双子物語-5話-
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散々友達を作ったほうがいいよと母親も彩菜も言っていたから雪乃は少しがんばる

ことにした。入ったばかりの学校でみんな他の子のことなど全く知らないから好奇心

からいろいろ回ってくる。どうせ、自分のところにも来るだろうからと放っておくと

案の定少ししてから雪乃に声をかけてきた。

 

雪乃(ところがそれは…)

 

 人の悪口だったりくだらないミーハーの類の話ばかり。適当に相槌を打って話を

聞いている不利をしていた雪乃に、最悪の事態として話を振られた。ただ、興味も

無いし知識としても持っていない。そんな話を振られても容赦ない雪乃の言うことは

一つだった。

 

雪乃「私、興味ないから」

 

 すると見事にグループから孤立してしまった。クラス内では誰ひとりとして

雪乃に声をかけるものはいなくなった。元々愛想もないのが決定打だったか。

 授業の合間に訪れる休み時間が途端に暇になっていく。そう、時間がながいわけ

ではないが繰り返されると暇の潰し方もなくなってくるというものだ。

 

 入学してから何度目か、夏に近づく頃。雪乃が貧血で倒れて保健室に運ばれた。

そういうときは決まって彩菜が駆けつけ、それから一日。放課後になるまで寝ている

ことになった。けれど、それでは学力が疎かになってしまうために、保健の先生に

ついてもらいながら体調が良いときなどは積極的に勉強をしている。

 

ヒロ「へぇ、解けてるじゃない。教室であまり勉強してないのに」

雪乃「そうですか?教科書があればこのくらいはできると思いますけど…」

 

ヒロ「んー、やる気の問題なのかな。私は勉強苦手だったから全然だったよ」

 

  すると、この問題できる?と言いたげな雪乃の視線にヒロは苦笑いをした。

 

ヒロ「さすがに今の私だったらできるけど〜っていうか教師なめんな」

 

 つい口調が荒くなってしまった先生だが雪乃は聞いちゃいなかった。いや、

正確には聞いてはいるのだろうがそういうことを気にしないタイプなので

ちゃっちゃかと勉強を進めていた。現在行っているのは算数。本日、教室で

やれなかった教科それ一つ。

 それにしても静かだ。それは生徒みんなが元気で過ごしている証拠でとても喜ばしい

ことだ。雪乃は静かな場所であればあるほど集中力が深まる。

 むしろ教室で騒がしく授業を行うよりは飲み込みが早いのかもしれない。が、

それでは生徒たちとの交流が図れない。やはり、雪乃にも元気なってもらいたいと

ヒロは思った。

 

ヒロ(でも、それはそれでここも淋しくなるのよねぇ…)

 

 

 

 ガラガラガラと、扉を開ける音がする。生徒たちのおしゃべりしながら楽しそうに

下校する姿をちらほらと見かけるようになる。その中で雪乃が保健室に向かって

頭を下げてお礼を言ったように周りから見えるだろう。実はその奥にいる先生に

していたことだが。

 

雪乃「またお世話になります」

ヒロ「断言ねぇ、あんまり倒れないようにね」

 

雪乃「善処します」

 

 まだ何か言いたそうな養護教諭に背を向けて歩きだした。すると、まもなく後ろ

から駆けつけてくる二つの足音。肩に手をかけられて足の動きを止めて振り返る。

 

彩菜「ばぁっ!」

 

 まるで子供向けアニメのお化けのように舌を出して大声で驚かせるその姿はとても

滑稽だった。一生懸命なのは雪乃にも伝わったが、どうしたいのかががさっぱりだ。

 

雪乃「おつかれさま」

大地「だいじょうぶだった?」

 

雪乃「うん、いつもの貧血」

 

  淡々と大地との会話を進めながら歩いていくとその場で固まって取り残された

彩菜は一瞬の間を置いてから慌てて二人の後を追った。

 

彩菜「ちょっと、まってよぉ〜」

 

 雪乃が倒れたことを気遣ってか3人は寄り道をせずにまっすぐ家へ向かった。

家には誰もいない。シーンと静まり返っている。少し喉が渇いた雪乃は彩菜と共に

冷蔵庫の中をチェック。オレンジジュースが少し残っていたようだ。薄暗い中、

二人はそれを分けて飲み干すとペットボトルはすっかり空になっていた。元々残り

少なかったのだからそうなるのは当たり前だ。

 

雪乃「足りなかったら買いに行く?」

彩菜「おっ、いいねぇ」

 

