俺の妹がこんなに可愛いわけがない外伝 魔法少女日向
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俺の妹がこんなに可愛いわけがない 魔法少女日向

 

魔法少女日向  漆黒復活

 

 あたしの名は魔法少女日向。

 契約はしていないけれど、何となく魔法少女になった小学5年生の少女。

 今日も地球の平和を守る為に悪い奴らと戦っている。

 

 そして今日、あたしの前に最強の敵が出現した。

 そいつの名はクイーン・オブ・ナイトメア。

 大昔の魔法少女によって封印されていたというそいつは、ルリ姉の身体をよりしろにして復活を果たした。

 ルリ姉は普段から邪気眼厨二な毒電波を振りまいていた。

 けれど、その身体に本当の邪気眼電波女が封じ込められていたとは思いもしなかった。

 ルリ姉がクイーン・オブ・ナイトメアと化してしまったことは大問題だった。

 今日の夕飯を作ってくれる人がいなくなってしまう。

 あたし、普段はルリ姉に頼りっ放しだから家事が大の苦手なのにぃ。

 そして問題はそれだけじゃなかった。

 女王は自身の最強のライバルである漆黒を部下としてこの世に降臨させようと企んだのだ。

 そして漆黒の魂が眠っている身体の持ち主こそが、高坂京介くんだった。

 

「ぐぁあああああああああぁっ!」

 女王に得体の知らない紫色の光線を浴びせられ苦しむ高坂くん。

「フフフ。もうすぐこの浅ましい雄の全てが漆黒にとって替わられるのよ」

 女王に乗っ取られたルリ姉はそんな高坂くんを見ながら笑っていた。

 言動だけ見ていると女王とルリ姉には全く差がないのだけれど。

「ルリ姉っ! 高坂くんにこれ以上酷いことをしないでっ!」

 高坂くんはあたしにとって友達以上恋人未満の存在。

 具体的に言えば、高坂くんはあたしの将来の義理の兄になるかもしれない人。

 ううん、そんな未来をあたしは認めない。

 高坂くんは将来あたしのお婿さんになる人。

 あたしはルリ姉をはじめとする並みいるライバルを蹴散らして妻の座を掴んでみせる。

 そんな大事な人の危機を黙って見過ごせる筈がなかった。

「ティロ・フィナーレ(物理)っ!」

 偉大なる魔法少女の先輩の必殺技を模倣して、魔法のステッキで思いっきりルリ姉の頭を叩く。

「痛ったいっ!?」

 魔法の力は偉大だった。

「コブになったらどうしてくれるのよっ?」

 女王が涙目になりながらあたしを睨む。

 闇の眷属の女王といえども、魔法少女の全力の一撃は痛かったようだった。

「これが正義の魔法よっ!」

 魔法のステッキで肩をポンポンと叩きながらドヤ顔をして女王を見る。

「でも、攻撃が遅かったようね。漆黒の復活は既に始まり始めたわ」

「えっ?」

 ニヤリと笑う女王を見て、慌てて視線を高坂くんへと移す。

 すると、高坂くんはルリ姉の部屋の中で宙に浮いていた。

 仰向けの姿勢で、股間の部分を中心に身体を『へ』の字に曲げながら。

「ええっ?」

 それは奇妙な光景だった。

 

『クックック。我を解き放つとは人間とはつくづく愚かな生き物だな』

 

「股間が喋ってるっ!?」

 そうとしか表現しようがなかった。

 空に向かって浮かんでいる高坂くんの股間があたしに語り掛けていた。

「フフフ。どうやら覚醒したのは漆黒のまだ一部のようね。でも、時が経てば漆黒は完全にその男を乗っ取るわ。今の私のように」

「ルリ姉の場合、おかしな魔法を使えるようになった以外何も変わってないけどね」

 だけどルリ姉はともかく、あたしの高坂くんが漆黒に乗っ取られては大変だった。

 将来の夫の中身が違うのでは困る。

「どうすればもう1度漆黒を封印できるのぉっ?」

 股間改め漆黒をキッと睨む。

 すると漆黒は意外にもあっさりとその方法を答えてみせた。

 

