そらのおとしもの  外伝  もしもイカロスの次に地上に来たのがカオスでその次に来たのがニンフだったら…。その2(アニメ仕様)
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もしもイカロスの次に地上に来たのがカオスでその次に来たのがニンフだったら…。その2(アニメ仕様)

 

 

カオス、ニンフが地上にやって来て数週間が経過。

 

「おはよう、智ちゃん」

「ああ」

 

智樹が玄関から出てくる。

 

「留守番よろしくな」

「はい」

 

玄関を掃除していたイカロスに声をかける智樹。

 

「お兄ちゃん達、どこ行くの?」

 

カオスが尋ねた。

 

「学校だよ。夏休みが終わって今日から授業なんだ」

 

そう。今は9月であり学校では2学期となっている。

智樹達の格好もよく見たら学校の制服であった。

 

「始業式に加えて授業って大変だな」

 

そこに秋山もやって来る。

 

「まあそうだけど、色々あるんだよ。俺だって嫌だけどさ……」

「ふぅ〜ん」

「……あ、言っとくけど、三人とも絶対学校に来るなよ」

「はい……」

「うん…」

「ふん」

 

智樹が何故そう言うのかと言うとイカロスがやって来て間もないころにちょっとしたトラブルが起きたからである。

そのトラブルはその日のうちに解決はしたものの平和を好む智樹にとっては迷惑以外何物でもなかった。

 

「秋山、こいつら見張っといて」

「え〜」

「てか、あんたも来ないでくれ」

「……仕方ねえな…」

 

秋山はそうはいっても約束を守る気はあまりなかった。

 

「智ちゃ〜ん、遅刻しちゃうよ〜」

「ああ、今いくよ。じゃあ、行ってくる」

「はい、マスター」

 

智樹はそはらと共に学校へと行った。

 

「……」

 

イカロスは掃除をしながら、智樹達の他に学校に行く生徒達を見ていた。

 

「………イカロスお姉様」

「…」

 

イカロスは黙ってカードを取り出す。

 

「何? 学校行きたいわけ?」

「………(コクッ)」

 

ニンフの質問に黙ってうなづくイカロス。

 

「でも…マスターとの約束が……」

「イカロス、こういう言葉があるのを知ってるか?」

「なんですか?」

「約束は守るためにある。だけど破るためにもある。今は破る時だ」

「ですが……」

 

秋山が変なことを吹き込んだが、イカロスはやはり悩む。

そんなイカロスを見たニンフがいらだつ。

 

「貸して!」

 

ニンフがイカロスのカードを取り上げ、カードを発動させた。

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空見中学の智樹の教室のホームルームであることが起きていた。

 

「え〜、今日はまずは転校生を紹介します。

威伽露主(イカロス)さんとにんふさんと賈哀諏(カオス)さんと秋山総司郎さんです。

皆仲良くするように」

 

イカロス達がやって来たことに智樹とそはらは絶句した。

イカロスとニンフとカオスはご丁寧に空見中学の女子制服を着ていた。(秋山はいつもの黒上着、白シャツ、黒長ズボンであった)

 

「君達の席はあそこね」

 

先生が指定した場所は智樹の後ろの席に並ぶ形であった。

 

(なんでこいつらがここに……)

 

イカロス達は指定された席に座る。

 

「ふぅ」

 

秋山は机の上に行儀悪く足を乗せる。

 

「暑い」

 

イカロスは着ていた上着を脱いで羽を出す。

 

『おおおお!?』

 

智樹とそはら以外の生徒全員が驚きの声を上げる。

しかもニンフも羽のステルス機能を解除して羽を見せたために生徒達はさらに驚きの声を上げた。

 

「もしかしてあの子も……」

「俺はないからな」

 

秋山がぼけてみた。

 

「違う違う、あの子」

 

しかしそんなボケをツッコまれて、生徒達はカオスの方を見る。

 

「あるよ」

 

カオスも背中の羽を出してしまう。

 

『おおおおおおお!?』

 

生徒達はやはり驚きの声しか上がらなかった。

 

「マスター、あの…」

「……」

「何? 桜井君の知り合い?」

「三人ともスゲーかわいい」

「あの子達、羽生えてる」

「桜井君ってそういう趣味なんだ……」

 

ひそひそ話にもならない声の大きさで話す生徒達。

 

「智ちゃん…」

(今騒いだら、俺が未確認生物の関係者だってばれちまう。落ち着くんだ、智樹!)

