GROW4 第七章 心に秘めたる深き傷跡
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「ホワイトドラゴンの主な力は強力な氷系統の魔法とたぐいまれなる生命力・・・

ま、わたしにかかれば一撃で落とせることもたやすい」

 肩に担ぐはりせんをぽんぽん肩に叩きながら、白龍を横目で見る結。ニヤリと笑うその表情には、

ドラゴンを相手しているというよりも、ネズミや猫などの小動物を相手取っているかのような感じ

に取れる。

 シュシュシュシュシュッ

「あれ?戻っちまうんの?ドラゴンのほうがいいんやないかな、防御力的に・・・」

 人型に戻る白龍。予想外にも120cmくらいのお子様体系だ。左腕には龍文らしきものが見え

る。

「僕はこっちの姿のほうが実は強いんでね。さっき5パーセントがなんとか言ってたけど、早く

本気を出さないとガタガタ震えてうずくまってしまうよ」

 少年になった白龍は両腕をポケットに突っ込んで足をブラブラさせている。

 トッ

 ガキィィィィン

 シュゥゥゥゥゥ

 

 いきなり激しい音が試合フィールドに響き渡ったかと思うと、とっさに防いだのか。結のはりせんに3cmくらいの小石がめり込んでいた。

「何をしたんだよまったく、石がめりこんどるやん・・・」

 小石をはりせんから取る結。とっさに反射神経だけではりせんを動かし防御したらしい。人間離れしている。

「おいおい。あれを反応するか普通?音速の100倍は出てたぜww」

「足ブラブラして何してんのかとおもたら小石なんか飛ばして。しかもただの小石がめり込むやなんてどんな力しとるんか・・・」

「これでちょっとは本気出す気になっただろ。このフィールドは石がごろごろ転がる山岳地帯。

僕の有利な場所だ・・・」

 山の一部を切り取って張り付けたようなフィールドは、まさにドラゴンの聖地ハルゴドラニアに

近い環境にある。天使さんの水の都の時といい主催者の悪意なのか悪戯なのか・・・

 べらべら話す白龍に対し、結は一言だけ言う。

「わたしに勝つという条件には遠く及ばない・・・」

「じゃあ見せてやる!ドラゴンの真の力を!氷の拳(アイシング・ヴァルガン)」

 ひゅっ

 ガキィィィィン

 

 はりせんを180度回転させ逆手に返し防ぐ結。柄の部分にうまく当て、衝撃を最小限に抑え込

む。

「さっきと威力が段違い。油断して両腕がしびれた・・・」

「反応速度は目を見張るものがある。しかも絶対零度のこの拳を受けて凍らないとは良くできたは

りせんだ。“はりせん”はな・・・

氷の拳、多方向からの襲撃(ベードローリエ・サンガムアンザルゼン)」

「流れるはりせん(ミネード・ハレミオーラ)」

 ビィィィン

 

 ヒュヒュヒュッ

 ギギギギィン

 

 ガシィィィィッ

「攫んだぜ。これで防御はできないなぁ。冷凍ビーム!」

 ビビビビッ

 パキパキパキパキ

 白龍が口から出した冷凍ビームで凍ってしまう結。

「結構手こずらせやがって」

 ビキビキィ

「ん?」

 ビキビキビキビキ、パキャァァァン

 パラパラパラパラ

 

 「ばかな!?マイナス5000度を誇るこの僕の冷気で完全冷凍されておきながら、それを破壊して出てくるなんて不可能だ。」

 驚く白龍。無理もないだろう。あまりの冷気に、100m四方の空気が凍りつきスターダスト状態になっているのだ。そんな周りにいるだけでも凍りついてしまうのに、氷の中心で氷漬けになっていた状態での復活。どう考えてもありえない。

「お気に入りの勝負服が傷んじゃったな。しっかし寒いねここ。どうにかしてくれ」

 巫女服をパタパタさせながら白龍に言う結。

「寒さは感じるみたいだな・・・」

「なっ?何を言うかと思えば服を台無しにしてそれかい?人間だから寒いのは当然だよ。でも、これからあんたを恐怖のどん底に叩き落とす恐怖感に比べれば熱いくらいやな・・・

覚悟してやドラゴンさん。悪いけど全力の30パーセントほど出させていただくわ」

「は?30パーセント?」

 

「その子どもみたいな可愛い顔、原形が無くならんといいな・・・

契約執行(シム・イクセ・パルス)、天空の巫女(ネガマルディジャビ・アリス)、始動!!」

 

