忘れえぬ胸の痛み
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 ここは、みんな大好き剣と魔法のファンタジー世界。

 物語はここから始まる。

 

 ある日、ホワイトハウスに一つの報告が舞い込んだ。

「大統領! 大変です!」

 顔色を変えて詰め寄るマクレイド国防長官に対し、ジョンソン大統領は落ち着き払って対応した。

「HAHAHA! どうしたんだねマクレイド君? 国のトップに立つ者たるもの、少々の事で動じてはいかんよ君ィ!」

「その、それが……北朝鮮のキム魔王が、ついに全世界に対し恐ろしい宣言を!」

 魔王の名が出た途端、大統領の表情が一変した。

「何ィ!? あのキム魔王が……それは確かか!?」

「はっ。その時のVTRもございます。こちらをご覧ください」

 マクレイド国防長官はVTRを再生した。そこには、北朝鮮の『魔王』……キム総書記が鷹揚に片手を上げている姿があった。

「御機嫌よう、愚鈍なるアメリカ帝国とその属国ども。俺様は……平和な世にもう飽きた! 俺様に媚びへつらう愚民も、死んだ目でパレードを行軍する連中も、もはや食傷を起こすわ! そこで俺様は考えた。今、俺様に楯突く生意気なアメリカ帝国をぶっ潰し、世界を我が北朝鮮原理主義王国が掌握すれば……それはさぞ愉快な事だろうとなああぁぁ! 目標はズバリ、世界征服! これから十分以内に核をぶちこまれたくなければ、各国はすぐさま北朝鮮に服従を誓うのだ! いいか、これは脅しやパフォーマンスではない、本気だぞ!」

 魔王が傍らのスイッチを押すと同時に、画面はフェードアウトする。同時に、極東の島国に核ミサイルが撃ち込まれたというニュースが伝わった。

「ジョンソン大統領! 大東亜日本帝国が早くも北朝鮮の下に付くそうです。声明は、『何でもするから攻撃しないで』とか」

 マクレイド国防長官の報告を、ジョンソン大統領は鼻で笑った。

「HAHAHA! 腰ぬけの黄色猿(イエローモンキー)共には何も期待しとらんよ。我が国の人民は選ばれた者達ばかりだ。核の脅威に決して屈したりはせん! しかし、魔王よ。貴様は少々、おイタが過ぎたようだな。誰が世界の警察――いや、世界の帝王なのか分からせてやる必要があるようだ」

「左様でございますな。して、いかが致しましょう?」

「今すぐにでも奴の頭上に核をぶち込んでやりたいところだが……そんな事をすれば私の支持率に影響が出るからな。マクレイド国防長官!」

「はっ!」

「プランLを発動する」

 おもむろに言われたその単語に、国防長官の表情が固まった。

「だ……大統領、本当ですか! ついに……あの、プランLを?」

「うむ。魔王を倒すためにはこれしかあるまい。すぐに勇者を呼べっ!」

「は……ははあっ!」

 こうして、プランLとやらは人知れず実行に移されたのだった。

 

 間もなくして、ホワイトハウスに一人の男が呼ばれた。彼の名はセガール。本日で三十五歳の誕生日を迎え、『勇者』と呼ばれる逸材である。

 大統領は勇者を認めると、満面の笑みを見せた。

「おお、勇者セガールよ! よくぞ来てくれた! 今、世界は……いや、アメリカ帝国は魔王の脅威に晒されておる。これを救えるのは、勇者であるお主を除いて他にない! 頼むぞ、魔王を倒し世界に――いや、アメリカ帝国に平和をもたらしてくれい!」

 大統領の懇願に、セガールは三十五歳に相応しい、硬派なスマイルを浮かべた。

「任せてください、大統領。魔王の一人や二人、必ずやぶっ殺して差し上げましょう」

「おお、何と頼もしい言葉だろうか!」

 大統領に次いで、マクレイド国防長官がセガールへ言葉をかける。

「よいか勇者よ。我が国最高の士官学校を歴代最高の成績で卒業した貴殿には、プランLと呼ばれる超高々度作戦を実行してもらいたい」

「プランL……ですか」

「うむ。正式名称は『愛と正義(ラブアンドパワー)作戦』という。勇者よ、貴殿は『愛』という言葉で何を連想する?」

 国防長官の質問に、セガールはしばし考え込んだ。ラブアンドピースじゃないのかよ、という野暮なツッコミなど頭の片隅にすら浮かばない。

「愛……ですか。自分が思うに……『デート』『初恋』『片想い』『男と女』『失恋』『リア充爆発しろ』『いやいや、俺はなぜ男にトキめく?』……こんなところですか」

「パーフェクトだ。さすが、勇者と呼ばれるだけはある。この『愛と正義作戦』はな、北朝鮮の魔王をぶち殺すためのプランなのだ! 奴のようなクソ野郎には死をくれてやる事こそ愛というものだ!」

