真説・恋姫演義 北朝伝 第六章・第五幕
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 許昌の城にて、洛陽の董卓たちの下へと援軍に赴くため、その準備を整えていた一刀たちの下に、呂布と陳宮が劉gを伴ってその姿を現し、荊州への出兵を要請した日から七日後。国許に戻っていた公孫賛と曹操が、一刀の呼びかけに応えて許昌の城へと訪れていた。

 

 「……それで?貴方はそれをそのまま信じたとでも?」

 「いくらなんでも都合が良すぎはしないか?……荊州軍の罠、という可能性の方が高いと思うけどな、私は」

 

 劉gたちの要請に応える形で、南征の断を下したと一刀から聞かされた曹操と公孫賛は、その決断に対して懸念を示した。あまりにも、あからさま過ぎる“誘い”だと。

 

 「……二人の言いたいことも分かるよ。けど俺だって、ただ旧知の呂布さんと陳宮ちゃんの話だからっていうだけで、南征を決めたわけじゃあないさ」

 「本当に?貴方のことだから、かわいい女の子の頼みは断れないよ、とか言うんじゃないの?」

 「私もてっきりそうだと思っていたんだけどな」

 「……二人とも、俺のことを本当に何だと思ってんの?」

 『大陸一の女たらし』

 「……その評価は無いだろ?大体俺、女の子を口説いたことなんて、全然無いんだけど?」

 『……』

 

 ひゅう〜〜〜と。どこからとも無く入り込んで来た風とともに、真っ白な空気に包まれる室内。

 

 「……曹操さま、白蓮さん。この人に、それに対しての自覚を求めるのは、馬に孫子を覚えさせるより難しいですよ?」

 「……どうやらそう見たいね」

 「苦労してるんだな、お前たちも」

 「……もう諦めました」

 「??」

 

 徐庶のその一言を聞き、何のことか本気で分かっていない一刀へと、その呆れかえった視線を向ける一同であった。

 

 とまあ、少々ずれてしまった話を元に戻すが、結局のところ、南征の件については、この後一刀から聞かされたある情報によって、公孫賛も曹操もその場で賛成の意を示した。劉gによってもたらせれ、この七日の間に裏を取ったその情報とは、以下のようなのであった。

 

 「……荊州の州都である襄陽に、劉協皇帝が“保護”されているそうだよ。……蔡瑁という人の手で、ね」

 

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 そしてそれからさらに十日後。一刀、公孫賛、曹操の三人に率いられ、許昌の地を出発する軍勢の姿があった。その総数三十万。そこに従軍するのは、晋軍より徐庶、張?、高覧、曹仁、曹洪。燕軍からは、彼女の妹である公孫越と、公孫賛の下につい先日戻ってきて、その配下に正式に加わった(そのあたりのやり取りについては、また後ほど)、趙雲、字を子龍が同行。そして魏軍からは筆頭軍師である荀ケと、曹操親衛隊である許緒と典韋が従軍していた。

 

 「ところで一刀。あの三人、本当に先に戻らせて良かったのか?」

 「そうね。ほぼ確実に、待ち構えているわよ?」

 「……だろうね」

 

 この日の前日、劉g、呂布、陳宮の三人は、先に荊州へ戻って一刀たちとの合流の準備を、宛県にて整えておくと言い残し、先行して荊州へと戻っていった。もちろん、公孫賛も曹操も、そして二人の配下の者たちも、懸念―というより、はっきりとした異論をその場で口にした。罠の準備に戻ろうとしている者を、みすみす行かせる事は無いと。だがそんな彼女らに対し、一刀は笑いながらこう応えたのである。

 

 「彼女たちが戻ったぐらいで負けるようなら、俺たちの運命もそこまでのものだったってことさ」

 

 開いた口がふさがらない、というか。呆れを通り越して思わず感心してしまうほど、一同に対してきっぱりと言い切った一刀に、不承不承ながらも三人の帰国を全員は認めた。確かに一刀の言うとおり、将が戻ってきちんと機能している軍に勝てない様であれば、自分たちにはその先を切り開いて行く資格など、到底ありはしない。たとえその相手の中に、飛将軍たる呂奉先がいようとも、将の居ない烏合の衆を叩いて得る勝利では、自らその先の道を否定したようなものだと。一同はそう納得したわけである。

 

 「……荊州軍の実力は、はっきり言って未知数よ。その実力がはっきりと分かっているのは、呂布とその部隊だけ。戦いになった場合の勝算は?」

 「勝算、か。……荊州軍の実力については、一応前もって調べてはあるけどね。その練度は結構なものらしいよ。正直、まともに当たったらかなりの被害は、覚悟しないといけないだろうね」