 

 

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 2

 

 シュゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・

「なっ?なんだこれは・・・」

 結から発する青白い気に、周りの冷気は一気に吹き飛んだ。

「審判を始めようか、ホワイトドラゴン。このわたしに30パーセントまで出させたんだ、少しは

遊ばせてもらわないと困る・・・」

 パラパラパラパラ

「じ、地面が・・・」

 結が一歩歩むごとに地面に穴が空き空中に放られる。某サイヤ〇みたいな感じだ。それに加え、

周りの空気が妙に苦しい。

「何をもたついてるの?早く攻撃してきてよ・・・」

 ギラッッァァァァァァッッッ

 ビクビクッ

「ふざけるな!どこに攻撃が通る隙があるんだ」

 あまりの実力差にネジが飛んだか?白龍が叫ぶ。白龍は中尊寺のメンバー。親父クラスのあのホワイトドラゴンですらたじろがせているなんて・・・

「つまらないな。急に戦う気がなくなったみたいだ・・・

少し早いけどトドメをささせてもらうよ・・・」

「オオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ」

 両腕を広げ、叫び出す白龍。気がどんどん上がっていく。

「龍の放呪(ドラゴン・マーゴレディアブル)、纏いし悪の冷気を上げよ。破壊の爪よ地を斬り裂け。己の肉体を喰らいし復活せよ!伝説の古龍(レジェンディアス・エンシェントドラゴン)、

暗黒龍マルザ=メルチヴァ!!」

 

 『ガァァァァァッァァァッァァァァッァァァッァァァッァァァッァァァッァァァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ』

「吸血鬼と同格の最強種、また妙なものを・・・

空気の太刀(エブルラジアード・エア)」

 白龍は、自分の実力では遠く及ばないことを知り、ドラゴンの禁呪の祝詞(のりと)を唱え、伝説の黒龍を自分の身体に転生させた。

 250mを超えるドラゴンは、バトルフィールドに入りきらず、周りの壁をガリガリ言わせながら

空中へと飛び上がる。その爆風だけで吹き飛んでしまいそうだ。

 そんなドラゴンに、結は剣を突き付けて言った。

「伝説のドラゴンなんて珍しいけど、本当に強いのか疑問だね」

 見下ろしながら返すドラゴン。その声は、某ジブリ作品のオ。コ〇ヌシみたいな響く声だ。

「白龍め、このわしを呼び出したかと思えば何か。この小娘に手こずってたのか・・・

実に甘い。」

「甘いかどうか確かめてみたらどうかな?飛兆(ひちょう)、核撃(かくげき)」

 空気の斬激が飛び交いドラゴンを襲う。

 ギギギギギッ、バギャァァァン

「むむむっ。なかなかやりおるのう。紫煙(しえん)」

 はぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー

 

「毒霧?天空の魔風波(ネガマルディジャビ・フランスバリエアームディス)!!」

 モクモクモクモク

「霧が晴れない!?どうして・・・」

「その霧は電子単位で構成されている。周りの物質にくっつき覚醒を連続して続けるのだ。つまり

どんなに吹き飛ばそうが、無限に増え続けるのだ・・・」

 ビリリィ

 巫女服の袖を破り口を抑えるが無意味。電子単位で構成される毒霧は、布をも貫通して結を蝕む。

「ゲホゲホっ。こんなことで、こんなことでわたしは負けるわけにはいかない!!」

 グシャァ

 

 全身に毒がまわり倒れてしまう結。その眼には涙が滴っていた。なぜ結は涙を流すのか。その

真相は少し前へとさかのぼる・・・

 

 

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 3

 

 馬慈魔結は大きな闇を心の奥底に秘めていた。

 それを誰にも言うことなく。

 誰にも頼ることなく。

 14年間のあいだ生きてきた・・・

 

 生まれついて天空の巫女として覚醒した結に対し祖父が言った一言はこうだ。

『今からおまえは、死ぬまで奴隷として働いてもらう・・・』

 結は2歳に時に祖父に言われたその一言のせいで、10年間もの間、無理やり天空の巫女の力を

使わせ続けさせられた。なぜ10年か・・・

 奴隷として働かされて10年目のある日、奴隷を集めた施設の人間が全員惨殺されたのだ・・・

 その男は、結に言った。

『小娘、助けてほしいか?』

 結はこう答えた。

『殺して下さい』

、と。

 物心着いてらのここでの生活。両親の記憶さえ危うい頃に投げ込まれたせいで、頼る人もいない

孤独の日々。そんな中、生きてこれたのは同じ境遇の仲間がいたからだ・・・

 しかし、今日みんな殺された。いなくなった。一人残らず・・・

 結の心はもう崩壊していた。

 

