お に 
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 『 お に 』

 

 

 

 

 

 

 

蝉が啼いている

 

頭上の四方八方で、油蝉やらみんみん蝉やら、あとは何かよく分からないものやらが、それはもうひっきりなしに、我先にと競うようにがなりたてている

うるさい。ああうるさい

 

たらり、とひとすじ、汗の雫が額を伝って、目頭、小鼻の脇、口角へと降りてくる

口の中にじんわりと塩っ辛いのが広がる

私は手の甲でぐい、と顔を拭う

 

 

 おにいさま!

 

 

焼けつくような混凝土のうえ、

子供の背ほどの高さにゆらゆらと立ち昇る陽炎の向こう。

午後の陽射しに揺らめく洒落た刺繍のレースカーテンをさっとくぐるように

雨浴器の先端からそそぐ無数の水弾のような蝉の声を縫って、ぱたぱたと

軽やかに、まるでダンスでも踊るように駆けてくる少女。

ひらひらと翻るスカートの裾がまるで蝶々のはためく様だ

 

愛らしい紋白蝶の君は足元まで来て立ち止まり、私の顔を控え目に見上げて 

 おかえりなさい と、はにかんでみせる

 

 「こらこら、そんなに走るとまた咳き込んでしまうよ」

 

そう言って、私は少女の頭に軽く手を置く

この子は、この暑いのに汗ひとつかかないのか

 

 「家からここまで走ってきたのかい、よく私の戻るのが分かったね」

 

 なんとなく。

 そんな気がしたの、と、少女は微笑う

 

その娘は名前を しをり という

実の妹だ が、十も年が離れていると、兄であると同時に父親のような感覚も抱くものだ

 

 「おにいさま、はやくはやく!」

 

しをりはそう言うなり、私の手をとって嬉しそうにとび跳ね始めた

 「ちょっとお待ちよ、ははは、この炎天下を延々徒歩だ、兄は疲れてしまったよ…」

いかにもな声色でそう嘯いて、力なく笑って見せたのだが、どうやら子供独特の無邪気さが私への気遣いを許さないらしく、しをりは満面の笑みを浮かべてぴょんぴょんととび跳ね続ける

 「しかたないな…」

観念すると、私は一旦しゃがんで周りでとび跳ねる しをり の胴のあたりにがしりと両腕をまわし、一気に頭の高さまで持ち上げた。羽根のように軽い彼女を肩のあたりにしっかりと抱え上げ、陽炎の向こうにポツリと見え隠れする古びた家に向かって、だっ、と走り出す。耳の脇で妹のひゃあは、という悲鳴のようなわらいごえが弾けた。降り注ぐ蝉々の声の下を潜り抜けて、戦場の兵士が被弾を避けるように、頭を低く、迅く。

 

 

頭蓋を絞りあげられるような暑さ

気が付くと、私は敷居を跨いで松の木の木陰に居た

薄暗い玄関

引き戸は半開きになっているが、照りつける光の中にいたせいだろうか、目の前が暗緑色に覆われてしまって奥の様子がよく分からない

じっと目を凝らすと、掌に載るほどの小さな靴が一そく脱いであって、行儀よく揃ったつま先をちょこんとこちらに向けている

 

 

しをりは奥に居るのか

 

 

こんな時、何と声を掛ければよいのだろう

ただいま?

お邪魔します?

 

 「あら、正太郎さん」

 

びくりと肩を揺らし、声のした方を振り返る

 

 「母さん…」

 「なあに、一体どうしたのそんなところに突っ立って、暑いでしょう、早くお上がりなさい」

 

どうやら買い物帰りであるようだ、左手には白いレースの日傘、右手には編み籠と何か大きな荷物を持ち、夏だというのに長そでを羽織って、襟元を第一ボタンまでびっちり留めている。

 

 「えらく突然帰ってらっしゃるのね。ごめんなさい、何にも用意していないのよ」

 「いや!俺の方こそ…一応電話したんだけどつながらなくて」

 「あら、そう?変ね…」

 

 