 「……その情報って、何時のものなの?」

 「ん〜。命たちが許昌を出る少し前だから…半月ぐらい前のものだよ」

 「半月……ですって?」

 「そうだけど。……何か問題があるかい?華琳」

 「あ、いえ。別にそういうわけじゃあ」

 「?」

 (……情報を得たのが今から半月前。その頃といえば、確か許昌の再整備で、一刀始め、皆東奔西走していたはず。そんな、とても南征なんてことを考え付く状況ではなかったはずなのに……。まさかその頃から……いえ、もっと前からこの事を見越していた?そうして前もって大陸中に情報網を張り巡らせていたのだとしたら……。やっぱり、並みの広さじゃあないわね、一刀の視野の広さは)

 

 荊州軍に関する情報、それを得た時期のあまりのタイミングのよさに驚き、その眼を思わず丸くした曹操。そんな彼女の思いには気づかず、隣にそのくつわを並べてきた公孫賛と会話をしている一刀を横目に、その胸の内で改めて一刀の力量の大きさに感心していた曹操だった。

 

 

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 そんな、一刀に対する新しい興味の視線を送る曹操を知ってか知らずか、一刀と公孫賛は荊州軍の練度に関する話に没頭していた。

 

 「……でさ。その練度を上げることになった戦相手ってのが、荊州南郡の袁術さんたちらしいんだ」

 「袁術、か。ふむ。…以前の張譲の乱の時は、呂布の部隊に麗羽と一緒に散々に蹴散らされていたが、こんな短期間で戦相手の練度を上げるほどの、精強な軍になるものなのかな?」

 「先の乱での敗北、それが理由かどうかは分かりませんが、長砂にその居を移して以降は、結構その実力を上げたそうです。なんでも、孫承という名前の将が袁術軍に加わって、根っこから徹底的に叩きなおしたそうです」

 

 戦による練度の上昇は、すなわちその相手の練度次第。相手が弱くてはそもそも戦にならないし、練度の上昇どころではない。それがゆえ、公孫賛は疑問に思ったのである。袁家の兵は見た目が良いだけの弱兵。それが世間一般の常識として、広く世に伝わっている話である。袁紹軍にしても袁術軍にしても、そこにどれほどの差もない。事実、先の張譲の乱では虎牢関において、呂布率いる一万の部隊に、五万の両袁家の軍勢が壊滅寸前の状態に追い詰められたし。冀州での一刀たちとの戦においても、袁紹軍は“一兵も損なうことなく”、一刀らに敗北を喫しているのだ。

 

 「その孫承とかいう人、よほどの実力者、そして強い発言権の持ち主みたいだね」

 「そうだな。でなければ、あの袁術のところの兵をそうまで鍛えられないだろうしな。実力もあって、尚且つ、袁術に直接ものをいえる人物、か。何者なんだろうな、一体」

 「それについては、私がこんな噂を聞いていますぞ、白蓮殿」

 「星」

 

 一刀と公孫賛が会話を交わしているそこに、趙雲が飄々とした態度で口を挟んできた。

 

 「貴女が趙雲さんですか。まずは始めまして、かな。北郷一刀、一応、晋王なんてものをやらせてもらってます。よろしく」

 「一応、ですか。はっはっは。噂どおり、なかなか面白いお方ですな。改めまして、晋王閣下。姓を趙、名を雲、字は子龍にございます。以後、よろしくお見知りおきを」

 「ええ、こちらこそ。それで、孫承という人に関する噂というのは?」

 「……私も又聞きの又聞き、という程度でしか聞いてはおりませんが、孫承という人物、実は行方不明になっていた孫文台殿だという話がありましてな」

 『何だって?!』

 

 長沙の城の出入りの商人が、たまたまその姿を見る機会のあった孫承の顔を見て、あれは呉の先主である孫堅であったと。そう語っていたそうであると、知人の知人のそのまた知人ぐらいから教わったと、趙雲は二人に対してそう答えた。

 

 「どうやら以前、江夏の地で長江に落ちた後、岸に流れ着いたところを袁術殿に拾われたらしい、と。そんな話をその商人が、長沙の兵の一人から聞いたそうなのです。で、その孫堅殿が袁術殿をいたく気に入られたらしく、そのまま名を変えて袁術軍の将になったとか」

 「……それが本当だとしたら、相当厄介なことになるわね」

 「……敵になったら、だろ?華琳」

 「そうなる可能性が今は一番高いでしょうが」

 「私もそう思うぞ?」

 「……そう、だね。もっとも最悪な状況、それを常に念頭に置いておく事が、上に立つ者の努め、か」

 「そういうことよ。そして今は……」

 「……この先に、大軍が布陣していることを、何より想定していないと、か」

 