『奴隷たちを皆殺にした俺に対して文句はないのか?』

 ニヤリと笑って問いかける男。

『帰ってきませんから・・・』

『何がだ?』

『もう、死んじゃった人たちは帰ってきませんから・・・

あなたがなぜ彼らを殺したのか分かりません。でも一つだけ分かることがあります』

『ほう?いったい何がだい?』

『あなたが悪い人じゃないってこと・・・』

 結の返事に意表を突かれ、驚く男。

『どーゆう意味だ小娘?俺はここの連中を皆殺しにしたんだぜ。立派な悪人さ。お前のこともこれから殺す』

『悪人が・・・』

『ああん?』

『悪人が、殺した相手に対して両手を合わせ、黙祷(もくとう)なんてするでしょうか?一人一人に対して、綺麗な菊(キク)の花を備えるのでしょうか?お墓まで造ったりするのでしょうか?』

『・・・・』

『わたしには分かりません。ずっとここに閉じ込められて、働かされて、ゴミみたいに扱われて。

それでもいつかは解放されるなどと甘い考えを持ったりもしました。でも無駄な考えだったみたいですね・・・』

 両膝を着いて大粒の涙を流しながら言う結。

『だってわたし・・・これから殺されちゃうんだもん』

 両目から涙を流しながら、ニッコリ笑いそう言った。

『その一言にはいったいどれだけの重みが込められているんだろうな・・・』

 殺される直前に流した涙の意味は?

 その後になぜ笑えるのだ?泣くほど死ぬのが怖いのだろう・・・

 

『小娘の名前はなんだ?』

『これから殺す人の名前を聞くの?』

『いいから答えろ!』

『名前はないんです。名字はたしか・・・』

『もういい。腐った名字なんて捨てろ。お前の名字は馬慈魔だ。』

『えっ?』

『俺と同じ馬慈魔。名前はそうだな、結にしよう・・・』

『ゆ、い・・・?』

『そう。俺とお前の絆を結ぶと言う意味で結。そして、これからおまえが生きていく中で、出会っていく人間に対しての結び付きと意味で結。お前はもう一人じゃい。俺がついてる・・・』

『でも、わたしを殺さなくていいの?』

『いいんだよ黙ってれば。それよりも家族のとこもどれねぇだろ。俺が引き取ってやるよ。

妙な情が移っちまったぜ・・・』

 

 その後、おじさんに引き取られたわたしだったが、その日々も長くは続かなかった。

 任務を中断したことがばれたおじさんは、大きな傷を負い捕まった。

 わたしはおじさんになんとか逃がして貰った。しかし、やっと得た繋がりを切られたわたしは、糸を失った操り人形のように、動かなくなった。生きる意味を失い、心の傷が広がり、それから一年以上も路肩をさまよう生活が続いた・・・

 わたしに力が足りないからおじさんをあんな目に。

 わたしの力を付ければおじさんを・・・

 

 わたしは町の外れにある廃墟で、天空魔法の修行を積んだ。生まれ持った才能と、これまで使い

続けていたおかげですぐに強くなった。これでおじさんを救える・・・

 

 それから三カ月たった頃、わたしはおじさんが捕まっている刑務所に乗り込んだ。

 必死だった。二年近く会えないおじさんを助けるために。すべての原因はわたしのせいだ・・・

 刑務所に乗り込んだわたし。そんなわたしに突き付けられたのは、とても受け止められないよう

な現実だった。

 おじさんは処刑されていたのだ。捕まった次の日に・・・

 わたしはバカだ。ちょっと考えれば分かることじゃないかこんなこと。

 

 ドンッ、ドンッ、ドンッ

 

 抑えきれない怒りと悔しさが、わたしの頭を駆け巡って、止めることができなかった。

 そんな中、刑務所の職員が、ある手紙をわたしに差し出す。

『これはなんです?』

『君のおじさん?かな・・・預かっていたものだ。君がもしここに来たら渡して欲しい。彼女には絶対に手を出すなとね・・・』

『おじさんか?』

 わたしが手紙を開けると、短い文章が綴られていた。

 