 雪乃は足がふらつかないか確認をとってから二人で手を繋いででかけた。

幸いスーパーやコンビニは近くにあるため、体の具合はあまり気にならない。

 コンビニの中に入ると店員のいつもどおりのマニュアル挨拶。その中で見知った顔

を発見した。いや、見知ったどころの関係ではないのだが。

 

彩菜「ママだ」

 

 二人を見つめた母の菜々子は近寄り二人を公の場で抱きしめる。彩菜は嬉しそうに

抱き返すが雪乃は恥ずかしくて仕方なかった。妙にテンションが高い理由にも気づき、

満足して汗を拭った母に雪乃は淡々と聞いた。

 

雪乃「儲けた?」

菜々子「いんや…。稼いだ!」

 

 雪乃はどう違いがあるのか疑問だったが、どうやら本人には拘りがあるようだから

あんまり突っ込むのは止そうと思い、買い物に付き合った。

 

菜々子「好きなもん買っていいからねー!」

彩菜「わーいっ!」

雪乃「わーい…」

 

 素直に喜ぶと菜々子が機嫌がよくなるところを何度も見ているために彩菜と一緒に

なって喜んであげる雪乃。以前、別に嬉しくないから無反応だとすごく悲しげな顔して

私にしがみついてきたっけ、と雪乃は思い返していた。面倒なことが嫌だから相手に

合わせる。

 そうか、学校にいるときもそうすればよかったのだ。イヤイヤでも合わせることで

見出せることもあるかもしれない。だが、そうしなかったのは。

 

雪乃「何故だろう」

彩菜「何が?」

 

雪乃「何でもない」

彩菜「えー、気になるじゃん。教えてよー」

 

 首を横に振って微笑む雪乃。頬を膨らませるが、機嫌が悪くなさそうと感じた

彩菜はとりあえず聞かないことにした。機嫌が悪くて頭に血が上ると貧血になる恐れも

あるから。雪乃はそれっきり家に帰るまで口から言葉がこぼれることはなかった。

  

 さすがに休み時間に飽きがすさまじく雪乃に襲い掛かり雪乃を悩ましていた。

それと同時に暑くなってきたせいもあって体力の消耗が激しい。気分が悪くなって

保健室へとつれていかれた。そのときの保健係になった女の子が優しく声をかけて

くれたのが雪乃にとって少し安心していられた。何しろ、彩菜とはクラスが違うから

すぐに彩菜が駆けつけるのは無理があるのだ。ちなみに二人のうち一人は雪乃もよく

知る大地だった。

 

ヒロ「どう、少し気分よくなった?」

 

 しばらくベッドで寝ていたら優しげな表情をしながら覗き込んでくる養護教諭。

外や教室と違ってここは涼しい。体の特別弱い雪乃のために一つあけておいてくれる

らしい。

 理由としては具合が悪くもないのに用を作る生徒や先生などがいるからだというが

雪乃はこう思っていた。多分それ先生目当てだよ、と。

 口が悪いときがたまにあるが、見れば長髪黒髪美人。羨ましいくらい綺麗ときた

もんだ。雪乃はその黒い髪をみて自分の白い髪を見るとためいきをついた。

 

ヒロ「どうしたの?」

雪乃「ん〜、なんで私の髪は白いのかなぁと。先生がうらやましい」

 

  言わないがそのせいで男子や女子からからかわれたりするので少し鬱陶しいのだ。

 しかし、先生は笑いながら自分のことを否定した。

 

ヒロ「受け狙いよ、受け狙い。そのためにがんばって手入れしたりしてるし。けっこう

大変なのよ。やはり若いのが一番。それにね、私は雪乃ちゃんの髪も綺麗だと思うわ」

雪乃「…ありがとうございます」

 

ヒロ「これは御丁寧に」

 

 席についた先生は雪乃の方を少し見やるとすぐに机に向いて書き物をしていた。

ポスンと枕に頭を預ける。暇だ。音は冷房をきかせてある機械音のみ。静かに眠れる。

 しかし、眠くもないこんな状態でただ寝ているのは子供ながらに暇である。

何か読むものが欲しいものだが…。その気持ちが先生に届いたのか先生が真っ白な

カーテンを開けて文庫本を一つ手渡してきた。

 

ヒロ「暇だろうと思って」

雪乃「ありがとう」

 