 

ぶっちゃけた話、もうほぼバレてる。

 

(平和が一番! 平和が一番! ……)

 

智樹はそう自分に言い聞かせたが……。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

イカロス達をつかみ、ひとまず新大陸発見部の部室に連れて行った。

 

「でへぇ……でへぇ……どういうことだ一体…………」

「すみません、マスター」

「学校に来るくらいいいじゃない」

「お兄ちゃんと離れるの嫌だったもん」

「来るだけじゃすまないだろ! 問題起こすだろ!」

「まあまあ桜井君、そんなに怒らないであげて」

「いいじゃないか、毎日の生活に刺激が出来て」

「そうだな、刺激のない生活なんてつまらんだけだ。刺激があってこそ面白いのが人生って奴だ」

「またそんな他人事だと思って!」

「他人事だからな」

「てか、秋山! あんたイカロス達止めてくれって頼んだろ!」

「ああ、あの約束は簡単に破っておいた」

「なんで!?」

「面白くないから」

「何をーーーーーー!!」

 

他人事なので他人事のようにしか言わない守形、美香子、秋山。

 

「へぇ〜、すごい制服の後ろに羽用の袖があるんだ」

「特注と言う奴だ」

「ところで秋山さん、制服は?」

「俺はこのいつもの格好が好きなんでな、着ないことにした。まあ学校で制服着てなくても気にしないように世界に定着させたから問題はない」

「お前ら、少しは話を聞けーーー!」

「ふふふ、話を聞いてくれません」

 

笑う秋山。

 

「それにどうやって転校生なんて…」

「アルファーのカード使って先生の記憶をちょちょっとね」

「そして俺は俺の力でこの世界で俺がこの学校の生徒だってことを定着させた。先生の記憶うんぬんよりもすごいぞ〜」

「なににしろ、恐ろしいことをするなーーーー!! てかあんた何歳だ!?」

「そうだな……、不老になってても……まだ28だ。大学はきちんと卒業してるぞ」

「なんで生徒なんだよ!? せめて先生だろ!」

「いや〜、前にいた世界じゃ臨時教員してたけど、今回は生徒をやろうと思って…」

「歳を考えろ〜〜〜!!」

 

秋山が前にいた世界はこことはよく似た世界。

その世界にいた時の秋山はイカロスとニンフが転校生としてやって来た(カオスはいなかった)時に臨時教員として学校にやって来た。

そしてこの世界では同じ臨時教員ではなく生徒として学校に来たのだ。

 

「少し冷静になれ、智樹」

 

座っていた守形が立ち上がる。

 

「真面目な話、普通の人間生活に慣れさせるのもいいんじゃないか?」

「え?」

「お前いつも、イカロスに人間らしく振舞えって言ってるだろ」

「そうよね〜、ニンフちゃんにカオスちゃんにももっと世間のことを教えてあげなくちゃ」

「!」

 

守形と美香子の言ってることは一理あった。

 

「笑うことも出来ない人形のようなあの姿を何とかしてやりたいと思っているんだろう?」

「………」

「そのためには隔離するより、人と触れさせるのが良いと思うぜ。まあ問題起こす可能性は否めないけどな……」

「…………分かりましたよ。けど、くれぐれも大人しくしてるんだぞ」

「うん♪」

「分かってるわよ、人間(むし)」

「よかったね、イカロスさんもニンフさんもカオスさんも私が色々学校生活を教えてあげるから任せておいてね」

「それはやめといたほうがいいぞ」

「何でですか?」

 