私は母のあとに続き、靴を脱いで廊下を奥へ進み、居間へと通された。

今冷たいお茶を淹れてきますからね、と言って、母は台所の奥へと消えた

この家を出てから、もう何年になるだろうか

相当長いこと帰っていなかったせいだろう、自分の生まれた家だというのに、どこか見知らぬ場所に一人でいるような余所余所しさを感じる

 

ふと庭を見ると、懐かしいものが目に入った

 「あの白樺」

あれは確か、しをりが産まれた頃にこの家の庭に植えられたものだ

当時はまだ1メートル足らずだったのが今ではすっかり大きくなって、すらりと白い華奢な幹が蒼天に向かってひん、と伸びている

白樺も人間も、驚くほど成長が早い

そう思っていたが、先程見た しをりは以前と比べてあまり背が伸びていないようだった

あの子は今年でいくつになるんだったか…

 

 

私は、居間の縁側にごろんと寝ころんだ

梁に掛けられた風鈴がころころと涼しげな音をたてる

頬を撫でる風が心地よい

そのまま寝ころんでいると、蝉の鳴き声が段々と遠のきだした

ああ、これはまどろみ始めたな、と、頭蓋骨の外側で考える

 

ふと、伸ばしきった足の先――縁側の向こうの庭の方に、人の気配がした

足音などは一切聞こえない

瞼が重くて起き上がることはできないが、しかし、そこに誰かがいるのは分かった

 

ああ、 しをりだ

 

しをりは白樺の根元をじっとのぞきこむようにして、膝を抱えしゃがみこんでいる

私がこの家で暮らしている間に、幾度となく見てきた光景だ

重い黒髪がばさりと両肩に罹り、こちら側からはその表情を窺い知ることは出来ない

しをりはただただ無言で地面を見つめている

 

 

私はしゃがみこむしをりにそっと近づいて、何をしているのかと尋ねた

 

 「いやだ、おにいさま、分からないの?」

 

そう言って、幼い妹はころころと笑う

 

 「ほら、ここだけ土の色がちがうでしょう」

 

 

 

 

「正太郎さん」

 

 

はっ、と声を上げて飛び起きると、あたりはもう夕闇に包まれていた

 

 

「こんなところで居眠りしてしまうなんて、余程疲れていたのね」

「もうそろそろ晩御飯が出来上がりますから、手を洗ってらっしゃい」

 

 

私は、母の言うとおり洗面所へと向かった

 

そういえば、先ほどからしをりの姿を見ていない

夕飯時になれば自然と顔を出すだろうか

 

 

しをりの、白樺の根元に座り込むという奇妙な「癖」は、一体いつの頃からついたものだっただろう

医大に通っている友人に相談したところ、発達障害の可能性があるかもしれないと言われた

その旨を父母に伝え、しをりを一度病院へ診断に連れて行ったほうがいいのではないかと言ったのだが、その提言はあっさりと却下されてしまった

 

「みっともない」 というのが、主な理由だった

 

私がしつこく食い下がると、父の「いい加減にしろ」「座り込むといっても、どうってことのない庭の木だろう」「放っておけ」という喝が飛んできた。

後にも先にも、あんな剣幕で怒る父を見たのはそれ一度きりだ

 

ああ、これだから。

私はしをりをこの家にひとり置いてゆくのが嫌だったんだ

父は結局、恥や外聞のことしか考えていない、私やしをりのことなぞ二の次だ

 

いやしかし彼らの、特に母の、しをりに対する態度というのは、私に対するそれとどこか根本的に違っていたような気がする

私の前では良き母であったあの人が、しをりのこととなると瞼を伏せる

 

 

 

 

そういえば、しをりは私にこんなことを言ったことがあった

 

 

 「ねえ、にいさま。あのね私、本当は人間じゃないの」

 

 

なんだいそれ、と、私が笑うと、妹もうふふ、と笑う

 

 

 「疑っているんでしょう、にいさま。いいわ、ほら、さわってみて」

 

 

