に変え、突く。

結果、それをよける為に霞は堰月刀を振りきれない。

 

「それが、天界の武器。ただ速く振るう為に物を斬る為の重さを捨てるやなんて、こっちの世界じゃ、ほんまに考えられへんで」

 

「ああ、速く、速く、速く、速く、そればっかり追ってたら、何にも切れなくなっちゃったけどな!」

 

―そして、それだけじゃない。

それだけじゃ、俺が霞と拮抗することなんて夢物語だっただろう。

幾ら、速いと言っても、俺の得物の十数倍は重いであろう堰月刀を使う、“”霞の攻撃の方が速い“”のだから。

 

「っっ、、、戦い難い。いやらしい戦い方してくれるなぁ!一刀!」

 

「ふ、ははは。だろうな。霞、知っているか?戦いに置いて、勝敗を決するのは二つの要素だ。そのうちの一つを、俺はこの刺突剣で潰す。そうでもしなきゃ、俺が霞に対抗なんて出来る訳ないだろ!」

 

「正々堂々、戦う気は無いんかい!」

 

「無いな!皆無だ!何度も言ってるだろ、俺は嘘はつくし人は騙すし、時には陥れるって!」

 

「ああ、、一刀は変なところでいじめっ子やったな。忘れてだでぇぇ!」

 

飛んで距離を詰めてくる霞。俺は後ろに飛んで距離を保つ。

一定の距離を保たなければ、刺突剣の性能は最大限生かされない。

 

「くっ、まあ、ええ。二つの要素の内、一つが覆されても、ウチにはもう一つがある。なんぼ、一刀でも、こればっかりは覆せへんやろ?」

 

「ああ、そうだな」

 

一対一の戦闘の勝敗を決める二つの要素。

性能と経験。スペックとエクスペリエンス。

刺突剣コリシュマルド。中国大陸を大きく離れて、西洋のヨーロッパで今から1400年以上後に誕生する剣。

そんな剣を使った、異種異能の戦い方で、後者の今まで霞が積み上げてきた経験を無かったことにしたとしても、前者はどうしようもない。

 

「幾ら、見たこと無い武器で戦い難い言うても、避けることくらいは出来る。それと、」

 

そして、そんなまやかしが、何時までもそう続く訳が無い。

 

「“”もう、眼が慣れたわ“”」

 

「、、、流石は、神速の張遼。三分と、持たなかったな」

 

俺の突き出した刺突剣を、首をずらして紙一重で避けてみせた。

騙して、空かして、嘯くのにも限度がある。

一流の武人に俺が対峙できる時間は、初見のみ、三分。

辛うじてカップラーメンが作れるくらいの僅かな時間だけ。

 

そして、それを悟った霞のその眼に猛禽の光が宿る。俺は、、鼠が何かか?

 

「はああああ!!」

 

「っ、ぐぅ」

 

「はああ!は、はは、ははは、あはははは。どうしたん?その程度かいな!一刀ぅぅ!もっと、もっと、ウチを楽しませてぇな!」

 

「むちゃ、言うなよ。いっつっ。俺には、霞の攻撃が見えないんだぞ」

 

俺の視界には振るわれる霞の堰月刀が映らない。映るのは、振り終わった堰月刀。

それが見えた時、俺の体から血が吹き出る。完全に、俺の感覚神経が遅れている。

 

ありえない。この世界に来る前ならそう呟いていたかもしれないが、今はもう笑みしかこぼれない。笑うしかない。

俺が幾ら望んでも至れない場所。越えられない才能の壁。

速く、速く、速く、そう望み続け走り続けても、俺は生涯霞の背も見えないと断言できる。

 

「これが、、本当の疾さ」

 

気づいた時には、俺は宙を舞っていた。遅れて、腹部に激痛が走って、初めて柄で腹を殴られたことに気付いた。

 

「ぐはっ、、ぐっえぇ。つっ、、くぅ、げぇぇ」

 

口の中から、胃液と血が混じった反吐を吐きだす。

地面にひれ伏した俺には、それに塗れながら前に立つ霞を見上げることしかできなかった。

霞は、悲しそうな眼で俺を見下していた。

 

「なぁ、一刀。どうして、どうしてなん?どうして、ウチを裏切ったりしたんや?なんか、理由があるなら、言ってぇな。じゃないと、ウチ、本当に一刀を殺さなきゃいけなくなる」

 

「ぐぇ、、はぁ、はぁ。霞は、、何も聞いてないんだな?“”置き土産“”のことも、なにも」

 

「何の話や?」

 

「いや、、聞いてないなら、いい。ごめん、霞。俺は何も話せない」

 

「ほんまに、殺すで」

 

地面に這い蹲って、自分がはいた反吐に塗れながら、俺は霞をみる。

そして、さっきまでの霞のようにニイーと口元を吊り上げた。

 

それで、俺の人生は終わる筈だった。

 

「そか、なら、しまいや。一刀」

 

その声を聞いて、さらに口元がつりあがる、目尻が下がっていく。

霞。君みたいな美人に身取ってもらえるのなら、男としては本懐だろう。

迫ってくる堰月刀の残像が眼の中を掠める。

最後まで、俺には彼女の攻撃が眼にも映らなかった。

対処する方法も無く、騙せる事実も無い。俺は、生きることを諦めた。

 

「ああ、今日は、死ぬにはいい日だ。合戦の騒乱の中でなら、寂しくもない」

 

血液が舞う。噴き出す。

生温かい血液が顔に降りかかる。

空気が凍ったような気がした。生臭い匂いが充満して、俺は眼を疑った。

 