秋山はこの後そはらがどうなるかを知っていた。

 

(カオスはともかくイカロスとニンフじゃ無理だ)

 

「やってみれば分かる」

「?」

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そしてイカロス達は授業を受けることになり、授業を受けた。

1時間目は社会科、内容は地理であった。(ちなみに講義内容はオーストラリア)

そはらは懸命に黒板を書き写し、地図も書いた。地図はお世辞にもうまいとは言えなかった。

 

「(よし)どう? イカロスさん。ノートきっちり取れてる? 良かったら私のノートを参考に……」

 

そはらがイカロスのノートを見てみるとイカロスはきちんとオーストラリアの地図を書いていた。

しかも書いていただけでなく、先生が言った内容よりもさらに詳しく書いていた。

 

「!」

 

イカロスのきれいな絵と字にそはらは絶句した。

 

(あ、あれ? イカロスさん、こんなに字がうまかったっけ?)

 

数か月前のイカロスは字が下手であり、おまけに頭も赤ん坊並みであった。

しかし今のイカロスはそうではなく大人顔負けのものとなっている。

これにはわけがあるのだが、そのわけをきちんと理解しているのニンフとカオスと秋山だけ。

 

(イカロスさんでも黒板をきれいに写すこと出来るよね……)

 

イカロスが前に字が汚かったのはあくまで考えてただけであって、今回のは写すだけなのでイカロスでもきれいに書けたのだとそはらは考えた。

 

(そうだ、ニンフさんとカオスさんの方がこっちの生活が短いんだもん私が色々教えてあげなくっちゃ)

 

そはらがニンフの方を見るとニンフはノートはおろか引き用具も出しておらず、ただ窓から外を眺めていた。

 

「ニンフさん、ノート取れてる? よかったら私のノートを参考に…」

「別にいい」

 

即答で断られるそはら。

 

「…そうだよね……ニンフさん、何見てるの?」

「小鳥」

「小鳥が好きなんだ。じゃあ私名前教えてあげる。あれはね雀って言うだよ。あっちが……」

「ハクセキレイでしょ。メジロにキセキレイにあれは四十雀かな。キジバトにムクドリにヒヨドリもいるわね」

 

ニンフの方が博識だったことに落ち込むそはら。

 

「ほいな、ノート」

「ありがとう、秋山お兄ちゃん」

「!」

 

そはらがカオスの方を見ると、カオスは秋山からノートをもらって秋山のノートを書き写していた。

おまけに秋山のものはイカロスに匹敵するものであった。

 

(カオスさんのこと忘れてた……)

 

秋山に見せ場を取られてますます落ち込むそはら。

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2時間目は家庭科で調理実習であった。

 

(よし、家庭科は私の得意科目だもん。今度こそイカロスさん達にアドバイスして……)

「先生〜、うちの班のイカロスさんとニンフさんがいませ〜ん」

「先生〜、こっちもカオスさんと秋山さんがいません」

「「え!?」」

 

智樹とそはらは驚く。

 

「あいつらどこに………」

 

そんな時であった。学校のガラスを壊し、調理室の前扉を破壊して入って来たイカロスとニンフ。

そして調理室の後扉を破壊して帰って来たカオスと秋山がいた。

おまけにイカロスは牛、ニンフは巨大な魚、カオスと秋山は巨大な鳥を持っていた。

 

「遅くなりました」

「なんで私までこんなこと…」

「すみません、一人では手が足りなかったもので…」

 

ニンフに謝るイカロス。

 

「ねえねえ秋山お兄ちゃん、この鳥どうするの?」

「から揚げにするのさ。血抜きとかはさっきしたろ」

 

そしてイカロス達の調理が始まる。

イカロスは魚をプロ顔負けの刺身にした。

 

「すごい……イカロスさん」

「ちょー、うまそう」

「天才」

 