そういうと、しをりは私の右手を取って、自分の小ぶりな頭へと持ってゆく

私は妹の頭をそっと撫でてやる

艶やかな黒髪が指の間で絹のようにすべる

 

 

 「ほうら、あるでしょう」

 「ある、って、何が」

 「つのよ つ の。 嫌だそこじゃなくて、ほら、もっとこっちの方」

 

 

なるほど、妹の頭部、左目と左耳の延長線上の丁度交点にあたる辺りに、ほっこりと、瘤のような緩やかなしこりがある。意識して丹念に撫でなければとても気付かない程度の、小さな小さな膨らみだ

 

 

 「ああ、本当だ、あるね」

 「でしょう」

 

妹は得意げな表情で鼻を鳴らす

 

 「それじゃあ しをりは鬼の子かな?」

 

私がそう言ってやると、しをりはただ うふふ、と笑って、仔猫のように小首をかしげて甘えて見せた。

それきりその話をすることはなかった。

 

 

友人に言われた「発達障害」の話がどうしても気になっていた私は、しをりが白樺の脇に座り込んでいるのを見つけるなり、それを中断させるようにした

時には遊びに連れ出すなり菓子で釣るなり、何かしら理由をつけて。

時には真正面から。

 

ある日などは、いつものように座り込んでいたしをりを居間まで引っ張ってゆき、障子を閉めて、なぜそんなことをするのか、と問いただした

しをりは何も言わずに、ただ被りを振るばかり

 

 「言いなさい、しをり」

 「…………」

 

 「にいさまにも言えないことなのかい」

 「駄目よ、だめ。ダメ。」

 

 「こっそり教えてくれないかな、誰にも言わない、絶対内緒にするから」

 「駄目だったら」

 

 

そう言うと、しをりは胸元のリボンの端を片方噛んで見せた

「絶対に言わない」の意思表示であった

 

 

 

 

 

 

物思いから醒めてふと脇を見ると、父の部屋の障子が薄ぼんやりと明るい

ああ、またきっと小難しい歴史書でも読んでいるんだ、頭の固いひとだったから

 

私は、父の書斎へゆっくりと近づいてゆく

灯りに誘われる虫というのはこんな気分だろうか

障子にてのひらが触れるくらいまで近づくと、部屋の中からごにょごにょと話し声が聞こえる

どうやら母が一緒のようだ

この距離からでは、どうやら話の内容までは聞き取れない

 

 いけない。

 

そう思いながらも、抗いがたい未知の力に吸い寄せられるようにして、私は左の耳を障子にそっと寄せた

 

 「そこで何をしている!」

 

びくん、と心臓が跳ね上がる

次の瞬間、ガラリと勢いよく障子が開き、凄まじい形相の父が立ちはだかった

後ろにちらりと母の姿が見える

逆光のせいだろうか、立ちはだかる父はまるで黒々とした巨大な怪物のようだ。

私は震え上がった

 

 

 「ごめんなさい!!!」

 

 

そう叫んで飛び起きると、そこは先ほどうたたねをした縁側であった

空はどこまでも蒼く、涼やかな風がふわりと頬をなで、風鈴を揺らす

その後ろで、蝉の声がうるさいくらいに響いている

 

私はしばし呆然とした

 

これは一体なんだ?

ここに来るまでに暑かったから、熱射病にでも罹ったのか

…しをりはどこだ?

 

 

 

ちょっと待てよ

私は今日、なぜここに戻ってきた

今日は…いつ だ?

辺りを見回す

新聞も、暦も、日付を示すようなものは何一つ見当たらない

 

 

 

確か前にも今日のようなことがあった

その日も電話がつながらなくて

いや、そもそもあの時私は何のために帰郷したんだっけ

 

墓参りだ

誰の?