『何、容易いことだ。我が本体、荒れ狂うリヴァイアサンを鎮めてみせれば良い。貴様の女を用いてな』

 

「女を用いて高坂くんのリヴァイアサンを鎮めるっ!?」

 漆黒の言葉が全然理解できないほどにはあたしは子供ではなかった。

 この間、学校で女子だけが集まって性の仕組みに関する話を聞いた。

 そしてルリ姉は大量の同人誌を保有しており、その中には子供が見ちゃいけないものもたくさん含まれている。それを盗み読んだこともある。

 だから漆黒が何を言いたいのかは何となくわかってしまう。

「そ、そんなこと、できるわけがないでしょっ! あたしまだ小学生なんだからっ!」

 赤面しながら叫ぶ。

 

『クックック。そうであろう。荒れ狂う我を鎮めるなど小童の貴様には不可能なこと。万一できたとしても、この男は犯罪者として残りの人生を牢獄で過ごすことになる』

 

「卑怯よ、漆黒っ!」

 漆黒を睨みつけるけれど事態は一向に良くならない。それどころか、高坂くんの漆黒化はどんどん進行してしまう。

 絶体絶命のピンチだった。

 

「助けに来たわよ、日向ちゃんッ!」

 だけど、そんな八方塞の状況を変えるべく、1人の少女が助けに来てくれた。

「魔法少女ビッチさんっ!        チッ。あたしが身を捧げて高坂くんを救い、責任取って婚約してもらおうと思ったのに。邪魔しないで欲しいなあ」

 ビッチさんは高坂くんの妹で、つまり将来のあたしの義理の妹に当たる中学生。

 そして、あたしと同じ魔法少女でもあった。

「漆黒の封印は妹であるアタシが施すわ。嫌で嫌で仕方がないけれど。でっへっへっへ」

「ビッチさん、涎垂れすぎ」

 ビッチさんの瞳は野獣のように爛々と輝き、口からは涎が垂れっ放し。漆黒を狙っているのは間違いなかった。即ち、高坂くんの貞操を。

 

『お前と京介は兄妹ではないのかっ!? 貴様にモラルはないのかっ!?』

 

 ビッチさんのケダモノな勢いを見て漆黒の方がビビッていた。

「はぁっ? この一大事に兄とか妹とか、そんなこと些細なことに構ってられないでしょうが。アタシだって嫌で嫌でしょうがないけれど、アンタを仕方なく封じようとしているのよ。ぐっげっへっへっへっへ。さあ、アタシに全てを委ねて、ついでに責任も取るのよ。げっへっへっへっへ」

 絶対嘘だと思う。

 高坂くんの貞操がビッチさんの登場により大ピンチに陥った。

 

「桐乃、兄妹で破廉恥なんて間違っているわ。封印するならこのわたしに任せてっ!」

「クッ、あやせ?」

「魔法少女あやせちゃんっ!」

 漆黒とビッチさんの間に割り込んできたのはあやせちゃんだった。

 あやせちゃんはビッチさんのクラスメイトでルリ姉の恋敵でもある。

「兄妹でなんてインモラルな真似はわたしがさせない。勿論小学生の日向ちゃんにも指1本触れさせない。だからわたしがやるの。ハァハァ。嫌で嫌で仕方がないけれどわたしがやるの。ハァハァ。そして漆黒が二度と復活できないように去勢してわたしが預かるの。ハァハァハァハァ」

「あやせちゃんも涎出てるよ。それから瞳怖すぎ」

 そして、重度のヤンデレでもあった。

 

『この女、我を本気で去勢するつもりだなっ!? 貴様にモラルはないのかっ!?』

 

 あやせちゃんのケダモノな勢いを見て漆黒の方がビビッていた。

「だって、切ってしまえばお兄さんが他の女と関係を結ぶことは不可能ですから。じゃなくて、漆黒の永久封印は正義の為に仕方がないことなんです」

 絶対嘘だと思う。

 高坂くんの今後の男としての人生があやせちゃんの登場により大ピンチに陥った。

 

「タクっよぉ。オメェらはこんな死に損ない1匹片付けられないのかよ? ここは一つ魔法少女カナカナさまが魔法の力を使ってだな……グヘッ!? うわらばぁああああぁ!?」