その傍らには捕まえた鳥でから揚げを揚げていた秋山。

そして羽を使ってそのから揚げをおいしそうに切って、並べるカオス。

 

「こっちのから揚げもすごくうまそう…」

「思わずよだれが……」

「……」

 

三人の料理と自分の作った目玉焼き(失敗)を見て恥ずかしがるそはら。

 

「うーん、おいしい、甘いもの大好き♪」

 

机にあったスイーツケーキのクリームを舐めるニンフ。

 

「こら、ニンフ。まだ食べる時間じゃないぞ」

 

ニンフを叱る智樹。

 

「うるさいわね」

「お前も何か作ってるのか?」

「あれ」

 

ニンフが指差す方には牛の丸焼きが焼かれていた。

それはコンロでやったものではなく焚火で焼かれていた。

 

「おおおおいい!! こんなことしたら……」

 

智樹の心配通り火災警報器が反応し、スプリンクラーが発動した。

 

「やっぱり……」

「♪〜♪〜」

 

そんなことお構いなしに料理を続けていた秋山とカオス。

二人の上にはいつの間にか傘がさされていた。

 

「じゅ、準備よすぎ…」

(こうなるの知ってたからな)

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3時間目は数学であった。

 

「転校生のにんふ君、君の行っていた学校は授業を聞く必要がないくらい進んでいたのかね?」

 

数学の竹原がノートも何も出してないニンフに対して尋ねる。

 

(進んでるのはこいつの頭だな)

「無視……よそ見した罰としてこの問いに答えてみたまえ!」

 

竹原が問題を書いてある黒板を指す。

 

「半径………」

 

ニンフはすらすらと答えを言う。

 

「これ何語? 問題の意味も分からないよ〜」

「まず中学生に出す問題じゃねえよ。先生」

 

秋山が手を上げる。

 

「なんだね、秋山君」

「あんた、ここ進学校にしたいわけ?」

「は?」

「あんたの出してる問題どう考えても大学生がやる問題だよ。それも進学校くらいのな……。

そんじょそこらの公立中学生が解けない問題だすんじゃねえ」

「なんだとーーーー! じゃあ君もこの問題を答えてみたまえ!」

「それは………」

 

秋山もすらすらと問題の答えを言う。

 

「全然わからないよ。イカロスさん、分かる?」

「…」

 

イカロスは黙っていた。

 

「だよね〜」

「そこ!」

 

竹原がそはら達の方を指す。

 

「私語を挟む余裕があるのならこの問いに答えてみろ!」

 

また難しい問題を出す竹原。

 

「ええっと…どうしよう〜」

 

そんな時イカロスが立ち上がる。

 

「お、おい、イカロス」

「なっ!?」

 

秋山はイカロスの目が赤くなったことに気づいた。

 

(そんなんでわざわざウラヌス・クイーンモードになるなよ!)

 

秋山は色んな意味で懸念した。

イカロスの状態が変化したことは秋山だけでなくニンフとカオスも察知していた。

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4時間目は英語であった。

 

「apple」

「apple」

 

カオスがかわいらしく英語で答える。

 

『かっわい〜〜〜』

 

男子だけでなく女子もカオスのかわいらしい発音にメロメロになった。

 

「それじゃあ次は見月さん、apple」

「あっぷぉおおおおお」

 

そはらの発音にイカロス、ニンフ、カオス、秋山以外は全員耳をふさいでいた。

 

「あっぱぁああああ」

 

そはらは数学は仕方ないとして英語の発音だけはかなり駄目であった。

 

「apple」

 

またカオスがアップルと英語で言い、よどんだ空気を消し飛ばし、皆の空気を癒した。

 

「うう……アップル! アップル! アップル!」

 

そはらはやけになってノートを破る。

 

「………」

「ねえ、アルファー、あんたもしかして……」

「?」

 

ニンフに声をかけられて後ろを向くイカロス。

イカロスの目は通常の緑色の状態になっていた。

 

