【サンサラ2】約束
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物心ついた時には、もうその卵をずっと抱いていたし

その卵がどうやら普通とは違うらしいというのもうっすら感じていた。

竜苑の前に捨てられていた子供の話は、狭くて話題の少ない竜苑では、

いっとき退屈しのぎの大事件にはなったけれど

そのうち、飽きられた。

残ったのはいつまでも孵らない卵と子供。

口さがない長老達は「竜苑は託児所ではない」と言い、

少しぼんやりしたところのある子供自身を「孵らない卵にはお似合い」という人たちもいた。

いつまでも孵らない卵を不吉だという人もいたし

竜苑自体、運営はギルドと一部の竜使いの良心でまかなわれており、

あまり裕福ではなかったので厄介者にはあまり優しくなかった。

なので、その頃には竜使い養成の講座にもあまり出なくなり、

竜苑の片隅にある庭園で、ますますぼーっとする事が多くなっていった。

ゆっくり流れる雲と光を反射する水と、風にそよぐ草花を見ながら

卵を抱えて座り込む。

 

少しうとうとしたのだろうか、気がつくと後ろに人が立っていた。

「少し、いいか」

ぶっきらぼうな問いかけに小さくうなづくと、その人は隣に座ってきた。

その顔を見て驚く。

 

――アムリタ。

 

百年に一人の天才と呼ばれる竜使い。

彼女はちらりとこちらの顔を見ると、

「触ってもいいか」と、聞いた。

僅かな間の後、卵のことを聞いているのだと気づき彼女に向かって差し出す。

 

若き天才は慈しむかのように掌で優しく卵をなでながら呟いた。

「人は竜を求め、竜、これに従いてともに滅ぶべし」

ギルドに伝わる古い古い言い伝えだ。

講義の時の長老とは違う、アムリタの若い澄んだ声で聞くと

印象がだいぶ違うな、と思う。

当たり前のことというか、水の流れのように自然なことを言葉にした、それだけのようだった。

長老が言った時はなにかもっと、不吉な響きがあって、それを聞いた日にはうなされたのに。

彼女の言葉の余韻をかみ締めていると、不意に卵を顔の先に突き出された。

「ありがとう」

良い卵だ、と彼女は立ち上がり腰の土を払いながら、こちらを見て言った。

「また、来ていいか?」

うなづき返して、卵を抱えなおす。

 

そういえば彼女は講義中も、質問には答えるがそれ以外にはほとんど言葉を発しなかった。

あまり話すのは好きではないのかもしれない。

 

実は彼女はかなり饒舌な性質で、単に合わない連中には無愛想なだけだと知ったのは

それからしばらく後、彼女と親しくなってからだった。

 

 

 

「あの言葉が意味するものは何か、そもそも、竜というのはどこからやってくるのか」

庭園の片隅、いつもの場所でアムリタが語る。

「そして、竜使いとは何者なのか…」

アムリタのくろい瞳が、自分を見ている。

「私は、それを知るために竜使いになる」

ああそうか、彼女が他と違うのは

竜使いが目的じゃないからなんだ。

竜使いになるのは謎を知るための手段の、ひとつ。

彼女は誰よりも遠くを見てる。

だから竜苑での彼女は超然として、人を寄せ付けない。

そもそも生き方が違うから。

そしてそれは理解されないから。

「…お前のその卵が孵ったら、私と一緒に、竜の謎を解いてみないか…?」

彼女の微笑みに、短く「うん」と答える。

アムリタと一緒に回る世界は、きっととても楽しくて美しいだろう。

 

だってこの世で一番楽しくて美しい彼女と一緒なのだから。

説明
サンサラ33のお題様( http://parrot.holy.jp/samsara/odaitop.htm )から「1.幼い日の約束」+「2.たまごを抱いた少年/少女」
作中のアムリタの台詞はサントラのモノローグから。
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サンサーラ・ナーガ2 アムリタ 主人公 ゲーム RPG 

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