 

父さんの

そう、お父さんのだ

 

あの日も電話がつながらなかった

何故か分からないがとてつもなく嫌な予感がして、私は電車を乗り継いで急いで実家に帰ったんだ

駅から家までの道のりはそれはもううだるように暑くて、頭がどうにかなりそうだった

家に帰ると誰もおらず、玄関の引き戸は半びらきになっていた

廊下の奥は薄暗くてよく見えない

玄関先で躊躇していると、何か大きな荷物を抱えた母が帰ってきた

母は一瞬驚いたような顔で私を見て、すぐに家に上がるように促した

 

しをりがいない。

 

私の声が聞こえようものなら真っ先に玄関まで迎えに来る子だ

「お母さん、しをりはいないんですか」

「ええ、ちょっと…」

どこへ行ったのか、と問うても、母は話を濁すばかりで答えようとしない。

冷たいお茶を淹れてくる、といって、母は逃げるようにして台所へ消えた

 

 

   おかしい、おかしいぞ

   これは回想なのか?追体験?それとも現…

 

 

母の買ってきた荷物を漁る

ぬ、と大きな新品のスコップの先端が顔を出した

 

 

 『ほら、にいさま、ここだけ土の色がちがうでしょう』

 

 

しをりの言葉が頭をよぎる

ああ、そんな馬鹿な…

 

 

 

 

 

電話がつながらなかったんじゃない、母は電話に出られなかったんだ

他の「何か」の作業で手が 離せなくて

 

 

 『ねえ、にいさま、内緒よ。あのね私、本当は人間じゃないの』

 

 

ああ、なぜ気付かなかったんだ

あんなこと、しをりが自分で思いつくわけがない

誰かにそう吹き込まれたんだ

 

 

 

 

 「そこで何をしているの正太郎さん」

 

腹の底が凍りつくような声。

私は振り返ることができない

 

 「こんな日に庭に出たら暑いでしょう、さあ、早くこっちへいらっしゃい」

 

 「お母さん、しをりは」

 

 

 「しをりはどこにいるんですか」

 

 

沈黙。

 

 

さっきまであれほどうるさかった蝉の声が、今は嫌に遠くに聞こえる

額に浮かぶ汗の粒は、どうやら暑さのせいだけではない

 

 

 

白樺の木は成長がはやい

この庭の白樺が植えられたのはいつの話だった?

ああそうだ、丁度 しをりのうまれた頃だ

当時、私は10歳

よく思い出せ

しをりの生まれる前、母の腹は大きかったか?

そうでないなら、しをりは誰の子だ

本当の母親は、一体どこへ…

 

 

 

 

 「だって」

 

 

 「だってあの子。すごく当てつけがましいんだもの」

 

 

今までに聞いたこともないような、低くて、昏い声

私の母の声

 

 

 「私だってね 最初は母親として接するように努力したのよ」

 「だけどあの子日に日に似てくるじゃない」

 「鬼の子だって言ってやったら、泣きもしないで」

 「おまけに、まるで当てこするみたいにして毎日あの白樺の根元に座り込んでるんだもの」

 「あの子、全部知ってたのよ」

 「私とお父さんのやったこと、全部分かったうえで、私達に嫌がらせしてたの」

 「やっぱりあの時、障子の向こうで私たちの話を聞いていたんだわ」

 「お父さんが亡くなってからね、私は毎日あの子とこの家にふたりきり」

 「もう、頭がどうにかなりそうだった」

 「あの白樺の木の根元で、毎日毎日毎日毎日毎日」

 「だから。だからね埋めてやろうと思って。」

 「あの女と同じ場所に」

 

 

 

 

 

 

 

ああ。

ああ、そうだった。

 

 

しをりはあの日、母に…

 

 

 

 すまない、しをり

 私はお前をこの家に置いてゆくべきではなかったんだ

 お前を守ってやれなかった

 すまない しをり、許してくれ

 許してくれ…

 

 

 

 

 

ぴたり、と蝉の声が止んだ

私はひとり、白樺の前に立っていた

庭はどこもかしこも草だらけで、手入れがされた様子はない

振り返ると、母が立っていたはずの場所には誰もいない

居間はがらんとしてあちこちに蜘蛛の巣がはっており、割れた風鈴が軒下に転がっている

私はいま一度白樺を見返る

幹は太く、私の額に黒々と影を落とすほどに枝葉が茂っている

いくら白樺でも、10年ぽっちでこんなにはならない

それもそのはずだ

しをり が死んで、もう30年になる

 