「成程、そういう事でしたか。実に愛に満ち溢れた、人道的な作戦名ですね!」

 ホワイトハウスの会議室に、HAHAHAという三人の笑いがこだました。

「それで、具体的に私は何をすればよろしいのですか?」

 セガールの質問に、国防長官は意気揚々と返答した。

「うむ! 勇者には我が国で最強の武器、H&KMP5サブマシンガンを与える。これを持って北朝鮮に潜入して魔王をぶっ殺してくれ。手段は問わん。勇者ならできる、やればできる。なぜなら君は勇者だからな」

 無造作に投げられた物々しいH&KMP5サブマシンガンを、セガールは恭しく享受した。

「おお、これがアメリカ最高峰の武装兵器、H&KMP5サブマシンガンですか!」

「うむ。ドイツ連合から有無を言わさずブン捕った代物だ」

「良いのですか、私のためにこんな大層な物を?」

「何、勇者のためならこれくらい惜しくはない。以前聞いた話では、どこぞの国王は勇者に棒切れと駄賃のみを支給して魔王退治に向かわせたそうじゃないか。それに比べれば、我が国は実に懐が深く、資源豊かだとは思わんかね?」

「仰る通りでございます。このH&KMP5サブマシンガンさえあれば、千の援軍を得た心持ちでございます! アメリカ帝国に栄光あらんことを!」

「うむ。朗報を期待しているよ」

 かくして、プランL――「愛と正義作戦」は実行されたのだった。

 

勇者セガールは激しい北朝鮮の攻撃を受けるも、H&KMP5サブマシンガンのお蔭でついに魔王キムの喉元にまで迫ったのだった。

「貴様が魔王キムだな、覚悟!」

 勇者の姿を見た魔王は焦りを隠せない。

「おいやめろ馬鹿、貴様それは銃刀法違反だぞ!? ファンタジーの世界じゃないんだから、武器の携帯はやめた方が……!!」

 話せば分かると魔王は叫んだが、勇者は聞く耳を持たなかった。

「問答無用!!」

「ぐわああぁぁぁ!!」

 魔王はH&KMP5サブマシンガンの掃射による、恋にも似た忘れえぬ胸の痛みを感じつつ倒れ死んだ。しかし、魔王の忠告を無視したセガールも銃刀法違反で捕まり、死刑となってしまった。

 

 所変わって、ここはホワイトハウス。マクレイド国防長官が笑顔でジョンソン大統領に告げた。

「大統領、プランLが成功したようです」

「そうか……」

 大統領はブラインド越しに窓の外を見る。明るいニュースであるはずなのに浮かない表情の彼に、国防長官は疑問を覚えた。

「どうしたのです、大統領? 御気分が優れないのですか?」

「うむ……。この度も辛く、苦しい戦いだった。魔王を倒すために払った犠牲は、決して小さくはない……」

「大統領……」

 勇者の死を、二人はしばらくの間悼んでいた。

「ですが、大統領。彼は世界を、いえ――アメリカ帝国を、救ってくれました」

「うむ……我々は、勝ったのだ!」

 途端、二人は陽気に笑いだした。空気を読んだ国防長官は、『星条旗よ永遠なれ』をBGMに流し出した。知らない人は、一度聞いてみる事をお勧めする。実にアメリカナイズな、勇壮で陽気な行進曲である。

「HAHAHA! なあに、我が国の人民はいくらでもいる! 減ったらまた産めばいい! 恋愛おおいに結構!」

「その通りですな! 恋愛とはまさに、このプランLのためにあるような言葉です」

「「HAHAHA……!」」

 呑気に笑う二人だが、この時彼らは気付いていなかった。魔王キムはただでは死んでいない事に。彼は死の間際、所有している百万の核ミサイルを世界にばらまいたのだ。大統領達が気付いた時には、もう遅い。

「あの魔王! 我が国に核を打ち込むとは……なんて血も涙もない野郎だ! 許せねえ、報復だああぁぁ!! もはや魔王が死んでいようが関係ねえぇぇ!! 北朝鮮……いや、世界中に核をぶち込んでくれるわああぁぁ!!」

 復讐の念に駆られた大統領に、もはや正気はなかった。こうして最終戦争が始まった。

 

 2XXX年、世界は核の炎に包まれた。海は枯れ、地は避け――あらゆる生命体が絶滅した。この最終戦争が、一つの恋愛に端を発した事を知る人間はあまりにも少ない。

 我々はこの歴史から、恋愛とは痛みを伴うものだと学ぶ必要があるのかもしれない……。

 

THE END

 

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あとがき

 

インスパイア元はニコ動で作品を作っている高橋邦子シリーズ。

あの作者さんは良い意味で頭おかしいです。

 

最後に……言うまでもありませんが、この作品はフィクションです。

実在の人物、国家、事件などには一切関係ありません。ありませんったら。

説明
『恋愛』をテーマにした短編作品。
「デート」「初恋」「片想い」「男と女」「失恋」「リア充爆発しろ」「いやいや、俺はなぜ男にトキめく?」をワードとして拾ったものです。
以上の点を踏まえた上で、当作品をお楽しみ下さい。
――サムネから地雷臭がプンプンするって?
HAHAHAそいつぁ俺のワイフだ。
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恋愛 短編 地雷 高橋邦子 

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