 

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「どう、して?」

 

痛みは無い。肉を裂かれる悲痛も、骨を断たれる苦痛も無い。

俺が感じるべき痛みの全てを、目の前の老人が全て退きうけていた。

 

「無体な、ことを言いなさるな。たとえ年寄りであろうと、王を守ってはならない、などという軍機もありますまい」

 

とうに現役は退いて、剣を置いていた筈なのに。

剣を握って一人の男が立っていた。けれど、その手には昔の様な力も無く。

防いだはずの堰月刀に押され、自身の剣で腹を裂いていた。

 

「じいさん。退きぃ!」

 

「退けぬはっ!小娘が!後ろに居る御方を何方と心得る」

 

そう叫ぶ顔に、いつか見た孫に振り回されるような人の良い祖父の顔は無く。

劉弁の痛めつけられた姿に泣いていた情けない姿も無い。

一人の、男としての盧植の姿が、そこにはあった。

 

「止せ、先生!あんたはそんなことはしなくていい!死ぬべきは、俺だろう!」

 

「ふ、ふはは。北郷殿。老人の前でそうそう生きることを諦めなさるな。死ぬのは老兵で充分。若者は生きよ。生きてくだされぇ、、生きてさえいれば、貴方は天下を取る器だ」

 

まるで孫でも見るように、優しく微笑む爺さんの顔が、そこにはあった。

 

「生きてくだされぇ、、儂は貴方に天下を賭けたのですぞ」

 

「盧植、、」

 

そして、老人が倒れると同時に響いたのは撤退の鐘。

 

「、、、、終いやな。一刀、ウチは退く。生きとんのはその爺さんのお陰や、礼は言っときぃ」

 

霞はそう言うと、堰月刀をしまい、背を向けた。

 

「それと、忘れるんやないで。次の琥牢関にいるのは、ウチより一刀を恨んどる最強の武人や。、、、、ウチは一刀が変わっとらんのを、その爺さんの顔を見て知った。けど、恋はまだ知らんで」

 

踵を返す直前に見えた口元には、微かにだが笑みが浮かんでいた。

 

「張遼隊!撤退や!さっさと動かんかい!」

 

「「「「「おおおおお!!」」」」」

 

「み、御使い様。どうしますか?」

 

「、、、追わなくていい。どうせ、追いつけないだろ」

 

「は、はい」

 

霞を見送ろうとも、追おうとも思わない。

思わず、倒れのそうになる足をとどめる。死にかけたり、生き残ったり、今日は忙しすぎる日だ。

なんとか、力を振り絞って傍らに倒れた盧植の隣にしゃがみこんだ。

 

「、、、死んでないよな?先生」

 

「ええ、、死にぞこなった、、もういっそ、眼をつぶってしまったほうが楽そうですなぁ」

 

「そう言うことを言うなよ。爺さんが死ぬのは孫には辛いもんだ。もう少し頑張れよ、退職金くらいだしていやるからさ、年寄りは年寄りらしく、老後は社交ダンスでもならってろ」

 

「ふ、はは。そうですなぁ。それは、楽しそうだ」

 

それだけ言うと、盧植は兵士に肩を持たれて、立ち上がる。

 

「しかし、、まだ、退くわけにも行きますまい。長安には、問題ばかりの小僧が多すぎる」

 

「左慈や于吉か」

 

「貴方もですぞ。北郷殿」

 

「ぐっ」

 

ですから―と盧植は続ける。

 

「もう、剣も満足に持てない。年寄りですが、まだ、儂を軍に置いてはくれますかな?」

 

「、、、正直に言えば、もう退役してもらいたい」

 

「、、、、、、」

 

「先生。貴方の人生は軽くは無かった筈だ。重かった筈だ。辛いこともあった筈だ。先生はもう、幸せになってもいいんじゃないのか?それでも、なのか?」

 

「ええ、それでも。年甲斐もなく、儂は貴方が歩む道を見たい。と、はしゃいでしまう」

 

ですから―と続け続ける。

 

「俺みたいな若造に、重かった人生を賭けるか。なら、俺に言うことも無いだろう」

 

一人の兵士が持った肩とは反対側の肩を、俺は背負う。

重い、重すぎる肩だった。これが、俺が背負う重さ。

 

「北郷殿」

 

「決して、軽くない人生だから。選び取った選択肢は重くなる。、、、まだ、分岐点だって見えちゃいない。その選択が、間違っているとも、当たっているとも俺は言えない。けど、」

 

「、、、、、、」

 

「安心しろ。先生。俺が、あんたに天下を見せてやる」

 

どうやら一つ、死ねない理由が出来たようだ。

けどまあ、男との約束だ。なら、女の子との約束の方が優先だろう。

 

「、、、次は、恋か」

 

 

 

説明
反董卓連合編
汜水関の戦い。
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コメント
爺さんかっこいい(ttt)
次は飛将軍か・・・誰か死ぬかな?(きの)
先生が漢だ(VVV計画の被験者)
漢が此処にいた(T T) ←感涙(アロンアルファ)
タイトルにふさわしい展開になってきましたね。そして一刀がかっこいい!(黄昏時の文鳥)
くぅぅぅ漢だなぁ。(shirou)
切ないな;;(patishin)
なにやら北郷軍がかっこいい・・・・だが真実を知ったとき董卓軍の将はどんな反応をするかな?特に大将は・・・・(黄昏☆ハリマエ)
良いなあ。(readman )
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真恋姫無双 一刀 左慈 于吉 

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