Stay the way you are
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人間、生きていれば色々とある。

まぁ、色々と、うん。

 

僕も聖人君主じゃないから、そりゃあ色々と顔に出しちゃう事もある訳で。

 

 

 

 

 

Stay the way you are

 

 

 

 

 

「アンタもよく飽きないわね?」

「……うん」

「今日で何日目だっけ?」

「十日目」

 

十年間離れていた距離を何とか縮めたくて、毎日お弁当を父さんに差し入れて面会を求めて。

でも結局それは叶わなくて、僕の手に残るのは手を付けられる事無く戻ってきた、冷えて硬くなったお弁当。

そんな事が十日も続いてる。

 

「……諦めないの?」

「うん」

「全然会ってくれないのに?」

「うん」

 

やっぱり、僕は父さんに会いたくてこの町に来たんだから、父さんに会うのを諦めたくない。

でもやっぱり悔しい。

お弁当に手を付けられていないという事は、父さんは僕の事なんてどうでもいいんだろうから。

 

「前なら直ぐ諦めてたんだろうけど、最近は何か、諦めたくないって思うんだ」

 

お弁当の包みを広げて、蓋を開ける。

蓋の内側に付いた水滴が、フライの衣をふやかしてる。

味が落ちたお弁当を口に入れた。

 

「ばっかじゃないの、アンタ」

「うん」

「食べて貰えないの、解ってるんでしょ?」

「うん」

「それでも毎日作って持ってくの?」

「うん」

 

半分自棄だ。

冷えて硬くなった米粒を口に詰め込む。

水分も無しに咀嚼するのは難しいけど、僕は飲み込む事に意地になっていた。

 

「はい、お茶」

「あ、うん」

 

暫くの間米粒を飲み込む事に躍起になっていた。

ふと目の前に気付くと、アスカが自販機で買ってきたお茶を差し出していた。

弁当箱と箸で塞がった僕の手に合わせてくれたのか、それは既にプルトップが開けられていた。

 

「大体ね、アンタは真面目過ぎるのよ」

 

さも説教をする様にアスカは口を尖らせた後、弁当箱から最後のフライを摘み上げる。

そして口に放り込んだ後、もぐもぐと一気に咀嚼して飲み込み口を開く。

 

「何が何でも会ってやろうって意気込み過ぎ」

「そう、かな?」

「そうよ! 毎日毎日お弁当持って同じ時間に面会希望だなんて、一種のストーカーよ?」

「……否定はしないよ」

 

意固地になってるのも自覚してる。

それでも、会いたいという欲求を抑える事は出来ない。

 

「僕がこの町に居続ける理由が何かって考えたらやっぱり、近くに居れば父さんに会えるかも知れないっていう期待だから。

 この町に来る前の僕は、無駄だって解ってたのに待ってただけだから。自分からなんて考えてもいなかったから」

 

僕はアスカからお茶を受け取り、箸を置いた。

そして一口喉に流した後、自分に言い聞かせる様にアスカに告げた。

 

「だから、今度は自分からしようって思ったんだ」

 

 

 

 

 

アスカは僕の手からお茶を取り上げ口を付け数口飲み込んだ後、強い口調で僕に言った。

 

「でも、今のアンタはただ駄々を捏ねてるだけよ! 自分でも解ってるんでしょ?」

 

アスカの言う通りだ。

何も言い返せない。

 

「解ってる。でも、会いたいと思う事を止めることは出来ないよ」

 

アスカの手から再びお茶を受け取り、液体を口に流し込む。

缶の中身が軽くなる迄飲み込み弁当箱を鞄に片付けた後、吐き出す様にアスカの言葉を肯定した。

それ以外、何も言えないんだから仕方ない。

 

「……ばっかじゃないの? それで全て収まると思ったら大間違いだわ!」

 

アスカは再び僕から缶を取り上げ中身を全て飲み干した後、部屋の隅のゴミ箱に空の缶を放り投げた。

 

「確かにアンタの言う通り、思いを止める事は出来ないわ。だってそれが人間だもの。生きているって事だもの。

 けど、それだけを思い続ける事も出来ないのよ? アンタ、そこん所は理解してる?」

「うん」

「だったら、どうすれば良いのか……解るわよね?」

「……うん。そうだね」

 

僕のした事は結局、父さんが僕を呼び寄せた時に寄越した手紙と同じだ。

ただ会いたいと待つだけで、前に進んだ訳じゃない。

 

「もうちょっと、ちゃんと言わなきゃね」

「そうね」

「何故会いたいのか、どうしたいのか、それを言わなきゃ始まらないよね」

「そうよ」

 

でも、よく考えたら……会いたいとはずっと思っていたけれど、どうしたいのかは考えていなかった事に気付く。

僕は父さんに会って、どうしたいんだろう――?

