遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・六話
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森の中

いや・・・深い、自然の中

 

“我ら”は生きてきた

 

だからこそ、この“力”を手に入れたのかもしれない

 

深い森の中

深い闇の中

 

溶けて、融けて・・・一体になる

 

 

 

 

この・・・“森羅兵”としての力を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 第六話【森羅兵】

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「・・・?」

 

 

相も変わらず、どこまで続くのかと不安になるほどに深い森の中

歩いていた三人

その内の一人・・・一刀は、不意に足を止める

その様子に前を歩いていた2人、雛里と星は同じよう足を止めた

 

 

「ケ艾殿、どうしたのだ?」

 

「趙雲・・・何か、おかしい」

 

「む?」

 

 

“おかしい”

そう言って、辺りを見回す一刀

彼はそれから、僅かに表情を歪め呟く

 

 

 

「誰かに、見られてる・・・気が、する」

 

 

 

この言葉に、趙雲の表情も変わった

彼女はソッと辺りを見渡し、フッと息を吐き出す

 

 

「妙な気配など、感じぬが・・・」

 

 

“それでも、油断はできない”

無言のまま、見つめた先

その意味を汲み取ったのか、一刀はコクンと頷いていた

 

まず、趙雲は手負いである

これにより、意識がそちらへともっていかれ・・・不穏な気配に気付けないでいる可能性がある

そのことは本人もわかっている為、今は一刀の意見を尊重するしかない

それに、あの時の“宙に浮かぶ剣”のこともある

 

“何が起こっても不思議ではない”

 

趙雲や雛里の頭の中、思い出される“信じられない光景”

あの光景を見たからには、いかな場合も想定し行動しなければならない

 

 

 

「ひとまず、もう間もなく日が落ちてしまう

今日は無理をせず、早めに野宿をするとしよう」

 

「そうですね

いいですか、ケ艾さん?」

 

「ん・・・任せる」

 

 

 

頷き、背後を見つめる一刀

その視線は、いったい何を捉えたのか

 

 

「やっぱり・・・おかしい」

 

 

 

溜め息と共に再び歩き出す彼以外に、知る者はいない・・・

 

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「くっ・・・流石は、天の御遣いか

いや、この場合は奴の中に残った“欠片”と言うべきか」

 

 

遠のいていく、“三人”の背中

それを見つめ男は、黄権は小さく呟く

 

 

「微かな・・・この森の闇に掻き消えているはずの“氣”を察知するとはな

中々どうして、面白いではないか」

 

 

言って、笑う黄権

その傍に控える者達もまた、笑っていた

 

 

「さて・・・では、そろそろ始めるとしよう」

 

 

やがて、傍らに控えていた者達の姿は少しずつ消えていく

いや、“同化”していくのだ

この不気味な森の中、生い茂る草花に

風に揺れる木々に

彼らは、ゆっくりと同化していく

 

その光景を眺め、黄権は笑う

 

 

 

「くく・・・我ら“森羅兵”の恐ろしさ、味わってもらうぞ

“天の御遣い”よっ!!」

 

 

 

響く嗤い声

それは木々のざわめきに掻き消され、彼らに届くことはなかった・・・

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「っ・・・!」

 

 

その“気配”に気付けたのは、彼の中に眠る“夏侯淵の記憶”によるものだったのか

はたまた、“彼自身のモノ”だったのか

知るすべはない

しかし、今はそのようなことは重要ではない

 

 

「同じ・・・」

 

 

“同じ”だった

彼が、今自身の目の前を歩く二人の少女

鳳統と趙雲に出会った時と、同じだったのだ

無意識のうちに、彼は背に背負う弓へと手をやっていたのだ

 

 

「趙雲っ! 鳳統っ!」

 

 

瞬間、彼は前を歩く二人に向い声をあげる

それと同時に、勢いよく駆け出した

 

 

「ケ艾殿、いかがした?」

 

 

そんな彼の行動などつゆ知らず

ゆっくりと、振り返る星と雛里

 