「面白いこと発見しちゃった。わざわざ学校までついてきた甲斐があったわ、ふふふ」

 

不敵に笑うニンフ。

 

「ニンフお姉様」

「ニンフ…」

 

そのニンフを見て懸念を抱くカオスと秋山。

とはいうものの秋山にとっては既に分かりきったことではあった。

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それから昼休みになった。

 

「どうだった? 午前中の授業は…」

 

食堂で守形達に尋ねられる智樹。

 

「散々でしたよ。まあカオスもニンフもイカロスも意外に優等生だったのは驚いたけど…」

「三人とも学校にはなじめたの?」

「少なくとも男子学生には受け入れられたみたいだな、あれを見ろ」

 

守形達がイカロス達を見る。

イカロスは黙々と食事、ニンフとカオスは食堂にあったテレビで昼ドラを見ていた。

そこに男子学生達が集まって騒いでいた。

 

「いつの間に…」

「学校中でもちきりだもの。かわいい転校生が来たって」

「マジっすか?」

 

智樹は微妙に信じられずにいた。

 

「ちょっと、そこの人間(むし)連中! 静かにしてよ! 昼ドラ見てるんだから!」

 

男子学生達がうるさくて怒鳴るニンフ。

 

「これで変な蟲連中もつかないだろ」

 

しかし……。

 

『いい〜〜〜』

「え?」

『もっと叱られた〜い』

 

男子学生達の反応は智樹の予想とは真逆のものだった。

 

「そういえば、見月は?」

「あそこにいますけど…」

 

智樹が指差す方にかなり落ち込んでいたそはらとそはらをなだめていた秋山がいた。

 

「だからやめとけって言ったんだ」

「ほっといてください」

「まさか優等生の三人と比較して落ち込んでるとか〜」

「はうっ!」

「あら、図星?」

「美香子、人が悪いぞ」

「俺は止めたんだけどね〜」

 

秋山はこうなることが目に見えていたのでそはらを止めた。

しかしそはらはその忠告を聞かなかった結果、こうなったのだ。

そんな時チャイムが鳴る。

 

「おっと、午後の授業だ」

「うわぁ〜い♪ 授業、授業♪」

「え〜、まだ授業あるの〜? もう飽きちゃたっな〜」

 

喜ぶカオスと飽きるニンフ。

 

「そうだ、ねえアルファー」

 

ニンフがイカロスに何かを吹き込む。

そしてイカロスは一枚のカードを取り出す。

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5時間目は理科であったが……。

 

「ホンジツハジンリコウシノセンセイニジュギョウヲシテモライタイトオモイマス」

 

理科の先生が突如とそんなことを言いだした。

そして教室に入ってきたのは白衣を着たイカロスであった。

 

「イカロスセンセイデス」

「よろしく」

「!」

 

智樹は絶句した。

 

(よろしくじゃね〜〜〜)

「へぇ〜、白衣似合うじゃない」

「お前の入れ知恵かーーー!」

「イカロスさんならきっと立派な先生になれると思う…。だってすごく優秀なんだもん」

 

そはらはもう現実逃避状態になっていた。

 

「そういう問題じゃない!」

「で、先生今日は何の授業をするんでしょうか?」

 

なんと隣には先輩であるはずの守形が座っていた。

 

「なんであんたがここにいるんだ」

「は〜い」

 

それに加え、イカロスの座ってた席には美香子がいた。

 

「桜井君で人体実験なんてどうでしょうか〜」

「人をおもちゃにすることばっかり考えてるんじゃねー!」

「今日の授業は……」

 

イカロスは黒板に『空の飛び方』と書いた。

 

「では早速誰かに飛んでもらいましょう」

 

イカロスが窓を開けてそう言うと全員の視線が智樹に集中した。

 

「誰かって誰だよ! おい!」

 

智樹は守形と美香子に捕まる。

 

「その手を離せ〜〜〜〜」

 

しかもご丁寧にクラスメイト全員が机やいすをどけて準備万端状態にしていた。

 