 

「また袋小路? アンタ、ホントに考え無しね」

「……そうかも知れない」

 

だって、父さんに会って、作ったお弁当を食べて貰ってからのビジョンが何も無い。

どうしたいか以前の問題だ。

アスカはそんな事を考えていた僕の頭の中を見抜いてた。

 

「アンタの事だから、ずっとそんな事を考え続けるんでしょうね」

「かな? よく判らないや」

「今だって考えてるのに?」

「…………」

「アタシが側に居ても、アタシの事なんて見てくれないのよね、アンタは」

「そんな事、無いよ」

「あるわ。だって、この間からずっと父さん父さんって言ってばかりだもの」

 

思い当たる節がありすぎて困る。

別にアスカの事がどうでもいい訳じゃないけれど、父さんの事がずっと気に掛かってたのは確かだし。

指摘されて返事に困っていると、ふわっ、っと鼻先に微かな柑橘系の香りが漂う。

気付いた時にはもう、僕はアスカの腕の中だった。

 

 

 

 

「……アスカ?」

 

アスカは僕を抱き締め、ポツリと零した。

 

「でも……そういう所も含めて、アンタなのよね」

 

何が、とは訊けなかった。

何故か訊いてはいけない気がしたんだ。

だから辺り障り無い返事で僕も返す。

 

「そう?」

「そうよ。だから――」

「何?」

「だから、アタシは……」

 

その先の言葉は聞き取れなかった。

でも、アスカの腕の力が強められた事でどう返事すれば良いかは判った。

 

「僕も、好きだよ、アスカの事」

 

アスカの腕に呼応する様に、僕もアスカを抱き締め返した。

 

「……馬鹿」

「馬鹿でもいいよ」

「ホンッとに馬鹿よ」

「僕は、僕だから。変えろって言っても変えられないから」

「だから馬鹿だって言ってんのよ」

 

アスカは嬉しそうな声で更に僕を抱き締めた。

 

「でも、馬鹿なアンタだから、アタシも一緒に考えてあげる。感謝なさい」

 

触れる耳が熱い。

触れていないけれど近くにある頬を包む熱気も感じる。

多分、お互い顔も耳も真っ赤なんだろうな。

 

「うん、解った」

 

急に何かが出来る訳じゃない。

僕達はずっと今のままじゃあいけないけれど、今はこのままでも良いんだと思う。

きっと、ゆっくり考えていけば良い事なんだよね。

 

 

 

 

 

「……帰ろうか、アスカ?」

「うん、シンジ」

 

名残惜しかったけど、僕とアスカは抱き締めた手を解き体を離す。

その代わりに手を繋いだ。

温かい。

 

――他人の手って、こんなに温かいんだ。

 

その時ふと思った。

ああ、僕はもう一度父さんからこの温もりが欲しかったんだ、って。

あの時別れた駅で、僕は別れる寸前まで父さんに手を曳かれていた。

大きな父さんの手の温もり。

それが急に断たれた事がずっと記憶に残っていたんだ、って。

 

「アタシは……離したりしないわ。何があっても、何が起きても、アンタの側に居るから。離れないから」

 

手を繋いだままじっとして、繋いだ手を凝視している僕にアスカは告げた。

まるで僕の心を覗いていたかの様なその言葉は僕の心に染みる。

 

「有難う。でも、解ってるから。アスカは、ずっと今迄側に居てくれたもの」

「解ってるならいいわ」

「じゃあ、行こうか?」

「ええ」

 

この温もりを信じていれば、ずっと感じていれば、きっと何かが解るんだろう。

そんな予感を感じながら、僕達は新しい一歩を踏み出した。

説明
惣流さんの人はAEOE、式波さんの人は3号機戦無しお食事会後ifでヨロ。
2010/10/22 Pixivへ投下。
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