《結へ

 

 おまえがこれを見てるということは、どうやら乗り込んできたみてぇだな。まったく・・・

 そんなことよりこれからのお前の引き取り先についてだ。権藤っていうじいさんが日本にいる。

 おまえはそのじいさんに会って話をすればいい。俺はもともと日本に住んでいてな。平和な所

 だったよ。ついおまえにも日本人みてぇな名前付けちまったがまあ結果的に良かったのかな。

 おまえに何もしてやれなくて済まなかったと思っている。こんな俺のために、刑務所まで来て

 くれてくれてすげぇ感謝してる。だからな結。おまえはこれから自分の道を行けばいい。おま

 えは何かを変える決断をしてここに来たんだろ?じゃぁ、これからいく環境でしっかりと絆、

 結んで来い。おまえの名前に恥じないような立派な生き方をしろ!以上だ・・・

 

 馬慈魔 丈裏より》

 

『おじさんは勝手だよ。全部わかっててやってたんだね。わたしを助けたら殺されちゃうことも、

わたしがここに来ることも・・・』

 手紙にしずくが落ち、インクが滲む。

『わたしがおじさんのためにできることは、これからも一生懸命生きること。だから・・・

だから日本でも精いっぱい生きるから。おじさんの分まで、精いっぱい生きるからっ!!』

 

 

 

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 4

 

「こんなところで負けるわけにはいかないんだ・・・」

 ガッッ

 

「ん?立ち上がっただと?あれだけの煙を吸っておいて立てる筈がない、ましてやおきあがること

など・・・」

「100パーセント解禁、天空の巫女・・・」

 ドドドドドドドドドッ

 シュラッ

『霧が跡形もなく消えた?小娘いったい何をした?』

 シャッ

 驚く黒龍だが、その背後には結が既に回り込んでいた。

『何ィ?』

「毒で随分と調子に乗っていただいて・・・

本来あなた程度に100パーセントなんてもったいないんだけどね。初心に戻り全力を出させて

頂く・・・」

 グググッ

 巨大な鎌を振りかぶる結。

『この至近距離はわしの攻撃範囲じゃ!黒龍の息吹(ディブレグナイド・ブレス)』

 ドシュウゥゥゥ

 ブワッ

 

『無傷だと?ばかな・・・』

 巨大な地響きが響き渡るほどの強烈なブレスを直撃したにもかかわらず、ダメージすら負わない

結。それほど強力な空気の層が、身体全体を渦巻いているのだ。

「無駄な茶番はおしまいやな黒龍。正直言って技を出すまでもないけど、せっかくだから1つだけ。断罪の首切りマシーン(フィヴォウマ・ジャジメンテイト)」

 ガシュゥゥゥ

 ズドンっ

 

 空中から鎌を振りかざすと、黒龍の首がざっくりと斬れて吹き飛ぶ。更にその斬りこみに一直線で

降りてきた範囲の空間が真っ二つになるほどの勢いで、斬激が落ちてくる。地面には、まるで斧で

叩き斬ったような巨大な跡ができ、地球の反対側まで貫くかのごとく深かった。

 処刑台のギロチンの様に、首が吹き飛ばされた黒龍は消滅した。

 

 ヒュゥゥゥゥゥ・・・・・どさっ

 

 もとに戻った白龍が空から降ってきて地面に落ちた。衝撃で気絶したみたいだ。

 バトルフィールド全体に残った風の傷跡から、天空魔法がどれだけすさまじいかを物語る・・・

 

 「勝者、馬慈魔結」

 

「あーあ。予定した時間を随分とオーバーだよ・・・」

 

 

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 5

 

「天空魔法か・・・

まさかロスト・マジックのひとつがね・・・」

「対戦相手に興味なしでござるか?」

「あなたはわたしに“勝てる”というならお話してもいいよ・・・」

「・・・・」

 

 第一回戦第十七試合目、

 貢納松(流水学院2)VS烏野林道(冷門2)

 

 烏野林道、忍者服に身を隠すその実力とは・・・

 

 「始め」

 

 

-6ページ-

 

 6

 

 次回予告

 

 長くなりました・・・

 時にはシリアスも交えて言ったほうがいいんじゃないですかね。

 

 さて次回、GROW4 第八章 真の力

 

 

 ではでは 

説明
シリアス展開入ります
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タグ
GROW シリアス 馬慈魔結 白龍 

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