 

「っ!!」

 

 

その二人の背に、微かに見えたのだ

何処までも続く、深い森の中

そのもう見慣れてしまったはずの景色

それが、僅かに歪んでいることに

彼は気づき、弓を構える

 

 

「二人とも・・・伏せ、てっ!!」

 

「「っ!?」」

 

 

言うやいなや、“ヒュン”と放たれる矢

星は咄嗟に雛里の体を馬からおろし、自身と同じよう地に伏せさせる

 

 

「ぐがっ!?」

 

 

その後、すぐに聞こえてきたのは“声”

彼女達のすぐ背後から、呻き声のようなものが聴こえてきたのだ

これに、二人はすぐさま背後へと振り返る

そこには、信じられない光景が広がっていた

 

 

 

「そん、な・・・」

 

「これは・・・?」

 

 

彼女達のすぐ背後

そこの景色が徐々に歪み、やがて一人の男の亡骸が姿を現したのだ

その眉間に、一本の矢が刺さった男の亡骸が

 

 

「・・・敵かっ!?」

 

 

一瞬呆気にとられた星だったが、流石は武人といったところだろうか

彼女は状況を素早く把握すると、すぐさま槍を構える

が、彼女は手負い

その表情は、苦しげに歪んでいる

 

 

「趙雲・・・無理、しないで」

 

 

そんな彼女の表情に気付いたのだろう

彼は彼女のすぐ傍まで駆け寄ると、再び弓を構える

それから、辺りを見渡した

 

 

「“気配”はする・・・けど、視えない」

 

 

悔しげに、彼は呟く

彼の言うとおりだった

確かに微かだが、“気配”は感じるのだ

しかし、“視えない”

 

たった今、彼が倒した男は気付けたのだが・・・

 

 

 

 

 

 

『それが我が“森羅兵”の恐ろしさだよ・・・天の御遣い殿』

 

 

 

 

 

突如として、響き渡る声

彼は弓を握る手に、力を込める

 

 

「誰、だ?」

 

『これは失礼・・・我が名は黄権

この“森羅兵”を率いる者です』

 

 

辺りに注意を払いながら、一刀は声の主の姿を探す

しかし、見つからない

そんな彼をあざ笑うかのように、声の主・・・“黄権”は、愉快そうに笑い声をあげた

 

 

『無駄ですよ、“天の御遣い殿”

森の中、自然の中にいる限り・・・我らは、絶対に見つからない

それが我ら、森羅兵なのだから』

 

「くっ・・・」

 

 

構えを解かぬまま、彼は辺りに注意を払う

しかし、依然として敵の姿は見えないまま

 

 

『まずは、軽い挨拶程度に・・・』

 

「っ!」

 

 

その刹那、気配はさらに強くなる

彼がそのことに気付くのと同時に、彼の目の前の景色が“揺れた”

 

 

「そこっ・・・!」

 

 

風を切り、放たれる矢

その矢は何もないはずの空間に“刺さった”

しかし・・・

 

 

『残念でしたね』

 

「・・・!?」

 

 

響いてきた声

それに遅れる様、彼の肩に僅かに切り傷が出来たのだ

咄嗟に身を退いたためか、傷自体は浅い

そう判断するのと同時に、彼は素早く矢を放っていた

その矢もまた、何もないはずの空間に突き刺さる

その矢の周りの景色は歪み、やがて眉間に矢が刺さった男の姿が現れたのだ

一刀はそのことを確認するのと同時に、肩をおさえ膝をついてしまう

 

 

 

「ケ艾殿!」

 

「ケ艾さんっ!」

 

 

慌てて駆け寄る星と雛里

そんな二人に、彼は僅かに笑みを浮かべ応える

 

 

「大丈夫・・・」

 

 

呟き、立ち上がった一刀

そんな彼に向い、何処からか拍手が聴こえてきたのだ

 

 

『お見事っ!

流石は御遣い殿っ!

