複雑な、感情
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ああ、ネットの向こうにいる、憧れのあなた。

あなたは、どんな顔をしているの?

あなたは、どんな声をしているの?

 

会いたい。

一度でいい。一度でいいから。

このネットの壁を越えて、あなたという存在に、触れてみたい。

 

でも、もしも。

私のイメージと違ったら、どうしよう?

私の中の、あなたが崩れてしまったら、どうしよう?

 

私の中のあなたのイメージが崩れてしまったら。

私はこれまで通り、あなたと接することができるのかしら。

憧れの人であるあなたに、憧れ続けることができるのかしら。

 

それは私の問題だけじゃない。

あなたが私に会って、イメージを崩してしまったらどうしよう。

あなたと会った、その日から。私に対する態度が変わってしまったら。

 

私は、どうすればいいのだろう。

 

そんなことを、考えれば考えるほど。

あなたに会いたい気持ちが、膨れ上がっていく。

あなたに会いたくない気持ちが、膨れ上がっていく。

 

私はどっちを取ればいいの?

心の天秤に揺れる、ふたつの気持ち。

会いたい気持ちと、会いたくない気持ち。

どちらを選べば、正解なんだろう…。

 

ううん、正解なんて、無いのかもしれない。

だって、この会いたい気持ちも、会いたくない気持ちも。

私の、正直な気持ち、だから。

 

あなたに会いたい。

あなたに会って、直に、私の名前を読んでほしい。

あなたの声を、私の中に響かせてほしい。あなたのその、優しい声で。

 

でも、あなたに会いたくない。

あなたに会わなければ、あなたは憧れのあなたのまま。

あなたに会うことを夢見続ける、少女な私でいられるから。

 

 

私自身と、あなた自身のために。

 

私は、あなたに会いたいの。

私は、あなたに会いたくないの。

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やっぱりあなたは、あなただった。

私が憧れていた、あなた。あなたそのものの、あなた。

あなたに会ってよかった。あなたに会えてよかった。

 

あなたと初めて、交わした言葉。

ネットの世界では、知っている人なのに。

実際に会うと、また恥ずかしい。

 

お互いに、どことなく、よそよそしくて。

遠慮しながら、相手の様子を窺って…。

 

でも、そんなもどかしい空気が、また心地よかった。

ふたりの間にある、新しい歯車が動き出したように。

温まっていない潤滑油が、機能し始めたときのように。

 

私と、あなたの間にある、歯車は。

いま、動き始めたばかりだから。

 

恥ずかしくて、面と向かっては言えないけれど。

私は、あなたに会えてよかった。

あなたに会えて、本当に良かった。

 

あなたは、どう思っているのかな。

私のことを、どう思っているのかな。

 

嬉しかった?

残念だった?

それとも、なんとも思っていない?

 

その答えは、あなたの心の中にしかない。

きっと、私にはわからない答え。

 

だから、私は悩まない。

本当はとっても怖い。でも。

 

今は、今だけは。

その怖い想いを、心の奥に隠しておこう。

 

"あなたに会えて、よかった。"

この幸せな気持ちに、浸るために。

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あなたに会った、あの日から。

私は、あなたばかり想ってる。

 

もう一度、あなたに会いたい。

あなたと、お話ししたい。

あなたの、笑顔が見たい。

 

でも、あなたと私はすれ違い。

チャンスはあったのに、会えなかった。

私とあなたは、会えなかった。

 

とっても、残念。でも、仕方ないこと。

 

あなたには、あなたの暮らしがある。

私には、私の暮らしがある。

 

だから、私は我慢してるんだ。

きっと、またあなたに会えるからって。

あの日、あなたに会えた時のように。

また、あなたに会えるからって。

 

それにね。

私とあなたの間には、ネットという世界がある。

あなたと私を、繋ぎとめる、ネットという世界がある。

 

有名なあなたは、ネットの世界では人気者。

私だけのあなたじゃないのは、よくわかってる。

 

あっちこっちからちやほやされて、嬉しそうにしているあなた。

それを見て、不満に思っている私がいることも、わかってる。

 

でも、私は我慢するよ。

あなたが、誰と笑っていたって。

あなたが、誰と話していたって。

私はじっと、我慢するよ。

 

あなたと、どこかで繋がっていたいから。

あなたとの関係を、壊したくないから。

 

だから、だからね。

私の秘めた、この想いも。

あなたには、内緒にすると思う。

 

だって、話してしまったら。

きっと、あなたとの関係が壊れてしまう。

あなたと私の、回りだした歯車が。

噛み合わなくなってしまう。

 

それはとっても、苦しいこと。

それはとっても、哀しいこと。

 

それでも、私は。

いまの、あなたとの関係が大事なの。

それを、どうしても壊したくないの。

 

臆病ものって、言われてもいい。

勇気がないって、言われてもいい。

 

私は、なによりも。

あなたが好きで、あなたが大事だから。

 

あなたと、どこかで繋がっていたいの。

 

 

もしも、もしもだよ。

あなたが、私の気持ちに気付いたら。

私の気持ちに気付いて、それを受け止めてくれるなら。

 

いつか、また会えた時に。

私の手を、握ってほしいな。

 

何も言わなくていいの。

ただ、私の手を握ってもらえれば…。

 

私は、一歩を踏み出せるから。

胸の中に隠していた、この想いを。

口にすることが、できるから。

 

「あなたのことが、好きです。」 って…。

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