 一瞬、魔法少女カナカナちゃんの幻影が見えた気がしたけれど、錯覚だったみたい。

 あたしのティロ・フィナーレ(物理)とビッチさんのドロップキック、あやせちゃんの上段回し蹴りが何かに当たったような気がした。けれど、やっぱり気のせいだった。

 

『お前ら、今仲間を吹き飛ばしただろ? 貴様らにモラルはないのか?』

 

 カナカナちゃんなんか最初からいなかった。

 こんな理想的状況を魔法で解決しようだなんてとんでもない。

 睨み合うあたしたち3人。

 

「まったく、見てられないわね。小学生や中学生の子供が何を色気づいているのだか? 漆黒を封印するのは京介の未来の妻であるこの私に決まっているでしょ」

 そう言って漆黒の前に立ったのはルリ姉、もとい女王だった。

 

『ちょっと待て? 我を眠りより呼び覚ましたのは貴様であろう!? 貴様にモラルはないのか?』

 

 女王の電波過ぎる言動を見て漆黒の方がビビッていた。

「そんな些細なことよりも、先輩をあの発情したいやらしいメス猫たちに奪われる方が癪よ。先輩の浅ましい雄は須らく私だけのものなのよ」

 やっぱり以前から女王とルリ姉は融合を果たしていたらしい。発言に何の変化もない。

「ちょっと、黒いの! アンタの好きにはさせないわよ!」

「そうです! お兄さんはこのわたしが身を犠牲にして救ってあげるんです!」

「受けてやろうじゃないの、淫乱泥棒猫風情が!」

 女王とビッチさんとあやせちゃんは取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 高坂くんを賭けたこの戦いにあたしも指を咥えて見ているわけにもいかない。

 あたしも参戦を決意したその時だった。

 

「おにぃちゃん、いい子いい子ですぅ」

 妹の珠希が高坂くんの後頭部を撫でていた。

 

『フム。女の手により荒ぶっていた我が本体、リヴァイアサンは完全に沈静化させられた。我は再び永い眠りにつこう。こんなインモラル女たちに囲まれていたのでは俺が腐る。だが、次に我が復活を果たした時こそ人類は最期だということを忘れるな。ハッハッハッハ』

 

 こうして漆黒は再び封印された。

 小学校に入ったばかりの幼い妹の純真な心により地球は救われた。   チッ。

「姉さま、今日の夕ご飯は何ですか?」

「もう6時なのね? 急いで買い物に行かないと。珠希は何か食べたいものある?」

「珠希は姉さまが作ったハンバーグが食べたいです」

「じゃあ、スーパーまで一緒に行く?」

「はいっ」

 そしてクイーン・オブ・ナイトメアは地球を救った少女と共に去っていった。

 やっぱり、女王とルリ姉は何も変わる所がなかった。

 だが、問題が全て片付いたわけじゃなかった。

「まだコイツが目を覚まさないわ。もしかすると漆黒の邪気がまだ体内に残っているのかもしれない。ここはアタシが邪気を吸い取ってやらないとダメみたいね。嫌で嫌で仕方がないけれど」

 桐乃が漆黒が封印されている箇所をジッと見る。

「桐乃にはそんな変態ことをさせられない。ここはわたしが自分の身を犠牲にするから。そして、去勢するから」

「2人に任せたら目が覚めた高坂くんが人生に悲観して自殺しかねないよ。だからここはあたしがやるの」

「「「勝負っ!」」」

 後に残ったのは3人の魔法少女による骨肉の争い。

 本気魔法バトルは高坂くんが目を覚ますまで続いた。

 

 今日もこの街は平和だった。

 

 

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魔法少女日向  腐獣降臨

 

 あたしの名は魔法少女日向。

 契約はしていないけれど、何となく魔法少女になった小学5年生の少女。

 今日も地球の平和を守る為に悪い奴らと戦っている。

 