 ん、と。一刀の台詞に頷いてみせる曹操と公孫賛の二人。晋・燕・魏の三国連合軍は、間も無く、豫州と荊州の州境を越え、荊州最北端である宛県に入ろうとしていた。そして。

 

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 「……これは、また……」

 「……色々と想定外というか、なんと言うか」

 「ざっと見、二千……ってところ、かな?」

 

 宛県に入り、その首府のある街へと近づいた一刀たちが、そこで目にした光景。それは、彼らが予想をしていた南征軍を待ち受ける地を埋め尽くすほどの大軍、ではなく。その数わずか二千程度の小規模な部隊だった。

  

 「こっちを迎撃……ていう感じには見えない……よな?」

 「一番可能性が高いのは、私たちを釣るための囮……。そんな感じかしらね。桂花、貴女はどう思うかしら?」

 「はい。華琳さまのおっしゃる可能性が、現状では最も高いとは思われます。ですが……」

 「一刀さん、あちらの先頭に立っている人……」

 「分かってる。……どうやら、無事生き延びていたみたいだね。袁紹さん」

 

 曹操の軍師である荀ケが主のその読みに同調して頷きこそしたものの、その表情をわずかに曇らせたまま、視線を目の前に展開する軍勢の、その先頭に立っている人物へと移す。その荀ケの行動に合わせるかのように、徐庶が一刀に声をかけつつ、その久しぶりに顔を見る人物のことを指し示した。その人物―袁本初のことを。

 

 「麗羽、ね。まさか彼女とこんなところで再会するとは思わなかったけど、その隣に呂布まで連れ立ってのお出ましとはね」

 『一刀さま!』

 「?あ、沙耶さん、狭霧さん、どうしたんです、急に」

 

 部隊中央にて、自分たちの隊をまとめていたはずの張?と高覧が、息を切らして一刀たちの下へと走りよってきた。

 

 「はあ、はあ、はあ。あ、あの、荊州軍に姫さまが居られるというのは、ほ、本当でしょうか?!」

 「……ああ、いるよ。その後ろには顔良さんと文醜さんもね」

 「姫さま、斗詩、猪々子。……元気そうで良かった」

 「そういや、二人は元は麗羽のところの将だったな。あいつがいるのを聞いて、居ても立ってもいられずに走ってきたみたいだけど、持ち場を離れるのはあまり感心しないぞ?」

 「いいじゃあないの、白蓮。臣下で無くなった今でも、元の主を心配していたその忠義。私はそういう娘は大好きよ?ねえ、二人とも、今からでも私のところに来ない?もちろん、閨でもたっぷり可愛がってあげるわよ?」

 「え゛?あ、いえ、その。お気持ちはうれしいのですが、私たちにはそちらの趣味は無いので……。な、狭霧?」

 「……無いんですか、沙耶ねえさま?!じゃあ、私とのことはただの遊びだったんですね……ぐっすん」

 「べ、別にそんなことは誰も言ってないわよ!愛してるってば狭霧!」

 「ほんと?」

 「ほんとほんと!……って」

 『……(じと〜)』

 「あ」

 

 発端は間違いなく曹操の一言であるが、まさかそこでそんなカミングアウト的発言が行われようとは、その場に居た誰もが思っていなかったことであった。

 

 「……とりあえず、袁紹さんのことは悪くしないでおきますから、続きは向こうでやってもらえますか?沙耶さん、狭霧ちゃん?(に〜っこり)」

 『ひいっ!?か、輝里さま?!あの、背後に何か背負ったそのいい笑顔はやめてください〜っ!』

 「……だったら、ちゃんと持ち場に戻りましょうね?」

 『はひ〜!すみませんでした〜!』

 

 脱兎のごとく、というのは今の二人のことを言うのだと思う。徐庶のその、背に浮かんだ何かの二つの影に震えながら、自分たちの担当する部隊へと慌てて戻っていった張?と高覧の二人であった。

 

 閑話休題。

 

 

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 「ま、まあ、今のことはとりあえずさておいて、だ。お、袁紹さんが前に出てきたね」

 「舌戦をしようっていうわけ。……やっぱりやる気みたいね、あちらさん」

 「……そのようだね。しかたない、か。輝里、頼むよ」

 「はい」

 

 わずかな会話。たったそれだけで詳細を何も話すことなく、一刀の意を汲んだ徐庶がその場から後方へと駆けていく。

 

