ローリィ・カレス(レンリン)
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「あたしたち以外には誰もいないね」

 そう言って白い砂の上を軽やかに駆けていく少女の後ろ姿を、レンはどこか眩しそうに目を細めて眺めていた。少女の履いているローファーの底が柔らかい砂の中に深く埋まっていくのを見て、中に砂が入っていないだろうかと、そんなことばかりが気にかかってしまう。

「もうシーズンオフだしね……。あんまり波打ち際に行くと靴が濡れるよ」

 はぁい、と少しだけつまらなそうに呟いて、少女は──リンは、くるりと踵をかえす。ふわりと弧を描いていたスカートの裾が潮風に吹かれてさらに舞い上がる。

「危ない」

 スカートの裾を押さえた直後、足元をふらつかせてそのまま砂の中に転びそうになっていたリンの肩を、レンの腕が後ろから抱えた。

「ありがとう」

 リンは少し恥ずかしそうにお礼を言って、自分の肩を抱いている手にそっと手のひらを重ねた。それから視線が合うよりも先に、レンの唇が落ちてくる。

 もう何度目になるのか分からないキス。

(……嘘。本当は覚えてる)

 最初にしたときからずっと、レンから貰ったキスはすべて覚えている。だから数えようと思えば数えられるのだけど、さすがにそれは恥ずかしいからしなかった。

 そんなことを考えていると、カツン、と鼻の上に何かが当たる音がした。キスをするときにはいつも外されている眼鏡が、両手が塞がっていたせいで今日は掛けたままだったのだと気付く。

 いまどき珍しいくらい分厚いレンズと黒いフレームに囲われた眼鏡。薄く瞼を開けても距離が近すぎてぼやけてしまうそれを見て、そういえば、とリンは思考を巡らせる。

(レン君が眼鏡をするようになったのって、いつからだっけ)

 出会ったばかりのときにはかけていなかったけれど、高校に上がるときにはもう掛けていた記憶がある。あまり似合ってないと思ったことも。

 コンタクトにしないの? と尋ねると、こっちのほうが僕に合ってるからと言って、少し困っているような顔で笑った。

 その表情を見て、眼鏡をするようになった理由がリンには何となく分かった。

 男の人にしては綺麗すぎる──女性的というよりは中性的といったほうが近いだろうか──、顔立ちをしているレンは、その顔のせいで昔から色々と嫌な思いをすることが多かったらしく、うっとうしいくらい前髪を伸ばして分厚いレンズを隔てることで、少しでもそれを隠したかったのだろう、と。

 それと同じくらい、他人との間に距離を置きたかったのだろう、とも。

 そして自分と一緒にいるときにはキスをするとき以外にも眼鏡を外してくれることに、リンは少なからず優越感を抱いていた。

 けれどまだ完全に距離がなくなったわけではなく、こうして唇を重ねている間にも、距離を置かれていると感じることはある。

「ん……」

 唇を離した直後、分厚いガラス越しに見える瞳には、まだ触れることをためらっているような、罪悪感を覚えているような色が映っている。いくら回数を重ねても消えないその色をリンはもどかしく感じる反面、何よりも愛しく感じていた。

 不器用で臆病で、だけどどこまでも一途で。自分よりもずっと大きな男の人なのに、ときどき小さな子供みたいに見える──、そんなレンのことを、抱きしめたくて仕方がなかった。

 だけどこの腕は小さくて、うまく回すことができないから。

「今度はあたしがしてもいい?」

 レンの唇に軽く触れながらそう尋ねると、レンズの向こうに見える瞳が大きく揺れるのが分かった。

「いい、けど…………」

「じゃあ、かがんで?」

 どこか楽しげなリンの声にレンはすぐに膝を落として、視線が同じ高さに来るまで屈んだ。黒くて無骨な蔓に、少女の白く細い指が触れる。

「男の人の眼鏡を外してあげるのって、何かクセになりそう」

「……僕以外の人のは外さないでね」

「当たり前でしょ」

 リンはくすくすと小さな笑い声を立てると、折りたたんだ眼鏡を大事そうに手のひらで包みこむ。

 それからゆっくりと顔を近付けて、軽く唇の先を触れ合わせる。はじめは小鳥が啄ばむような愛らしいものだったが、交わしているうちに充分な甘さを含んでいった。

「……ん、っ……」

 するとそれまでは唇を受けているだけだったレンも途中から火が点いたようになって、リンの手首を掴んで自分の胸元まで持ってくると、そのまま上体を抱え込むようにしてさらに深く口付ける。

 長い睫毛に縁取られたレンの瞳に先ほどまでのためらいがないことを確認すると、リンは次第に力の抜けていく身体を預けた。

 

 

 

 二度目のキスはあたしがするから、三度目はもっと長いキスで返して。

 そんな約束を重ねていけば、きっと距離なんてすぐに埋められるわ。

 

 

 

 

           End.

 

 

 

 

 

 

 

 カレス=抱く、抱擁する

 

 

 ローリィ・ドールの続きで、大学生レン×中学生リンです。

 視点をリンちゃんに変えただけで犯罪臭さがかなり薄くなる不思議!

 

 こいつら海辺で何してんだって話ですが、自分たちの住んでる場所から少し離れた人気のない場所でしかデートできないんですね。犯罪だから仕方ないね。

 あと成長した今でこそ中性的と形容されていますが、中学生くらいまでのレン君は普通に女顔だと思います。そして中身はロリコン。救えねぇ。

 

 

 

 

 

 

説明
ローリィシリーズ。大学生レン×中学生リンその2。
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レンリン 鏡音リン 鏡音レン 小説 

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