社会見学?
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社会見学?

 

 

 リンは最終確認に余念が無い妹を眺めていた。

 そわそわと落ち着かない様子でルカは玄関と時計に目をやると、また鏡に目を戻す。

 その姿は普段と少し違っていた。

 別に服装が違うというわけではない。普段からきちんとした格好をしているルカが綺麗なのは変わらないが、今日はどこかそれにも増して華やかにリンの目に映った。

 例えば、いつもよりも念入りに梳かされ整えられた髪。いつもと違う色の口紅。

 リンの前でルカはせっかくのきれいな顔を難しくして鏡を覗き込んで前髪を触れて首を傾げているとチャイムの音と応対する兄のカイトの声が聞こえた。

 自分を呼ぶ兄の声に慌てた様子でルカはリビングにとって返して置いてあった鞄を掴むと玄関に急いだ。

 

 

 

 「……お待たせしてすみませんっ」

 「……いや、構わない」

 がくぽがカイトと話をしているとそう待たない内にルカが奥から姿を現した。

 そのルカの姿は正しく咲き匂う花のようにがくぽの目に映る。

 眩しそうにがくぽは目を細めてルカを見つめると恥ずかしそうに俯く彼女にいっそうの愛しさを抱きがくぽはルカに手を伸ばす。

 「……うぉっほん! それじゃ……がくぽ、頼んだよ」

 わざとらしく咳払いをしてカイトは家の中に消えた。

 まいったと言わんばかりに息をつくとがくぽはルカに笑いかけて細い肩を抱き促した。

 

 

 

 遠ざかっていく二人の背中を見ていたリンがおもむろに携帯を取り出してかけると相手はコール一回で出た。

 「……もしもし」

 「準備はOKだよ!」

 後ろを顧みれば携帯を手にしたグミが立っていた。

 互いに携帯を耳に当てたまま目を合わせる。グミもリンもいつになく真剣な目をしていた。

 頷きあった二人はそのまま足早に去っていった。

 

 

 

 

 グミとリンの姿は映画館の入り口がよく見えて、映画館からは見えない位置にあるショッピングビルの一角にあった。

 真剣な表情をしたグミとリンは映画館の入り口を注視していた。

 「そろそろ出てくると思うけど……」

 時計に目をやったリンが呟くとグミが声を上げた。

 「あっ出てきた!」

 慌ててリンが顔を上げて目を凝らす。

 紫色の髪を頭頂で結った男性に桜色の髪をした女性が話しかけると男性が柔らかく微笑み、女性の肩を抱くと歩き出した。

 見ているこっちが胸焼けしそうに甘い光景にグミとリンは目を見合わせて笑みを浮かべる。

 「……グミさん!!」

 「……リンちゃん!!」

 がしっと手を握り合う。

 これだよ! わたしたちが見たかった『大人なデート』だよ!

 うんうんと頷いてグミとリンは抱き合う。

 他人の恋愛、特に自分たちでは到底出来ない『大人なデート』にグミとリンは興味があった。

 そして、出来るならそのデートを目にしたいとも思っていたのだ。

 周囲の大人たちで独り身のキヨテルを除外すると、カイトとメイコ、がくぽとルカとなる。

 そしてカイトとメイコは二人で出掛けることは滅多に無く、出掛けたとしても二人の望むモノとは食い違っている。

 そうなると、必然的にがくぽとルカの二人に絞られる。

 漸く、二人の休みが合い、なおかつ、がくぽとルカが休みで、デートするという条件をクリアした今日という日をグミとリンは念入りに下調べをして迎えたのだ。

 初デートの時から甘いモノを漂わせていた二人だ。

 今ではもっと、ステキな『大人なデート』をしているのだろうとグミとリンは期待に胸を膨らましていた。

 「……あっ。行っちゃう!?」

 「リンちゃん、行こう!」

 興奮してはしゃいでいたリンの目が遠ざかっていくがくぽとルカの背を捉えた。

 慌てたグミとリンは遠ざかる二人を追いショッピングビルを飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 見知った二人の後ろ姿に嫌な予感と既視感を覚えたミクはそれでも声をかけるか、かけないかで逡巡しながらも二人に近づいた。

 「……っぐぅぅ〜。何故だ、何故なんだ! がっくん!?」

 「むー。おっかしいなー?」

 聞こえた言葉にミクは声をかけるのを止めて通りすぎようとした。

 「あっ……ミク姉!」

 目ざとくミクの姿を見つけたリンに呼び止められた。

 一瞬、足を止めたミクにグミが駆け寄り無邪気に話しかける。

 「お仕事、お疲れ様です、ミクさん。お買い物ですか?」

 曖昧に頷いたミクは口を開いた。

 「……それで、二人は、何をしてるの?」

 あっと顔を見合わせたグミとリンは明るい笑顔を浮かべた。

 「んっと……社会見学?」

 「ああっ! それです!」

 「………………」

 無言のミクにグミとリンの笑顔はだんだん消えて気まずそうに俯く。

 「だって……見たかったんだもん」

 「……ごめんなさい」

 膨れて唇を尖らすリンと指を絡ませて謝るグミにミクは深く溜息を吐いた。

 「……あのね……」

 何事かを言わなくてはと脱力しそうになりながらもミクが口を開く前にリンが口を開いた。

 「あー! まただ!?」

 後ろを指さすリンに釣られてミクが首を巡らせる。

 

 

 