 そして今日、あたしの前に強大な敵が出現した。

 そいつの名はモーホ・ダイスーキ。

 大昔の魔法少女によって封印されていたというそいつは、赤城瀬菜ちゃんの身体をよりしろにして復活を果たした。

 ルリ姉の部活仲間の瀬菜ちゃんは普段から腐った毒電波を振りまいていた。

 けれど、その身体に本当の腐女子電波女が封じ込められていたとは思いもしなかった。

 瀬菜ちゃんがモーホ・ダイスーキと化してしまったことは大問題だった。

 ルリ姉の学校での友達がいなくなってしまう。

 ルリ姉は学校で寂しいとあたしに毒電波話を盛んに垂れ流してくるので被害は甚大。

 そして問題はそれだけじゃなかった。

 モーホは自身の最高の妄想対象漆黒を部下としてこの世に降臨させようと企んだのだ。

 そして、漆黒の魂が眠っている身体の持ち主こそが、高坂京介くんだった。

 

「ぐぁあああああああああぁっ!」

 モーホに得体の知らないバラ色の光線を浴びせられ苦しむ高坂くん。

「フフフ。もうすぐこの浅ましい雄の全てが腐獣漆黒にとって替わられるんです!」

 モーホに乗っ取られた瀬菜ちゃんはそんな高坂くんを見ながら笑っていた。

 言動だけ見ていると瀬菜ちゃんとモーホには全く差がないのだけれど。

「瀬菜ちゃんっ! 高坂くんにこれ以上酷いことをしないでっ!」

 高坂くんはあたしにとって友達以上恋人未満の存在。

 具体的に言えば、高坂くんはあたしの将来の義理の兄になるかもしれない人。

 ううん、そんな未来をあたしは認めない。

 高坂くんは将来あたしのお婿さんになる人。

 あたしはルリ姉をはじめとする並みいるライバルを蹴散らして妻の座を掴んでみせる。

 そんな大事な人の危機を黙って見過ごせる筈がなかった。

「ティロ・フィナーレ(物理)っ!」

 偉大なる魔法少女の先輩の必殺技を模倣して、魔法のステッキで思いっきり瀬菜ちゃんの頭を叩く。

「痛ったぁっ!?」

 魔法の力は偉大だった。

「コブになったらどうしてくれるんですかぁっ?」

 モーホが涙目になりながらあたしを睨む。

 腐の眷属の女帝といえども、魔法少女の全力の一撃は痛かったようだった。

「これが正義の魔法よっ!」

 魔法のステッキで肩をポンポンと叩きながらドヤ顔をしてモーホを見る。

「でも、攻撃が遅かったようね。腐獣漆黒の復活は既に始まり始めたわ」

「えっ?」

 ニヤリと笑うモーホを見て、慌てて視線を高坂くんへと移す。

 すると、高坂くんはゲーム研究会の部室の中で宙に浮いていた。

 仰向けの姿勢で、股間の部分を中心に身体を『へ』の字に曲げながら。

「ええっ?」

 それは奇妙な光景だった。

 

『クックック。腐獣漆黒、ここに完全復活ッ!』

 

 手をワキワキさせる高坂くん。

 どうやら完全に漆黒に身体を乗っ取られてしまったみたい。

 一体、どうしたら良いの?

 

『さて、せっかくの目覚めの祝いだ。お前の慟哭、喰らわせてもらうぞ』

 

 あたしが考えられないでいる内に漆黒は部室の隅で震えている真壁くんに目を付けた。

 そして──

「嫌ぁあああああぁっ! 助けてぇええええええええぇっ!」

「子供は見ちゃいけません」

 あたしはモーホによって目を塞がれてしまった。

 あたしが目を塞がれている間、真壁くんから悲鳴が絶えることはなかった。

 何が起きているのか少しもわからない。想像もできない。

 だって小学生だし。

 

「もぉ、良いですよ」

 そう言ってモーホから解放された時、あたしの目の前には不思議な光景が広がっていた。

「もぉ……お婿にいけない……」

 服をビリビリに引き裂かれた真壁くんが女の子座りでメソメソ泣いていた。

「腐獣漆黒……オー・イエスっ!」

 そしてモーホは満面の笑みで鼻血を垂らしていた。

 一体、何が起きたのだろう?