 

あの後、母は精神を病んでいると診断されて病院に入り、数年後に亡くなった

私は大学の同期と結婚し、子供も二人でき、それなりに幸せな日々を送ってきたと思う

だがこの家のことは思い出すのも辛く、30年間決して訪ねることをしなかった

人間というのは不思議なもので、あれだけ強烈な体験だったにも関わらず、私は今日の今日までしをりのことなどすっかり忘れていた

いや、全く記憶から抜け落ちていたというわけではないのだが、なんとなく考えないようにしていた

これも自己防衛本能というやつなのだろうか

 

 

 

私は靴を脱ぐと、もう長いこと人が通ることはなかったであろう板敷の廊下にそっと足を置いた

一歩を踏み出すたびに、ぎしり、ぎしりと軋んだ音をたてて床が歪む

そのまま突き当り父の書斎にまで足を運んだ

ふと、脇の洗面所が目に留まる

古びた鏡、割れてひびがいっている

蛇口をそっとひねると、ちょろちょろと水が流れた

指で触れると、ひんやりとしたなまあたたかさが伝わってくる

私はそれを手のひらで掬って、汗でべたつく顔へと勢いよく放つ

心地いい。

何度も何度も、同じ動作を繰り返す

水が、優しい冷たさで顔面を撫でる

 

ところが十数回それを繰り返したところで

私はとてつもなく嫌なことに気づいてしまった

心臓が再び早鐘を打つ

あまりに激しく脈打つせいで、胸筋に鈍い痛みが走る程に

 

もう30年も誰も住んでいない、管理もされていない家屋

その水道から水が出るはずが ない

 

 

 

全身から汗が噴き出す。

私はのけ反るようにして顔を上げる

 

じゅわ!と、熱した鉄板に水を落としたように、耳をつんざくような蝉の悲鳴が一瞬にして蘇った

じりじりと真夏の太陽が私の頭部、肩、腿に容赦無く照りつける

目の前には、ほっそりと女性的な線を描いて私と対峙する白樺の木

背後には…

 

 

 

 「あの子、全部知ってたのよ」

 「やっぱりあの時、障子の向こうで私たちの話を聞いていたんだわ」

 

 

 

青空に呑まれるようにして消えてゆく蝉々の声が、

その狭い庭に張り詰めた空気をくるむ様にして、あとからあとから際限なく立ち昇る

 

 

 

 

  どうしてだ、まだ終わってはいないのか

  私はまだ何か忘れているのか

  一体何だって言うんだ しをり

  一体…

 

 

 

 

 

 「だから。だからね埋めてやろうと思って。」

 「あの女と同じ場所に」

 

 

 

 

私は、振り返ることができない

母の表情を窺うことができない

 

自分の吐いた息が、冬でもないのに白く色づいて見える

私の視線は、丁度頭の高さ、目前50センチほどにある白樺の若い幹に固定されている

 

背後には母の凶器のような視線

そして

ああ、そして

 

視界の遥か下方

直接見ているのではない

けれど、分かる

 

 

 

居る

 

 

 

 

黒い、重い、小さい それ

白樺の根元

いつもの場所に

 

 

うずくまって

 

 

 

 

 

 

私は、決して下を見ずにそのままくるりと踵を返した

土足で縁側へ上がり、母の脇を通って先ほどの母の持ち物の中から大きなスコップを取り出す

 

 

母は、善い人だった

善い人だったのだ

 

私には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐらり、と、視界が揺れ、目の前が暗くなる

 

ああ、そうだった。

そうだったね 

 

 しをり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ほら、にいさま、ここだけ土の色がちがうでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          オシマイ

 

説明
サイトで発表したものです。ホラー気味
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コメント
短い文字数に全ての要素が詰まっていて凄い・・・(有理化)
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ホラー ダーク 兄妹 少女   

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