「俺が手本を見せてやる」

 

そう言って秋山が窓から出ていく

 

「シュワッ!」

 

秋山は手を伸ばして空を飛んでいく。

 

「さあ!」

「さあじゃねえ! 普通に飛ぶなよ!」

 

秋山は闇の魂の力で普通に空も飛べるのだ。

 

「大丈夫」

「?」

「人には見えないけど、大きな翼があります。その中でもとりわけ、マスターは大きな翼を持っています」

「え?」

「分かるんです、なんとなくだけど、けど分かる」

 

イカロスは智樹に近づいて手を差し伸べ、智樹はその手を取る。

 

「マスターは空に呼ばれている…」

(そうだな……)

 

秋山はイカロスの言葉に納得していた。

そしてクラスメイト全員から桜井コールが流れた。

 

「こんなこともあろうかと使ってくれ、智樹」

「先輩…」

 

守形は鳥に扮した翼とヘルメットを智樹に渡し、智樹はそれらを身に着けた

 

「すっげぇ〜かっけぇ〜」

「飛べるよ、桜井君なら!」

「やってくれ、智樹」

「皆のために!」

『さっくらい! さっくらい!』

 

皆から励ましのコールをもらう。

 

「お兄ちゃん、頑張って!」

「ありがとう、カオス」

 

智樹は窓の上に立つ。

 

(皆、覚えていて欲しい)

 

智樹が後ろを向くとほぼ全員が智樹に対して敬礼をしていた。

 

「さあ飛ぶのだ! 桜井智樹!」

 

空で飛んで待っている秋山が叫ぶ。

 

「(信じれば誰だってあの大きな空を飛べるってことを……)

桜井智樹、行きます!」

 

智樹は窓から飛び降りて飛んでいく。

 

「おおおお!」

 

しかし飛んだのはいいものの案の定すぐに地面に落ちて行った。

 

「全員敬礼!」

 

秋山が敬礼を命じ、全員が落ちて行った智樹に対してまた敬礼した。

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そして学校が終わり、智樹は大怪我をしながらも何とか家に帰っていた。

 

「すみませんでした、マスター」

「よかったじゃない、その程度の怪我で済んで」

「もう怒る気にもならん…」

「本当に……よかった…」

 

カオスが思わず泣きそうになる。

 

「カオス……ありがとな、心配してくれて…」

「もう二度と学校には行きません」

「…」

 

イカロスはとても悲しそうな顔をしていた。

 

「そのことなんだけど、行けばいいんじゃないのか」

「「「!!!」」」

「いいから三人とも明日も学校に行きなさい。分かったな、そういうこと!」

 

智樹はそのまま寝ることにした。

そして翌日、イカロス達は智樹達と一緒に学校に行った。

すると校門前で女子生徒達がイカロス達に声をかけてきた。

 

「よかったね、智ちゃん、三人ともすぐに友達出来そうだよ」

「ああ」

 

智樹達が教室に向かう途中飼育小屋から小鳥の声が聞こえたのでニンフが飼育小屋に行ってみる。

 

「飼育小屋が珍しいのか?」

「ニンフさんって小鳥が大好きなんだよ」

(好きと言うかなんというか……トラウマ……と言うのか……)

(ニンフお姉様…)

 

秋山はニンフがどんな目に遭ってきたのかを知っているのでニンフが小鳥を眺めるわけも知っていた。

カオスも後で聞いた話として知っている。

ニンフは飼育小屋の扉を開け、小鳥は開いた扉から外に出て行った。

 

「お前なんてことを!」

 

智樹がニンフを叱ろうとしたが、ニンフの顔はいつもと違って悲しそうであった。

 

「いいでしょ、別に…」

 

ニンフの悲しそうな顔を見たために智樹は叱れなかった。

 

「ニンフ…」

「ニンフ、一ついいか」

 

ニンフの傍に秋山が近づく。

 