 

「何やら部室が騒がしいですが、どうかしたのですか?」

 そう言いながら扉を開けて部室に入って来たのは、ゲーム研究会に頻繁に出入りしているという御鏡くんだった。

 

『バカめ。2匹目の獲物が自分から罠に掛かりに来おったわ。我が身の不運を呪うが良い』

 

 漆黒は御鏡くんに襲い掛かった。

「けっ、ケダモノぉ〜〜っ!」

「日向ちゃんは見ちゃダメです!」

 そしてあたしは再び瀬菜ちゃんに視界を塞がれた。

 あたしが目を塞がれている間、御鏡くんから悲鳴が絶えることはなかった。

 何が起きているのか少しもわからない。わかるわけがない。

 だって小学生だし。

 

「もぉ、良いですよ」

 そう言ってモーホから解放された時、あたしの目の前には不思議な光景が広がっていた。

「京介くんが……僕と桐乃さんの仲を認めなかった本当の理由が…わかりました……ポッ」

 服をビリビリに引き裂かれた御鏡くんが女の子座りでポッと頬を赤らめていた。

「腐獣漆黒……超・イエスっ!」

 そしてモーホは超満面の笑みで鼻血を垂らしていた。

 本当に一体、何が起きたのだろう?

 

「だが、幾ら腐獣漆黒がケダモノといっても、俺のような不細工メガネで、かつ1週間近く風呂に入っていない不衛生男が襲われる心配はないだろう。カッカッカ」

 笑い声を発したのはゲーム研究会の部長だった。

 自分が被害に遭うことはないという自信の笑みだった。

 だけど──

 

『この腐獣漆黒を舐めてもらっては困るな、穢れた世界の俗人よっ!』

 

 漆黒は不敵な笑みを浮かべると、部長に襲い掛かった。

「ま、まさか……俺までがストライクゾーンだと言うのかぁあああああぁっ!」

「腐獣と化した高坂先輩は男だったら誰でも良いんですね。超〜超〜イエスですっ!」

 瀬菜ちゃんが鼻息荒くガッツポーズを取りながらあたしの目を隠す。

 小学生だから何が起きているのか想像もできないっ!

 

『それ、ついでにそこのデブ部員2人も慟哭の果てに、絶望に打ち震えるが良い』

 

「「嫌ぁああああああああぁっ!」」

 更なる悲鳴が聞こえる。

 何もわからない小学生の我が身が悲しい。

 

「おいっ、うるさいぞゲーム研究会。校内で大声上げてんじゃねえぞっ!」

 そしてまた新しい人が部室に入って来たみたいだった。

「おお〜とぉ、ここで高坂先輩の大本命、私のお兄ちゃんの登場だぁ♪」

 声に拠れば、瀬菜ちゃんのお兄さんが部室に乗り込んできたらしい。

 ていうかやっぱり、モーホと瀬菜ちゃんは同一人物らしい。

「さあ漆黒っ、お兄ちゃんもハーレムの一員に加えてあげるのよっ!」

「ハーレム? 何のことだ?」

 

『フン。言われるまでもない。この学園に出入りする男は全て俺が喰らいあげるのみ!』

 

「何をするんだ、高坂!? 嫌ぁあああああああああぁっ!」

 服を切り裂く音がした。

 

 それから数十分の時が経ち、ようやくあたしは解放された。

 そこに広がっていたのは、あたしには理解できない世界だった。

 

『我に食えない男などこの世には存在しないのだ。ワッハッハッハ』

 

 勝ち誇った表情で笑い続ける漆黒と化した高坂くん。

 そして──

「漆黒高坂さま〜♪」×多数

 ビリビリに引き裂かれた衣服のままウットリとした表情で高坂くんに寄り添う男の子たちの姿だった。

 そんな男の子たちを満足げな瞳で見ていたのがモーホだった。

「我が夢……成就したり。もはやこの現世に未練なしです。さらばです、人間どもよ」

 モーホは瀬菜ちゃんの体から消え去った。

「高坂先輩の鬼畜攻め。オー、超〜超〜超〜超〜イエスッ! 腐ってて良かったぁ〜♪」

 そしてモーホが消え去っても瀬菜ちゃんは何も変わらなかった。

 