瞬時に気配を察知し、我が森羅兵の攻撃を躱すなど!!』

 

 

その拍手は、恐らくは黄権のものだったのだろう

確かめるすべなどないが、彼はそうだと確信していた

そんな中、黄権は不気味な嗤い声をあげる

 

 

『しかし、しかし残念だ!

先ほどの武器には、毒が塗ってあるのですよ!』

 

「なっ・・・!?」

 

『僅かな傷でも、長く放っておけば・・・やがて、死に至るでしょう』

 

「ど、く・・・?」

 

 

呟いた、その瞬間

視界が“揺れた”

それが毒によるものだと気付くのと同時に、彼は弓を構えたのだ

 

 

「なら・・・早く、倒すっ!」

 

『出来るものなら、ね』

 

 

声が響くのと同時に、辺りを“殺気”が包み込んだ

これが全て“森羅兵”と呼ばれるものが発する気なのかと、雛里は微かな体の震えを抑えきれないでいた

そんな彼女の肩を、ポンと彼は叩く

それから、彼は小さくつぶやいたのだ

 

 

「2人とも、走れる?」

 

「な、なに?」

 

「このまま、ここにいても、きっとダメ」

 

 

星の言葉に、彼は小さな声で言った

 

 

「アイツは、言ってた

“森の中、自然の中にいる限り”って

つまり・・・」

 

「森から出れば、何とかなるってことですか?」

 

「多分・・・」

 

 

頷き、彼が見つめる先

そこは、この中でも特に気配が“少ない”場所だった

このことに、二人は無言で頷いた

このまま此処にいても、状況は変わらない

一か八か、僅かな可能性に賭けてみようと・・・そう言うことだった

 

 

「いく・・・」

 

「うむ」

 

「はいっ!」

 

 

星と雛里、2人が声をあげるのと同時のことだ

彼は素早く、二本もの矢を放つ

その矢が再び、何もないはずの空間に突き刺さった

 

 

 

「今・・・!」

 

 

それに合わせ、声をあげ駆け出す一刀

そして、彼に続くよう二人も駆け出したのだ

向うのは、気配の薄い“一点”

 

それが・・・

 

 

 

 

『ククク・・・そうすると、思っていましたよ』

 

 

 

 

黄権の思惑の中だったのだと、気付くことはなく・・・

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「なっ・・・」

 

 

黄権の思惑の中だった

そのことに三人が気づいた時

三人の眼前・・・いや、正確には彼らの遥か下

勢いよく流れる川が見えていたのだ

 

 

 

「あわわ・・・」

 

 

“行き止まり”

進めば、遥か下に流れる川に流されてしまう

いやそれ以前に、落ちている途中に岩にぶつかり死に至る可能性の方が高いだろう

 

 

 

 

「これは、まさか・・・」

 

『ええ、そのまさかです』

 

「っ!!?」

 

 

聞こえた声に振り返った瞬間、三人の視界に映ったのは幾人もの兵の姿だった

もはや姿を隠す必要はないと思ったのだろうか

しかし、黄権らしき者の姿だけは発見できない

 

 

『此方へ来るよう、誘導したのですよ』

 

「く・・・なんということだ」

 

 

苦しげな声をあげ、槍を構える星

その彼女の後ろで、雛里はカタカタと体を震わせていた

唯一人・・・

 

 

「もう・・・か、ない」

 

 

一刀だけは、様子が違った

小さく何かを呟き、彼は見つめていたのだ

その彼の様子に、星は槍を構えながら心配そうに声をあげる

 

 

「ケ艾殿、いかがした?

まさか・・・毒が、酷くなったのか?」

 

「ん・・・違う」

 

 

“違う”

言って、彼はその視線を目の前の敵へと向ける

 

 

「趙雲は怪我・・・鳳統は・・・うん」

 

「何が“うん”ですか!?