 「……ふーん。大した会話も無しに、相手が何を言わんとしているか分かってる、か。ふふ、仲がいいのね、貴方たち」

 「付き合いが長いからだけだよ。……じゃ、行ってくるとしますか」

 

 曹操のからかうような言葉をさらりと流し、自らも袁紹との舌戦のための前進を始める一刀。でもってそんな一刀の後についてその歩を進める曹操と公孫賛が、小声でこんなやり取りをしていたりしたのを、一刀本人は一切気づいていなかった。

 

 「……ほんと、どれだけ朴念仁で女泣かせなのかしらね、彼は」

 「そうだよな〜。それも全部無自覚と来たもんだ。……よくまあ刺されずに居るもんだよ」

 「まったくね。となると、彼はあのことだって気づいて居ないのかもね」

 「あの事?」

 「……徐庶元直もまた、李儒白亜と同様、彼の后候補の最有力者だってことに、よ」

 

 そして。

 

 互いに久方ぶりに顔を合わせる、一刀らと袁紹との間での舌戦が、宛県の地にて間も無く開始されようとしていた。太陽は蒼空の頂点にあり、両者を初夏の日差しが照らしつけるのであった……。

 

 〜続く〜

 

 

説明
北朝伝、その続きです。

いよいよ荊州へと向かうことになった、
一刀たち晋・燕・魏の三国連合。

まずは荊州に入るまでの様子をお送りします。

短いですが、ごゆっくりお楽しみください。であw
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コメント
正直一刀を誰かが刺そうとしても別の誰かがかばう展開になりそうですね。(赤羽 塵)
RevolutionT1115さま、ご報告ありがとうございます。すぐ直します(汗;(狭乃 狼)
 曹操のからかうような言葉をさらりと流し、自らも袁紹との舌戦のための全身を始める一刀。これは前進ではないかと;;(RevolutionT1115)
ブンロクさま、そんなパターンの世界もたまにはあるでしょ。本〜〜〜〜〜当に、たまに、ね♪w(狭乃 狼)
アロンアルファさま、ま、確かにw ホントイツカモイジャリタイ・・・(狭乃 狼)
妃候補最有力?一刀にゃあ関係ねぇ!誰も選ばねーどころか最終的には全員選ぶんだから。…モゲテシマエバイイノニ(アロンアルファ)
poyyさま、なんとかにつける薬が無いのと一緒ですねw(狭乃 狼)
mokiti1976−2010さま、そうです。最終的に星は桃香より白蓮を選びました。これが後々どう影響するかは・・・・内緒ですw 一刀はモゲレバヨシw(狭乃 狼)
知っているか、主人公の鈍感はどんなにやっても治らないんだぜ…。(poyy)
おおっ!星さんがハム王様の許へ戻ってる・・・!そして一刀にとっては女の子を口説くなど朝起きて顔を洗って歯を磨くが如きものなんですよきっと・・・モゲテシマエ・・・。(mokiti1976-2010)
村主7さま、麗羽とのやり取りは・・・さて?どんな風になるでしょうね?w 漢女の国へ一週間強制滞在・・・イイデスネ、ソレ♪(狭乃 狼)
果たして新生袁紹さん(何かウルトラ怪獣っぽいですな)とどんな会話を遣り取りするのか、その辺りも楽しみです  1p目「女の子を口説いたことなんて、全然無いんだけど?」・・・1週間位漢女の国へ滞在させますかw(強制的に)(村主7)
ほわちゃーなマリアさま、ほんとにモテル奴ほど自覚が薄いのでしょうかねえ? 輝里に関しては・・・とりあえず、O☆SHI☆O☆KI☆されといてくださいw(狭乃 狼)
転生はりまえ$さま、劉備軍なら、多分今頃美衣たちと遊んでる頃かと(ぉw まあとりあえず、ほんと、一度ぐらい刺されればイイノニ・・・くすすw(狭乃 狼)
自覚なしって本当に怖いですよねwwもう大陸一の女たらしではなく、歴代ナンバー1の女たらしなんてどうでしょうかwwそして、戦闘以外で晋で最強なのは、輝里ちゃん・・・って、ごめんなさい嘘です。だから後ろの黒いオーラを抑えてください。(ほわちゃーなマリア)
劉備軍の話の影も見えない・・・・自然消滅?・・・・はないな。恋姫無双って手を出すこと風のごとくで、沈黙すること林のごとくになって、侵略すること火のごとくで、どっしりハーレム作るのが山のごとくな感じだよねぇ、本当よく刺されないよなぁ。(黄昏☆ハリマエ)
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