『フッハッハッハ。さて、今度はこの学校内の全ての男たちを我の支配下に置くとしようぞ。我が積年の大願、男パラダイスの成就もこの身体さえあればもうすぐ達成できそうぞ』

 

 勝ち誇りながら部室を出て行く高坂くん。

 更にその後ろをぞろぞろとゲーム研究会の面子+αと瀬菜ちゃんが付いていく。

 気が付くとあたしは1人部室に取り残されていた。

 

「そろそろ夕ご飯だし帰ろ」

 ルリ姉は時間にうるさい。

 それに、魔法少女にだって解決できる問題とできない問題がある。

 これは、あたしには解決できない問題だ。

 そして──

「みんな、幸せそうだったし良いよね?」

 幸せを邪魔するのは魔法少女の仕事じゃないと思う。

 うん。放っておくのが正解なんだ。

 そう強く思い込む。

 

 帰り道、あたしは少しだけ大人になった気がした。

 

 今日も、この街は平和だった。

 

 

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魔法少女日向  グルグルメガネの悲哀

 

 あたしの名は魔法少女日向。

 契約はしていないけれど、何となく魔法少女になった小学5年生の少女。

 今日も地球の平和を守る為に悪い奴らと戦っている。

 

「フッフッフ。ご近所に名高い魔法少女日向もどうやらここまでのようでござるな」

 女幹部グルグルメーガネーは強かった。

 あたしの魔法少女キャリアの中でまともに魔法対決を挑んできた敵自体が初めてだった。

 ルリ姉と同い年のグルグルメーガネーは、あたしより年長者の分、魔法を扱う能力に長けていた。

「あたしは絶対に悪のパワーに屈したりしないんだからっ!」

 魔法を操る技術で劣っていても、心まで負けを認めてしまってはそこで試合終了になってしまう。

「どうして、悪に染まったりしたの? 昔は同じ魔法少女として戦ったじゃない」

 メーガネーはかつてあたしと同じ魔法少女だった。

 メーガネーこと槇島沙織はどの魔法少女よりも正義と平和と友情を重んじた人格者だった。

 その沙織がどうして悪の組織の女幹部になってしまったのか?

 その原因をあたしは知らなかった。

「拙者が悪に染まった理由? そう言えばその件をまだ日向殿に話したことはありませんでしたな。フッ」

 メーガネーは自嘲気味に笑った。

 

「拙者は滅私奉公、みんなの為、正義の為に生きてきたつもりでござった。だが、拙者の中にも醜い欲望と、負の感情と、利己心というものが渦巻いていることに気付いてしまった。だから、これ以上正義の魔法少女を続けていられなくなったのでござる」

 レンズ越しにメーガネーの悲哀に満ちた瞳が見えた。

「醜い欲望? 負の感情? 一体、沙織ちゃんの身に何が起きたというの?」

 正義を最も愛した魔法少女の身に一体何が起きたというの?

「……拙者の元に出演依頼が来た。それが全ての元凶でござる」

「出演依頼?」

 よくわからない単語が出てきた。

「日向殿は黒猫氏の物語で3話目から既に登場し、準レギュラーの座を獲得しておられる。それに対して拙者は、名前が会話中に登場することさえあれ、拙者本人が出演することは皆無でござった」

 メーガネーはホロリと涙を流した。

「いや、でも、あんな物語出ても変態の称号が付くだけで全然良いものじゃないんだけど」

「物語に出たことのない拙者には、その称号さえ羨ましいでござる」

 沙織ちゃんにそう言われてしまうと何も言い返せない。

「ですが、そんな拙者の元にもあやせ☆マギカの出演依頼が届いたのです」

「良かったじゃない。あやせちゃんの物語は閲覧数も多いし、花形ヒロインになれるよ」

 ルリ姉の物語に対してあやせちゃんの物語は閲覧数のペースが倍違う。

「拙者もそう思い、喜んでおりました。ですが、出演待遇を見て悲しみが込み上げてきたのです」

「出演待遇?」

 あやせ☆マギカのあたしの出演待遇を考えてみる。

 ……そんなに大役ではないけれど、中盤からラストに繋ぐために大事な一角を担う。

 沙織ちゃんはどうだったのだろう?