私がどうしたんですか!?」

 

「“戦力外”」

 

「あわわ、はっきり言われちゃいました!!?」

 

 

言いながら、彼は自身の手を見つめる

その手が、微かに震えている

 

 

「それに、俺も・・・ちょっと、辛い」

 

「ケ艾殿・・・?」

 

 

“辛い”

そう言って、彼は苦笑する

“勝てない”と

彼はそう言っているのだ

 

しかし・・・

 

 

 

 

「ならば・・・何故、笑っておられるのだ?」

 

 

そう・・・星の言うとおりである

彼は、笑っていたのだ

先ほどまでの苦笑を塗り替えるような、そんな笑顔を浮かべていたのだ

 

 

「七乃が、言ってた」

 

「む?」

 

「勝てないなら、戦わなければいい・・・って」

 

「は、はい?」

 

『・・・む?』

 

 

一刀の言葉

これに、星と雛里だけでなく黄権までもが間の抜けた声をあげる

そんな中、彼は微かに笑みを浮かべたまま・・・“星と雛里の手を握り締めた”

 

 

「ひゃっ!?」

 

「あわっ!?」

 

 

そのことに、驚きの声をあげる2人

しかしそんな二人を気にすることなく、彼は眼前に構える敵から距離をとっていく

 

そう・・・崖から、落ちる寸前までだ

 

 

 

 

「あ、ああああああ、あのケ艾さん?」

 

「お、お主・・・ままままさか・・・・・・」

 

「戦っても、ダメだったら・・・一か八か、大博打に出ろって、祭も言ってた」

 

「「だからって・・・」」

 

 

 

“だからって”

そう言った二人の体に、妙な“浮遊感”が襲った

それもそうだ

 

何故なら・・・

 

 

 

 

 

「「崖から飛び降りるなんて、絶対しなぁぁぁああああああああああ!!!!!????」」

 

 

 

 

 

その頃にはすでに、三人の体は“宙に浮いていたのだから”

正しくは、“落下していた”なのだが

 

そのようなことは、もはや関係ないだろう

彼らはすでに、その身を賭け飛んだのだから

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

『く、ハハハハハ・・・恐れ入った

まさか、まさかこのような“選択”をするとはなっ!!』

 

 

辺りに、不気味な嗤い声が響く

そんな中、一人の兵が何もない空間に向い頭を下げた

 

 

「黄権さま、いかがしますか?」

 

『成都へと帰還するぞ・・・我らの役割は、十分に果たした』

 

「御意」

 

 

礼をし、森の中姿を消していく兵士たち

その姿を見つめ、“彼”は小さく笑みを浮かべる

それから、彼が見つめたのは先ほど三人が落ちていった先

遥か下を流れる川だった

 

 

 

『これで終わりだとは、思っていないぞ・・・天の御遣い』

 

 

 

その声は、深い森の中

吸い込まれるよう、掻き消されていった・・・

 

 

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★あとがき★

 

ども、こんにちわ

短編がまだ時間かかるので、先になろうで公開した遥か彼方の最新話を二話続けてお送りいたします

それでは、次のお話でお会いしましょう

 

 

説明
短編ができるまでまだお時間がかかりそうなので
なろうにて公開した、遥か彼方の最新話を二話続けてお送りいたします
それではお楽しみください
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コメント
けが人と毒受けた人と戦力外で泳げんの!?(ZERO&ファルサ)
星、雛里ここに散る。って感じかな?(poyy)
次の出番はいつになるんだろうか?(悠なるかな)
さて、この選択で残りの蜀の将達が誤解しなければいいが・・・・・・(朱槍)
シオンさん<バタバタしてた為、普通に聞き流してますが疑問には思ってますwただ、彼女達の出番が次はいつになるのか・・・ww(月千一夜)
劉邦柾棟さん<BAD ENDですね、わかりますw (月千一夜)
一刀が"天の御遣い"って呼ばれたのに星と雛里が気づいてない!?(シオン)
さよなら・・・・星、雛里。 君達のことは決して忘れない!? 『遥か彼方、蒼天の向こうへ‐真†魏伝』第二章 完(劉邦柾棟)
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