 なんだろうと開けてみるとどうやら児童向けのファンタジー小説のようだ。幼稚

じみた設定だが、それでも読んでいると割と熱中することができる。読んでいくうちに

設定がどんどん細かく分散されていき、最終的には大人向きな話に変わってすらいく

ように感じた。

 背表紙を見る。1巻。それは当然のことだ。最初から読まないと話が通じなくなる

からだ。だが1巻ということはこれは続き物だということがわかる。そうなると

読み終わったら多分雪乃は続きを読みたくなるはずだ。

 まだ全部読みきってはいないがカーテンを開けて先生に聞いてみた。すると。

 

ヒロ「悪いけど今は持ってないなぁ。そんなに読みたければ明日持ってくるよ」

 

 お願いしておいた。読みきれない部分は、先生が貸してくれたから暇なときに

みることにした。絵本でもドラマでもけっこう話が好きな雪乃。あんまりマンネリな

内容だと途中で飽きてしまうが、あんまり見ない設定とかみると他の子があまりみない

ようなキラキラ光るような明るい表情になるときもある。

それを偶然に見たことがあるのが保健係の女の子だった。たまたま図書室に用事が

あるときに雪乃が本を読んでいたときの表情につい惹かれてしまっていたのだ。

だが、少し好意を持っているというだけで友達というほど馴れ馴れしくはしていないが。

 教室に帰った雪乃は連れてきてくれた子にお礼を言ってから席についた。

授業は最後の一つを迎えていて、それが終われば放課後。正確には先生との挨拶で

締めて終わりなのだが。頭が少しボーッとしていたせいか、最後の授業はあまり

頭に入らなかった。

 

県「では、みんな。最近は物騒だから気をつけて帰るように」

 

 その一言を告げて終わらせると、生徒は慌しく帰っていく。仲良しグループや

グループに入れなかった者同士が一緒になって下校していたり様々だった。その中で、

大地と雪乃が残りずっとだんまりだった雪乃を気にしてか、県が声をかけてきた。

 

県「どうしたの?」

雪乃「休みすぎたのか少しボーッとしていて」

 

県「そう、もう少ししたら誰かと一緒に帰りなさい」

雪乃「わかりました」

 

  教室を去った後、残った大地が雪乃のもとに近寄る。

 

大地「僕も一緒に帰るよ」

雪乃「男子と帰らなくてよかったの? からかわれるわよ」

 

大地「ははっ。もう、噂的にはまんざらじゃなかったり」

雪乃「そう…」

 

 荷物を持って立ち上がり、教室を出ようとすると大地は慌てて自分の荷物を取り

雪乃の後を追う。すると、友達なのだろうか。彩菜が隣の教室の外で誰かと話していた。

その傍らでなにやら黙ってみている女の子が。声をかけるタイミングを計っているの

だろうかと、雪乃は思った。彩菜のおしゃべりが区切りがついたときに女の子の口が

開きかけた瞬間に彩菜は雪乃を見つけ走ってきた。

 

彩菜「一緒に帰ろう」

雪乃「…。うん」

 

話しかけようとした女の子は悔しそうに雪乃を睨みつけていた。タイミング悪かった

かなとは思ったが、そこまで睨みつけることもないんじゃないかと雪乃は少しムッとした。

ここで彩菜に「あの子待っているんじゃない?」と言ってもよかったが、女の子は

すぐに見えなくなってしまっていたのでわざわざ言う事もないだろうと、そのまま3人

で帰ることとなった。

 

 

 

春花「なによ、あの子」

 

 区切りがよさそうなところで声をかけようとした矢先に目の前にいた白髪の女の子に

彩菜を取られた春花は悔しそうに呟いた。誰にも聞こえないように車の外を見ながら

ため息をついた。悔しいが、だからといって何をしようとも今の時点では思わなかった。

 ただ、他の子と同じように気軽に声をかけられる性格でもないし。話をしても合わせる

ほどの器量持ちでもない不器用な人間だ。結果が見えてる、と半ば諦め気味だったが。

 

春花「どうしても仲良くなりたいものね」

 

 直感がそう告げている。今までがロクな友人と付き合ったためしがない。というより

はそれは友人とは呼べないような相手だった。今も、陰口叩いたり嫌がらせを楽しんで

やっているグループの中に不本意ながら入ってしまった。だが、孤独よりはよほどいい。

  そういう風に割り切っていたのだ。

  家に帰ると、使用人が入り口まで迎えに来た。

 

使用人「おかえりなさいませお嬢様」

春花「もういいわ、下がってちょうだい」

 

使用人「はっ、かしこまりました」

 