「『ぼっち』『1話から3話まで要視聴 12話も見て詩的センスを磨け』と書いてありもうした」

「……す、すごいよ。あたしよりた、大役だよ。大人気役だよ。羨ましいぐらいだよ」

 何となく沙織ちゃんの悲しみが理解できた。

「初めて頂いた出番が……役とは。『動作が優雅』『胸が大きい』『ぼっち指数が高い』『卓越しすぎた言語センス』の共通項が決めてらしいのですが」

「えっと。夏の祭りは人気爆発、だよ……」

 慰めている方が気が滅入って来る。

「出番がずっとない方が幸せか、出番をもらえて潔く……方が幸せか。拙者にはわからないでござる」

 黄昏の表情を浮かべる沙織ちゃん。

 このまま世界と同化して消え去ってしまいそうな雰囲気だった。

「の、飲もう。今日はあたしのオゴリでパァ〜とジュースを飲もうよ」

「しかし、高校生の拙者が小学生におごられるというのは……」

「今日はそういう気分なの。さあ、行こう」

 沙織ちゃんの背中を押しながら近所のファミレスへと出掛ける。

 確かこの時間なら200円のドリンクバーサービスがあったはず。

「日向殿は、日陰者の拙者にも優しいでござるなぁ」

「あっはっはっはっは。さあ、行こ」

 あたしは今日、世の中には魔法で敵をやっつけるだけじゃ解決できない問題があるのだと身をもってまた思い知らされた。

 

 今日、あたしはちょっぴり大人になった気がした。

 

 

 

 

 

 

説明
pixivより転載
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バカとテストと召喚獣

僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦
http://www.tinami.com/view/197002 (僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その1)
http://www.tinami.com/view/198276 (僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その2)
http://www.tinami.com/view/199405 (僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その3)
http://www.tinami.com/view/200529 (僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その4)
http://www.tinami.com/view/203460 (僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その5)
http://www.tinami.com/view/204507 (僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その6)
http://www.tinami.com/view/205926 (僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その7)
http://www.tinami.com/view/207887 (僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その8(最終話))

優子VSラスボスシリーズ
http://www.tinami.com/view/201514 (アタシと吉井くんとバレンタインの特製ショコラチョコレート)
http://www.tinami.com/view/204977 (アタシと吉井くんと姉弟入れ替わり登校)
http://www.tinami.com/view/206860 (アタシと尾行と男の子同士の熱い夜)
http://www.tinami.com/view/209189 (アタシとエイプリルフールと最強の敵封じ込め作戦)

康太×愛子シリーズ
http://www.tinami.com/view/212257 (康太と愛子とアルバイト募集の張り紙)
http://www.tinami.com/view/213650 (康太と愛子と喫茶店アルバイト)
http://www.tinami.com/view/225977 (康太と愛子と動物園デート)

にっ 裏話
http://www.tinami.com/view/227893  アタシとみんなと海水浴っ!
http://www.tinami.com/view/229775  アタシと浴衣とお祭り騒ぎっ!
http://www.tinami.com/view/230792  ……私とあの娘とぬいぐるみっ!
http://www.tinami.com/view/257011  僕と本音と吉井くんの尊厳っ!

これはゾンビですか?
http://www.tinami.com/view/203056 (これはゾンビですか?  いえ、パンツ伯爵です) 
http://www.tinami.com/view/209886 (これはゾンビですか? いや、根暗マンサーの無駄あがきだろ)

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コメント
リッチー様へ 直接的な攻撃の方が気持ち良い魔法少女たちなのですよw 沙織の難しいのは、元々京介とオタクの橋渡し役としてよく出来たキャラとして登場してしまったので、二次だと弄りにくいんですよね。肉感を活かしすぎると18禁になっちゃいますし・・・・・・(枡久野恭(ますくのきょー))
>あたしのティロ・フィナーレ(物理)とビッチさんのドロップキック、あやせちゃんの上段回し蹴り  誰か一人くらいは魔法使えよwww      あと、言われるまで気付かなかったけどそういえばバジーナ出たことありませんでしたねw原作でも最近影が薄いしなぁ・・・(リッチー)
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