「何よ?」

「これだけは言っておく。あいつは逃げたかどうかは俺には分からんが、もしも心の奥底からまた戻りたいと言う意思があるんだったらあの鳥はまたあの小屋に戻って来る。

そのことは心に刻んでおきな」

「ふん」

 

ニンフはそのまま立ち去った。

全員で下駄箱から上履きを取り出して、履き替えようとする。

イカロスとニンフとカオスが下駄箱の戸を開けた時、その場から大量の手紙が流れ出る。

 

「うわっ」

「すごい量」

「これはなんですか? マスター」

「ラブレターだよ、ラブレター」

「ラブレター?」

「何なのよこれ」

 

ニンフが自分に送られたラブレターをすべてゴミ箱に捨てようとする。

 

「やめんかーーーー! お前な、これを書いたやつの気持ちも少しは考えってやれ」

 

智樹がニンフの暴挙を止める。

 

「だって興味ないもの」

(そうだよな〜。お前の興味はそのうち智樹に……)

「いいから少しは読んでやれ。せめて持って帰って…」

「うるさいわね」

 

イカロス達にラブレターが届いたことを守形達に教えた。

 

「ラブレター?」

「そう、こんなにたくさん」

「しかしラブレターなんてもらってもイカロスは恋愛感情なんて理解できるのか?」

「分からないから図書館にこもって1通ずつ丁寧に読んでみるって言ってました」

「あら、えらいじゃない、会長なら全校生徒の前で読み上げちゃうわ〜」

「し、しかし…世の中には物好きもいるな〜。羽生えてるんだぞ、羽」

「でもイカロスさんは美人で料理も上手だし、ニンフさんもキュートでかわいらしいし、カオスさんも小さくて子供っぽいかわいさがあるし…」

「そりゃそうかもしれんが…」

「智ちゃんはどうなの?」

「え?」

 

そはらの質問に智樹は何のことかイマイチ分からなかった。

 

「イカロスさんとずっと一緒に住んでて、かわいいな〜とかそういう風に思ったことないの?」

「「…………」」

「はあ? 何言ってんだ、お前。ばぁ〜かか? お前」

 

智樹の言葉にそはらがチョップをくらわせる。

 

「バカは余計だと思うけど」

「はい、すみません」

「でもそっか、智ちゃん、イカロスさんのことなんとも思ってないんだ」

「思ってないに決まってるだろ! ありえないっつの!」

「そっか」

 

智樹の言葉に喜びを見せるそはら。

 

「やれやれだな」

「桜井君も罪よね〜」

「俺はただ…あいつらがさ……普通の女の子みたいに普通の生活をしているのを見てるのが嬉しいっつうかなんつうか…。

このまま少しは人間らしくイカロスが笑えるようになると良いんだけどな……」

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イカロス達は図書室にこもって既に夕方になっていた。

イカロス、ニンフ、カオスだけでなく秋山も一緒に居た。しかも漫画を読んでいる。

 

「愛してるだの、好きだの、地蟲(ダウナー)って本当にくだらないわね」

「くだらないのが生き物だ。そんなもんお前達のマスターだって同じだろ。俺から見たらくだらん。普通の人間以上に下らん。

ましてや世界の征服だの、人類の皆殺しとか考えてる奴は特にな」

「じゃああんたはどうなのよ?」

「俺もくだらん存在だ。俺は征服とか皆殺しには一切興味ないけどな」

「どうして?」

「そんなことしたって、結果的につまらんことを知ってるからだ。

仮に征服したとしても征服した下の存在が皆死んじまえば支配した奴しか残らん。

それじゃあ普通につまらんだろ。それに一人じゃ生きることさえできん。

まあ俺は一人でも生き残れちまう体ではあるけど、たまに恨めしたく思うぜ」

「秋山お兄ちゃんも大変だね」

「まああくまでたまにだ。大半はこの体になったことには感謝してる」

「………」

 

ニンフはイカロスの方を見る。

 