 春花の機嫌が悪いのを察知した使用人はすごすごと下がっていく。春花は荷物を持ち

ながら自分の部屋まで一直線に歩いていく。それでも10分くらいはかかるであろう

豪邸で、全ての土地を見るととても一般人の創造できる広さではない。

 造り、装飾が豪華な廊下を歩いていき、春花は足を止める。ふと車の中でした会話を

思い出した。お母様はいるの、と運転手に聞いたがまだ外国にいると聞かされ、春花は

その時点で一日が終わったような脱力感を感じていた。いつも急がしいから会えること

などあまりなく、その上使用人たちは春花を怒らせないように自分の意見を言う者など

いやしなかった。

 それも空しさに拍車をかけている。春花の周りにはまともに遊んでくれるものも、

叱ってくれる人も、気持ちを込めて誉めてくれる人間もいなかった。全てがうわべだけ

の付き合い。ベッドに飛び込んで顔を押し当て沈める。

 物には不自由など一切なかった。欲しいものは無条件で手に入れることができたが、

本当に欲しいものは一つも手に入らない。愛情に飢えているのだ。がんばったとき、

 時々、母親から電話がかかり。誉めてもらえるのがここ最近嬉しかったことだ。

 

春花「今度はもう少し積極的に行こうかしら…」

 

  無駄に輝く部屋に少しうんざりしていた。

 

 部屋で先生から借りた本を読んでいたら、少し開いていた扉から良い匂いが流れてきた。

もう夕飯ができたのだろうか。雪乃は本に栞を挟んで閉じてから降りる。

 そこに目にしたものは、信じられないくらいの量の食事。母は胸を張って自信たっぷり

な表情に大仕事をやってのけたといわんばかりの笑顔。彩菜はただただ驚くばかり。

 降りてきたばかりの雪乃も少しあきれていた。それとも今日は誰か来るのだろうか。

 心当たりは全くないのだが、聞いてみると案の定。

 

菜々子「誰も来ないよ?」

雪乃「じゃあ、どうするの。この量」

 

菜々子「テレビで貧血の子はいっぱい食べれば元気になると!」

 

  どんな情報番組だったのか少し気になったが、この目の前の惨状をどうにか

しなければと思ったが、どう見てもどうにもならないので諦めながらごちそうの前に座る。

それと同時に父親が帰ってきた。反応は子供二人とほぼ同じ。絶句していた。

 

4人「いただきまーす」

 

  まずは湯気の上がったうっすら色のついたコンソメ味のロールキャベツを一同口に

いれる。熱い。色の割には少し濃いめの味付けが米によく合いそうだ。その隣にある

山盛りになったスパゲッティで味付けはなぜかナポリタン、一種類のみ。赤く染まった

麺に玉葱や肉などが絡んでいるのを啜る。色々手を出し食べていくが一向に減る様子が

ない。

 1時間後、満腹で苦しむ家族の姿がそこにあった。当然といえば当然の結果だが、

まだけっこう料理は残っていた。だが、ゆっくりながらも雪乃は黙々と食べている。

 彩菜が無理しないでと心配をしていたが、表情の変化はほとんどなく特に無理

しているようにも見えなかった。それから数分後でようやく雪乃は食べ終わった。

量的にいつもの3倍ほどは食べていたようだった。

 

雪乃「ごちそうさまでした」

菜々子「おそまつさまでした〜」

 

 その食べっぷりに、菜々子はこれから作る量は少し増やそうと思っていた。今回は

さすがに作りすぎたことはわかったみたいで、残った料理は明日に持ち越しかサブに

持ってかえってもらおうという考えだ。

 その日、雪乃はぐっすりと眠ることができたが、今日あのにらみつけた子のことが

頭の隅に残っていた。まるで去年の大地のように、どこか遠慮がちに見えた。

 

 日曜日、休日。家にいて、ふと二人で寄り道をしたくなった。いつも大地を含めた

3人で行動しているのでたまには姉妹水入らずで散歩をすることにした。朝食を終えた

雪乃と彩菜は初夏に似合う涼しげな服を着込み、遅くなることを考えて上着をバッグに

しまいこみ、飲み物やおやつも入れて菜々子の許可をもらってから家を出発した。

 家の周辺は民家が並んでいるが、子供の足でもしばらく歩けば自然がたくさんある

場所を所々見ることができる。普段、あまり行かない場所とかも少し大きくなった二人

なら以前よりは深く進めるようになっていることだろう。

 南に1時間ほど歩いていくと沢山ある木々が見えてきた。その中に荷物を持った

彩菜が慎重に中に入っていく。足腰の弱い雪乃には多少の斜面もバランスを

崩しかねないので彩菜は少しでも足元がふらつけば注意を促す。

 以前に、母親に連れてこられたときに、綺麗な小川を見せてもらったことがある

二人は少し記憶が薄らいでいながらも、きちんと順番どおりに道を進んでいく。

毛虫やらムカデとかに気をつけながら進んでいくと、やがて視界が開ける。

 木々しか見えなかった風景もそこに辿り着けば小さな川に辿り着く。溺れるような

量はなく、遥か遠くまで続いているように川が一本の線を辿って静かに流れる。

溺れるような量ではないが、水遊びをするくらいならできそうだ。今はもう昼近い。

日傘を差しながら雪乃は大きめな石に座って素足を水につける。

 

