這い入る角度
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 私はここ、「麻雀サークル」という名の雀荘のオーナーだ。名前だけを聞けば普通の雀荘のようだが、そうではない。ここは「丸麻雀」の雀荘なのだ。この雀荘では全てのものに「角」がない。つまり全ての牌は球であり、点棒も球で卓も円になっている。「角は人を傷つける」そして「賭け事の世界は角が立つものであり、尖った者同士がぶつかり合えば血が出るのは必然」。そんな世界に懲り懲りして、「誰も傷つかず円満に大団円にオーラスを迎える」、そんな雀荘を作りたいと思って、この丸麻雀の雀荘を始めたのだ。この考えには多くの人が共感してくれて常連になってくれている。私の考えが広まって、多くの人がこの丸麻雀に興じているのを見ると非常に幸福な気持ちになる。

 しかし、これは真実ではない。たしかに私はこのような考えを持ってはいるが、この雀荘を作った本当の理由ではない。本当は「あいつ」が恐ろしいのだ。偶然に偶然が重なって「あいつ」に追われる羽目になってしまった。「あいつ」は恐ろしい狩人だが、向こうの世界からこちらに来るには、角度を必要とするという弱点を持っている。「あいつ」への対策として角度をなくした部屋、つまりは球形の部屋に引きこもったという話があるが、明らかに不信であるし現実的ではない。それだけのことをしようとすれば多くの金がかかるが、私にはそのようにするだけの金が無いのだ。この丸麻雀の雀荘を経営していれば生活費も稼げるし、角を遠ざけることも出来て一石二鳥だ。しかもここに来る人々は私の考えに共感してくれている人たちで、角を持ちこむこともない。「あいつ」から身を守るには最高の環境なのだ。

 

 今日もいつものように店を開けていると、常連たちがやって来て丸麻雀を打ち始める。「あいつ」から身を守るために始めた店だが、このように多くの人が常連になってくれているのを見ると、最初の目的を忘れて幸せな気分になってくる。きっと私が寿命を迎えるまで、この光景が続くのだろう。そう考えると、自然に笑みがこぼれてくる。そんな感慨に耽っていると、入口が開いて客が入ってきたようだ。客を迎えようとその方向に振り向くと、「あいつ」が目の前にいた。異次元から角度を伝って現れる死の猟犬一、人々からは「ティンダロスの猟犬」と呼ばれ恐れられる「あいつ」だ。「あいつ」に連れ去られる直前、入ってきた客が見えた。その男は…。

 男は「麻雀サークル」の中で立ちすくんでいた。店には客がいた気配があり、ついさっきまで麻雀のような物を打っていた形跡はあるのだが、誰もいない。ティンダロスの猟犬は哀れな店主だけでなく、店にいた客全ても連れ去ってしまったのだ。何故この男は連れ去られなかったのか?なぜなら猟犬はこの男から現れたからだ。つまり帰るためにはこの男を残していく必要があったのだ。そしてその立ちすくんでいる男の頭は見事な角刈りだったのだ…

 

説明
『角刈りすずめ』と言う漫画を元にしてクトゥルフを混ぜてみました。(間違えて消してしまったので上げなおしました。お目汚しすいません)
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クトゥルフ神話 角刈りすずめ 

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