「そんな緑色の瞳のままじゃ、愛なんて言葉到底理解できないんじゃない?」

「………え?」

「ニンフお姉様?」

「私が教えてあげましょうか。ちょうどいいわ、今なら私達以外誰もいない。あんた、私を止める気ないでしょ?」

「ああ、ないよ」

 

秋山は漫画を読みながら余裕の表情で答える。

 

「秋山お兄ちゃん」

「カオス、今は黙って見てろ」

「私、ずっと側であなたを見てたの、ずっとね…」

 

ニンフはイカロスの頭をつかむ。

 

「スキャン開始」

 

するとニンフの手が光りだす。

 

「機能プロテクト99%施錠、可変ウイングプロテクト72%施錠、記憶(メモリー)プロテクト100%施錠、思考(エモーショナル)プロテクト100%」

「え? イカロスお姉様、そんなにプロテクトが……」

「そこまでのことだってことだ」

「ほらやっぱり、能力はメモリーだけなく、感情までプロテクトがかけられてるなんてお笑いだわ」

「じゃあ笑うか?」

(なに?)

「まるで人形ね、ウラヌス・クイーンと恐れられ、シナプスを震撼させた貴様が!」

 

ニンフはそのままイカロスの顔を潰そうと力を籠めようとする。

 

「ニンフお姉様! ダメ!」

 

カオスがニンフの手をつかむ。

 

「離しなさい! カオス!」

「ダメ! ニンフお姉様! イカロスお姉様にひどいことしないで!」

「何を言って……」

「やめておいた方が今は良いと思うぞ」

 

まだ漫画を読みながら他人事のように話す秋山。

 

「なんでよ!?」

「聞こえないのか?」

「……! 誰か来る!」

 

ニンフはすぐにイカロスから手を離した。

すると図書室の扉が開き、そこから守形がやって来る。

 

「邪魔したか」

「なんのことかしら?」

 

守形はそのまま本棚に向かった。

 

「アルファーったら、愛も恋も分からないくせにラブレター読んでるのよ。ばかばかしいでしょ?」

「ああ、どうやら、感情が制限されてるらしいからな。

しかし同じエンジェロイドでもお前とカオスは違う。

まるで別の目的があって地上に送り込まれたかのように見えるが…」

「……何が言いたいの?」

「自分で考えろってことだろ」

 

秋山がニンフの後ろに立つ。

 

「あんたいつの間に…」

(安心しろ、さっきのこと言うつもりも伝えるつもりもない)

(傍観者気取りかしら?)

(俺は本来異世界では傍観者でなければならないからな。下手な干渉はご法度なんだよ)

(………)

 

イカロスはラブレターを見つめていた。

 

「どうしたの? イカロスお姉様」

「カオス……この言葉……」

 

イカロスがラブレターに書かれた『愛』と言う言葉を指差す。

 

「『愛』?」

「そう。意味は分からないの、何故か気になるの。どうして……?」

「……う〜ん……」

 

カオスも意味が分かっていなかった。

 

「愛してる……」

 

イカロスの目が一瞬だけだが赤くなる。

 

(ウラヌス・クイーンモード!?)

 

カオスは一瞬驚いたが、イカロスの目が元の緑色に戻る。

 

「どうしてかな…カオス」

「……私も……知りたい…」

(……マスター………)

説明
この話はアニメ『そらのおとしもの』の話を基に「もしもニンフよりも先にカオスが来ていたら」を考えたものとしています。
しかしカオスの性格は作者解釈により原作やアニメとは少し違う性格となっている部分が見られます。そのことをご了承ください。
また作者(BLACK)の分身のオリジナルキャラ(秋山総司郎)も出てきます。
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コメント
秋山さんが28だったとは、それが一番重要だっ!(枡久野恭(ますくのきょー))
秋山氏にウルトラの人属性があったとは驚きですw (tk)
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そらのおとしもの 桜井智樹 見月そはら イカロス ニンフ カオス 秋山総司郎 

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