 ミクが見ている前でルカが隣を歩くがくぽにそっと手を伸ばすがルカの手が触れる前にがくぽが身を引く。

 ルカの白く華奢な手が伸ばされたまま残り、しばらくしてぎゅっと手のひらを握り込むとルカはがくぽに遅れないように足を速めた。

 ミクからはルカの表情は見えない。

 それでもルカがどんな表情をしているかミクは見ているように分かる。

 ふつふつと怒りがこみ上げてきてミクはがくぽの背を睨む付ける。

 「……何、あれ?」

 「……途中から急にお兄ちゃんがルカさんから手を離してしまって……ルカさんが手を伸ばしてきても、あんな感じなんです」

 ミクの迫力にグミが恐る恐る説明をするとリンが激しく頷き続けた。

 「だから、気になっちゃって……」

 剣呑に目を細めるミクの足は遠ざかっていくがくぽとルカの後を追うのを見たグミとリンも追跡を続行した。

 

 

 

 

 隣を歩くルカが不安そうに伸ばしてくる手が己の手に触れる前にがくぽはさりげなく躱す。

 気付かない振りで歩くがくぽは背後を探る。

 己の背をルカの不安の色を濃く宿した瞳が見つめているさらに後ろ……。

 深く溜息を吐くがくぽに遅れていたルカが慌てて並ぶ。

 自然にルカの肩を抱きそうになるのを堪えるがくぽはどうしたものかと考えていた。

 気付かれていないつもりのようだが映画館を出た辺りから尾行している二人、さりげなく後ろを確認すると、尾行者はグミとリンに途中からミクが増えて付いて来ている。

 懲りないな。

 これまでも度々グミとリンが出掛けるがくぽとルカの後を追ってきているのにがくぽは気付く度に巻いていたのだ。

 粘り強いと言えばいいのか、執念深いと言うのか……。

 今までは見て見ぬ振りをしていたがくぽだが、そろそろグミとリンの尾行が目に余りだしていた。

 やはり、はっきり叱るべきだろうが、それは今ではない。

 ちらりと隣のルカに目を向ける。

 

 

 

 いつもと違う態度を取り続けるがくぽにルカは困惑していた。

 がくぽはルカにとても優しい、甘いと言っても良い程に接してくる。初めはそのがくぽの向けてくる優しさに困惑していたルカだが、次第にそれを自然に受け入れ、甘えていた。

 それが重荷になってしまったのしょうか……。

 つきりと痛む胸と勝手に滲む視界にルカは息苦しさを覚えて足を止めた。

 それが原因なら……どうすれば……。

 

 

 

 

 「ルカ?」

 立ち止まり俯いてしまったルカの肩が微かに震えている。

 それを見たがくぽは慌ててルカの肩を抱き、端に寄る。

 そっとルカの頬を包みこみ視線を合わせると滲んだ空色ががくぽに向けられる。

 「……ごめんなさい」

 「何故謝る?」

 ぴくりと震えるルカの肩を優しく撫で、がくぽは続きを促す。

 つっかえながらも震える声で話すルカの手ががくぽの服を掴む。

 「わたくしが……ご迷惑ばかり、かけて……だからっ……っ……」

 続きを言う事を出来ずにただ、肩を震わせて服を掴んでくるルカの姿にがくぽは内心己を責めた。

 何をどう言おうともルカを不安にさせて、ここまで追い詰めたのは己自身だと。

 「いや、悪いのは我が方だ……すまなんだ。ルカ……」

 震える俯いている彼女の顎を持ち上げて、その唇に己のそれを重ねる。

 突然のがくぽの行為に目を瞠っていたルカの瞳が閉ざされて服を掴んでいた手がゆるゆるとがくぽの背に回る。

 「……んっ、んん……」

 がくぽが口付けを深くするとルカが小さく声を漏らす。

 きゅっと己に縋るルカにいっそうの愛おしさ覚えてがくぽはさらに角度を変えて深く唇を重ねる。

 「……ルカ」

 吐息がかかる程に近い距離でがくぽはルカに囁く。

 「我が気持ちを疑われるとは……少々、辛いな」

 「そ、それは……」

 視線を彷徨わせるルカの唇に指を這わせてがくぽはくすりと笑った。

 「ならば、我が如何にルカを愛して、好いているかを身を持って教えてくれよう」

 意味を掴めずに瞬いていたルカの顔に理解が広がると顔を伏せてしまう。

 それでもがくぽの目に映るルカの耳は朱を帯びていて、そのルカの手ががくぽから離れることは無い。

 その仕草にがくぽはルカへの尽きることのない愛しさがよりいっそう込み上げてくる。

 優しくルカを見つめていたがくぽは一転して鋭い眼差しを背後に注ぐ。

 

 

 

 

 「うわっ!?」

 「あー……バレちゃった」

 道の端に寄ったがくぽがルカと話していたと思ったら突然ルカを抱き寄せて口付ける光景をどきどきしながら見ていたグミとリンは向けられた鋭い眼差しに首を竦めて空を仰ぐ、火照った顔に吹く風が気持ちが良い。

 仰ぎ見た空の青さに目を細めてミクは暗く凝るモノを押し流すように深く息を吐く。

 「ほら……帰ろ?」

 「はーい」

 「ま、見つかっちゃたしね。……もう出来ないね」

 残念そうに肩を落とすリンの肩をグミが宥めるように叩く。

 歩き出したミクの背後でグミとリンが楽しそうに今日のデートを振り返って盛り上がっている。

 「やっぱり、やっぱり! ……ああだよね!」

 「うんうん! どうなるか不安だったけど……」

 

 

説明
初デート編に続きデートを見学するグミリン+ミク。
初デートの時から比べるとがくルカの糖度が増しています。
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