雪乃「ふぅ、冷たくて気持ちいい」

彩菜「あっ、小さいカニ発見〜」

 

 彩菜は元気な子供なので、水をばしゃばしゃと足でかきわけながら真ん中辺りで何か

いないかと探している。小さなカニを指先でつまみながらはしゃいでいると指を挟まれ

痛がった。不意を突かれた彩菜は思わずカニを遠くの方に投げ飛ばした。

  挟まれた指は少し赤くなっていた。

 

彩菜「う〜…いたぁ〜」

雪乃「ふふっ」

 

 邪気の無い彩菜の姿を見ていると思わず顔がにやけてしまう雪乃。微笑みながら

彩菜を見守っている。夢中になるとどこまでも行きかねないので、見守りながら遠くへ

行こうものなら犬に言いつけるように言葉を投げつける役目を担っている。

 小魚たちも気持ちよく泳いでいる中で二人は一休み。持ってきたおやつを広げながら

話も食も進んでいく。天気予報では降水確率5%くらいだったから降る心配はない

だろうと、気楽に子供らしい小さな遊びと宴が続いていった。

 

 やがて、少し日も傾き始める時間帯。二人は帰る準備をした。帰り道は元を辿った

道をまっすぐ進めばいい。どこから出てきたかは雪乃がばっちり覚えていたので心配

なく二人は歩きだした。同じ道でも疲れた体では少し遠く感じる。だが、そこは頼れる

雪乃の記憶力を信じる彩菜がいわれた道を雪乃の手を引いて歩くと、見たことのある

場所へと戻ることができた。二人は見つめあいニコッと笑いあう。

 

 さすがに疲れたのか足元がふらつく雪乃。アニメとかでよく見るお姫様ダッコを

してあげたいのだが、まだそれだけの力がない彩菜は言葉で励ましながらゆっくり

確実に家に向かった。中に入ると座らせて彩菜は水を持ってきた。

 飲み物は全部向こうで飲んでしまったから、それ以来の水分補給となる。少し口を

つけると雪乃は少し横になりたそうにしている様子を見せる。

 

 彩菜はぺたんを座ってひざまくらといいながら自分の膝に雪乃の頭を誘導させる。

少し汗のにおいがする。だがそれは嫌とかいうものではなく、互いに傍にいるという

安心感を得られる、そんな気分にさせてくれる。

 

彩菜「大丈夫?」

雪乃「うん」

 

 少しの間、彩菜に甘えた後はきちんと部屋に戻ってベッドに横たわった雪乃。

そのまま寝るのも行儀悪いので服を着替えてから布団を被って本日の出来事を振り返った。

 今回はちゃんと自分の力で帰ることができたことが一番大きく感じた。以前は母の

菜々子と一緒で帰りは同じく具合が悪くなったときに負ぶってもらったからだ。

 だからこそ、ちゃんと。彩菜に助けてもらいながらも帰ることができたのは誇れる

ことだった。

 人間がんばれば少しずつでも結果が出てくる。こんないつ壊れるかわからない弱くて

脆い体でも、少しは希望が持てそうと。小さいながらでもそう感じることができた。

 

 これからは夏休みだ。暑さがジリジリと照りつけ雪乃の体力を奪っていく時期。

赤子の状態だと親は気が気ではなかったが、ある程度は安心して過ごせる年になるといい。

 これから、二人の娘は自分の意思を更に強く持って状況によって対処しながら生きて

いくことだろう。彩菜は更に体を動かし、大地は人とふれあい、そして春花も。

 それほど複雑でもない小学生の時代が本格的に始まろうとしていた。

 

説明
過去作品。読みにくさ注意。双子ちゃんの人生を綴った話です。目指してるのはちょっとのシリアスと多くのほのぼのです。成長していくにあたって百合分も増えていくと思います。
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タグ
双子物語 微シリアス ほのぼの 双子 

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